報 告 03 8Kスーパーハイビジョン信号の 100ギガビットイーサネット伝送装置の 開発 川本潤一郎 中戸川剛 倉掛卓也 Development of Uncompressed 8K Super HiVision Signal Transmission over 100 Gigabit Ethernet Junichiro KAWAMOTO, Tsuyoshi NAKATOGAWA and Takuya KURAKAKE 放 要 約 送局内において8Kスーパーハイビジョンの映像信号を共有するために,イーサネット 技術を用いた伝送システムの開発を行っている。本稿では, 映像信号を, 狭いイーサネッ ト伝送帯域で効率的に,低遅延かつ安定して伝送できる非圧縮8K信号の100ギガビットイー サネット伝送装置の構成と,受信側で再生映像クロックを制御する方法について述べる。試作 装置による伝送実験の結果,伝送遅延時間が459µsで,再生映像クロックは周波数偏差が± 1ppm以下かつジッター規格値を満足することを確認した。 ABSTRACT I n order to share 8K Super Hi-Vision programs in broadcasting stations, we have been developing a transmission system using Ethernet technology. In this paper, we propose a clock recovery and control method for 8K signals as part of an uncompressed 8K signal transmission system over 100 Gigabit Ethernet with effective usage of transmission capacity as well as low jitter and low latency. We report the results of an examination using a test bed implementing the proposed method, in which the latency was 459µs, frequency deviation was ±1ppm or less, and which satisfied the standard value of jitter specifications. 36 NHK技研 R&D ■ No.157 2016.5 報 告 03 ジッターが増大する懸念がある。そこで,ジッターの低減 1.まえがき には,受信側バッファーのデータ蓄積量がクロック再生制 ハイビジョンの16倍に相当する約3,300万画素を持つ8K 御周期で一定に近くなるように蓄積量を増大させることが有 スーパーハイビジョン(以下,8K)は,走査線4,000本級の 効である。一方で,データ蓄積量を増大させると,データ 超高精細映像と22.2マルチチャンネル音響から成る高臨場 がバッファーに滞留することで伝送遅延時間が増大し,低 感映像・音響システムである1)2)。 遅延を目的とした非圧縮信号伝送の利点が減少する。 現在のハイビジョンの番組制作では,カメラ,モニター, そこで本稿では,冗長部分を削除して有効データのみを 編集装置などの放送機器間において,高品質かつ低遅延な 抽出した映像信号を伝送する場合に,適応クロック法をベー 伝送が要求されるため,非圧縮の映像信号が伝送されてい スとした新たなクロック再生制御方法を提案する。さらに, る。そこで,将来的に8Kを局内放送設備に導入する際にも, 100GEを介した非圧縮8K信号の伝送装置を試作して,低 ハイビジョンと同様に非圧縮の8K信号を伝送可能な局内放 遅延かつ低ジッター性能を実現したので報告する。 送設備を構築できることが望ましい。これまでの局内放送 設備では,非圧縮ハイビジョン信号は,ファイル形式のデー タが流れるイーサネット網とは異なる専用網で伝送されてき たが,近年,設備投資・運用面などの効率化を目的に,一部 で10ギガビットイーサネット3) (10GE:10 Gigabit Ethernet) による非圧縮ハイビジョン信号の局内放送設備への導入が 進んでいる4)5)。また,IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers:米国電気電子学会)において100ギ 2.システムの要求条件 非圧縮8K信号を,100GEを介して送受信する伝送システ ムの要求条件を以下に示す。 条件1 安定した映像伝送のために,受信側で再生する 映像クロックのジッターが規格値以下(さらにでき るだけ小さいことが望ましい)であること。 Gigabit Ethernet)の標 条件2 非圧縮信号伝送の利点を生かすために,伝送シス 準規格化が完了したことで,イーサネット技術を用いたさら テムの入出力信号間の遅延ができるだけ小さいこ なる高速伝送の実用化が始まりつつあり,その普及に伴う と。 6) ガビットイーサネット(100GE:100 通信デバイスの低廉化が期待されている。このような状況 条件3 100GEの帯域内で, 非圧縮ハイビジョン信号やファ を踏まえると,将来の効率的・経済的な局内放送設備の構 イルデータを非圧縮8K信号と併せて伝送するため 築には,100GEを用いた非圧縮8K信号伝送システムの実現 に,非圧縮8K信号が利用するイーサネット伝送帯 が有効と考えられる。 域ができるだけ狭いこと。 映像伝送システムで映像信号を安定して再生するために は,受信された信号のクロックが送信側と同期していること これらの条件の下で,当該システムに要求される機能・ 性能を具体的に設定した。 が望ましい。イーサネットのように送受信間が非同期の網を まず,条件1に対しては,受信側で再生する映像クロック 用いた場合,受信側で映像信号用クロックの再生を精度よ は,非圧縮ハイビジョン映像信号のジッターに関する測定 く行うことが必要である。非同期網を介したクロック再生の 規格(タイミングジッター*3:1.0UI*4以下,アライメント 代表的な方法として, 回路構成の簡素化が容易な適応クロッ ジッター*5:0.2UI以下)を満足することとした11)。 ク法がある7)。適応クロック法は,受信データを一時的に蓄 次に,条件2に対しては,伝送システムの入出力信号間 積する受信バッファーのデータ蓄積量が一定になるようにク の遅延は,1映像フレーム(映像フレーム周波数が60Hzの ロックを制御する。適応クロック法におけるクロック再生制 場合は16.7ms)以下でできるだけ小さくすることとした。 御 方 法としては, これまでにPID型 制 御(Proportional- さらに,送信信号の1映像フレームは,有効画素,音声, Integral-Differential Controller)8)*1や蓄積量の平均化に 補助データ,冗長なデータ(あらかじめ決められた固定値が よる手法9)*2などが提案されている。 配置されている冗長部分)を含む映像ラインと,補助データ 一方,文献10)では非圧縮8K信号をイーサネット信号に収 容する際に,入力信号に含まれる冗長部分を削除して,有 効データのみをイーサネット信号に収容する方法が示されて いる。その結果,送出する信号の伝送速度が時間的に変 動するため,固定データ速度を想定した従来のクロック再 生制御方法を適用すると,クロック再生制御周期において 制御情報に用いるデータ蓄積量が変動し,再生クロックの *1 受信バッファーのデータ蓄積量の時間比例値・時間積分値・時間微分 値を組み合わせてクロックを制御する方法。 *2 受信バッファーのデータ蓄積量の平均値に基づいてクロックを制御する 方法。 *3 周波数成分が10Hzから148.5MHzの範囲に含まれるジッター。 *4 Unit Interval:1クロックサイクルの時間幅(クロックの1周期=1UI)。 *5 周波数成分が100kHzから148.5MHzの範囲に含まれるジッター。 NHK技研 R&D ■ No.157 2016.5 37 3G-SDI×32 3G-SDI×32 再生映像クロック 10GE×8 10GE多重部 #1 10GE分離部 #1 10GE100GE 変換部 10GE多重部 #8 100GE10GE 変換部 Ethernet 送信装置 受信装置 クロック再生部 10GE分離部 #8 1図 試作装置の全体系統図 イーサネットパケット MAC フレーム SFD MAC ヘッダー VLAN タグ IP ヘッダー UDP ヘッダー RTP ヘッダー RTP ペイロードヘッダー メディア ペイロード 7 1 14 4 20 8 12 20 735 or 1,440 FCS プリアンブル MAC クライアントデータ 4 (byte) 2図 イーサネットパケットの構成 および冗長なデータ(冗長部分)を含む非映像ラインで構成 変換部で,8本の10GE信号から1本の100GE信号を生成し される。そこで,条件3に対しては,送信側で映像ラインお 送信する。10GE-100GE変換部は,一般的なイーサネットス よび非映像ラインにおける冗長部分を削除して有効データ イッチ*6である。 のみをイーサネット信号に収容し,受信側で冗長部分を再 構成して映像信号を出力する構成とした10)。 受信装置では,はじめに100GE-10GE変換部で,イーサ ネット網を介して受信した100GE信号から8本の10GE信号 に分離して出力する。次に,各10GE分離部で,10GE信号 3.開発装置の構成 から4本の3G-SDI信号を,10GE分離部内のクロック再生 3. 1 全体系統図 に,削除してあった映像ラインおよび非映像ラインの冗長部 今回試作した装置の全体系統を1図に示す。送信装置へ 部で生成された映像クロックを用いて分離再生する。さら 分を付加し,8K信号として出力する。 は,8K信号が32本の3G-SDI(Serial Digital Interface)信 号として入力される。 3.2 映像信号のイーサネットパケットへの多重 送信装置では,はじめに,8系統の10GE多重部のそれ 本節では,4本の3G-SDI信号を1本の10GE信号に多重 ぞれにおいて,3G-SDI信号から映像ラインおよび非映像ラ する方法について述べる10)。3G-SDI信号は,1映像フレー インの冗長部分を削除して有効データのみを抽出した信号 4本ずつを,1本の10GE信号へ変換し,計8本の10GE信 号を生成する(次節で詳細に説明)。次に,10GE-100GE 38 NHK技研 R&D ■ No.157 2016.5 *6 入力されたイーサネット信号内の送付先アドレスを参照して,適切な出力 先へ当該イーサネット信号を転送する機器。 報 告 03 1表 10GE/100GE信号の伝送帯域 1ラインあたりの イーサネットパケット数 映像ライン 非映像ライン EAV–SAV 1 有効画素 24 EAV–SAV 1 VANC 4 1映像フレーム あたりのライン数 10GE信号 (Gbps) 100GE信号 (Gbps) 1,080 9.47 75.8 45 0.39 3.1 1,125 9.86 78.9 全 体 ムが1,125本の映像ラインまたは非映像ラインで構成され ケットとなる。 る。映像ラインは,EAV(End of Active Video),LN(Line 一方,有効画素およびVANCは,1つのMACフレームに Number),CRCC(Cyclic Redundancy Check Code), 収容できないため,複数のMACフレームに分割して伝送す HANC(Horizontal Ancillary),SAV(Start of Active ることとし,メディアペイロードのデータ量は1,440byteとし Video),および有効画素で構成される。一方,非映像ライ た。2図のイーサネットパケットのメディアペイロード以外の ンは,EAV-SAV*7およびVANC(Vertical 部分は90byteなので,1個のイーサネットパケットの長さは, Ancillary)で 構成される。ライン番号と映像/非映像ラインの関係は,ラ EAV-SAVを送る場合が825byte,有効画素およびVANC イン番号1~20:非映像ライン,21~560:映像ライン,561 を送る場合が1,530byteとなる。1本の映像/非映像ライン ~583:非映像ライン,584~1,123:映像ライン,1,124~1,125: から生成されるイーサネットパケット数は,EAV-SAVからは 非映像ラインである。連続する映像ライン数をVline(=540) 1個ずつ,有効画素からは24個,VANCからは4個となる。 と定義する。 イーサネットパケット多重後の10GE/100GE信号の伝送帯域 冗長部分の削減によって,映像ラインの有効データの量 を1表に示す。 は,EAV-SAVが735byte,有効画素が34,560byteとなる。 1映像ライン当たりのバッファーデータ量の増分をB S bit(= 282kbit)と定 義する。一方,非映 像ラインについては, EAV-SAVは同様に735byte,VANCは5,760byteとなる。 3.3 10GE多重部・分離部 10GE多重部の処理系統を3図に,10GE分離部の処理 系統を4図に示す。送信側の10GE多重部では,まず4本の 次に,これらのデータをイーサネットパケット12)に多重す 3G-SDI信号(2.97Gbps×4)を位相差調整バッファーに入力 る。イーサネットパケットの構成を2図に示す。イーサネッ し,4本の遅延時間のばらつきをそろえた信号を出力する。 トパケット内のMAC(Media Access Control)クライア バッファー容量は,信号の揺らぎを考慮して2.1ライン分確 *9とし, ントデータ*8はQタグフレーム(最大1,504byte) 保した。なお,ばらつきをそろえて出力することのできる信 構 成 はVLANタグ*10,IP(Internet Protocol)/UDP(User 号間の遅延時間差の最大値は1ラインである。すなわち, Datagram Protocol)/ RTP(Rea l-t ime Tra nsport 位相差調整バッファー出力信号には,バッファー入力信号に Protocol)ヘッダー,およびRTPペイロードとなる。RTPペ 1ライン分の遅延が常に加わることになる。 イロードは,RTPペイロードヘッダー (20byte)とメディアペ 有効データ抽出部では, 4本の3G-SDI信号を10GEパケッ イロードから構成13)され,メディアペイロードに映像/非映 トに収容するために映像ラインおよび非映像ラインの冗長 像ラインの有効データを多重する。EAV-SAVを送る場合の 部分を削除して有効データを抽出し,それぞれのラインの メディアペイロードのデータ量は735byteとした。MACクラ 有効データを異なる映像ラインバッファー (13.7ライン分)ま イアントデータにアドレスや種別情報を表すMACヘッダーを たは非映像ラインバッファー (13.7ライン分)に蓄積する。次 付加し,さらに,MACヘッダーとMACクライアントデータ の誤りを検出するためのFCS(Frame Check Sequence) を付加する。MACヘッダー,MACクライアントデータ, FCSからMACフレームが構成される。最後に,信号同期の *7 EAV,LN,CRCC,HANC,SAVを合わせたもの。 *8 イーサネット信号内の可変長のデータのまとまり。 た め の プ リ ア ン ブ ルとMACフレ ー ム の 開 始 を 表 す *9 仮想的なネットワークを構成できるVLAN(Virtual Local Area Network) 技術を使用するためのデータ構造。 SFD(Start Frame Delimiter)を付加してイーサネットパ *10 仮想的なネットワークのセグメント番号を表す情報。 NHK技研 R&D ■ No.157 2016.5 39 電気 - 光変換 イーサネット 変換部 映像ライン バッファー 非映像ライン 有効データ 抽出部 位相差調整 バッファー 3G-SDI 受信 3G-SDI 信号×4 10GE 信号 3G-SDI 信号×4 3G-SDI 送信 位相差調整 バッファー 非有効データ再生・ 誤り検出部 映像ライン バッファー 非映像ライン イーサネット 再変換部 10GE 信号 光 - 電気変換 3図 10GE多重部の処理系統 クロック再生部 VCXO 再生映像クロック 4図 10GE分離部の処理系統 に,イーサネット変換部で前節のイーサネットパケットを生 成した後に,電気-光変換して10GE信号を出力する。なお, 10GE信号内のUDPヘッダー部には,4系統の3G-SDI信号 4.再生映像クロックの制御方法 ごとに異なるUDPポート番号を割り振り,RTPヘッダー部に 受信側の映像ラインバッファーが出力する映像信号の映 は,出力する10GE信号内のRTPペイロードに含まれる信号 像フレーム番号が f ,映像ライン番号が l となる時点の,受 の信号種別(映像ライン/非映像ライン)を記載する。 信バッファー蓄積量*11 buf f( l )は,次式で表すことがで 一方,受信側の10GE分離部では,受信した10GE信号を 光-電気変換した後に,イーサネット再変換部において, きる。 MACクライアントデータを分離する。さらに,UDPヘッダー (1) 部に記載されたUDPポート番号を基に,10GE信号に収容 ここで,tEw は受信バッファーにおけるイーサネット信号の されている3G-SDI信号が送信側と同じ系統から出力される 1映像ライン当たりの書き込み時間を表し,システムで実際 ように割り振る。また,RTPヘッダー部に記載された信号 に使用するイーサネット信号のクロックから算出される時間 種別情報を基に,映像ラインバッファー (13.7ライン分)と非 であり,ジッターや周波数偏差などを含む。同様に,t Srは 映像ラインバッファー (13.7ライン分)に振り分ける。非有効 受信側で再生する映像クロックの1映像ライン当たりの読み データ再生・誤り検出部では,送信側で廃棄した冗長部分 出し時間を表し,同クロックを発生するVCXOの周期的な を再生して映像信号を再構成する。また,受信したCRCC 制御で変化する。また,前述のように,Vlineは連続する映 を用いて,再生映像信号の誤りの有無を確認することで, 像ライン数(= 540)を,B Sは1映像ライン当たりのバッファー 映像の正常受信の成否を判定する10) 。位相差調整バッファー データ量の増分 (= 282kbit)を表す。%は剰余演算を表す。 (2.1ライン分)では,送信側と同様に信号間の位相差を調整 (1)式より, 映像ライン番号が増加するにしたがって受信バッ して遅延時間のばらつきをそろえた4本の3G-SDI信号を出 ファー蓄積量は減少し,映像ライン番号が540および1,080 力する。クロック再生部では,次章で説明する映像クロッ のときに受信バッファー蓄積量は最も少なくなる。 クの制御方法によりクロック再 生部内のVCXO(Voltage そして,VCXOの制御周期CNTperiod(ただし,制御開始 Controlled Xtal Oscillator)を制御することで適切な映像 後 n 回目の制御時刻を tn とすると,CNTperiod = tn-tn-1) 信号用クロックを出力し,このクロックを用いて3G-SDI信号 を再生する。 40 NHK技研 R&D ■ No.157 2016.5 *11 4図の映像ラインバッファーに蓄積されたデータ量。 報 告 03 250 (受信側) 再生映像クロック周波数 (送信側) 映像クロック周波数 周波数偏差(ppm) 200 150 100 50 0 信号送信開始点 -50 0 20 40 60 経過時間(秒) 80 100 5図 再生した映像クロック周波数の時間変動特性 ごとに,以下の条件に従って,VCXOの入力電圧に応じて l の受信バッファー蓄積量 buf f( l )と1映像フレーム前の 制御されるクロック周波数 f(tn)を決定する。 蓄積量 buf f-1( l )との比較条件を含む制御を追加する。 これは,(1)式において,蓄積量 buf f( l )がフレーム番号 (2) によらず,同一のライン番号では同一になることを利用した ものである。この制御により,過去の蓄積量と現在の蓄積 ここで,Fadjは制御周期ごとに変化させる周波数の変化 量の比較による受信バッファー蓄積量の変動の傾向をク 量であり,固定値とする。条件Aではクロック周波数は低く ロック制御に反映することができるため,VCXOの制御電 するように制御され,条件Bではクロック周波数は高くする 圧の変動に起因するジッターを低減することができる。 なお,事前のシミュレーションによる検討結果から,本シ ように制御される。 一般的な適応クロック法では,受信バッファー蓄積量の 目標値を tgt( l )とすると,条件AおよびBは下記のように ステムのクロック制御パラメータ値は,Fadj = 0.1ppm, CNTperiod = 125ライン,W = 700ビットに設定した。 なる。 (3) (4) 5.試作装置による実験 本章では,試作装置を用いた実験について説明する。1 ここで,Wはあらかじめ定めておく固定の値であり,実 図において,送受信装置間は,CFP MSA(C Form-factor 際の蓄積量と目標値の差が±W未満の場合にはクロック周 14)*12 準拠の Plugg able Mu lt i - S ou rce Ag reement) 波数を変化させないことで,短い周期でクロック周波数が 100GBASE-LR4*13トランシーバー間をシングルモードの光 変動することを防ぐ。この条件で制御を行うと,現在の(瞬 ファイバー (長さ1m)で直結した。また,非圧縮8K信号と 時値である)蓄積量は受信バッファーに書き込まれるデータ ともに非圧縮ハイビジョン信号などの信号を100GE信号とし 速度の揺らぎなどにより変動するため,再生クロックのジッ て伝送する場合を想定して,1図の10GE-100GE変換部に ターが発生する。 おいて,10GE信号発生器から発生させたトラヒック2本(合 そこで,本システムでは条件AおよびBを下記のように定 める。 計の伝送帯域:18.0Gbps)を非圧縮8K信号に追加して性能 評価を行った。 ( 5) ( 6) すなわち,一般的な適応クロック法の条件設定に対して, 本提案の条件設定では,(3)式と(4)式で述べた適切な目 標値設定に加えて,映像フレーム番号 f の映像ライン番号 まず,受信側で再生した映像クロック周波数の時間変動 特性を5図に示す。制御開始からの収束時間は2秒程度で *12 複数の光トランシーバーモジュール製作業者が共同で策定した製品仕様 規格。 *13 100ギガビットのイーサネット信号を長距離伝送するためのインターフェー ス規格。 NHK技研 R&D ■ No.157 2016.5 41 ユニットインターバル(UI) 1 規格値(1.0UI) TJ(再生) TJ(送信) 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 20 40 60 累積発生確率(%) 80 100 6図 タイミングジッター特性 ユニットインターバル(UI) 0.2 規格値(0.2UI) AJ(再生) AJ(送信) 0.15 0.1 0.05 0 0 20 40 60 累積発生確率(%) 80 100 7図 アライメントジッター特性 あった。また制御開始後45秒経過以降の再生した映像信 で1時間観測した。その結果,CRCCの誤りは無く,送信 号クロックの周波数偏差は±0.34ppmとなった。 映像が正常に受像できていることを確認した。 次に,試作装置のTJ(タイミングジッター)およびAJ(アラ さらに,8K映像の送信装置入力から受信装置出力まで イメントジッター)の測定を行った。なお,受信装置に接続 の伝送遅延時間を測定した結果,伝送遅延時間は459µsで する8K信号表 示器(映像モニター)は,当該機器内部で あった。 3G-SDI信号をHD-SDI信号に変換して並列処理を行ってお 最後に,10GE信号発生器から発生させたトラヒック2本 り,映像が正しく再生できるかどうかを評価するためには (非圧縮8K信号と併せて伝送)のビット誤り率を,1図の HD-SDI信号として品質を評価しておく必要がある。そこで, 100GE-10GE変換部出力に設置した10GEアナライザーで測 TJおよびAJは,受信装置出力の3G-SDI信号をHD-SDI信 定した。1時間観測した結果,ビット誤り無く伝送できるこ 号に変換して測定した。6図にTJ特性,7図にAJ特性を とを確認した。 示す。6図と7図には,併せて送信信号源のTJ特性および なお,今回の実験は,非圧縮8K信号の帯域を確保した AJ特性も示す。両図から,TJ,AJともに規格値11) (TJ:1.0UI 上で行った。実際の運用では,共通データ網としてのイー 以下,AJ:0.2UI以下)を大きく下回り,送信信号源に近いジッ サネット上で,複数の8K信号などのデータを伝送することを ター特性を得ることができた。 想定している。その際には,網上のイーサネットスイッチに また,受信装置出力の3G-SDI信号に対して,CRCCによ おけるイーサネットパケットの,バッファリングによる遅延や る誤り検出を24時間行うとともに,受信した8K映像を目視 揺らぎ,もしくは,バッファーオーバーフローによる消失が 42 NHK技研 R&D ■ No.157 2016.5 報 告 03 問題になると考えられる。これらの影響を加味した提案法 ppmという特性が得られた。また,TJ,AJはジッター規格 のクロック制御特性の検証が今後の課題である。 値を満足し,さらに伝送遅延時間459µsで,誤りの無い映 像を安定して受信することができた。以上の実験結果から, 6.むすび 本稿では,非圧縮8K信号を,100GEを介して送受信す る伝送システムにおいて,イーサネット伝送路を効率的に利 本提案手法が有効であることを確認した。 本稿は,電子情報通信学会論文誌に掲載された以下の 論文を元に加筆・修正したものである。 用しながら,低遅延で安定した映像信号を再生することを 川本,中戸川,小山田:“8Kスーパーハイビジョン信号 目標として,受信側で再生する映像クロックの制御方法を の100ギガビットイーサネット伝送におけるクロック再生制 提案した。試作装置による伝送実験の結果,クロック周波 御 法 の 提 案,” 信 学 論B,Vol.J98-B,No.10,pp.1127- 数の収束時間は2秒程度,収束後の周波数偏差は±0.34 1136 (2015) NHK技研 R&D ■ No.157 2016.5 43 報 告 03 1) Rec. ITU-R BT. 2020-1,“Parameter Values for Ultra-high Definition Television Systems 参考文献 for Production and International Programme Exchange” (2014) 2) 電波産業会:“超高精細度テレビジョン方式 スタジオ規格, ” ARIB STD-B56 (2015) 3) IEEE Standard 802.3-2012 SECTION FOUR,“44. Introduction to 10 Gb/s Baseband Network” (2012) 4) 岩尾:“局内IPネットワーク化を実現した新回線センターシステム-ストリームとファイルの両立を実現-, ” 映情学技報,BCT2010-51,Vol.34,No.21,pp.9-12 (2010) 5) 小熊:“IPネットワーク上のミッションクリティカルな映像伝送インフラストラクチャ, ” 信学技報,IN201096,MoMuC2010-53,pp.79-83 (2010) 6) IEEE Standard 802.3-2012 SECTION SIX,“80. Introduction to 40 Gb/s and 100 Gb/s Networks” 7) ITU-T I.363.1,“B-ISDN ATM Adaptation Layer Specification: Type 1 AAL” (1996) 8) 深田,安田,小松,斉藤,前田:“回線エミュレーション向け比例・積分・微分(PID)制御型適応クロッ ク法の実装と評価,” 信学技報,CS2005-43,pp.37-42 (2005) 9) 村上,横谷:“TDM over Ethernetにおけるクロック精度検証, ” 信学技報,CS2006-1,pp.19-23 (2006) 10) 川本,中戸川,小山田:“100ギガビットイーサネットを用いた非圧縮スーパーハイビジョン信号伝送技術 の開発,” 信学技報,CS2014-28,pp.67-72 (2014) 11) SMPTE 292-2008,“1.5 Gb/s Signal/Data Serial Interface” 12) IEEE Standard 802.3-2012 SECTION ONE,“3. Media Access Control(MAC)Frame and Packet Specifications” 13) SMPTE ST 2022-6:2012,“Transport of High Bit Rate Media Signals over IP Networks (HBRMT)” 14) CFP MSA, Revision 1.4,“CFP MSA Hardware Specification” か わ も と じゅん い ち ろ う 中戸川 剛 2008年入 局。技 術局,山口放 送 局を経て, 2011年から放送技術研究所において,非圧縮映 像信号の光伝送技術に関する研究に従事。 現在, 放送技術研究所伝送システム研究部に所属。 2000年入 局。営業 局を経て,2003年から放 送技術研究所において,スーパーハイビジョン非 圧縮信号などの光ファイバー伝送技術の研究に 従事。現在, 放送技術研究所研究企画部副部長。 くらかけ たく や 倉掛 卓也 1994年入局。放送技術研究所,仙台放送局を 経て, 2014年から放送技術研究所において, ケー ブルテレビの伝送技術などに関する研究に従事。 現在,放送技術研究所伝送システム研究部上級 研究員。博士(工学)。 44 な か と が わ つよし 川本 潤一郎 NHK技研 R&D ■ No.157 2016.5
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