グローバルマーケティングにおける 広告活動の国際標準化の可能性と問題

グローバルマーケティングにおける
広告活動の国際標準化の可能性と問題
2年
嶋津
目次
1. はじめに
…2 ページ
2. グローバルマーケティングにおける広告活動
…2 ページ
3. 広告を作成する際の要素と、標準化すべき要素
4. 広告を国際標準化することの危険性
5. おわりに
…4 ページ
…4 ページ
1
…3 ページ
1. はじめに
マーケティングにおいて用いられる用語に、「国際標準化」と「現地適応化」というもの
がある。世界標準化と現地適応化のどちらも国境を越えて行われるマーケティングである
グローバルマーケティングの形態だ。簡単に述べれば、前者は世界共通の戦略でマーケテ
ィングを行おうというもので、後者は国や地域ごとに戦略を変えてマーケティングをして
いこうというものである。
世界標準化の詳しい説明をする。このマーケティング方法では本部が集権的に意思決定
を行う。そのメリットとして、技術やノウハウといった経験が蓄積されやすくそれを生か
すことができるため、質が向上しやすい。そして全世界で同じ水準のモノを提供するため、
世界的なブランドを確立することもできるのだ。これにより、他の製品との差別化を行う
ことなどができる。
続いて現地適応化の説明をする。世界標準化に対してこちらはニーズ(需要)や現地業者
(供給)が本国と異なる場合においても、現地の状態に適応した方法や形態を採ることが出来
るのが大きなメリットだ。これにより、より顧客視点に立った、顧客満足度の高いモノを
提供することができる。
本レポートでは、これら 2 つのマーケティング方法を踏まえつつ、実際の「物」ではな
く「広告」という商品について適用される場合はどのような方法でマーケティングをする
のが相応しいのかを研究する。
2. グローバルマーケティングにおける広告活動
2 つのマーケティング方法の優劣を求める前に、グローバルな広告活動について、国際標
準化した際と現地標準化した際とでどのような違いが起こるのかを考察する。
まず国際標準化した際。広告活動を最も標準化したときとは、本国にある本部を中心と
し、そこから各国の支社(現地で広告を発信する立場)に対し一括で同じ広告を流したときで
ある。本部から集約的に広告内容を流すことで、その広告内容は世界標準・統一でブラン
ドを確立することが出来る。そして広告作成のノウハウを本部で蓄積することでよりよい、
かつ同じものを用いることでコスト的な負担の少ない広告を全世界に発信することができ
る。
次に現地標準化した際。完全なる現地主導ではなく、一定の方針を本社が提示している
ものとして話を進める。この場合、各国の支社はそれぞれの国の文化や経済状況を基に独
自性のある広告を展開することが可能であり、より広告効果が期待できる。一方でノウハ
ウや技術、予算の面で違いがあるため、ある程度の差異が生じてしまう。
グローバルに広告を展開するとき、その国ごとに相応しい広告展開と、リソースの活用
が重要である。
2
3. 広告を作成する際の要素と、標準化すべき要素
広告を作成する際には様々な要素が存在している。経営学者の藤沢武史氏は、
「広告メッ
セージを世界標準化すべきか現地適合 (国別特殊化)すべきかの意思決定問題に最大の関
心を払った。この意思決定への影響要因に、製品のタイプ、購買品目への関与度、メッセ
ージに含まれるユーモア、広告媒体、文化的コンテクスト、文化的価値観、広告目的(各
種広 告機能)と対応した製品ライフサイクル段階といった独立変数」 1があるとしている。
いくつか検討をしていく。
1,製品のタイプ
広告の対象となる製品がどういったジャンルのもので、誰をターゲットに据えた製品
であるのか。これが明確であることにより、例えば若い女性がターゲットであればイケ
メン俳優を CM に起用するであるとか、そういった要素を決めることができる。この際、
標準化をするのであれば世界的に有名な俳優を。現地化をするのであれば、その国で人
気のコメディアンを起用するなどといった工夫を凝らすことができる。
2,購買品目への関与度
関与度とは、簡単に言ってしまえばその製品に対するこだわりのことである。高けれ
ば高いほどこだわりが強い。逆に言えば、関与度の低い製品であれば類似品との差異を
図ることで顧客を「奪う」こともできる。そのため、関与度の低い製品の広告に関して
はセンセーショナルでキャッチーなものが望まれる。
3,広告媒体
これは本社または支社のリソースをどの程度割くのかによって異なる。どの程度の規
模でプッシュしていきたいのかとの変更状況による。
4,文化的コンテクスト
前項で述べたように、コストの面を考えるのであれば製品のタイプ、広告目的などは
標準化を行うことがプラスに働くであろう。しかしながら文化的価値観については広告
を打ち出す側の都合で各国を統一することができるはずもない。文化的コンテクストに
ついても、コンテクストに依存する日本と、コンテントを重視する欧米とでは、広告に
おいてどういった情報を打ち出すのかが大きく異なる。
以上のように考えていくと、グローバルに広告を展開する際に国際標準化されるべき要
素は、経済的な観点で見た場合にはより多い方が好ましい。しかし、各国の文化や広告の
もたらす効果を考えると、必ずしも全てを国際標準化するわけにはいかないのではないだ
ろうか。
1
藤沢(1997)
3
4. 広告を国際標準化することの危険性
前項において、広告の国際標準化は文化という側面で見たときに必ずしも効果的である
とは言えないとした。しかし、私は効果的でないばかりか危険性もあるのではないかと考
える。ホーフステッドによる国民文化の研究結果から例示していく。
ホーフステッドは国の文化というものを「権力の格差」「不確実性の回避」「個人主義化」
「男性化」といった 4 つの価値時限に分類し、40 ヵ国に対しその指数を割り出す研究を行
った。私はこの研究における「不確実性の回避」という項目に着目した。
「不確実性の回避」
とは「不確実であいまいな状況への脅威とそれを許容する程度のこと」であるが、日本は
これが比較的高い国である。例えばこの値が 40 ヵ国中最も低いシンガポールに対しては、
イメージを重視してある程度誇張された広告でも問題視されることはないだろう。しかし
日本ではそうもいかない。テレビのコマーシャル中にも「※画像はイメージです」である
とか、「※あくまで個人の感想です」などといった表記が多くみられるのは、不確実性を孕
むイメージ広告であることを予め述べる責任が法律や国の気質として存在しているからだ。
つまり、シンガポールの企業が日本に対して広告をする際には、自国と国際標準化された
広告では最悪の場合訴えられる可能性まで出てくるということだ。
安易に国際標準化された広告には、政治的な危険性を孕む場合もある。日本は民主国家
であるためにあまり馴染みがないかもしれないが、一番分かりやすい例を出すと、朝鮮民
主主義人民共和国において国のトップ(総書記に限らず)を風刺するような広告を出すこと
の危険性はすぐに感じ取れるだろう。もちろんそこまで大袈裟な例が実際にあるとは思え
ないが、例えば日本のアイドルが王族の恰好をして玉座に座っている広告を王制国家でそ
のまま流すのは、問題にならなかったとしても不快感を露わにする人間は一定数いると考
えられる。
一定の考慮として現地適応化を加味するであろうが、コストや管理の面での優位から国
際標準化を選択しがちである。しかし、標準=万国に通用する、というわけではないとい
うことを強く戒めたい。
5. おわりに
経営学者の田中洋は、
グローバルな規模の広告活動について 3 つのモデルに分けている。
国際広告モデル
本社が広告活動を直接管理し、本社が企画した戦略を実行
する広告活動。
グローバル広告モデル
本社とローカルとがネットワークを形成して本社の立てた
戦略をベースとして行う広告活動
メタナショナル広告モデル 本社と各地域会社とが高度に融合して地域市場ごとの特性
に配慮しながら、それぞれの地域がもつリソースを活用し
て行う広告活動。 2
2
田中(2006)
4
の 3 つだ。
地域市場ごとの特性に配慮するという点において、メタナショナル広告モデルは過度に国
際標準化に傾倒していないようにも見える。しかしながら、あくまでこれはリソースと市
場について着目しており、現地文化の理解などといった、各地域への真の意味での適応を
重視してはいない。
広告活動では、「情報」という形の無い商品を扱う。このとき、イメージや印象、衝撃や
感動といった物的でないもの(精神的なもの)が重視されるが、発信する側が変動せずとも、
それを受け取る側が違えば個人個人で大きな差が生まれる。同じ国内でさえ老若男女でタ
ーゲットをある程度絞った広告展開をするのであるからして、効率化を求めて国際標準化
するだけでは、これからより広く発達するであろうグローバルな広告を的確に展開するこ
とは難しい。グローバルに展開をしたとき、国や地域による文化・考え方の差に対してど
うアプローチするのかが重要だ。
5
【参考文献】
①大石芳裕(1989)「マーケティングに国籍はあるか?」『流通 Vol.1989 No.2』,P.93-99
②金炯中(2011)「標準化・適応化戦略における市場選択の重要性 : サムスン電子の事例
を中心として」『国際ビジネス研究 3(2)』,P.145-158
③田中洋(2006)「グローバル広告の戦略課題 ~メタナショナルな広告活動へのステップ
ス~」『AD STUDIES Vil.16 Spring 2006』
④中村久人(2013)「グローバル小売企業の理論構築」『経営論集 第 60 号』,P.1-15
⑤藤沢武史(1997)「国際広告戦略の世界標準化対現地適合化」『商學論究 44(3)』
6