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証券バックオフィス改革
∼プロセス標準化とリスク&コントロールの実現
テクノロジーやデジタル化の流れなどの証券業をとりまく環境の変化、また
競争の激化の中で、バックオフィス業務についても収益の源泉になる業務
(他社との差別化要素になる業務)とそれ以外の見極めが必要になってくる。
それ以外の「いわゆるバックオフィス業務」は、業務の品質レベルとかける
コストの判断を経て、徹底的な標準化によって業務上の無駄を排除し、サイ
ロからの脱却を図っていくことが求められる。
本稿においては、証券業におけるバックオフィス業務でありがちな課題であ
る、業務のサイロ化、サイロ化によるリスク、グローバルプレイヤーの抱え
る課題を解説し、その課題解決にむけた考慮点について述べたい。
山川美佐代
1999年 アクセンチュア㈱入社
金融サービス本部 マネジング・ディレクター 弊社のキャピタルマーケットグループで
各拠点のバックオフィス業務におけ
ロ化しており、各領域のスペシャリスト
実 施 し て い る 「 2016 年 度 の 投 資 銀 行
るチャレンジ
によって業務が運営されていることがほ
(トレーディングビジネスを含む)にお
ける Top10 チャレンジ」(図表 1 )によ
ると、 2016 年度は大半がデジタルテク
ノロジーの影響を受けたものになってい
る。テクノロジーの進化に伴う金融業界
への参入障壁の低下によって、イノベー
ションや潜在的な競争の加速や、FinTech
の盛り上がりによりテクノロジーのトッ
プタレントの投資銀行ビジネスからス
タートアップ企業等へ流出など、金融業
を取り巻く環境も変化してきている。激
しく変化する環境に対応していくため、
既存のビジネス・コスト構造について考
える良い機会だといえる。証券業を営む
各プレイヤーにとって、競合他社との差
別化ができない業務では、いかにコスト
証券業の各プレイヤーのシステムイン
フラはマーケットへの対応スピードを
優先してきており、商品・業務に個別
最適化されたシステムになっているこ
とが多い。さらに、グローバルの各拠
点でビジネスを展開しているプレイ
ヤーは、ビジネスを展開する各国にお
ける金融規制対応を実施した上で現在
とんどであろう。業務単位でみた場合、
日々の業務効率化が達成されているとし
ても、業務がサイロ化しているため、各
業務で確保すべき品質レベル、またどの
程度のコストがかかっているのかが分か
らない状態になっていることが多い。
② 業務の部分最適化による弊害
の業務を実現しているため、同じ会社
弊社の欧州の有識者によると、金融規制
であっても各拠点において業務プロセ
強化の流れの中で、業務上のリスク、お
スも個別最適化されていることがほと
よびリスク予防のための統制が機能して
んどである。以下に、バックオフィス
いるかについて、規制当局から問われる
業務における課題を挙げる。
ことがあるという。①のとおり、サイロ
化した部分最適の状況下においては、規
① 業務のサイロ化・属人化
制当局やマネジメントからの同様の要請
に対して、適切にタイムリーに応えるこ
を低減させていくかが重要な命題になっ
バックオフィス業務とひとくちにいっ
てくるだろう。本稿においては、厳しい
ても、取引報告および照合、入出金管
競争を勝ち抜くために求められる、より
理、決済照合等のさまざまな業務に分
効率的なバックオフィス業務運営実現の
かれており、一連のバックオフィス業
ためのガバナンスとコントロール確立の
務を全体プロセスの視点で把握できて
国内だけでなく、グローバルの各拠点に
ポイントについて述べたい。
いる人は少ない。つまり、業務がサイ
おいてもビジネスを展開するプレイヤー
とは容易ではない。
③ 横断業務の非効率化による弊害
6
図表1 2016年度の投資銀行(トレーディングビジネスを含む)におけるTop10チャレンジ
デジタルテクノロジーや
新たな変革に関するテーマ
01
将来のワークフォース
ビジネスの変革やミレニアル時代のチャレンジへの対応
02
トレーディングビジネスにおけるテクノロジー
レガシーシステムからの脱却
03
レファレンスデータマネジメント
本当に必要なコストの把握
04 Blockchainテクノロジーの活用
変革に向けた準備
05
収益向上に向けたコスト削減
収益の拡大に向けた最適な戦略の模索
06
グローバル構造改革
ビジネスモデル再構築に向けた新しい時代の答えの確立
07
トレーディングコミッション
加熱する価格競争
08
破壊的なデジタルテクノロジーへの対応
統合されたデジタルエコシステムの採用
09
サイバーセキュリティへの対応
脅威へ対峙
10
マーケットデータ
コスト高騰に対するコントロール
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にとっては、各拠点における固有業務に
また、各拠点においては、それぞれの業
トコントロール、クライアントサービス
加えて、拠点を跨った取引への横断的な
務に習熟した要員が育成されるが、同一
等)と、そうでない業務を識別する。差
対応が必要になってくる。トレードアン
の業務プロセスやインフラ基盤の活用が
別化の源泉となる業務においては、どの
マッチ(取引照合不一致)等の例外処理
前提になっていないため、知識・経験の
くらいのサービス品質を確立するか、ま
が発生した場合、原因の特定から処理対
共有は拠点内での対応にとどまり、さら
たそれにはどのくらいのコストをかける
応のため担当者間で膨大な電話やメール
なる高度化に向けて拠点跨りで取り組み
のか、フロント部門にビジネスジャッジ
によるコミュニケーションを行うことと
を実施していくことは困難であるため、
をしてもらう必要がある。一方で、いわ
なり無駄が多くなっている。
組織としてのセンターオブエクセレンス
ゆるバックオフィス業務プロセスは、品
の確立には至らない。
質を落とさずにいかにコストを下げられ
バックオフィス業務オペレーティン
グモデルの確立にむけて
グローバル展開するプレイヤーにとっ
て、業務プロセスが標準化されていない
と、いざ一連のバックオフィス業務の運
用状況を確認しようとしても、各拠点か
らの情報(データ)の収集に時間がかかる
るかを考える必要がある。また、どちら
国内プレイヤーがグローバルの各拠点を
の業務に対しても、各種業績管理指標
含めて効率的なバックオフィス業務を実
(KPI - Key Performance Indicator)を
現し、バックオフィス業務の運営モデル
定義しておくことで、サービス品質や業
を確立させていくには、次の 3 つの要素
務効率をモニタリングし、アカウンタビ
を考慮していくことが重要になってくる。 リティを明確にすることが肝要だ。
① バックオフィス業務プロセスの標準化
② リスク&コントロール部署の設置
粒度や鮮度、また用語レベルで内容が整
バックオフィス業務プロセスを標準化
業務のサイロ化を防止するため、一連の
合しておらず、ひとつのレポートに集約
し、さらに標準を現場に徹底させる必要
業務プロセスを全体的な視点で把握でき
するにも一筋縄ではいかず手間がかかっ
がある。まず標準化においては、競合す
るようリスク&コントロール部署を設置
てしまうだろう。
る他社との競争において差別化の源泉と
する必要がある。一連のバックオフィス
なる業務(トレードサポート、プロダク
業務プロセスを俯瞰して、業務リスクと
だけではなく、収集した情報(データ)は
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図表2
バックオフィス業務効率化のオペレーティングモデル
シニアマネジメント
(CEO、COO、
オペレーションヘッド等)
リスク&コントロール
コントロールフレームワーク
(バックオフィス業務統括組織)
<ルール>
レポート
レポート
レポート
デリバティブズ
業務
証券業務
・・・
アセスメント
ワークフロー化
モニタリング
リスク対応
監査記録
監査指摘対応
レポート
金融規制対応
業務上の例外処理対応等
・業務手順標準
・コントロール
・方針
<管理指標>
・リスク指標
・業務管理指標
・業績管理指標
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そのコントロール(リスク予防のための
担当は各拠点に配置し、拠点横断の標準
の解として、各社で共通するバックオ
ルール・統制)を定義し、コントロール
化された業務プロセスに基づいた役割を
フィス業務を切り出して、「バックオ
を担うリスク&コントロール部署に有識
担うようにする。さらに、例外処理の実
フィス業務共同利用サービス」活用モデ
者を配置することが重要なポイントであ
施にあたっての拠点間のコミュニケー
ル(ユーティリティ化)を採用していくこ
る。リスク&コントロール部署に配置さ
ションは、メールや電話ではなく、イン
とも十分考えられるだろう。
れた要員が、一連のバックオフィス業務
フラ共通基盤を導入しワークフロー化す
における責任を明確化していくととも
ることでステータスの可視化、マネジメ
いずれにしても、変化する環境の中で、
に、業務プロセスの運用をモニタリング
ントへのエスカレーションレベルの適
将来も継続してビジネス競争に勝ち残っ
する責任を担っていくことで、品質向上
正 化、 KPI の 取 得 を 可 能 と す る 必 要 が
ていくためには、マネジメントの強いコ
が期待できる。合わせてマネジメントや
ある。
ミットメントのもと、バックオフィス業
フロント部門に対してのアカウンタビリ
務プロセスの標準化の徹底と KPI 等を用
ティも確保することができる(図表2)。 おわりに
いたコントロールによるオペレーティン
③ 横断業務プロセスの標準化と専任担当
者の配置
コスト削減、金融規制強化、新興のテク
ノロジープレイヤーの業界参入等のプ
グモデルを確立させることが必要になっ
てくるだろう。
レッシャーへ対応していくため、各プレ
グローバルの各拠点における業務運用に
イヤーにとってバックオフィス業務を含
あたって、拠点を跨った横断業務プロセ
めた業務プロセスの見直しは急務であろ
スの標準化と担当者の配置が重要とな
う。業界のトッププレイヤーを除いて、
る。拠点固有業務と拠点を跨った横断業
証券取引のボリューム減少や既存システ
務を識別した上で、拠点横断の業務につ
ムの刷新に 1 社のみで対応していくこと
いては、業務範囲や用語レベルでの定義
は、今後難しくなっていくかもしれな
を統一する。また、例外処理を実施する
い。ビジネスの持続的な成長へのひとつ
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