日本企業と欧米企業における M&A 戦略の違い 2年 小鮒 目次 1.はじめに 2.M&Aについて 3.花王のケースについて 4.P&G のケースについて 5.共通点と相違点 6.終わりに 1.はじめに 近年になってから、諸外国で行われていた企業の M&A という経営戦略が、日本の企業に おいてもみられるようになっている。これは、以前にはなかったことだ。今回、筆者は日 本と諸外国の企業では M&A の様式は異なってくるのかという点に疑問を抱いた。そこで、 同種の起業を例に挙げ、そこに見えてくる共通点・相違点を明らかにすることで、今後の M&A の在り方やこれからの展望を推測していき、日本企業の行く末の示唆を予想したい。 2.M&A について (1) 定義とメリット まず、M&Aとはどういうものであるのかを述べたい。M&Aとは、Merger(合併)と Acquisition(買収)のことである 1。この言葉通り、M&Aは企業の合併買収のことを指して いる。合併と買収は、本来異なるものである。合併とは、複数ある会社が一つの企業にま とまることであり、買収とは、企業が他の企業の株式や事業を買い取ったりすることをい う 2。これは、合併の場合においては、2つ以上の企業が1つに統合されるため法人格は1 つになるが、買収の場合については、2つの会社の法人格は各自固有のままではあるが、 実質的な経営権や支配権は 1 つの企業に収斂されるという違いがあることを表している 3。 また、一口に合併、買収といっても、そこには様々な手法や目的に応じた形態が存在し ており、企業はその用途別に沿った方法を選択している。手法には4つある。1つに合併 というものがあるが、これには吸収合併と新設合併がある。この2つの違いは、合併後に、 吸収した企業の法人格が残るかどうかという点である。吸収合併の場合では存続し、新設 合併では全ての法人格が消失する。2つめは、複数の企業が持株会社の設立をし、その他 の子会社を従える経営統合である。3 つ目は、対象となる企業の株を買い集める買収、そし 1 2 3 坂本恒夫ほか(2015)p. 99。 http://www.strike.co.jp/keiei/basic_about.html 坂本恒夫ほか(2015)p. 99。 1 て 4 つ目は事業譲り受け・会社分割である 4。 次に形態である。形態は主に6種類ほどに分類される。企業規模の拡大に加え経営の効 率化が主な目的とした水平型M&Aや、サプライチェーンの上流と下流の関係にある企業同 士が行う、原材料調達・製造・物流・販売の一貫体制の確立やその効率化を図る垂直型M&A などがある。またさらに、垂直関係でも水平関係でもないが、関連型M&Aという、現状よ りもより強固に事業強化を図り、それに必要な技術・ノウハウの獲得などが主な目的とす るものもある。また事業の関連性が全くない企業との統合である無関連型(コングロマリッ ト型)M&A、投資ファンドによる買収を目的としたバイアウト、MBO(Management Buy-Out)・EBO(Employee Buy-Out)といったものも存在する 5。 またM&Aによって得られる利益やメリットとはいったいどのようなものなのかを述べて いきたい。まず初めに、M&Aの利益として2点挙げることができる。1つ目はM&Aを行う ことにより自社の欠乏している人員、物的や資金などといった様々な経営資源を迅速に他 社からまかなうことができるという点である。通常では、自社の力で経営資源を獲得して も、それを組織化・事業化し編成するには多大なる時間と労力を必要とする。しかし、M&A ですでに組織化されている他社をそのまま取得することができれば、そこに要する時間、 労力といったコストを削減することが可能となる。そうすることにより、事業規模やシェ アの拡大が容易に可能となる。また、新規事業に乗り出す際にも有効である。新たに企業 の幅を広げ、新規事業を行うには多大なリスクが付きまとう。経験やノウハウが育ってい ないことが大きな要因といえよう。そこで、その事業において成功を収めている企業を合 併・買収することにより、それに関するリスクを減らすことができる。このようにM&Aを 活用することで、企業はかける時間や労力を節約し、事業の拡大を図ることができる、と いうことが1つ目のメリットとして挙げられる。2つ目は、買い手企業と売り手企業のも つ様々な経営資源が重なることによって生じる、シナジー効果(相乗効果)である。シナジー 効果とは、2つのものが結合することにより、本来それぞれが所持していた以上の効果を 生み出すことをいう。つまり、ここでのシナジー効果とは、企業同士のM&Aによってそれ ぞれの経営資源が1つになることで、単なる合算ではなく、それ以上の莫大な価値を創出 する可能性があることである。これが、M&Aによる2つ目のメリットである 6。 3. 花王のケースについて まず、日本の科学メーカーの大手である花王について考察していく。2006 年次にはカ ネボウを買収するなど、国内での M&A が目立つなか、アメリカ、アジアなどにも拡大を 4 5 6 坂本恒夫ほか(2015)pp. 102-103。 坂本恒夫ほか(2015)pp. 100-101。 坂本恒夫ほか(2015)p. 99。 2 見せている。今回は花王の企業歴史を取り上げながら、そこにある M&A の形態やその変 化の遍歴を追っていきたい。最初に M&A の形態を見ていくと、企業の成長期ともいえる 1970 年代までは、国内・国外を問わずに他の企業との合併が目立っている。例を挙げる と、西ドイツのバイヤスドルフ社や米国のクエーカー・オーツ社などがある。しかし、 1986 年に、企業の体系や組織経営を全般的に見直す TCR(トータル・コスト・リダクシ ョン)活動が契機となったのか、M&A の手法も変化していった。 現在では、他企業を買収することが多くなってきており、そうして会社の規模を大き くさせている。このようなM&Aが目立つようになったなかで、注目すべきはその手法で ある。花王では、ビューティケア、ヒューマンヘルスケア、ファブリック&ホームケア、 ケミカルという四つの事業に分かれており、それぞれで買収する企業のエリアが違って いる。ビューティケアでは主にアメリカ、ヒューマンヘルスケアではアジア各国、ファ ブリック&ホームケアでは日本国内を対象としている。最後のケミカル部門においては、 グローバルブランドとして、市場を絞っていないことが一つの特徴となっている。この ように、自社のブランド製品の販売地域を集中し、そこで確固たる地位を確立すること に従事し、製品の販売先を獲得する垂直型M&Aが特徴となる 7。 4.P&G のケースについて 次に見るのは、アメリカに本拠地を置いているP&Gである。この企業は日本でも高い シェアを誇っており、今では世界 180 か国に販売拠点を設けている大企業だ 8。この会社 の特徴としては「ブランド戦略」を採用しているということが第一に挙げられる。ここ での「ブランド戦略」とは、消費者がよく聞く・よく目にするなどといった感想を抱き、 それに対して何らかの価値を見出すことができる商品に着目するものである。これは P&Gにおいては、社外・社内を問わない。例えば、アリエールやボールドといった有名 ブランドを社内で開発・販売しているが、男性用の剃刀でブランド力を発揮しているジ レット社を買収することにより、マーケティングを拡大していったことがある。こうす ることにより、容易に自社の規模や利益を拡大させていくことが可能となる。また、ナ インシグマなどといった外部を頼るオープン戦略を駆使することにより、開発スピード の上昇などの利点や、コングロマリット・プレミアムという、いわゆるシナジー効果の 獲得を実現している 9。 7 8 9 http://www.kao.com/jp/ http://jp.pg.com/ 監査法人トーマツ知的財産グループ編 (2008) pp. 220-221。 3 5.共通点と相違点 以上で述べた二つの企業について、共通点と相違点をそれぞれ考察していきたい。ま ずは共通点であるが、これには2つの要素がある。1つはどちらも M&A をつうじて、企 業規模と販売地域の拡大を狙っているという点だ。これは先ほど述べたメリットの1つ 目に相当する。海外などに進出する際には、経営資源などが素早く手に入れることがで きるので、有効な手法として用いられている。そして2つめには、どちらも買収という 形の M&A の手法を主として採択しているということだ。対象企業の株を買収することに より、その企業を自らの傘下に加えて、母体となる自社の勢力を増大させることを狙い としている。 そして、次に相違点について述べていく。両者は M&A の形態が異なっていると私は考 える。花王の場合、自社の製品を海外で普及させるため、他企業を買収するということ は先ほど述べた。ここでは、その対象はサプライチェーンの関係にある企業であるとい うことに焦点を当てたい。そしてそれは生産ラインの強化などを目論む垂直型 M&A に該 当する。しかし、P&G ではそうではなく、自社が取り扱っていない製品でも、事業の拡 大だとみなされるブランド企業の買収を行っている。つまり、関連型 M&A を行っている ということになる。また、自社外の利用をしているオープン戦略を採っているか否かと いう点でも相違が見えた。 6.終わりに 前述したように、二つの国籍の異なる企業を調査した結果、共通点、相違点が存在す るということが明らかになった。そしてM&Aに関して、日本企業の垂直型M&Aに対し米 企業の関連型M&Aという様式の違いが判明した。しかし、それはどちらも強みと弱みが ある。関連型M&Aでは常にシナジー効果を発揮できるという保証はないし、垂直型M&A では慎重な事業展開で成長するのに時間を要して利益が上がりにくい 10。では、これから の日本企業はどのような行動に出ればいいのだろうか。明確にいえることは、これまで の日本特有の閉鎖的な雰囲気を打破することだ。具体的にはP&Gのような関連型M&Aの 施行や社外のオープン戦略である。 また、これは経営の本質にも言えることだが、企業ごとにそれぞれ明確な戦略性を常 に念頭に置くことで、自社の強みをしっかりと把握することが重要であるといえるだろ う。明確なビジョンにより、日本企業の将来への道が開かれることを期待する。 参考文献 10 小坂恕著 (2007) p. 200。 4 ・小坂恕著(2007)『グローバル M&A 戦争: 激変する世界の産業勢力と日本企業の限界』 ダイアモンド社。 ・坂本恒夫、大坂良宏、鳥居陽介編著(2015) 『テキスト現代企業論 第 4 版』 同文館出 版。 ・トーマツ知的財産グループ編(2008) 『勝ち残るための M&A 戦略 : 技術過信が製造業の 危機を呼ぶ!』ソフトバンククリエイティブ。 ・http://jp.pg.com/ (P&G Japan、2016/01/15 アクセス) ・http://www.kao.com/jp/ (花王株式会社、2016/01/20 アクセス) ・http://www.strike.co.jp/ (㈱ストライク、2016/01/22 アクセス) 5
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