役に立つ神経筋エコーハンズオン

第 57 回日本神経学会学術大会
2016 年 5 月 19 日
神経筋エコーハンズオン テキスト
はじめに
今日の医療機器のめざましい進歩にともなって超音波の分野も各方面に広がりつつ
ある.神経内科領域においても電気生理検査に加えて超音波検査を行うことでより診断
精度が向上する可能性が示唆されている.
実際に神経を超音波で見るには,血管系の超音波をおこなっている医師や技師であれ
ば比較的描出しやすいが,頸動脈と比べると 1/5 程度の太さであるため熟練を必要とす
る.また,神経と腱などは類似しているため整形外科分野の解剖や血管,神経の解剖の
知識も必要である.主に,末梢神経疾患,筋疾患,神経変性疾患の診断に有用であるた
め,それらの疾患に対する知識も必要である.
本ハンズオンでは代表的な神経・筋エコーを体験することを目的とし、解剖学的知識、
機器操作、神経筋の描出方法について解説とハンズオンを行う。
1)末梢神経
<末梢神経の構造>
中枢神経系と身体末梢部を連絡する投射伝導路が末梢神経である.
機能的には運動神経,感覚神経,自律神経の3種類からなる.
末梢神経は神経束の中に,運動神経,感覚神経(一次感覚ニューロン)といった機能的
に異なる神経線維を含み,さらに自律神経を含む部分もある.
それらの神経束は神経周膜によって覆われる.
神経束がたくさん集まりその間に血管を含み,神経上膜によって束ねられ
1 つの神経幹を構成する.
神経上膜
神経周膜
神経内膜
神経束
神経幹
正中神経 22MHZ 使用
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第 57 回日本神経学会学術大会
2016 年 5 月 19 日
<末梢神経の描出法,計測法>
計測が可能な神経は比較的太く体表面に近い神経(神経伝導検査が可能な神経)で
あり上肢では正中神経,尺骨神経,橈骨神経,下肢では脛骨神経,腓腹神経などが
ある.
観察項目は神経の太さ(径,断面積)や浮腫,腫瘍などの有無、神経の連続性である.
腫瘍 についてはガングリオンや神経鞘腫などが観察できる.
疑われる疾患によって左右,片側のみ,上肢あるいは下肢のみを観察することもある
が,多巣性の場合は両側を観察する.
プローブは 7.5~18MHz のリニア型(部位によって変える)を使用し,プリセットは
鮮明に描出できるように工夫することが望ましいが,まずは carotid のプリセットで
行うとよい.いずれの神経も末梢側から短軸像で描出プローブを短軸方向に,上下に
ずらしながら 連続性のある構造物を探す.
正中神経短軸走行
正中神経長軸走行
血管と伴走していることが多いためカラードップラーを確認しながら上下して探す
とよい.計測部位は手首,肘,上腕などのルーチーンを各施設で設定し,それ以外は
特に肥厚している部位を計測する.まず短軸像で断面積は,manual trace し計測す
る. その後プローブを 90°回転させ長軸像で径を計測する.神経の外側の神経上膜
は高輝度に描出されるが.外側からと内側からでは計測値に大きな誤差が生じる.現
在のところ上膜の最内側部で計測するのが一般的である.また病変があれば、長軸像
で広範囲に描出,計測している.腫瘤があれば部位および大きさを計測する.
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正中神経(median narve)
上腕では上腕動脈の外側を走行し、鳥口腕筋の付着部では前方に交差し、肘窩でその内
側に入っている.
手根管症候群の診断に有用である.
短軸像
長軸像
(手根管症候群とは)
手根管は底部を手根骨,上部を屈筋支帯で形成される狭いトンネルの様な空間でこの中
を正中神経と滑液鞘に包まれた 9 本の腱が通る.このため,何らかの原因によって手根
管内の圧力が高まると正中神経の圧迫性麻痺が生ずる.手を良く使う中年女性に多い.
神経伝導検査で診断するのが一般的であるが,最近では超音波で診断する施設も増えて
きた.
診断方法:WFR(手首対前腕の断面積の比)が 1.5 以上で、病変が限局している場合
手根管症候群の症例
*CSA:Cross-sectional-area 断面積 (mm2)
*FD:Fascicle diameter 直径(mm)
*WFR:Wrist –to -Forearm – Ratio 手首対前腕比
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尺骨神経(ulnar nerve)
上腕での神経走行は中央部までは腕動脈の内側に位置しており次いで内側筋膜中隔を
貫通しさらに後方筋区画の中に入っていく.前腕前面に移行する際に尺側手根屈筋の肘
部管を走行していく.尺側手根屈筋と深指屈筋との間では深部に位置し前腕遠位部 2/3
では尺骨動脈の内側を走行している.手関節で Guyon 管(豆状骨、有鈎骨によって形成
される)を通過したのち遠位で浅枝と深枝の2つに分かれる.
短軸像
長軸像
脛骨神経(tibial narve)
膝窩中央部を垂直に浅層で走行している.下腿における走行は浅層から深部に入って
いき腓腹筋とひらめ筋の間を通過し最深部にある後脛骨筋後面と脛骨の間を下降して
いくため描出困難となる.
健常人
(平均年齢 39 歳)
の平均値はくるぶし付近で径 4.6mm,
断面積 12.8mm2で上肢と比較すると太い傾向にある.(*徳島大学)
腓腹神経(sural nerve)
膝窩部から腓腹筋の二頭間溝を下降し下腿遠部 1/3 で表在になり外果後方を通過し
足外側縁に至る.腓腹神経は感覚神経のみで構成され,運動枝に比べるとかなり細く,
非常に表皮に近い部位にあり健常人でも見えない場合が多い.神経生検が可能な唯一の
神経である.平均値は断面積で 1-3mm2.
Sural
小伏在静脈
2) 頸部神経根
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<頸部神経根の構造>
脊髄神経の根は,脊髄前面の前外側溝から出る前根と,脊髄後面の後外側溝から出る後
根の 2 つである.前根はおもに骨格筋を支配する運動線維,後根はおもに皮膚などの知
覚を伝える感覚線維を入れている.前根と後根が合流した先で,脊髄神経は細い硬膜枝
と交通枝を出したのち,交感神経幹の神経節に入る.一部の前枝は神経叢を作って異な
る高さからの線維を交換し,さまざまな高さからの線維を含んだ神経になって末梢へ向
かう.エコーで描出できるのは前根と後根が合流したところから神経叢の間である.
C6 神経根
C7 神経根
後結節
J
<頸部神経根の描出法>
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1) まずC7(または C8)を正確に把握しその後C5, C6 と描出する
(C7 は前結節がない)
2) 頸椎から出たところはやや太めであるため 径が安定したところで計測する
3)可能な限り短軸像に加え長軸像を描出する 断面積および径を計測する
3)筋エコー
<描出法>
神経根や末梢神経と比べて誰でもプローブを当てると描出できる.
プローブは 7.5〜9MHz のリニア型を使用 .
プリセットは Muscle,Carotid で行う.
プロ―ブは,かならず皮膚表面に対して垂直に当てる必要がある。斜めに当てると輝度
が低下してしまうため注意が必要である.
筋が変形してしまうため過度な圧迫はしないようにする.
90度(垂直)の角度で当てる
正確な輝度判定が可能
すこし倒して当てる
実際より輝度が低下する
<評価法>
① 筋の厚み(萎縮、肥厚)
筋の厚みは 20-40 歳でピークになり,その後は萎縮するといわれている.
その傾向がつよいのは大腿四頭筋で上腕二頭筋での年齢差はそれより少ない.
先天性筋強直症や急性の筋炎では筋の肥厚あるいは浮腫を生じる場合があるが,
多くの筋疾患では萎縮するため、超音波検査にて筋厚の減少を検出する事が可能で
ある.
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②輝度変化(上昇,低下)
骨格筋は筋束が集まって一つの筋を形成している.その周囲は筋膜で覆わ,それぞれの
筋の境界は筋膜によって区別され,筋線維束の周囲は周膜によって覆われている.
筋膜や周膜は高輝度に描出されるがそれ以外の筋線維そのものは通常は低輝度に描出
される.
正常の場合でも年齢によって輝度の変化がみられ,20-40 歳で低輝度になり加齢ととも
に上昇する.
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3.結節など腫瘤の有無
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筋サルコイドーシス(結節型)
サルコイドの結節の有無
⇒ 筋サルコイドーシスの補助診断、
筋生検部位
4.不随意運動の有無
Fasciculation の有無
⇒ ALS の補助診断
カラーを入れると血管との区別はできる
まとめ
末梢神経 :手根管症候群,肘部管症候群,慢性炎症性脱髄性多発神経炎,
ギランバレー症候群,遺伝性末梢神経障害などの診断や治療効果判定
頸部神経根:上記に加えて ALS や神経根障害,腕神経叢障害など
筋
:多発筋炎,封入体筋炎,筋サルコイドーシス、
筋生検部位の決定など
超音波検査に加えて電気生理検査とともに行うことにより相補的に診断精度が
向上する
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<参考>日本人の正中・尺骨神経・頸部神経根正常値(広島大学)
SugimotoT,Ochi K, et al. Ultrasound Med Biol. 2013 Sep;39(9):1560-70
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