中核企業の新事業創造による 地域産業の新陳代謝

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中核企業の新事業創造による地域産業の新陳代謝
寄 稿
中核企業の新事業創造による
地域産業の新陳代謝
∼2016年版九州経済白書より∼
公益財団法人九州経済調査協会
調査研究部 次長 岡 野 秀 之
はじめに
新事業の創造という点では、ベンチャー企
業などの新しい経営体を生み出すことが極め
地方創生の取組によって、
「まち・ひと・し
て重要であるものの、マクロ的にみると、圧
ごと」の再構築が進み始めている。地方で進
倒的な数を占める既存の経営体が、常に事業
む人口減少を食い止めるには、「時代にマッ
の新陳代謝を進め、「価値と魅力のある商品・
チした魅力あるしごとの創出とその連鎖」が
サービス(ヒット商品)」を創造し続けられ
不可欠である。
るかのほうがさらに重要である。そのなかで
九州地域(九州7県、沖縄県、山口県)は、
も、地域経済の中心的な役割を果たしている
戦後一貫して景気が良い期間には人口の社会
「中核企業」で新しい「しごと」が生み出さ
減(人口流出)が拡大し、景気が悪い時期に
れるかどうかは、地域経済の浮沈に大きく関
は若干の社会増(人口流入)が認められる。
わる問題である。
しかし、高校・大学への進学や、就職などに
そこで、本稿では、九州地域の中核企業を
よって社会人になる世代では、ほぼ一貫して
対象とした「新事業の創造実態に関するアン
大幅な社会減が続いており、この若年層の減
ケート調査」を通じて、彼らの新事業の創造
少が地方の人口問題の最重要課題である。若
実態と創造プロセスについて考察した。その
年層の社会減を減らしていくためには、人口
上で、地域に根ざした中核企業を育成しつ
流出先となっている首都圏をはじめとした3
つ、新たな魅力ある「しごと」づくりを進め
大都市圏よりも、条件の良い「魅力あるしご
るための地域政策のあり方についての提言を
と」を創出するしか解決の道はない。そして、
試みる。
その実現のためには、企業の稼ぐ力と価値の
創出力が不可欠であり、具体的には生産性の
向上と新事業の創造が至上命題となるだろう。
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1.中核企業の新事業企画力
無は、新事業の実施に際してその根幹を握る
重要なファクターとなっている。
中核企業の定義∼中核企業=地域中核企業+
では、その新事業の企画立案機能の保有率
中核事業所
はどの程度なのか。アンケート調査によると、
本稿の対象とする「中核企業」は、九州地域
九州地域の中核企業で60.3%となっている。
に本社を有する「地域中核企業」と、大企業
約6割はあるというが、裏を返せば4割がな
の事業所である「中核事業所」で構成される。
いということを意味する。地域に新しい「し
「地域中核企業」は、「九州地域に本社を有
ごと」を生み出すことを考えていく際に、こ
する従業者数100人以上かつ売上高30億円以
の数字の低さは大きな問題といえるだろう。
上の地場企業」で、「中核事業所」は、「従業
者数1,000人以上の九州地域における支社・
図表1 新事業企画立案機能の有無と新事業
実施の関係
支店・製造拠点(ただし金融保険業の支店は
除く)」である。東京商工リサーチによると、
九州地域には、「中核企業」は3,481社立地し
ており、そのうち「地域中核企業」が1,985社、
「中核事業所」が1,496社となる(2014年度決
算期ベース)。
なお、アンケート調査については、この
資料)九経調「中核企業の新事業創造実態に関するアン
ケート」
3,481社から、金融保険業の本店を除いた3,420
社を対象として2015年11月∼12月にかけて実
中核企業の4類型
施し、378社からの回答を得ている(回答率
∼牽引型、創造型、成長型、一般型
11.1%)。
地方創生にとって、地域での新事業の創造
は重要事項だが、その事業が成功しているか
2
新事業の創造に不可欠な新事業の企画立案機能
否かはさらに重要である。成功の定義は難し
アンケート調査によると、新事業の実施に
いところだが、企業の売上高や成長性に繋
対してカギを握っているのが、新事業の企画
がっているかどうかはひとつの判断材料にな
立案機能の有無である。直近10年間の新事業
るだろう。そこで、本稿では、中核企業を「事
の実施の有無との関係性をみると、企画立案
業創造性(新事業の企画立案機能の有無)」
機能ありとする中核企業では69.3%が新事業
と「成長性(売上高と生産性の伸び)
」の2
を実施しているが、企画立案機能なしとする
つの軸で、4つの類型に分類して分析を行っ
中核企業では、その比率が23.4%にまで落ち
た(図表2)。そのなかで注目すべきは、成
込む(図表1)
。新事業の企画立案機能の有
長性と事業創造性の双方ともプラスの中核企
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中核企業の新事業創造による地域産業の新陳代謝
図表2 中核企業の4類型
注1)成長性としては、売上高と生産性の増減を加味している
注2)事業創造性は、新事業の企画・立案機能の有無を加味している
資料)九経調作成
業である。雇用や賃金水準の向上と、新しい
図表3 直近10年間での新事業実施状況
「しごと」の創造のいずれに対しても寄与す
る重要な企業であり、まさに地域経済発展の
エンジン(牽引車)になっていると考えられ
る。したがって、本稿では、そのような企業
を「牽引型中核企業」と定義し、彼らの取組
や動向のベンチマークを試みている。
2.中核企業の新事業実施力
資料)九経調「中核企業の新事業創造実態に関する
アンケート」
中核企業の新事業実施状況
九州地域の中核企業は、新事業にどの程度
の数について尋ねると、1事業とする企業が
取組んでいるのか。アンケート調査によると、
36.5%と最も多くなっており、これに2事業
この10年以内に新事業を実施したとする企業
が22.4%、3事業が17.2%と続き、1∼3事
は過半数を超える50.8%となった(図表3)。
業で76.1%と大半を占めている。新事業の創
さらに、中核企業4類型別にみると、牽引型
出にあたっては、じっくりと長期的スパンで
中核企業や創造型中核企業ではその比率は高
取り組んでいる企業が多いことがうかがえる。
まり、それぞれ81.0%と61.7%となっている。
なお、新事業を実施したとする192社に限
中核企業の新事業実施領域
定して、10年間で事業化に取り組んだ新事業
アンケート調査によると、九州地域の中核
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企業で取り組まれる新事業の事業領域は、製
知能(AI)、ナノテクノロジー、バイオテク
造業28.1%、サービス業22.9%、卸売小売業
ノロジー、ロボティクスなどの技術系キー
20.8%、エネルギー17.2%の順となっており、
ワードへの関心も高まっている。
この4業種が主流となっている(図表4)。
これに1割程度の水準で、医療福祉業や建設
業、宿泊飲食業が続いており、運輸業や不動
産業への展開は少ない状況にある。
3.中核企業による新事業創出の
要諦
要諦
本業の構成との対比を加味すると、サービ
新事業に対する姿勢と考え方
ス業や医療福祉業、エネルギー、宿泊飲食業
中核企業の新事業は、本業との深い関係性
などが多くなっており、他業種からの新規参
のなかで生み出されている。
入よって展開されていることがうかがえる。
アンケート調査によると、新事業の事業領
本業が農林漁業、建設業、卸売小売業、運輸
域として重視する点として、本業とのシナ
業、情報通信業、サービス業などは異業種へ
ジーが50.8%と最も高く、これに本業との連
の展開が多くなっている。
続性が47.4%、新領域の開拓や自社資源の有
なお、今後の新事業として注目するキー
効活用が33.9%で続いている(図表5)
。本
ワードとしては、再生可能エネルギー、地方
業とのシナジーや連続性、自社資源の有効活
創生、環境リサイクル、健康寿命・ヘルスケ
用といった視点を重視しつつ、新領域への開
ア、アグリビジネスなどで高い関心がみられ、
拓が目指されている構図がみえてくる。そし
IoTや水素・燃料電池、ビッグデータ、人工
て、新事業に積極的な牽引型中核企業でその
図表4 新事業の業種
傾向はさらに強まる。本業とのシナジーは約
6割、本業との連続性は5割強で重視すると
した上で、新領域の開拓も約4割が重視する
としている。さらに、牽引型中核企業では、
技術進歩への対応や社会的課題の解決を重視
する比率が高いという特徴もみられる。この
ことから、牽引型中核企業では、
「新しい技
術を通じて社会的課題の解決をはかる事業
( 社 会 的 共 通 価 値CSV(Created Shared
Value)の実現)」が目指されている可能性
がある。
なお、新事業を立ち上げるモチベーション
注)新事業を実施した企業に限定
資料)九経調「中核企業の新事業創造実態に関するアンケート」
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としては、次世代事業の構築を掲げる企業が
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図表5 新事業の事業領域として重視する点
図表6 新事業のモチベーション
資料)九経調「中核企業の新事業創造実態に関する
アンケート」
資料)九経調「中核企業の新事業創造実態に関するアンケート」
64.0%でトップとなっている(図表6)。こ
新事業にかかる体制とキーマン
れに、新市場の開拓が44.7%、技術の応用が
「次世代の事業の構築」を目指した新事業
25.7%、人材の活用が22.0%と続いている。
は、どのようなきっかけで、どのような経緯
人口減少社会に突入し、既存の国内マーケッ
を経て事業化されていくのだろうか。
トが縮小してくるなかで、新しい市場を切り
アンケート調査によると、新事業のきっか
拓き、ここに自社資源としての人材を活用し
けとなる内部環境として、経営者からの提案
ていきたいと考えているようである。そして、
が半数の50.0%と突出している(図表7)。
そのような想いは、牽引型中核企業で強いこ
社員からの提案が18.2%、新事業担当部署か
とがみてとれる。次世代事業の構築について
らの提案が17.2%と、ボトムアップ型の取組
は、牽引型中核企業で81.0%が重視するとし
と比べて、経営者の才覚やリーダーシップの
ており、新市場の開拓も54.4%と過半数を超
方が圧倒的に重要であるという結果が出てい
えている。
る。また、新事業のきっかけとなる外部環境
中核企業が新事業に取り組む最大の目的は、
としては、マーケット環境の変化が29.2%で
次世代事業の構築であり、時代の流れのなか
高く、これに協業パートナーの存在が16.1%、
で事業環境が激変するなか、企業の継続性を
技術環境の変化が10.9%で続いている。マー
考える上でも、新事業への展開が不可欠と認
ケットや技術という外部環境の変化がきっか
識されているとみられる。
けとなるなかで、それらの変化に対応するた
めに協業パートナーの存在を重視するという
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図表7 新事業のきっかけ
図表8 新事業推進のキーマン
注)最近10年間で新事業を実施した192社が対象
資料)九経調「中核企業の新事業創造実態に関するアンケート」
注)最近10年間で新事業を実施した192社が対象
資料)九経調「中核企業の新事業創造実態に関するアン
ケート」
結果となっている。つまり、大きな流れとし
外部資源の活用がある。中核企業といえども、
て、マーケット環境の変化を捉え、経営者が
自社単独で新事業に臨むとするケースは少な
陣頭指揮をとり、他社との協業によって進め
く、外部との関係性のなかで新事業への取組
られているという構図をみることができる。
を進めている。具体的には、中途採用人材の
なお、新事業のキーマンについても、同様
活用と他社との協業である。
に経営者が重要という結果が見られた。新事
アンケート調査によると、43.4%の中核企
業推進のキーマンを尋ねたところ、経営者が
業が新事業の実施にあたって中途採用を検討
51.6%と最も高くなっており、これに新事業
している(図表9)。中核企業4類型でみると、
担当部署(40.6%)や生え抜き人材(24.5%)
、
新事業に積極的に取組んでいる牽引型や創造
新事業の発案者(19.3%)などが続く(図表
型の中核企業でその比率が高まり、それぞれ
8)。新事業のきっかけも経営者なら、新事
59.5%、50.3%と過半数を超えている。
業推進のキーマンも経営者という結果となり、
また、他社との協業を検討したとする中核
経営者の新事業に対する考え方やリーダー
企業も約半数の48.1%に達している(図表
シップが不可欠であることがあらためて示さ
10)。新事業に積極的に取組んでいる牽引型・
れた結果となった。
創造型の中核企業においては、その比率がさ
らに高まり、6割を超えている。
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新事業のカギを握る外部資源の活用∼中途人
新事業の実施において、「協業」が非常に
材と協業
重要なファクターとなっているが、その目的
新事業のカギを握るもう一つの要素として、
はなにか。アンケート調査で、協業先に求め
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中核企業の新事業創造による地域産業の新陳代謝
図表9 中途人材の検討
図表10 他社との協業の検討
資料)九経調「中核企業の新事業創造実態に関する
アンケート」
資料)九経調「中核企業の新事業創造実態に関する
アンケート」
ることを尋ねると、技術力が58.8%で最も高
企業と組んでいる中核企業の特性をみると、
く、これに専門性が56.6%で続く。その上で、
新事業の立ち上げを具体的かつ積極的に行い
マーケティング力が42.9%、営業力が34.6%
たい企業、異業種への展開を行いたい企業、
と続いている。中核企業は、技術力と専門性、
技術・ノウハウを求める企業という特徴をみ
マーケティング力と営業力を確保して、相乗
ることができる。
効果を発揮することを目的に他者と協業して
アンケート調査によると、ベンチャー企業
いる。まずは、技術やノウハウといった供給
との協業をしている中核企業の約3割にあた
サイドのリソース確保が大前提となるが、実
る29.4%が、毎年1事業の立ち上げを目標と
際に事業化を進めていく上では、これに加え
しており、新事業立ち上げの頻度についての
て、マーケットサイドのリソースであるマー
目標を持ち、とりわけ高い頻度での明確な目
ケティング力や営業力も求められている構図
標を有している企業ほどベンチャー企業との
が見えてくる。
協業が多くみられる。さらに、ベンチャー企
業と協業している中核企業は、その多くが異
4.中核企業とベンチャー企業の
協業による新事業創出
業種への展開を検討していることもわかった。
ベンチャー企業との協業がある中核企業の実
に85.7%が異業種展開を模索しており、ベン
新事業に積極的な中核企業でみられるベン
チャー企業との協業によって、技術・ノウハ
チャーとの協業
ウの獲得を目指していることも見えてきた。
新事業の創造には「協業」が重要な役割を
現時点では、中核企業とベンチャー企業と
持 っ て い る が、 そ の 協 業 相 手 と し て ベ ン
の協業はまだまだ少ないものの、今後の新事
チャー企業が選ばれている比率は、15.7%と
業創造には欠かせない選択肢の1つとなって
まだまだ少ない。しかしながら、ベンチャー
いくだろう。
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病院と金融機関との連携で生まれた医療フィ
理と受発注の代行サービスがビジネスになる
ンテック
と捉え、調達代行サービスに展開した。さら
中核企業とベンチャー企業の協業による新
に、その代行サービスの幅を、高額な医療機
事業創出の事例として、㈱エーエヌディー(福
器などの設備投資支援にも拡げた。
岡市博多区)による医療フィンテックビジネ
医療機関のニーズの本質を、物流在庫管理
スは非常に興味深い。同社は、2013年創業の
ではなく資金管理にあると見極めた同社は、
医療機関向けのシステムメーカーであり、医
納入業者の売掛金支払サイトの短縮と医療機
薬品や医療材料(以下、医療資材)の購買管
関の買掛金支払サイトの延伸をサービスに組
理等を行うシステムを、月額固定料金型のク
み込む医療フィンテック事業(ITを活用し
ラウドシステムとして提供していた。医療機
た金融サービス、ファイナンス・テクノロジー
関では、医療資材の受発注に関する業務効率
の略)に展開している(図表11)。この医療フィ
化と、適切な診療報酬の請求に苦慮しており、
ンテック事業の展開スピードを速めるため、
同社のシステムはこの課題を解決できるとし
㈱西日本シティ銀行(福岡市博多区)や㈱
て様々な医療機関で導入が進んでいる。その
十八銀行(長崎市)などの地域金融機関と提
ようななか、朝倉市で24時間救急医療体制を
携して、ストラクチャードファイナンスで資
有する地域の中核医療機関である医療法人社
金を調達(特定目的会社(SPC)を設立)し、
団医王会朝倉健生病院(売上高32億円、従業
医療機関に対する高額医療機器や医療資材の
員数340名の地域中核企業)との関係を深め、
導入支援を行っている。特に、高額医療機器
同院で生じる課題を解決するシステムをプロ
については、㈱九州リースサービス(福岡市
トタイプとして開発し、これをシステムのレ
博多区)や十八総合リース㈱(長崎市)など
ベルアップに活かしている。そのなかで、シ
とも提携し、病院経営にかかる金融サービス、
ステムの提供だけでなく、医療資材の在庫管
リースサービス、医療資材管理サービスを
図表11 購買代行事業モデル
資料)エーエヌディーウェブサイトより九経調作成
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中核企業の新事業創造による地域産業の新陳代謝
行っている。これに加えて、2016年1月から、
「診療債権のファクタリングサービス」を組
図表12 地域産業の新陳代謝を促す新しい事業
生態系
み合わせたビジネスモデルも確立している。
さらに、薬事法との関連の薄い医療資材の
分野では、医療機関のニーズにマッチしたプ
ライベートブランド商品の開発販売も手がけ、
医療品卸の㈱アステム(大分市、福岡市博多
区)と組んでサプライサイドの展開力を強化
資料)九経調作成
するなど、医療機関の課題解決に向けたビジ
ネス展開を、中核企業との協業によって次々
その結果、牽引型中核企業をベンチマーク
と進めている。
することによって、地域に魅力ある「しごと」
2016年には、同社本社にバーチャル手術室
を創りつづけるためには、経営者の危機感と
などのハイエンドな高額医療機器や、最先端
新事業の創造に対する強い想い、特に近年で
の介護・居宅支援ロボットなどの実体験がで
は社会的課題の解決を事業に結びつける社会
きるショールーム(医療パビリオン)を整備す
的共通価値(CSV)を意識した新事業への想
ることで設備投資需要の創出にも取組むとし
いが重要であることが見えてきた(図表12)。
ている。2013年に創業者の久保田洋充社長が
そして、その実現に向けた明確な目標設定と
2名で設立した同社は、2015年には売上高40
新事業を実践する組織的体制づくり、協業・
億円の中核企業に急成長し、2016年には100
中途人材の活用といった外部資源の有効活用
億円に伸ばす計画である。医療機関や金融機
によるスピード経営の実現などの取組が求め
関、商社など、多くの中核企業との連携によっ
られる。
て「医療フィンテック」という新たなビジネ
すなわち、これからの成熟化した多様性と
スモデルをスピーディーに展開している。
質が求められる社会において、それをスピー
ディーに実現していくためには、プロフェッ
おわりに∼地域産業の新陳代謝の
促進に向けて
ショナルとプロフェッショナルのパートナー
シップに基づく協業がカギになる。これに
よって、世界と競争できるレベルの価値のあ
中核企業の挑戦から生まれる新しい事業生態系
る事業づくりをターゲットにした取組を目指
新事業にチャレンジして成功させている企
していくことが求められる。
業と、そうでない企業とでは何が違うのか。
本稿では、中核企業の4類型での分析を通じ
て、そのことを様々な角度から検証してきた。
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新しい「しごと」づくりに対して中核企業に
・ベンチャー企業や中小企業などが中心
求められること
・起業支援が中心
地域に新しい「しごと」を創りだし、地方
・テクノロジーイノベーションの実用化が
創生に結びつけるためには、中核企業が価値
中心
の高い事業を行い、生産性を高め、それに見
となっていた。これに加えて、今後求められ
合った報酬を支払い、専門性や高度な知識・
る政策対象としては、
技能を有する人材の「しごと」場として機能
・中核企業の新たな事業化
する。つまり、中核企業が、
「しごと」を楽し
・中核企業とベンチャー企業などとの協業
める場、楽しめる「しごと」を生み出す場と
・テクノロジーを組み合わせたサービスイ
して機能する。そして、そこから新しい価値
ノベーション
を生み出す連鎖を先導することが求められる。
などといった中核企業を柱にすえた事業創造
現状、九州地域では、新事業の企画立案の
をターゲットにすることが求められるのでは
機能を有する中核企業は6割しかなく、新事
ないだろうか。そして、地域に積極的な事業
業にかかる企画部署の設置といった組織的体
創造を進めるために、
「中核企業とベンチャー
制を整えている中核企業は4割に満たず、明
企業の共創・協業による事業生態系(エコシ
確な目標を掲げている中核企業は2割程度し
ステム)づくり」を通じて、中核企業の事業
かないという衝撃的なアンケート結果が出て
の新陳代謝と次世代事業の構築に加えて、ベ
きたが、まずはここから変えていく必要があ
ンチャー企業を中核企業へとアップグレード
るだろう。魅力的な「しごと」づくりができ
させていくことが求められるのではないだろ
ないかぎり、地域からの「ひと」の流出は止
うか。
まらない。水が高いところから低いところに
新事業の創造に向けて明確な目標を持ち、
流れるのとは逆に、「ひと」は条件の悪いと
積極的な展開を進めている牽引型中核企業で
ころから条件の良いところに流れる。この条
こそ、ベンチャー企業との協業が特に重視さ
件を、多くの経営資源を有する中核企業が先
れていることからもわかるように、新事業の
陣を切って変えることで、地域に新しい風を
創造には、複数の化合物が必要なのである。
吹かせていくことが必要だろう。
中核企業とのベンチャー企業等の協業を促進
する触媒として機能するような地域産業政策
中核企業をターゲットにした地域産業政策を
これを実現させる「刺激」や「きっかけ」
としての地域産業政策にも変化が求められる。
これまで、新事業創造に関する地域産業政策
としては、
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(しかけ)が強く求められる。