平成28年5月16日 一般社団法人 バスケットボール女子日本リーグ機構 調 査 報 告 書 骨子 1.経 緯 (本紙 P35~) (1)平成27年11月29日に豊橋市総合体育館で開催された第17回 Wリーグ第14戦 「シャンソン化粧品(以下、シャンソン) 対 デンソー」の試合で、第4ピリオド終了間際 の判定に対し、シャンソンから異議申し立てがあった。 (2)WJBLでは、11月30日にWJBL審判アドバイザーおよびJBA審判委員長等に調査を 依頼した。 (3)12月2日付けの書面で、静岡県バスケットボール協会長からも問い合わせを受けた。 (4)12月6日、静岡市内でWJBL専務理事がシャンソンバスケットボール部長と面談し、状況 を説明するも、シャンソンからは「試合は終わっていない。」との発言があり再試合の要請 を受けた。この際、シャンソンの要望によりWJBLで再度検討し回答すると伝えた。 (5)その後WJBLおよびJBA審判委員会と協議し、12月16日付けでWJBL会長から静岡県協 会長、WJBL専務理事からシャンソンバスケットボール部長宛に、下記内容をそれぞれ 書面で回答した。 ①当該試合の審判団及びテーブル・オフィシャルズ(以下 TO)の対応は必ずしも 十分ではなかったが、WJBLとして審判の判定自体の当否について言及できず、 試合は成立している。 ②WJBLは、ビデオ判定の導入、コミッショナーの設置、審判の割り当て方法の見直 しなど、再発防止策を検討する。 同時に、JBA審判委員長及び当該審判3名に対し、当該試合の対応に対し厳重注意 するとともに、以降のWリーグでの審判割り当てを中止し、教育プログラムの受講を求め る書面を送付した。 (6)WJBLでは、12月25日の定例部長会(シャンソンバスケットボール部長が部長会会長) で再発防止策について協議を開始した。 (7)平成28年1月26日にシャンソンが当該試合の主審を相手に、12月28日付けで3,000万 円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求める訴訟を提起したとの情報を入手し、翌1月27日 に開催された臨時部長会で、訴訟の取り下げを依頼するとともに、本件判定を巡る事実 関係を調査する第三者委員会の設置を審議した。 (8)2月12日 第三者委員会を設置し、調査を開始した。 (9)2月24日 シャンソンが提訴取り下げを発表した。 2.第三者委員会による調査の目的等 (本紙 P3) (1)本件試合の第4ピリオド終了間際のファウルを宣する笛と競技時間の終了を告げる合図 (ブザー)の先後を巡る判定と判定前後の事実調査 (2)本件試合において主審を務めたA審判並びに副審を務めたB審判及びC審判の3名の 審判が延長開始決定をしたこと等についての評価 (3)本件試合後の WJBL とシャンソンとの間の協議経過の事実調査 (4)本件試合後の WJBL とシャンソンとの協議における WJBL の対応の評価 (5)シャンソンによる A審判に対する訴訟の提起に関する評価 -1- 3.本件ファウルと競技終了との先後関係 (本紙 P23~) (1)開示された映像を見る限り、本件ファウルの笛が鳴った直後に本件ブザーが鳴っている。 これを前提とするならば、ファウルは第4ピリオドの終了前になされたものであり、本来、 シャンソンにフリースローが与えられるべきであったとも評価できる。 (2)しかしながら、映像認定制度が導入されていない本件試合において、後に映像を確認する ことにより、審判の判定を検証することは想定されておらず、各審判の判定は最終的なもの とする競技規則第47条 47.6 の精神からして、現行の競技規則上は判定の正否を問うこと は望ましいことでない。 (3)訴訟を提起したシャンソン自身も、審判の判断に客観的な誤りがあり得ることは承知しており、 客観的に誤審があったか否かを問題としているわけではないと思われる。 (4)一般に、スポーツにおける審判の判断について、後に第三者がこれを検証し、審判の処分 に立ち入った判断をすることは原則として認められていない。我が国の公益財団法人日本 スポーツ仲裁機構等においても、審判の判定が仲裁対象事項から 除外されている。 (5)WJBL の第三者機関である本委員会としても、客観的な誤審の有無について調査検討する ことはせず、審判に判定に関する不正の意図があったか否か、本件判定に至る経緯につき 競技規則及びマニュアル上の問題点があったか否か、及び本件判定に関するあるべき対応 の有無 を直接の調査検討の対象とすることとする。 4.ファウルと競技時間終了との先後関係を判断すべき審判 (本紙 P24) (1)本件試合において、ラスト・セカンド・ショットあるいは本件ファウルと競技時間終了の先後 関係の判断を誰が行うかについて、明確にプレ・ゲーム・カンファレンスで話し合われたこと は確認されていないが、いずれの審判も、リード・オフィシャルであったA審判が判断すべき でないという点では共通認識である。 (2)マニュアルどおりに考えれば、第一次的には、オポジィット・サイドのトレイル・オフィシャル であったC審判が本件ファウルと競技時間終了の先後関係の判断をすべきであるが、この点 についての各審判の認識には若干の齟齬がある。 (3)ファウルの笛を鳴らす審判が同時に競技時間終了のブザーとの先後関係も判断することは 常識的に考えて困難な面があり、この判断は分離した方がスリー・パーソン・システムの 趣旨に適うと考えられることからすれば、遅くともシャンソンのタイム・アウトの際に、今後の 試合展開を予想して、どのポジションにいる審判がショットやファウルと競技時間終了との 先後関係を判断するかを打ち合わせておくことが望ましかったとはいえる。 (4)そのような打合せをしていない以上、 少なくとも本件ファウルの笛の際に、改めてB審判と C審判とが本件ファウルと競技時間終了の先後関係について、互いに確認し合うことは必要 であったのではないかと 思われる。 5.本件判定に対する不正の意図の有無 (本紙 P25~) (1)各審判ともに不正の意図(シャンソンを不利に扱う意図やデンソーを有利に扱う意図)は 認められない。 (2)各審判の不正の意図は認められないものの、本判定前に審判団で速やかな協議をする等、 より望ましい対応はあったものと考える。 -2- 6.WJBLの本件試合後の対応について (本紙 P38~) (1)競技規則上審判の判定は最終的なものであり、一切の抗議が認められていないところ、 主催者であるWJBLとしても、審判の判断を尊重し、事後的な検証を行わないとの考え は一概に不合理なものではない。 (2)本試合当時、WJBL及びJBAにおいて、審判の判定に関する抗議手続きは設けられて おらず、その導入についても、ビデオ判定導入等と関連して、論議があるところであった から、当該手続きを導入していないということ自体が問題となるものではない。 (3)抗議手続の手段が整備されていない状況下においては、WJBLの対応には、本訴訟を 正当化せしめるほどの問題があったとは思われない。 (4)WJBLはシャンソンの申出に対し、種々の対応及び検証等を行っており、少なくとも審判 の判定に関する抗議手続が導入されていない状況下においては、その対応には問題は なかったものと考えられる。 (5)抗議手続の導入等、WJBLとしても、再発防止に向けて検討すべき課題があることは確 かであるが、WJBLの対応が、審判個人に対する提訴という本件訴訟の提起を正当化せ しめるものとは思われない。 7.本件訴訟提起の評価 (本紙 P40~) (1)本調査で認定した事実に照らせば、シャンソンの主張は、その基礎とする事実的根拠 (A審判が不作為により意図的に判定を覆したという事実認定)にかなり無理があるものと いわざるを得ない。 (2)スポーツにおける審判の判定はそもそも裁判になじまないものであること、審判に対する 訴訟提起及びその公表は、その請求金額が3,000万円と一個人に対する請求額として は高額であることと相まって、被告とされる審判及びその家族等に多大な精神的負担を 与えること、特に、シャンソンの本来の目的(問題の検証を行う機会の確保)からすれば、 いわばWJBLその他の組織の身代わりとして訴訟当事者とされた審判個人が、かかる 多大な精神的負担を被るべき理由に乏しいこと、審判に対する訴訟提起が他のWリーグ の審判に対しても萎縮的効果を及ぼすであろうことは、いずれも容易に想像できることを も考慮すれば、本件訴訟の提起にあたっては最大限の慎重な検討が求められるべきで あったと考える。 (3)しかしながら、他方、本委員会の設置に伴い本件訴訟が取り下げられたこと、本件訴訟 の提起段階で本調査と同程度の事実認定をシャンソンが独自に行うには困難があった とも思われること、本調査で認定した事実に照らし、WJBL 及び本件審判団として反省 すべきと思われる点があることをも踏まえれば、WJBL として、シャンソンに対し今後、 何らかの処分を行う等して、いわば紛争を蒸し返すこととなれば、それは、本委員会が 行った調査の趣旨・目的から乖離するものであり、また、さらなる紛争の継続は、リオ・デ ・ジャネイロ・オリンピックへの出場を目前にした女子バスケットボール界全体に対して 悪影響を及ぼすことさえ懸念されるところである。 -3- (4)本委員会としては、かかる紛争の継続は絶対に回避しなければならないと思料するとともに、 シャンソンから、提訴の対象とされた A審判に対して、謝罪等、審判の名誉を回復するための 適切な処置が自主的に講じられ、WJBL、審判、所属チームを含む女子バスケットボールの 関係者が、一切のわだかまりをなくし、女子バスケットボール界の発展のために一致団結され ることを強く期待する次第である。また、そのような一致団結が実現することにより、本委員会 が設置された本来の目的が達成されるものであると信じてやまない。 8.結 語 (本紙 P41) 我が国のバスケットボールを取り巻く環境は、FIBA による国際試合の停止制裁、その制裁解除、 女子バスケットボールのリオ・デ・ジャネイロ・オリンピックへの出場決定、男子統 一プロリーグであ る B リーグの発足、来るべき 2020 年の東京オリンピックの開催等とまさに劇的な状況下にある。 かかる状況下において、国内バスケットボールのさらなるレベルアップを図り、ファン及び社会 からの支持を得るには、ひとり選手のみならず、チーム、審判、運営主体等バスケットボールに 関わる全ての人間それぞれの研鑽、努力が求められる。 いうまでもなく、ゲームは、両チームのプレイヤー、チーム・ベンチ・パーソネル、審判、TO 等の すべての人たちの完全な協力によって成立するものであり(競技規則第 36 条 36.1.1)、両チーム は勝利を得るために全力を尽くさなければならないが、これは、スポーツマンシップとフェア・プレイ の精神に基づいたものでなければならない(競技規則第 36 条 36.1.2)。 そして、スポーツマンシップとは、試合の成立後においても妥当する、スポーツマンがとるべき 最も基本的な態度を促す精神的理念であり、相手チームや審判に対する 尊重を包含する概念で ある。本委員会としては、かかるスポーツマンシップに照らしても、今後、本件訴訟のような審判 個人に対する訴訟の提起が行われることがないよう、関係者全ての一致団結した協力が強く求め られるものと考える。 同時に、ゲームの適正なる進行は、審判行為が公正に行われことに対する関係者の信頼の下に 成立することを強く認識し、審判技術の向上と検証に向けた取組みが、関係者の一致団結した 協力と本件試合を巡る一連の混乱に対する真摯な反省の下になされることを期待するものである。 以上 -4-
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