資料3 小林雅之委員提出資料

資料3
高等教育政策の課題
私立大学を中心に
小林雅之
東京大学
大学総合教育研究センター
1
2
検討課題
高等教育政策の均等化政策と市場化政策
私学の状況と大学の地域配置政策
大学の機能別分化、競争的資金配分と私学助成の問題
財務基盤の強化
機関補助と個人補助
高授業料・高奨学金政策
所得連動型奨学金返還制度
授業料減免と給付型奨学金の問題
寄付制度の改革
2
3
高等教育機会の均等化政策と格差
教育機会の均等
教育の最重要な理念
憲法第26条、教育基本法第4条
社会経済的機会の平等の必要条件
人材の有効な活用
高等教育政策でも最重要な理念
しかし、現実の政策では具体的な政策に乏しい
地域間格差の是正
育英奨学政策
現実には様々な高等教育機会の格差
地域間格差
男女別格差
所得階層間格差
3
4
大学の地域配置政策
戦後、否、戦前からの大学政策の最大の課題
大都市圏への大学の集中
大学進学率の地域間格差
1975年 高等教育の地方分散化政策と大都市圏の大学・学部
の新増設の抑制政策(第1次〜第5次高等教育計画)
2002年 同政策の終焉(工場等規制法の廃止)
以降、配置政策はなく、市場化政策(競争的資金による誘導
政策)に移行
4
5
都道府県別大学進学率の推移
地域間格差の拡大
地域間格差の縮小
第1〜3次高等教育
計画
第4〜5次高
等教育計画
データ:文部科学省「学校基本調査」 過年度大学入学者を含む進学率
5
6
地元大学残留率
地元高校出身者入学率
(A)他ブロック
の大学への進学者
(流出)
( B ) 地 元 大 学 へ (C)他ブロックから
の進学者(残留)
の大学入学者 (流入)
地元残留率=B/(A+B)
地元大学の地元高校出身者入学率=B/(B+C)
6
7
国公私立大学の学生の地域移動
7
(出典)文部科学省「学校基本調査」2015年度
8
ブロック別私立大学地元残留率の推移
8
(出典)文部科学省「学校基本調査」
9
ブロック別私立大学地元出身者率の推移
9
(出典)文部科学省「学校基本調査」
10
地域ごとに大きく異なる残留率(流出率)
これらの県では,県外に流出せざるを得ない構造になっている
国公私立
大学計
国立大学
10
11
大学は地域の高等教育機会を提供、その役割は
設置者と専門分野と地域によって大きく異なる
大学名
高知
高知県立
設置者
国立 理
公立
高知工科
鳥取
鳥取環境
鳥取看護
島根
島根県立
公立
国立
公立
私立
国立
公立
工
工
学部
農
医 教育
看護 社会福祉
人文
文化
経済・マネジメント
農
環境
医
地域
経営
看護 健康栄養
総合理工 生物資源科学 医 教育
看護 総合政策
地方では私学がない県や1校のみの県もある。学部も少ない。
11
法文
12
大都市私学の拡大と私学助成
大都市私学の拡大
地方の学生は流出せざるを得ないが、他方で地
方からの学生の流入の減少
逆説的な状況が生じている
地方と大都市圏の規模の差による
大都市大学の地方学生獲得促進策(早稲田大学
「めざせ!都の西北奨学金」など
地方中小私学の定員割れ
12
13
私立大学の振興策
計画的な地方配置政策は困難
大学・学部の新増設
国立大学は教職大学院などを除き、学部段階の新増設は困難、既存の
学部の転換による学部の創設
公設民営、公私協力方式による私立大学の創設
私立大学の公立大学への転換
機関補助の拡充も困難
私学助成による大都市私学への学生の集中の抑制「まち・ひと・しごと創
生総合戦略」(2014年12月)
大都市圏の大学等の入学定員超過の適正化
個人補助(奨学金)
総務省・文部科学省「『奨学金』を活用した大学生等の定着促進」(2015
年4月)
総務省・文部科学省「地方公共団体と地方大学の連携による雇用創出若者
定着の促進」(同)
13
14
大学の機能別分化政策
競争的資金による誘導政策
国立大学第3期運営費交付金
に一つを選択
3つの枠組み、大学が自主的
地域貢献、特定分野、世界に伍する
私立大学等改革総合支援事業
地域発展、産業界・他大学等との連携、グローバル化、教育の
質的転換
各タイプ間の重複採択あり
※地域発展と産業界・他大学等との連携の重複採択などは、あ
り得るか?
いずれも大学単位で学部単位ではない
14
15
高等教育システムの再検討
戦前
複線型の高等教育システム 様々な高等教育機関が並立
1950年 戦後改革 複線型を否定し、大学のみの単線型をめざしたが、大学に昇格できない高等
教育機関を暫定的に短期大学とした。私立がほとんど。
1962年
高等専門学校の創設
1964年
短期大学制度恒久化
1976年
専修学校制度の発足
2005年
中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像について」 機能別分化の提唱
2013年
中央教育審議会大学分科会短期大学ワーキンググループ
2014年 教育再生実行会議第5次答申、第6次答申 新しい職業教育の高等教育機関の提唱
2015年 文部科学省「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の 制度化に関する有識者会
議 」報告
2016年 中央教育審議会「社会・経済の変化に伴う人材需要に即応した質の高い職業人の育成に
ついて(新たな高等教育機関の制度化) 」(審議経過)報告
※地域配置とならんで高等教育システム全体の整合性を検討する必要がある。
15
16
財務基盤の強化政策
機関補助の拡充は困難
外部資金・寄付の獲得
個人補助(奨学金)は拡充傾向
大学間競争による市場化政策(学生の選択による)
高授業料・高奨学金政策
格差の拡大(大学間・学部間)
16
17
各国の授業料/給付奨学金(grants)政策
スウェーデン
高給付奨学金
イギリス大学(1980年代)
アメリカ私立大学
中国国立大学(1980年代)
低授業料
高授業料
ヨーロッパ国立大学
日本私立大学
日本国立大学(1970年代)
韓国私立大学
中国私立大学
アメリカ公立旗艦大学
アメリカ公立大学
低給付奨学金
17
18
授業料/給付奨学金政策の推移
高給付奨学金
教育費の公的負担
費用負担の分化
学生獲得
エリート養成
収入増
低授業料
高授業料
人材養成+教育機会
教育費の公私分担
教育需要への対応
低給付奨学金教育費の私的負担
18
19
高授業料/高奨学金政策
定価授業料を高額に設定し大学独自の奨学金でディスカウント
純授業料(ディスカウントされた授業料)は学生によって異なる
差別的価格設定
学生間でクロス配分
ロビンフッド的配分のため公正で効率的とされる
もともと大学独自の奨学金はスカラーシップ
→クロス配分がみえにくい
19
20
高授業料/高奨学金政策の目的
高給付奨学金
大学の望む学生獲得
低授業料
高授業料
収入増加
国公立大学でも実施できる
低給付奨学金
20
21
高授業料/高奨学金政策論争
差別的価格設定は公正か
大学は純授業料をあげ,収入を増やせるか
高授業料は教育機会に影響を与えるか
多くの大学独自奨学金(scholarship)はニードベースではなく,
メリットベースであり,低所得層より中高所得層に配分されて
いる(英米)
21
22
日本の高授業料・高奨学金政策
2014財政制度等審議会による提案
2015国立大学の自主財源の1.6%/年の増加の提案
私立大学の高授業料・高奨学金政策は?
大学独自給付奨学金の増加
22
23
所得連動型ローン
Income Contingent Loan (ICL)
Income Contingent Repayment (ICR)とも呼ばれる
目的 ローンの負担を軽減させ,結果的に回収率を上げる
所得に応じて返済額(割賦額)を決定。低所得ほど負担が少ない
7つの要素
所得に応じた返済額(所得の一定の割合)
一定所得(閾値)以下での返済猶予
一定期間あるいは年齢で帳消しルール(以降の返済を免除)
利子補給
その他の考慮すべき要因(家族人数など)
源泉徴収あるいは類似の方法
YH3
貸与総額
各国の所得連動型ローンはこの7つの要素を組み合わせている
上記の要素を変えることにより返済額(月額)は変化し、返済期間も変わる。
所得の把握と源泉徴収のため、国税当局の協力が不可欠。
23
ローンの拡大だけでは学生支援としては不十
分
ローン負担問題やローン回避問題の発生(英米豪中日とも)
ローン負担が様々な社会問題・卒業生の行動に影響する可能性
低所得層ほどローン負担感は強い
ローンの未返済に対するペナルティの強化の傾向
ローン回避傾向が低所得層で多くなる
情報ギャップのため、ローンに対して認識がない(各国とも)
低所得層は、放棄所得まで含めて約1,000万円の費用負担を軽減しない
と進学困難
家計急変などに対応が困難
24
24
奨学金を申請しなかった理由
文部科学省科学研究費基盤(B)「教育費負担と学生に対する経済的支援のあり方
25
に関する実証研究」(小林雅之研究代表)、サンプル数は、1,064である。
25
26
授業料減免制度は設置者別に大きく異なる
出典:教育再生実行会議第3分科会資料
26
給付型奨学金のメリットとデメリット
進学や修学支援効果が貸与型に比べて大きい
渡しきりのため、回収問題が発生しない
授業料減免など使途を指定した方法も可能
財源が課題、あるいは小額または少数者にしか支給できない
効果が大きい分、受給基準が大きな問題、受給資格者にすべて支給できない恐
れ(優先順位が必要となる場合がある)
渡しきりのため、公平性の観点から、支給の理由を明確にする必要がある
誰が誰に支給するのか、つまり支給主体と受給主体を明確にする必要
奨学金の効果について、卒業後の状況などを把握する必要があるが、あまり実
施されていない
27
27
28
新しい給付型奨学金制度
既存の授業料減免制度の改革より,新たな給付型奨学金
の創設を検討する方が望ましい
給付奨学金は、渡しきりになるため、納税者の理解を得
ることが何より重要
誰が誰に支給するのか、つまり支給主体と受給主体を明
確にする必要
そのためには、何のための奨学金か、その理念を明らか
にすることが求められる
28
29
教育への公的負担の根拠
教育の機会均等を実現
進学することによって,個人が所得増となれば、所得の再分配効果、格
差の是正
個人のためだけではない。教育は、教育を受けた個人だけでなく、社会
全体に効果をもたらす
国立教育政策研究所の試算でも、大学生1人当たり約254万円の公的負
担、便益は税収増加など合わせて約608万円
教育の社会経済的効果を示すことが納税者の理解を得るために重要
教育の社会経済的効果により、医療費・介護費などの支出を削減、その
削減分を教育費に振り向けることが可能=推計されていない
このためには外部効果の計測が不可欠
29
30
高等教育への寄付・基金の拡充により、教育機関
の教育財源を拡充
エール大学の基金の推移
Data: 2012 Yale Endowment
・1970年代より急増、様々
な政府の支援(税制改革、
資産運用などの法整備)に
よる
・世代間の公平という考え
方(インフレによる目減り
を減らすために基金を運用
する)
・増加も減少もあるので、
1年で成果を判断するので
はなく、長期的に判断する。
特に2008年のリーマン
ショックの時の急減とその
後の回復に注目
30
(出典)東京大学ー野村證券共同プ
ロジェクト『ディスカッションペー
パー』No.1-17, 東京大学大学総合教
育研究センター。
31
寄付/基金の活用のために
大学への寄付税制の改善
平成23年度より税額控除制度新設
寄付の促進の障壁となっている学校法人に対する寄附に係るPST要件(寄
附実績に関する要件(平成27年度)
過去5年間で、3,000 円以上の寄附を行った寄附者の数が年平均 100 件以
上(ただし、収容定員が 5,000 人未満の場合は、 定員の合計数
/5,000×100(最低 10 人)以上 かつ寄附金額が年平均 30 万円以上 )
または過去5年間で、寄附金収入額が経常収入金額の20%以上
税額控除の対象である旨の証明書が発行された学校法人数 (大学等 平成26年
5月1日現在)
文部科学大臣所轄学校法人317法人(47.5%) (大学306・短大11) (全666法人)
さらなる要件の緩和が必要
私立学校振興・共済事業団「受配者指定寄付金制度」利用の拡大(税額控除可
能)
資産運用の緩和は、リスクも大きいので、長期的な視野から投資委員会や資産運
用委員会などの条件整備が必要
31
32
高等教育政策の課題 私学政策を中心に
特に重要な政策課題は次の通り(相互に関連している点に注意)
格差の是正
地域間格差の是正
所得階層間格差の是正
私学助成のあり方
学生への経済的支援のあり方
財務基盤の強化、教育費の配分構造を再検討、とりわけ公費負担のあり方の再検討
機関補助と個人補助、基盤経費と競争的経費のバランスの再検討
個人補助としての所得連動型奨学金や給付型奨学金の拡充整備
経営のためのインスティテューショナル・リサーチ(IR)の強化
市場化政策の是非と高等教育システム全体の包括的検討が必要
従来の政策、とりわけ市場化政策の検証が不可欠
32
33
エビデンスに基づいた私学政策の必要性
私学政策を検討するためには、現状を客観的に把握すること
が不可欠
文部科学省「学校基本調査」
私立学校振興・共済事業団「基礎調査」
日本学生支援機構・国立教育政策研究所「学生生活調査」
国際的に見ても詳細かつ長期にわたる調査
大学ポートレートにはごく一部しか掲載されていない。
今後活用を検討することになっている
調査統計の分析に基づく政策が不可欠
33
34
参考資料
34
所得階層別高卒者の進路の比較 2006年と2012年
私立大学進学率には大きな格差、国公立大学進学率の格差は拡大
私立大学進学率 400万円以下 23.6%
1,000万円以上 49.7%
国公立大学進学率 400万円以下 9.2%
1,050万円以上 12.0%
CRUMP2006年調査
学術創成科研(金子元久研究代表) 東京大学・大
学経営・政策センター、サンプル数は4,000
私立大学進学率 400万円以下 20.4%
1,050万円以上 42.5%
国公立大学進学率 400万円以下 7.4%
1,050万円以上 20.4%
2012年高卒者保護者調査
文部科学省科学研究費基盤(B)「教育費負担と学生に
35
35 対する経済的支援のあり方に関する実証研究」(小林
雅之研究代表)、サンプル数は、1,064
成績別所得階層別大学進学率の比較
中3成績上位者は2006年には所得階層にかかわらず大学進学、しかし、
2012年には格差が生じている。低所得層でも子どもの教育費を負担してい
る「無理する家計」の無理が続かない可能性
CRUMP2006調査
学術創成科研(金子元久研究代表) 東京大学・大
学経営・政策センター、サンプル数は4,000
2012年高卒者保護者調査
文部科学省科学研究費基盤(B)「教育費負担と学生に
36
36 対する経済的支援のあり方に関する実証研究」(小林
雅之研究代表)、サンプル数は、1,064
37
教育費の家計負担
2,238万円
1,529万円
1,283万円
1,125万円
774万円
766万円
(出典)文部科学省調べ。
(注)教育費には、授業料などの学校教育費や学校給食費、学校外活動費が含ま
37
れる。
日本の教育費の家計負担は高等教育で最も重い38
38
文部科学省『文部科学白書H25年
度
アメリカ大学定価授業料の推移
Data: CollegeBoard, Trends in College Pricing 2013.
39
。CollegeBoard, Trends in Student Aid
39
2011.
アメリカ 学生への経済的支援の推移
Data: CollegeBoard, Trends in College Pricing 2013.
40
。CollegeBoard, Trends in Student Aid
40
2011.
41
アメリカ 授業料と給付奨学金の平均額
Data: CollegeBoard, 2012, Trends in Student Aid.
41
42
アメリカ グラントとローンの比率
Data: CollegeBoard, 2012, Trends in Student Aid.
42
43
アメリカ 連邦政府ペル給付奨学金の拡大
Data: CollegeBoard, 2012, Trends
in Student Aid.
43
44
アメリカの高等教育費の負担
学生個人が支払う割合は高い
定価授業料は平均私立2万ドル、州立7,000ドル、ただし、給
付奨学金も多い(政府、大学独自)
給付奨学金からローンへ移行
ローンは学生が返済、授業料の高騰によるローンの増加と
ローン負担が大きな問題
ただし、学生の約4割は成人学生(独立学生)
アルバイトは適当な時間数が卒業に効果的
44
イギリス:授業料の大幅値上げと
給付奨学金の拡充
授業料の導入 1998年
デアリングレポートの勧告に基づく(ブレア政権)、最高1,000ポンド(所
得により異なる)、給付奨学金の廃止
2004年 給付奨学金の復活
イギリスの2006年度からの改革
2006年度より各大学が授業料を設定(最高3,000ポンド)
9割の大学が3,000ポンドと設定
2,700ポンド以上の授業料を設定した場合,大学独自奨学金(0~5,000ポン
ド)を提供する義務
受給基準,受給額は各大学が設定
政府給付奨学金(Maintenance Grant)の拡大(最高額2.906ポンド)
スチューデント・ローン・カンパニーの教育ローンの大幅拡大
2010年のブラウン・レポート
授業料の7,000ポンドまでの値上げを提唱
給付奨学金はあわせて充実させる必要
2011年教育白書(Students at the Heart of the System)
学生の選択権を拡大することを提唱
授業料大幅値上げを提唱、上限なし(ほとんどの大学が9,000ポンド)
給付奨学金(National Scholarship Programme)の創設、ただし学士課程につい
ては2015年度に廃止
45
45
イギリス 大学生の収入の変化
100%
90%
80%
70%
その他
60%
アルバイト
50%
学生ローン
給付奨学金
40%
親
30%
20%
10%
0%
1988
1992
1995
1998
2002
2007
2012
Data: Student Income and Expenditure Survey.
(注)2007年以降は「給付奨学金」と「学生ローン」は分けて尋ねていない
ので、「学生ローン」とした。
46
46
46
各国の所得変動型ローン
オーストラリア
イギリス
アメリカ
名称
HECS
授業料ローンと生
活費ローン
所得基礎型返済プ
ラン(IBR, Pay As
You Earn)
返済額
課税所得に0から
8%の返済率をか
けた額(前払い
10%割引)
所得から下記の金
額を引いた額の
9%
所得から下記の金
額を引いた額に、
所得と家族人数に
応じて0から10%
返済猶予最高額
53,345豪ドル
(約500万円)
課税所得
21,000ポンド
(約400万円)
税引き前年収
家族人数に応じて
10,000〜50,000ド
ル
徴収方法
源泉徴収
源泉徴収
小切手等
利子率(政府補助)
物価上昇率(実質
利子率ゼロ)
物価上昇率+0〜
3%(所得による)
有利子(政府補助
なし)
返済免除
本人死亡
30年間または65歳
20年間または公的
サービス10年
注:アメリカの連邦政府ローンにはこの他, Income ContingentとIncome
Sensitive Repayment Loanがある
47
47
各国の所得連動型返済
豪HECS、イギリス,アメリカなどで採用されている
卒業後,所得に応じて支払う
返済額 英 所得の0~3.6%((所得-2.1万ポンド)*9%)
豪HECS 所得の0~8%
一定額以下の所得場合,返済を猶予(英は約360万円、豪は約470万円、米は家族人数
に応じて1から5万ドル)
一定期間や一定年齢で返済を免除する場合も(英、米)
豪と英では個人の所得のみが返済の基準(配偶者の所得などは考慮されない)。米で
は家族人数が考慮される。
所得から源泉徴収される場合が多い(豪・英)
英は2011年まではインフレスライド分のみで実質的には無利子
英は2012年度より一部所得に応じて有利子化(0から3%)
アメリカでは所得連動型は人気がない(全体の1割以下)
高利子負担のため(6.8%から7.9%、特例として3.4%(2011)から4.66%(2014)の措置)
周知不足
デフォルトの返済プランは標準型(10年返済)のため、学生はこれを選択しやすい
48
48
49
オーストラリア HECS-HELP 2014
費用だけではなく将来の所得に基づく返済額
学生貢献分(万
円)
バンド
専攻分野
バンド1
人文科学,教養・学芸(Arts),
行動科学,心理学、社会学,外
国語,映像・芸術学,教育学,
看護学
0 – 55.3
バンド2
コンピュータ,人間環境学
(built environment),保健科学,
工学,測量学,農学、数学,統
計学,理学
0 – 78.8
バンド3
法律,歯学,医学,獣医学,会
計学,商学,経営管理,経済学
0 – 92.2
(注)1豪ドル=91.5円として計算
Data: Commonwealth of Australia, 2013 HECS-HELP Commonwealth
supported places information for 2014
49
新たな所得連動返還型奨学金制度の創設について(第一次まとめ)(概要)(案)
背景・現状
新制度の考え方・改善の方向性
奨学金を受給する割合の増加(H14:31.2%→H24:52.5%)
奨学金返還者(無利子)の約4割が年収300万円以下
イギリス、オーストラリア、アメリカ等で所得連動返還型奨学金制度が導入
奨学金の返還の負担及び不安を極力取り除くことが重要
特に低所得者層について、現行よりも負担が軽減がされることが必要
奨学金制度全体の安定的運用のため、返還額の確保が必要
収入の増加を抑えて返還を免れるモラルハザードが生じない制度
マイナンバー制度の導入により所得に応じた返還額の設定が可能となる環境が整備
新たな所得連動返還型奨学金制度の設計
(1)対象とする学校種
高等専門学校、大学、短期大学、専修学校専門課程、大学院
(2)奨学金の種類
無利子奨学金から先行的に導入(有利子奨学金については、無利子
奨学金の運用状況を見つつ、将来的に導入を検討)
(3)奨学金申請時の家計支持者の所得要件
申請時の家計支持者の所得要件は設けず、全員に適用可能とする
(4)貸与開始年度
平成29年度新規貸与者から適用
(5)所得に応じた返還額の設定及び返還を開始する所得額
所得が一定額となるまでは所得額にかかわらず定額(2.000円)を返
還し、一定額を超えた場合には所得に応じた返還額とする
(6)最低返還月額
2,000円
(7)返還猶予の申請可能所得及び年数
申請可能所得は年収300万円以下、申請可能年数は通算10年(災
害・傷病・生活保護受給中等の場合は、その事由が続いている間は無
制限)。また、奨学金申請時に家計支持者の年収が300万円以下の者
については、申請可能年数を期間制限なし。
(8)返還率
9%
(9)返還期間
返還完了まで又は本人が死亡又は障害等により返還不能となるまで
(10)所得の算出方法
課税対象所得=給与等収入-所得控除
(11)返還者が被扶養者になった場合の収入の考え方
返還者が被扶養者になった場合には、扶養者のマイナンバーの提出
を求め、提出がありかつ返還者と扶養者の収入の合計が一定額を超
えない場合のみ、新所得連動返還型による返還を認めることとする
(12)保証制度
原則として機関保証
(13)返還方式について
新所得連動返還型及び定額返還型のいずれの返還方式とするか、
入学時に学生が選択し、卒業まで変更可能とする
今後検討すべき事項
(1)新所得連動型制度について
①貸与総額の上限設定
②貸与年齢の制限
③学生等への周知方法・内容
④海外居住者の所得の把握・返還方法
⑤有利子奨学金への導入に係る検討
⑥デフレ・インフレ等の経済情勢の変化に伴う詳細設計の見直し
⑦既に返還を開始している者等への適用
(2)奨学金制度全般について
①割賦月額及び返還期間の検討
②返還金回収における徴収方法
③返還期間における一定期間経過後の返還免除制度
④授業料減免、給付型奨学金及び予約型返還免除に関する検討
⑤民間奨学金事業実施団体との連携及び返還終了者等による事業
貢献の促進(高所得者から低所得者への所得再分配の仕組み等)
新制度における返還イメージ
新制度
返還のモデルケースとして、無利子奨学金の私立自
宅生の貸与額(貸与総額259.2万円、貸与月額5.4万
円、貸与期間48月)を設定
○新所得連動返還型
無利子奨学金から先行的に導入
有利子奨学金については、無利子奨学金の運用状況を
見つつ、将来的に導入を検討
返還月額
【円】
30,000
25,000
現行制度
本人の年収が300万円
以下の場合、申請により
返還猶予が可能
(通算10年 ※)
20,000
15,000
返還月額
【円】
30,000
23,500円
18,500円
13,500円
10,000
25,000
9%
初任給281万円、毎
年度平均17.9万円
ベースアップの場合
最終返還月額
22,100円
15.5年で返還完了
(返還猶予2年含む)
14,400円
8,900円
5,000
4,700円
最低 2,000
返還月額
20,000
0
15,000
0
14,400円
(15年)
本人の年収が300万円
以下の場合、申請により
返還猶予が可能
(通算10年 ※)
10,000
5,000
0
100
(0)
200
(62)
300
(119)
400
(179)
500
(246)
600 年収
(313)(所得)【万円】
※ 奨学金の申込み時に、家計支持者(保護者等)の
年収が300万円以下の場合は、返還猶予の期間制限なし
【現行の所得連動返還型無利子奨学金制度による措置】
→ 新制度においても引き続き適用
144
200
(62)
300
(119)
400
(179)
500
(246)
600 年収
(313)(所得)【万円】
学生は、貸与開始時に返還方法を
選択し、貸与終了時まで変更可能
○定額返還型
返還月額
【円】
0
100
(0)
30,000
25,000
20,000
15,000
14,400円
本人の年収が300万円
以下の場合、申請により
返還猶予が可能
(通算10年 ※)
10,000
5,000
【上記モデルの場合
の返還期間:17年
(15年+
返還猶予2年)】
0
0
100
(0)
200
(62)
300
(119)
400
(179)
500
(246)
600 年収
(313)(所得)【万円】
52
YH5
イギリスの2012年改革による
所得連動型ローンの変更
所得連動型返済猶予所得最高額を1.5万ポンドから2.1万ポンド
に引き上げ
実質無利子から可処分所得に応じた0から3%の利子率の導
入
帳消し期間を25年から30年に引き上げ
以上の措置により未返済+利子補給による政府負担額のロー
ン総額に対する比率(default rate)は、従来の30%から40%や
48%になると推定されている。
さらに最新のレポートでは、学生の約4分の3が、ローンを全
額返済しないと推計されている
52
53
オーストラリア HECSの未返済問題
授業料相当額の大幅な上昇
閾値の引き上げ(物価スライド)
源泉徴収のため、海外居住者からは徴収で
きない
これらによりデフォルト率は17%と推計さ
れている(Norton, A. 2014)
53
54
教育の公的負担の根拠
教育機会の均等(憲法第26条、教育基本法第4条)
格差是正+人材の浪費(ウェステッジ)の緩和
進学格差(家計所得階層間、地域間、男女間等)
大学中退 20%は経済的要因(文部科学省調査)
人材養成・経済成長 生産性の向上・効率化
世界人権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約A規約第13条)
高等教育の漸進的な無償
教育の社会・経済効果(外部効果)
価格に表されない効果、スピルオーバー効果(近隣効果)
周囲の者の生産性の向上
健康増進・犯罪減少
労働移動・ミスマッチの緩和
少子化の緩和
市場機構に委ねると外部性の分だけ需給は過少になる(誰も費用を負担しないため、外
部効果の分だけ公的負担する必要
準公共財としての教育
非排除性 利用者から料金を徴収できない
非競合性 利用者の増加によって追加費用が発生しない
54
55
大学の社会経済的効果と外部効果
大学が地域経済に及ぼす影響に関しては、アメリカでは古くから計測、大きな
効果があることが示されているが、地域の範囲の定義、効果の測定など、技術
的な問題も残されている(Siegfried, Sanderson and McHenry 2004)。
日本でも国立大学の効果の推定(島 2009)や、富山大学、徳島大学、長崎大
学がそれぞれの地域に対する経済効果は1,000億円を超えるという推定もだされ
ている(日本経済研究所 2011)。
高等教育を受けた者が受けていない者に及ぼす外部効果(スピルオーバー効果あ
るいは近隣効果)があることは、アメリカの実証研究の結果で示されている.
(Lange and Topel 2006のレビュー)
外部効果の例
大卒労働者の供給の1パーセントの増加は、高校中退者の賃金を1.9パーセント、
高卒労働者の賃金を 1.6 パーセント、大卒労働者の賃金を0.4 パーセント増加さ
せる。 (Moretti Enrico, Estimating the social return to higher education: evidence
from longitudinal and repeated cross-sectional data, Journal of Econometrics 121 (2004)
175–212)
55
56
公的教育投資の費用便益分析
三菱総研「教育改革の推進のための総合的調査研究」2010年)
56
教育費の受益者負担論
社会も受益者(外部効果)→「受益者負担」ではなく「私的負担」
高等教育の外部経済は,あまり大きくない。
高等教育の私的便益は社会的便益より大きい。
高等教育の私的収益率>社会的収益率
イギリス デアリング・レポート(1997)で授業料導入のエビデンスとされた
費用と便益にみあう費用負担をすべきである
しかし、教育の費用と便益は,専攻によって大きく異なる
オーストラリアの高等教育貢献拠出金制度(Higher Education Contribution
Scheme)は、この考え方に基づく
批判 私的負担のみであれば社会的貢献は不要となる
57
57
参考文献
小林雅之・山田礼子編『大学のIR
年。
意思決定支援のための情報収集と分析』慶應義塾大学出版会、2016
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小林雅之 2014年「奨学金制度の課題と在り方」 『個人金融』 9, 1, 23−30頁。
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小林雅之
店。
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小林雅之
2013年「教育費『誰が負担』議論を」日本経済新聞
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小林雅之編
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『教育機会均等への挑戦
115-
−授業料・奨学金の8カ国比較』東信堂。
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参考文献
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小林雅之
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平成27-30年度文部科学省科学研究費基盤(B)「教育費負担と学生に対する経済的支援のあり
方に関する実証研究」
平成23-26年度文部科学省科学研究費基盤(B)「教育費負担と学生に対する経済的支援のあり
方に関する実証研究」
平成25年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業「高等教育機関への進学時の家計負担に関
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平成25年度文部科学省委託事業「専修学校における生徒・学生支援等に対する基礎調査
平成20-21年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業「高等教育段階における学生への経済的
支援の在り方に関する調査研究」
((http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/.../2009/07/.../1281308_8.pdf)
59
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参考文献
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Masayuki Kobayashi ed. Perspectives of Student Financial Assistance Policies: Lessons for
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