石油:投資機会の精製に向けて(PDF/320KB)

石油:投資機会の精製に向けて
2016年 5月16日
ゼーン・ E ・ブラウン
パートナー、債券ストラテジスト
石油価格が底を打ったとの兆しが見られるなか、石油探鉱・生産セクターでは企業価値と財
務再編の動きが浮上しています。ロードアベットのアナリストがこの見通しを掘り下げていき
ます。
要旨

世界の石油供給量は高い水準にあるものの減少に転じ始めています。

2015 年の石油需要の伸びは非常に堅調で、2016 年もペースの鈍化は見込まれるもの
の伸びは続く可能性が高いと見られます。

多くの債券・株式アクティブ運用投資戦略がそれぞれのベンチマーク指標に対してコモ
ディティー(商品)セクターでの調整の大半を通じて石油セクターの比重を小さくするなか、
一部では 2016 年初めからサブセクターである石油採掘・生産分野の比重を高める方向
にシフトしています。

今年ここまで、債券セクターでは良質な資産と流動性を有するエネルギー企業が発行す
るハイイールド債が投資家の興味を引きました。

株式においては、石油掘削・生産の小型・中型株が魅力的な価値を提供すると見られま
すが、総合石油企業の大型株はキャッシュフローの改善と配当維持のため設備投資を
削減しています。
ここ最近のメディア報道が示唆するように、石油市場は転換期に来ているのでしょうか?それとも
足元の需給不均衡についての誤った楽観的見方に過ぎないのでしょうか?
ロードアベットのグローバル株式リサーチチームのエネルギー担当アナリストであるヨギンダー・
カクは「世界の石油市場は引き続き 1-2%の供給過剰状態にあり、石油価格に大きな差をもたら
していますが、過剰の程度は徐々に収縮しつつあります」と述べています。たとえそうだとしても、
シェールブームに最も大きくさらされ過剰債務を抱える石油掘削・生産企業は依然として圧力を
受けており、油田サービスへの需要は明らかに減少しています。
「引き続き慎重な姿勢を取るべきだと考えます」と述べているのは、ロードアベットで石油採掘・生
産及び石油サービスセクターの社債を担当するリサーチアナリスト、アンドリュー・バーンスタイン
です。「昨年の 5 月、6 月の状況を思い出してください。当時は石油価格が(1 バレル当たり)50 ド
ル代後半から 60 ドル代前半の高値に急騰しました。ところが結局、今年 2 月半ばには 1 バレル
当たり 26.21 ドルという底値まで急落してしまいました。ロシアとサウジアラビアが過去最高水準
近くにまで石油生産量を増やしたからです。そうした状況が世界中の企業を一段の支出削減と生
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産計画の後退に走らせたのです」とバーンスタインは指摘します。そして最近の石油輸出国機構
(OPEC)会合で産油量抑制の合意が行き詰まったことを受けて、2 月に始まった原油価格の急
騰ペースも失速しつつあります。
供給過剰への反応
こうした状況を背景に、米国石油の供給過剰はようやく緩和の兆しを見せ始めています。「2016
年下半期に近づくにつれ米国石油生産量の削減ペースは加速すると見込まれます」とバーンス
タインは述べ、また「それは市場心理に活況をもたらしています」とも指摘しています。
そうした心理は強気に聞こえるかもしれませんが、あらゆる種類の石油備蓄での膨大な過剰在
庫と需要の緩やかな伸び(図 2 参照)を受け、多くの市場参加者たちは引き続き世界の石油供
給量の一段の落ち込みを予想しています(図 1 参照)。地政学的混乱を除けば、石油価格上昇
ペースがこの先さらに加速する要因は 2017 年までは発生しないと見込まれ、したがって一部市
場観測筋によれば、この先 12-18 ヵ月間に石油価格は 1 バレル当たり 30-50 ドルのレンジで取
引される可能性が高いと見られます。
「石油生産量が減少していくなか、石油価格が先走って上昇した場合、一部の企業は(先物市場
での)ヘッジによって損益を確定させ、掘削を再開させる可能性があるということを常に警戒して
おく必要があります」とバーンスタインは述べ、また「石油生産が再開されれば、供給問題は一段
と長引く可能性があります」と指摘しています。
米国に次いで最も原油消費量の多い中国経済の復調は情勢に寄与すると見られます。また中
国の経済成長と関連する新興市場経済の伸びもまた寄与することになるでしょう。こうした需要
の伸びが、イランによる石油生産量増強計画によって相殺されてしまうかどうかは、また別の問
題です。
イランが(経済制裁下で)減少させた石油生産量(日量約 50 万バレル)の全量を再び市場に供
給できるかどうかは、今のところまだわかりません。バーンスタインは「たとえイランが 増産に動
いたとしても、多くの諸国にとってイラン原油を輸入することは難しい」とし、「イランとビジネスを行
う上で多くの規制が存在することを踏まえれば、必要不可欠な貿易金融手法を見出すことが課
題となります」としています。「例えば、米国の銀行はイラン原油の輸入を望む国際企業に資金を
提供することができません。そしてイラン原油を最終的にどこに向かわせ、どのように運搬するか
について、様々な議論がされています」とバーンスタインは指摘します。
図1. 世界の石油供給量は高水準にあるものの減少に転じている
日量百万バレル単位。2013 年第 1 四半期から 2016 年第1四半期まで
出典:国際エネルギー機関
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図 2.2016 年の石油需要は徐々に伸びる予想
世界の石油需要。2013 年第 1 四半期から 2016 年第 3 四半期(予測)まで。日量百万バレル単位
出典:国際エネルギー機関
石油探鉱・生産セクターについて再考
数多くのアクティブ運用型債券投資戦略が、商品市場での調整の大半を通じて石油セクターへ
の比重を下げるなか、堅調な長期ファンダメンタルズと債務不履行に抵触しない企業のハイイー
ルド債が魅力的な価値を示していることを受けて、一部の投資戦略は 2016 年初めに石油精製と
石油生産の比重を引き上げる方向にシフトしています。
こうした企業が発行したハイイールド債の多くは 4 月に上昇しましたが、綿密な調査力を持つア
クティブ運用型マネジャーはこの先も投資機会を見出していくと見込まれます。
「EBITDA(利払前税引前償却前利益)に対する債務比率が上昇している企業の中には市場で不
当な不利益を被っている企業もあります。しかし実際のところ、こうした企業の多くは良質な資産
を有しており、単に負債比率が 7 倍 8 倍あるというだけで破綻に至ることはないので、興味深い
投資対象なのです」とバーンスタインは述べており、また「企業が破綻に追い込まれるのは流動
性が枯渇する状況となった場合です….」と指摘しています。
例えば企業がバランスシート上に多額の負債を抱えている一方で、最低でも 2017 年までは業務
遂行のための資金を調達するに十分な流動性を有しているとしましょう。こうしたシナリオは、石
油需給が最終的に何らかの形で均衡状態に達し、現在の取引レンジ以上に価格が押し上げられ
ると見る投資家にとっては魅力的なはずです。「もしこうした見方を信じるなら、こうした企業は次
第に自力で立ち上がっていくはずです」とバーンスタインは付け加えています。
破綻にふさわしい装い
ヘインズアンドブーン法律事務所によれば、2015 年初め以来、北米の 59 の石油ガス生産会社
が破産を申請しています(図 3 参照)。これらの破産に含まれる担保付債券と無担保債券は累計
で約 225 億ドルに上ります。ヘインズアンドブーンのレポートによれば、これらの企業のうち 17
社が今年これまで(2016 年 4 月 3 日現在)に破産申請を行っており、あらゆる状況からさらに多
くの生産会社が年内に破産申請を行うことが見込まれています。
一部の債券ポートフォリオマネージャーにとっては、こうした破綻企業は潜在的な投資機会をもた
らしてくれます。多くの運用会社が財務再編を模索する様々な財政難企業の債権者委員会に関
与しているためです。
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議論されている一つの手法は事前調整型破産(事前破産)と呼ばれるものです。この手法の下で
は、債権者がすでに承認した更生計画を企業が申請します。例えば、優良資産を有しバランスシ
ート上は過剰債務に陥りながら比較的単純な資本構成-つまり銀行の信用枠と発行債券1種類
-となっているようなケースが挙げられます。
ある事前破産シナリオにおいて、債券保有者は、自らが保有する企業資産に対する優先債権と
の交換で、新たな資本構成下で大きなアップサイドが見込める再編後株式を得ることに前向きか
もしれません。このような複雑な状況においては、こうした機会を評価検証するセクター別の専門
家の存在が重要となります。こうしたタイプの再編によって企業は資本構成を適切な規模に立て
直し、多額の支払利息を削減し、商品価格が再び持ち直すまで少なくともほぼ純現金収支トント
ンで事業を進めることが可能となります。
「事前破産は非常に力強い手法です」とバーンスタインは述べており、「この手法では債権者委
員会と株式委員会、そしてこの先事業を進める対価として再編後株式の一部を獲得したい経営
陣との間での利害対立といった数多くの要因が登場します」としています。
図 3.窮地:16 カ月間に 63 の石油・ガス会社が破綻
北米の石油探鉱・生産企業の破綻申請累計。2015 年から 2016 年(4 月 15 日まで)
出典:ヘインズアンドブーン破綻モニター
シェール 対 大手石油企業
株式における一つの投資テーマは、下降サイクルの間、低価格で取引されていたシェールセクタ
ーの石油掘削・生産の小型・中型企業-不振が長引いても存続していける優良な資産を有する
生産業者-に重点を置くことです。
「過去数年間、石油掘削・生産セクターで単に最も安価なバリュエーション企業を探し出して投資
することはうまくいっていませんでした。これは資産の質に大きな差があったためです」とカクは述
べており、「優良資産を有する企業は一般にうまく事業を続けられている一方で、優良資産を持
たない企業は事業遂行がうまくいっていません。したがって、我々の重点は、最も高い値では取
引されていないながらこの先改善が見込まれる、時に正当に評価されていない優良資産を有す
る企業を特定することにあります」と指摘しています。
こうしたケースでの資産の質は、企業が掘削を行っている鉱泉の経済性で決まります。鉱泉がシ
ェール油田構造としては同じであっても、中心となる地域での投資リターンはより利回りの低い周
辺地域のリターンを上回っている可能性もあるのです。
大手石油企業については、大手総合石油企業は伝統的に大型株ポートフォリオで中心的な主力
保有銘柄となってきました。しかし、シェールブーム時代の結果として、大手石油企業の資本利
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益と石油掘削・生産特化型企業とのスプレッド格差が縮小している今、こうした企業の主導的地
位は難しいものとなっています。
水圧破砕と水平掘削によるシェール石油・ガスの抽出コストが低下するなか、シェールへの比率
が少なかった総合石油企業はリードタイムの長い資本集約型プロジェクトへの投資を行いました。
石油価格が下落するにつれ、そうしたプロジェクトからのリターンは、特に海外で落ち込む形とな
っています。
「総合石油企業はかつてのような高値で取引されるに値しないかもしれません。しかし彼らの経
営は引き続き順調であり、かつての一部の石油掘削・生産企業のように価値を台無しにするよう
なことはしていません。」とカクは述べ、「また設備投資削減後の彼らのキャッシュフローと生産特
性は過去 5 年間に比べて改善しており、これら全ての要因が大手総合石油企業の配当が持ちこ
たえている背景となっています」と語っています。
石油市場が均衡を取り戻す軌道にあるなか、この先の重要なリスクは世界経済の動向でしょう。
需要の伸びが実現しないとしても、石油価格が 1 バレル当たり 60 ドル台前半から半ばであるか
のような価値で現在取引されているエネルギー企業は、原油の不都合な事実を知ってショックを
受けるかもしれません。
「石油株については厳選すべきさらに多くの理由が存在します」とカクは述べています。
本レポートでの提供されている情報は一般的な情報提供を目的にしているに過ぎず、個別の推奨や
個別の投資助言ととらえるべきではありません。
リスクについての注記:債券の投資価値は金利変動によってまた市場動向に応じて変化します。一般
に、金利上昇時には債券価格は下落し、逆に金利低下時には債券価格は上昇します。ジャンク債と
時に称される高利回り債ではより高い価格変動リスク、流動性の低さ、適時の元利払い不履行リスク
を伴います。債券はまた期限前償還リスク、信用リスク、流動性リスク、金利リスク、そして全般的な市
場リスクといった他のリスクも伴う可能性があります。通常では、より期間の長い債券は金利変動に対
してより敏感に反応します。つまり償還日までの期間が長いほど、金利変動が債券価格にもたらす影
響度は高くなります。低格付け債は高格付け債に比べて高いリスクにさらされる可能性があります。
いかなる投資戦略もすべての市場変動を克服することはできず、また将来の投資成果を保証すること
はできません。さらにはローン保証に利用される特定の担保価値が下落する可能性や流動性が低く
なる恐れがあり、ローン価値にマイナスの影響を及ぼす恐れがあります。株式証券の投資価値は全
般的な経済情勢や特定の企業・セクター見通しの変化に応じて変動します。低格付け債券は高格付
け社債より高いリスクを伴います。海外投資は一般に国内投資より高いリスクを伴い、それらには価
格変動や高い取引コストが含まれます。海外投資には本来、通貨変動や海外事由、政治・経済事由
に関連するリスクを含む特有のリスクが存在します。全ての市場変動を乗り越え、将来の成果を保証
する投資戦略は存在しません。
前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可
能性があります。また弊社の見解を表明するものではありません。本資料は特定の投資または
一般的な市場に関する予測、リサーチ、投資アドバイスとしての利用を目的として作成されておら
ず、また法的・税務上の助言を提供するものでもありません。本資料は当社が信頼できると思わ
れる情報に基づいて作成されておりますが、当社はその正確性および完全性について保証する
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本資料は、情報提供を目的とした参考資料であり、有価証券の取得の申込み・取得の申込みの
勧誘・売付けの申込み・買付けの申込みの勧誘、有価証券に関する投資助言をするものではな
く、以上のいずれの行為に関しても一切用いることができません。また、本資料は金融商品取引
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