看護臨地実習の充実を目指して

看護臨地実習の充実を目指して
兵庫県立龍野北高等学校
教 諭
上 田 眞 壽 美
はじめに
平成 14 年度から 5 年一貫教育が開始され、12 年が経過した。平成 21 年度の看護基礎
教育のカリキュラム改正に伴い、新たな科目として統合分野に「看護の統合と実践」が設
置された。改正に伴い実習目的・目標の大幅な見直しや新科目による臨地実習の施設の確
保に取り組んだ。
また生徒の特性をふまえた上で看護実践能力の強化のため、校内演習や臨地実習の指導
方法の工夫や臨床との調整に取り組んだ。
兵庫県看護学校教務主任協議会に参加することで、看護師教育の現状の把握や情報交換
により、臨地実習の充実に取り組んだ。
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取組の内容・方法
(1)指導と評価の一体化を目指した実習要項の見直し
平成 21 年度の看護基礎教育カリキュラム改正から 5 年目を迎えた。最終学年となる 5
年一貫教育の生徒が充実した看護臨地実習を実践する時期となった。その準備として取り
組んだことは以下の通りである。
平成 22 年度より定期的に職員研修を開催し、新教育課程の共通理解や看護科の教育目
標・目的の共通理解や具現化を図った。
平成 23 年度は看護実習目的、目標、内容の精選や教育方法など生徒の 5 年間の発達段
階を考慮しながら実習要項の全面的な見直しを行った。
平成 24 年度は実習評価を中心に、従来の内容分析的観点による到達度評価の方法を生
徒の学ぶ意欲や関心、思考力、判断力、表現力などの能力分析的観点による到達度評価を
行うことにより問題解決能力の向上を目指すように見直しを行った。
看護師としての「生きる力」を培い、看護実践能力の向上を目指す指導と評価の一体化を
行うことにより、自ら学び自ら考える力を持った生徒を育てることを目標とした。
(2)新規実習施設の開拓
看護の統合と実践実習では、目標達成に向けた実習のフィールドを確保するという創造
的な取組が期待されている。本校は①病棟での統合実践実習 ②地域での保健センター実
習
③災害看護実習を選択した。その中でも災害看護実習は兵庫県災害医療センターと日
本赤十字社兵庫県支部に依頼し、看護の実践能力の育成を図ることにした。(写真 1)
県下で最も専門性の高い高度救命救急センター・基幹災害拠点病院である兵庫県災害医
療センターにおいて、災害時の看護活動を学習させることを目的に、災害医療センターの
役割や実際の災害医療活動など具体的な実践、臨地講義を依頼した。
また日本赤十字社兵庫県支部において、現地で活動するスタッフに、災害時のシュミレ
ーション演習を依頼した。兵庫県災害医療センターと日本赤十字社兵庫県支部は、本来専
門職を対象とした研修施設であったため、本校の実習目的・主旨を何度も説明し、受け入
れが可能となった。実習日の決定についても遠距離であることや実施時間を考え、同日の
実習受け入れ可能日を調整した。
写真 1 災害看護実習演習風景
(3)看護実践能力を高めるための取組
今年度初めて実施する統合実践実習に先駆けて、平成 24 年度より複数患者を受持ち、
1人1人の患者の看護計画を立案し、援助の優先度を判断し、多重課題の対処を考えさせ
る演習を計画し事前演習を実施した。
平成 25 年度は「臨床看護総論Ⅱ」として新設科目を設置し、既習の知識や技術を統合
して対象の状況に応じた看護実践能力を身につけることを目標に事前演習を行った。
(写真 2)
特に工夫したことは、①専攻科全教員が初めから授業や演習に参加し、共通理解を行っ
た。②患者役は教員がおこない、リアリティのある患者設定を工夫した。③患者からの質
問形式をとり、疾患や治療内容などに関する学習をさせ、演習の中で生徒の理解度を確認
した。④生徒の計画した看護ケア及び突発的な事象を生徒全員に体験させた。⑤グループ
ワークや演習を多く取り入れ、生徒全体の授業方法を工夫した。⑥生徒が立てた計画を活
かしながら演習を行った。以上 6 点である。
また本実習の実習施設は、4施設に分散し、今回初めて受け入れの施設もあり、臨床指
導者の不安も大きかった。事前に行う実習説明会だけでは実習方法・内容を理解すること
は難しいと考え、学校側で実習指導案を作成した。教員が指導者に指導案を提示し、臨床
指導者と教員が指導方法を共有したうえで、それぞれが意図的な関わりを行った。
生徒が主体的に実習できる環境づくりや指導体制において、病院格差のないように配慮
した。特に指導案には生徒の主体性・自主性を高めるような指導者の言動を示した。
さらに今年度文部科学省教育課程研究指定校として、看護実践力を養う指導方法や実習
に関する評価の工夫改善についての研究を行った。校内で研究グループを編成し、年間計
画を立て、定期的に学習会を持つことで、教員のモチベーションを高めることに繋がった。
写真 2 臨床看護総論Ⅱ演習風景
(4)兵庫県看護学校教務主任協議会の参加
兵庫県看護学校教務主任協議会は県内の看護専門学校を中心に活動している。主な活動
目的は①看護学校運営に関する諸問題の検討及び情報の交換、②看護教育研究にかかわる
事項、③講演会開催、④関係官庁および他機関との連絡協調、⑤災害時における相互協力
などである。現在、加盟校は県内の看護専門学校や本校を含め全 23 校である。
運営は加盟校を4ブロックにわけ、当番ブロック校が 1 年間事業運営を担当している。
平成 25 年度は当番ブロック校の役員として、1 年間の事業計画をたて、年 6 回定例会議
及び教員を対象にした研修会と日頃臨地指導でお世話になっている指導者を対象にした講
演会を実施した。
定例会議では、兵庫県医務課より厚生労働省発令の情報提供、日本看護協会(県支部)
の看護協会の動き、教育研修計画(看護実践力育成等)、看護師教育に関した情報提供、新
カリキュラム教育対応の研修を行っている。
全国の 5 年一貫教育校では、このような看護専門学校主体の教務主任協議会に参加して
いる学校は少ないであろう。
しかし教務主任協議会の参加のメリットは①定例会議でのタイムリーな情報収集ができ
る。②他校の看護教育状況を情報交換し、学生資質など情報の共有が図れる。③臨地実習
施設の確保について、西播地域には看護学校、大学が密集し、1施設を3~5校が共有し
ており、実習科目や実習時期、実習期間等の重なりのないように学校間で調整し、施設に
依頼することで実習が可能となる。毎年、年度当初に次年度の年間実習計画表を作成後、
複数の学校と数施設の調整を図っている。④本校の教員も専門性の高い研修会や講演会に
参加し、新知識の共有や臨地施設の指導者への看護教育の普及に努める。
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取組の成果
(1)指導と評価の一体化を目指した実習要項の見直し
・実習評価について、臨床指導者から、評価規準や評価資料を提示することにより、評
価がしやすくなったという意見が多くみられた。臨地実習は臨床指導者と教員が相談の
上評価を行っている。今回の見直しにより評価規準や評価基準を明確に表示したことで、
互いのずれが減少したと考える。
また生徒にとって自己評価させることにより到達目標が明確になった。特に関心・意
欲・態度面での評価点は好成績に繋がった。これは指導方法の工夫もあり、生徒の主体
的、やる気に繋がった成果といえる。今後も生徒の自己評価の活用の仕方について、さ
らに工夫し自己学習力を育成していきたい。
(2)新規実習施設の開拓
・兵庫県災害医療センターにおいて、災害医療センターの役割や施設の見学を実際の災
害医療活動におけるDMAT看護師の役割、災害時のトリアージ、優先度の考えなど知
識の確認と事例による演習を行った。実践現場の看護師の発言は生徒の学習の深化に大
いに役立った。
・日本赤十字社兵庫県支部において、スタッフの指導を受け、近くの公園において、救
護の拠点つくりとして、資機材の取扱い・救護拠点の構築、トラウマメイクによる患者
設定を行い、本番さながらトリアージの実践、応急手当、搬送の実践を行うことができ
た。生徒は実践で使用する物品や実践方法の指導を受け、実務に即した形で実践する体
験を通して基礎的な看護実践力を身につけることができた。
(3)看護実践能力を高めるための取組
・今回、実習指導案を提示したことで、教員や指導者がその場その状況を生徒と共有し
ながら意図的に関わり支援していくことができた。実習終了後、生徒のアンケート結果
では、看護師の関わりで「名前を呼んでもらった」
「チームの一員として受け入れてもら
った」
「褒めてもらった」などの発言が生徒のやる気に繋がった。生徒の自主性・主体性
が高まり、自ら学び自ら考える力を持つ生徒を育てることに繋がった。
・臨床指導者は指導案が準備されており、安心できたと意見を頂いた。本実習は生徒と
指導者の関わりが十分に持て、臨床への橋渡し的な重要な実習となった。
(4)兵庫県看護学校教務主任協議会への参加
・平成 25 年度 8 月研修会テーマ「看護学教育に関わる実践能力の向上-看護・教育の
基盤をふまえた効果的な教育方法」
、9 月学習会:教材研究「教員の授業力向上」
、12 月
講演会テーマ「今、看護学生に看護をどう伝えるか」等の学習に参加できた。本校で参
加できなかった教員には伝達講習、資料など配付し、教員間の知識の共有を図り、教員
の質の向上に繋がった。
・定例会議に出席することで、看護の動向や看護教育の現状を把握し、他校の教員との
情報交換や対応策など共有することが本校の指導に大いに役立った。
・さらには他校の教員との人間関係を築いた上で実習施設の調整をすることで、実習施
設の情報交換や確保がスムーズにできる。
3.課題および今後の取組の方向
看護臨地実習はこの西播地域での実習施設の確保が重要となる。平成 26、27 年度と新
設の看護学校が誕生する現在、地域の実習病院との密な関係を保ちつつ、他校との関係も
良好に保っていかなければならない。兵庫県看護学校教務主任協議会に今後も参加してい
くことで、本校の看護臨地実習をスムーズにしていけると考える。
今年度文部科学省教育課程研究指定校として、看護実践力を養う指導方法や実習に関す
る評価の工夫改善についての研究を行ったことで、全教員が同じ目標を目指して研修・研
究活動ができた。今後も生徒の自主性・主体性が高まり、看護実践能力すなわち看護師と
して生きる力が向上するように研修を重ね、自己研鑽に努めたい。