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公共調達と指定管理者制度-山積する課題
伊藤久雄(認定NPO法人まちぽっと理事)
1.建設工事・委託・指定管理等の事業・業務の流れ
公契約は、広義の公契約と狭義の公契約とに定義することができる。広義の公契約には、
予定価格の算定と入札手続きをふくむ。
自治体が契約当事者として、業務委託契約・工事請負契約を行うためには、当然その業
務の手順がある。そして、それぞれの業務が適切に行われることが必要である。ここでは
建設工事のような請負と、業務委託および指定監理者制度に分けて簡単に表にしてみよう。
下表のうち、網かけしたところが広義の公契約である。
設計等
予定価格の
算定
入札
契約
施工等
完了
建設工事
・設計業務(委託がほ
とんど)
・設計図書の作成
業務委託
・委託業務の選定
・委託業務の範囲の確定
・数量算出、積算
・入札図書類作成
指定管理者制度
・指定管理業務の選定
・指定管理業務の範囲の
確定
・見積もり合わせ、前年
度
・実績等による予定価
の決定
・委託仕様書等の作成
・一般競争入札
・一般競争入札
・指名競争入札
・指名競争入札
・随意契約
・随意契約
・契約書
・契約書
・契約約款
・契約約款
・設計図書類(特約条項) ・委託仕様書
・指定管理料の算定
・工事施工
・工事完了届
・工事検査
・指定管理業務の実施
・委託業務の実施
・納品等
・監査等
・選定要綱等の策定
・公募(非公募あり)
・選定委員会による選定
・基本協定書
・年度ごとの協定書
(年度ごとに)
・モニタリング
・事業評価
・事業報告書
*網かけしたところは広義の公契約
狭義の公契約はILO94 号条約を実現するための契約をいう。上表でいえば網かけの三
番目の契約について、ILO94 号条約が求める課題を、どのように契約行為を通じて実施
するかが問われることになる。ILO94 号条約には、次の2つの目的があるとされている。
①人件費が公契約に入札する企業間で競争の材料にされている現状を一掃するため、す
1
べての入札者に最低限、現地で定められる特定の基準を守ることを義務づける
②公契約によって、賃金や労働条件に下方圧力がかかることのないよう、公契約に基準
条項を確実に盛り込ませる。
公契約によって社会的価値を実現し、官制ワーキングプアをなくすためには、広義の公
契約の三段階(予定価格の算定、入札、契約)それぞれにおいて改革が必要とされること
になる。とりわけ、業務委託・指定管理においては三段階とも課題が多い。
2.設計等の課題
○
設計(道路、河川、橋梁、公共建築等)
・
現在はほぼ 100%委託
自治体職員がマネジメントできるか
<参考>
都内自治体の建築・土木職員数 建築技師
千代田区
中央区
港区
新宿区
文京区
台東区
墨田区
江東区
品川区
目黒区
大田区
世田谷区
渋谷区
中野区
杉並区
豊島区
北区
荒川区
板橋区
練馬区
足立区
葛飾区
江戸川区
○
土木技師
43
49
73
87
50
45
56
67
56
53
93
164
43
54
84
52
69
50
102
91
125
57
76
40
50
84
75
49
52
66
77
85
54
146
214
43
70
91
74
58
51
104
148
160
109
142
(2015年4月1日現在、総務省調べ)
建築技師
八王子市
立川市
武蔵野市
三鷹市
青梅市
府中市
昭島市
調布市
町田市
小金井市
小平市
日野市
東村山市
国分寺市
国立市
福生市
狛江市
東大和市
清瀬市
東久留米市
武蔵村山市
多摩市
稲城市
羽村市
あきる野市
西東京市
63
31
40
27
8
34
8
30
66
8
11
21
0
19
15
0
10
4
2
5
6
14
11
4
3
17
土木技師
162
77
69
49
73
31
29
38
137
28
36
52
1
24
31
0
14
10
8
18
23
39
34
12
23
41
建築技師
瑞穂町
日の出町
檜原村
奥多摩町
大島町
利島村
新島村
神津島村
三宅村
御蔵島村
八丈町
青ヶ島村
小笠原村
委託仕様書
・
仕様書にすべての業務が網羅されているか
・
前例踏襲だと、新しい業務の仕様書がつくれない
○
指定管理業務の範囲
・
委託との違いを認識している自治体職員がいなくなっている
2
土木技師
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
2
4
0
0
0
2
0
0
0
0
0
4
0
5
3.予定価格の積算
○
建設工事は積算体系ができている。
・
国土交通省と農林水産省が運用している「公共工事設計労務単価」(二省単価ともい
う)がある。
(最も新しいのは、農林水産省及び国土交通省が、2015 年 10 月に実施し
た公共事業労務費調査に基づき、2016 年 2 月からの公共工事の工事費の積算に用いる
ための公共工事設計労務単価)
・
○
都道府県、市町村もこの単価に準拠して積算・算定を行っている。
業務委託、指定管理業務は、積算体系ができていない。
・
国においても「建築保全業務労務単価」(官庁営繕、官庁の維持・保守業務で使用)
などがあるに過ぎない。
・
自治体の業務委託の予定価格は、「見積もり合わせ」や「前年度契約金額」などが用
いられ、市場価格とは著しくかい離する場合がほとんど。
・
ようやく近年、自治体の中にもこの課題に対する問題意識が広がりつつある。ただ
し、現段階では「建築保全業務労務単価」に準じて算定するものであり、清掃や設備
管理などの限られた業務に限定されている(青森県、島根県など)。
<業務委託費積算の体系>
業務委託料
○
業務価格
業務原価
直接業務費
直接人件費
消費税相当額
一般管理費等
業務管理費
直接物品費
帯広市の人件費の積算(帯広市・委託業務および指定管理業務実施上の留意事項)。
帯広市・委託業務の労務単価-積算根拠一覧(職種と単価は省略)
ア 二省(国土交通省、農林水産省)設計労務単価、北海道労務単価
イ 建築保全労務単価(国土交通省)
ウ 設計業務技術者単価(国土交通省)
エ 賃金日額単価(帯広市)-職種のみ紹介
事務補助、技術補助、運転手、保育士、保育所事務補助員、公園・街路作業員、草刈
清掃作業員、用務員
オ 保育所職員の本俸基準額等(児童福祉法による保育所運営国庫負担金交付要綱)
カ 介護労働実態調査所定内賃金((財)介護労働安定センター)
キ ソフトウェア開発、システム開発、システム管理業務技術者単価(積算資料)
ク し尿及び汚水収集運搬業務単価(事務所雇用実態調査報告書資料)
3
○
予定価格の「適正積算」の条例化などの動き
・
条例化の例
相模原市
相模原市は、公契約条例を受けて「相模原市業務委託最低制限価格取扱要領」を定
め、予定価格の算定について、次のように定めた。業務委託に関して明確な算定基準
を定めるのは画期的なことである。下記のように、国土交通省の建築保全業務積算基
準の例によっている。
■相模原市業務委託最低制限価格取扱要領
(予定価格)
第3条 最低制限価格を設ける入札において予定価格を算定する場合は、予定価格の
算定の基礎となる次に掲げる費目ごとに額をあらかじめ定めるものとする。この
場合における費目は、国土交通省が定める建築保全業務積算基準の例による。
(1)直接人件費
(2)直接物品費
(3)業務管理費
(4)一般管理費等
(見積書への費目の記載)
第4条 予定価格の算定の基礎となる見積書を徴する場合は、前条各号に掲げる費目
に基づく積算の内訳を求めるとともに、直接人件費について、当該業務に従事す
る労働者の人数及び時間等の算定の根拠を明らかにするものとする。
4.公契約条例
①
この 1 年間で策定された条例
昨年(2015 年)6 月から今年(2016 年)3 月までに策定された条例は 6 条例である。た
だし、後述するように公契約該当要件を備えた条例は加東市と豊橋市のみであり、他の条
例は理念条例型もしくは基本条例型である(伊藤の判断による)。
○
2015 年 6 月議会
・加東市工事等の契約に係る労働環境の適正化に関する条例(公布・2015 年 7 月 1 日、
適用:10 月 1 日の契約から)
○
2015 年 9 月議会
・京都市公契約基本条例(施行:2016 年 4 月以降)
○
2015 年 12 月議会
・豊橋市公契約条例(施行:2016 年 4 月 1 日)
○
2016 年 3 月議会
・愛知県公契約条例(施行:2016 年 4 月 1 日、ただし第 9 条(労働環境の整備が図られ
ていることを確認するための措置)
)は 10 月 1 日)
4
・大垣市公契約条例(施行:2016 年 4 月 1 日)
・加賀市公契約条例)施行:2016 年 7 月 1 日)
*徳島県三好市が三好市公契約条例(素案)を公表している。
②
公契約条例の該当要件
公契約条例が多様化している現在の状況において、公契約条例の該当要件を明確にする
ことが必要である。考えられる要件(条例に規定すべき要件)は以下の 5 点である(ただ
し、現段階ではあくまで伊藤の判断にとどまる)。
・
最低賃金
・
元請け事業者の連帯責任
・
労働者の権利保障
・
適用範囲(対象事業)
・
適用労働者
・
第三者機関設置
③
公契約条例の現段階
公契約条例の要件を備えた条例
労働条項に特化した条例
建設工事・業務委託・指 建設工事・業務委託を
定管理を対象
対象
野田市公契約条例
川崎市契約条例
多摩市公契約条例
相模原市公契約条例
厚木市公契約条例
足立区公契約条例
直方市公契約条例
三木市公契約条例
千代田区公契約条例
高知市公共調達条例
渋谷区公契約条例
我孫子市公契約条例
加西市公契約条例
加東市工事等の契約に
係る労働環境の適正化
に関する条例
豊橋市公契約条例
15
建設工事を対象
(野田市は当初、建設
工事・業務委託を対象
とし、指定管理を対象
としていなかったが、
条例を改正し、現在は
指定管理も対象)
(渋谷区公契約条
例は改正して現在
は業務委託、指定
管理も対象)
―
―
16
5
総合的条例
予定価格の適正算定、
総合評価入札、労働条
項を規定
国分寺市公共調達条
例
1
理念条例・基本条例など(要件を備えていない条例)
理念的な条例
長野県契約に関する条
例
四日市市公契約条例
大和郡山市公契約条例
岐阜県公契約条例
大垣市公契約条例
加賀市公契約条例
6
基本条例(労働環境の
整備などを規定)
奈良県公契約条例
秋田市公契約基本条例
前橋市公契約基本条例
草加市公契約基本条例
世田谷区公契約条例
(岩手)県が締結する
契約に関する条例
京都市公契約基本条例
愛知県公契約条例」
8
16
建設工事の質の確保
などを規定
山形県公共調達条例
建設工事の総合評
価入札を規定
江戸川区公共調達
基本条例
1
1
あくまで伊藤の判断によるものであり、今後のさまざまな意見交換により、あるいは運
用状況によって変わりうるものである。公契約条例の要件を備えた条例 1 条例、理念条例・
基本条例など(要件を備えていない条例)16 条例、合計 32 条例になる。
5.入札制度
○
総合評価入札制度
○
最低制限価格制度
・
○
両者とも課題は業務委託
プロポーザル方式(公共建築の場合)
・
かつては、自治体の建築設計を委託する場合、競争入札が主流であった
・
しかし現在は、国土交通省もプロポーザル方式による「質の高い建築設計」の実現
を目指し、パンフレットを発行している 。
・
しかしまだまだ競争入札が多い。その現状は、「「官公庁施設の設計業務に関する実
態調査の結果」(国土交通省)」」に紹介されている 。
・
プロポーザルとコンペとの違い-プロポーザル方式とは、建築設計を委託する上で
最も適した設計者(人)を選ぶ方式である(国土交通省パンフの説明)。技術力や経験、
プロジェクトにのぞむ体制などを含めたプロポーザル(提案書・企画書)の提出をも
とめ、選定委員会などの第三者機関に選定される。
これに対して「コンペ方式」は最も優れた設計案を選ぶ方式である。かつての新宿
都庁や国際フォーラム(有楽町)はコンペ方式であったし、今話題の新国立競技場の
設計者選定は「コンペ方式」である。なお、コンペ方式の実施例は少ない。下図で「設
計競技方式」となっているのがコンペ方式である。
6
6.契約
①
建設工事標準請負契約約款について
.
<国土交通省ホームページ>
建設工事の請負契約は、本来、その契約の当事者の合意によって成立するものですが、
合意内容に不明確、不正確な点がある場合、その解釈規範としての民法の請負契約の規定
も不十分であるため、後日の紛争の原因ともなりかねません。また、建設工事の請負契約
を締結する当事者間の力関係が一方的であることにより、契約条件が一方にだけ有利に定
められてしまいやすいという、いわゆる請負契約の片務性の問題が生じ、建設業の健全な
発展と建設工事の施工の適正化を妨げるおそれもあります。
このため、建設業法は、法律自体に請負契約の適正化のための規定(法第3章)をおく
とともに、それに加えて、中央建設業審議会(中建審)が当事者間の具体的な権利義務の
7
内容を定める標準請負契約約款を作成し、その実施を当事者に勧告する(法第34条第2
項)こととしています。
<建設工事の標準請負契約約款>
http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk1_000025.html
1 契約当事者間の対等性の確保
2 契約条件の明確化
3 望ましい代金支払い条件の明確化
4 施工体制の合理化
5 不良適格業者の排除
<施工体制の合理化に問題はないか?>
● 現場代理人の常駐義務が緩和されました
施工体制の合理化
◆ 通信手段が発達した現在においては、工事期間全般について、現場代理人が発注者
は、現場代理人の工事現場における運営、取締り及び権限の行使に支障がなく、か
つ、発注者との連絡体制が確保されると認めた場合には、現場代理人について工事
現場における常駐を要しないこととすることができる。
工事現場に常駐しなくても、円滑な工事の遂行は可能
◆ このため、発注者が、一定の場合には常駐義務を緩和できる規定を追加
②
特約条項
・
暴力団排除の特約条項はすべての自治体にあるはず。
・
特約条項は契約約款を補完し、契約書、約款と一体のもの。
<例:島根県>
低価格入札者との契約に関する特約条項
(総則)
(費用負担)
(契約の保証)
(現場代理人及び主任技術者等)
(前金払)
(請負者が追加で配置する現場専任の技術者)
(瑕疵担保期間中の現場調査及び報告)
(下請契約の締結及び下請負人通知)
(工事コスト調査の実施)
<例:目黒区>
8
契約条項(工事)
(設計編もある)
(総則)
(関連工事の調整)
(請負代金内訳書及び工程表)
(契約の保証)
(権利義務の譲渡等)
(一括委任又は―括下請負の禁止)
(下請負人の通知)
(特許権等の使用)
(監督員)
(現場代理人及び主任技術者等)
(履行報告)
(工事関係者に関する措置請求)
(工事材料の品質及び検査等)
(監督員の立会い及び工事記録の整備等)
(支給材料及び貸与品)
(工事用地の確保等)
(設計図書不適合の場合の改造義務及び破壊検査等)
(条件変更等)
(設計図書の変更)
(工事の中止)
(乙の請求による工期の延長)
(甲の請求による工期の短縮等)
(工期の変更方法)
(請負代金額の変更方法等)
(賃金又は物価の変動に基づく請負代金額の変更)
(臨機の措置)
(一般的損害)
(第三者に及ぼした損害)
(不可抗力による損害)
(請負代金額の変更に代える設計図書の変更)
(工事施工中の検査)
(完成検査及び引渡し)
(請負代金の支払)
以下、略
9
7.工事監督、委託・指定管理業務のチェック
①
工事監督
○
杭打ち不正事件(民間工事であるが)、羽田空港滑走路改良工事不正事件(施工不良
とデータ改ざん)はなぜ起きたか?
○
目黒区の契約条項(工事)の場合
・
網かけした事項は特に重要
・
目黒区の技術職員の体制では可能
・
市町村では不可能なところもある(町村はほとんど不可能?)
○
(?)
重要工程(工種)における立会い
・
標準約款における施工体制の合理化
「合理化してはならない工程(工種)」
・
東京都建設局監督基準は、監督の方法として「審査、承諾、協議、確認、把握、
立会、通知、指示等による。」と定めている。
・
静岡市は、監督員の監督体制・権限の分担において、監督員の立会い、工事記録
の整備等を次のように定めている。
監
務
担当監督員
受注者の求めに応じて立会いし、設計
図書及び諸基準に基づき工事を施工させ
る。
立会いが困難な場合は、工事材料、施
工状況の写真等の記録を整備するよう受
注者に指示し、資料を提出させる。
*総括監督員(課長又は相当職)は立会う必要がないか。
*「受注者の求めに応じて」だけでよいか。
総括監督員
・
督
員
主任監督員
右記の業務は主
任監督員も行うこ
とができる。
の
業
国土交通省「公共事業の品質確保のための監督・検査・成績評定の手引き-実務
者のための参考書-」は、工事施工の立会について次のように記されている。
『設計図書において、監督職員の立会いのうえ施工するものと指定された工種
において、設計図書の規定に基づき立会いを行う。』
※公共事業の品質確保のための監督・検査・成績評定の手引き-実務者のための参
考書-
〈編著〉国土交通省全国総括工事検査官等会議
http://www.mlit.go.jp/common/001068230.pdf
8.完成検査等
○
材料検査
現在は現場打ちだけでなく、いわゆる二次製品(コンクリート二次製品など)が多く
使われる。したがって材料検査は重要である。
10
○
工事中検査
○
完成検査
※
国土交通省の検査基準では「工事検査官、技術・評価課長その他当該技術検査を厳正
かつ的確に行うことができると認められる者(以下「技術検査適任者」という。
)のうち
から、その都度、局長が命ずる者。
」と定められている。
※しかし、東京都建設局監督基準では、材料検査も工事検査も、監督員が行うこととされ
ている(かつては専任の検査員がいた)。
※施行中(工事中)でも破壊検査が可能だが、実際はどうか?
羽田空港滑走路改良工事
では、破壊検査は実施されなかったのではないか?
京都府土木工事検査基準
出来形の検査は位置、出来形寸法及び出来形管理に関する各種の記録と契約図書を
対比し行います。ただし、外部からの観察、出来形図、写真等により当該出来形の適否
を判定することが困難な場合は、必要に応じて破壊検査を行います。
9.維持管理
①
長寿命化計画等が盛んだが
・
道路、橋梁、トンネル、河川などのインフラや公共施設など、
「長寿命化」を図るこ
とは当然である。
・
しかし、バブル経済が崩壊するまで、維持管理の重要性について考えられてこなか
ったのであり、今そのつけが回っている状態。
・
たとえば、甲州街道に架かる歩道橋の痛みようは目に余る。
11
②
維持管理職員の養成は簡単ではない
・
維持管理技術はマニュアルでは獲得できない。
・
長年のキャリアが必要である。
・
しかし、現在のような人事ローテーション、団塊の世代の退職によって、維持管理
技術をもった職員がいなくなる可能性がある(そもそも、次術系職員の少ない自治体
ではムリである)。
③
府中市「道路管理」包括委託は特効薬か
・
府中市はモデル事業として 3 年間の「道路管理」包括委託を実施。
・
今年度(2016 年度)が 3 年目になる。
<府中市の道路等包括管理委託(けやき並木通り周辺地区)の経緯>
道路施設包括管理検討事業調査報告書(2012 年 3 月)
◆
2011 年に国土交通省から先導的官民連携支援事業補助金の交付を受けて、道路施設
○
包括管理検討事業に取組み、市の道路管理業務について、官民連携の導入可能性を検
討したもの。
○
道路施設包括管理検討事業調査報告書
http://www.city.fuchu.tokyo.jp/gyosei/kekaku/kekaku/tosikiban/infrastructure/inhuram
anegementonotorikumi.files/dourohoukatukanrikentouhoukokusyo.pdf
府中市インフラマネジメント白書(2012 年 10 月)
◆
○
府中市のインフラの劣化状況や課題等をまとめ、管理に係る課題や方針を明らかに
したもの。
○
府中市インフラマネジメント白書
概要版
http://www.city.fuchu.tokyo.jp/gyosei/kekaku/kekaku/tosikiban/infrastructure/inhuram
anegementonotorikumi.files/inhurahakusyogaiyouban.pdf
府中市インフラマネジメント計画(2013 年 1 月)
◆
○
府中市インフラマネジメント白書では、現状の市の財政事情では、全てのインフラ
をこれまでと同様に管理し続けていくことが困難であることが判明。この課題に対し、
インフラに係る市民生活の安全性を確保するために、2013 年度(平成 25 年度)から
2042 年度(平成 64 年度)までの 40 年間を計画期間として、府中市インフラマネジメ
ント計画を策定したもの。
○
府中市インフラマネジメント計画
パンフレット版
http://www.city.fuchu.tokyo.jp/gyosei/kekaku/kekaku/tosikiban/infrastructure/inhuram
anegementplan.files/pamphlet.pdf
12
◆
「けやき並木通り周辺地区道路等包括管理事業」の事業者募集
○
公募型プロポーザル方式を用いて事業者を募集
○
参加申込書の提出期間
2013 年年 7 月 24 日(水曜日)から 9 月 13 日(金曜日)まで
◆
「けやき並木通り周辺地区道路等包括管理事業」の開始及び説明会の開催
○
プロポーザル方式により提案を受け、事業者を決定
○
事業内容:道路、ペデストリアンデッキ、街路樹、案内標識、街路灯、道路反射鏡
(カーブミラー)、法定外公共物(里道、水路)、の清掃、軽微な補修、区域内の巡回、
剪定など。
○
事業者:前田道路・ケイミックス・東京緑建共同企業体
○
事業期間:2014 年(平成 26 年)4 月 1 日から 3 年間
○
説明会:制度の開始にあたっての説明会
1 回目:平成 26 年 4 月 7 日(月曜日)午後 2 時から
2 回目:平成 26 年 4 月 11 日(金曜日)午後 6 時から
府中市北庁舎 3 階第 6 会議室
府中市北庁舎 3 階第 1 会議
室
<府中市「道路管理」包括委託の問題点>
「まちぽっとリサーチ」に掲載
http://machi-pot.org/modules/project/uploads/research/20131016huchyushidourokanr
ihoukatuitaku-no-mondaiten.pdf
10.指定管理者制度
①
指定管理者導入施設の妥当性
○
本来、指定管理者制度とは施設の管理と当該施設における事業とを一体として事業者
に代行させる制度(管理代行という)である。
○
しかし現状は、複合施設の一部(1フロア)など、施設管理をともなわない、委託と
同様の感覚で指定管理者制度を導入している自治体が多い。これは、制度の導入時に「行
政改革-安上がり行政」の一環として喧伝されたことが大きい。総務省も知らんふりを
決め込んでいる(片山氏が総務大臣の時に通知を出したことがあるが、通知を出したの
みで検証は行っていない)。むしろ「分権の時代」枕詞に、その後は何もしていない。
○
自治体職員も激しい人事ローテーションによって、制度導入時の経緯等を熟知してい
る職員はいなくなっている。
○
少なくとも導入施設の再検討を行うことが必要だと思う(指定管理を止める場合は、
直営か委託)
。委託の方が効率的な施設もある。
・
福祉施設
13
・
小規模施設
・
図書館など教育・文化施設など
・
委託の方がいい施設(たとえば、児童講演などの同種施設が多い施設は、契約を1
本にして契約事務を軽減した方がいいと思われる)。
○
委託に戻した場合、長期継続契約を活用することも考えられる。
○
参考:鹿屋市指定管理者制度運用指針(最終改訂:平成 24 年4月)
【再検討の視点】
① 施設の置目的が達成されたと判断できる
② 老朽化が激しく、大規模修繕の可能性ある施設
③ 重複し、又は類似する施設の存在有無(官民 問わず。) 問わず。)
④ 業務内容が使用許可権限等を伴わない単純管理のみであり、制度化活用により、逆
に管理経費が増加する等、事務効率が悪くなってしまう施設など
②
指定管理料の積算
■
熊本市の取組み
熊本市は、「 指定管理に係る管理運営経費の「積算総額」の算定」に積算方法を定め
ている。「積算総額は、以下の1~3の和に消費税相当額を加算した額とすることを基本
に、個々の施設の実情に応じ、施設所管課が適宜、算定を行う。」としている、
1
人件費(嘱託、臨時職員含む)
原則として、施設管理に従事する職員の必要見込数×別表「公募施設のランク別
人件費単価表」の額とする。ただし、施設の態様等実情に応じて人数やランクの変
更を行うことは可能。
2
物件費
現行の積算の考え方を基本に、その後の経年変化等を的確に反映させた額とする。
例:【修繕費の算定方法】
3
一般管理費
人件費に一般管理費率(10,000 千円まで5%、100,000 千円まで4.5%、200,000
千円まで4%、200,000 千円超 3.5%)を乗じ、積み上げた額とする。
※一般管理費:施設の管理運営に係る直接業務費以外で、本社(本部)機能の維持
に係る経費(役員報酬、従業員の福利厚生費、雑費など)
公募施設のランク別人件費単価表は別表となっており、正職員と常用パート(嘱託)
職員、臨時職員に分けてつくられている。正職員は、大規模施設の長、中規模施設の
長・大規模施設長の補佐、小規模施設の長・係長、簡易施設の長、一般職の5つにL
区分され、A~Cの 3 ランクにランク別の年間報酬総額が決められており、さらに大
規模施設の長から小規模施設の長・係長までは管理職手当が付加される。例として大
規模施設の長と一般職の人件費単価表を掲載する。
14
①正職員
ランク別年総額(円)
管理職手当
A
B
C
大規模施設の長
6,161,000
6,773,000
7,514,000
617,000
一般職
3,967,000
4,704,000
5,453,000
―
*大規模施設の長から小規模施設の長係長までのランクについては、基本的にはA
ランクとし、職務について求められる練度に応じ、Cまで変更可能とする。
*一般職のランクは、高卒後5年程度の経験を有する者(A)、大卒後5年程度の経
験を有する者(B)、大卒後 10 年程度の経験を有する者(C)
*総額は、給料、期末勤勉、住居、通勤、扶養手当及び共済費(社会保険料等)の
和相当
区分
②常用パート(嘱託)職員
区分
ランク別年総額
A 屋内における業務を主とする職
1,772,000
B 屋外における業務を主とする職
1,899,000
C 高度な知識や経験を必要とする職
2,008,000
*1 週間の所定労働時間が通常の労働者の所定労働時間(1 日 8 時間
×5 日間)に比べて短いもの(週あたり 30 時間を基準としている。)
③臨時職員
区分
積算基準
ランク別年総額
A 事務補助 日額 5,810 円(7.75 時間/日、21 日/12 ヶ月)
1,778,000
B 技術補助 日額 6,230 円
1,902,000
C 労務補助 日額 7,830 円
2,382,000
*雇用契約において、1 ヶ月以上 4 ヶ月未満の雇用期間が定められているもの。
■ 帯広市の指定管理業務における人件費の積算について
指定管理業務における基準管理費用の積算のうち、人件費の積算については、職種、
勤務体系などから「業務委託」の労務単価が参考となる場合は、その単価を採用し、
参となる単価がない場合は、帯広市の一般職員給与、嘱託職員の報酬及び厚生労働省
賃金構造基本統計調査(北海道分)を参考にした以下の単価で積算します。
ただし、施設の特殊性、職種の専門性、勤務の変則性などにより個別の判断が必要
な場合には、別途積算します。
なお、必要な共済費(社会保険料、介護保険料、労働保険料)については、別途積
算に加えるものとします。
また、施設の管理運営形態や職員の職務などを勘案し、人件費単価の区分を設けるこ
とができるものとし、その場合、正規職員については、定期昇給を加えることを基本と
します。
15
(ア) 労働時間が週 38 時間 45 分を基本にした者の給与月額単価
次の 4 区分を基本とし、4 区分で積算できない場合には、各区分の給与月額に補
正数(0.9~1.1)を乗じることができるものとします。
(単位:円)
区
分
金 額
高度あるいは専門的な業務を指導、統括する能力を有する者
341,800
業務に精通し、部下を指導して複数の業務を担当する者
269,400
一般的な業務を複数担当し、また上司の指導のもとに高度な業務を担当する者
228,100
上司の指導のもとに一般的な業務の一部を担当する者
174,100
(イ) 労働時間が週 38 時間 45 分に比べて基本的に短い者の月額単価 (略)
相当の知識、経験若しくは専門的技術を要し、常時勤務を要しない職
177,300
③
指定期間
○
制度導入当初は 3 年から 5 年が多かった。しかし今は、5 年から 10 年が多いと思われ
る。
○
指定期間が短いと次のような弊害がある。
・
次期指定が確約されていないため、非正規雇用のスタッフが多くなる。
・
継続的なスタッフの育成が困難にある。
福祉施設などに指定管理者制度を導入する場合は、10 年から 15 年程度の指定期間を考
○
えてもいいのではないかと思う。
④
利用料金制
○
利用料金制は、以前の管理委託からあった制度である。しかし管理委託の時代には、
基本的に「独立採算」が可能な施設にしか活用されなかった。たとえば大都市の主要駅
周辺の駐車場やホールなど。
○
本来の目的は、利用料金を事業者の収入とすることによって、事業者のモチベーショ
ンをあげ、施設の目的をより高めることにあった。
○
しかし、指定管理者制度に替わってから、使用料(利用料)を徴収する施設には利用
料金制を導入する自治体が増えた。しかし、もともと「独立採算」など不可能な施設ば
かりだから、指定管理料と利用料金を併用する施設だらけになった。
○
このことによって、利用料金が増えれば次年度(場合によっては当該年度)の指定管
理料を下げる自治体も現れた。そうなれば、事業者のモチベーションは下がり、施設本
来の目的達成にも影響を及ぼすことになる。
○
私見では、利用料金制導入施設は限定的であるべきだと考える。
16
⑤
モニタリング・評価
○
指定管理者モニタリングは千代田区が先鞭をつけ、全国に広がった。千代田区のモニ
タリングは次の2つがある。
⑴経営財務のモニタリング(公認会計士に委託)
①目的:施設の経営状況の改善、本来目的達成のための事業展開のあり方等を確認
②内容:現地視察、財務分析、経営アドバイス、利用者の声を踏まえた評価
⑵労働環境のモニタリング(社会保険労務士会に委託)
①目的:適正な労働環境の確認
②内容:現地調査、書類確認、従業員面接
○
労働環境のモニタリングは導入時にはその成果が期待されたが、現地調査によって賃
金台帳の提出などを求めるものの、「地域最賃」以上の報酬であれば問題にはならない。
結局のところ、公契約条例の対象にすることが求められる所以である。
○
指定管理者評価は、次のような種類がありうる。
1 事業者評価(利用者アンケートなども含めて)
2 自治体(行政)評価
3 第三者評価(新宿区の場合は、施設ごとに評価委員会が設置されている)
4 利用者(市民)評価(導入している自治体は?)
○
現在では、第三者評価を行っている自治体が多いと思われるが、評価結果をどう生か
すのか(次年度の協定、指定期間終了時の再選定など)が課題だと思われる。
⑥
中長期的な課題
○
指定管理料は自治体予算では委託料(節)として支出される。現在、地方自治法施行
令によって「節」は 28 に限定されている(自治体の裁量はない)。これは総務省の統計
調査のためであって、実態にあっているとは思われないが、節を増やすのに総務省は積
極的ではない。
○
しかし、支出(歳出)予算が委託料であるために、委託と指定管理とを同一視する自
治体職員が多い。当面は委託料の中に指定管理料という「細節」をつくることが考えら
れる(細節は自治体独自に設定が可能)。ただし、コンピュータシステムの変更が必要に
なると、自治体は難色を示すであろう。
○
長期的な課題としては、まったくの私見であるが、指定管理者制度を「協働事業」に
位置づけることを考えたらどうかと思う。下図はべつのところで使っているものである
が、これを指定管理業務にかえて作図してみるともう1つの図のようなるがどうであろ
うか。なお、協働事業につては現在横浜市が「市民協働条例」にもとづいて、委託契約
書から協働契約書に転換を図りつつある。ただし、横浜市(行政)、NPO等市民団体と
も、課題が多い。
17
NPOの事業形態と財源
事業形態
委
託
事
業
実施主体
NPO
一般的な事業委託
協働型委託
NPOと行政の協働事業
(狭義の協働事業)
補助事業
広
義
の
協
働
事
業
資金(財源)
行政の支出形態
行政
委託料
NPOと行政
民間資金
(会費、
寄付金、
助成金、
事業収入)
NPO
NPOの独自事業
補助金交付
NPOの独自財源
↓
事業形態と財源
事業形態
委
託
事
業
実施主体
一般的な事業委託
協働型委託
協議の協働事業
指定管理事業
補助事業
資金(財源)
行政の支出形態
行政
広
義
の
協
働
事
業
事業者
委託料
事業者と行政
協働事業費
指定管理料
事業者
民間資金
事業者
事業者の独自事業
補助金交付
事業者の独自財源
11.新しい動き
①
DB(デザイン・ビルト)
・
これまでの主流であった設計・施工分離方式から設計・施工一括方式に転換するもの
である。
・
最近の事例として東京都が建設するオリンピック・パラリンピック競技会場の3施設
がある。
18
<DBの主なメリット・デメリット>
2009 年 3 月に作成された「設計・施工一括及び詳細設計付工事発注方式実施マニュアル
(案) 」から。
【デザインビルドの主なメリット】
・設計と施工を一元化することにより、施工者のノウハウを反映した設計や、施工者の
固有技術を活用した設計が可能になる
・発注業務が軽減されるとともに、設計段階からの施工の準備が可能となる
・設計時から施工を見据えた品質管理が可能になる
・施工者の得意とする技術の活用により、より良い品質が確保される
・技術と価格の総合的な入札競争により、施工者の固有技術を活用した合理的な設計が
可能となる
【デザインビルドの主なデメリット】
・施工者側に偏った設計になりやすくなる
・設計者や発注者のチェック機能が働きにくくなる
・契約時に受発注者間で明確な責任分担がない場合、工事途中段階で調整しなければな
らなくなったり、受注者側に過度な負担が生じたりすることがある
・発注者側が設計・施工を“丸投げ”してしまうと、本来発注者が負うべきコストや品
質確保に関する責任が果たせなくなる
②
CM(コンストラクション・マネジメント)の導入
○
事例
・
江戸川区立松江小学校外
改築事業
CM事業者は、明豊ファシリティワークス
19
業務は、設計者選定段階、基本設計段階、実施設計段階、工事発注段階でのマネジ
メントを実施し、事業の円滑な推進を支援。
・
町田市役所新庁舎
公共建築(新築)では最初のCMとされる。
・
清瀬市役所新庁舎
2016 年 3 月
CM契約
事業内容
1:清瀬市新庁舎建設 CM(コンストラクション・マネジメント)業務(その 1)
履行期間:業務委託契約締結日の翌日から平成 28 年 8 月 31 日までとする。
業務概要:本事業における基本・実施設計者の選定支援業務
2:清瀬市新庁舎建設 CM(コンストラクション・マネジメント)業務(その 2)
履行期間:平成 28 年 9 月 1 日から平成 34 年 2 月 28 日までを予定とする。
業務概要:本事業における、基本・実施設計マネジメント業務、施工者選定支援
業務、施工マネジメント業務
③
課題
CMとは、事例でみたように自治体業務の支援である。規模の小さい自治体などにお
いて、建築職などの技術系職員の不足を補う観点から導入がすすむ可能性がある。
*基本・実施設計者の選定支援業務
*基本・実施設計マネジメント業務
*施工者選定支援業務
*施工マネジメント業務
◆
このような業務は、本来は自治体職員の業務
◆
それら業務をCM導入ということで委託していけば、自治体職員の専門性は現在よ
り一層失われていく
◆
CM導入がすすめば、自治体職員の中に公共建築に関わる専門知識を持った職員が
いなくなる
◆
庁舎や公共施設の建設-施工-維持管理などの全過程について、誰がチェックして
いくのかが問われる
20