高齢者総合的機能評価入門 Comprehensive Geriatric Assessment 超高齢社会 歴史的背景 概念 必要性 要素 臨 床応用 国立長寿医療研究センター 鳥羽 研二 Copyright © 一般社団法人日本老年医学会 介護予防 日本は世 界のお手本 高齢化率 中国 台湾 韓国 日本 9% 11% 12% 24% フレイル 中国 台湾 韓国 日本 ? 6% 8% 9-15% (欧米のフレイル) スウェーデン スペイン 8.5% 27.3% 高齢者 3200万人 要介護 12% フレイル 9% フレイル 23% 予備軍 元気 高齢者 Copyright © 一般社団法人日本老年医学会 56% 2 K Toba, NCGG 1935年、英国の女医 Marjory Warren CGAをはじめる CGAが生命予後 1984年、Rubenstein や機能予後を改善(N Engl J Med) 1992 年 Stuck CGA メタアナリシス(Lancet) 日本におけるCGAの導入 1990年 高知医大小澤利男教授(当時)CGAを臨床研究として導入 1993年 東京都老人医療で本邦初の総合的機能評価病棟を開設 1995年 東京大学老年病科、65歳以上の症例に必ずCGA。 1997年 国立療養所中部病院で総合的機能評価外来が開設、 1998年 国立療養所中部病院包括的機能病棟 2000年 介護保険制度、要介護認定 2001〜2年 要介護認定調査検討委員会:CGAによる調査項目の見直し 2003年 総合的機能評価ガイドライン 2008年 後期高齢者医療制度で、生活機能評価(ADL, 認知機能、意欲) が、給付の方向(中医協) 2010年 後期高齢者医療制度廃止の方向、機能評価加算は存続 Toba, NCGG 総合的機能評価; 疾患評価(普遍的評価)だけでなく、 1)日常生活活動度(歩⾏行行、排泄etc) 2)家庭での生活手段の自立(料料理理etc) 3)物忘れ、認知症の程度(MCI) 4)精神行動異常の程度(BPSD) 5)抑鬱など気分障害、意欲 6)家族の介護能力、介護負担 7)在宅環境・社会サービス利用 などを総 合的に検査、評価し、個人の生活 個別性 を重視した医療・ケアを 選択する方法。 K Toba, NCGG 総合的機能評価は 多職種恊働の視点である 電話 薬 年金 寄合 盆栽 俳句 食事 排尿 入浴 物忘れ 不眠 妻 子供 K Toba, NCGG 総合的機能評価の領域 退院 退院支援 外来チェック 再入�院予防 疾患 心筋梗塞 肺炎、心不全 ↓ ↑ 内科各科の 障害 心筋障害 免疫機能低下 領域 心拍出量低下 低栄養 ↓ ↑ 能力低下 階段昇降不能 意欲低下、抑鬱状態 ↓ ↑ 精神科 不利益 2階に住めない 妻に先立たれた 領域 リハ領域 K Toba, NCGG 心と身体のネットワーク 疾患/症状 関節痛 骨粗鬆 症(円背) 心不 全 COPD 抑鬱の悪化因子 抑鬱で症状悪化 ○ × ○ ○ ○ ○ ○ ○ 抗鬱剤で症状改善 治療で抑鬱改善 関節痛 高脂血症 COPD ○ × × × ○ ○ (ACE-I) ○ (Statin) ○ (多職種介入呼吸リハ) Toba, Depression frontier 2005 病気診断から生活場面の指導 -CGA=チーム医療 疾患 重症度 日常生活機能 (ADL) 老年症候群 うっ血性心不全 NYHA3度 心陰影拡大 心係数2.0 PA楔入圧25 Forester IV群 検査 息切れ 50歩歩行× 階段 × (軽い労作で 入浴 × 症状) トイレ歩行× Barthel Index 50 問診、理学所見 循環器機能 K Toba, NCGG 看護師 介護福祉士 総合的 機能評価 高血圧 糖尿病 前立腺肥大 結核後 低肺機能 変形性 膝関節症 白内障 生活の不便さ (生活の評価) 症状・訴え 家族 の気づく状態 =総合的機能評価 =老年症候群 K Toba, NCGG 老年症候群の定義 高齢者に多く見られ 医療だけでなく、 介護・看護のケアが同時に 必要な、症状・所見の総称 K Toba, NCGG 加齢による生理的変化と老年症候群 白髪・禿頭* 視力低下(暗順応) 聴力低下(感音声・弁別能) 歯の喪失(80/20) 味覚の低下 嗅覚低下 声の低音化* 嚥下機能低下 繊毛運動低下 運動時心拍出量増加が少ない 一秒量低下 肺活量低下 腸蠕動低下 肝臓薬物代謝遅延 腎機能低下 濃縮力低下 膀胱容量減少 筋肉量減少 骨量減少 関節可動域低下 転倒 抑鬱 低栄養 低栄養 低栄養 誤嚥 発熱 (肺炎) 息切れ 息切れ 息切れ 便秘 Cmax (薬物中毒) T half(薬物中毒)、浮腫、脱水 夜間多尿 頻尿 転倒・歩行速度遅延 骨折 転倒 K Toba, NCGG 高齢者は多疾患を有し、 多種類の症候(老年症候群)を同時 に保有する 疾患数 8 6 4 2 0 30 40 50 60 70 80 Age 加齢と疾患数 (秦葭哉;診断と治療1991) 22 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 n=472, R=0.5, P<0.0001 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 Age 加齢と老年症候群 (鳥羽研二;日老医誌1997) 投薬数と薬物有害作用発現頻度 入院症例の投薬数加齢変化 入院時 退院時 東大老年病科 1995-1998 発現頻度 (%) 30 8 20 N of Presc 6 4 10 2 0 90〜 〜29 30 40 50 55 60 65 70 75 80 85 〜39 〜49 〜54 〜59 〜64 〜69 〜74 〜79 〜84 〜89 (10) (17) (25) (19) (29) (47) (77) (78) (81) (69) (45) (16) AGE 0 1 2-3 4-5 6-7 8-9 10(88) (72) (87) (95) (74) (50) 投薬数 鳥羽:薬剤起因性疾患 日本老年医学会雑誌 1999 疾患・合併症によって増える老年症候群(井藤英喜原図) 高血糖 糖尿病 浸透圧利尿 → 頻尿・尿失禁 Mφ遊走能↓、貪食能↓、 細胞性免疫↓ 感染 神経障害 神経因性膀胱→ 末梢神経障害→ 自律神経障害→ 網膜症 白内障 脳血管 障害 視力低下→ 神経因性膀胱→ 運動神経障害→ 認知回路障害→ 前頭葉血流低下→ 頻尿・尿失禁 しびれ、 ほてり、冷感 便秘、 下痢、立ちくらみ とじこもり、転倒 頻尿・尿失禁 転倒 認知症 うつ(Post Stroke Apathy) K Toba, NCGG 高齢者によく見られる病態と生活機能障害の関連 Annals of Intern Med 2000年の全米退職後健康調査による分析(ミシガン大学) 対象:無作為抽出11093名の65歳以上の高齢者 方法: GCs: もの忘れ、尿失禁、転倒、やせ、めまい、視力低下、難聴 ADL :入浴、着衣、食事、移動、排泄行為 病態のいずれか1つをもつ出現頻度 前期高齢者 (65〜74)では4割、 後期高齢者(75〜84歳)で は過半数に増加し 10人に一人が尿失禁、めまい、難聴 超高 齢者(85歳以上)では、2/3以上 5人に一人がもの忘れ、尿失禁、転倒、めまい、難聴 ADLとの関連では、慢性疾患の種類を考慮にいれても、 高齢者によく 見られる病態の数が最もADL依存の危険度を増し、 1個で2.1倍、2個で 3.6倍で、3個以上で6.6倍で、 脳血管障害の3倍より遥に高かった。 このような病態は、従来の臓器別疾患体系から傍流にあるため、 従来軽視 されがちであった。 多くの慢性疾患と同等の出現頻度があり、より生活機能障害に影響の 強い「高齢者によく見られる病態」 の重要性を指摘している。 K Toba, NCGG 基本的日常生活活動度と老年症候群 8 6 4 2 0 ~35 (n=69) 依存 40-60 (n=86) 65-80 (n=55) 85 (n=44) 基本的な生活の自立 Barthel Index(100点満点) 90 (n=45) 95~ (n=420) 自立 K Toba, NCGG 疾患構造から:老年症候群 N of Geriatric Syndrome 12 急性疾患関連 10 慢性疾患関連 めまい、息切れ、腹部腫瘤、胸腹水、頭痛 意識障害、不眠、転倒、骨折、腹痛、黄疸 リンパ節腫脹、下痢、低体温、肥満 睡眠 時呼吸障害、喀血、吐下血 要介護関連 認知症、脱水、麻痺、骨関節変形、視力低下 発熱、関節痛、腰痛、喀痰・咳嗽、喘鳴 食欲 不振、浮腫、やせ、しびれ、言語障害 悪心嘔 吐、便秘、呼吸困難、体重減少 8 6 4 ADL低下、骨粗鬆症、椎体骨折、嚥下困難 尿 2 失禁、頻尿、譫妄、鬱、褥瘡、難聴、 貧血、 低栄養、出血傾向、胸痛、不整脈 0 -59 60-64 65-69 70-74 75-79 80-84 Age 85K Toba, NCGG 80歳以上の高齢者で急増する徴候 頻度(%) 60 50 40 ADL低下 関連 時間 の症候群 短 褥瘡 誤嚥 失禁 便秘 筋萎縮 拘縮 心拍出量↓ 低血圧 肺活量↓ 抑鬱 認知機能低下 長 骨粗鬆症 頻尿 椎 体骨折 嚥下困難 譫妄 鬱 褥瘡 30 20 10 0 〜59 60〜64 65〜69 70〜74 75〜79 80〜84 Age 85〜 K Toba, NCGG 生活を支える臓器機能 移動能力 (BADLm) 身の回り (BADL s) 文化的生活 (IADL) 交流・家族 (SADL) 役割 (Morale) 経 済的安定 健康 排泄障害 1)筋力 2) 骨関節系 3) 神経系 4) 循環器系 5) 呼吸器系 老化 6) 内分泌系 老年病 7) 代謝系 8) 腎泌尿器系 9) 精神系 10) 感覚器系 11) 消化器系 K Toba, NCGG 安全で効率的な治療 糖尿病 総合的機能評価 糖尿病自体 疾患重症度 合併症 脳梗塞 心筋梗塞、心不全 閉塞性動脈硬化症 神経障害 網膜症、白内障 治療 食事 内服 注射 老年症候群の程度 嚥下障害、 視力障害 基本的ADL 自立、麻痺 手段的ADL 炊事、服薬管理 認知能 自己注射 うつ 服薬拒否 社会的背景 栄養管理、服薬管理 K Toba, NCGG 基本的ADL Barthel Index 移乗 歩行 階段 移 動 食事 トイレ動作 到達、動作 入浴 WC 排尿 排便 更衣 セルフケア 整容 K Toba, NCGG 高齢者糖尿病に対する総合的機能評価(3) 基本的ADL(Barthel Index;127名) 入院時 87/100 (軽度低下) 退 院時 91/100 (ほぼ自立) 退院時階段昇降 退院時排尿 介助10% 尿失禁28% K Toba, NCGG 手 段的ADL (Lawton)=生活自立 500 100 10000 日本銀行券 壱万円 院外処方 凸凹薬局 K Toba, NCGG 高齢者糖尿病に対する総合的機能評価(4) 手段的ADL(Lawton) 5.3±0.2点 / 8点満点 食事の準備 依存16.3% 服薬管理 要管理25% (全依存10%) K Toba, NCGG 総合的機能評価を短時間で外来で行うために 簡易版CGA7 CGA7(7項目) 1)意欲;外来または診察時や訪問時に、被験者の挨拶を待つ (自分からすすんで挨拶をする=○, 返事はするまたは反応なし=×) 2)認知機能 復唱;これから言う言葉を繰り返して下さい あとでまた 聞きますから覚えておいて下さいね;桜、猫、電車 (全部可能=○、不完全=×) (不完全ならば(5)認知機能は省略) 3)手段的ADL 交通機関の利用;外来の場合;ここへどうやって来ましたか? それ以外の場合;普段一駅離れた町へどうやって行くかを尋ねる (自分でバス電車タクシー自家用車を使って旅行=○, 付添が必要=×) 4)認知機能 遅延再生(桜、猫、電車)の再生; 先 程覚えていただいた言葉を言って下さい (ヒントなしで全部可能=○、左記以外=×) 5)基本的ADL 入浴;お風呂は自分1人で入って、 洗うのも手助けは要りませんか? (自立=○、部分介助または全介助=×) 6)基 本的ADL 排泄; 漏らすことはありませんか? トイレに行けないときは、尿瓶は自分で使えますか? (失禁なし、集尿器自立=○、左記以外=×) 7)情緒:GDS(1) 自分が無力だと思いますか? (いいえ=○、はい=×) K Toba, NCGG 解釈 あくまでスクリーニングなので、異常(×)が検出された 場合は、標準的方法で評価することが必要 おおまかな解釈 1)挨拶意欲が×------趣味、レクリエーションも していない可能性が大きい 2)復唱が出来ない------失語、難聴などなければ、 中等度以上の認知症が疑われる 3)タクシーも自分で使えなければ、虚弱か中等度の 認知症が疑われる 4)遅延再生が出来なければ軽度の認知症が疑われる、 遅延再生が可能なら認知症の可能性は低い 5)6)入浴と排泄が自立していれば、 他の基 本的ADLは自立していることが多い 入浴、排泄の両者が介助であれば、 要介護状態の可能性が高い 7)無力であると思う人は、うつの傾向がある K Toba, NCGG CGA7 (7項目)に異常が検出されたときの 2次検査項目 1)意欲 2)認知機能 復唱 3)手段的ADL 交通機関の利用 4)基本的ADL 入浴 5)基本的ADL 排泄 6)認知機能 遅延再生 7)情緒:GDS(1) Vitality Index MMSE, HDS-R Lawton IADL Barthel Index Barthel Index MMSE, HDS-R GDS15 K Toba, NCGG 日常外来業務での会話などを活かす <多忙な外来における、問診でスクリーニングを代用する方法> 基本的ADL; 階段昇降 手段的ADL; 薬物管理 交通手段 認知機能; 排尿「おトイレが間に合わないことがありませんか?」 「駅の階段は楽にあがれますか?」 食事の支度「夜もお弁 当で済ますことが多いですか?」 「お薬が余っていませんか?」「飲み忘れが多いですか?」 「この外来へ、バス、電車、地下鉄できていますか?」 今朝ご飯は食べましたか? 何を食べましたか? その話はこの前も聞きましたと言われ 問題行動; たことがありますか? 物をなくすことが増えましたか? 意欲・うつ;趣味、運動など前からやっていたことを今も続けていますか? K Toba, NCGG 治す医療から 治し支える医療へ 心身の自立を妨げる要因 記憶判断力低下 剛健 博覧強記 * 運動機能低下 交流減少 筋隆々 柔軟な関節 活発な交流 正常骨量 ロコモティブ シンドロー ム (サルコペニ アを含む) 筋力低下 可動域 低下 骨量減少 もの忘れ フレイル 加齢筋肉減少 軽度 認知障害 外出頻度 減少 可動域制限 骨粗鬆症 関節痛 要介護 認知症 Cognitive frailty 歩行障害 転倒 関節拘縮 寝たきり Physical frailty 閉じこもり Social frailty 31 加齢により低下しやすい手段的ADL(独居機能) (%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 (%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 (%) 買物 女 男 60代 70代 80代 90代 交通機関の利用 60代 70代 80代 90代 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 (%) 100 90 80 70 60 女 50 男 40 30 20 10 0 料理 60代 70代 80代 90代 服薬管理 女 男 60代 70代 80代 90代 入院治療(直す医療)で、ADLは改善するが、 90歳以上では、独居可能なレベルには回復しない 入院時 退院時 100 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70-79歳 90 80 年齢区分 独居不能レベル 80-89歳 70 60 90-歳 50 40 支える 医療が 必要
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