スズキに学ぶ生き残り戦略

スズキに学ぶ生き残り戦略
明治大学経営学部経営学科
2 年 井出
目次
1.はじめに
2.スズキの会社概要
3.スズキの経営戦略
4.スズキが生き残ることができた理由
5.終わりに
1. はじめに
最近、シャープ株式会社が経営危機にあるというのを目にした。実際に 3200 人ほどの希
望退職という形でのリストラを行い、銀行からの融資を受けたようだ。あの日本を代表する
家電メーカーがなぜと思ったが、それほどに今企業は生き残ってくためにも様々な戦略を
柔軟に、そして適切に練ることが重要になってきていることを痛感させられた。コンビニ業
界や飲食業界、その他多くの業界において、業界 1 位の企業がその他を突き放していたり、
市場の競争が激化しているように感じる。またグローバル化も進み、海外企業が日本に進出
してきて、一層競争が激化しているのではないかと考える。そして今回、生き残り戦略とい
う考えの例として、アルトといった軽自動車で知られているスズキをあげて話を進めてい
こうと思う。スズキという会社の名前や製品は多くの人が知っているものの、実際は他社と
比べると、そこまで大きな会社だとは言い難い。しかし、スズキはホンダやトヨタといった
日本を代表する企業が属する自動車産業の中で生き残っている。厳しい業界の中で生き残
ってきたのには、スズキのとってきた戦略が関係しているのではないかと考える。スズキの
戦略を学ぶことで、企業が生き残っていくためにはどう動くべきかの参考になるのではな
いかと考える。
2.スズキの会社概要
会社名 スズキ株式会社
主要製品 二輪車・四輪車・船外機・電動自動車いす・産業機器
資本金 138,014 百万円
売上高 連結売上高 3,015,461 百万円
単独売上高
1,663,147 百万円
国内売上高 1,094,611 百万円
海外売上高
1,920,849 百万円
代表取締役 会長 鈴木 修
社長 鈴木 俊宏
副会長 原田 保人
副社長 本田 治
総従業員数 14,751 人
スズキグループ 子会社:133 社(国内 68 社、海外 65 社) 関連会社:35 社
1909 年(明治 42 年)鈴木式織機製作所として創業、1920 年(大正 9 年)鈴木式織機株式会社
として法人設立以来、着実にその歩みを止めることなく、今日まで成長してきました1。
3.スズキの経営戦略
1
http://www.suzuki.co.jp/about/outline/
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ではここからは、実際にスズキがどのような戦略をとっているのかについて見ていこう
と思う。スズキの特徴的な戦略としてまず挙げられるのは、自動車産業の中でも軽自動車と
いう分野に焦点を当てることで他社との差別化を図り、そこに経営資源を集中させること
で、軽自動車という分野においては高いシェアを獲得しているという点である。実際、スズ
キは自動車産業全体のシェアランキングではトヨタ、日産、ホンダ、マツダに次いで 5 位と
いう位置で落ち着いているが、軽自動車という分野に絞った場合はダイハツと現在 1・2 位
の座を争う形となっている。先ほどの差別化という面において、スズキは現在トヨタなどが
力を入れているハイブリット車などの大手がひしめく市場での勝負を避けて、大手の強く
ない軽自動車で戦っていると言える。また、女性を主な顧客層と設定し、
「あるときはレジ
ャーに、あるときは通勤に、またあるときは買い物に使える、あると便利なクルマ。それが
アルトです」2というキャッチフレーズのもとアルトを投入した。女性を顧客層に設定した
こと、またこのアルトは 47 万という破格の値段で発売したことが相まって、新しい市場を
開拓したと言える。
スズキの経営戦略で見逃せないのがインド市場への進出である。今現在、インドは急速な
経済成長を見せ、都市部には高層ビルが建てられ、交通インフラに関しては高速道路も整備
されてきて、日本の ETC のような制度も導入されてきているようである。そんなインド市
場にはスズキにとってかなりうまい特徴がある。それはインドの自動車市場が世界に例を
見ない小型車中心の市場だということである。インドでの自動車市場における軽自動車の
割合は日本でよく見かける軽自動車と同じサイズのものとそれより少し大きなものを合わ
せると市場の 73%にもなる。それはインド人の実利主義を如実に表したものであると考え
るが、インド人は「最もバリュー・フォー・マネーのいい商品を選ぶ」3ようだ。つまりお
金持ちであろうとベンツといった一流の車に乗ろうとは考えず、買い得商品を選ぶようだ。
このインド市場というのはスズキにとってまたとない機会であったことは間違いない。実
際スズキはこの市場でのシェアは近年トヨタ、ホンダ、日産、フォード、ダイムラーなど多
くのトップクラスのメーカーが勢ぞろいする中、2015 年 12 月時点で 38.7%となっている。
インドの自動車市場シェア率 2 位の企業が 14.5%4であるため、他者をかなりつきはなした
数字となっている。また、この数字は商用車を含めての数字となるため、一般の乗用車に限
ると 50%ほどにまでのぼり、インドで走っている乗用車の 2 台のうち 1 台はスズキの車と
いうことになる。好調のインド市場での収益をクルマの改良・開発にあてることができてい
るので、真にインドという市場はスズキにとって重要な拠点となっている。ここまでスズキ
がインドで勢力を伸ばすことができたのには、インド市場への進出が早かったこととやは
りスズキの軽自動車を作る技術がインドで認められたことにあるだろう。鈴木修会長は著
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3
4
鈴木修(2009)pp.32-33。
鈴木修(2009)pp.179。
http://www.marklines.com/ja/statistics/flash_sales/salesfig_india_2015
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書の中で、
「スズキは小さなメーカーだったので、経営者として、
『とにかく、どんな小さな
市場でもいいからナンバー1 になって、社員に誇りを持たせてやりたい』という気持ちを強
く持っていた。」5と語っており、このような考えのもと、早い段階で新しい市場へ進出して
いったこともスズキの立派な戦略の一つであろう。
これまではスズキが実際にとってきた戦略を見てきたが、ここからは学問的観点から見
ていってみようと思う。今までのスズキのとってきた戦略を見て、スズキからは弱者戦略と
いうものが見て取れる。弱者戦略とは、ランチェスター戦略の考え方で、市場占拠率 1 位以
外の企業が取るべきとされる戦略のことである。ここで出てきたランチェスター戦略とは、
ランチェスター法則とランチェスター戦略方程式の2つの考え方から、故田岡信夫氏が体
系化した経営活動における販売戦略・競争戦略のことで、ランチェスター戦略のもとになっ
たランチェスター法則とは、フレドリック・W・ランチェスターが第 1 次世界大戦の時に導
き出した戦い方の法則である。つまり、ランチェスター戦略とは市場原理に基づいた競争に、
企業がどう戦ってゆけばよいのかを示す戦い方のルールである6。そして、この戦略の考え
の一つである弱者戦略は集中戦略と差別化戦略を基本としている。まず、話を進めていく前
に、キーワードとなる戦略の用語説明をしておく。集中戦略とは、市場を細分化し、自社の
能力に適合する一部のセグメントに焦点を合わせる戦略であり、セグメントは特定の製品
カテゴリ、特定の顧客層、特定の地域、特定の用途などにより区分される7。差別化戦略と
は、他社が満たしていない顧客ニーズに対応することにより製品・サービスを差別化し、プ
レミア価格による高マージンを得たり、顧客ロイヤルティを高める方法であり、差別化は、
機能、性能、品質、デザイン、パッケージ、広告宣伝、商品配送、アフターサービス等、製
品や活動の様々な観点で作ることができる8。
では、スズキの戦略と結びつけて考えていく。スズキの特徴である軽自動車という分野に
絞っていること、女性をターゲットとしたこと、インド市場への進出は言い換えると自分の
得意とする特定の製品カテゴリ、顧客層、地域に焦点を合わせ、経営資源を集中させている
ということであり、集中戦略に当たる戦略であると言える。また、軽自動車は大手自動車メ
ーカーが満たしていない顧客ニーズのある製品であり、他者と差別化を図ることができる
分野であるという考えから差別化戦略も同時に行うことができていたと考えられる。
4.スズキが生き残ることができた理由
ここまで実際にスズキがとってきた戦略についてみてきたが、ここからはどうしてスズ
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6
7
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鈴木修(2009)pp.183。
http://diamond.jp/articles/-/21843?page=4
明治大学経営学研究会編(2012)pp.61。
明治大学経営学研究会編(2012)pp.60-61。
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キは厳しい業界の中を生き残ることができたのかついて、先ほどからの話も参考に考えて
いく。スズキの戦略において大事なことは、会長が自らのことを「俺は、中小企業のおやじ」
と表現したことからもわかるようにスズキが自社を弱者であると認識している点である。
弱者であることを認識しているがゆえに、先ほどのような集中戦略や差別化戦略を基本と
する弱者戦略をとることができているのであると考える。つまり、軽自動車という自社が得
意とする分野で戦い、逆にハイブリット車といった大手の得意とする分野は避けてきてい
るというのには、自身の力をしっかりわきまえているからこその行動であろう。またスズキ
の経験譚として 2 輪車市場での失敗がある。これは当時スズキが 2 輪車の市場で 3 位のシ
ェアだったが、1 位と 2 位の企業が本気でシェア争いをした際に一気に吹き飛ばされたとい
うものである。会長は「3 位以下の企業と言うのは不安定で脆弱な存在に過ぎず、やはり小
さな市場であってもナンバー1 になることが大切だ」9と語っている。こういう経験ができ
ているからこその軽自動車という分野であり、インド市場につながっているのだろう。
5.終わりに
では最後に、スズキの戦略から企業が生き残っていくために必要なこととはと何かにつ
いてまとめていく。まず自社の立場をしっかり認識するということである。スズキはトヨタ
との力の差を認め、その代わりにトヨタが得意としていない分野で戦っている。どの産業に
おいても、強者というものは存在するが、自社の立場を見極めることで、その企業とどのよ
うに戦っていくのかについての道標が見えてくるだろう。また、自社の強みと弱みを知って
いることも重要のである。スズキの強みは軽自動車であり、弱みはハイブリット車などの車
種であった。自社の強みを知ることがどの市場で戦い、差別化を図れるのかを知る条件とな
るであろう。そして、スズキの経験からどんな小さな市場でもいいからナンバー1 になろう
とするのも生き残っていくためには必要なことなのであろう。ナンバー1 の市場を持ってい
ると社員のモチベーション的にも、また資金面においても違ってくるはずである。そしてこ
れらの考えを踏まえて、実際にどの製品で、どの顧客層をターゲットに、どのような地域で
といった集中戦略やどのような機能で、どのようなデザインで、どのような製品で、他社の
満たしていないニーズを満たすかといった差別化戦略などの戦略を活用していくことが、
企業が生き残っていくためには必要なことであると考える。
参考文献
書籍
・鈴木修(2009)『俺は、中小企業のおやじ』 日本経済新聞出版社。
9
鈴木修(2009)pp.66。
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・中西孝樹(2015)『オサムイズム―”小さな巨人”スズキの経営』 日本経済新聞出版社。
・明治大学経営学研究会編(2012)『経営学への扉[第 4 版]』 白桃書房。
URL
・http://diamond.jp/list/books (ダイヤモンド社 2016/02/01 アクセス)
・http://www.marklines.com/ja/ (マークラインズ 2016/01/14 アクセス)
・http://www.suzuki.co.jp/about/outline/ (スズキ 2016/01/14 アクセス)
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