平成27年度「調査・研究事業」

平成27年度「調査・研究事業」
地域創生時代の創業支援のあり方
報
告
書
平成28年2月
一般社団法人
兵庫県中小企業診断士協会
はじめに
創業支援計画が各地で認定され、創業に関する動きが活性化してきている。
2015 年 11 月 26 日には三宮コンベンションセンターにおいて、日本銀行金融機構局金融高度化センタ
ーによる「創業支援に関する地域ワークショップ」が開催され、金融機関や支援機関の職員が多数参
加した。
地域経済の新たな担い手となる創業者のチャレンジを支えていくことは、地域とともに生きる金融
機関にとっては、地域の活力や取引基盤を維持していく上でも、重要な課題である。
日本銀行金融機構局金融高度化センターは、2015 年 6 月 4 日に、「地域創生に向けた創業支援への
取組み」と題する金融高度化セミナーを東京都内で大規模に開催している。今回は地方版として神戸
で開催されたものである。
中小企業診断士にとって、中小企業施策に関与する動きが重要な役割であることに間違いはない。
しかし、単なる施策の概要を知っているだけでなく、こうした先進的な取組みを行っている金融機関
や行政等の担当者との直接的なネットワークをつくり、個別具体的な案件を気軽に相談できるように
なることが必要である。また、何よりも、補助金を獲得することが目的ではなく、長期的な事業計画
における位置づけを確認すべきであると考えている。
本調査は、2014 年度の兵庫県中小企業診断士協会が行った調査研究の継続的な位置付けで設計され
たものである。前回の調査時点では、創業支援計画が策定されている兵庫県下の自治体は 8 か所であ
り、都市部に集中していた。創業支援計画のモデルとなった「神戸開業支援コンシェルジュコーディ
ネータ」の役割と中小企業白書で示された「4 段階モデル」の有効性が報告内容の中心となった。時
間的な制約もあり、兵庫県の他地域がどのような動きになっているのか、そもそも「創業塾」を企画
しても申込者が少なく、開催できない地域の実状を聞くと県下全域に「神戸開業支援コンシェルジュ」
モデルを展開することは困難ではないかと考えていた。
今年度は、幸いにも本部の調査研究事業に採択され、地方部に直接ヒアリング調査を行い様々な情
報を得ることができた。改めて、時間の経過による変化と普段の視点だけでは見つけることができな
かった地域の動きを再認識することになった。
昨年度は報告会において調査研究報告書をもとに、各支援機関の方々からご意見を頂戴出来たこと
は我々にとって大きな喜びであったし、今年度の調査研究を継続する意欲を湧き立たせるものであっ
た。中小企業診断士としてどのように地域に貢献できるのか、地方創生時代の今日あらためてこうし
たテーマを問い続け、各支援機関の皆様と情報を交換し、実際の活動に結び付ける試みを行うことに
した。
i
目次
はじめに
目次
第1章
創業・地域活性化に関する考え方
1.地域とは
2.地域経済の活性化
3.ネットワーク化
4.地域公的支援機関の役割
5.地域金融機関の役割
6.地域再生のクラスター戦略
第2章
兵庫県各自治体の創業支援事業
1.創業の状況
(1)全国の創業の状況
(2)兵庫県の創業の状況
2.兵庫県内における創業支援事業計画の策定状況
(1)都市部
(2)地方部
第3章
兵庫県内の基礎自治体における創業支援の実態
1.都市部における創業支援の取り組み
(1)神戸市
(2)西宮市
(3)姫路市
(4)尼崎市
2.地方部における創業支援の取り組み
(1)三木市
(2)多可町
(3)篠山市
(4)朝来市
(5)淡路市
3.まとめ
(1)都市部
ii
(2)地方部
第4章
都市部における創業支援の事例(神戸開業支援コンシェルジュ)
1.事業の概要
2.支援事業開始の経緯
(1)創業支援に関する問題意識
3.神戸開業支援コンシェルジュの特徴
(1)開業支援コーディネータの存在
(2)伴走型の支援
(3)専門分野の異なる人材が常駐
4.支援事例紹介
5.考察
神戸開業支援コンセルジュがなぜ一定の成果を上げたか
(1)創業支援の実施主体が問題意識を持っていたこと
(2)専門性の高い多様な人材を確保できたこと
(3)神戸という都市の魅力と創業支援の成熟性
第5章
地域企業の新たな取り組みの事例
1.事例調査
(1)豊劇新生プロジェクトの事例
(2)神河町の事例
(3)地域金融機関の創業支援
2.豊岡におけるビジネス・シンポジュム
第6章
創業支援についての提言
おわりに
iii
第1章
創業・地域活性化に関する考え方
1.地域とは
地方創生(地域創生)において創業を考えるとき、地域の範囲に注目しなくてはならない。もちろ
ん市場が存在するのかという点で地域は重要だが、創業が活発かどうかという点で、基礎自治体と呼
ばれる市区町レベルで創業の実態が調査され議論されているからである。
地方創生が最近の政策的なテーマとなっているが、それは東京一極集中に対して地方が過疎化して
いるという前提での話が多い。確かに、明治維新以降の中央集権国家体制の流れが続き、地方が疲弊
している姿は見られる1。
清成(1981)では、人口の農業離脱が農村離脱をひき起こし、工業化による人口の大都市集中とい
う結果をもたらし、こうした都市化が各種の都市内部の問題、そして農村地帯の過疎などの問題を生
み出していると警鐘を鳴らしている。文化の展開と産業の展開を対応させ、両者ともに健全であろう
とするならば、構造は質的でなければならないし同時に地理的でなければならないとし、図表 1-1.の
ように地域構造のモデルを示している。
図表 1-1.シューマッハーの地域構造モデル
文化圏・風土
カルチュラル・
ユニット
コミュニティー
カルチュラル・ユニットの中心
広域中心都市
大学所在地
リージョナル・
センター
基礎的生活圏
小中学校
ヴレッジ
マーケットタウン
流通拠点都市
高校
(出所)清成,1981,p.41 を修正
まず、基礎的な生活圏は、ヴィレッジという範囲がある。ヴィレッジは、いくつかのコミュニティ
1
柄谷(2014)は、農業と工業のバランスについて、明治期以降の農業政策が原因であることを示している。「近
代以前の農村には、さまざまな農業、加工業、軽工業があった。が、明治以後の農業政策は、農村に依存した手
工業・加工業をすべて都市に移し、農村をたんに原料のみを生産する場とするものであった。ゆえに、農業生産
力は増大したが、農村は衰退した。」p.64
1
をその内に含んでいる。このヴィレッジがいくつか集まってマーケット・タウンの圏域を形成する。
マーケット・タウンは、一応の流通拠点都市であるといえよう。
このマーケット・タウンの圏域がいくつか集まってカルチュラル・ユニットを形成する。カルチュ
ラル・ユニットの中心がリージョナル・センターである。いわば広域中心都市である。もちろん、マ
ーケット・タウンやリージョナル・センターも、ヴィレッジに相当する基礎的生活圏から成り立って
いると見るべきであろう。ちなみに、学校のレベルでみると、ヴィレッジには、小中学校が存在し、
マーケット・タウンには高校が存在しうる。さらに、リージョナル・センターには、大学が存在しう
る。さらに、注目すべき点は、産業の配置について提言を行っていることである。ヴィレッジには小
規模な諸産業が、マーケット・タウンには中規模な諸産業がそれぞれ立地すべきであり、そしてどう
しても避けがたい場合にはリージョナル・センターに大規模な諸産業がそれぞれ立地すべきだとして
いる(清成,1981,pp.40-42)。
清成(1981)の時代では、過疎・過密問題であった。しかし、今日においては「過疎」が「消滅」
問題になっているが、過密も東京一極集中は懸念されるものの、都心の空洞化、高齢化問題も将来的
には懸念されるようになっている。基礎的な生活圏としては、働く場所(自己実現、雇用の場所)、
教育の場所、買い物の場所などがそろっていることが必要である。
つぎに、地域内の経済循環をどのように見て行くのか検討したい。
2.地域経済の活性化
経済の成長のためには、新たな市場参入を促すとともに、従来は環境の大きな変化に対応できない
弱者として救済されてきた企業群に対しては、環境の変化に対応できない既存企業であるとの認識に
変化し、むしろ廃業を支援し、新たに第二創業を行うことで活性化させようする動きがある。
ストーリー(1994)では、新規開業の理論として、企業経済学では産業構造が企業行動に影響を与え、
行動が成果に結びつくとし、参入する新規開業企業ではなく、既に産業内で活動している企業の活動
に注目しているとしている。もう一つの観点として、労働経済学があり、新規開業企業の設立は労働
市場で個人が決定した判断の結果であるとし、開業するかどうかという判断は、勤務経験、動機、パ
ーソナリティ、家庭環境、社会的「規範」、そしてステータス(身分)など様々な要因によって影響
を受けるとしている。
さらに、地域での行政単位で政策が実施され予算化されるため地域間での競争が議論されることが
ある。基礎自治体としての取り組みは重要であるが、必ずしも合理的な経済単位とはなっていないこ
とがある。
2
中村(2013)では、経済社会圏単位で取組みを行わないと誤った地域間競争が起こるとして図表 1-2.
で以下のように説明している2。
図表 1-2. 地域経済圏のイメージ
(出所)中村,2013,p.15
「C 市は多くの住民が B 町の工業団地に通勤。この意味で、C 市にとって B 町の製造業は重要だが依
存している。B 町は税収増と雇用創出で工場を誘致するが、固定資産税は増えても雇用は C 市で増え
る。B 町にとってあまり雇用効果がない。C 市も依存して独自の雇用創出は行わない。A 市の商業にと
って、E 村の農業従事者の買い物は重要であり、E 村の農業振興は A 市に外部経済を与える。しかし、
A 市は E 村の農業振興は行わない。農業振興がうまくいかない E 村は宅地化と大規模スーパーの誘致
を推進。その結果、A 市の中心部が空洞化という外部不経済も。新産業育成に取り組んでいる D 市に
とって A 市の中心部にある大学や研究機関など産学連携の拠点として重要であるが、A 市の中心部の
空洞化に伴う都市的機能が衰退。」
このような構図は、地方の中核的な都市の周辺に起こりがちであり、各自治体が単独で産業振興策
を行うのではなく、「重点化や有機的な連携等により、効果的な産業振興等を図る」(中村,2013,
p.15)ことが必要である。
2西井(2014)では、下記のように指摘している。「地域が抱えるのが地域再生の問題であり、その背景には、高度
経済成長期において見られた外来型開発方式の功罪がある。工業化の外延的拡大が最優先され、進んだ地域から
遅れた地域へという形で、移出力の移転が図られた。自治体による工場誘致、企業誘致活動が活発化し、工場立
地条件の改善、進出企業に対する税制上の優遇措置、インフラの重点的整備等が進められた。先進国としての日
本の礎が形成された。しかし、次第に、外来型開発方式の限界も広く認識されるようになった。」(p.113)
3
こうした問題点に対して、産業構造を変化させる動きとして有名なのは、イギリスのケンブリッジ
大学にケンブリッジ・サイエンス・パーク(1973 年)、ハイテク企業のインキュベーション(1987 年)
などが設立され、ケンブリッジ周辺では、中小企業、大学、地元諸機関などによって自発的に形成さ
れたハイテク・ネットワークが著しい成長を遂げたことである。この動きをケンブリッジ現象と呼ん
でいる3。
日本では、1998 年度より北海道産業クラスター創造活動が行われ、多数の参加者を得るとともに北
海道大学周辺には、多数の研究機関や支援機関が集積して地域の企業に対してアイデア段階から事業
化段階までのコーディネートを中心とした幅広い支援を行っている。
こうした動きは周辺の江別市にも好影響を与え、2002 年 9 月に江別市の地域経済の活性化を目的と
する産学官連携組織「江別経済ネットワーク」が発足している。自らを「積極的な情報交換と人的交
流を促進する場」と位置付け、産学官連携に基づく交流や共同研究などにより、新規産業の創出や既
存企業の高度化などを図り、新製品の開発や雇用拡大などにつなげるべく活動している4。
農業分野では、フード・バレーとしてオランダのワーヘニンゲン大学のモデルが有名である。1997 年
に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく、産学官が一体とな
ってワーヘニンゲンに集積したのが始まりで、その後、ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合
して、ワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲン UR)が設立された5。
かつての地場産業は、地元の商業資本の主導より材料仕入れから製造販売に至るまで幅広い分野に
おいて地域内で循環できるシステムが機能していた。また、農業などの他産業から参入する者、一定
の期間当該産業内部において経験を積んで開業資金を蓄積した上で独立開業する者など多くの新たな
事業者が創出されたところから、地域経済が活性化していたのである。
3.ネットワーク化
経済的なつながりだけでなく、地縁・人縁的なつながりがあり、相互の信頼関係が起業の成功率を
高めていったと考えられる。地域における起業を促進するためにはこうした視点を再び呼び起こす必
要があるのではないかと我々は考える。
さらに、表面的には非常に近接であり、お互いに知り合いの中であると見られる関係においても、
実際は、つながっているはずの関係性が途切れているか、つながり方が悪くなってマンネリ化や閉塞
感が漂う地域や組織になっていることがある。
西口(2007)では、「人がふと職場や家庭で陥る場違いな感じ、業績不振の会社、落ちぶれる地域経
済などは、単純化していえば、人と人のまずいつながり方に起因していることが多い。つながり方の
トポロジー(構造、形態)が悪化しているのだ。知らず知らずのうちに、日常の決まりきった接触方法
3
西口(2007)p.161
4
5
http://ebetsu-city.jp/k-net/keizainetwork.html
金間(2013)p.26
4
や身の回りの最適化だけを目指す傾向にとらわれ、個人として、組織として、生き延びるのに不可欠
な新陳代謝ができなくなっている。しかも、こうした変化に気がつかないことが最も恐ろしい。」(p.
ⅰ)としている。
表面的に繋がっているように見えるネットワークも、実際に情報の伝達が行われていない事象に出
会うことがある。ましてや、行政が主体となって集めたグループでは主体的に動くものがいないとた
ちまちに機能しなくなる。
図表 1-3.遠距離交際と近所づきあいのネットワーク
A
近所づきあい
(レギュラー)
B
遠距離交際+近所づきあい
(スモールワールド)
(出所)西口,2009,p.7
西口(2009)では、既存のネットワークだけでなく新たな伝達経路を発生させたリワイヤリングとい
う概念が示されている(p.7)。図表 1-3 の A は近所づきあいが緊密で、秩序が整っているように見え
るが、中継点が多く伝達の遅れや情報が途中で逸失してしまうことがある。他方、図表 1-3 の B は一
部のランダムな接続による「遠距離交際」によりふつうは流れにくい情報が結び付いた点の間で一気
に流れ、その近隣にも情報が流れる。
4.地域公的支援機関の役割
中村(2014)では、「我が国において「商工団体」と明記される場合、日本商工会議所、全国商工会
連合会、全国中小企業団体中央会の商工 3 団体を指すことが多い。」(p.21)としている。
実際、各地域を訪問して見ると基礎自治体は条例制定や支援事業を行っているが、実際に企業側の
窓口となって活動しているのはその地域の商工会議所、商工会であることが多かった。この背景を中
村(2014)では、「(全国商工団体連合会、ティグレ、中小企業家同友会など)他の商工団体と、商工
会議所、商工会、中央会の違いは、後者には多くの補助金が政府や地方自治体からなされており、事
実上、それによって運営がなされているという点がある。」(p.22)とし、その特色を示している。
また、今回の調査対象として取り上げた商工会地域では、商工会の目的の中に「社会一般の福祉の
増進に資する事業」が 1981 年の商工会法の一部改正で追加され、1993 年の小規模事業者支援促進法
の施行により、地域振興活性化事業など幅広く地域振興事業を実施することとなっている(p.25)。
5
誘致企業の事業方針の転換により規模縮小や撤退などにより雇用の場がなくされるだけでなく、そ
うした大企業からの受注に依存してきた地方の企業数の減少という結果になっている。このことが、
他の産業や生徒数の減少による小中学校の統廃合という現状も生み出している。教育・医療といった
行政サービスの維持ために「平成の大合併」が行われ、同時に多くの商工会の合併も行われたのであ
る。
「第二次世界大戦後の商工会議所の復興、商工会の設立にあたっては、その組織率を高めるために
民間団体でありながら、政府の中小企業政策の中にその存在が含められてきた。規模の小さな商工会
の場合、町役場や村役場の中にその事務局が置かれていたり、一部では行政職員がその業務の一部を
補助する」(中村,2014,p.28)ことが行われてきていた。「第二の役場」のように見られてきたが、
従来行ってきた記帳指導や経営指導に加えて、様々な地域のイベント開催における商工会の負担が増
加してきている。しかし、これらの事業費には人件費が含まれていないため職員の給与確保が困難に
なっている。「従来は小規模事業者に対する経営指導や記帳指導という事業を行うため政府や地方自
治体から人件費に見合う補助を受け取っていたものが削減され、一方で増加する地域振興事業におい
ては人件費が認められないという二重苦に苦しめられている。」(中村,2014,p.30)
こうした状況において、地方部での小規模事業者の減少や、新規開業者の低迷といった課題に商工
会が対応することを求められているのが現状である。
5.地域金融機関の役割
地域経済の衰退は、地域を営業基盤とする金融機関にとってもその安定性を脅かす要因であり、看
過できないものである。また、既存の産業を温存するだけでは時代の変化とともに地域経済が成り立
たなくなっているケースも多い。
地域金融機関は、地域で集めた資金をニーズがある分野に貸し付ける仲介的な金融機能を発揮する
ことで、存在意義を高めてきた。
しかし、金融機関そのものに経営支援なのどの新たな機能が求められている。例えば、金融庁(2014)
では、「地域金融機関(地域銀行、信用金庫、信用協同組合)においては、経営改善支援、事業再生
支援、担保・保証に過度に依存しない融資等の取組みが行われている。一方、中小企業をはじめとし
た利用者からは、そうした取組みに留まらず、経営課題への適切な助言や販路拡大等の経営支援、ニ
ーズに合致した多様な金融サービスの提供が強く期待されている」(p.127)とし、地域金融機関の課
題や改善の方向性を示している。
金融庁の姿勢を背景に最近では、経営支援、創業支援などの部署を設けて専任の担当者を配置して
いる金融機関が増加している。しかし、金融機関によってばらつきがあるのも事実である6。
山口(2015)では、「創業支援を融資等につながる金融ビジネスとしてとらえた場合、相応に手間
がかかるうえにハイリスクであるといったむずかしさがあり、それゆえに慎重に対応している」
(p.16)
6
山口(2015),p.16
6
ことも示している。一方、積極的に創業融資に取り組んでいる事例として、京都信用金庫でも担保が
なく事業実績もない相手に職員は慎重になり、実績が上がらなかったが、「成熟社会に向かうわが国
にとって、リスクに挑戦する起業家は社会の宝物であり、金融機関はこれを全力で責務を負う」
(pp.16-17)という姿勢を理事長が示したことから転換していったとのことである。
地域の中だけでは気づかないこともあの人に伝えたい、信頼できる人からの情報を得たいという双
方向の意識が働いて上手く情報が活かされることがある。
基本的には地域のネットワークをどのように構築するのか、地域にあるインフラや中核的企業、教
育水準、社会習慣、社会貢献意欲なども含めたものを、その地域にある資本として捉える必要がある。
これは、ソーシャル・キャピタルと呼ばれ 1830 年代にトクヴィルが研究している7。
地域活性化の創業支援のために、これらのソーシャル・キャピタルがどのように活用されているの
か、そして、ソーシャル・キャピタルの組み合わせを行うコーディネータの存在の必要性について着
目する必要がある。
6.地域再生のクラスター戦略
(産業)クラスターとは、語源的にはブドウの房を意味しており、「ある特定分野に属し、相互に関
連した、企業と機関からなる地理的に近接した集団である。」(ポーター,1998,p.70)
図表 1-4.カリフォルニアのワイン・クラスター
(出所)ポーター,1998,p.73
ポーター(1998)では、カリフォルニアのワイン・クラスターについて、図表.1-4 のように示して
7
西口(2007),p.362
7
いる。ワイン製造とブドウ栽培の双方に対する支援産業が、広い範囲で補完しており、ブドウ栽培の
面では、それを包み込むカリフォルニアの農業クラスターとの強い結びつきがある。また、ワイン製
造の面では、カリフォルニアのレストラン産業と食品加工産業やワイン製造地域の観光クラスターと
の密接なつながりが活かされている。さらに、カリフォルニア大学ディビス校のワイン研究所や調理
研究所など多くの地元機関がワインに関与している(pp.71-74)。
特定の産業(関連機関を含む)が特定の地域に、房状に群がっている状態をしめしている。グロー
バル化の進展において、特定の国において強い競争力を発揮している産業は、クラスターを形成して
いることが確認され、「都市、州、国あるいは地域(中央アフリカなど)レベルでの、クラスターに
対する公式な取り組みが数多く誕生している。」(ポーター,1998,p.69)
地域の抱える様々な問題を解決するためには、その地域でしか構築できないような独自性のある継
続的な取り組みが必要である。クラスター戦略は、地域の様々な経営主体や産学公連携を含めた多様
な組織にまたがる「組織間ネットワーク」を新たに構築するものと考えられる。
ネットワークの概念は、数個の組織体が連携するものから無限大ともいえる数の主体があつまるこ
ともありうる。しかし、図表 1-5 のようにネットワーク化が上手く行き地域の活性化に繋がるような
前提としては、まず出会いの場をつくり交流が行われ顔の見える信頼関係づくりを行う必要がある。
図表 1-5.ネットワーク形成の概念
(出所)筆者作成
つぎに、相互に信頼関係が生まれ、コミュティが形成され何をどのように連携すれば良いのかとい
8
う戦略が生まれてくる。そして、実施すべき事業体が機能し地域の活性化が生まれることになる。
この背景には、組織同士の利害関係があるためどのように乗り越えるのか、将来的な成長のために
克服すべき課題というものがあることを認識しておかなくてはならない。また、これらを乗り越える
ために、行政、支援機関、金融機関、民間団体等によるソーシャル・キャピタルの形成も成功要因と
なる。ネットワーク形成がどのように行われ、どのように機能しているのか本調査の事例等で検討を
加える。
9
第2章
兵庫県各自治体の創業支援事業
1.創業の状況
兵庫県内各自治体における創業支援事業計画の策定や実施状況を見ていく前に、全国および兵庫
県の創業の現状について確認する。
(1)全国の創業の状況
全国的にみると近年では、開業率は上昇傾向にあり、平成 26 年は開業率が 4.8%で廃業率 3.7
%を約 1 ポイント以上、上回る状況となっている。一方で、大都市圏以外の 30 道府県が全国平均
を下回る8など地域における開業率は依然低迷しており、企業数の減少に伴う雇用の縮小が続いて
いる。
図表 2-1. 全国の開業率・廃業率
(%)
開業率
廃業率
4.8
3.7
(年度)
(出所)厚生労働省(2014)
平成 25 年 6 月に取りまとめられた「日本再興戦略」において、開業率が廃業率を上回る状態に
し、開業率・廃業率を米国・英国レベルの 10%台に向上させるという目標が掲げられた。これに基
づき各自治体において創業支援事業計画の策定が進められ、平成 26 年 3 月に創業支援事業計画の
認定を受けた全国の市区町村は 87 件(94 市区町村)であったが、27 年 10 月には 692 件(771 市
区町村)にのぼり、第 1 回認定から約 1 年半で大幅に増加した。すでに、計画の実施により効果を
あげている地域もあるが、大半は、スタート地点に立ったところであり今後の成果に期待がかかる。
8
厚生労働省「雇用保険事業年報(2014)」より
10
(2)兵庫県の創業の状況
厚生労働省(2014)からの推計によると兵庫県の開業率は 4.8%であり、廃業率を 1.2 ポイント
上回るとともに全国平均とほぼ同水準となっている。また、平成 26 年経済センサス基礎調査(速
報)では、県内事業所9の総数は平成 24 年調査時より 1,379 増加し、14 市町で増加をみている。こ
れは、新設事業所数が廃業事業所数を上回った結果と考えられ、ここにきて県内における開業数は
回復傾向にあると推測される。しかし、市町別に事業所数の増減をみると地方部での減少が都市部
での増加を相殺している状況にあり、県民センター・局単位10でまとめると図表 2-2.のように半数
の地域で事業所数が減少しており、依然として開業、創業の地域間格差がみられる。
図表 2-2. 兵庫県内の事業所数増減率(平成 24 年~26 年)
(%
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
-3.0
-4.0
-5.0
3.0
0.6
0.6
1.2
0.8
0.2
-1.7
-2.0
-2.2
-3.5
総数
神戸 阪神南 阪神北 中播磨 東播磨 北播磨 西播磨 但馬
丹波
-4.7
淡路
(出所)総務省統計局(2015)
次項より、創業支援事業計画の策定状況やその効果・実績をなど県内各地域における創業支援の実
態について検証しつつ、開業・創業の地域間格差が生じる要因について探るとともに地域の課題や実
態に応じた創業支援のあり方について検討する。
9
事業内容等が不詳の事業所を除く民営事業所
各県民センター・局の管轄市町は以下の通り。神戸県民センター:神戸市、阪神南県民センター:尼崎市・
西宮市・芦屋市、阪神北県民局:伊丹市・宝塚市・川西市・三田市・猪名川町、中播磨県民センター:姫路市
・神河町・市川町・福崎町、東播磨県民局:明石市・加古川市・高砂市・稲美町・播磨町、北播磨県民局:西
脇市・三木市・小野市・加西市・加東市・多可町、西播磨県民局:相生市・たつの市・赤穂市・宍粟市・太子
町・上郡町・佐用町、但馬県民局:豊岡市・養父市・朝来市・香美町・新温泉町、丹波県民局:篠山市・丹波
市、淡路県民局:洲本市・南あわじ市・淡路市
10
11
2.兵庫県内における創業支援事業計画の策定状況
兵庫県においては、平成 27 年 10 月現在、全 41 市町のうち 26 市町が計画の認定を受けており、
計画認定率は 63%にのぼる。これは全国平均の 44%(全 1741 市町村中認定 771 市区町村)を大
きく上回り、この結果からみると全国的にみても兵庫県は総じて創業支援に積極的に取り組んで
いる自治体といえる。しかし、神戸市を中心とする沿岸都市部と内陸部および日本海側のいわゆ
る地方部では、人口動態や経済状況など事業活動をめぐる環境は大きく異なり、それに伴い支援
の課題やあり方も必然的に違ったものとなる。特に、地方部での開業を促進するためにもその有
効性が極めて重要といえ、各市町の取り組みの創意工夫が求められる。
以下、県内を都市部と地方部に分け各市町の創業支援事業計画の策定状況を見て行く。
(1)都市部
①
創業支援事業計画実行のためのアクションプラン
兵庫県下 41 市町のうち人口 10 万人以上を有する市町は、神戸市、姫路市、西宮市、尼崎市、
明石市、加古川市、宝塚市、伊丹市、川西市、三田市の 10 都市である。ここでは人口 10 万人
以上を有する都市および地理的事情により芦屋市を加えた合計 11 都市を以下では都市部とし、
それ以外のものを地方部と分類すれば、都市部のうち平成 27 年 10 月現在で創業支援事業の認
定を受けた都市は神戸市、姫路市、西宮市、尼崎市、加古川市、宝塚市、芦屋市の 7 都市であ
る。その計画策定率は約 64%となり全国平均 44%に比べて県下都市部の計画策定率は高い水準
にある。
これらの計画認定都市の計画実行のためのアクションプランとしては第 3 章で詳述するが、
以下のような計画がなされている。
1)神戸市
神戸市をはじめ市内支援機関の連携による創業の総合支援体制として「神戸開業支援コ
ンシェルジュ」に取り組み、創業希望者に対して窓口相談、セミナー開催、創業塾、イン
キュベーション施設の提供、専門家派遣などを目指している。さらに、「神戸開業支援コ
ンシェルジュ・コーディネータ」による横断的なフォローにより連携する支援機関への橋
渡し機能が特徴である。
2)姫路市
姫路市、姫路商工会議所、姫路市商工会、㈱日本政策金融公庫などの連携により創業支
援ネットワークを構築し、創業希望者に対して窓口相談、セミナー開催、創業塾、情報提
供などを計画している。
3)西宮市
西宮市、西宮商工会議所、㈱日本政策金融公庫などと連携して「西宮ビジネスイノベー
ションサポーターズネット(Nbis)」を構築して、創業者のステージに応じた支援事
12
業展開を図り、メーリングリストや FAX による情報共有を図り、創業塾など多様な創業者
支援を計画している。
4)尼崎市
尼崎市、尼崎商工会議所、(公財)尼崎地域産業活性化機構、㈱日本政策金融公庫などと
連携して創業支援ネットワークを構築し、創業希望者に対して窓口相談、セミナー開催、創
業塾、専門家によるハンズオン支援などを計画している。
5)加古川市
加古川市、加古川商工会議所、㈱日本政策金融公庫と連携して創業支援ネットワークを構
築し、創業希望者に対して窓口相談、セミナー開催、創業塾、などを計画している。
6)宝塚市
宝塚市、宝塚商工会議所、㈱日本政策金融公庫などと連携して創業支援共同体制を組み、
相談窓口設置、起業セミナー開催、ビジネスプランコンテストなどを計画している。
7)芦屋市
芦屋市、芦屋市商工会、(公財)ひょうご産業活性化センター、㈱日本政策金融公庫と連
携して創業支援ネットワークを構築し、創業希望者に対して窓口相談、実践創業塾などを計
画している。
②
創業支援事業計画による実績
1)神戸市
認定連携創業支援事業者として(公財)神戸市産業振興財団、㈱神戸商工貿易センター、
神戸商工会議所、(公財)ひょうご産業活性化センター、㈱日本政策金融公庫、兵庫県中小
企業団体中央会の 6 事業者を数え、特定創業支援事業として「神戸開業支援コンシェルジュ
・コーディネータ」による継続支援、インキュベーション施設事業、創業塾、創業セミナー
などを実施して、年間支援者数 1,245 人、創業実現数 261 人の実績を得ている。
2)姫路市
認定連携創業支援事業者として姫路商工会議所を設定し、㈱日本政策金融公庫、兵庫県信
用保証協会、姫路市商工会など 14 事業者による創業支援ネットワークを構築し、特定創業
支援事業として姫路商工会議所では、「姫路創業ステーション」を設置して姫路創業塾、女
性創業スクールなどを開催している。年間 20 件の創業実現が目指されている。
3)西宮市
認定連携創業支援事業者として西宮商工会議所を設定し、㈱日本政策金融公庫、兵庫県信
用保証協会、兵庫県宅建協会など 6 事業者に民間金融機関を加えた「西宮ビジネスイノベー
ションサポーターズネット(Nbis)」を構築して、特定創業支援事業として起業塾、飲
食店開業セミナー、専門家派遣などを行っている。26 年度は創業支援件数 670 件に対して、
13
創業実現件数は 120 件であった。西宮商工会議所で平成 27 年度より、従来型の「起業塾」
に加えて女性向け「小さな起業コース」を開催していることも特徴である。
4)尼崎市
認定連携創業支援事業者として尼崎商工会議所、(公財)尼崎地域産業活性化機構を設定
し、㈱日本政策金融公庫、兵庫県信用保証協会、(一財)近畿高エネルギー加工技術研究所
など 8 事業者に尼崎信用金庫などの市内金融機関を加えて創業支援ネットワークを構築し、
特定創業支援事業として創業塾、専門家によるハンズオン支援などを実施している。インキ
ュベーション施設提供や金融機関参加による迅速な融資相談、平成 27 年度より「女性のため
の創業セミナー」を開催したことなどが特徴である。年間 80 件の創業実現を目標としている。
5)加古川市
認定連携創業支援事業者として加古川商工会議所を設定し、特定創業支援事業として創業
塾、実践型フォローアップセミナーおよび、事業計画などについての経営相談を行い、年間
14 件の創業実現を目指している。創業者のステージを初期、中期、最終期に分けてそれぞれ
に応じた支援体制を組み立てていることが特徴である。
6)宝塚市
宝塚市が宝塚商工会議所、㈱日本政策金融公庫、兵庫県信用保証協会、池田泉州銀行の 4
事業者と連携して創業支援共同体制を構築し、特定創業支援事業として相談窓口の設置、創
業セミナー開催、ビジネスプランコンテストを行っている。年間 37 件の創業実現を目指し
ている。
7)芦屋市
豊かな自然環境や便利な交通環境、優れた生活環境を有する都市特性を活用して商業環境
に応じたビジネスモデルの構築や資金調達などの創業支援を行っている。特定創業支援事業
として実践創業塾、個別相談会を行っている。年間で創業支援 118 件、創業件数 30 件を目
標としている。
(2)地方部
次に、都市部以外のいわゆる地方部の基礎自治体における創業支援事業計画の策定状況とその
内容について概観する。
①
創業支援事業計画実行のためのアクションプラン
1)運営体制
中小企業基盤整備機構(2015)では、創業支援事業体制および運営手法を以下の 4 つに区
分している。
a.行政主導型
市町がリーダー役で、活動全体の統制が強い。市町の担当者が、参画する支援機関の支援
14
業務に関与し創業支援事業計画に則った支援業務を実施する。
b.コア支援機関への業務委託型
市町とコア支援機関(主に商工会・商工会議所)による 2 輪運営が基本で、市町はコア支
援機関に対する監督業務も兼務している。
c.フラットなネットワーク運営型
緩やかなチーム活動の趣で、市町がコーディネータ役を務める。多くの支援機関、支援団
体がネットワークに参画し、地域活動の雰囲気づくりやモチベーション向上がねらいであり、
市町は、創業希望者、創業実現者を把握するねらいも併せ持つ。県内では神河町などがこれ
にあたるといえる。
d.民間・NPO 等の参加によるコミュニティ形成型
活動全体の統制はなくフリーな支援活動を行う。市町はコミュニティ活動のモニタリング
が中心である。多くの支援機関と民間・NPO 等がコミュニティを形成し、2 重 3 重の支援策、
モレのない支援策を展開する。重点支援分野は、創業その他の商品開発・販路開拓であり、
この分野に民間ノウハウ等を活用しようとする意図がある。県内では養父市などがこれにあ
たるといえる。
この中で最も多い運営形態が b.コア支援機関への業務委託型であるが、単なる系列的な連
携に留まらず事業ネットワークの中心となる仮想的な組織を形成し、組織運営をさらに有効
なものにしようとする動きもみられる。これは各支援機関の組織の枠を超えた関係を構築し
有機的に連携することで事業を成功へと導こうという意識を醸成することをねらいとしたも
ので、県下では、朝来市の「朝来市創業支援者連絡協議会」や三木市の「三木市中小企業サ
ポートセンター」、洲本市の「すもと創業サポートネットワーク」などがこれにあたる。
その効果として以下の点が確認されている。まず、第 1 に、創業相談の最初の問い合わせ
が仮想組織の事務局に入るケースが多く、相談者や相談内容の情報を一元的に収集、集約で
きることである。第 2 に、創業セミナーなどの PR に際し、仮想組織が連名・共催の形態をと
ることで地域としての積極的な姿勢を訴求できることである。第 3 に、支援機関内での仲間
意識が醸成されるとともに、他の支援機関の手法を学ぶことができることである。このよう
なメリットを活用したネットワークのあり方に注目していきたい。
2)支援メニュー
図表 2-3 は、各市町の創業支援事業計画に記載されている創業支援メニューをまとめたも
のである。特徴的なのは、すべての市町が創業専門の相談窓口を新たに開設することが求め
られたことである。これまで、創業相談については、商工会議所・商工会等の窓口が中心と
なっていたが、基礎自治体が積極的に関与する動きとして、空き家・空き土地対策、UIJ タ
ーンの促進、観光資源の発掘など地域が抱える課題と連動した支援メニューが多いことも都
15
市部との違いである。
図表 2-3. 創業支援事業計画の支援メニュー一覧
創業セ
ミナー、
創業塾
創業相
談会
個別相
談窓口
補助金
融資支
援
●
空き物
件紹介、
斡旋
創業資
金繰り
支援
情報提
供
●
●
創業後
の経営
能力向
上支援
朝来市
●
●
市川町
●
●
猪名川
町
●
●
●
小野市
●
●
●
●
加西市
●
●
●
●
加東市
●
●
●
●
神河町
●
●
●
●
香美町
●
●
●
●
篠山市
●
●
●
●
●
宍粟市
●
●
●
●
●
●
●
●
洲本市
●
●
●
●
●
多可町
●
●
●
●
高砂市
●
●
●
●
●
西脇市
●
●
●
●
●
●
三木市
●
●
●
●
●
養父市
●
●
●
●
●
南あわ
じ市
●
淡路市
●
豊岡市
●
●
●
●
創業者
の広報
支援
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
創業後
の交流
会開催
●
●
●
●
●
●
●
●
●
※●は、各事業計画のイメージ図で確認したものであり、実施の有無については未確認である。
②
創業支援事業計画による実績
平成 27 年 10 月現在、県内地方部の創業支援事業計画の認定数は 19 市町1119 件で、計画策
定率は約 63%(地方部 30 市町中 19 市町)となり、地方部の策定率も全国平均に比べ高い。た
だし、三木市以外はすべて平成 27 年の認定であり、さらにその大半が直近の第 6 回(10 月)
11
洲本市・豊岡市・三木市・西脇市・高砂市・小野市・加西市・篠山市・養父市・南あわじ市・朝来市・淡路
市・宍粟市・加東市・猪名川町・多可町・市川町・神河町・香美町
16
に集中している。したがって、地方部における計画への取り組みは緒に就いたところであり、
計画実施による創業件数の増加率など実績の検証や評価の段階にまでは至っていないという
のが実状である。中小機構の調査12においても、支援機関のモチベーションの向上、行政と支
援機関の関係性の強化、創業支援に関わるスキルの底上げなど定性的な効果は多く確認されて
いるものの客観的・定量的な実績や効果については言及されていない。したがって、地方部の
事業計画に対する客観的かつ定量的な評価を行うためには、各地域において計画が一定程度実
施された後に再度検証することが必要である。
3)連携体制
いずれの創業支援事業計画の全体像においても、市町と商工会議所・商工会、地元金融機関
および日本政策金融公庫等の連携が中心になっているが、支援メニューと同様、以下にあげる
ような地域ごとの支援方針や課題に応じて他機関との連携を講じている例も少なくない。中に
は、養父市のように市の直営では取り組みが難しい事業を推進するために市が 100%出資し地
域公共会社を設立、連携し創業者支援に取り組む事業体もみられる。
図表 2-4.地域の課題や支援方針に対応した連携例
連携先
支援課題
空き家再生、移住促進、田舎暮らしに関する情
市川町
上牛尾自然豊かな居住支援協議会
報提供
小野市
NPO 法人市民活動支援センター
女性の起業支援講座開催
神河町
かみかわ田舎暮らし推進協議会、寺前
空き家・空き店舗再生、斡旋、創業者募集
駅前銀座商店会、かみかわ銀の馬車道
まちづくり協議会
起業家育成、事業計画作成支援、マーケティン
養父市
やぶパートナーズ(株)
グ調査
(出所)各自治体資料から作成
上記の他、各地でさまざまな連携の形態がみられる一方で、明確な連携の形態を理解しな
いまま参画した支援機関も少なくない13との指摘もある。今回の聞き取り調査でも、関係機
関との情報共有や外部支援機関の支援メニュー、専門家の活用方法などいくつかの課題を残
した状態で事業を開始している事業体もあり、計画の推進状況にも各事業体間で格差がみら
れる。
12
13
平成 26 年 9 月~27 年 1 月計画認定を受けた全国 19 市区および 17 支援機関への取材結果
中小企業基盤整備機構(2015)P.5
17
第3章
兵庫県内の基礎自治体における創業支援の実態
平成 26 年に兵庫県中小企業診断士協会の「調査・研究事業」でまとめた「創業支援に関する調
査研究報告書」では、兵庫県内において開業率の高い地域では、創業者の 4 つのステージ14を意識
したきめの細かい具体的な支援策が講じられており、今後、創業希望者と創業率を増加させるため
にも 4 つのステージに応じた支援策の推進が不可欠であるという結論に達した。しかし、後に、都
市部に比べ制約の多い地方部において都市部の方策をそのまま展開することに限界があるのでは
ないかという疑問点が浮き彫りになってきた。そこで、都市部と同等あるいはそれ以上の効果を得
るために地方部において必要とされる支援のあり方について検討するために、都市部および地方部
の創業支援を行っている行政や支援機関に実際にヒアリングし、取り組みの実態について調査し
た。
1.
都市部における創業支援の取り組み
(1)神戸市
平成 23 年度に起業家の裾野拡大を図るため市内支援機関が創業支援のチームを組み、開業に
関する総合支援の仕組みである図表 3-1 に示すような「神戸開業支援コンシェルジュ」を開設し
た。同事業は中小企業庁の起業支援のモデルとなった事業であり、神戸市内にある支援機関の創
業支援担当部署が創業支援のチームをつくり、起業・創業希望者に対して、窓口相談、セミナー、
インキュベーション施設の提供、専門家支援を実施している。さらに平成 26 年度は、神戸開業支
援コンシェルジュコーディネータを設置し、横断的な創業フォローにより、他の連携機関や支援
事業への橋渡しを強化している。
神戸市では、これから起業/創業を目指す方、起業/創業後間もない方に対する各種サポートを
強化する起業家支援施設として、2001 年 4 月に SOHO プラザ事業を開始した。当初は、(公財)
神戸市産業振興センターがワークスペースの運営(ハード面の支援)を、(株)神戸商工貿易セン
ター 神戸ファッションマートが交流スペースの運営(ソフト面の支援)を担うことで、神戸市内
での起業・創業支援サービスの役割分担がなされていた。
神戸開業支援コンシェルジュコーディネータへの相談件数は、平成 27 年度は前年同月比で約 2
倍の増加傾向を示している。その要因としては、事業の PR を続け認知度が向上したこともあるが、
過去の相談者からの紹介・推薦で相談に来られる方も増えてきていることがあげられる。
平成 27 年 10 月よりホームページ上で窓口相談担当者のプロフィールとスケジュールを開示す
るなど相談者が相談しやすい環境作りを実施している。初めての相談者からも担当者を指名して
相談予約が入るなど効果が出てきている。
14
中小企業庁(2014)が提唱した起業希望者の 4 段階分類で、潜在的起業希望者(起業を将来の選択肢の一つ
として認識しているが、現時点では何ら準備をしていない者)、初期起業準備者(起業したいとは考えており、
他者への相談や情報収集を行ってはいるものの、事業計画の策定等具体的な準備を行っていない者、起業準備
者(起業に向けて具体的な準備をしている者)、起業家(起業を実現した者)のこと。
18
この神戸市開業支援コンシェルジュコーディネータについては、次章にて詳しく研究し、その
要因を探る。
図表 3-1. 神戸開業支援コンシェルジュのイメージ
(出所)http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki/nintei.htm
【創業支援事業者(連携機関)】
(公財)神戸市産業振興財団、㈱神戸商工貿易センター
神戸ファッションマート、神戸商工
会議所 経営支援センター、(公財)ひょうご産業活性化センター、㈱日本政策金融公庫
神戸
創業支援センター、兵庫県中小企業団体中央会、(公財)新産業創造研究機構
【特定創業支援事業の内容】
(公財)神戸市産業振興財団(開業支援コンシェルジュコーディネータによる継続支援、インキ
ュベーション、ビジネスプラン認定事業)、神戸ファッションマート(インキュベーション)、
神戸商工会議所(創業塾、創業塾受講者等継続支援)、(公財)ひょうご産業活性化センター(ビ
ジネスプラン認定事業)、㈱日本政策金融公庫(新規開業資金セミナー、資金相談夜間・土曜
相談)、兵庫県中小企業団体中央会(飲食店開業セミナー、専門家派遣)
19
(2)西宮市
①
創業の状況
従来から西宮市と西宮商工会議所ほかが連携し、多種多様な創業支援を実施してきた。「創業
に向けての動機付け整理」「具体的かつ本格的な学習」「創業後のアーリーステージを対象とし
た支援」という、ステージごとに整理された事業展開を行っている。また、創業前から創業後も
利用できる専門家派遣事業など、一体的な支援策を実施している。西宮市では、開業率 5%を全
体目標とし、平成 21 年度経済センサスにおける平成 18~21 年度の開業率等(4.5%、660 件)と
の差異に相当する約 70 件について、市と商工会議所とが連携して実施する創業支援事業において
創業件数を増加させるために具体的支援を強化している。
図表 3-2.西宮市創業支援事業計画
(出所)http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki/nintei.htm
②
創業支援計画の実施状況
起業希望者から起業間もない人まで、「起業家支援セミナー」「起業塾」「経営者塾」の開催な
どにより、起業ステージに合わせたきめの細かい支援を行っている。
「起業家支援セミナー」は、起業の夢を持つ人にチャレンジ意欲を持ってもらうことを目的とし
ている。窓口相談も含めて年間 100 名が参加し、起業間もない起業成功者の体験談など親しみやす
い内容で年一回開催している。起業塾へはそのうち 20%が参加している。
20
「起業塾」は、起業を志す人の夢を事業計画にまで高めて具体化することを目的に、年に一度 5
回シリーズで開催している。マーケティングや財務知識等を学び、自分に合った事業計画を確立す
る。平成 26 年度は 35 名が参加し半数以上が一年以内に創業した。本年度は、従来型の一般的な「起
業塾」と女性向け「小さな起業コース」との二つに分けて開催し、参加者はそれぞれ 22 名ずつ計
44 名であった。従来に比べてさらに創業希望者のニーズに近付いた創業支援が進められている。
販売先確保のためのマッチングや金融機関出席のもとに融資模擬面談なども行っている。
さらにハンズオン伴走型支援として「個別支援」を行っている。起業間近な人や起業後間のない
経営者の個別問題に対応するもので、マーケティング、IT,税務などの個別課題に対して専門家を
派遣している。
特定創業支援事業として、起業塾に加えて、特定創業支援者塾、飲食店開業セミナーを開催して
いる。起業塾 80%以上の出席者を対象とし、政策金融公庫と提携して、登録免許税減免、創業関
連保証額拡大などの支援を行っている。
西宮ビジネスイノベーション・サポーターズ・ネット(Nbis)は、創業融資希望者に対する
ワンストップで利便性あるシステムづくりを目的とした、支援機関同志の情報共有システムで、メ
ーリングリストや Fax により、融資必要者にワンストップで情報を提供している。
③
創業支援の深化
西宮市商工会議所への開業相談者の 6 割が女性で占められているため、平成 27 年度より女性を中
心的ターゲットとした起業家支援を開始した。従来からフェイスブックなどを利用して女性創業希
望者の集団に参加し、その集団のイベント「ママのフェスタ」にも参加して創業支援を PR するなど
の活動を行っている。本年より主として女性を対象として「小さな起業コース」を開催した。参加
者の女性は 8 割であり、わかりやすい内容で好評であったため、今後も継続して実施予定である。
④
課題
1)企業力強化
起業家を発掘し若手経営者を育成するために、起業家支援セミナーや起業塾(小さな企業含む)
などの支援活動を通じて創業人材を育成することが課題である。セミナー、塾で先輩起業家と交
流し精神的にも指導を受けるメンター制度や、インキュベーション施設としてのコワーキングス
ペース開設の検討も行っている。
2)創業支援活動の認知度向上
IT などを利用して積極的に創業希望者のグループに参画して直接的に情報発信することが課
題である。Facebook を利用して、「起業家サポートページ」を開設してセミナー、イベント情報
を発信している。
21
3)女性創業希望者への支援強化
創業希望者の中での割合が多い女性層をターゲットとした支援策を強化して、創業者数を拡大
することも課題としている。
(3)姫路市
姫路市では、平成 26 年に創業支援事業計画第 1 回認定を受け、各関係機関の連携による取り組
み体制の一層の強化およびさまざまな支援策の展開により創業支援を実施しているところである
が、同計画認定後 1 年半以上が経ち、支援施策にも進化がみられる。
図 3-3.
姫路市創業支援事業計画
(出所)http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/shiiki/nintei.htm
①
創業の状況
創業支援計画を策定する以前より、姫路市では姫路商工会議所を中心として創業支援に継続
的に取り組んでおり、創業セミナーや創業塾修了者の開業率は 10%程度で推移している15。ま
た、創業に関する窓口相談の内容は、補助金や助成金の申請など資金調達に関するものが多く、
事業の内容についても比較的具体化している相談者が多い。一方、創業セミナー等への参加を
希望する事業者は、事業計画や事業内容がまだ具体的になっていないケースが多く創業に関す
る支援ニーズも多様である。後述する「姫路創業ステーション」の開設、体制強化を進めたこ
15
平成 26 年度「創業支援に関する調査研究報告書」(兵庫県中小企業診断士協会)
22
とにより創業支援事業計画認定以前は年間相談件数が 400 件前後で推移していたのに対し、26
年度は 2 割増の 480 件に増加するなど取り組みの効果が現れつつある。
②
創業支援の状況
姫路市における創業支援の特徴的な取り組みは以下の通りである。
1)関係機関や周辺市町との連携強化による起業支援
起業希望者に対する相談窓口として「姫路創業ステーション」が開設されている。これ
は、姫路商工会議所が中心となり、各関係機関と連携し起業希望者のさまざまな相談にワ
ンストップで対応するというものであり、各方面の 12 機関16と連携し、資金面、労務面、
法務面等各専門分野について多角的に支援する体制を整えている。さらに平成 27 年度よ
り、近隣 10 市町17との連携も始まり、市内のみならず広域における起業希望者の掘り起こ
しが進むことが期待される。
2)中心市街地の活性化を目的とした起業支援
~まちなか創業支援事業補助金~
創業セミナーなど「特定創業支援事業」により支援を受けた起業希望者が中心市街地内で
新たに出店する際に、内装工事費等の一部を助成するものに「まちなか創業支援補助金」
がある。現在、姫路駅周辺の再開発が進められていることから再開発区域を含めた広範囲
な区域での起業促進や旧市街地の空き店舗対策への貢献が期待される。
3)金融機関との連携強化
姫路商工会議所では、創業支援事業計画が認定される以前より毎年 11 月に創業塾を開催
してきたが、平成 27 年度よりその共催者として新たに地元 3 信金18が加わった。これは、
各金融機関の新規創業支援に対する取り組み強化の一環であり、以前は金融機関の共催者
は日本政策金融公庫のみであったが、3 信金との連携が実現することにより各金融機関か
ら当所の窓口相談や創業塾への起業希望者の誘致の可能性が広がることになる。また、金
融機関も自社窓口では対応できない相談内容については、商工会議所の経営相談窓口や専
門家を紹介することにより、相談者の利便性を向上できるというメリットがある。
③
支援方針
姫路市の支援に対する基本的な考え方は、起業段階に応じた支援を講じることにある。具体
的には、起業希望者に対しては、創業塾において創業に必要な知識や能力の習得、起業後間も
ない起業者に対しては、創業フォローアップセミナーにおいてプロモーションや人材育成など
事業継続を実現するための知識を習得させる。また、販路開拓やネットワークづくりを目的に
16
姫路市産業局・姫路市商工会・日本政策金融公庫・兵庫県信用保証協会・ハローワーク姫路・兵庫県弁護士会
・兵庫県司法書士会・兵庫県土地家屋調査士会・近畿税理士会・兵庫県社会保険労務士会・兵庫県行政書士会・
(一社)兵庫県宅地建物取引業会
17
相生市・加古川市・加西市・宍粟市・たつの市・市川町・福崎町・神河町・上郡町・作用町
18
姫路信用金庫・播州信用金庫・兵庫信用金庫
23
会員交流会を開催し参加を促すともに、起業後 5 年間は、商工会議所の地区別担当者による巡
回訪問など商工会議所との一体型支援を実施し、創業後の事業継続についても積極的に伴走型
支援を実施していく体制をとっている。ただし、起業前の段階では、白書にあるように起業希
望者を 4 段階に明確に層別してそれぞれのレベルに応じた支援を施すものではなく、希望者の
相談内容などから実現可能性を判断し、起業希望者をふるい分けるという状況にある。
姫路市においては、周辺市町や関係機関との連携強化に加え窓口相談員の増員、起業者情報
の共有化など内部体制の整備にも積極的に取り組むなど起業支援に一層注力しようとする姿
勢が顕著である。経営相談員や専門家など人的資源が潤沢な都市部支援機関においては、この
ようなさまざまな取り組みを比較的円滑に進めることが可能であり、創意工夫も反映、実現さ
れやすい環境にあるといえる。
(4)尼崎市
尼崎市では平成 26 年 3 月 20 日に「産業競争力強化法」に基づく創業支援事業計画の認定を受けた。
尼崎商工会議所をはじめ、尼崎信用金庫、日本政策金融公庫などが市の創業支援事業者として市から
認定され、創業希望者ならびに創業後 5 年以内の事業者に対して創業支援を実施している。尼崎商工
会議所の創業支援では「失敗しない創業者づくりを行う」ことを心がけている。
図表 3-4. 尼崎市創業支援事業計画
(出所)http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki/nintei.htm
24
①
創業の状況
現状、創業支援を希望する相談者としては、年間 100 人程度であり近年での増減はあまりない。
創業者の男女比としては均等である。女性の起業における特徴として、子育て経験世代による飲食
や介護業種での起業が全体の約 70%を占めている。女性起業家への支援策としては、女性のための
創業セミナーなどがある。シニアの企業者への支援は通常の創業支援の枠組みで実施されている。
②
創業支援の実施状況
尼崎商工会議所では、4 段階支援モデルを明示しての施策実施ではないが、潜在的創業希望者か
ら創業者まで、創業の各ステージに当てはまる支援策を実施している。
1)創業塾・キックオフセミナー
創業塾を開催する前のイベントとして 3 年ほど前から実施している。参加者実績は 25~6 人(う
ち塾への移行者は 7~8 人)である。
2)女性のための創業セミナー
参加者実績は 16 人、本セミナー実施後、参加者同士が SNS を利用しコミュニティを作るなど、
参加者の満足度は高かった
3)土日創業相談会
尼崎信用金庫の中小企業診断士と商工会議所の指導員が、尼崎市中央図書館内にて実施(1 日 5
人、全 7 回)。参加者実績は 1 回目予約が満員であった(取材時 2015 年 10 月)。参加者属性は
第 2 創業希者 1 名、会社員 2 名など、男女比では 3:2 程度。女性の創業希望分野は介護やアパレ
ルなどであった。
4)創業塾
参加者実績は約 30 人、男女比は 1:1 程度であり、最近年代問わず女性が増加している。将来的
に創業を希望する学生も参加したが、参加者の主要層は 50 代であり、コミュニティ形成の創業(飲
食や弁当などを連携させた交流拠点の構築など)が多い。参加者全体の約 50%が創業計画を作成
し、全体の 10%が実際に起業した。
5)窓口相談
創業塾終了レベル者に対して個別に実施している。
6)創業後フォロー
創業後の事業主に対して、経営指導員が経営の進行をチェックし指導や専門家紹介を実施して
いる
7)起創会
参加者実績は約 50 人、去年は創業塾から 3 名ほどが加わった。創業塾修了生や、事業を見直し
たい事業者も参加している。
25
8)尼崎創業支援オフィス
アビーズ(尼崎地域産業活性化機構)
中小企業センター内にインキュベーションオフィスを創設、セミナーや市報で広報をしている。
市内には既にインキュベーションオフィスとしてエーリック(尼崎リサーチ・インキュベーショ
ンセンター)があるが、エーリックは開発・研究をしたいとした技術系の施設であり、アビーズ
は商業系の施設である。入居者にはサムライ研究会が支援を実施している。
③
今後の課題
1)創業支援活動の認知度向上
創業支援活動の認知度向上を目指して、一般新聞への折り込みを実施している(2 年連続)前
年はバス広告を実施したが、効果は高くなかった。
今年度はさらに駅構内広告を実施している。
2)支援対象者のレベル
創業希望者の創業や経営に関する知識レベルはまちまちであり、本格的な起業を計画できる希
望者から計画立案もおぼつかないアイデアレベルの創業希望者まで、幅が広く、対象者にあった
施策を実施していく必要がある。
3)機関連携の有効性
各機関連携の形式的中心は行政ではあるが、実務面では商工会議所、尼崎市、尼崎信用金庫の
連携が有効に機能しており、連携体としての定例会も約 3 か月に 1 回実施している。
連携が機能している理由としては 2 点ある。1 点目は担当間での関係づくりや、市役所と商工
会議所との人事交流、尼信の職員を商工会議所が受け入れていることなど担当者レベルの交流が
有効に機能しているからである。2 点目は、創業補助金事業にて各機関が応募者情報を連携した
ことも現状の関係づくりに寄与していると評価できる。
連携が機能している結果として、各機関ができることを相互に開示しており、相談者の情報を
紙の形式ではあるが各機関間で引継ぎもしている。
4)ハンズオン支援の必要性
複数の創業者を対象に実施する施策だけでなく、個別に創業者を支援するニーズもあるため、
要望に応じて実施している。担当者の認識としてではあるが、創業支援とは個別のケース毎に有
する課題やニーズへの対応であるという理解があり、セミナーや塾などのマス対応と組み合わせ
で個別対応を実施していく必要性について認識をしている。
2.地方部における創業支援の取り組み
次に、都市部以外のいわゆる地方部の自治体における創業支援の取り組みについて見ていくこ
とにする。兵庫県における開業率は下表のように地域間に大きな格差が生じている。しかも、開
業の低い地域は、概して既存事業所数も少なく事業所数の地区別割合の格差も拡大傾向にある。
都市部のみならず地方部を活性化することが、県全体の経済の底上げに繋がることは言うま
26
でもない。しかし、前述のように、都市部以外の市町では「創業支援事業計画」策定への取り組
みも都市部に比べ遅れをとっており、計画策定後も体制が未整備のまま計画をスタートさせてい
る事業体もみられる。
図表 3-6. 兵庫県下の都市部と地方部の開業率比較19
都市部
兵庫県全体
2.83%
地方部
神戸市20
阪神南21
但馬22
丹波23
淡路24
3.63%
3.34%
1.32%
1.66%
1.21%
(出所)総務省統計局(2015)
このような現状を踏まえ、実際に県下 5 市町の支援機関および行政機関に対し、都市部と地方
部の創業率格差の要因として下記の仮説を持ってヒアリングを実施し、地方部の支援の現状、抱
える課題や支援の方向性について検討するとともに、地方の特性・特徴を生かした創業支援の取
り組み事例について調査を行った。
【仮説 1】
地方部の経済は衰退しており、創業支援においても予算、人材不足により停滞気味であり、創
業のステージに対応したきめ細かな支援など十分な支援がなされていない。
【仮説 2】
都市機能・都市イメージから創業の地として成功し難いイメージが先行しているため、創業に
対する動機が働きにくい。
【仮説 3】
都市部とは違った地域の創業支援のあり方を提案するべきではないか。
19
開業率(年平均、%)=[新設事業所数/(存続事業所数+廃業事業所数)]×[12/31]×100(中小企業白
書で用いられている計算方法にて算出)
20 東灘区・灘区・兵庫区・長田区・須磨区・垂水区・北区・中央区・西区
21 尼崎市・西宮市・芦屋市
22 豊岡市・養父市・朝来市・香美町・新温泉町
23 篠山市・丹波市
24 洲本市・南あわじ市・淡路市
27
(1)三木市
平成 26 年 3 月に国の創業支援事業計画(3 ヵ年)の認定を受け、図表 3-7.に示すように、三木市中
小企業サポートセンター(以下、三木市中小企業 SC)、三木商工会議所、吉川町商工会、兵庫県信用
組合三木支店、日本政策金融公庫明石支店、ひょうご活性化センターの各支援機関の良好な人的関係
性を基盤とした支援活動が行われている。1 年半以上が経過し、創業は、平成 26 年度 10 件、平成 27
年度 12 件(見込み)であり、活動成果が確実に現れている25。
図表 3-7. 三木市創業支援事業計画
(出所)http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki/nintei.htm
②
創業支援の流れ
支援活動は、他の支援機関同様、創業段階に応じた支援が行われており、新聞広告や広報による支
援予備軍の発掘から創業後の継続的なフォローまでの流れおよび内容を図表 3.8 に示す。支援活動は、
三木市中小企業振興条例や認定を受けた国の創業支援事業計画を基に、文字通り「地域支援機関のネ
25
創業促進補助金(国)平成 27 年度(9 月末)採択兵庫県 30 件中、神戸市 9 件、三木市 5 件、姫路
市 5 件、西宮市 4 件、尼崎市 3 件、その他 4 件と、神戸市、姫路市、西宮市の人口と三木市の人口を
比べると対人口比で高い採択数となっている。
28
ットワークの強み生かした」丁寧な伴走型支援が行われているが、これらの支援活動の企画から実行
段階まで、熱意を持って支援活動をリードされている「キーマンの存在」が「当該地域ネットワーク
の強み創出の源泉」となっている。
図表 3-8. 三木市 創業支援の流れおよび内容
29
③
創業支援の実績
支援対象者がどこにいるのか、店舗を構えているような既存の事業者とは異なり、創業支援の課題
である。創業予備軍発掘は、2 年間の実績では、新聞広告チラシが最も効果的であった。三木市の人
口規模や地域性によるものと考えているとのことである。
フォローアップ内容が充実してきたため、図表 3-9.に示すように創業相談者数だけでなく創業実現
者、創業準備中の数、女性起業家、商店街パワーアップ事業利用者など細かな施策メニューの活用に
ついての実態が把握できていることが示されている。
図表 3-9.創業支援の実績
施策メニュー
平成 26 年度実績
平成 27 年 9 月末実績
女性起業セミナー
4 回 30 名(延べ 61 名)
3 回 13 名(延べ 37 名)
創業セミナー
18 回 73 名(延べ 256 名)
4 回 14 名(延べ 43 名
三木市中小企業 SC 窓口相談
1,294 件(うち創業 187 件)
665 件(うち創業 160 件)
創業相談者数
46 名
28 名
創業実現者
10 名(うち女性 4 名、特定創
9 名(うち女性 2 名、特定創業
業支援事業 1 名)
支援事業 8 名含む)
創業準備中
3 名(うち女性 2 名、特定創業
支援事業 2 名含む)
商店街パワーアップ事業
1 名(女性 1 名)
3 名(女性 3 名)
三木市支援証明書発行
2名
7 名(女性 2 名)
創業促進補助金(国)
4 件(女性 3 件)
5 件(女性 2 件)
女性起業家支援事業補助金(県)
2件
1件
シニア起業家支援事業補助金(県)
1 件(女性 1 件)
コミュニティ・ビジネス離陸応援事
1 件(女性 1 件)
業補助金(県)
日本政策金融公庫創業融資
5 件(女性 3 件)
県開業融資
1件
④
5件
今後の課題
今後の課題は、確実な成果が見られる本事業の継続である。平成 28 年度以降の本事業継続を念頭に、
窓口相談、企業訪問、セミナー開催など中小企業支援を行う中小企業診断士(認定経営革新等支援機
関)等の専門家による「三木市中小企業サポートセンター」の継続を柱として、三木市中小企業振興
条例に基づく中小企業振興策に沿って、継続のための準備が既に進められている。
30
(2)多可町
多可町役場は、平成 27 年度から多可町商工会、金融機関(兵庫県信用組合、中兵庫信用金庫)と連
携し、創業希望者の発掘から創業実現に向けての支援を行う体制を新たに構築した。
平成 27 年度~31 年度にかけて、創業支援相談窓口・創業セミナーで創業希望者の発掘と基礎知識
の習得、創業支援事業補助・新規商品および販路開拓支援・IT 起業補助等の取組みを行うことになっ
ている。
①
創業の現状
多可町は「人口減少」と廃業等による「地域の元気の低下」が重要課題と認識しされている。地
元から大学等に進学して卒業しても、雇用先としては役場か JA ぐらいしかない。地元に帰っても、
就職先はないので地域外で就職し町外で住んでいる人が多い。地域経済が衰退しているので新規創
業者が増加することも少ない。
②
創業支援計画
創業については、町内からの女性起業家などの希望者を商工会が担当し、町外からの UIJ ターン
を町役場が担当する役割分担を行っている。
東京での説明会などの活動を行い、UIJ ターンの対象者の発掘をしている。創業希望者の個別相
談については、よろず支援拠点のサテライトとして専門家に定期的に開催してもらっている。
図表 3-9. 多可町創業支援計画
(出所)http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki/nintei.html
31
創業希望者がどこにいるのか、把握することは難しいので相談窓口を訪問した人のデータを一元
的に管理することにし、創業に関する情報提供や進捗状況の把握、創業ステップに適した支援の実
施や創業支援制度等の紹介を継続的に行い、多可町での創業実現に結び付ける。
国対して掲げている年間目標は、創業支援者件数 62 件、創業者数 13 件であるが、創業支援ネッ
トワークは、立ち上げたばかりなので実際どのように機能して成果を上げて行くのかは見不明確な
点も多い。
下記の通り、兵庫県よろず支援拠点の協力による支援の頻度が高く、手ごたえも出ているが、さ
らに日本政策金融公庫やハローワークからはセミナー講師として協力を申し出てもらうなど各支援
機関の協力を得ながら実施すべき内容を検討している。
③
創業支援事業の実施
多可町ではビジネスアイデアを如何に実現するかというイメージで、支援の段階ごとに検討して
いる。
図表 3-10.
多可町の段階別支援
(出所)http://www.town.taka.lg.jp/kouho/2015/09/201509.pdf
1)相談窓口
ビジネスアイデアや創業・起業に関する相談など随時、地域振興課で聞き、相談内容に応じて
専門家や制度などの紹介を行う。
32
2)サテライト相談所
兵庫県よろず支援拠点と連携し、中小企業診断士などの専門家が創業に関する相談を受け付け
ている。(毎月第 3 木曜日、役場 2 階
第 3 会議室、参加費
無料、要事前予約)
3)創業ミニセミナー
創業に興味のある人 5 人以上を集め、少人数のミニセミナーを兵庫県よろず支援拠点のコーデ
ィネータが随時開催する。
4)創業塾
4 日間で人材、販路、財務、経営などの創業の基礎知識を身に付ける。第 1 回は一般向け、第 2
回は女性向けに企画している。
④
創業・起業支援補助金
町内に事業所の拠点を置いて、町内在住者で新たに起業する人または UI ターンで創業する人に対
して、創業・起業時の経費の一部を補助
1)応募条件
町内に住所を有する事業所または個人、創業・起業後 5 年間は町内で事業をすること、町税お
よび公共料金を滞納していないこと、事業計画が明確で、起業の実現性が高い模範となる事業で
あること、多可町商工会の審査・推薦を受けること
など
2)補助対象
開設費、設備費、機械器具費、建築物費(不動産取得は除く)、広告宣伝費、起業地確認経費、
移転経費
など
3)補助額
対象費用の 3 分の 2 以内
限度額:20 万円(消費税含む)26
⑤
各種補助制度などの紹介
県などが実施する創業・起業に関する補助制度を紹介する。実際に応募したい人には、応募に必
要な書類作成も手伝う。例:IT 事業所を開設するための初期投資への補助制度27
地域の現状についても問題意識を持って取り組もうとされている動きがあった。しかし、町役場
では定期的に担当が交代するので、中小企業診断士のような専門的な知識を修得してまで支援を行
いたいと考える人材は多くはないようである。
26先着順で予算の範囲内での支援となり、予算額に達した時点で終了
27多自然地域における産業振興や地域の活性化を図るため、県下に整備された超高速・高速通信ネットワークを
活用し、多自然地域に IT 関連の事業所を開設する IT 関連事業者に経費の一部を補助する。次の地域において新
たに IT 関連の事業所を開設すること。
但馬地域、丹波地域、淡路地域、多可町、神河町、宍粟市、佐用町、西脇市、赤穂市、上郡町、たつの市(旧新
宮町の区域に限る。)
33
(3)篠山市
①
創業支援の状況
従来、篠山市および篠山市商工会を窓口として、個別相談や「篠山市起業支援助成金制度」を活
用して創業支援を行っていたが、平成 27 年 10 月 2 日に篠山市「創業支援事業計画」が認定された
ことを契機に、創業塾などの支援事業強化を進めることとなった。
②
篠山市「創業支援事業計画」
篠山市では、図表 3-11.の通り日本遺産にも認定された豊富な地域資源を活用した創業支援を関
係機関との連携により初期段階からビジネスモデルの構築に向けての連続的な支援を行っている。
図表 3-11. 篠山市創業支援事業計画
(出所)http://www.city.sasayama.hyogo.jp/pc/group/shoukou-shinkou/ recruitment/
post-76.html
34
1)参加支援機関
篠山市、篠山市商工会、地域金融機関(但馬銀行篠山支店、兵庫県信用組合篠山支店、中兵
庫信用金庫篠山支店・城東支店・古市支店・丹南支店)、㈱日本政策金融公庫尼崎支店
2)内容
各機関での相談窓口対応、創業塾の開催、専門家派遣、創業融資の情報提供などを実施し、
豊富な地域資源を活用した創業の促進を図っていることが特徴である。
商工会の創業相談・支援を受けることを条件に、「篠山市起業支援助成金」や「空き店舗対策
補助金」などを受けることもできる。起業支援助成金は開業資金の負担を軽減し、市内での操
業を促進するもので、空き店舗対策補助金は中心市街地の活性化のために起業者の条件交渉な
どを支援し改装費などを助成するものである。商工会は起業計画段階から伴走型支援を行う。
3)「篠山創業塾」
平成 27 年⒒月 21 日より、5 回シリーズで本格的創業塾の開催に取り組む計画である。対象者
は開業を目指す人で、定員 20 名。参加費無料。創業の心得から始まり、マーケティングおよび
会計・税務・労務などの知識教育を経て、創業計画作成、個別相談までを予定している。
また現在、篠山市がJR篠山口駅構内に「人材育成拠点
えきなかイノベーションラボ」(従
来は篠山市民プラザとして企画されていたもの)を設立中である。これは、国が進める地方創
生のモデル事業として選定されたもので、市が篠山市で起業する若者らを対象に相談窓口を設
け、講座を予定している。市や商工会、金融機関に加えて神戸大学などで作る運営協議会がア
ドバイスを行なう。
創業支援事業計画では年間目標として創業計画策定 10 件と創業支援 10 件を目指している。
③
篠山市「経営発達支援計画」について
1)「経営発達支援計画」について
人口減少などによる地域活力の減退に対して、地域経済を支える小規模事業者が、地域で経営
を持続的に行うために、地域ぐるみで小規模事業者を面的に支援することを目的として平成 26
年 6 月に、「商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律の一部を改正する
法律」が成立した。その内容は、a.伴走型の事業計画策定・実施支援のための体制整備、b.商
工会・商工会議所を中核とした連携の促進、c.独立行政法人中小企業基盤整備機構の業務追加
を中心とするものである。
2)篠山市「経営発達支援計画」の概要
篠山市商工会が実施者となり、兵庫県、篠山市、地域金融機関、よろず支援拠点などと連帯し
て小規模事業者を中心とする個別企業の経営力の向上、販売促進等を継続して支援する。
事業内容は、経営発達支援事業と地域活性化事業とに分かれている。中心市街地の賑わい復興
や商店街空き店舗対策事業を含めた起業支援に力を入れ、インバウンド観光との相乗効果を期
35
待している。地場産業の活性化のために、丹波焼の伝統の上に「TSブランド」(丹波焼の洋
食器ブランド)を振興、発展させることをも意図している。
3)篠山市「経営発達支援事業」の事業内容
a.経営発達支援事業の推進
まず、地区内経済動向を調査・分析し、小規模事業者の実態を把握し、課題を抽出して情
報提供と個別提案を行う。次いで、経営分析と需要動向調査を行い経営改善に前向きな小規模
事業者に対して目的を明確にした事業計画策定支援を行う。
創業・第二創業(経営革新)支援事業については、篠山市「創業支援事業計画」の全体が
篠山市「経営発達支援計画」の中に組み込まれている。地域の賑わいの創造と定住促進を図
るために、創業支援からフォローアップ迄の伴走型支援を実施する。
図表 3-12.
篠山市経営発達支援計画
(出所)篠山市経営発達支援計画
さらに小規模事業者販路開拓支援として、篠山市や兵庫県商工会連合会などの連携機関の情
報を取捨選択して、有効活用できる小規模事業者に提供する。たとえば、篠山市主催の「企業
36
紹介展」では地域優良企業に出展斡旋を行い、地域内小規模事業者に出展企業とのマッチング
を提案し、地域企業間取引促進を目指す。
b.地域の活性化に資する取り組み
地域活性化事業として以下のように取り組む計画である。
先ず、デカンショまつりや丹波篠山味まつり、陶器まつりなどによる「篠山ブランド」の周知
を推進する。篠山市、篠山市商工会、丹波篠山観光協会、丹波ささやま農業協同組合などで組
織するイベント実行委員会において「篠山ブランド」の保持発展を図る。
次いで、市民のおもてなしマインド向上対策を実施する。商工会では「おもてなしマイスタ
ー育成講座」を主宰して、篠山市民のおもてなしマインドを向上させることを目指している。
さらに、インバウンド観光対策を推進する。篠山市、篠山市商工会、丹波篠山観光協会、民
間ツーリズム会社等と共に、古民家を活用したツーリズ活動を実施し、「篠山古民家再生・活
用プロジェクト」の支援も行う。
伝統ある丹波焼の普及を目的に共同開発された丹波焼の洋食器ブランドについては、「Ta
nba Style(TS)
丹波焼のある生活提案」事業の展開として、首都圏や阪神間に
10 か所の販売拠点の開拓支援も検討されている。
④
成果と今後の課題
1)「創業支援事業計画」関係
「創業支援事業計画」の支援事業として開催された「創業塾」は、9 名の参加者を得た。男
性 4 割、女性 6 割の割合であり、女性参加者の場合は小規模創業を希望する場合が多いことが
特徴である。そのうち 9 件が「篠山市起業支援助成金」を受けることとなった。
「起業支援助成金」を含めて、「創業支援事業計画」の認定と「創業塾」などの施策実施に
より窓口相談者数は増加している。今後は、増加する創業希望者に対して「創業塾」をはじめ、
商談会などの実践的体験型企画をさらに充実させ、創業者数を増加させることが課題である。
さらに「よろず支援拠点」や「ミラサポ」など公的支援機関との連携も増えているため、市内
外の支援機関連携をさらに深めて、伴走型支援を推進することも課題である。
2)「経営発達支援計画」関係
篠山市では従来から地域事業者に対する経営改善支援だけでなく、地域振興に力を入れてき
た。こうした取り組みを反映して、「経営発達支援計画」では、上記のように経営発達支援事
業と地域活性化事業とが計画されている。
特に創業支援に関しては、「創業支援事業計画」が「経営発達支援計画」の中に組み込まれ
ていることを活かして、創業希望者の段階に応じた伴走型支援を実施し、創業後も企業の発達
に応じた支援を実現することが課題である。その場合に、「経営発達支援計画」の中に地域活
性化事業が組み込まれていることを活かして、地域資源を活用した支援や、空き店舗対策など
37
の地域活性化事業の活用をも検討することが重要である。
篠山市商工会では創業支援に関与できる人員が少ないため、都市部のように創業希望者の段
階に応じた多面的対応をとることは困難である。しかし商工会幹部の強力なリーダーシップの
もとに、創業支援を熟知した担当者が、地域資源を活かした伴走型支援を行うことにより、段
階に応じた支援が進められている。
農業関係では加工・流通部門が遅れているため、今後は販路開拓に加えて、「ものづくり補
助金」や「小規模事業者持続化補助金」への取り組みも実施して、地域の加工・流通部門の創
業・経営革新などの支援を強化することも課題である。
(4)朝来市
朝来市では、平成 26 年度より「朝来市経済成長戦略」を策定し「進化・挑戦する
メイド・イン・
朝来」をテーマに、全市的な取り組みによる自律的な経済発展を遂げるまちづくりを進めている。
図 3-13.
朝来市成長戦略概要
(出所)朝来市(2015)
①
創業の状況
朝来市内での近年の創業件数は、毎年 10 件前後で推移していたが、26 年度は 18 件と大きく増加
38
した。当市は、「天空の城」として有名な竹田城跡を中心とした観光地を有し、近年マスコミ等で
大きく取り上げられる機会が増えたことから観光客数は増加の一途をたどり、その需要を見込んだ
飲食店や小売業の開業が増加した。また、UIJ ターン創業者も 26 年度は前年の 4 倍となる 8 件の
新規創業があった。
当市は、平成 7 年に 4 町28の合併によって発足した。内陸の山間部に位置しているが、旧来より
交通の要衝であること、他地域に比べ竹田場跡をはじめ、山城の郷、道の駅あさご村おこしセンタ
ー、生野銀山、黒川温泉、よふど温泉、神子畑選鉱場跡、立雲峡、道の駅但馬のまほろば、茶すり
山古墳、埋蔵文化財センター古代あさご館、大町藤公園などの観光資源に恵まれていることなど多
様な魅力を持ち観光客など人の流入も多いことから新規創業には比較的有利な地域であるといえ
る。
しかし、実際には創業は前述のように竹田地区に集中しているのが現状であることから、今後
は観光資源のネットワーク化による他地域への波及効果の増大や「メイド・イン朝来」製品など地
域資源の再発掘といった成長戦略の推進が当地域でのさらなる創業促進の契機となることが期待
され図表 3-14 ように、あさご元気産業創生センターによるネットワークが構築されている。
図表 3-14.
あさご元気産業創生センター(A-pic)
(出所)http://www.a-pic.network/apic/
28
和田山町・生野町・朝来町・山東町
39
②
創業支援の現状
これまで、朝来市では、空き店舗の減少をめざし、空き店舗を活用しようとする創業者に対し
て商工会と連携して支援を行ってきた。今年度、創業支援事業計画の認定を受け各関係機関と連
携して創業希望者を支援する体制を整備し、年間支援対象者 50 件の内 5 件の創業実現を目指して
いる。支援事業は商工会が主導しており、商工会と市の連携は円滑な状態であり、人材も比較的
潤沢であるといえる。また、企業退職者をアドバイザーとして公募採用し新たな視点で地域内の
活性化を図る取り組み姿勢が顕著である。
③
創業支援の特徴
成長戦略の主要事業のひとつに「地域産業創出支援事業」がある。
これは、すでに平成 25 年度に予算化され準備が始まっており、地域産業振興支援、起業支援、
産学公連携、農商工連携、6次産業化支援など地域内発型事業の展開により地域産業の創出と振
興、雇用の確保を図ることを目的としてその支援組織の設立や専門家の登用を進めるというもの
であり、27 年 4 月「あさご元気産業創生センター(A-pic)」が設置された。主に起業支援、朝来
ブランドの構築、異業種連携の推進など地域経済の再生・活性化に関する問題解決に取り組んで
いる。
中でも市の主導により開講された「ASAGO 大学」は創業支援だけに特化したものではないが、
業界や業種、性別や年齢を超えて地元について学び、語りたいという人びとの交流の場となって
おり、ここから新しいビジネスのヒントやパートナーの発掘へと繋がる可能性が大きいといえる。
《あさご元気産業創生センター(A-pic)の創業支援》
・ワンストップ相談窓口(全国公募による起業 OB アドバイザー2 名常駐)
・創業支援関連補助(保証枠拡充、減税等)
・融資制度、国・県補助制度についての情報提供
・異業種交流会の開催(創業者交流)
《朝来市商工会の創業支援》
・窓口相談
・創業塾
・市補助制度との連携
・創業塾修了者に対するフォローアップ
・にぎわい創出事業
(5)淡路市
淡路市では、これまで「いつかきっと帰りたくなる街づくり」をキャッチフレーズに少子高齢化、
人口減少等地域の課題に取り組んできたが、平成 27 年 10 月より「淡路市地域創生総合戦略」を策定
しこれまでの施策を検証するとともに、幅広い専門分野からのさまざまな提案を反映した新たな施策
40
により課題の克服とさらなる地域創生をめざしており、創業促進もその一環として同戦略の中で位置
づけられている。
①
創業の状況
当市では、国や県に比べ審査基準のハードルが低い独自の創業補助金制度を設定し、これまで年
間平均約 10 件程度の創業者を生み出してきた。業種は、比較的開業しやすい飲食業・サービス業に
偏っておりこの傾向は他地域とさほど変わりはない。特に、近年では美容院やエステサロンなど女
性による創業が目立ち、事業計画や明確なビジョンを持ちしっかりと準備の上創業する人が多いと
のことである。
②
創業支援の現状
「起業家支援セミナー」など近隣商工会や商工会議所の後援を得て実施している支援策もあるが、
基本的には商工会単独での実施であった。創業支援事業計画の認定を受け、市や金融機関その他の
関係機関との連携による総合的な創業支援の実施が期待されるところであり、現在は、その連携の
方法やあり方について模索中である。
③
今後の取り組み
「淡路市地域創生総合戦略」を策定した「淡路市まち・ひと・しごと地域創生本部」には 4 つの
専門部会29があり、そのうち「雇用部会」では「社会的要因による人口増加に向けた雇用施策の展
開」を基本目標に掲げ、雇用創出の観点から「いつかきっと帰りたくなる街づくり」の実現を目指
し、以下のように 5 つの基本的方向を定め、人口減少の緩和と地域活性化を図ろうとしている。
《講ずべき施策に関する基本的方向》
1)新卒者(高卒)の島外流出を緩和
小学生の頃から、地元企業の魅力の知識を提供することで、地元企業への求心力を高め、将
来地元企業に就職するという意識付けにつなげ、新卒者(高卒)の島外流出を緩和する。
2)UIJ ターンの促進
a.島外に転居した大学生等に地元の就職情報をはじめとした「ふるさと情報」を発信し、U
ターン就職を促進する。
b.UIJ ターンを対象にした家賃補助等の奨励制度の充実を図る。
c.淡路島の歴史、文化、風土等、住みやすさと魅力を発信することで、淡路市への求心力を
高め、UIJ ターンを促進する。
3)新規起業しやすい環境づくり
a.近年、島外から移住し古民家を活用した飲食店を開業した好事例が、マスコミ、雑誌等で
29
雇用部会(雇用創出に係る施策の調査及び検討に関すること)、転入・転出部会(定住人口の増加、転出人口
の抑制に係る施策の調査及び検討に関すること)、結婚・出産・子育て部会(結婚、出産、子育てに係る施策の
調査及び検討に関すること)、地域連携部会(交通機関を含むインフラ環境の整備、防災、その他の地域活性化
に係る施策の調査及び検討に関すること)
41
報じられている。これらの好事例に学び、新規起業しやすい環境づくりを支援する。
b.新規起業後の情報提供や経営指導するなどアフターケアを強化することで、新規起業を促
進する。
c.遊休農地及び耕作放棄地の情報を発信し、積極的に農地を貸出しするなど、企業参入や新
規就農の促進を図る。
4)地域資源活用による雇用の創出
a.「あわ神・あわ姫」のキャラクターを生かし、観光産業の活性化を図ることで雇用を創出
する。
b.田舎町の地域資源を生かした地域活性化の事例を調査検討し、地域に適した新たな地域活
性化策を講じる。
c.第 1 次、2 次、3 次産業の連携による第6次産業化を目指すことで、地域資源に新たな付加
価値を生み出すとともに、雇用の創出を図る。
d.自立型基盤整備事業を具現化するモノ・コトづくりのためのプラットフォーム事業につい
ては、既に、同様の事業を実施している NPO 法人と協議の上、取り組む。
5)企業誘致の促進と販路拡大による雇用の創出
a.ICT 技術を活用した産業に代表される多様な就労が可能な分野の産業を誘致することで、
時間的に家庭と仕事の両立が図られ、女性が就労しやすい環境の充実、女性の社会進出を
促進する。
b.奨励制度の充実、インフラ整備の充実等、企業が立地しやすい環境づくりに向けた支援を
強化することで、企業誘致を促進する。
c.新たに、海外への販路を拡大することで、生産量の増大を図り、雇用の創出に結び付ける。
特に、3)新規起業しやすい環境づくりでは、遊休農地や耕作放棄地の解消をめざし、就農希望
者への農地提供や補助金給付など農業活性化への取り組みが注目され、これらは都市部ではみら
れない創業支援のあり方といえる。
図表 3-15 に、創業関連の具体的な政策目標を示す。
図表 3-15.淡路市新規起業しやすい環境づくり施策目標
内
容
KPI(重要業績評価指標)
新規起業後の情報提供・経営指導
経営指導件数
新規就農給付金事業
補助金交付件数
農地の利用状況調査、遊休農地解消
遊休農地削減
14 件
4件
10ha
基準値
企業件数
14 件
補助金交付件数
2件
遊休農地削減
3ha
補助金交付件数
7件
(就農希望者への農地提供等)
新規起業者支援事業
補助金交付件数
10 件
(出所)http://www.city.awaji.lg.jp/uploaded/attachment/14170.pdf
42
3.まとめ
(1)都市部
①
都市部における創業支援ネットワークの構築
第 3 章 1.都市部における創業支援の取り組みで述べたように、本稿で都市部とした 11 都市のう
ち平成 27 年 10 月現在、7都市で創業支援事業計画が認定されており、県下都市部の計画策定率は
高い水準にある。さらに、事業計画における連携機関はいずれも、市と商工会議所(または商工会)
を中心として、金融機関などを含めて多方面から創業希望者を支援するための創業支援ネットワー
クが構築されている。特に、神戸市では、「開業支援コンシェルジュコーディネータ」を設定して、
創業者の準備状況に応じて支援機関を横断した多彩な支援メニューを提供している。尼崎市におい
ては、支援機関間の人的交流が行われ、西宮市では「Nbis(西宮ビジネスイノベーション・サ
ポーターズネット)」による創業者情報の共有が取り組まれている。さらに姫路市では、周辺市町
へと支援連携の輪を広げようとしていることも特徴的である。
②
創業者の 4 ステージを意識した段階的支援体制
都市部において、特に人口の多い神戸市、尼崎市、西宮市、姫路市などにおいては、中小白書に
示された創業者の 4 ステージを意識した段階的支援への取り組みがみられる。初期創業希望者に対
する一般向け創業セミナーから、創業塾や、その修了生に対する専門家派遣などのアフターケアま
できめの細かい支援プログラムが構築されている。また、神戸市や尼崎市では、創業者へのインキ
ュベーション施設の提供が行われている。これらの取り組みは、初期段階では集合的啓蒙活動とし
て始まるが、ステージが上がるにつれて、専門家派遣など高度な対応がなされ、伴走型支援とし取
り組まれている。
③
都市部における特色
創業者数を増加させるだけでなく、創業後も堅実に事業経営を継続できる企業としの力量を形成
することまでを想定した創業支援が計画されている。各創業塾での教育には、確実な創業事業計画
を各参加者が独自に作成することが企画されており、その後の課題発生については専門家派遣で対
応する体制が組まれている。
創業支援の一つの深化形態として、尼崎商工会議所や西宮商工会議所では女性創業希望者を対象
としたセミナーが開催されている。最近、創業希望者の中で女性希望者が増加していることに対応
したもので、女性向けに特化された内容であるため、受講者からは好評を得ている。
しかし、都市部支援機関では、人口が多いためかえって創業支援の認知度をいかに高めるかが課
題となっている。従来の告知方法に加え、一部では SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)
を活用した告知方法が実施されている。
(2)地方部
今回の調査では、先述した 3 つの仮説をもち地方部の 5 自治体に対しヒアリングを実施したが、結
43
果としてすべての地域が一概にその仮説に該当しているとはいえず、下記のように地域ごとにさまざ
まな課題が存在し、その解決のための創意工夫がなされているあるいはなされようとしているという
状況が明らかになった。
【仮説 1】
地方部の経済は衰退しており、創業支援においても予算、人材不足により停滞気味であり、創業
のステージに対応したきめ細かな支援など十分な支援がなされていない。
【調査結果】
三木市:リーダーシップのあるキーマンによるイニシアチブや行政と支援機関との円滑なネットワ
ークの形成および外部人材の活用
篠山市:経営発達支援計画の一環としての目標設定と予算配分
朝来市:全国公募による外部アドバイザーの採用
【仮説 2】
都市機能・都市イメージから創業の地として成功し難いイメージが先行しているため、創業に対
する動機が働きにくい。
【調査結果】
朝来市:観光資源の積極的活用や地域産物のブランド化の推進による地域魅力の向上、地域交流の
場の提供
淡路市:企業誘致による販路拡大
【仮説 3】
都市部とは違った地域の創業支援のあり方を提案するべきではないか。
【調査結果】
多可町:サテライト相談所の開設による UIJ ターン対象者の積極的な発掘
淡路市:就農希望者への補助金や農地提供
地方部にとって人口減少や経済衰退は都市部以上に深刻であり、地域の存続そのものに関わる問題
である。各地域においてはその解決のためにあらゆる施策に取り組んでいるところであり、地方部に
おける創業支援はあくまでもその施策の一環という位置付けである。単に創業者数を増やすだけでな
く、人口維持や地域産業の振興など切実な課題解決を見据えた上での支援といえ、今後の取り組み如
何では地方部の地域間で格差が広がる恐れもあるものと考えられる。
44
第4章
都市部における創業支援の事例(神戸開業支援コンシェルジュ)
本章では、(公財)神戸市産業振興財団が主体となり実施する「神戸開業支援コンシェルジュ」支
援事例を取り上げ、都市部において創業支援の成果をあげるためのポイントについて分析したい。
1.事業の概要
「神戸開業支援コンシェルジュ」は、平成 23 年度に創業希望者への伴走型支援を目指し、(公財)
神戸市産業振興財団が主体となり開始した事業である。同事業は中小企業庁の起業支援のモデルとな
った事業でもある。同事業では、神戸市内にある支援機関の創業支援担当部署が創業支援のチームを
つくり、起業・創業希望者に対して、窓口相談や専門家によるアドバイスを行うほか、セミナーの開
催、インキュベーション施設の提供などを実施している。
図表 4-1.
神戸市開業コンシェルジュ事業モデル
(出所) http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki/nintei.htm
同事業の最大の特徴は、「4 段階支援モデル」で分類されるように創業希望者の起業に向けての
準備状況に応じて、開業支援コンシェルジュ(以下、開業支援コーディネータ)が段階的な支援メニ
ューの橋渡しをしている点である。開業支援コーディネータには、企業支援だけでなく、資金調達や
45
マーケティングに精通した専門家を設置し、創業希望者の専門的な相談にも対応している。同事業に
おける相談者数は 5 年で 850 人を超え、兵庫県を代表する創業支援モデルの一つとなっている。
2.支援事業開始の経緯
平成 26 年 1 月に産業競争力強化法が施行され、各市町村には地域における創業支援体制の整備が求
められることとなった。平成 27 年 10 月時点では、全国(47 都道府県 771 市区町村)で 692 件の「創
業支援計画」が国の認定を受けている。
一方、「神戸開業支援コンシェルジュ」が始まったのは平成 23 年であり、産業競争力強化法以前に
(公財)神戸市産業振興財団が主体となり開始した事業である。
(1)創業支援に関する問題意識
同事業を始める背景となったのは、(公財)神戸市産業振興財団が実施するもう一つの創業支援事
業である「KOBE ドリームキャッチプロジェクト」にある。
「KOBE ドリームキャッチプロジェクト」は、新規創業や新規事業立ち上げ、新分野進出などを考え
る個人、ベンキャー企業、中小企業のビジネスプランを審査し、優れたビジネスプランは、同財団の
認定を受け創業支援サポートメニューが受けられるという制度である。過去 10 年にわたり続けられて
いる創業支援制度であり、応募者 953 件、認定事業数は 281 件にのぼる。資金調達や広報、販路開拓
など幅広い支援が受けられるとあって創業希望者にとっても魅力のある支援制度となっている。
ただし「4 段階支援モデル」の観点で見た場合、同制度の問題点は支援の対象者が優れたビジネス
プランが描ける「4 段階支援モデル」の後期者に偏るという点である。同制度の担当者も「ドリーム
チャッチプロジェクトの認定に漏れた創業希望者は、夢を否定されたように感じてしまい、創業その
ものを諦めてしまうことがある」との悩みを抱えていた。
このような問題意識のもと、設計された事業が「神戸開業支援コンシェルジュ」であり、「4 段階
支援モデル」の初期にあたる「起業希望者」や「初期起業準備者」も段階に応じた支援体制が整えら
れている。
46
図表 4-2.神戸市の創業支援事業と4段階支援モデルの関係性
①神戸開業支援コンジェルジュの支援範囲
②KOBE ドリームキャッチプロジェクトの支援範囲
(出所)中小企業庁(2014)から作成
3.神戸開業支援コンシェルジュの特徴
本項では、支援機関のネットワーク体制をとる「神戸開業支援コンシェルジュ」と支援機関が単独
で行う「従来型の開業支援」を比較しつつ、「4段階支援モデル」におけるネットワーク支援の有効
性を考察する。
図表 4-3 に従来型の開業支援と比較した「神戸開業支援コンシェルジュ」の特徴を記載する。
図表 4-3.神戸開業支援コンシェルジュと従来型支援の比較
特徴①
特徴②
特徴③
神戸開業支援コンシェルジュ
従来型の開業支援
支援機関の横串が入っている。
各支援機関が独自で対応。
(コーディネータが橋渡し)
(ともすれば縄張り争い)
伴走型の支援
支援メニュー単発、スポット相談
(開業起業者の脱落を防ぐ)
(創業の夢を諦めることもある)
専門分野の異なる人材が常駐
専門性の高い相談には対応に難い
(出所)筆者作成
47
(1)開業支援コーディネータの存在
第1の特徴として、「神戸開業支援コンシェルジュ」は、ネットワーク型の支援であり、支援機関
の横串を入れる開業支援コーディネータが存在する点があげられる。他地域の創業支援計画でも支援
機関同士のネットワーク図は見られるが、コーディネータの役割を明記した計画は少ない。従来型の
各支援機関が行う単独の支援では、ともすれば縄張り意識が生じ、創業希望者にとっては最適な支援
を得る機会を失うことになる。単にネットワーク図を描くのではなく、この壁を壊しネットワークを
機能させるのが、開業支援コーディネータの役割の一つである。
(2)伴走型の支援
第 2 の特徴として、従来の型の創業支援が個別相談や創業セミナーなど個々の支援メニュー単独で
終ることが多かったことに対して、「神戸開業支援コンシェルジュ」では、伴走型の支援を実施して
いる。具体的には、個別相談をした創業希望者には、その後の開業準備状況を 3 か月に一度、メール
で確認している。また、アフターフォローの際に新たな課題が浮き彫りになれば、専門家が対応にあ
たっている。
「4 段階支援モデル」の初期にあたる「起業希望者」や「初期起業準備者」は、創業セミナーや個
別相談で得た情報を元に作った開業計画を実行していくことに慣れていない。このような対象者に対
し、開業準備計画の実行サイクルを回すこと、また新たな課題にぶつかり立ち止まらないようにする
ことで開業までの道筋をハンズオンで支援している。
(3)専門分野の異なる人材が常駐
第 3 の特徴は、資金調達やマーケティングなど専門分野の異なる人材が常住し、開業希望者からの
相談に対応している点があげられる。これは重要なポイントで「4 段階支援モデル」を用いて伴走型
の創業支援を実施には、専門性の高い相談に対応できる体制を構築するのが一つの要件となる。
図表 4-4.4 段階支援モデルと創業者が抱える課題の関係性
一般的
創業希望者が抱える課題の質
専門的
(出所)中小企業庁(2014)から作成
48
なぜならば「4 段階支援モデル」の初期にあたる「起業希望者」や「初期起業準備者」は、創業全
般に関する一般的な課題を抱えることが多いが、「起業準備者」や「起業者」など後期になるにつれ
て、相談者の抱える課題はより専門性の高いものになる。
一人の創業希望者であっても、起業準備が進むにつれ課題の質が代わりより専門性の高いものにな
る。このような相談者に対し、伴走型の支援を進めるには、一つの支援機関、一人の専門家では対応
力に限界が生じやすい。
「神戸開業支援コンシェルジュ」では、このような状況に対応するため、「資金調達」「マーケテ
ィング」「人材・労務管理」「企業法務」「貿易」「IT」など専門性の異なるコーディネータが担当
日を決め、常駐している。このように創業希望者の専門的な相談に対応できる人材を確保できるかが、
4 段階モデルの伴走型支援を実施するうえので一つのポイントとなる。
4.考察
神戸開業支援コンシェルジュがなぜ一定の成果を上げたか
本章では、都市部における創業支援として「神戸開業支援コンシェルジュ」の事例を研究し、同事
業が創業支援において、何故、一定の成果をあげてきたのかを調査した。その要点をまとめると、次
の 3 つがあげられる。
(1)創業支援の実施主体が問題意識を持っていたこと
第一の要点は、「神戸開業支援コンシェルジュ」の実施主体である(公財)神戸市産業振興財団の
担当者が、従来の創業支援に問題意識を持ち、伴走型支援の必要性を感じていたことがあげられる。
国の号令のもと「伴走型支援」「ハンズオン支援」というテーマが多くの支援機関で掲げられるが、
創業支援の現場から「起業希望者」「初期起業準備者」への支援の必要性に気づき、自ら伴走型支援
を実施できる実行体制を構築したことは大きな違いである。
(2)専門性の高い多様な人材を確保できたこと
第二の要点は、伴走型の支援に必要な専門性の高い多様な人材を確保できたことがあげられる。「4
段階支援モデル」の後期になると、より専門性の高い助言をするために支援者には経験やノウハウが
必要になる。このような人材を確保できたことが事業を円滑に進められる要因となっている。
また、同事業では「資金調達」「マーケティング」「人材・労務管理」「企業法務」「貿易」「IT」
など専門性の異なるコーディネータが相談者と他の支援機関との橋渡し役になっており、必要に応じ
て相談者に最適なサポートメニューを提供できるようになっている。
(3)神戸という都市の魅力と創業支援の成熟性
最後に神戸という都市の魅力をあげる。神戸は全国区に知られた商業都市であるだけでなく、神戸
港を中心とした貿易、重工業製品の製造、医療産業都市など、さまざまな産業集積があり、創業者に
とって魅力ある都市である。
また、支援機関の側から見ても、創業希望者が集まりやすく、人や予算、情報を集めやすい。専門
性の高い人材を確保できたのも、県の中心都市であるというのが大きく影響している。このような要
49
素が有機的に重なり合い、神戸では「神戸開業支援コンシェルジュ」や「KOBE ドリームチャッチプロ
ジェクト」にみられるように創業支援事業そのものが成熟している。従来の創業支援に問題意識を持
ち、伴走型支援の必要性に気づいたのも、創業支援事業の成熟性が大きく影響している。
本章では、比較的創業支援に優位な状況を持つ都市部の創業支援事例を調査した。
次章では、都市部と比較して、人、予算、経済環境の面で十分な資源を有さない地方部における創業
支援事例を研究し、成果を高めるための要因を探る。
50
第5章
地域企業の新たな取り組みの事例
1.事例調査
(1)豊劇新生プロジェクトの事例
①
プロジェクトの背景
兵庫県の日本海側、豊岡市にある映画館、豊岡劇場(通称:豊劇)は、昭和2年(1927年)に芝居
小屋として始まり、社交ダンスの場、戦時中は倉庫、そして映画館と大衆文化の場として、常に多
くの周辺地域住民に愛され続けた末に85年の長い年月を全うし、平成24年(2012年)に閉館した。
豊岡劇場は、あと13年続けば100年続く映画館となりえる。全国で映画館が閉館に追い込まれる中、
この劇場が地域にとっての希少な文化遺産となることが明白だった。
そこで、有限会社
石橋設計(代表取締役
石橋秀彦)が、劇場を譲り受け、まちの大衆文化の
シンボル「豊岡劇場」をリノベーションし、再び地域に文化の拠点を作りあげたいとの思いから、
豊劇新生プロジェクトを進めている。「映画だけじゃない映画館」を目指した新しい「場」を創出
することを目的としている。築90年の映画館をリノベーションし、地域コミュニティの活動の場を
提供し、国内外のクリエイターが集まり交流と制作を行う、映画館を核とした活気ある「場」を創
造することを目指している。
②
取り組みのプロセス
2013年10月に事業を始めるにあたって、取引先の但馬信用金庫日高支店の石高次長が、兵庫県立
大学経営学部の西井教授を紹介し、ビジネスモデル・キャンパスを用いて当時の構想をビジネスモ
デルとして整理することから始めた。その後、学生も加わり、豊岡にてワークショップを開催し、
さらにビジネスモデルを煮詰めた。さらに、社会人大学院修了者も加わり、多角的な視点からビジ
ネスモデルの修正について議論している。
オープン直前の2014年10月~11月には、インターネットによる遠隔会議や学生主体でのマーケテ
ィング調査を行い、2014年12月20日プレオープン、12月27日グランドオープンしている。
地元内外の個人、商店街、グループや地元企業に、新しい会員になってもらうことでも協力をし
てもらっている。また、国の補助金である「中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス
革新事業」に採択され、映画上映システムのデジタル化を行った。
旧豊岡劇場を再生し、もう一度映画館として復活させるのは、総人口8万人の一地方都市としては、
事業として非常に厳しいと判断した。
ロビーはリノベーションし、まちの拠点/CAFÉ&BARとして再生、小ホールは座席を無くし、地域
コミュニティやクリエイターのためのフリースペースへ変更した。
大ホールは原型を保ちながらも、映画上映だけでなくイベント等を運営し、また今後室内駐車場
はテナント店舗に改装し、日々の収益を上げて劇場の運営を続けようとしている。
51
図表5-1.豊劇のコンセプトイラスト
(出所)豊劇ホームページより作成
③
取り組みの目標
1)周辺地域の文化の担い手を後押しする
2)家や職場以外の第 3 の居場所づくり
3)クリエイター、作家の育成の機会をつくる
4)地域外、海外との交流を促進する
5)地域で暮らす事を楽しむ場所をつくる
④
新規会員制度の実行
あくまで民間の営利企業として事業をおこなうためには、映画入場料だけに依存できないことは
明らかであった。そこで、カフェ・バーによる飲食、グッズ販売に加え、ホールのレンタル料(小
ホール・大ホール)、テナント料、年会費の豊劇ファンクラブによる運営の安定化を図っている。
⑤
クラウドファンディングで小ホール補修
クラウドファンでング及び直接寄付してもらった資金は、地域のコミュニティまたは全国のクリ
エイターの方々にフリースペースとして提供し、小劇場のリノベーション費用として、残りは大劇
場および、建物全体の老朽化に対応した修繕工事に使用した。
⑥
豊劇新生プロジェクト代表
石橋秀彦氏へのインタビュー
私は、1969 年生まれで、豊岡市の中学校を卒業後、1985 年に北アイルランドの高校へ留学しまし
た。その後、アルスター大学で芸術を学び、マンチェスター・メトロポリタン大学・大学院 FINE
52
ART
修士課程を修了しました。ロンドンでの作家活動後、1999 年に帰国、その後東京の専門学校で講師
や英語教師等として勤め、2008 年に東京渋谷のユーロスペースにて、北アイルランド映画祭を主催
しました。
豊岡に帰ってきて、不動産事業や飲食店経営を行っていますが、自分を育ててくれた豊劇への熱
い思いがあり、地元の金融機関の方の紹介で、兵庫県立大学経営学部の西井教授とお出会いし、自
分の想いをビジネスの形にするにはどうすれば良いか一緒に考えて頂きました。
西井ゼミの学生さんにも参加頂き、マーケティング調査や神戸・豊岡でのワークショップ、遠隔
会議などで沢山のアイデアが生まれました。
オープン以降、無声映画に音楽の愛好家が自分たちのイメージの音楽を付けるワークショップや
「食」を楽しむイベント、さらには移動上映会などで地元での新たなネットワークが広がりつつあ
ります。
豊劇の周辺に、おしゃれな飲食店などを集め、豊岡市民だけでなく但馬・京丹後エリアの市民(電
車・車で無理なく来れる範囲)さらに広域な観光客などをターゲットにしたイベントなどで町の賑
わいを作っていきたいと考えています。
(2)神河町の事例
①
神河町の現状
神河町は、平成 17 年 11 月 7 日に神崎町と大河内町が合併してできた兵庫県のほぼ中央に位置し
てする、「ハート型のまち」である30。神河町は豊かな自然や農産物、多数の観光資源、文化・ス
ポーツ施設を有するなど、心の豊かさを育むための環境が充実し、また各集落における住民主体の
自治活動も活発に行われている31。
北部は、朝来市、東部は多可町、南部は市川町、姫路市、西部は宍粟市と接しており、播磨と但
馬を結ぶ、歴史ある地域である。 南北方向に JR 播但線と国道 312 号線、播但連絡自動車道が走り、
また、町の南部の福崎町には中国縦貫自動車道が位置していることから、姫路市まで約 40 分、京阪
神まで約 90 分以内の、良好なアクセス環境が整っている。神河町の面積は、202.27 平方キロメー
トルで、その 8 割を山林が占めており、千町ケ峰を筆頭に、千ケ峰・暁晴山など、1000m級の山々
に囲まれている。峰山・砥峰高原は関西地方でも有数の高原地帯となっており、自然志向型の都市
住民との交流の場ともなっている。
一方、平野部分においては、小田原川、市川、越知川といった河川沿いに集落が点在している。
その河川には「ホタル」や「あまご」といった清流ならではの生き物が生息し、自然とふれあえる
快適な環境づくりの整備も進められている。
平成 22 年(2010 年)の国勢調査人口は 12,289 人で、平成 17 年(2005 年)の 13,077 人と比べて、
30神河町のホームページ
https://www.town.kamikawa.hyogo.jp/forms/top/top.aspx
31神河町(2013)
53
減少傾向にある。また、年齢別の人口を見ると、年少人口、生産年齢人口の占める割合は減少して
いる一方、老年人口のしめる割合は急速に増加し、高齢化が進んでいることがうかがえる。世帯数
(平成 22 年)は、3,813 世帯で、平成 17 年の 3,831 世帯と比べ、人口とともに減少傾向にある。
町域の大半を占める山林を利用した農林業を基幹産業として発展してきた。近年では、大河内水
力発電所や神崎工業団地の開発、観光施設の整備や特産品開発が進むなど、恵まれた自然環境と交
通条件を活かした地域振興が進められている。
②
兵庫県立大学との連携
西井(2014)では、神河町観光振興計画について、クラスター戦略の視点から考察を行っている。
神河町の有する観光資源やこれまでの取組みの成果は高く評価できるものの、総花的な印象が強い
ことが明らかとなったとしている。つまり、観光産業全体の底上げに貢献するアクションプランが
列挙されているため、主軸となる事業が曖昧で、事業間の相互関係が明かになっていなかったので
ある。
従来行われていた調査では、「神河町に魅力を感じている観光客(顧客)は誰か」「何に不満を
感じているのか」という点について、十分な検討が行われていなかったことがわかった。その主た
る理由は、神河町の観光客の多くがリピーターであり、神河町の魅力を理解している顧客によって
占められていることによる。リピーターであるが故に、アンケート、ヒアリング調査等を行っても、
神河町に肯定的な意見が多く出され、不満足要因があったとしても、顧客自身があまり問題視する
ことはなく、なかなか表面化されにくいとのことである。(西井,2014,pp.124-125)
そこで注目されたのが、「マス・ツーリズム」の弊害による観光地化、旅行会社による商品化が
進んでいない、「地域ツーリズム」として見られる「越知川名水街道自転車下り」という事業であ
る。これは、路線バスにレンタル自転車を積み入れて、出発点の「新田ふるさと村」まで行き、そ
こから約 20 キロの下り道をサイクリングで楽しむというものである。途中の行程には、神河町の主
要な観光資源・施設がいくつも含まれている。この事業には、神姫グリーンバス株式会社、神河町
観光協会、新田ふるさと村という 3 つの事業者が携わり組織間ネットワークを構築できていると評
価できる(西井,2014,pp.125-127)。
さらには、単なる事業者の連携ではなく、地元でしか食べられない郷土料理、日本バーベキュー
協会との連携、イベントを同日開催することで「エリア単位での観光商品化」、特産品の柚子を使
った柚子茶の特産品開発によるクラスター戦略へと広がっている。
③
神河町における創業支援
行政としては、市場原理に任せた経済活性化では、新規事業が立ち上がらないことは認識されて
いる。そこで、5 年前から行ってきた空き家活用による移住促進により町外からの創業者を増加さ
せることを目指している。
取り組みのユニークさは、「かみかわ田舎暮らし推進協会」(事務局
54
神河町
地域振興課)が
田舎で空き家を活用して起業したいという人の相談に応じている。そこでは空き家の紹介や実際改
修を行う場合は、プロの大工さんや左官屋さんがボランティアの人を指導して安価なリノベーショ
ンを実現している。参加者からは 1500 円の参加費を集め、地域の人たちが炊き出しやぜんざいの提
供を行い、交流を深めている。
創業にあたっては出来るだけ初期投資額を少なくすることも、早期に黒字化できる要因でもある
し、「よそ者」として見られることに不安があるが、事前にこうした交流があることで安心感が得
られる。地域の住民にとっても、自分たちがリノベーションしたという意識からその店を支援した
くなるという。神河町では年間 65 万人の観光入り込みがあるが、これらの人は神河町の良さを知り、
お金と時間をかけて中身を重視しているリピーターが多い。
また、これらのオーナーは都市部から移住してきた人が多く、地域食材を使った新たなメニュー
開発にも積極的である。こうした動きが、さらに町内の店舗に広がっていくことが望まれる。
図表 5-2.神河町での創業支援体制
(出所)神河町(2015)
こうした流れから、神河町創業促進事業補助金が生まれている。これは、町内定住人口の増加を
図るため、町内外の創業意欲のある人を支援し、町内での「しごと」づくりと職場の雇用を図って
いる。
55
対象者としては、次の掲げる要件全てを満たすものとなっている。
1)町内で新たな事業を始めようとするもの(第二創業32を含む)。
2)事業計画に収益性及び継続性が認められること
3)実施する事業について地域の理解及び支援を得られること
4)神河町商工会の経営指導を受けること(神河町商工会が実施する創業支援セミナーの受講が必
要。)
5)連携する町内金融機関の与信判断を受けていること
6)町内に住民票を有すること、又はこの要綱による補助金の交付を受けた日から起算して 1 年以
内に町内に住民票を移すこと
7)この要綱による補助金の交付を受けた日から 10 年以上町内に定住し、事業を継続すること
8)町税等町の徴収金を滞納していないこと
9)暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成 3 年法律第 77 号)第 2 条第 2 号に規定
する暴力団に関係する者でないこと
10)経済産業省関係産業競争力強化法施行規則(平成 26 年経済産業省令第1号)第7条第1項の
規定による証明33を受けていること
補助金の額は対象となる経費の合計額の 3 分の 2 で 200 万円が上限で、補助対象者が申請日現
在、満 20 歳以上満 40 歳未満の女性の場合は上限が 10%増額され 220 万円34となる。
(3)地域金融機関の創業支援
地域金融機関35は、特定の地域に基盤をおいた金融機関であり、地域経済との関連性が高い特性を
有している。地域の主要な産業が衰退した場合に、多数の取引先が影響を受けることから当該の地域
金融機関そのものの経営基盤を揺るがす事態も発生している36。
地域とともに生きる金融機関にとっては、地域の活力や取引基盤を維持していく上でも、既存の事
業者の経営の健全化だけでなく、地域経済の新たな担い手となる創業者のチャレンジを支えていくこ
とが必要となっているが、創業者にとって金融機関を相談相手として考えているケースは少ないので
はないだろうか。
山口(2015)では、「いくつかの金融機関の方のお話を聞いて回った印象では、同じように創業支
援の部署を設け、担当者を配置していても、民間金融機関の創業支援への熱意にはバラつきがあった。
32
第二創業とは、今現在の事業を廃止して、新たな事業を始まることを言う。
4)の神河町商工会が実施する創業支援セミナーの受講修了後、審査に合格すると証明書が発行される。
34 ただし、国の創業・第二創業促進補助金の対象となった場合でも、補助対象者が申請日現在、満 20 歳以上満
40 歳未満の女性の場合には、国の補助金額の 10%が交付されることとなる。
35 日本銀行「金融経済月報」では、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合の 4 つの金融機関業態を「地
域金融機関」として捉えている。
36 釜石信用金庫は、釜石市の基幹産業である新日本製鐵釜石製鐵所の経営合理化や高炉の休止、また、200 海里
問題以降の水産関連事業等の不振や、それらによる人口減少等で響き、主要の貸出先が経営危機に陥り、不稼働
資産が増加して、1993 年に経営破綻した。
33
56
(中略)創業支援を融資等につながる金融ビジネスとしてとらえた場合、相応に手間がかかるうえハ
イリスクであるといったむずかしさがあり、それゆえに慎重に対応している」(p.16)としている。
2015 年 11 月 26 日には、日本銀行神戸支店、日本銀行金融機構局金融高度化センター主催による「創
業支援に関する地域ワークショップ」が開催され、金融機関や支援機関の職員が多数参加した。
セミナーで紹介された金融機関の取り組み事例としては、まず、京都信用金庫がある。京都信用金
庫は 8 年前から創業支援専用融資商品「ここから、はじまる」(商品名)を発売しているが、当初 6
年間は、職員が「担保がなく事業実績もない相手への融資に職員が慎重であったため」成果が現れな
かった。そこで、2 年前に「創業・開業のご相談は京信へ」と明示したポスターを全店に貼り、「リ
スクに挑戦する起業家は社会の宝であり、金融機関の支援は責務である」との理念を明確にしたとの
ことである。京都信用金庫が創業支援に取り組む理由としては、創業者は話し下であり、創業支援を
推進すれば、職員が聞き上手になる。そして、現場が聞き上手(職員が苦労してでも相手の話を聞き
出す能力を持つ)で溢れたら、金庫の業績は確実にアップすると考えているからである。
現状では、倒産確率は 1%を切る水準であり、調達コスト+1%で持ち出しにならない37のでハイリス
クであるとは考えていない。採算性の検証は、相当年数のデータが必要であり、現時点では、誰も採
算性は見えていない。儲かるか、儲からないか分からないなら、やるべきであると考えている。
但馬信用金庫は、地域の面的再生への積極的参画を行っており、地方公共団体が開催する「但馬地
域産業活性化戦略会議」、「湯村温泉会議」、「豊岡市経済連絡会議」、「豊岡市事業承継ネットワ
ーク」、「豊岡市経済連絡会議」、「豊岡市事業承継支援ネットワーク」、「朝来市経済戦略会議」
等に出席し、地域金融機関としての情報提供や助言を行っている38。地域経済循環創造事業交付金(総
務省所管)を積極的に活用した地域活性化に取り組み、交付金採択件数は全国 1 位になるなど、地域
経済の活性化に積極的に貢献する戦略を明確にしている。
この交付金の評価基準には、(1)地域経済イノベーションサイクルとして効果の高いビジネスモデル
を有すること。(雇用吸収力の大きなもの、地元の原材料を活用するもの、地域金融機関の融資を伴
うもの)、(2)適切な地域金融が確保されているものであること。(投資効果が高く、融資の確約があ
るもの、金融機関が事業性を十分審査し、担保や保証に依存せず、事業キャッシュフローの継続的な
把握により、コンサルティング機能の発揮が期待されるもの)、(3)創業支援事業計画を策定済み又は
策定中であること。など従来の金融機能の範囲を超えた要求がなされている。
2014 年度の支援実績としては、(1)地元間伐材を原料とした木質ペレットを熱源とするトマトのハ
ウス栽培事業(交付金額 13 百万円)、(2)豊岡産木材を使用した“木ブロック”製造事業(交付金額 9 百
万円)、(3)豊岡の隠れた魅力食材の高付加価値化事業(交付金額 12.25 百万円)、(4)スイーツを通じた
372016
年 1 月 3 日現在、「ここから、はじまる」は 1.2%~2.0%の約定金利である。
38但馬信用金庫(2015)p.8
57
但馬各地の39地域資源・地場産品のブランド力強化事業(交付金額 12 百万円、兵庫県)、(5)養父市の間
伐材を利用した加温設備による高糖度トマトの通年での本格生産と 6 次産業化ビジネスの展開(交付
金額 50 百万円)、(6)市内産木質ペレットで生産した完熟イチゴによるスイーツ等の製造販売(交付金
額 17 百万円)、(7)コウノトリ育む米粉スイーツ販売の全国展開(交付金額 25 百万円)、(8)養父市の良
質な水資源を使用した完全人工光型植物工場での野菜の生産(交付金額 50 百万円)、(9)加工食品製造
を通じた京丹後の地元農産・地元水産・地元畜産のブランド化推進事業(交付金額 27 百万円)、(10)
京丹後市の生乳を利用した安全・安心・高品質なヨーグルトの本格製造・販売事業(交付金額 11 百万
円)がある。
上記のような交付金を受けることによって、初期の事業リスクを軽減させることにより、創業がし
やすくなり地域の活性化のために役立てることができる。自治体側には、創業支援事業計画を策定済
み又は策定中であることが求められており、昨年の調査では気づかなかった全国の自治体に創業支援
事業計画の策定が求められている所以であることを改めて認識した。
金融機関が事業性を十分審査し、担保や保証に依存せず、事業キャッシュフローの継続的な把握に
より、コンサルティング機能の発揮が期待されるものであることが求められており、但馬信用金庫と
して地域活性化会議に積極的に参加し、参加者がどのような地域資源を持ち、どのようにしたいのか
を自治体と信頼関係をつくりながら計画が作成されていったと推測できる。
2.豊岡におけるビジネス・シンポジュム
本章 1.事例調査で紹介した豊岡劇場について、本調査と並行して豊劇新生プロジェクトの新たなシ
ナリオづくりに参加し、リアルタイムの変化について考察を行うことにする。
(1)豊劇オープン1年経過後の取り組み
西井教授と石橋氏には「地方創生時代における中小企業診断士のあり方とは」と題して、平成 27 年
度の理論更新研修(8 月 28 日、9 月 26 日)の講師をお願いした。
石橋氏の居住する日高町は平成の大合併で豊岡市になった地域で、旧豊岡市街では、よそ者である。
12 月 27 日には西井ゼミの学生が主体となって一周年イベントを実施することになっていたので、実
際に地域の事業者や行政とどのように関わって行くのか、会合を持つことが出来ないか提案した。
(2)シンポジュムの事前準備
石橋氏の問題意識として、豊岡でビジネスをしているのは、「何のためか、誰のためか」を問いた
いので、「ビジネス・シンポジュム」と題したパネルディスカッションを行うことにし、まず地元の
事業者でユニークな取り組みを行う石橋氏と同じ 40 代の経営者に参加してもらい、問題意識の共有化
を行った。
出席者によれば、子供のころから「こんな田舎に住んでいては、将来がない都会に行け」「就職す
るところも無いところに住むな」と教えられてきた。「地元が好き」という感覚をどう教育するか、
39但馬地域の複数自治体にまたがっている。
58
子供に地域の魅力を教えることが必要だと考えられる。
表面化していないが、豊岡では「ひきこもり」、「不登校」が多い。「給食費を払っているから、
いただきますという必要はない」と言う親さえいる。こうした社会性が育まれていないからコミュニ
ケーションが取れないのではないかと考え、郷土のことを教える「郷育(きょういく)」が必要だと
言っているとのことであった。
兵庫県立大学では、コミュニティプランナー育成プログラムを実施、1~3 年生が参加しており、グ
ローバル化対応だけでなく地域に視点をおいた教育もなされている。神河町などにインターンシップ
として入り込み、実践的な教育も行っている。
カバンス・ストリートで、職人育成も行っているが、ここにたどり着くには時間が掛かりすぎてお
り、補助金の枠組みに合わせることや外部の人材に頼りすぎたことが原因と考えられる。しかし、こ
うした地域活動の主体となる事業者は、自分の商売もやっており「街づくり」の専門家ではないので、
やはり、専従者を設置できるような事業形態にすることも成功する要因ではないか。
若者が定住しない要因は、但馬に大学がないため高校を卒業し進学するには地元を離れてしまいそ
のまま帰ってこないことが考えられる。大学を出て地元に帰るためには、地元での暮らし、都会での
暮らしについて有名大学の学生と地元高校生が交流し双方の価値観を理解して選択していくようなプ
ロセスを人生の中で何度か経験することも仕掛けていく必要がある。
地方は高齢化が進んでいるが、大都市圏でも地方からの流入が減少すれば急速に高齢化するリスク
を抱えている。安心して出産し、育児、教育ができる地域社会をつくる。また、高齢者も元気なまま
死を迎えるようにならないと、介護事業者の受入人数は制限されているので、介護出来るようにする
のではなく、介護を卒業させるという発想が必要である。地域医療を考えると医師の確保が重要であ
るが、地方病院には行きたがらないので、豊岡病院では奨学金を出しているが、近大付属から近大医
学部に進学した神戸出身の子が貰っている。地域で中高一貫校をつくりとんがった優秀な人材を育成
する取組を行政に働きかけたい。
最終的な結論はもちろん導き出せないが、豊劇で「文化」、「教育」と絡めたビジネスとして継続
し得る可能性は見出せるのではないかという結論に達した。
その後、但馬の風景を描いた地元の藤原次郎氏が制作された映画を見た。美しい但馬の情景が映像
として捉えられ、大画面で映し出された時の感動は大きかった。豊岡市役所からも、海外向けの「豊
岡市の PR 映画」を成人式で流して、若者に豊岡の良さを印象付けたいとのことであり、打ち合わせで
話し合った内容との整合性も見出せるので、シンポジュムに参加してもらう、市役所の担当課長との
事前調整もお願いすることになった。
(3)豊劇「地方創生」ビジネス・シンポジュムの実施
平成 27 年 11 月 29 日豊岡劇場
13:00~14:30
大ホールにて開催した。
文化庁・文化記録映画優秀賞「未来をなぞる
59
写真家・畠山直哉」上映
陸前高田の出身で、震災後の故郷を写真家として見つめ直したドキュメント。都会を目指す若者
ばかりで、地方が疲弊していくことに対する警鐘であった。
15:00~15:30
基調講演(兵庫県立大学
経営学部教授
西井進剛氏)
地方に対する施策が過去にもなされたが、今の「地方創生」の意義について問題提起。人口爆発
が問題になった時期もある。平成の大合併は、自治体の維持策であって、地方の強化にはなってい
ない。人口減少は避けられないが地方が無くなるわけではない。
15:30~17:30
①
パネルディスカッション「豊岡に今何が必要かを問う」
カバン・ストリート
代表・衣川克典氏
クリーニング店を多店舗展開しており、「カバンクリーニング」専門店も経営している。カバン
・ストリートは、カバンに直接関わっていない商店主がやっている。カバスト・マルシェで賑わい
を味わってもらい、空き店舗に創業希望者を入れて行きたい。
②
モリ・プランズ株式会社
代表取締役
吉盛文彦氏
宵田商店街にあるビエネスターこども園・出石町安良の多世代共生型複合福祉ゾーン・シカバレ
ー40等複数の教育・福祉施設を経営している。高齢者雇用も行い、介護施設から卒業できる老人を
つくる。子供に地元の良さを教育する必要性を感じ、有名大学生や社会人と地元高校生の交流会な
どの仕掛けをしている。コミュニティ活動で豊劇との連携が出来る。
③
豊岡市都市整備部
都市整備課
原重喜課長
豊岡の都市としての発展の歴史を説明し、豊岡らしい景観を引き継いで行きたい。大正 14 年の北
但震災後に立てられたコンクリート建築物が景観を形成している。豊劇もその一つであり、文化的
な意義も大きい。
④
豊岡市環境経済部
大交流課
小林辰美課長
行ってみたくなる魅力的なまちづくり、認知度向上、交流基盤の整備が大交流戦略である。人口
減少にブレーキをかけて、若者が帰ってくる、外部から人がくる地域をつくる。
豊岡鞄のブランド化は、鞄協会のタグの販売実績を見ると図表 5-3 の通り平成 18 年の 1,000 個か
ら平成 26 年は 32,500 個に増加している。
百貨店展示会での販売実績も最近顕著な伸びを示している。特に平成 23 年からは飛躍的に増加し
ており、百貨店展示販売や量販店でのコーナーで豊岡鞄のタグを見る機会も多くなっている。
日本製として品質維持のために高価格帯であったものも、販売数量の増加とともに平均単価は
15,000 円程度に収まるようになってきている。エルメスやヴィトンと言ったブランド以上の品質で
価格も手ごろであるところから、豊岡市で開催した商談会に東京からバイヤーが集まった。
40
聖徳太子が四天王寺に「四箇院」(しかいん)を設置した伝承から命名した。四箇院とは、敬田院、施薬院、
療病院、悲田院の 4 つである。敬田院は寺院そのものであり、施薬院と療病院は現代の薬草園及び薬局・病院に
近く、悲田院は病者や身寄りのない老人などのための今日でいう社会福祉施設であった。
60
図表 5-3.豊岡鞄ブランドの成長
平成 タグ販売数
18
19
20
21
22
23
24
25
26
1,000
1,600
1,400
2,000
2,800
8,700
12,400
21,900
32,500
百貨店展示会販売
売上金額 売上個数 平均単価
3,828
3,476
12,836
21,440
49,085
72,450
150
175
682
1416
3100
4957
25.5
19.9
18.8
15.1
15.8
14.6
(出所)豊岡鞄協会提供資料より豊岡市エコバレー推進課が作成
つぎに、豊岡市における産業分類別に域外からどれくらい獲得しているかを示したのが、図表.5-4
である。貿易で言えば輸出額のようなものであるが、材料や外注加工を域外に依存すれば純移出額
は低下することになる。飲食店・宿泊業が移出額、純移出額ともに 1 位であるが、かばん製品より
移出額が多い産業も純移出額ではマイナス値を示しているが、移出額では 7 番目のかばん製品が純
移出額では 2 番になっている。これは、地域内で調達が多く経済循環が上手く行っている証拠であ
り、地域外からの調達が少ないことを示している41。
図表 5-4.豊岡市における鞄産業の地域内経済循環への貢献
順位
飲食店・宿泊業
商業
化学製品
プラスチック
電気機械
食料品製造業
かばん製品
電子部品
1
2
3
4
5
6
7
8
移出額(億円)
360
264
207
152
129
100
82
80
純移出額(億円)
160
▲308
47
68
▲64
▲181
78
16
順位
1
2
(出所)2005 年版豊岡市産業連関表
多くの地場産業が国際競争力の低下から、衰退している地域が多く、豊岡鞄も隆盛時の面影はない
が、ブランド化の進展と経済循環での貢献度を見る限り、豊岡における鞄産業の重要性を再認識せざ
るを得ない。
41
豊岡市(2010)「かばん製造業は、豊岡市内に関連企業が多く集積し、企業間で原材料・部品の取引が行われて
いることから、移輸入率が 0.25 とかなり低く、経済波及効果が大きい。逆行列係数(波及効果)は 1.31 と大き
い。」(p.30)
61
また、鞄関連で創業したいという希望者も増え、地元でカバン職人を育成する計画も実現する。但
馬信金の職員も多数参加しており、「カバン」を中心とした新たな仕掛けが構想できる成果があった。
⑤
豊岡劇場
代表・石橋秀彦氏
カバン産業が豊岡の中心であることを実感している。プロダクト・デザイナーを集めて、長期滞
在してもらい地域住民とも触れ合うことで、地域そのものがデザイン感性豊かな街になってもらい
たい。
地域外からの若い人材を集め、その人々を引き合わせたい。ホームページを見て、播磨町の団地
を再生している但馬出身の明石高専で建築を教えている若い人材から、地元に貢献できるなら手伝
いたいとのアプローチがあったことが紹介された。
(4)今後の取り組みについて
上記のシンポジュムを踏まえて、12 月 27 日には 1 周年記念イベントが開催された豊劇の屋根裏で
の会議が開催された。
前日の 12 月 26 日には、「但馬ゆかりの医療系学生の集い」が豊劇の小ホールで開催されており、
豊劇のプロジェクトに興味を持ったメンバーの守本陽一氏(自治医科大学 4 年生、八鹿高校出身)も
急遽参加した。豊岡市内で医療関係者らに聞き取り調査をして分かった課題について、解決策を話し
合い、T ポイントのように健康的な行動をすれば付与される「健康ポイント」、食育として老人が子
供に食事を提供する「子供食堂」、コミュニティとしての医療を考える「ミニハッカソン」などのア
イデアが出ている。
明石高専リサーチ・アドミニストレーターの佐伯亮太氏からは、播磨町の老朽化した団地を再生さ
せるため空き室を憩いの場にするためカフェや雑貨即売、ピザ窯づくりを行い活気が出てきた事例が
紹介された。
鞄産業が豊岡の中心であることを再度認識すると、プロダクト・デザイナーを集めて、長期滞在し
てもらい地域住民とも触れ合うことで、地域そのものがデザイン感性豊かな街になっていくことも考
えられる。
地域外からの若い人材を集め、その人々を引き合わせたい。ビジネスモデルとして確立できている
わけではないが、「豊劇で自分たちを発信したい」という但馬・京丹後地域市民からさらにクリエイ
ターなど幅広いネットワークから豊岡に流入し、定着することを目指している。そのためには住環境
を整えることや魅力のある飲食店などの充実が必要である。
主要な活動の方向性として下記の点が確認された。
①
コンテンツづくり
物理的な既存の老朽化した建物を“場”としてリノベーションする
“教育”が、まちの活性化の基本である
全ての“ヒト”を対象に、面白そう≠ゼロ≠マイナス(損はしない)ことを示す
62
たとえば“食”をテーマに健康づくりを行うテーマであれば参加しやすい(播磨町の例)
②
ビジネスとしての豊劇の動き
本業がアパート経営という不動産業であることを活かし、地元の不動産関連事業者のネットワー
クが作れる。若手の建築家などを交えて“まちをつくる”会社の設立を行い、かばんストリートの
まちづくり会社(かばんの学校)と連携することで、デザインを突破口とした新たなビジネスモデ
ルを生み出す。
豊劇新生プロジェクトに関して、立ち上げ前からの取組みそして 1 周年を迎えるにあたってのイ
ベントを企画する中で、新たな出会い、それぞれが持つ情報・能力が一つの場で刺激しあい新たな
方向性が生まれ進みかけている。
既に、シンポジュムやワークショップなどの手法を使って、地域から意見を集めるという手法も
なされている。しかし、自分たちは何がしたいのか、どのような人と組んでビジネス展開していけ
ば良いのか戦略的に立案するに至るまではそれなりの労力とコストが必要となる。
今回関与した取組みを振り返っても、近隣でもつきあいがなかった者同士が話し合いすること
で、地域として取組むことが再認識でき、ネット上で見かけたという但馬出身のまちづくりの専門
家が関係性を持ちたいと声掛けがあり、会議への参加と今後の具体的な展開のキーマンとなり得る
ことが発見できるなど「偶発性」が多く見られた。
地域の疲弊について問題意識はあるが、どのように動けばいいのかわからないまま時間が経過し
ているのではないかと考える。コアとなる人々の小さな活動がまずあり、若いクリエイターが街中
で豊岡鞄を持って闊歩する。彼らが利用する飲食店などができ、市外からの観光客にも人気店とな
るなど「豊劇」という場だけでなく周辺のまちづくりの面としての展開に結び付いて行くことを目
指しており実現に向けて歩み始めている。
63
第6章
創業支援についての提言
1.顔の見える支援
(1)創業支援ネットワーク
創業支援ネットワークのモデル的な存在としての神戸開業支援コンシェルジュでは、創業塾や相談
窓口が連携するだけでなく(公財)神戸市産業振興財団の KOBE ドリームキャッチプロジェクト、(公
財)ひょうご産業活性化センターのひょうご・神戸チャレンジマーケットによるビジネスプランの発
表と販路開拓や資金調達などの支援を結び付けている。
また、(公財)神戸市産業振興財団や(株)神戸商工貿易センター神戸ファッションマートでは、
低料金によるインキュベーションオフィスの提供とインキュベーションマネージャーによるきめ細か
な支援も行っている。神戸商工会議所の KCCI 創業塾は充実した企画を継続的に開催し、神戸周辺だけ
でなく広域から受講者が集まっている。
公的な金融機関として日本政策金融公庫はセミナー・相談会を県下各地でも展開し、実際の融資審
査におけるノウハウも蓄積されている。民間金融機関との連携も行い、リスク分散や事業計画があい
まいな初期の相談者に対する対応も丁寧に行っている。
さらに、兵庫県中小企業団体中央会が(公財)神戸市産業振興財団と共催で行う飲食店開業セミナ
ーは、業種を特定し具体的な開業ノウハウを学べる場としての特徴を有している。
また、異色な存在として(公財)新産業創造研究機構があるが、「知財総合支援窓口」は特許や実
用新案だけでなく、商標やブランド、デザインといった分野は競合他社との差別化を図る上で重要な
要素であることが認識できていないせいか創業支援の連携においては十分な活用がなされていない。
以上のように、神戸開業支援コンシェルジュは 7 つの関連機関が連携しており、特定創業支援事業
は、11 事業ある。創業資金の問題から、日本政策金融公庫と連携が必要になる案件は多く、必然的に
日本政策金融公庫との連絡や面談などの機会が増え、互いに相談者を引き継ぐ関係性が構築されてい
る。また今後の販路開拓や人脈構築などの問題から、セミナーや交流会などへの参加を促すために、
神戸商工会議所へ引き継ぐための連絡や面談の機会が増えている。連絡や面談の機会が増えると、互
いに支援できる内容が理解でき、お互いに相談者を引き継ぐ関係性が出来上がっている。しかし、そ
の他の関係機関との連携状況は、セミナーやイベントの相互間での紹介・誘導に終始している点が多
い。その理由として考えられる点が、互いにどのような対応が可能であるのか、担当者がどのような
方であるのかなどを知る機会がすくないことにある。
各支援機関の担当者はどうしても、自らの組織の事業に目が向きがちであり、客観的に相談者がど
のようなステージにあり、どのような機関のどの事業につなげば良いのかをコーディネータが理解で
きるように支援ネットワーク各機関を訪問し情報収集と提供を行うことも必要である。
こうした創業支援ネットワークの形態は、昨年度は都市部での特徴としてとらえたが、本年度調査
の結果からは、すもと創業サポートセンター、朝来市創業支援者連絡会議などの存在が確認された。
64
創業支援についての「横串の入れ方、巻き込み方(繋がりに濃い、薄いがある)」ことを意識した
コーディネータの存在についてつぎに見ていくことにする。
(2)コーディネータの役割
神戸市創業支援モデルの KOBE 開業支援コンシェルジュコーディネータは、専門家 3 名から始めてい
る。1年目の専門家は、中小企業診断士兼税理士、マーケティング専門の中小企業診断士、販売促進
専門の中小企業診断士であった。当初は、当事業自体の認知度も低く、相談者の数も少なく、相談内
容が曖昧なイメージが多かった。しかしながら、初期の相談者や当時業の認知度が向上してくると、
その曖昧なイメージの相談内容から、より具体的な高い専門性を有する相談内容へと変化してきた。
例えば、株式会社を立ち上げる上での定款及びそれに付随する条件、ホームページなどの立ち上げ・
運営方法など多岐に渡る。2 年目には、1 年目のコーディネータに、中小企業診断士兼社会保険労務士、
中小企業診断士兼司法書士、IT 専門の中小企業診断士の 3 名を加え、計 6 名にて運営している。
コーディネータの専門性を拡大させ、現状では相談者の満足度を得られている。しかしながら相談
の中では、現在のコーディネータでは対応することが困難であり、関連機関の対応も困難な相談もあ
る。例えば、法律的な正確な見解が必要になるような相談や、ホームページやチラシのデザインなど
がある。より専門性の高い相談の特長としては、ピンポイント型の相談が多いことである。つまり現
在困っているこの内容を解決するアドバイスがほしいとの相談である。よってこれらに対応していく
ためには、現在のコーディネータでは限界があり、さらに相談者の創業ステージの変化や当時業の認
知度が向上してくると、現在よりもより高度な相談が増加してくることは創造できる。それに対応す
る準備が必要になると思われる。
こうしたコディネートを行う人材の確保は、予算の関係から困難とは思われるが、朝来市では、企
業退職者をアドバイザーとして採用しその役割を担っている。また、市町役場、商工会議所・商工会、
日本政策金融公庫、地元金融機関という組合せだけでなく、やぶパートナーズ㈱(養父市)、NPO 法
人市民活動支援センター(小野市)、かみかわ田舎暮らし推進協議会(神河町)、上牛尾自然豊かな
居住支援協議会(市川町)などが積極的、具体的な推進役として地域での活動を展開している。
2.支援される能力
創業希望者が、公的機関や専門家への相談することを望まず、知り合いの経営者や異業種交流会な
どで知り合った経営者に相談することで解決し、開業しようとする創業者が増えつつあるように見ら
れる。堅苦しい開業ではなく自由な開業を希望する創業者が増加していると考えられる。
民間のインキュベーション施設などとの意見交換などから、これらのインキュベーション施設入居
者にもこうした傾向がみられる。彼らの考え方では、公的機関の支援などでは、枠にはめられた相談
体制のイメージがある。例えば、コンシェルジュコーディネータの相談でも、事前に予約を取り、1
時間の相談時間と決められている。このように枠が決められているものが面倒であると思われる。自
分の悩みが発生したときに、自分の知り合いなどに気軽に相談し、解決したいと考えている。
65
問題なく創業が出来き、維持出来ていれば、このやり方自体問題が無いと思われる。しかし、自
分が悩んだピンポイントの解決策のみを対応しているために、今後経営をしていくための全体的な
経営知識であることを理解せずに運営していることがある。また総合的に事業の全体について考え
ていることも少ないように見受けられる。
こういった創業者に対しても、経営を維持し、発展していくようにいわば支援される能力を身に
付けてもらうようコーディネータとして対応していく必要性があると考える。
3.地域経済の見直し
(1)コミュニティを核とした地域経済の循環
創業支援を対象要件から入ると、どうしても個別の創業者支援に限定されてしまう。事業所数が少
ない地域においては、地域経済全体の振興を図らなくては創業希望者も生まれてこないと考えられる。
この点については、調査した地域においても当然認識されており、市場原理に任せるだけでは地域振
興が出来ないとして、地域外からの創業者に対して積極的に支援する神河町の事例などが見られた。
篠山市商工会は、デカンショ祭の実行委員会事務局を長年背負い地域の付加価値を高めた功績など
から、地域から地域総合振興事業中心の商工会と思われている42。篠山市商工会は、従来の目標は「同
じ機会での会員企業の支援により既存企業と伝統産業を振興する。43」であったが、経営発達支援計画
では、「前向きな事業計画を掲げる会員企業を積極的に支援することで、地域企業のリーダーを育成
する。そのリーダーをけん引役とし、既存企業と伝統産業の発展に貢献する。」としている。
西井(2014)では、「観光産業全体の底上げに貢献するアクションプランが列挙されているため、
主軸となる事業が曖昧で、事業間の相互関係が明かになっていなかった」点が指摘され、総花的な観
光振興計画の限界を示した。その後、エリア単位での観光商品化や特産品開発によるクラスター戦略
などの展開に結び付いている。
地域の疲弊は、子供のころから「こんな田舎に住んでいては、将来がない都会に行け」「就職する
ところも無いところに住むな」と教えられてきたことに起因しており、理念的な話だけでなく「地元
が好き」という感覚をどう教育するか、子供に地域の魅力を教えることが必要だとし、郷土のことを
教える「郷育(きょういく)」が必要だと考えられる。
若者が定住しない要因は、但馬に大学がないことがある。また、大学を出て地元に帰るためには、
地元での暮らし、都会での暮らしについて有名大学の学生と地元高校生が交流し双方の価値観を理解
して選択していくようなプロセスを人生の中で何度か経験することも仕掛けていく必要がある。兵庫
県立大でのコミュニティプランナー育成プログラムや「但馬ゆかりの医療系学生の集い」などの活動
が定着していくことが望まれる。
地元の産業振興としては、カバンス・ストリートで職人育成も行っている。商店街の人たちが鞄の
42 篠山市商工会(2015)
43 篠山市商工会(2015)
66
魅力を緩やかだが発信し続け、周囲の賛同が得られるようになってきたが、ここにたどり着くには
時間が掛かりすぎている。しかし、事業者は自分の商売もやっており「街づくり」の専門家ではな
いので、専従者の設置も成功する要因ではないか。
鞄産業が豊岡の中心であることを再度認識すると、プロダクト・デザイナーを集めて、長期滞在
してもらい地域住民とも触れ合うことで、地域そのものがデザイン感性豊かな街になっていくこと
も考えられる。
地域外からの若い人材を集め、その人々を引き合わせ、「豊劇で自分たちを発信したい」という
但馬・京丹後地域市民からさらにクリエイターなど幅広いネットワークから豊岡に流入し、定着す
ることを目指している。そのためには住環境を整えることや魅力のある飲食店などの充実が必要で
ある。
そこで、物理的な既存の老朽化した建物を場としてリノベーションする。これは、本業がアパー
ト経営という不動産業であることを活かし、地元の不動産関連事業者のネットワークが作れること
が強みとなる。また、明石高専の佐伯氏など若手の建築家などを交えて“まちをつくる”会社の設
立を行い、かばんストリートのまちづくり会社(かばんの学校)と連携することで、デザインを突
破口とした新たなビジネスモデルを生み出す。
つぎに、モリ・プランズ㈱の吉盛氏など教育関連に携わる人たちの基本的な理念として、教育が、
まちの活性化の基本であるという考えを実践していきたい。たとえば、食をテーマにした健康づく
りを行う活動も教育の一つであり、但馬出身の医学生たちの活動とも連携できる。
小学校ぐらいから、地域の産業や仕事について理解をすることや、目標とする大学を目指し、そ
の後地元との関わりをどう持ち続けるのかは、一般的な勉学へのモチベーションを高める意味でも
重要なことである。
結論的には、全ての“ヒト”を対象に、面白そう≠ゼロ≠マイナス(損はしない)ことを示すこと
が出来るような活動が地域のコミュニティを核とした経済循環につながるものと考えている。
(2)地域金融機関の役割
但馬信用金庫は、先に見たとおり「地域の面的再生への積極的参画44」を行っており、地元の但
馬地域の地方公共団体が開催する「但馬地域産業活性化戦略会議」「湯村温泉会議」「豊岡市経済
連絡会議」「豊岡市事業承継ネットワーク」「豊岡市経済連絡会議」「豊岡市事業承継支援ネット
ワーク」「朝来市経済戦略会議」など地域の活性化会議等に出席し、地域金融機関としての情報提
供や助言を行っている。
外部からみた支援ネットワークは、多くの機関の代表が参画し、総花的な展開が期待されるが、
44
金融庁(2015)では、地域密着型金融の推進をビジネスモデルの一つとして位置づけ、「顧客企業に対するコ
ンサルティング機能の発揮」、「地域の面的再生への積極的な参画」、「地域や利用者に対する積極的な情報発
信」の取組みを中長期的な視点に立って組織全体として継続的に推進することを示している。
67
実態は年に数回の会議が開催されており、参加者にも何が期待されどのように動くべきか明確でな
いことが多い。しかし、地域金融機関は、従来の預金を集めて融資を行なうことでその金利差を収
益源とする「預貸利ザヤモデル」から「地域密着型金融モデル」へのビジネスモデルの転換45を行
う動きが出ている。
個別企業への経営改善支援などをコンサルティング機能の対象として行っている事例は多いが、
但馬信用金庫のように、面的な再生に積極的に絡んでいる事例は少なく、日本銀行のセミナーでも
取り上げられたと考えられる。
地域経済循環創造事業交付金(総務省所管)では、評価基準に(1)地域経済イノベーションサイク
ルとして効果の高いビジネスモデルを有すること。(雇用吸収力の大きなもの、地元の原材料を活
用するもの、地域金融機関の融資を伴うもの)、(2)適切な地域金融が確保されているものであるこ
と。(投資効果が高く、融資の確約があるもの、金融機関が事業性を十分審査し、担保や保証に依
存せず、事業キャッシュフローの継続的な把握により、コンサルティング機能の発揮が期待される
もの)(3)創業支援事業計画を策定済み又は策定中であること。など従来の「預貸利ザヤモデル」で
は考えられなかったような要求がなされている。
積極的にチャレンジしようとする事業者に対して、金融機関の安全性・健全性を重視しすぎた保
守的なスタンスから、積極的に事業内容を把握し、継続的に支援するスタンスに転換している。こ
れは、先に見た面的再生の中で、情報発信とともに情報収集が行われ、信用力の評価に結び付ける
ことができていると考えられる。また、いくら積極的な事業姿勢であるとは言え、事業リスクは常
に伴うものであり、交付金により借入金を抑制しリスクを低減させることで、地域内経済の循環を
促すことは重要なことである。
これが、短期間の取組みに終わらず、「あいまいな事業構想」の段階から「事業立ち上げ後のフ
ォロー」に至る継続的なネットワークの関係性を維持することが、地域の創業希望者への支援にな
るものと考える。
45
長山(2005)では、「地域産業向け支援の実施に当たっては、既存産業集積の再生と新産業創出の両方を狙った
地域産業全体の活性化ビジョンづくりから始めたい。その作業工程としては、まず、信用金庫がコーディネータ
役となり、産学官メンバーによる「地域産業活性化研究会」を組成する。」(p.24)とし、「現在、信用金庫では
取引先企業の経営支援業務を通じてコンサルティング能力を持つ人材が育ってきているが、今後は、それに加え
てコーディネート能力を発揮できる人材がますます必要」になってくることを提案している。(pp.25-26)
68
おわりに
かつて「環境激変下における企業経営」というテーマが取り上げられた時代がある。また、地方の
地域振興についても、地方再生などという言葉と共に何度か耳にしてきたところである。
今回の地方創生は、従来とどう違うのか。国はどうしようとしているのかという点について調べて
いく必要はある。しかし、地域でどのような人がいて、どのようにしたいのか、そこを知らなければ、
「支援する」とは言えないのではないかと考える。
従来、中小企業診断士としての業務は、行政や公的支援機関による中小企業支援事業の流れで依頼
されるものが多かった。もちろん、民・民での契約によるものもあるが、公的な業務を抜きにやって
いる人は、中小企業診断士としてというよりコンサルティングファームなどに所属している人が多い
のではないかと思われる。
一般社団法人兵庫県中小企業診断士協会として、法人格を持ち独自の存在価値を見出していく必要
がある。
行政や公的支援機関とどのようなつながりを持つのか、創業補助金事務局という大きな業務を無事
終了することが出来た今、再度考えて行かなくてはならない。
創業補助金事務局として、創業補助金の活用について各地域へのアプローチや事例紹介が必要であ
るとは認識しながら事務処理を的確に行うことに追われ、十分な活動が行えなかった。
どのような組織においても、理想とすべき姿と現実の制約条件を見定めつつ着実に行動すべきであ
るとするジレンマは存在する。そのような、悩みを克服して発展を目指すことこそ我々が企業支援に
おいて基本的なスタンスとして持つべき心構えではないだろうか。
実際に多くの支援機関職員からの意見を聞きたいと考え、兵庫県商工会連合会のチーフ・コーディ
ネータ研修会に参加し、本調査をベースとした発表と意見交換を行った。ヒアリングに行けなかった
地域も多く、地域内における創業支援の取り組み内容や課題について掘り下げることができた。さら
に、このような会合を続けることで、中小企業診断協会によるより発展的な支援の連携体制が構築す
ることが求められていた。
本調査・研究において、兵庫県各地の行政や支援機関また事業者の方にご協力頂いたことを感謝す
るとともに、引き続き各金融機関とも連携し兵庫県経済の活性化に貢献できる兵庫県中小企業診断士
協会となるよう一層精励したいと考えている。
69
参考文献
柄谷行人(2014)『浮動論』文春新書.
神河町(2013)「第1次神河町長期総合計画基本計画
後期基本計画
【改定】」
http://www.town.kamikawa.hyogo.jp/forms/info/info.aspx?info_id=6279
神河町(2015)「起業・創業しようと思われる方は必見!」神河町ホームページ
町の取り組み
http://www.town.kamikawa.hyogo.jp/forms/info/info.aspx?info_id=36702
清成忠男(1981)『地域自立への挑戦』東洋経済新報社.
金融庁(2014)「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」Gttp://www.fsa.go.jp/common/
law/guide/cGusGo.pdf.
厚生労働省(2014)「雇用保険事業年報」http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/koyouhoken02/
annual01.html
金間大介(2013)「オランダ・フードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割」『科学技術動向』
2013 年 7 月号(136 号).
篠山市商工会(2015)「経営発達支援計画」
ストーリー,D.J.(1994)Understanding the Small Business Sector, Thomson Learning Ltd.( 忽那
憲治・安田武彦・高橋徳行訳『アントレプレナーシップ入門』有斐閣,2004).
総務省統計局(2015)平成 26 年経済センサス基礎調査 http://www.stat.go.jp/data/e-census/2014/
但馬信用金庫(2015)『Disclosure
2015』[たんしんの現況].
地域経済構造分析研究会(2013)「地域経済圏の産業構造に関する研究報告書」
中小企業基盤整備機構(2015)「産業競争力強化法に基づく地域の創業支援事業に学ぶ」
中小企業庁(2014)『中小企業白書 2014 年版』
塚田朋子(1996)「我が国かばん業界に見る中小企業性製品の産地の現状と課題」『経営論集』No.42,
pp.131-148, 1996-02-28
豊岡市(2010)「平成 22 年度豊岡市経済・産業白書」
中村智彦(2014)「地域商工団体としての商工会の課題」『神戸国際大学経済経営論集』Vol.34
No.1
pp.21-30.
中村良平(2013)「地域振興の本質」http://www.e.okayama-u.ac.jp/~ryonk/20130318 Kumagaku.
pdf.
長山宗広(2005)「地域産業活性化に関する諸理論の整理と再構築~地域における新産業創出のメカ
ニズム~」『地域調査情報』Vol.17 No.1
西井進剛(2014)「地域再生とクラスター戦略」,池田潔編著『地域マネジメント戦略』同友館.
西口敏宏(2007)『遠距離交際と近所づきあい』NTT 出版.
70
西口敏宏(2009)『ネットワーク思考のすすめ』東洋経済新報社.
日本銀行(2015)「地域創生に向けた創業支援の取り組み」2015 年 11 月 26 日
創業支援に関する地
域ワークショップ配布資料.
ポーター, M. E.(1998)On Competition, Harvard Business School Press.(竹内弘高訳『競争戦略
論Ⅱ』ダイヤモンド社、1999 年)
山口省藏(2015)「民間金融機関における創業支援の実態」『金融財政事情』2015.10.5 pp.15-19.
71
執筆者一覧
松浦
敏貴
前田
充
木之下
尚令
塔筋
幸造
内藤
敏
志水
功行
渡辺
明
瓶内
栄作
(一社)兵庫県中小企業診断士協会
72