Mizuho Short Industry Focus

第 148 号(2016004)
2016 年 5 月 17 日
みずほ銀行 産業調査部
Mizuho Short Industry Focus
短期原油価格見通し ~世界の石油需給動向と 2016 年度の原油価格見通し~
【要旨】

原油価格は、需給緩和を主因として 2014 年夏場以降急落し、2016 年 1 月には WTI が直近最安値となる
$26/bbl台を記録した。その後、油価は上昇に転じ、2016年4月にはWTIの終値が約半年ぶりに$45/bblを上回った。

今後の石油需給は、石油需要の堅調な増加や、米国を中心とする非 OPEC の石油生産減少により、徐々に
改善に向かうものと予測される。

2016 年度の原油価格は、高止まりする石油在庫や米国の石油生産見通し、産油国動向には留意が必要で
あるものの、斯かる石油需給の是正を踏まえ、下期にかけて緩やかに上昇すると予想する。
原油価格は足許
では上昇に転じる
原油価格は、2014 年夏場以降急落し、2016 年 1 月には、WTI が$26/bbl 台と、2003 年
5 月以来となる低水準を記録した。その後、原油価格は上昇に転じ、2016 年 4 月には、
WTI の終値が約半年ぶりに$45/bbl を上回った(【図表 1】)。
需給緩和、コスト
削減が油価下落
に影響
2014 年後半からの原油価格下落は、需給緩和の影響が大きいと考えられる。加えて、原油の
生産コストは、事業者のコスト削減の取組み等の結果、低下傾向で推移し、需給緩和の継続と
併せて、油価下落に影響した(【図表 2】)。
【図表 1】 原油価格の推移
(2014 年 1 月 2 日~2016 年 4 月 29 日)
($/bbl)
【図表 2】 原油価格の変動要因分析
120
100
80
投機・地政学要因
需給バランス要因
生産コスト要因
WTI
WTI: $41.1bbl
(2016年4月平均)
($/bbl)
Brent-WTI
WTI
Brent
Dubai
140
120
100
80
60
投機・地政学要因
$11.7/bbl
60
40
40
20
生産コスト要因
$42.9bbl
20
0
0
▲20
需給バランス要因
$▲13.4/bbl
▲20
(月次)
(日次)
(出所)EIA 資料等よりみずほ銀行産業調査部作成
(出所)EIA 資料等よりみずほ銀行産業調査部作成
2016 年度の原油価格は、石油需給の改善に伴い、緩やかに上昇すると予想する。以下では、
価格見通しの前提となる、石油需給の動向について言及する。
緩やかな原油価格
上昇を予測
【図表 3】 原油価格見通し
(単位)
2014年度
上期
下期
通期
(実績)
(実績)
(実績)
100.1
61.2
80.8
2015年度
2016年度
上期
下期
通期
上期
下期
通期
(実績)
(実績)
(実績) (見通し) (見通し) (見通し)
52.2
38.0
45.2
45.5
50.4
47.9
WTI
$/bbl
Brent
$/bbl
106.6
66.3
86.6
57.3
40.0
48.7
46.9
51.0
49.0
Dubai
$/bbl
103.7
63.2
83.6
55.4
35.9
45.7
43.7
48.4
46.1
(出所)EIA 資料等よりみずほ銀行産業調査部作成
© 2016 株式会社みずほ銀行
1/4
世界の石油需給は、2014 年第 1 四半期(1-3 月)以降、供給が需要を上回り、供給過剰が
継続している。国際エネルギー機関(IEA)による 2016 年 5 月公表の予測では、2016 年
上期(1-6 月)中は、需給緩和が継続する見通しである。翻って、2016 年下期(7-12 月)
以降は、供給過剰の縮小が見込まれる(【図表 4】)。
2016 年下期以降、
供給過剰の縮小が
見込まれる
【図表 4】 世界の石油需給の推移
供給-需要(右軸)
供給
需要
(百万b/d)
98
96
予測
(百万b/d)
+5
↑ 供給超過
(需給は緩和)
+4
94
+3
92
+2
90
+1
88
0
86
▲1
84
▲2
82
▲3
↓ 需要超過
(需給はタイト)
(四半期)
(出所)IEA, Oil Market Report, May 2016 よりみずほ銀行産業調査部作成
世界の石油需要は
堅調に増加
2015 年の世界の石油消費量は、油価下落に伴う需要喚起もあり、前年対比+1.9 百万 b/d
(同+2.0%)と、2010 年以来の高い伸びとなった。また、IEA は、2016 年 3 月から 5 月の
3 ヶ月連続で 2016 年の世界の石油需要見通しを上方修正している。直近公表の見通しに
よれば、2016 年には、中国、インド等、非 OECD アジアの石油消費拡大が寄与し、前年対比
+1.2 百万 b/d(同+1.3%)の需要増加が予想されている(【図表 5】)。
2016 年の非 OPEC
の石油生産量は
減少見通し
一方、世界の石油供給は、2014 年は米国、2015 年は OPEC の増産により、石油需要の
増加を上回るペースで拡大した。但し、2016 年の米国の石油生産は、IEA によれば、前年
対比▲0.5 百万 b/d の減少に転じる見込みである。また、非 OPEC 全体では 2016 年は
▲0.8 百万 b/d(▲1.4%)の減産予測となっており、前述の需要増加も鑑みれば、供給過剰は
徐々に緩和されるものと予想される(【図表 6】)。
【図表 6】 世界の石油供給
(IEA 短期見通し・前年比増減)
【図表 5】 世界の石油需要見通し
(IEA 短期見通し)
(百万b/d) 見通し公表時期
96
94
92
16/1
16/2
16/3
16/4
16/5
実績
(前年比増減・百万b/d)
+1.9 百万 b/d
(+2.0%)
+ 3.0
OPEC
その他非OPEC
米国
需要増減
+ 2.5
+ 2.0
+ 1.5
+ 1.0
90
+ 0.5
±0
88
▲0.5
86
▲1.0
▲1.5
84
(暦年)
(暦年)
(出所)IEA, Oil Market Report 各月号よりみずほ銀行
産業調査部作成
(出所)IEA, Oil Market Report, May 2016 よりみずほ銀行
産業調査部作成
(注)インドネシアは期間を通じて OPEC に分類
© 2016 株式会社みずほ銀行
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上述の通り、世界の石油供給過剰は徐々に縮小する見込みであり、原油価格は需給改善を
受けて上昇するものと予想される。但し、今後の石油需給動向に関して留意すべき事項を
以下に 3 点挙げたい。
第一の留意点として、高止まりする石油在庫が挙げられる。WTI の受渡地点である米国
オクラホマ州・クッシングの原油在庫は、2014 年夏場以降急激に増加しており、足許でも
60 百万 bbl を超す高水準が継続している(【図表 7】)。また、OECD 加盟国の原油・石油製品の
在庫日数は、2014 年 12 月以降、近年のレンジを大幅に上回って推移している(【図表 8】)。
近時の石油在庫の積み上がりは、原油価格の上値が重い一因となっており、原油・石油
製品を含めた石油在庫が、今後、需給改善を受けて減少に向かうかどうか、注目される。
石油在庫は高水準
で推移
【図表 8】 OECD 加盟国における
原油・石油製品在庫日数の推移
【図表 7】 米国オクラホマ州・クッシングにおける
原油在庫の推移
2014
2015
2016
(在庫日数)
(百万bbl)
70
68
66
64
62
60
58
56
54
52
50
48
60
50
40
30
20
10
0
2007年~2013年レンジ
(週次)
(月次)
(出所)IEA, Oil Market Report 各月号よりみずほ銀行
産業調査部作成
(出所)EIA 資料よりみずほ銀行産業調査部作成
米国の石油生産は
原油価格による
影響が大
第二に着目すべき点は、原油価格水準によって変化し得る米国の石油生産である。米国の
石油生産活動は、価格に対する感応度が高く、原油価格変動による生産量への影響が
顕著である。例えば、米国・エネルギー情報局(EIA)の 2015 年 5 月、及び 2016 年 5 月公表の
見通しを比較すると、前提油価の引下げに伴い、米国の原油生産見通しが下方修正されて
いる(【図表 9】)。また、2016 年 4 月末の米国の石油稼働リグ数は、原油価格下落の影響に
より、2014 年末対比▲1,167 基(同▲78%)減少している。加えて、2015 年 4 月~7 月に
原油価格が$50/bbl を上回った後、2015 年 7 月~8 月には石油リグの稼働数が前月対比
増加に転じている点にも注目したい(【図表 10】)。今後、油価上昇が継続した場合に、
米国の石油生産量がどの程度増加するか、留意が必要である。
【図表 9】 米国の原油生産見通し及び前提油価
(EIA 短期見通し・公表時期別)
原油生産(15/5公表)
原油生産(16/5公表)
WTI(15/5公表・右軸)
WTI(16/5公表・右軸)
(百万b/d)
12
11
【図表 10】 米国の石油稼働リグ数増減と
原油価格
($/bbl)
(基)
120
100
80
60
40
20
0
+200
10
+100
石油稼働リグ数(前月末比増減)
WTI(右軸)
2015年1月~2016年4月
▲1,167基
(2014年末比▲78%)
($/bbl)
125
100
+0
75
▲100
50
8
▲200
25
7
▲300
0
2014
2015
2016
2017
14
15
16
17
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
9
年平均
(暦年)
(出所)EIA, Short-Term Energy Outlook 各月号よりみずほ銀行
産業調査部作成
(月次)
(出所)Baker Hughes、EIA 資料よりみずほ銀行産業調査部作成
© 2016 株式会社みずほ銀行
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OPEC 加盟国等の
産油国 動向には
留意の要
第三のポイントは、OPEC 加盟国を中心とする産油国の動向である。OPEC の原油生産量は
堅調に推移しており、一定の増産余力も確保されている(【図表 11】)。特に、イランの原油
生産量は、2016 年 1 月に国連安保理決議に基づく経済制裁が解除されたことを受けて増加
して推移している(【図表 12】)。イランのアリ・タイエブニア経済財務相は、経済制裁解除後、
原油生産量を+1 百万 b/d 増加させる方針について言及しており、今後の更なる増産可能性
について、予断を許さない状況が継続している。
一 部で は 産 油国
の協調を模索する
動きも看取
主要産油国の石油生産方針は、国によって区々であり、合意形成は容易ではないが、
一部では需給是正に向けた協調を模索する動きも看取される(【図表 13】)。2016 年 2 月には
サウジアラビア、ロシア、カタール、ベネズエラの 4 ヶ国が他国の同調を条件に増産凍結に
暫定的に合意し、2016 年 4 月には、サウジアラビア、ロシア等主要 18 産油国による会合が
開催された。4 月の会合では合意に至らなかったが、次回 OPEC 総会まで協議を継続するとの
一部産油国の発言もあり、各産油国の生産方針に注視が必要である。
【図表 11】 OPEC の原油生産量と増産余力
Dubai原油価格(右軸)
(百万b/d)
【図表 12】 イラン・イラクの原油生産量推移
($/bbl)
45
150
40
120
35
(百万b/d)
4
3
90
OPEC増産余力
30
2
60
25
OPEC原油生産量
20
30
1
0
0
イラン
イラク
(月次)
(出所)IEA, Oil Market Report 各月号よりみずほ銀行
産業調査部作成
(注)インドネシアを除く
(月次)
(出所)IEA, Oil Market Report 各月号よりみずほ銀行
産業調査部作成
【図表 13】 主要産油国の動向
国名等
OPEC
サウジアラビア、ロシア、
カタール、ベネズエラ
サウジアラビア、ロシア等
主要18産油国
OPEC
時期
内容
定例総会にて、安定した市場を確実なものにするため、今後数ヶ月の間、
2015年12月
市場の動きを観察することで合意
他の主要産油国の同調を条件に、原油生産量を2016年1月の水準で固定すること
2016年2月
で暫定的に合意
2016年4月 カタール・ドーハで会合を開催し、原油増産凍結等について議論
2016年6月 次回定例総会
(出所)石油連盟資料、各種報道よりみずほ銀行産業調査部作成
需給是正を踏まえ、
緩やかな油価上昇
を予想
原油価格急落から間もなく 2 年を迎える中、世界の石油市場には、不確実性が残存しており、
高止まりする石油在庫や米国の石油生産見通し、産油国動向には留意が必要である。
然しながら、低油価の継続に伴う、世界の石油需要の堅調な増加や、生産コストを踏まえた
非 OPEC の供給鈍化を勘案すれば、油価下落の主因である過剰供給は縮小に向かうと
考えられる。2016 年度の原油価格は、斯かる石油需給の改善見通しに、足許の在庫水準を
加味し、下期にかけて緩やかな上昇を予測する。
みずほ銀行 産業調査部
資源・エネルギーチーム 藤江 瑞彦
TEL: 03-6838-1216
E-mail: [email protected]
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