下げ止まりつつあるが回復力に欠く(4月主要指標)

May17, 2016
No.2016-021
伊藤忠経済研究所
Economic Monitor
主席研究員 武田
淳
03-3497-3676 [email protected]
中国経済:下げ止まりつつあるが回復力に欠く(4 月主要指標)
4 月の経済指標は中国経済の底入れを示唆するものが散見された。なかでも、生産者物価のマイ
ナス幅が順調に縮小していることは、在庫調整の進展により製品需給が改善している可能性を期
待させるものである。しかしながら、需要動向は、個人消費の伸びが鈍化、インフラ投資の一部
で拡大が一巡しつつあり、人民元安が進んだにもかかわらず輸出に勢いがないなど、芳しくない。
中国経済は下げ止まりつつあるが、このまま持ち直すという確信を得るには至っていない。
景気底入れを示唆する 4 月指標
4 月の主要経済指標は、中国経済の底入れを期待させる指標が散見された。月初に発表された製造業 PMI
指数は、3 月の 50.2 から 4 月は 50.1 へ低下したとはいえ、好不調の境目である 50 を 2 ヵ月連続で上回
った。さらに、1~3 月平均の 49.5 と比べると明確に改善しており、景気の底離れを示唆した。新規受注
指数(3 月 51.4→4 月 51.0)
、生産指数(52.3→52.2)とも比較的良好な水準を維持し、需要が持ち直す
なかで生産活動がやや水準を高めている様子が窺える。実際に、4 月の工業生産は前年同月比+6.0%とな
り、3 月の+6.8%からは伸びが鈍化したものの、1~3 月期の前年同期比+5.8%からは増勢を強めた。
製造業PMI指数の推移(50=中立)
生産者物価の推移(前年同期比、%)
62
生産
新規受注
全体
60
58
30
20
鉄鉱石
繊維製品
化学繊維
鉄鋼
10
56
54
0
52
▲ 10
50
48
▲ 20
46
▲ 30
44
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
( 出所) 中国国家統計局
2011
2012
2013
2014
2015
2016
( 出所) 中国国家統計局
生産者物価からも景気底入れの動きが見て取れる。4 月の生産者物価は、3 月の前年同月比▲4.3%から▲
3.4%へマイナス幅が縮小し、製品需給が改善している可能性を示した。内訳を見ると、原油ガス(3 月▲
33.8%→4 月▲26.7%)のマイナス幅が一段と縮小しており原油価格が下げ止まった影響もあるが、鉄鋼
(3 月▲10.9%→4 月▲2.4%)や鉄鉱石(▲13.1%→▲7.5%)で特に顕著であり、政府のインフラ投資拡
大や住宅市場の回復を背景に鉄鋼などの建設関連材を中心に需給が改善している可能性が指摘できる。
なお、非製造業 PMI 指数も 3 月の 53.8 から 4 月は 53.5 へ小幅低下したが、1 月(53.5)と同水準、2 月
(52.7)を大きく上回っており、製造業に比べて高い水準を維持しつつ持ち直している。非製造業分野の
景気は引き続き底堅く推移していると評価できよう。
個人消費は自動車の減税効果一服
ただ、4 月の需要動向は総じて失速気味であった。個人消費関連指標については、小売販売が名目で 1~3
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研
究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告
なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。
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月期の前年同月比+10.3%から 4 月単月で前年同月比+10.1%へ伸びが鈍化し、物価上昇を除いた実質で
は 1~3 月期の+9.6%から 4 月は+9.3%へ減速した。品目別の実績に見ると、教養娯楽財(3 月+16.8%
→4 月+19.7%)や建築内装用品(+15.6%→+17.3%)
、家具(+15.9%→+17.1%)、日用品(+12.2%
→+12.7%)、飲食料品(+11.7%→+12.1%)が堅調拡大をより強めたほか、文化・事務用品(+3.8%
→+13.0%)が大きく伸びを高め、家電製品(+6.1%→+9.1%)や衣料品(+4.4%→+7.3%)も増勢
を強めた。一方で、通信用機器(+16.5%→+12.5%)や自動車(+12.3%→+5.1%)
、医薬品(+19.8
→+9.9%)、化粧品(+9.2%→+7.6%)が減速、石油製品(+0.3%→▲3.8%)は価格下落の影響もあ
りマイナスに転じた。
社会商品小売総額の推移(前年同月比、%)
自動車販売台数の推移(季節調整値、年率、万台)
2,800
14
自動車販売台数
※2012年以降、1、2月はともに1~2月計の前年同期比
2,600
13
12
名目
2,400
実質
2,200
うち乗用車
2,000
11
1,800
1,600
10
1,400
9
※当社試算の季節調整値で最新期は4月単月
1,200
2013
2014
2015
2016
2010
( 出所) 中国国家統計局
2011
2012
2013
2014
2015
2016
( 出所) 中国自動車技術研究センター
乗用車販売は、台数ベースでも 4 月は前年同月比+6.6%と 3 月の+9.9%から減速、1~3 月期の前年同
期比+6.7%と比べても概ね横ばいにとどまった。当研究所試算の季節調整値でも、1~3 月期の年率 2,153
万台から 4 月は 2,159 万台と微増であり、昨年 10 月の減税による押し上げ効果が一巡した模様である。
固定資産投資も増勢がやや鈍化
内需のもう 1 本の柱である固定資産投資(設備投資、公共投資、住宅投資の合計)も、1~3 月期の前年同
期比+10.7%から 4 月は前年同月比+10.1%へ減速した。製造業(1~3 月期+6.4%→4 月+5.3%)の減
速が続いたほか、インフラ関連の水利・環境(+30.5%
→+23.4%)の伸びが鈍化した。一方で、インフラ関
固定資産投資の推移(前年同月比、%)
30
連では、運輸・倉庫(+7.9%→+11.9%)や電気・ガ
25
ス・水道(+19.4%→+31.7%)が伸びを高めており、
20
インフラ全般で見れば堅調さを維持しているものの、
15
その他
水利・環境
運輸倉庫業
不動産業
製造業
固定資産投資
※最新期は4月単月
10
一部に息切れの兆しが出ていることは気懸りな材料で
5
ある。そのほか、1~3 月期に 2 四半期ぶりのプラスに
0
転じ復調傾向にある不動産業(+8.2%→+8.8%)は
▲5
1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2
2011
底堅い動きを持続している。
2012
2013
2014
2015
2016
( 出所) 中国国家統計局
輸出は元安効果見られず先進国向けを中心に減少傾向
輸出も、3 月の前年同月比+11.2%から 4 月は▲2.0%とマイナスに転じた。1~3 月期の前年同期比▲9.7%
と比べると 4 月のマイナス幅は縮小したが、当研究所試算の季節調整値で見ても 4 月の水準は前月比▲
2.9%、1~3 月期と比べても 1.3%下回っており、軟調と言える。
2
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伊藤忠経済研究所
仕向地別に見ると、最大シェアの米国向け(2015 年シェア 18.0%)が当研究所試算の季節調整値で 2016
年 1~3 月期に 4 四半期連続のマイナスとなる前期比▲0.3%となったあと、4 月の水準は 1~3 月期をさ
らに 3.9%下回った。EU 向け(シェア 15.6%)も 1~3 月期に前期比▲4.9%と大きく落ち込んだあと、4
月の水準はさらに 0.9%下回った。日本向け(シェア 6.0%)も 1~3 月期の前期比▲2.7%に続き 4 月はさ
らに 4.9%水準を下げるなど、主要先進国向けは総じて減少傾向が続いている。一方で、ASEAN 向け(シ
ェア 12.2%)は、4 月の水準が 1~3 月期を 1.4%上回っており、1~3 月期に前期比▲6.1%と大きく減少
したリバウンドという面はあるにせよ、比較的底堅い推移を見せている。
仕向地別の通関輸出の推移(季節調整値、百万ドル)
人民元相場の推移(元/米ドル)
1,100
人民元
安
6.60
日本
米国
EU
アセアン
1,000
900
6.55
6.50
6.45
800
6.40
6.35
700
6.30
600
6.25
500
6.20
※最新期は4月単月
6.15
400
6.10
300
6.05
※当研究所試算の季節調整値
200
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
6.00
2012
2016
( 出所) 中国海関総署
2013
2014
2015
2016
人民元
高
( 出所) C EIC DAT A
人民元相場は、昨年 8 月までの 1 ドル=6.2 元程度から、今年 1 月には一時 6.6 元近くまで元安が進み、
最近でも 6.5 元前後で推移している。すなわち、この間、人民元はドルに対して 5%程度下落したことに
なるが、今のところ元安による輸出押し上げ効果は確認できない。
財別の輸出動向は 3 月まで確認できるが、1~3 月期に落ち込みが目立つ主力品目は、鉄鋼(2015 年シェ
ア 2.8%、10~12 月期前年同期比▲28.2%→1~3 月期▲27.7%)、事務用機器(シェア 8.3%、▲19.3%
→▲15.0%)
、通信・音響機器(シェア 13.0%、+0.4%→▲9.8%)
、衣類・装飾品(シェア 7.7%、▲5.6%
→▲7.3%)などであるが、改善した点を挙げれば事務用機器でマイナス幅が若干縮小した程度である。
鉄鋼においては輸出ドライブの反動とみられる落ち込みが続いており、輸出に好転の動きは見出せない。
景気の持ち直しを確信はできず
以上の通り、中国経済は足元で底入れの動きを見せており、その背景には生産抑制を続けてきた成果とし
て在庫調整が進んだことが指摘できる。しかしながら、在庫調整進展の背景にある需要の復調は政府のイ
ンフラ投資拡大や大都市圏を中心とする住宅市場の回復によるところが大きく、そのうちインフラ投資の
一部で増勢加速が一巡したことを示す指標も出始めた。さらに、製造業の固定資産投資が減速を続けてい
ることが示す通り、今後も過剰供給力を削減する動きは長期に渡って続けられる。加えて、停滞気味の海
外経済は人民元安が進んでも輸出を押し上げる力に欠く。中国経済は下げ止まりつつあり、政策的にもテ
コ入れの余地はあるとみられるが、このまま持ち直し傾向が続くという確信を得るには至っていない。
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