全文 - 産学官の道しるべ

2016
5
Journal of Industry-Academia-Government Collaboration
Vol.12 No.5 2016
特集
https://sangakukan.jp/journal/
新・海洋資源活用術
■
産学官金連携で水産業を振興する
■
カニ殻由来の新素材キチンナノファイバーの実用化
■
大量発生したウニを商品レベルに育てる
■
環境活性コンクリート〜アミノ酸が日本の川や海を元気にする〜
■「ガゴメ昆布」
と函館マリンバイオクラスターの取り組み
シリーズ 知的財産を活用する
─ 大学の技術移転業務~九州大学を例に~ ─
巻 頭 言
防災分野の府省庁連携によるイノベーション
天野玲子… ……… 3
特 集
新・海洋資源活用術
産学官金連携で水産業を振興する
亀岡洋一… ……… 4
カニ殻由来の新素材キチンナノファイバーの実用化
伊福伸介… ……… 9
大量発生したウニを商品レベルに育てる
吾妻行雄… …… 12
環境活性コンクリート
〜アミノ酸が日本の川や海を元気にする〜
西村博一… …… 15
「ガゴメ昆布」
と函館マリンバイオクラスターの取り組み
揺動技術を活用したみんなを笑顔にする揺動ベッド
CONTENTS
大阪府立農芸高等学校における知財学習の展開
シリーズ
知的財産を活用する
三浦汀介… …… 18
立石憲治… …… 22
烏谷直宏 / 永渕寛太… …… 24
第 7 回 大学の技術移転業務 〜九州大学を例に〜
坪内 寛… …… 27
視 点 モチベーションを向上させる科学技術戦略/
製造業集積地ロサンゼルス、ベンチャー企業集積地シリコンバレーにて
2
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… …… 31
巻
頭
言
■防災分野の府省庁連携による
イノベーション
天野 玲子
あまの れいこ
国立研究開発法人防災科学技術研究所 審議役
東日本大震災をはじめとする地震や津波、噴火、ゲリラ豪雨や竜巻など、近年、頻発する自然災
害による被害は甚大さを増している。今後起こりうる南海トラフ地震や首都直下地震といった大規
模災害に対しては、被害を受けてもそれを最小限にとどめ、社会を機能不全に陥らせずにいち早く
立ち直らせるレジリエント(しなやか)な対策が重要である。
鹿島建設株式会社を定年退職した私は、2014 年 10 月から文部科学省所管の国立研究開発法人
防災科学技術研究所(以下「防災科研」
)で、研究成果の社会実装を支援している。内閣府が府省
庁連携施策として推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)
」の防災分野の研究課
題「レジリエントな防災・減災機能の強化」について、防災科研が中心的な役割を担うこととなり、
新たに所内横断的な組織として「レジリエント防災・滅災研究推進センター」を発足した。審議役
として、基礎研究から社会実装に至る一貫した研究開発マネジメントを行うのが私の役目であり、
日々、関係各所を動き回っている。
SIP では、自然災害の観測や予測に関わる最先端科学技術の研究開発に加えて、府省庁連携によ
り災害情報をリアルタイムで共有する仕組みを構築する。さらにそれらの情報を災害対応実施機関
で共有し、災害対応部隊の派遣や避難指示の判断に代表される応急対策の迅速化・効率化に貢献す
るとともに、災害関連情報を迅速・的確に配信することで、地域における防災リテラシーの向上と
国民一人一人の防災力を強化し、
「レジリエントな社会」の実現を目指している。
災害情報をリアルタイムで共有する仕組みは、府省庁の枠を超えた連携を進める取り組みでもあ
り、なかなか困難な道のりだ。当初は「そんなことしても無駄だよ」などと批判的なことを言われ
ることもあった。しかし、国全体で状況認識を統一して的確な災害対応を行うための「府省庁連携
防災情報共有システム」の開発と合わせて、厚生労働省関連の DMAT(災害派遣医療チーム)や
農林水産省関連のため池災害などの研究チームをパートナーに、現場の具体的なニーズを捉えなが
ら作り込むことで、実用的なシステムができつつあり、他の府省庁との連携に向けた動きも進み始
めたところである。
イノベーションとは、さまざまな機関が連携して、ユーザー側のニーズを聞きながら実際に使え
るものを作り上げていくことで、新たに創造された価値が社会的に大きな変化を起こすものだと
思う。SIP はそのようなイノベーションを創出する第一歩で、災害情報を共有するシステムを介し
て、産学官の多くの機関が互いに必要な情報を活用できるようになることで、国全体の防災力が向
上することを期待している。
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特集
新・海洋資源活用術
産学官金連携で水産業を振興する
「えひめ水産イノベーション創出地域」
プロジェクトディレクター 亀岡 洋一氏に聞く
文部科学省、経済産業省、農林水産省の 3 省が、地域の特性を生
かしたイノベーションを期待できる構想を持つ地域を「地域イノ
ベーション戦略推進地域」に選定し、選定した地域のイノベーショ
ン創出に向けた取り組みを支援するのが、文部科学省の「地域イ
*1
ノベーション戦略支援プログラム」
である。このプログラムの
助成を受けて愛媛県で行われているのが「えひめ水産イノベーショ
ン創出地域」プロジェクトで、2012 年度から始まった。このプロ
ジェクトでは、クロマグロの近縁種である「スマ」の養殖で試験
販売にこぎ着けるなどの成果が挙がっている。金融機関出身のプ
ロジェクトディレクターである亀岡洋一氏に、これまでの取り組み
や成果などを伺った。
亀岡 洋一(かめおか よういち)氏
― 「えひめ水産イノベーション創出地域」プロジェクト
*2
のこれまでの経緯について簡
単にお話し下さい。
亀岡 基本的には、2012 年 3 月に策定された宇和海水産構想* 3 という宇和海
地域の 6 市町による地域の活性化策を推進支援するための 5 年間のプロジェク
トです。
このプロジェクトは、
「水産業の振興を通じた地域の活性化への貢献」
「研究開
発による地元漁業者の直面する課題解決」
「地域の水産資源を活用した 6 次産業
化の推進」の三つを目的に動いています。研究の成果を地域の水産業の振興に反
映させて、地域の活性化に貢献することを主眼に置いたプロジェクトであると最
初にうたっています。それを実現するために、大学の地域貢献のための研究を利
用して宇和海の水産業が抱えている問題を解決しようというわけです。
2008 年に北海道大学におられた山内晧平(やまうち こうへい)先生が愛媛大
学南予(なんよ)水産研究センター(愛媛県南宇和郡愛南町)のセンター長にな
られ、山内センター長が中心となって 6 市町と宇和海水産構想を練り上げまし
た。そして 2012 年に「えひめ水産イノベーション創出地域」に選定され、公益
社団法人えひめ産業振興財団が総合調整機関となって、新しいプロジェクトがス
タートしたというのが経緯です。事業開始から 4 年が過ぎて、現在は 5 年目の
最終年度に入ったところです。
宇和海水産構想は、宇和海に面する 6 市町が集まって、宇和海の水産振興に
より地域を活性化させようというものです。一つの市町村では生き残れない時代
なので、高知県の宿毛(すくも)市も一緒に、県をまたいで取り組もうと、苦労
4
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* 1
http://www.mext.go.jp/
a_menu/kagaku/chiiki/
program/
* 2
http://www.ehime-iinet.
or.jp/inove/
* 3
http://uwakai-inove.jp/
特集
してつくり上げた地域振興構想です。この構想をきちんと動かせるようにするた
めの補助エンジンとしての役割を、当プロジェクトが果たしています。
宇和海水産構想には三つの部会があります。地域水産業の活性化を目指す「マ
リンイノベーション部会」
、赤潮などの環境問題解決を目指す「環境保全部会」
、
そしてこれからの水産業を担う人材を育成する「人材育成部会」です。この三つ
の部会とうまく連携しながらプロジェクトに取り組んでいます。
また、金融機関を巻き込んでいこうというのもこのプロジェクトの特徴です。
地域の金融機関を巻き込んで、ファイナンスと同時に問題解決も地域のみんなで
やっていこうじゃないかというわけです。この考え方は、金融庁が、地域で金利
競争ばかりして疲弊するのではなくて、経営資源を地域振興の方にもっと向けな
さいと指導しているので、流れとしては非常にうまく回っていったなと感じてい
ます。地域金融機関にとって、地域活性化は生命線なのです。
― このプロジェクトの予算はどれくらいなのですか。
亀岡 当初は 8,000 万円程度でしたが、徐々に減少して、2016 年度は 6,300
万円ほどです。地域資金とのマッチングファンド方式で、主に人件費を中心にソ
フト分野への支援を受けています。知のネットワーク分野 3 人、招へい研究者
5 人、人材育成分野 1 人で事業を推進しています。このプロジェクトの特徴は、
招へい研究者 5 人のうち 3 人が女性だということです。スマの養殖に取り組ん
でおられる後藤理恵先生(愛媛大学南予水産研究センター、以下「南水研」
)を
はじめ、実績が上がっている先生は女性が多いなという印象です。
また、研究者を配置している南水研も、旧役場の空きスペースや廃校した小学
校を改装して無償貸与のような形で利用させてもらっています。地域は地域なり
の工夫と知恵で、予算は 8,000 万円でも、都会の 8 億円ぐらいの値打ちがある
仕事ができているのではないかと思います。
■県知事も応援する「スマ」の養殖
― このプロジェクトでは、クロマグロに似た味を持つスマの養殖が全国から注目されて
います。取り組まれたのはいつからですか。
亀岡 2012 年 7 月にスタートしました。今年の 1 月以降、大阪・東京・地元松
山市のデパートで試験販売ができるところまでこぎ着けました。4 月からは愛媛
県南宇和郡愛南町(あいなんちょう)の五つの飲食店でも、土日に、期間限定で
食べていただいています。松山市にも出してほしいという話もあったのですが、
今は「えひめいやしの南予博 2016」のイベントに合わせて南予地域に来てもら
うために、南予でしか食べられないような仕組みにしています。値段設定はマグ
ロとほぼ一緒というところで調整しています。
スマはいくらでも養殖できると思われているのか、愛媛県以外の飲食店から電
話がかかってきたりするんですよ。
「スマ、何とかしてくれ。わしのところで売
りたい。あれだけテレビで知事が宣伝しているのだから」と言われますが、今、
養殖しているのが 4,000 匹しかいないのです。もともとは今年の秋から出荷しよ
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うとしたのを、県内外からの要望を受けて前倒ししました。
― スマの養殖は和歌山県も取り組んでいますね。
亀岡 愛媛県と和歌山県が競争しています。逆に、だから面
白いのですよ。愛媛県の中村時広知事が「海の力が和歌山県
とは全然違うんだ、ミカンとスマは和歌山県に負けたらいか
ん」とアピールしていました。南方系の魚なので、冬場は
14 〜 15℃以下になると死んでしまいます。和歌山県は黒潮
写真 1 愛媛県産のスマ「伊予の媛貴海(ひめたかみ)」
がありますが、愛媛県の方が漁場的には適しているというのが通説です。
実は当初、0 歳魚を育てて卵を産ませることからやり始めたんですけど、ス
タートして 2 年目のある日、「3 歳魚が 30 匹ぐらいいるから、それに卵を産ま
せたらどうだ」という話が地元の漁業協同組合(以下「漁協」
)からあって、一
気に研究が進んだのです。また、中村知事が「来年はシンガポールにこの魚を売
りに行くぞ」と言ったことも追い風になりました。
「伊予の媛貴海(ひめたかみ)
」
(写真 1)というブランドをつくって、試食会をやり、中村知事にも、法被を着
てもらってテレビ取材を受けていただいたのです。
プロジェクトを始めたとき、
「新魚種は最低でも 10 年。近畿大学のマグロでも
二十何年かかっている。3 年、5 年でできるはずがない。無理、無理」と言われま
したが、実際にやれましたし、いろいろな技術の蓄積もできました。また、行政は
あまりやらないのですが、愛媛県が生産から販売までやってくれる仕組みをつくっ
てくれています。新養殖魚を国内で売っても食い合いになる、とにかく海外に向け
て売りに行こうという愛媛県の戦略もプラスに作用したのかなと思っています。
― 今、幾つの漁協がスマを養殖しているのですか。
亀岡 今は愛南町にある二つの漁協だけです。まだ数が少ないので、全てを二つ
の業者に絞って養殖していただいています。
夢ですけども、愛媛県産養殖マダイが 280 億円、ブリが 170 億円の年間売り
上げなので、当面は 20 億円ぐらいを目指して、やっていこうかと考えています。
ただ、試験段階でうまくいっても、実際の海の中では、赤潮や魚の病気の問題、
密集させて飼うとストレスの問題などが出てきますので、事業化全体の中で、走
りながら考えていこうと話し合っています。
■養殖で重要な赤潮対策
― 赤潮は発生すると養殖に大打撃を与えますね。
亀岡 赤潮に関しては、南水研の清水園子先生が非常に熱心に取り組まれて、い
ろんな仕組みの中で予算も取ってきて研究されています。
宇和海での赤潮の被害は毎年のように出ており、2012 年には、12 億円余りの
漁業被害を受けました。学問的追究と漁業被害の減少が必ずしもリンクしないの
が難しいところです。どこそこで赤潮が出たぞと言っても駄目で、赤潮から避難
できる訓練が必要です。今後は避難訓練に重点を置こうという話をしています。
6
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特集
これに関しては愛南町が非常に進んでいるので、それを宇和海全体に広げるため
に、総務省から予算をもらって ICT(情報通信技術)を利用した赤潮情報の効率
的な伝達方法の研究に取り組んでいます。オオカミ少年になるかもしれないけれ
ど、危なかったらまず警報を出して、相互扶助の中で赤潮対策をしましょうとい
うことです。漁業者の期待も高いですし、愛媛大学としても他の大学との差別化
の面で、赤潮研究は大事だという認識が得られたのではないかなと思っています。
■自主性のある人材育成を目指して
― 6 次産業化を担う人材の育成にも取り組まれていますね。
亀岡 人材育成は南水研の林和男先生にお願いしています。4 月に公募して、5
月から毎月 1 回 1 年間、講義・実習・先進地視察などを行っています。最初は
6 次産業化に向けての水産の基礎学習ですが、残りは自立的な学習という形にし
て、発表会もやります。現場から、勉強になる講義は公開して地域の人に聞かせ
てほしいという声がありまして、2015 年には、宇和海水産構想推進協議会と共
催で公開セミナーも 3 回行っています。
この取り組みでは、自主性をいかにプッシュするかがポイントです。授業を受
けて終わりではなく、問題意識を持って、自分で問題解決できる人材をつくるの
が目的です。座学だけでなく、現地視察なども設けています。頭でっかちの人間
ではなく、実際にフィールドで動いて、その中で頭を使うような人材を育てるこ
とを目指しています。人材格差が、直接的に地域格差につながると思いますの
で、プロジェクトとしても真剣に取り組んでいます。
■金融機関は地方創生の要
― 金融機関出身者として、このプロジェクトではどのようなことに留意されましたか。
亀岡 このプロジェクトのスタート時、私自身のベンチャーキャピタル時代の大
学発ベンチャーの失敗体験もあり、大学の先生は、夢は追うけどあまり経営も
分からないし、事業的にはどうなのだろうかという不安がありました。そのた
め、しっかり事業進捗をコントロールしないといけないなと思いましたし、この
プロジェクトを投資案件だと思って整理して、事業的価値観を持って取り組みま
した。実際、3 カ月に 1 回は、研究者を集めて事業化戦略会議を開き、研究進捗
を必ずチェックさせてもらっています(写真 2)
。これですぐ
に事業推進ができるわけではないのですが、大学の先生にとっ
てはこれがものすごいプレッシャーなんですよ。次の会議まで
に実績を上げないといけないので、きついのはきついんですけ
ど、現実的にはこういう形で巻き込んできて、スマ養殖の現在
の状況が出来上がったのかなと思います。
― 今までは大学主体でやってこられましたが、養殖の事業化という
ことになると金融機関が全面的に応援しないといけませんね。
写真 2 事業化戦略会議
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亀岡 そうなのです。私が金融機関出身なので、
「ベンチャーキャピタル会社か
ら人が来たから、すぐに工場も建つし、6 次産業化できる」と思われましたので、
「人が来たらできるという問題ではなくて、個々の事業に採算性があって、期間
利益が上がってプラスになるのだったら、金融機関も支援する。そのために、知
恵を出すことが大切」と話しました。
地域の振興のためにやるというのも分かるのですが、本質的には個々の事業体
の採算性をしっかり把握した上で、最初は創業赤字が出るかもしれないけれど、
それをどうプラスに持って行くか、ちゃんとした絵を描かないといけないので
す。それはそんなに単純な問題ではないのです。金融機関の視点から非常に冷た
く言わせてもらえば、水産業や農業、林業という 1 次産業は、根本的に収益性
が低いですし、自然災害にも影響されますのでリスクの高い分野なのです。愛媛
県の生産額でも 1 次産業といったら 2%しかないので、そこを助けないといけな
いということで、漁協なり系列の金融機関があるわけですよね。その中に普通の
金融機関が入っていくとき、その壁をどうクリアするかを理解しておかないとい
けないのです。
6 次産業化に向けては、金融機関が出ていかないと話が進まないなというのは
感じますし、現実的に漁協全体の金融力が弱っていますから、その中でどういう
絵を描いてやっていくのかが今後の課題ですよね。実際に 6 次産業化ファンド
をやっていますけども、そう簡単に黒字化するような問題でもないのです。金融
機関とのパイプと、いろんな問題が起きた時にクリアできるような知恵袋を持っ
て金融機関がどれだけその地域に機能するかが、その地域の生き残りの鍵になっ
てくるのではないかなと思います。
実際、金融機関がリーダーシップをとってやらないとまとまらないです。民の
中でもまとまらないし、学は別として、行政との調整も必要です。特に民と民を
つなげるといったら、金融機関しかないですね。
― プロジェクトを通して感じたことや提言されたいことはありますか。
亀岡 水産を扱っているからでもないのですが、地方創生の中で
「食の安全保障」
をもう少し議論してほしいです。日本の食糧自給率は 40%以下です。今後、食
糧を貿易で単純に買えるような時代とは別の時代になるリスクがあるのではない
でしょうか。中国の爆買いや、経済・食文化の変化によって、今まで日本で買え
たものが買えない状態が起こっています。そのために地域振興型のこのようなイ
ノベーションが必要だと思うのです。北海道に酪農があるように、地域の強みを
伸ばして、それを日本全体に広げるような仕組みをもっともっと広げていかない
といけないと思います。 日本の水産養殖技術は素晴らしいし、資源管理も非常にいいものを持っていま
す。農業も漁業もそうですけど、自主的な活動の中で知恵を使っていったらまだ
まだ伸びしろはあると思うのです。自主性が芽生えるような活動の中で補助金も
上手に使い、適当な競争原理も入れ込みながらやれるような仕組みにして、次の
後継者も世代交代に向けて循環型でやれるようになれば一番いいと思います。
(取材・構成:編集部 田井宏和)
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Vol.12 No.5 2016
特集
新・海洋資源活用術
特集
カニ殻由来の新素材
キチンナノファイバーの実用化
■「蟹取県」とっとり
鳥取県の特産品は二十世紀梨や椎茸、砂丘らっきょう、大山地鶏などいろいろ
あるが、中でもカニが有名で、毎年、解禁されると多くの観光客が訪れる。カニ
の水揚げ量の全体に占める割合は 46.4%(2013 年農林水産省調査)にも上り、
2015 年度は期間限定で県名を「蟹取県(かにとりけん)
」に変更してアピール
した。
「ゲゲゲの鬼太郎」の水木しげるロードが有名な鳥取県の西部に位置する境港
は、国内有数のカニの水揚げ基地として知られおり、ズワイガニや、ゆでる前か
ら赤いベニズワイガニもたくさん捕れる。その用途はカニ缶など加工品が多いた
め、漁港の付近には水産加工会社が集積している。
伊福 伸介
いふく しんすけ
鳥取大学 大学院工学研究
科 化学・生物応用工学専
攻 准教授
ベニズワイガニの漁期はズワイガニよりも長く 10 カ月の間、水揚げされる。
よって、長期にわたって大量のカニ殻が発生する。
■カニ殻由来の新素材「キチンナノファイバー」
筆者はカニ殻の主成分である「キチン」をナノファイバーという極めて微細
な繊維として抽出することに成功し、その実用化を進めている。製法は至っ
て簡単で、カニ殻をアルカリや酸で処理してタンパク質やカルシウムを除く
(写真 1)。タンパク質は甲殻アレルギーの原因物質であるが、この方法で十分に
写真 1 (左)カニ殻と(右)抽出したキチン
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除去できる。続いて石臼式磨砕機などの粉砕機で粉砕すると幅が 10 ナノメート
ル(10 − 9 メートル)の非常に細い繊維が取り出せる(写真 2)** 1。10 ナノメー
トルは髪の毛の太さのおよそ 1 万分の 1 のサイズである。例えば 1%の濃度の
キチンナノファイバー分散液を 0.2 ミリリットル取り出した時、その中に含まれ
る繊維の長さは地球 1 周分に相当する。キチンは昆虫の外皮やキノコにも含ま
れており、地球上にたくさん存在する。しかし、キチンは水に溶けないため加工
がしにくく、使い道がほとんどなかった。一方でキチンナノファイバーは水によ
** 1
Shinsuke Ifuku et al.
Preparation of Chitin
Nanofibers with a
Uniform Width as
α-Chitin from Crab Shells.
Biomacromolecules.
2009, vol. 10, p. 15841588.
く分散してジェル状になるため、他の素材と混ぜたり、用途に応じていろいろと
加工ができるようになった。
写真 2 毛髪の 1 万分の 1 の極細繊維「キチンナノファイバー」
■地域に密着した仕事をしたい
鳥取大学に着任前はカナダのバンクーバーにあるブリティッ
シュコロンビア大学で博士研究員をしていたが、教員採用面接の
ため日本に向かう国際線の中で、研究テーマを考えていた。何か
地域の特色を生かした仕事がしたい。カニが特産品だから廃カ
ニ殻を活用して新しい産業を興し、地域を元気にできないだろ
うか。
筆者はもともと京都大学で、樹木の主成分であるセルロースナ
ノファイバーの研究開発に取り組んでいた。セルロースとキチン
は構造がとても似ている。これまでの経験を生かして、今度はカ
ニ殻からキチンナノファイバーを抽出しよう。そうひらめいたの
が始まりであった。着任後は旅館から頂いたカニ殻や、近所の
スーパーで買いあさったブラックタイガーを実験材料として研究
を開始した(写真 3)。
10
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写真 3 旅館から頂いたズワイガニの甲羅
特集
発想は単純で、うまくいく根拠はなかったが、開始か
ら間もなく目的のナノファイバーが得られた。
■すごいぞ!カニ殻のパワー
キチンナノファイバーという特殊な繊維を取り出すこ
とができたのは、カニが本来、ナノファイバーを作って
殻に蓄えているからである。鋼鉄並みといわれる強いキ
チンナノファイバーを殻に蓄えて、外敵から身を守って
いるのである。よって、キチンナノファイバーをプラス
チックに混ぜると、透明性やしなやかさを維持しなが
ら、大幅に強度を向上できる** 2。また、熱をかけても
ほとんど変形しないため、曲げられるスマートフォンや
写真 4 キチンナノファイバーを配合した
敏感肌用化粧品「素肌しずく」
ディスプレイ、照明などに将来は使えるかもしれない。
規模こそ小さい鳥取大学だが、裏を返せば学部間の垣根が低く、お互いの得意
分野を生かした共同開発がしやすい環境にある。また、共同獣医学科が工学部と
同じキャンパス内にあるため、臨床試験によってナノファイバーのいろいろな生
理機能を検証できることも大きな強みである。
例えば、キチンナノファイバーを服用すると、腸の炎症が緩和されたり、善玉
菌が増殖したり、血中の脂肪やコレステロールを減らせることが明らかになって
きた。また、肌にナノファイバーの分散液を薄く塗布すると、表皮で保護膜がで
きて肌の水分の蒸散を抑えたり、肌の弾力に関わる膠原繊維(コラーゲン)を増
やすことなどが期待できる** 3。
さらには、農作物にまくと病気にかかりにくくなり、パンなどの小麦製品に配
合するとよく膨らんだり** 4、食感を改良することもできる** 5。
このようにキチンナノファイバーの機能が次々と明らかになり、筆者自身もそ
の潜在能力の高さに驚いている。これはまさに共同研究のおかげである。今後も
多くの大学や民間の研究者、技術者にこの新素材に触れてもらい、未知の機能を
上手に引き出していくことが筆者の使命と考えている。2015 年 9 月にはヒトの
肌に対する保護および保湿機能を生かしてキチンナノファイバーを配合した敏感
肌用化粧品が全国販売された(写真 4)。
また、海の恵みの新素材として皆さんに親しんで使用してもらえるよう、
「マ
リンナノファイバー」という商標を登録した。化粧品や健康食品など製品化が進
んで、「カニ殻が不足して困っている」と言われるくらい普及することが目標で
ある。
** 2
Shinsuke Ifuku et
al. Preparation and
characterization of
optically transparent
chitin nanofiber/(meth)
acrylic resin composites.
Green Chemistry. 2011,
vol. 13, p. 1708-1711.
** 3
Kazuo Azuma, Shinsuke
Ifuku et al. Preparation
and biomedical
applications of chitin
and chitosan nanofibers.
Journal of Biomedical
Nanotechnology. 2014,
vol. 10, p. 2891-2920.
** 4
Mayumi Egusa, Shinsuke
Ifuku, Hironori Kaminaka
et al. Chitin Nanofiber
Elucidates the Elicitor
Activity of Polymeric
Chitin in Plants. Frontiers
in Plant Science. 2015,
vol. 6, p. 1098.
** 5
田中裕之 , 江草真由美 , 竹村
圭弘 , 岩田侑香里 , 永江知
音 , 伊福伸介 , 上中弘典 . キ
チンナノファイバー添加小
麦粉による製パン性の向
上 . 日本食品科学工学会誌 .
2016, vol. 63, p. 18-24.
Vol.12 No.5 2016
11
特集
新・海洋資源活用術
大量発生したウニを商品レベルに育てる
■藻場が支えるウニやアワビ
宮城県北部沿岸に広がる磯には藻場(もば)と呼ばれるコンブの仲間であるア
ラメの大きな群落が形成されている。アラメの藻場は光合成によって単位時間、
単位面積当たり、大量の有機物(多糖類)を生産する。生産された物質は成長し
た藻体、そして枯死・脱落したあとも食物連鎖を通じてさまざまな生物に循環し
て生態系が成立している。ウニ、アワビ、磯魚の漁業生産も藻場の高い生産量に
よって支えられている。アラメ藻場の深いふちから沖側は殻状の無節サンゴモ群
落が広がり、ウニとアワビの幼生が着底・変態して稚仔(ちし)
、稚貝の住み家
東北大学 大学院農学研究
科 教授
となる。そこではウニの成体も高密度に生息する。しかし、成長と身入りは藻場
に生息する個体に比べて著しく劣る。
■ウニが異常に増えた!
私たちは、志津川湾で東北地方太平洋沖地震に伴って発生した津波によって
75%のアラメが破損した湾奥の藻場を調査区として、その回復過程を継続して
調べてきた。地震に伴って起こった地盤沈下によりアラメの幼体が岸側に大量に
生育した。そして、2013 年の春には成体へと成長して藻場は回復し、その面積
は震災前よりも拡大した。しかし、同年の秋ごろから北日本の主要な漁獲対象種
であるキタムラサキウニが突如増えてきた。
満 2 歳になって成熟して成体となった 2011 年の秋に生まれた年級群である。
そして、藻場の深いふちからさらに多くの同年生まれのウニが侵入し、生育する
アラメを直接食べて藻場を崩壊させていった。2015 年 5 月には震災後に回復し
た藻場の半分以上が消失した。岩手、宮城、福島の各県でウニの密度と年齢を調
べた結果、宮城県北部沿岸においては 2011 年生まれのウニが大量に発生し、個
体群のほとんどすべてを同年級群が占有する地区もみられた。
■何をすればよいのか?
ウニの身は生殖器官(生殖巣)である。身の大きさ(身入り)は食物となる海
藻の量と種類によって基本的に決まる。増えたウニは飢餓状態となってアラメ藻
場を大きく消失させた。それでも食物が不足して身の入らない痩せウニばかりに
なった。これを放置すればさらに食べられて藻場は崩壊していく。それを防ぐに
はウニを間引く必要がある。
磯根漁業者は危機的な状況下で、総出で篭(かご)に餌の魚を入れてウニを採
12
吾妻 行雄
あがつま ゆきお
Vol.12 No.5 2016
特集
集して堆肥化も試みた。大量に増えたウニを海のめぐみとして震災後の漁業の復
興策へと結び付けることはできないだろうか。そこで、短期間篭に入れて餌を与
えて育成し、市場価値を左右する身の大きさや色、硬さ、味など品質を改善しよ
うと考えた。商品化されて漁業者の収入につながればウニが間引きされ、藻場の
保全に結び付くはずである。
漁業協同組合に相談して理事会で諮っていただき、この取り組みに対する組合
員の協力を承認いただいた。震災 3 カ月後から毎月のモニタリング調査で漁船
を提供いただき、復興に向けて話し合ってきた漁協青年部の漁業者が育成管理に
全面的に協力してくれることになった。
■篭による育成
キタムラサキウニの漁獲は 7 月が盛期である。漁期前の早期に出荷できれ
ば生産単価は高くなる。そこで、2014 年 3 月から 6 月と 2014 年 12 月から
2015 年 5 月の 2 回、篭による育成を行った。ウニはアラメ藻場がごく浅所に縮
小し、無節サンゴモ群落が優占する湾内の小島周辺から採集した。そして、漁港
近くの波浪の穏やかなカキ養殖場において、養殖施設を借りて水深 4.5m の海中
にウニを収容した篭を垂下した。餌はウニが好んで食べ、身入りを促進すること
が分かっているマコンブを 7 〜 10 日ごとに飽食量を与えた(写真 1)
。現場に
は頻繁に足を運んだ。養殖コンブの確保、ウニへの給餌、ウニの活力と食欲など
管理いただいた漁業者とは頻繁に電話とメールで連絡を取り合った。
写真 1 マコンブを与えたウニの篭育成
Vol.12 No.5 2016
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■身の品質改善
篭で育成したウニの身(写真 2)の品質を無節サンゴモ群落と漁場となるアラ
メ群落のウニと比較した。品質は身の色彩(明るさ、黄色度、赤色度)と硬さを
定量的に測定し、味を決める主因となる遊離アミノ酸含有量を分析した。さらに
篭育成終了後に志津川湾の漁業関係者による官能評価を行った。
育成によって色彩と硬さは改善され、アラメ群落のウニの身により近づき、個
体差は顕著になくなった。甘みを呈する二つの遊離アミノ酸は顕著に増加し、二
つの苦味を呈するアミノ酸は減少した。漁業関係者からは、育成したウニの身は
アラメ群落と同様に無節サンゴモ群落の個体よりも高い評価を得た。
写真 2 短期育成したウニの身
■今後の展望
大量に増えたウニを 6 月まで育成すると色彩、硬さ、味は明瞭に改善される
が、早期の出荷を目指すと身が十分大きくならず、色彩も改善されないことも分
かった。身の品質はアラメ群落に生息するウニ以上に改善させたい。篭による育
成に費やした時間と労力に対して、どの程度の見返りがあるのか? 報告会にお
ける漁業者の率直な意見に納得した。
本研究は文部科学省の「東北マリンサイエンス拠点形成事業(海洋生態系の調
査研究)
」にて実施した。今後、さらにうまいウニに育て上げるためにはどうし
たらよいのかを究明していきたい。
14
Vol.12 No.5 2016
特集
新・海洋資源活用術
特集
環境活性コンクリート
〜アミノ酸が日本の川や海を元気にする〜
■きっかけは一本の電話から
「アミノ酸をコンクリートに混ぜると、藻が付きやすくなる…」
2008 年の夏、きっかけは味の素株式会社(以下「味の素」
)がアミノ酸の新
規用途開発に取り組んでいたころの一本の電話だった。
アミノ酸はタンパク質を構成する栄養素であり、栄養ドリンクなどに含まれて
いることは知っていたが、コンクリートに混ぜるという発想には驚いた。そもそ
西村 博一
も、コンクリート工学に長年携わってきた土木技術者として、コンクリートに異
にしむら ひろかず
物を混ぜることなどありえないと思っていた。しかし、有機物であるアミノ酸
日建工学株式会社 事業部
環境活性コンクリート事
業課 課長
と、無機物の象徴のようなコンクリートの組み合わせは斬新であり、面白いと
思った。
当時、藻場造成などの水域における環境配慮としては、コンクリート構造物の
形状を工夫した手法は幾つかあったものの、素材自体を工夫する手法は模索中で
あった。もしかしたら、コンクリートのイメージを根本から覆す発見があるかも
しれないと思った。
■アルギニンにたどり着くまで
一般に、コンクリートに異物を混ぜると固まりにくく、本来の機能である強度
が低下するといわれている。タンパク質を構成する 20 種類のアミノ酸の中から、
強度を保ちながら環境機能を発現するアミノ酸はどれか、その配合をどうするか
は重要な課題である。
混和方法や強度発現状況を確認するため、種類や濃度、混和条件などを変え、
数百のテストピースを試作した。固まらないもの、変色するもの、斑点模様の
ものなど、想定の域を超えた現象が頻発し、トライ & エラーを繰り返した結果、
「アルギニン* 1」というアミノ酸にたどり着いた。アルギニンは親水性が高く、
コンクリート練り混ぜ時に混和することによって均一に分布させることができ、
必要なコンクリート強度も確保することができた。幾つもの試作を重ね、コンク
リートと相性の良いアミノ酸を発見することができた。
* 1
化学式 C6H14N4O2。非必須
アミノ酸ではあるが、成長
期 に は 摂 取 が 必 要 で あ る。
体内のアンモニア除去、免
疫反応、細胞増殖などに関
与する。
■異業種コラボレーション
コンクリートと相性の良いアミノ酸にたどり着いたものの、食品・アミノ酸
メーカーである味の素、コンクリートブロックメーカーである日建工学の知識だ
けでは、本来の目的である水域環境の効果検証ができない。
Vol.12 No.5 2016
15
そこで、海洋環境の専門家である近畿大学農学部水産学科非
常勤講師の中西敬氏(現 日建工学株式会社技術部長)と共に沿
岸域の環境問題に取り組んでいた、徳島大学大学院の上月康則
教授に打診したところ、大変興味を示していただいたのである。
ここに日建工学、味の素、徳島大学という異業種のコラボ
レーションによるプロジェクトが立ち上がった。そして、日本
の川や海を元気にすることを目標とした新たな素材は「環境活
性コンクリート」と名付けられたのである(図 1)
。
2009 年夏、小島漁港(大阪府泉南郡岬町)
、尼崎港(兵庫
県尼崎市)、小松島港(徳島県徳島市)という条件の異なる海
域において、現地実験を開始した。また、それと並行し、小松
図 1 異業種コラボレーション
島港沖洲地区にある共同臨海実験所内の水槽を用いて基礎的な
室内実験も開始した。さらに、アユで有名な椹野川(山口県山
口市)では、河川の現地実験も開始した。
実験方法や検証方法に関する共同研究会議においては、異業種ならではの発想
や着眼点から三者三様の意見が飛び交い、大いに盛り上がる議論であった。
■川や海が元気になる
室内実験の結果から、コンクリートに混和されたアルギニンが少しずつ放出さ
れ、コンクリート表面に付着する微細藻類の生長を促進させることが分かった。
通常のコンクリートに比べると、その生長速度は 5 〜 10 倍(図 2)
、その量は
約 3 倍(図 3)となった。また、ワカメなど大型海藻においては、生長の初期段
階で明確な差が確認された(写真 1)。
現在では、北海道から沖縄まで全国 80 カ所を超える川や海に環境活性コンク
リートブロックを設置しており、気候の違いにも左右されず、効果があることも
分かった。さらに、海ではアワビやサザエ、川ではアユやウナギが集まってくる
ことも確認された(写真 2、3)。
図 2 コンクリート表面の微細藻類の生長速度
16
Vol.12 No.5 2016
* 2
クロロフィル a は、葉緑素
の一つで、光合成に用いる
光 を 吸 収 す る 色 素 で あ る。
その量は藻類の現存量の指
標となる。
図 3 コンクリート表面のクロロフィル a 量* 2
特集
写真 2 表面の微細藻類を摂餌するアワビ
写真 1 環境活性コンクリートに大きく生長したワカメ
また、公益社団法人日本材料学会において、コンクリート材料としての
検討を実施し、コンクリート構造物として必要な各種強度(圧縮・曲げ・
引張り・付着)は設計値を下回らずに所定の強度を確保できることが明ら
かになった。室内実験の研究成果より持続期間は少なくとも 15 年程度と
見積もられており、2016 年 4 月現在、現地実験では 8 年間にわたる効果
が確認されている。引き続き、現地実験での効果を検証し、研究を進めて
写真 3 表面の微細藻類を摂餌するアユ
いく予定である。
■いのちをつくるコンクリート
高度成長期、わが国の社会基盤整備は、経済性や国土保全などを主眼に進めら
れ、その中でコンクリート構造物は必要不可欠のものであった。しかし、その画
一的な構造は、時に豊かな自然を破壊する象徴のように指摘された。そのような
中、1990 年代に環境基本法、改正河川法、改正海岸法などに環境配慮の考えが
組み込まれ、構造や形状の面でさまざまな工夫が施されてきた。
環境活性コンクリートは、従前の構造や形状での工夫に加え、素材そのものに
環境機能を付加した、新たな素材となりうるのである。
近年、東日本大震災、巨大台風やゲリラ豪雨による水
害の発生により、安全・安心な暮らしが脅かされ、防災
面でコンクリート構造物の重要性はあらためて高まって
きている(写真 4)
。
「いのちをまもるコンクリート」から「いのちをつくる
コンクリート」へ。環境活性コンクリートは、環境と防
災の両立を目指すものである。また、高度成長を遂げる
アジアの新興国においても、防災と環境の両立は求めら
れている。この「世界初、日本発」の環境活性コンクリー
トが、各国の社会基盤整備で貢献できることを期待する
ものである。
写真 4 国土保全事業での活用
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17
特集
新・海洋資源活用術
「ガゴメ昆布」
と
函館マリンバイオクラスターの取り組み
函館市近海に生息する「ガゴメコンブ」をご存じだろうか。他のコンブと比べ食
用に不向きとされていた「ガゴメ」の活用を、海洋・水産の町という地の利を生
かし、北海道大学大学院と地域が一丸となって推進してきた。その「函館マリン
バイオクラスター」の一連の取り組みは、「枯れない資源の活用」を生み出した。
■ガゴメ昆布とは
三浦 汀介
そもそも、なぜガゴメなのか。そ
みうら ていすけ
れを産学官連携の下で、どのように
公益財団法人函館地域産
業振興財団 副理事長
兼 北海道立工業技術セン
ター長
価値のある製品に育て上げ、地域経
済のグッドプラクティス * 1 として
新しいブランド価値を築いてきたの
* 1
か。その背景にある地域のビジョン
ンブ科トロロコンブ属)と言い、函館地方では、ガゴメコンブ、ガモメ、ガモな
大学などが実施する教育改
革の取り組みの中から、優
れた取り組みを選び、支援
し、広く社会に情報提供を
行うことで、教育改革に取
り 組 む 大 学 教 育 改 革。「 優
れ た 取 り 組 み 」 を「Good
Practice(GP)」という。
h t t p : / / w w w . m e x t . go.
jp/a_menu/koutou/
kaikaku/gp/001.htm
どと呼ばれている(写真 1)。
** 1
と、地域経営の戦略 ** 1 について、
事業総括という立場から考えている
ことを述べようと思う。
ガゴメは、学名を Kjellmaniella
crassifolia Miyabe(コンブ目コ
写真 1 ガゴメの群生
北海道では函館市から噴火湾(内浦湾)を経て室蘭市まで分布し、特に函館沿
岸(函館、戸井、恵山、椴法華、南茅部)に多く生育する。現在、北海道大学大
学院水産科学研究院の研究により、ガゴメのライフサイクルが明らかになり、そ
の結果、養殖も可能となっている。さらに、ライフサイクル操作によって、促成
栽培やフコイダンの含有量が多いガゴメ養殖も可能となってきた。
一般に、養殖による高品質のガゴメをバイオファーミング・ガゴメと呼ぶ。こ
のガゴメは大量のフコイダンを含んでいて、よく粘るのが特徴で、味に癖がない
ので、さまざまな食品へ応用が可能である。また、ガゴメに含まれるフコイダン
には免疫力を向上させる機能や、ウイルスを抑制する機能などがあることも分
かってきた。
■地域の強みである「水産」
「海洋」で連携
函館市は、地域の水産・海洋に関する特性・優位性を基盤にして、産学官の連
携により研究・技術開発を促進している。そして、その成果を高付加価値の新し
18
Vol.12 No.5 2016
三浦汀介.ゼロエミッショ
ン と 新 し い 水 産 科 学. 北
海 道 大 学 出 版 会,2009,
182p.
特集
い産業に進化させることで地域経済の活性化や雇用の創出を図る目的から、
「函
館国際水産・海洋都市構想」を地域創生の柱としている。
それとともに、水産・海洋科学分野の国際学術研究拠点としての優位性を有す
る北海道大学大学院水産科学研究院で、重点化・集中化・大型化したプロジェク
トなど、水産・海洋の先端的・独創的研究を展開する目的からマリンサイエンス
創成研究棟を、また、地域において産学官の交流促進の目的から函館市産学官交
流プラザ(研究棟内に函館市が設置)を設立した。さらに、ソフト面では、水産
公共政策に係る寄付講座が開設されたことなども見逃せない。
こうした背景のもとで進められた函館マリンバイオクラスターの形成** 2 は、
地域の将来のあるべき姿をイメージした、海を生産システムとする新しい産業モ
デル構築である。この函館マリンバイオクラスターの構成で重要な点は、まず、
生産すべき資源を見つけて、途切れなく育てていくこと、これは資源を枯れさせ
** 2
三浦汀介.函館マリンバイオ
クラスターについて.日本
水産学会誌.2012,第 78
巻第 3 号,p.527-530.
ない持続的な発展には欠かすことができない。
次に、育てた資源から食品や工業用の素材を作ることで付加価値が生まれ、そ
のことが、それを利用する新たな産業につながる。こうして生まれた製品に品質
の良さや品質の確かさといった信頼性を、あるいは、どんな思いを持って作った
かといったストーリーを消費者に伝える。
さらに、海を生産に利用するためには海そのものを十分に知る必要もある。天
気予報の水産業版が実現できれば計画的な生産に道が開ける。一言でいえば、海
の資源を育て、そこから素材をつくり、商品力をつけて世界に送り出す、そのた
めに海をしっかりと知る。地域を挙げたこの一連の取り組みが、函館マリンバイ
オクラスターの形成である(図 1)。そして、この中で戦略的な素材として選ば
れたのがガゴメである。別の言い方をすれば、
「枯れない資源の活用」による産
業振興** 3、4 の一つのモデルといえる。
** 3
三浦汀介.地域の持続的発
展をめざすゼロエミッショ
ン 型 水 産 業. 月 刊 公 明.
2012,10 月号,p.56-61.
** 4
三浦汀介.ブルーエコノミー
と 函 館 地 域 振 興.I S M.
2013,1 月号,p.110-14.
図 1 四つの研究テーマとそれぞれの相互関係
Vol.12 No.5 2016
19
■ホテルメニュー、商談会、ねばねば本舗…
公益財団法人函館地域産業振興財団の事業化支援として厚生労働省の雇用に関
係する事業を活用し、専従の販売促進スタッフを配置し、ガゴメ利用を促進し
た。その活動の一環で、さまざまなガゴメ料理メニューをホテルのシェフの協力
を得て開発し、試食会を開くなどして、さらに広く普及を図った。 そうした活
動の成果もあってガゴメの利用は広がり、現在では函館地域の一般の飲食店のメ
ニューにも普通に利用されて、既に一つの地域の文化になりつつある。
地域構想を実現するための産学官の具体的な取り組みとして、産業界では、都
市エリア販売促進連合から発展したガゴメ連合によるアンテナショップが 2009
年に開店し、事業成果の商品販売を開始した。これは現在も「ねばねば本舗」と
して続いている。また、われわれ中核機関でも販売促進のためのさまざまな取り
組みを行っており、先ほどの新メニューの開発や各種商談会・展示会への出展の
ほかに、函館の路面電車での PR ポスターの掲出なども行った。
食品以外にもさまざまな商品が販売されている。ガゴメの粘り成分の持つ保湿
性に注目した企業が、2004 年に最初の化粧せっけんを発売し、その後も多くの
商品が販売されている。
■これまでの成果は 10 年で 220 億円以上
文部科学省の関連事業では、都市エリア産学官連携促進事業として 2003 年に
スタートし、2009 年からは「函館バイオマリンクラスター」と名称を変え、ガ
ゴメを中心に研究から製品開発までを行ってきた。その間、参画企業は 119 社
に膨らみ、開発された製品は 200 品目以上となった。そのほとんどがガゴメを
使った製品で、食品はキャラメル、餅、サプリメントが定番商品になり、美容分
野ではせっけんや化粧水がヒットした。それらは加工や輸送、流通など他の産業
にも影響を与え、地域経済に大きな効果をもたらした(図 2)
。
事業の経済効果額を北海道産業連関表から試算すると、売り上げに加えて、生
産(漁業)から加工、輸送、流通や、商品の包装、パッケージデザインといった
産業も加えて、10 年で 220 億円以上となる。また、当地では飲食店でもガゴメ
を使った料理を数多く提供しているが、これらは上述の経済効果額には含めてい
ない。もし含めるともっと大きな額になるのは確実であろう。
着実に発展してきたガゴメ関連産業が、持続的な産業として地域に定着してい
くことが、地域経営を考える上では重要である。函館地域では掲げた地域構想に
基づき、実現に必要な取り組みを進めてきた。
ガゴメの場合を例に要点を示すと、まず、枯れることなく利用し続けられる地
域固有の資源、そして、それが「第 2 の太陽」のように地域を照らし続ける資
源となること。まさに、ガゴメがそのような資源の一つといえる。また、それを
使ってビジネスにつなげる社会実装の段階では、経済産業省や農林水産省などの
支援に加えて、われわれのような中核機関を地元企業にうまく活用していただき
ながら、次の事業化のステージでは金融機関との連携が重要である。
20
Vol.12 No.5 2016
特集
図 2 ガゴメクラスターとそれから生まれた製品群
■今後の展望
2003 年に函館市が水産・海洋都市構想を策定してから既に 10 年以上が経過
しており、わが国を取り巻く状況も大きく変わっている。函館地域においても、
マリンバイオクラスター形成としては道半ばといったところであるが、水産・海
洋都市構想の一つの指標である函館市国際水産・海洋総合研究センターが供用開
始となり、一区切りがついたところである。また今年 3 月 26 日には北海道新幹
線が函館まで開通し北東北との時間的距離が一気に短縮し、青函トンネルを中心
とした新たな経済圏が始まろうとしている。そして製品開発において、ガゴメ以
外の製品で期待されているのが、紅藻「ダルス」である。これをうまく利用して
「第 2 のガゴメ」といわれるクラスターに育て上げる計画も始まったところであ
る。
これからの時代は、地域がおのおの工夫して、社会的にも経済的にも自立し、
そして地域自らが主体的に地域経営を実践する時代である。つまり、地域は、そ
れぞれ固有の持続可能な地域資源を最大限に活用することで得られる経済的豊か
さを基盤に、質の高いライフスタイルを享受することになる。
このようなシナリオの中で、今回紹介した函館マリンバイオクラスターの経済
効果額は、前述のように 10 年間の累積で 220 億円以上を達成した。事業総括
を無事終えて 2 年がたつが、いま国の進める地域創生において、本事業の成果
が、他地域にとってもベンチマークにする価値のある、グッドプラクティスの一
つとなったのであれば幸せである。
Vol.12 No.5 2016
21
揺動技術を活用した
みんなを笑顔にする揺動ベッド
アイクォーク株式会社(以下「当社」
)は、2000 年に設立した電子機器の設計・
製造会社である。設立より幅広い分野の OEM、ODM を受託し、開発から製造
まで自社で一貫して行う高度な技術力を蓄積している。また、会社規模が小さい
ため日常業務だけで手いっぱいという現実があるが、経営基盤の強化や技術力の
向上を図るべく、大学との共同研究および自社製品の開発を積極的に行っている。
立石 憲治
■揺動型ベビーベッドの開発
たていし けんじ
当社の産学連携事業の成果の一つに揺動型ベビーベッドがある。これは、九州
大学大学院芸術工学研究院・藤智亮准教授が、自身の育児経験から研究を進めた
アイクォーク株式会社 代表取締役
乳児の入眠に使用する揺れるベビーベッドで、他
社が開発していたものだが、途中段階から開発お
よび生産を請け負い、その後、先方の事情から事
業を引き継いだ製品である。
藤准教授は大学で 50 名以上の乳児を対象とし
た実験を行い、乳児が鎮静する揺れを検証した
(写真 1)。その結果、乳児を心地よくさせる揺れ
の加速度と周期に着目し、揺れのリズムが母体の
心拍数とほぼ一致することを確認した** 1。
当社は、これらデータを基に大学と密に連携を
取りながら、最大周期 1.8 秒、揺動幅は身長方向
に 10cm とする揺動型ベビーベッド「suima(ス
イマ)」
(写真 2)を開発した。
写真 1 乳児が鎮静する揺れの検証
製品では乳児への安全性を考慮し、ベビーベッド専業メーカーの株式会社ヤマ
サキに揺動対応の木製ベッドを新規開発してもらった。
製品化後も鎮静効果などを高める検討を行い、揺動刺激とブラウンノイズによ
る音刺激には乳児を鎮静させる効果があることが分かった** 2。現在、改良製品
の開発に向けて共同研究を継続している。
産学連携では大学からさまざまなデータが開示されるが、企業はそれらのデー
タを効果とコストの両面で精査し、市場に受け入れられる製品の開発を行う必要
がある。大学が示す高い性能ばかりを追い求めるのではなく、市場のニーズに合
致した製品を投入することが産学連携の事業化の存り方だと考える。
■福祉分野への新展開
揺動型ベビーベッドを知った肢体不自由児の保護者から、障がい児向け揺動
ベッド開発の依頼を受け、これを契機に福祉用揺動ベッドの開発に着手した。障
22
Vol.12 No.5 2016
** 1
藤智亮.育児支援のための
電動ベビーベッドの開発(揺
動刺激が児におよぼす鎮静
効果)
.日本設計工学会誌.
2014,vol.49,no.9,
p.492-497.
** 2
藤智亮,立石憲治.揺動刺
激と音刺激が児に及ぼす鎮
静効果-月齢2ヶ月児を対象
として-.日本生理人類学会
誌.2014,vol.19,no.3,
p.129-136.
がい児用の揺れは、乳児用とは明らかに異なり、
ここからの出発となった。九州大学や当社が取り
組んでいた乳児が心地よい揺れは、障がい児療育
では遅い揺れに相当し「鎮静」に向いている。速
さを 2 倍程度に上げると「覚醒」の効果がある。
また、療育現場では揺れに対するニーズが高い反
面、現在の市場には福祉用揺動ベッドがないこと
も分かった。
■揺動ベッドの開発と検証
そこで、当社の揺動技術を応用し、最大周期
写真 2 揺動型ベビーベッド「suima(スイマ)」
0.75 秒、揺動幅は身長方向に 4cm とする福祉用
揺動ベッド「fulful(フルフル)
」
(写真 3)を開
発した。福祉用揺動ベッドの検証は長崎大学大学
院医歯薬学総合研究科が担当し、手掌(しゅしょ
う)部発汗量変化や保護者の評定によって、遅い
揺れはリラクゼーション、速い揺れは楽しみとな
ることが分かった** 3。
体位が安定せず遊具で揺動刺激を受ける機会が
少なかった子どもが揺動ベッドの揺れで笑顔にな
り、また、母親の抱っこによる寝かしつけを行っ
ていた子どもが遅い揺れで心地よく眠れる。揺動
写真 3 福祉用揺動ベッド「fulful(フルフル)」
ベッドの揺れによって子どもの QOL(生活の質)改善が図られる。この福祉用
揺動ベッド「fulful」は、主に肢体不自由児の在宅用や施設用として年間 200 台
を見込み、ことし 5 月に正式発売予定である。
■よりよい揺動ベッドを目指して
** 3
岩永竜一郎,村田潤,原口
由里,徳永瑛子,樫川亜衣,
立石憲治.揺動型ベッドの
重症心身障害児の精神性緊
張感に与える効果について.
日本発達系作業療法学会誌.
2016,vol.4,no.1.
元来、療育の中の揺動刺激は、発達障がい児に対する感覚統合療法の一環とし
て発展した経緯があり、近年、発達障がい児は増加傾向にあるとされ、支援が課
題になっている。揺動ベッドを感覚統合療法の一環とするには、発達障がい児の
活発な活動に対応する必要があり、揺動機構を強化した福祉用揺動ベッドの開発
を計画中である。
さらに揺動ベッドの医療的効果にも注目している。具体的には、揺れによる
マッサージを障がい児や高齢者、健常者のリハビリに活用するための検証を行う
計画である。
乳児用から始まった揺動刺激が、障がい児を経て健常者の生活にも変化をもた
らそうとしている。他社が参入していないニッチ分野を追求し続けることでオン
リーワンの製品展開が実現したが、現場でのニーズも多様であり、引き続き、さ
らなる改良、あるいは応用展開を続けて行く必要があると考えている。
Vol.12 No.5 2016
23
大阪府立農芸高等学校における知財学習の展開
文部科学省のスーパー食育スクール事業の実践校である大阪府立農芸高等学校で
は、知財学習を通して、実践的な農業教育に取り組んでいる。
大阪府立農芸高等学校(以下「本校」
)は、現在大阪に 2 校しかない農業の専
門高校の一つである。大阪府堺市美原区という都市近郊の立地を生かし、大阪を
一地域として捉え、都市型農業教育を実践している。
烏谷 直宏
からすだに なおひろ
ハイテク農芸科、食品加工科、資源動物科の 3 学科、生徒数約 600 名で構成
されている。2010 年度から知的財産学習(以下「知財学習」
)に取り組み、同
大阪府立農芸高等学校
ハイテク農芸科 教諭
年には資源動物科で生産される豚肉を「のうげいポーク」として商標登録した。
2017 年に創立 100 周年を迎える。
2014 年度から、独立行政法人工業所有権情報・研修館主催の「知的財産権に
関する創造力・実践力・活用力開発事業」の展開型校としての受託研究、また
2015 年度からは文部科学省の「スーパー食育スクール(SSS)事業」の実践校
に選ばれ、さまざまな取り組みを展開している。それらの委託研究を活用し、知
財学習を核とした農業教育の実践的な取り組みを紹介する。
永渕 寛太
ながふち かんた
■知財学習の展開
大阪府立農芸高等学校
食品加工科 教諭
本校では、以下の四つのポイントより知財学習を展開している。
1.知財学習効果の広がり
2014 年度より、本校ハイテク農芸科において、2 年次の学校設定科目「園芸
流通」
(2 単位)を開設し、知財関連の学習内容を中心とした授業を展開させて
いる。2015 年度からは、他学科においても知財学習の導入を図り、生徒の知財
マインドの育成に向けて、全学の取り組みになりつつあ
る。また、農業科目の中でも重要科目の一つである「課
題研究」との授業間連携も図っている。
「課題研究」
では、
2 年次に研究、実験、調査を実施し、3 年次では、それ
らをプレゼンテーション化、論文化しており、生徒が在
学中に一定の結果を出せるように、工夫した教育活動を
展開・構成している。また、知財学習効果の広がりは、
生徒だけのものではない。2015 年度より、本校 3 学科
知財学習における
校内組織の体系化
共
通
認
識
る。さらに、各科の知財学習担当者を統括する統括官を
設置し、調整および会計処理の調整役として機能してい
る。こうした組織の再編により、より多くの教員が知財
24
Vol.12 No.5 2016
事務長
各科長
教頭
経費口座管理、出納
農場長
各科調整
経理担当
(経費予算の執行
依頼管理)
知財学習
ハイテク農芸科
科内調整
知財統括主担当者
全てに各知財学習担当として校内分掌が設定され、知財
学習の推進および取り組みを統括する役割を果たしてい
校長
同じベクトルへ!
食品加工科
科内調整
知財統括主担当者
会計
教科
資源動物科
科内調整
知財統括主担当者
会計
教科
会計
知財学習
知財学習
知財学習
教科
統括
教科
教科
教科
図 1 知財学習における校内分掌
教科
教科
教科
学習の目標や教育方針を共通認識できるようになった。いわゆる教
員間の「つながり」が知財学習によって生まれた(図 1)
。
2.知財学習を通じた学校力向上
生徒の活動実績としては、日本学校農業クラブの各種発表会や学
生科学賞、各種論文コンクール、パテントコンテストなどに挑戦
している。2015 年度から SSS 事業の実践校に採択されたこともあ
り、地域住民や小中学生への食育啓発活動を生徒による出前授業と
して展開、生徒自身が情報発信源となり、日々の知財学習を深化さ
せている(写真 1)
。
写真 1 トマトケチャップ製造体験
これらの生徒の活動実績などを、知財学習担当
教員によって学校説明会や学会発表など機会があ
るたびに外部へ情報発信し、知財学習における生
徒への効果を校内・校外で認知してもらえるよう
に取り組んでいる。これらの情報発信は、小中学
校教員に知財学習の必要性を広げることにもつな
がり、外部発信の新たな形が見えはじめている。
3.生徒のやる気向上
本校は、新しい発想の授業展開として教授型授
業からの脱却を図り、思考(体験)型授業を目指
している。
2014 年度は、企業のデザイナーを外部講師と
写真 2 専門家の指導のもと作成した包装紙
して招へいし、アドバイスを参考にした教材作りや思考型の授業を実施する中
で、生徒の発想力や創造力を高める取り組みも開始した(写真 2)
。従来から行っ
ている「考えさせる課題」を教材作りの中に取り入れ、さらにブラッシュアップ
した教材を毎年更新していく中で、結果として各種コンテストの応募数の増加に
つながっている。2015 年度からは食品加工科にも知財学習が広がり、研究活動
や校内・校外発表、各種コンクール大会に向けた商品開発学習を通じて生徒の知
財マインドを育成し活用できる力として育んでいる。
4.農業の 6 次産業化における学習内容としての位置付け
日ごろより農産物に付加価値を付与したり、流通実習を行うことで、地域
社会の農業教育におけるセンター校的役割と地域を創造する人材(6 次産業
対応型人材)育成を実践している。2015 年度の活動としては、愛媛県立宇
和島水産高等学校と連携した商品開発、デザイナーや食品関連産業と一緒
になったオーガニック映画祭の立案・運営、食品加工科製菓食品専攻の生
徒が運営する「café vert(カフェ・ヴェール)
」
、また、地元のうどん店で
廃棄されるうどんを飼料とし、育成された本校のブランド豚「のうげいポー
ク」を使ったコラボ商品など、企業連携や新商品開発などが次々と生まれた
(写真 3)。従来の農業教育において産学官連携を行っていたところに、地域
人材や地域資源が材料となり、日々の活動を高め、メディア等に注目される
ことが増えたことが要因といえる。知財学習が有機的に学校、地域、人・モ
ノなどを融合させることで、最良のアウトプットを生み出している。
写真 3 本校の豚を使った企業連携商品
Vol.12 No.5 2016
25
■知財学習における生徒の授業評価
2013 年度入学生がハイテク農芸科における学校設定科目「園芸流通」を 2 年
次で受講し、3 年次で園芸流通を選択した生徒の経年変化を図 2 に示す。①「あ
なたは知的財産について知っていますか?」という問いに対して、2 年次では全
く知らないという生徒が半数以上いたが、3 年次ではたくさん知っている・少し
知っている生徒の割合が増え、本校において知財学習が普及していることが分
かる。
図 2 「園芸流通」アンケート
(2013 年度入学生 2 年次:2014 年 5 月 21 日、3 年次:2015 年 12 月 22 日実施)
また、②〜④の「知的財産学習について勉強しているが、役に立ちそうです
か?」「知的財産について、あなたはどのくらい理解していますか?」
「知的財産
学習を学ぶ授業に対して意欲的に取り組めていますか?」の各設問においても、
総じて 2 年次よりも 3 年次の方が知的財産について肯定的な回答が多く見られ、
知財学習を核に据えた農業教育は、生徒の意欲の向上ならびに理解度に大きな影
響をもたらしている。
以上のアンケート分析より、生徒は「知財学習」を核に据えた学校設定科目「園
芸流通」の授業を受けることにより、他の授業でも関連した内容の学びがあるこ
とを理解し、知財学習における学びの必要性を感じている。しかし、より専門的
な知財学習の学びの中で、生徒達は迷いを生じていることも明らかとなった。グ
ループワークや KJ 法* 1、マインドマップを活用した授業を実施することで、授
業への意欲や理解が高まっているが、同時に知財学習に対する難しさも感じてい
る。今後は、生徒の「つまづき」をうまく生徒自身にフィードバックすること
ができるよう、アンケートの自由記述や感想から分析して授業に還元していき
たい。
26
Vol.12 No.5 2016
* 1
文化人類学者の川喜田二郎
が考案したデータ処理法。
シリーズ
連載
知的財産を活用する 第 7 回
大学の技術移転業務 〜九州大学を例に〜
■はじめに
筆者は、国立大学法人化直後の 2004 年 5 月に九州大学(以下「九大」
)の知
的財産本部(現 学術研究・産学官連携本部)に着任し、以後継続して知財の管理・
活用業務に従事してきた。本稿では、産学連携従事者の活動の一助とすべく、九
大における知財の管理・活用業務とその課題を紹介する。
■技術移転業務の実施体制
九大における知財の管理・活用業務は、学術研究・産学官連携本部(以下「学
産本部」)の知的財産グループ(以下「知財 G」
)が担当している。知財 G の主
坪内 寛
つぼうち ひろし
九州大学 学術研究・産
学官連携本部 准教授/
弁理士
な業務は、①発明の発掘、評価、権利化、および権利の棚卸し(以下「権利化業
務」)、②民間企業へのライセンス等を通じて大学発技術の社会での活用を図る活
動(以下「技術移転業務」
)
、③知財管理と知財関連の契約管理(以下「管理業務」
)
、
などである。
知財担当のコーディネーターは権利化業務のみを担当し、技術移転業務の全て
を外部の TLO(技術移転機関)に委託している大学も多いようであるが、九大
では権利化業務と技術移転業務の両方を知財 G が担い、担当する発明の権利化
から技術移転までを一人のコーディネーターが一気通貫で行う。
一人のコーディネーターが権利化業務のみならず技術移転業務も担当すること
は、両方の業務を適切に進める上でメリットが大きいと考えている。例えば、技
術移転業務においてライセンシー候補企業が対象特許の有用性に否定的な見解を
示したとしても、その見解は棚卸しなどの権利化業務において貴重な参考情報と
することができる。
また、学産本部では契約と知財の情報を一元的に管理・閲覧できる独自のデー
タベース* 1(以下「独自 DB」)を有しており、研究者の周辺情報(受託研究や
共同研究の申請予定、ベンチャー企業設立の意向など)も集まりやすい環境にあ
るため、知財 G のコーディネーターは上記の情報を基に知財の活用見込みを多
角的・総合的に検討し、技術移転業務をより柔軟に進めることができる。
一方で、権利化業務と技術移転業務を一気通貫で担当することは、コーディ
ネーターにとって容易なことではない。権利化業務では特許法をはじめとする法
的知識や発明を把握するための技術的理解力等が必要であるし、技術移転業務で
はマーケティングの能力や契約条件を合意に導く交渉力等が必要である。また、
権利化業務においては発明者や代理人と円滑かつ正確な意思疎通が必要であり、
* 1
契約と知財の情報を一元的
に管理する独自仕様のデー
タベースであり、主として
以下の機能を有する。
①研 究契約情報(受託研究
契約と共同研究契約)の
管理と契約書の閲覧
②知 財関連契約情報(オプ
ション契約、ライセンス
契約等の情報。これらの
契約の履行期限、収入情
報等を含む)の管理と契
約書の閲覧
③知財情報(発明開示・出願・
公開・登録の情報、支出
情報、中間処理期限、年
金納付期限等)の管理
④そ の他、①②③の管理情
報に付随する情報の管理
Vol.12 No.5 2016
27
技術移転業務においてはライセンシー候補企業の担当者と十分な相互理解が必要
である。コーディネーターにとってコミュニケーション能力は必須といえる。
各コーディネーターは、これらの能力をバランス良く身に着ける努力をしつつ
日々の業務に取り組んでいるが、特許保有件数が累積的に増加するにつれて慢性
的な業務過多となり、特許庁への手続き期限がある権利化業務を優先せざるを得
ないため、技術移転業務に注力できないという状況が続いていた。
そこで、2011 年度から技術移転業務の一部を関西ティー・エル・オー株式会
社(以下「関西 TLO」)に委託し、技術移転業務を強化した。関西 TLO からは
2 名のライセンス・アソシエイトが九大に常駐し、精力的に技術移転業務に取り
組んでいる。株式会社産学連携機構九州(以下「九大 TLO」
)は同社の会員企
業に対して九大の特許情報を提供することで技術移転業務の一部を担っている。
従って、2016 年 3 月現在では 3 機関(知財 G・関西 TLO・九大 TLO)が九
大の技術移転業務に取り組んでいる(図 1)。
学産本部
知財G
関西TLO
◇発明発掘・発明評価
◇出願・中間処理
◇共同出願契約
◇プレ・マーケティング
◇マーケティング
◇ライセンス契約等
◇知財管理・契約管理
◇その他知財関連業務
◇プレ・マーケティング
◇マーケティング
◇ライセンス契約等
産 業 界
九大TLO
◇地場企業支援
会員企業等
図 1 九大における技術移転業務の実施体制
■技術移転業務の内容
研究・教育機関である大学においては、自らの事業を保護するための防衛的な
特許権を保有する必要性は高くない。権利化に要する費用を賄う財源にも限りが
あるため、保有する知財の継続的な棚卸しを実施して支出を抑制することが望ま
しい。権利化業務と技術移転業務は不可分な関係にあると捉えれば、技術移転業
務においてライセンシー候補企業等から得られた情報は、権利化業務を適切に行
28
Vol.12 No.5 2016
う上での有用な判断材料となる。
九大では、権利化のための財源を活用の見込みが高い知財に重点的に充てる努
力をしている。特許権の設定登録を待たずに技術移転業務を開始するので、手続
き(審査請求、PCT 出願の国内移行など)の要否判断の際に技術移転業務で得
られた情報を活用しつつ棚卸しを実施できる。
技術移転業務においては、ライセンシー候補企業を選定して直接コンタクト
し、ライセンス対象発明の当該企業における事業化可能性について意見交換す
る。ライセンシー候補企業は技術導入に否定的な反応を示すことが多いが、当該
企業と大学が事業化に向けた課題を共有して議論を重ねることで、肯定的な反応
に変化することもある。
否定的な反応であっても、外国出願の要否、審査請求手続きの要否などを判断
する際に、より妥当な結論を導くための重要な情報として活用することができ
る。否定的でなかったとしても、ライセンシー候補企業が直ちにライセンス契約
を希望することは少なく、まずはオプション契約を締結することが多い。オプ
ション契約を締結することで、当該企業はライセンスを受けるかどうかを一定期
間検討することができ、オプション権を行使することでライセンスを受けて技術
導入を進めることができる。
オプション契約をする際には、オプション期間を必要以上に長くしないように
留意している。外国出願や審査請求手続きの期限日は特許出願した時点で確定し
ているため、これらの期限日より前にオプション権行使の意思確認ができるよう
にオプション期間を設定するように努めている。
権利化業務と技術移転業務を不可分なものとするためには、管理業務は重要で
ある。単に審査請求手続き期限等の知財管理を行うだけでなく、オプション権の
行使期限等の契約管理も適切に行う必要がある。九大では、独自 DB を利用し
て定期的にコーディネーターをフォローする仕組みを構築し、権利化業務と技術
移転業務を有機的に関連づけて進めている。
■技術移転業務の実績
関西 TLO との提携を開始した 2011 年以降、関西 TLO との良好な提携関係
のもと、技術移転業務と権利化業務の改善を図ってきた。改善活動を継続した結
果、2011 年度と 2014 年度を比較すると、
・年度ごとの知財関連支出額* 2 は 3 割削減(8,000 万円→ 5,500 万円)
(図 2)
・年度ごとのライセンス収入額* 3 は 5 割増加
(3,300 万円→ 5,100 万円)
(図 3)
となり、成果が出つつある。
また、情報共有を日々重ねることにより、関西 TLO の技術移転ノウハウが
知財 G に導入されたため、知財 G 自身の技術移転業務の活性化につながった。
関西 TLO と提携を開始する直前(2010 年度)と 2014 年度の実績を比較する
と、知財 G の技術移転活動により得られた収入は約 3 倍に増加した(800 万円
→ 2,600 万円)
。技術移転業務の一部を関西 TLO に委託したことの副次的効果
といえる。
* 2
「知財関連支出額=①-②」
として算出した。
①知 財の出願維持費として
特許事務所等に支払った
額
②知 財の出願維持費のうち
外国出願支援対象として
JST から支援を受けた額
* 3
知財の実施許諾契約、オプ
ション契約等に基づく収入
であり、研究成果有体物の
譲渡収入は含まない。
Vol.12 No.5 2016
29
( 単位:百万円 )
( 単位:百万円 )
( 単位:百万円 )
(年度)
(年度)
(年度)
関西TLOとの連携
関西TLOとの連携
関西TLOとの連携
図 2 知財関連支出額の推移
(2015 年度実績は 2016 年 3 月中旬時点での集計値)
図 3 ライセンス収入額の推移
(2015 年度実績は 2016 年 3 月中旬時点での集計値)
■今後の課題
保有特許の棚卸しと支出の抑制については成果が出つつある一方で、ここ 2 〜
3 年は発明届けの提出件数が減少傾向にある。件数を増やすこと自体に意味はな
いが、本来適切に保護されるべき有用な職務発明が大学に開示されていないので
あれば対策を講じる必要がある。
年間 300 件前後提出される発明届けのうち、大半(約 7 割)が他機関との共
同発明である点も課題と認識している。共有特許については、共有者との利害が
相違することもあり、技術移転に結び付かないケースが多いからである。現に、
九大での技術移転契約の件数* 4 のうち約 84%(収入金額に換算すると約 91%)
が単独保有特許に基づくものであり、他機関との共有特許は技術移転につながり
づらい傾向にある。近年、九大でもベンチャー企業へのライセンス事例が増えつ
* 4
2004 年 度 以 降 に 締 結 し た
知財の実施許諾契約とオプ
ション契約の総件数。
つあるが、今後も大学発ベンチャーの起業と発展をサポートしていくためには、
単独保有特許の比率を引き上げる対策が必要である** 1。
実用化に長期間を要する特定の技術分野においては、具体的な技術移転先が見
つかりづらい傾向にある。権利化業務においては年度ごとの収支を念頭に置かざ
るを得ないため、支出抑制の観点から権利化を見送るケースも多いが、過度に権
利化を断念することは避けなければならない。このような特定の技術分野におけ
る権利化業務は、大学全体の問題として長期的観点から財源確保の策を講じる必
要がある。
知財の管理・活用業務の実績を、知財の権利化に要した支出とライセンス収
入の比較のみで評価されることがあるが、個人的には少々短絡的だと感じてい
る。ライセンス収入は技術移転業務の実績の一つではあるが全てではない。大学
が保有する知財を基に新たな共同研究が始まることもある。ライセンス収入が得
られたか否かという単一の視点ではなく、共同研究等の外部資金獲得にどれだけ
寄与したかなどの多様な評価軸で知財の管理・活用業務を評価することも必要で
ある。
30
Vol.12 No.5 2016
** 1
オープン&クローズ戦略時
代の大学知財マネジメント
検討会.大学の成長とイノ
ベーション創出に資する大
学の知的財産マネジメント
の在り方について.文部科
学省,2016,p.5-9.
http://www.mext.go.jp/
component/a_menu/
science/detail/__icsFiles/
afieldfile/2016/03/18/
1368175_02.pdf,
(accessed2016-04-06).
視 点
モチベーションを向上させる科学技術戦略
ことし 1 月 22 日に第 5 期科学技術基本計画が閣議決定された。G
(グローバル)と L(ローカル)
といった価値観と、この科学技術基本計画がどのように共存するのかに関心があり、読ませてい
ただいた。
参考資料に「…の数値や目標値の達成状況に過度に振り回されることのないように」という
記述があったが、どうすれば振り回されずに済むのかがまさに問われる。例えば、40 歳未満の
若手比率を増やそうという場合、ポスドクと任期付き教員を経て 30 代後半でやっと任期なし教
員になった人が、40 代に入ると「もうあなたは若手ではない」ということでまた任期付きに戻
されるのだろうか。
今求められているのは、モチベーションを向上させる科学技術戦略である。民間企業のリス
トラ体験者として言えることは、リストラの長期継続は組織のモチベーションを下げるというこ
とだ。
研究型大学をいくつ維持でき、そこで G 型研究者(G × G)を何人保有できるのか。地域貢
献型大学の L 型研究者(L × L)に自己実現機会をどのように与えることができるのか。
基本計画の運用段階では、骨太で明確化された検討が求められよう。
野長瀬 裕二 摂南大学 経済学部 教授
製造業集積地ロサンゼルス、ベンチャー企業集積地シリコンバレーにて
心臓人工弁の製造分野で世界一のエドワーズライフサイエンス社(米国カリフォルニア州アー
バイン)では、弁の縫製作業に掛かるシニア作業者がフロアに多数在籍し、ハイテク製品を高齢
の技能者集団の力が支えている。また、故松下幸之助氏のお孫さんが CEO(最高経営責任者)
を務める企業も訪問した。車両の風洞作製技術を基に、航空宇宙産業界へ進出。社長は米国人で、
経営理念、人材の重要性などは、実に松下電器(National・現パナソニック)っぽい。雇用面
ではドライな印象が強い米国企業だったが必ずしもそうではない。また、シリコンバレーでは、
「ウーバー」や「テスラ」など、破壊的イノベーションの一端に触れた。
さて、わが国「日本」。起業支援として、一時的な補助金や低金利の融資が実施されているが、
それらが行政の第一義の仕事ではない。今の日本は、良くも悪くも規制で縛られ、若者の自由な
発想が生まれにくい。ここが、シリコンバレーとの大きな違いだ。決して、米国の構想力に日本
が負けているわけではない。規制緩和による市場開放や市町村による特区創設などで、活躍の土
俵だけは大きくすべきだ。一方、イノベーションを興す起業家は、日本に何百万人も必要ではな
く、それよりも、真面目で力強く、欠けない組織の歯車こそが産業振興の根幹だとも感じる。
岡田 基幸 一般財団法人浅間リサーチエクステンションセンター(AREC)センター長、専務理事/
信州大学繊維学部 特任教授(産学官地域連携)
産学官連携ジャーナル(月刊)
2016 年 5 月号
2016 年 5 月 15 日発行
PRINT ISSN 2186 - 2621
ONLINE ISSN 1880 - 4128
Copyright ©2016 JST. All Rights Reserved.
編集・発行
国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)
産学連携展開部
産学連携プロモーショングループ
編集責任者
野長瀬 裕二
摂南大学 経済学部 教授
問い合わせ先
「産学官連携ジャーナル」編集部
編集長 山口泰博、萱野かおり
〒 102-0076
東京都千代田区五番町 7
K’s 五番町
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FAX:
(03)5214-8399
Vol.12 No.5 2016
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