9分野の経済対策、今こそ成長戦略に

リサーチ TODAY
2016 年 5 月 11 日
みずほ総研緊急提言:9分野の経済対策、今こそ成長戦略に
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所は「みずほ総研の9分野での経済対策提言」と題する緊急リポートを発表した 1。日本
経済の好循環への軌道回復としてG7議長国としての指導力発揮を目指すという観点から、望まれる具体
的な政策を打ち出したものである。下記の図表は、今回の9分野における提言のエッセンスを示している。
我々の提言の背景には、今日、世界経済が変調をきたし日本経済も停滞するなか、経済対策が必要にな
っているとの問題意識がある。また、経済政策の力点を金融政策の過度な偏重から財政政策・成長戦略へ
シフトさせることで、景気停滞を乗り越えて、需要・供給両面での好循環が加速することを期待するというメ
ッセージも込めている。
■図表:みずほ総研9分野の提言
一億総活躍
①女性活躍
②将来人材育成
③働き方改革
~父親の育児の推進
・2週間以上の父親の育児休業を奨励
する「パタニティ・リーブ奨励金」を導入
~保育の量・質充実、就学前教育の強化
・「保育拡充パッケージ」を実施
・基金設立により就学前教育を充実
~ワークスタイル・イノベーションの推進
・「働き方改革国民会議」を設置
・「ワークスタイル・イノベーション奨励金」を導入
需要下支え・消費喚起
供給サイドの改革
④観 光
⑦生産性革命
~平日旅行の促進
・利用者が少ない空港を利用する場合、何度でも搭乗できる
「ジャパン・ウィークデイ・エアパス」を創設
・有給休暇取得基準を満たした企業の従業員に平日有効の
旅行券「ハッピー・ペイド・バケーション・ポイント」を配布
~設備投資の促進
・「生産性向上設備投資促進税制」を時限的に拡充
⑧ファイナンス
~外貨調達への公的支援
・日銀の「成長基盤融資」のドル特則を拡充
・外貨準備を積極活用
⑤環 境
~新国民運動 COOL CHOICEの推進
・LED等を対象とした「照明エコポイント」を導入
⑨農業
~官民ファンドの活性化
・農林漁業成長産業化ファンドの支援先に求められる
出資規制(農業者出資>パートナー企業出資)を緩和
⑥インフラ
~投資効果の高い公共事業の強化
・東京の国際競争力強化、地方でのコンパクトシティ化を推進
(資料)みずほ総合研究所作成
今回の提言は、一億総活躍、需要下支え・消費喚起、供給サイドの改革という3つのカテゴリーについて、
それぞれ3項目(合計9分野)の具体的な提言から成る。まず、一億総活躍の分野では、女性活躍や将来
人材育成を推進するための政策手段として、父親の育児休業拡大(パタニティ・リーブ奨励金)や保育充実
パッケージを提唱した。戦後の保育の制度設計は、あくまでも共働きが異例であることを前提に、福祉の観
点から対処する発想に基づいてなされていた。一方、今日では女性の社会進出が当たり前となり、保育に
ついてはシステムを再構築して福祉を超えた仕組みを作ることが必要となっている。こうした政策思想の転
換が我々の提言のベースにある。
1
リサーチTODAY
2016 年 5 月 11 日
第2の需要下支えについては、例えば、平日の国内宿泊旅行を促進する「ジャパン・ウィークデイ・エア
パス」・「ハッピー・ペイド・バケーション・ポイント」というアイデアを提示している。わが国の観光産業に関し
ては、繁閑の差が大きいため常用雇用が難しいという問題点が指摘されている。我々の提言、あるいはこ
れに類する施策を通じ、平日の観光客が増えていけば、安定的な雇用形態が拡大し、観光産業が健全に
成長していくものと期待される。
第3の供給対策で特に重視したのは、日本企業の外貨調達支援策である。今日、日本の企業や金融機
関にとって中核的な戦略の一つは、海外への投資である。少子高齢化で日本国内の需要活性化が容易
でない中、新たな戦略として海外での成長を国内に取り込むことが求められ、その手段として、企業や金融
機関の積極的な海外投資が重要性を増している。ただし、そのアキレス腱となっているのが、外貨資金の
調達である。日本の金融機関にとってはベーシス・スワップの拡大からドル調達コストが上昇し、海外投資
の制約となっている。こうしたなかでは、政府の信用を背景としたドル建ての国債や政府保証債で調達した
資金を日本企業向けにドルで貸し出すことが日本経済の大きなサポートになると考えられる。また、4月28
日の日銀の金融政策決定会合では触れられなかったが、日銀から銀行への成長基盤融資の米ドル特則
を活用した外貨支援拡充も選択肢になる。これらは、今日考えられる経済対策のなかで最も即効性のある
対応ではないか。
下記の図表は、アベノミクス新旧三本の矢と経済対策を軸とする政策展開をまとめたものである。アベノミ
クス開始から3年が経った今日、米国の円安容認姿勢が変わった。4月29日に米国政府が報告書で日本
の為替政策を監視対象に置いたことも、こうした変化の証左である。こうしたなか、さながら通貨戦争に参加
するかのような従来の金融政策偏重の政策対応は、修正を余儀なくされている。金融政策に過度に依存
せず、政府・日銀は一体となって機動的な財政と成長戦略の強化を組み合わせた経済政策を展開し、内
需拡大・経済底上げを図る道筋を目指すしかない。日本としては目標を修正しつつ、持久戦の構えのなか
変化を後戻りさせない守りの対応が必要になる。そこでは、長い視野をもった成長戦略を新たな枠組みで
行う必要がある。今回のみずほ総研の9つの提言は、日本の経済政策が新たな局面に向かうなか、とりわ
け成長戦略の重要な柱になりうるものと確信している。
■図表:アベノミクス新旧三本の矢と経済対策を軸とする政策展開
「
三本の矢」
アベノミクス
金融政策
財政政策
成長戦略
量的・質的金融緩和
緊急経済対策
さらなる金融
緩和の方策
マイナス金利導入
財政政策活用、
日本再興戦略
成長力の強化
子育て支援
“出生率1.8”
社会保障
“介護離職ゼロ”
[
“GDP600兆円”
現
役
世
代
支
援
新
た
な
経
済
対
策
「財政再建」
]
(2016年5月)
強い経済
ニッポン一億総活躍プラン
人口減少
新三本の矢
アベノミクス
少子高齢化
経済安定化
後の課題
当面の需要下支え
成長戦略強化へ
長期のデフレ
「出口戦略」
金融政策偏重から
(資料)みずほ総合研究所作成
1
「みずほ総研の 9 分野での経済対策提言」(みずほ総合研究所 『緊急リポート』 2016 年 4 月 27 日)
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき
作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
2