No.2016-004 2016年4月20日 http://www.jri.co.jp 足許の円高による企業収益の下振れリスク ~ 110円を割り込む円高水準が定着すれば、2016年度は減益となる可能性 ~ (1)年明け以降、円高が急伸。足許のドル・円相場は、企業の事業計画の前提となる想定為替レートを大 きく上回る円高水準に(図表1)。想定為替レートを上回る円高が定着すれば、先行き、経常利益計 画の下方修正要因に。そこで以下では、日銀短観の経常利益計画を基に、今後の想定為替レートの修 正が、企業収益に与えるインパクトを検討。 (2)日銀短観(3月調査)における、2016年度の経常利益計画(全規模・全産業)は、前年度比▲2.2%の 減益(図表2)。もっとも、例年、期初は慎重な計画が示され、その後、上方修正される傾向がある ことを勘案すれば、2016年度も「117円」という想定為替レートのもとでは小幅増益が期待される状 況。 (3)そこで、円高が企業の収益に与える影響を、マクロモデルシミュレーションを基に試算すると、1ド ル=110円で推移した場合、2016年度の経常利益は、前年度比ほぼ横ばいに。また、105円の円高水準 が定着すれば、同▲1.5%程度の減益に(図表3)。円高が重石となるなか、2016年度は経常利益の頭 打ち感が強まる可能性。 (4)こうした経常利益の伸び悩みは、設備投資を下押しする可能性。もっとも、足許では、設備の老朽化 などを背景に、収益動向に依存せず更新投資を進める企業も増加。実際に、経常利益の変動が設備投 資に与える影響を目的別に試算すると、維持・補修などの更新投資は能力増強投資に比べ影響を受け 難い傾向があり、更新投資の増加が設備投資の下支えになると期待(図表4)。 (図表1)売上高経常利益率計画と想定為替レート (大企業・製造業) (%) 8 売上高経常利益率 7 年度計画(右目盛) 6 130 5 4 120 3 実際の為替レート 110 2 (期中平均) 100 1 0 90 想定為替レート 4月中旬 -1 80 (年度平均) 円高 (108円/ドル) -2 -3 70 2005 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年/期) (資料)日本銀行「日銀短観」 (注)売上高経常利益率年度計画と想定為替レートは、3月調査 →6月調査→9月調査→12月調査→実績見込み→実績の順に 各年度をプロット。○は16年3月の16年度計画を通年で図示。 150 (円/ドル) 140 (%) 12 10 8 6 4 2 0 (図表3)日銀短観・経常利益計画 (3月調査、前年度比) 想定為替レート 119円/ドル 為替レート 109円/ドル (図表2)経常利益計画の足取り (全規模・全産業) (%) 30 2012年度 2013年度 2014年度 2015年度 2016年度 25 20 15 10 5 0 ▲5 ▲10 3月 6月 9月 12月 実績 見込み 実績 (資料)日本銀行「日銀短観」 (注)2014年12月調査は調査対象企業の見直しにより、 新ベースと旧ベースのデータを併記。 (図表4)経常利益1%の増加が目的別設備投資 に与える影響(大企業・製造業) (%) 0.5 0.4 0.3 想定為替レート 117円/ドル 為替レート 110円/ドル のケース 0.2 為替レート 105円/ドル のケース ▲2 ▲4 2014年度 2015年度 2016年度 2016年度 2016年度 (実績) (実績見込み) (計画) (110円/ドル) (105円/ドル) (資料)日本銀行などを基に日本総研作成 (注1)2015年度(実績見込み)、2016年度(計画)は、2014年度(実績)との 比較を可能にするため、過去の修正パターンを基に調整。 (注2)2016年度(110円/ドル)、2016年度(105円/ドル)は、マクロモデル における円高の影響などを基に試算。 0.1 0.0 能力増強 維持・補修 <22.2%> <24.4%> (資料)財務省、日本政策投資銀行を基に日本総研作成 (注1)日本政策投資銀行「全国設備投資計画調査(大企業)」の 大企業製造業に対する設備投資動機アンケートを基に、目的別 の設備投資額の時系列の推移を試算。 (注2)大企業製造業の経常利益(前年比、1期先行)と、目的別設備 投資額(前年比)の弾性値を試算。前年の経常利益が1%増加 した場合、当年の目的別設備投資を何%増加させるかを示す。 (注3)推計期間は2000~2014年。 (注4)それぞれ統計的に1%水準で有意。 (注5)<>内は、2015年度計画における投資全体に占めるシェア。 【ご照会先】調査部 研究員 菊地秀朗・村瀬拓人(03-6833-6228、[email protected])
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