大義ある反抗 Rebels with a cause by Christopher Elliot Second Time Around vol18 No5 p13-4 2015 (翻訳:武田美千代、選定:向山昌邦) ベビーブーマー(団塊の世代の人たち)はなんとか旅をしやすい、身近なものにしようと奮 闘しています。そしてそれは我々の為にもなります。 56 歳のスコットレインズ氏はカリフオルニア州サンノゼ出身の大学聖職者ですが、これま でアラスカのグレイシャーベイでカヤック(アザラシの皮を張った小船)を手でこぎ、南ア フリカとインドを歩いて横断、グアテマラとニュージーランドを訪問しました。彼は現在は 四肢麻痺ですが、意欲的な旅行目程を邪魔されたくはないと思っています。 レインズ氏は 最近興味深いことに気付きました。 彼の年代の他の人たち、つまり 1946 年から 1964 年の間に生まれた 7600 万人のアメリカ人、 自分たちをベビーブーマーと呼んでいる人たちの物事の見方は彼と良く似ていると気付い たのです。 もし電車に乗るときに車両に乗りやい傾斜路(スロープ)があったらよいと思いませんか? ホテルのバスルームのドアに車いすが入るぐらいもう少し大きければ・・聴覚障害者のため に視聴覚ポケットベルサービスがあれば・・。 ベビーブーマーたちは抗議の言葉を書いたボードを掲げながら成長してきました。そして今、 障がい者や高齢者と一緒になって旅行しやすい環境を作ろうという大義のもとに勢いよく 活動を続けています。彼らは股関節置換手術を受けた人やインスリン注射を受けている人た ち(糖尿病患者)に旅行に行くのを断念させるつもりはないし、そういう人たちの弱みに付 け込んだり、差別をしたり、価値のないものと見下したりはさせないでしょう。とレインズ 氏は言います。 レインズ氏や披と同世代の人たちは高まる運動を支えている人達の一部でもあります。60 代 の退職者たちは旅行をする時開がある。それがより利用しやすい設備を求める声となってい るのです。非営利組織である、 「利用しやすい旅行とおもてなしの為の社会(SATH) 」は、利 用が自由にできない人たちの旅行をサポートしている旅行代理店が中心になって作ってい る組織ですが、昨年メンバーの旅行予約が倍増している事実を確認しました。これは景気後 退のさなかの目覚ましい好況です。 障がいをもつアメリカ人法(ADA:日本で 2013 年 6 月に制定された障害者差別解消法に 相当する)が施行されてから 20 年経ちます。この画期的な法律のおかげで新しいグループ のアメリカ人たちが旅行するようになり、旅行を企画するものたちは、障がいを持つ人たち にも利用しやすい施設かどうかを確認しなければならなくなったのです。それは出だしとし てはよかった。しかし法律の強制力がゆるく、一般の関心も薄かったために業界としての努 力はそれ以上進まなかったと、業界に詳しい人は言っています。そして観光業界も、率先し て施設を向上させているわけではありません。費用がかかるためです。 旅行会社は必要最低限要求されていることしか行っていないと、SATH のコーディネーター 責任者であるジャニネイヤー(Jani Nayar)氏は言います。 しかし大勢のベビーブーマーたちが黄金時代を迎えるため、政府も法律の施行を厳しくし、 旅行業界に ADA で求めていること以上のことをするよう要請する方向に向かっていくこと が期待できます。 すでにそのような動きが起こっている証拠もあります。最近では連邦捜査局がより活動的な 取り組みを行い、利用しやすさを追求するようになってきました。交通運輸局(DOT)は航 空、航海サービスを監督する立場にあり、自動車や公共交通機関の管理を行う機関でもあり ます。その DOT が 2 月にデルタ航空に対して 200 万ドルの罰金を課しました。苦情に適切に こたえてこなかったという理由と、顧客に要求されている車いすへの手肋けを提供してこな かったという理由からです。 2010 年にその政府機関は航空会社に対して 7 件の障がい者関 連の同意書を請求しました。これは連邦法に違反した場合の召喚状に相当するものです。 2009 年にはそういう請求は 2 件だけでした。 政府の規制当局はまた空港での介肋動物についての新しい規制、飛行中の航空機内でのエン ターテイメント(映画など)の宇幕挿入、障がい者が利用しやすい鉄道の駅、公共交通機関 の乗り継ぎ所における車いすの利用しやすさ、などなど、新しい規制の制定に向け草案を作 成中です。たとえば、一つ提案されていることを紹介すると、セルフサービスのチェックイ ンキオスク(飛行機のチェックインを各自で画面を操作して行う機械)を障がいがある人た ちにも利用しやすくするため、特に視力に制限がある人のために音声での人力補肋機能を設 置するよう求める内容のものもあります。 5 アメリカ合衆国はこれまでにもしばしば世界の障がい者基準を設定してきました。アメリカ の規制当局が、民間旅客会社に通路側の席の少なくとも半分の席に利用できる肘置きを設定 すること、通路が2つある広さの航空機に関しては、少なくとも障がい者が利用しやすいト イレを一つ設けること、ある種の航空機には車いす収納用スペースを荷物室に設けること、 を要求したとき、欧州連合(EU)は同様の規制を採択しました。 しかしアメリカだけが 率先しているわけではありません。ロンドンではすべての Black Cab (黒塗りタクシー) を車いすが利用しやすいものにするよう要求されています。アメリカではどの主要都市もそ のような要求はなされていません。ニューョーク州では 2014 年には新しいククシーはすべ て障がい者が利用しやすいようにすることを求める法案を検討中とのことです。 怒りっぽい旅行者は強力な変化を起こすきっかけとなりえます。長年、ヨセミテ国立公園の 滝は車いすでは見に行くことができませんでした。 しかし固人個人の苦情が少しずつでは ありますが粘り強く続いたことでついに公園側が行動を起こしました。 ヨセミテの滝までの通路の改修に 1350 万ドルかけ、車いすが利用できるようにしたのです。 これでヨセミテ公画の中で最も訪問者の多い名所が、誰にでも見てもらえるようになったの です。この運勤を進めるにはかなりの粘り強さが必要でした。でも結局粘った価値があった と思います、と言うのは障がいを持つ旅行者を扱うことに慣れているキヤンディーハリント ン(Candy Harrington)氏です。 訴訟も不思議な力を特ち得ます。障がいをもつ乗客のグループがノルウェーのクルーズライ ン(大型巡航船運営会社)を訴えました。それは障がいを持つ人たちが利用しやすい客室を 用意してもらうために、また、乗務員に手肋けをしてもらうために、利用者が追加料金を支 払わなければならなかったということを不服としての訴えであり、またそのクルーズライン はレストラン、エレベーターなどの設備を連邦法が示しているようには準備していなかった ことを不服としての訴訟でした。 (クルーズラインは主にアメリカの顧客を乗せているにも 関わらず、使宜地国旗を掲げることにより、多くの連邦法規制を逃れてきていたのです)不 服は最高裁判所までいき、2005 年に障がいをもつアメリカ人法(ADA)の表題3がクルーズ シップにも適応されるようになりました。それによりクルージング業界に対して障がいを持 つ人たちへの追加料金請求をやめるよう命じたのです。 利用しやすくなったことで障がい者以外にも恩恵を被る人たちがいます。私の祖母は 93 歳、 コーキー(Cookie)と言いますが、彼女は手すり付きのスロープとトイレができたおかげで パームスプリングスまで行き、結婚式に参列できたのです。 私の両親は最近退職し、車で カリフオルニア、ニューメキシコ、アリゾナを 1 ヶ月かけて旅してきました。両親は彼らの 人生の中で最も楽しめる日々を十分に楽しむつもりのようです。そして私の旅仲間でもある 5 人の家族は、旅に熱中している最中にスロープができ、スペースのあるトイレが使えるよ うになったのです。 ひとつ明らかなことは外からの複数の要請がなければ旅行業界は改革をおこさないという ことです。ベビーブーマーであるかどうかにかかわらず、旅するものは前向きのプレッシヤ ーを持ち続けるべきです。市場の力、政府、保守的な活動家らが航空会社、クルーズ会社、 ホテル業界に与える影響力があってこそコーキー(Cookie)さんや年取った父母が自分たち の足で、独自で尊厳をもって(人の手を借りることなく)A 地点から B 地点まで行くことが できるようになるのでしょう。 ベビーブーマーが成功をとげ、スラッカー(無気力、無関心、無目的、高学歴の若者)とよ ばれるX世代の我々がその大義を引き継がなくてもよいことを願っています。
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