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エヴェンキ語、ヤクート語及びブリヤート語における人
称接辞を伴う副動詞形について
松本, 亮
京都大学言語学研究 (2005), 24: 153-183
2005-12-24
http://dx.doi.org/10.14989/87852
Right
Type
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Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
京 都 大 学 言 語 学 研 究(Kyoto
University
Linguistic
Research)24(2005),153-183
エ ヴ ェ ン キ 語 、 ヤ クー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 に お け る
人称接辞 を伴 う副動詞形 につ いて
松本
0
亮
は じめ に
本 論 文 は 、 エ ヴ ェ ン キ 語1、 ヤ クー ト語2、 ブ リヤ ー ト語3の 動 詞 人 称 接 辞 に つ
い て 考 察 す る。 エ ヴ ェ ン キ語 とヤ クー ト語 、 ブ リヤ ー ト語 に 共 通 して 見 られ る
"副 動 詞 形 に 人 称 接 辞 が 付 く"と い う特 徴 と
、"形 動 詞 形 に お け る 人 称 接 辞 の 現
れ 方"を
類 型 論 的 に観 察 す る。 そ して 、 結 論 と して 、 ヤ クー ト語 とブ リヤ ー ト
語 に 見 られ る"副 動 詞 形 に 人 称 接 辞 が付 く"と い う特 徴 は言 語 接 触 に よ りエ ヴ
ェ ン キ 語 か ら影 響 を 受 け た も の で あ り、 そ こ に エ ザ ー フ ェ と して 現 れ る 人 称 接
辞 の あ る機 能 が 強 く関 係 して い る可 能 性 が あ る こ と を示 す 。
本 論 文 の テ ー マ と 関 連 す る こ れ ま で の 研 究 は 、風 間(2003)と
(1995)が
挙 げ ら れ る 。 風 間(2003)は
、V. P. Nedjalkov
ア ル タ イ 諸 語 と 日本 語 、 朝 鮮 語 の 様 々
な 文 法 特 徴 を 比 較 対 照 した も の だ が 、 ヤ ク ー ト語 や ブ リ ヤ ー ト語 が 触 れ ら れ て
い な い 。 ま た 、V.
converb(副
P
動 詞)を
Nedjalkov(1995)は
ア ル タ イ 諸 語 に 限 らず 世 界 の 言 語 の
観 察 して 様 々 なtypological
parameterを
提案 してい るが 、そ
れ ら の う ち で 本 論 文 に お い て 取 り上 げ る 動 詞 人 称 接 辞 に 関 係 す るtypological
parameterは
少 ない。
1ツ ン グ ー ス 諸 語 に 属 す 言 語
。エ ヴ ェ ン キ 語(民 族 ・言 語 の 名 称 に つ い て は 他 に エ ウ ェ ン キ 、
エ ベ ン キ な ど あ る が 、 本 論 文 で は"エ
ヴ ェ ン キ"と 呼 ぶ 。)が 話 され て い る 地 域 は 、 西 は エ
ニ セ イ 川 、 バ イ カ ル 湖 北 部 、 レナ 川 上 流(オ
リ ョク マ 川 、 ア ム ガ 川 、 ア ル ダ ン 川 な ど)、 そ
し て 東 は オ ホ ー ツ ク 海 に 至 る 、東 シ ベ リ ア の 広 大 な 分 布 域 に 及 ぶ 。エ ヴ ェ ン キ 族 の 人 口 は 、
約30,000人
で あ る 。 そ の う ち 、 エ ヴ 』 ン キ 語 が 第 一 言 語 で あ る 割 合 が30.4%(ソ
連 邦1989
年 国 勢 調 査)で
あ る。
2チ
ュ ル ク 諸 語 に 属 す 言 語 。 ヤ ク ー ト語 は 、 レナ 川 流 域 を 領 土 と す る 、 現 在 の ロ シ ア 連 邦 の
サ バ 共 和 国 で 話 され 、 ロシ ア語 と共 に 主 要 言 語 の一 つ とな つ て い る 言 語 で あ る。 ヤ クー ト
族 の 人 口 は 約382,000人
で あ る 。そ の う ち ヤ ク ー ト語 を 第 ― 言 語 と して 持 つ 割 合 が93.8%(ソ
連 邦1989年
国 勢 調 査)で
あ り 、 シ ベ リ ア 諸 言 語 の 中 で は 大 言 語 の 一 つ と言 え る 。
3モ ン ゴ ル 諸 語 に 属 す 言 語
。ブ リヤ ー ト語 は バ イ カ ル 湖 沿 岸(ロ シ ア 連 邦 の ブ リ ヤ ー ト共 和
国 を 中 心 とす る 地 域)、 お よ び モ ン ゴル 国 北 部 に お い て 話 さ れ る 言 語 で あ る 。 ロ シ ア 共 和 国
内 に お け る ブ リヤ ー ト族 の 人 口 は421,000人
し て 持 つ 割 合 が86.3%(ソ
連 邦1989年
で あ る 。 そ の う ち 、 ブ リヤ ー ト語 を 第 一 言 語 と
国 勢 調 査)で
言 語 の 中 で は 大 言 語 で あ る と言 え る 、
一153一
あ る 。 ヤ ク ー ト語 と 並 び 、 シ ベ リア 諸
エ ヴェ ン キ語 、 ヤ クー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 にお け る人 称 接 辞 を伴 う副 動 詞 形 に つ い て
1接
触 の歴 史
ま ず 先 行 研 究 を も とに 、 エ ヴェ ン キ語 、 ヤ クー ト語 、 ブ リヤ ー ト語 の 民 族 的
歴 史 、 及 び 各 言 語 間 の 言 語 接 触 につ い て 見 て お き た い4。
1.1エ
ヴェンキの歴 史
ツ ン グー ス 諸 語 が 文 字 を持 つ よ うに な っ た の は お お よ そ20世
紀 か らで あ り、
他 言 語 の 文 献 や 考 古 学 、 民 俗 学 な どの 貢 献 に よ っ て そ の歴 史 を 辿 る こ とが で き
る。 原 ツ ン グ ー ス の 起 源 の 地 に つ い て は諸 説 あ り、 現 在 ま で 最 も受 け入 れ られ
て い る の は シベ リア 起 源 説 で 、 バ イ カ ル 湖 南 東 の 森 林 地 帯 で あ る とす る も の と
い え よ う(ヤ ン フ ネ ン1983:49、
加 藤1986:179-186)。
ま た 、エ ヴ ェ ン キ を含 め
ツ ン グー ス 系 諸 民 族 は 「
元 来 トナ カ イ 飼 養 民 で は な く 、 タ イ ガ の 中 を徒 歩 で 歩
く狩 猟 ・漁 携 民 で あ っ た 」(加 藤1986:132)。
東 シベ リア に 広 く分 布 す るエ ヴ ェ
ン キ に と っ て トナ カ イ 飼 養 は極 め て 重 要 な 要 素 で あ る が 、 これ は バ イ カ ル 湖 周
辺 の モ ン ゴル 系 牧 畜 民 か ら得 た 知 識 だ とい う5。原 ツ ン グー ス は バ イ カル 湖 か ら
ア ム ー ル 川 下 流 へ 向 か う東 へ の 移 動(南 方 ツ ン グ ー ス)と 、 レ ナ 川 上 流 域 の 東
シベ リア へ 出 る移 動(北
方 ツ ン グ ー ス)と
に別 れ 、 広 範 囲 に拡 が つ て い く の だ
が 、 トナ カ イ 飼 養 技 術 を得 た エ ヴ ェ ン キ は 北 方 ツ ン グ ー ス に 属 す る 。 こ う して
エ ヴ ェ ン キ は近 代 へ つ な が る 「トナ カ イ飼 養 の 狩 猟 民 す な わ ち 、 移 動 ・運 搬 手
段 と して 少 数 の トナ カ イ を保 有 しな が ら 山野 に 獲 物 を 求 め て 移 動 生 活 を す る狩
猟 民 」(荻原1989:84)と
い う民 族 的 特 徴 を持 つ よ うに な っ た と考 え られ て い る。
そ の後 、 南 か ら移 動 して き た ヤ クー トが レナ 川 に 沿 っ て 北 上 しエ ヴ ェ ン キ と遭
遇 す るが 、「
定 住 に 際 して 先 住 民 で あ つ た ツ ン グ ー ス族 は彼 らに 狩 猟 や 漁 労 を教
え る こ と も した が 、 ス テ ップ 地 方 の 伝 統 的 牧 畜 文 化 を も つ 経 済 力 に 富 ん だ ヤ ク
4こ れ ら エ ヴ
ェ ン キ 語 、ヤ ク ー ト語 、 ブ リ ヤ ー ト語 に 共 通 し て 見 ら れ る 接 触 言 語 と し て 、 現
代 に お け る ロ シ ア 語 が 挙 げ られ る 。 例 え ば 次 に 挙 げ る 文 は 、(i)が エ ヴ ェ ン キ 語 の 例 で 、(ii)
が そ れ に 対 応 す る ロ シ ア語 で ある 。 エ ヴ ェ ン キ語 に お い て 疑 間 詞 が 先 行 詞 を もつ 関 係 副 詞
と して使 わ れ て い る が 、 本 来 エ ヴ ェ ン キ語 で は疑 問 詞 に この よ うな 用 法 は な く、 ロ シ ア 語
か ら の 借 用 で あ る こ と が 分 か る。
(i)ηgng―kal
ju-la-tin
du
ja-1-in
in-jara.
行 く 一2sg.imp家
―all-3pLpossど
こ 親 戚 一pl―3sg.poss住
"彼 の 親 戚 た ち の 住 む 家 に 行 き な さ い
。"
(ii)Po禔i
go.imp
v
in
(N:(isa))
む 一prs.3p1
dom,
gde
zhiwt
ego
rodstvenniki.
house.acc
where
live.prs.3p1
3sg.poss
relatives
"彼 の 親 戚 た ち の 住 む 家 に 行 き な さ い 。"
しか し本 論 文 で 取 り上 げ る現 象 に ロ シ ア語 は 関連 して い な い と考 え る為 、 本 論 で は ロシ ア
語 に 言 及 す る こ とは しな い 。
5こ の 根 拠 と して はエ ヴ ェ ン キ語 で トナ カ イ の 乗 用 道 具 に 関 す る 言 葉 が モ ン ゴル 語 の 乗 馬
具 と共 通 してい る こ とが 挙 げ られ て い る(加 藤1986:133)。
一154一
松本 亮
一 トに 多 く は 同 化 吸 収 さ れ た 」(庄 垣 内1992:51)
1.2ヤ
。
ク ー トの 歴 史
次 に ヤ ク ー トに つ い て で あ る が 、 ヤ ク ー トは バ イ カ ル 湖 の 南 西 あ た り か ら 現
在 の 彼 ら が 居 住 す る 東 シ ベ リ ア ま で 北 上 し て き た チ ュ ル ク 系 民 族 で あ る(庄
垣
内1992:51、
加 藤1986:105、
ヤ ン フ ネ ン1983:49)。
こ の 根 拠 と し て は 「ヤ ク
ー トが ブ リ ヤ ー ト ・モ ン ゴ ル 族 に よ つ て バ イ カ ル 地 方 を 追 い 出 さ れ た と い う伝
説 を 継 承 して い る こ と 、 チ ュル クや モ ン ゴル の よ うに 牛 馬 飼 養 民 で あ る こ と 、
バ イ カ ル 地 方 か ら レナ 川 中 流 域 ま で牛 馬 飼 養 民 の 移 動 の 痕 跡 が 考 古 学 的 立 場 か
ら認 め ら れ る こ と 、 ヤ ク ー ト語 が チ ュ ル ク 諸 語 の 一 種 で あ る こ と な ど が 挙 げ ら
れ る 」(庄 垣 内1987:51)。
他 の チ ュル ク 系 民 族 との 関 係 に つ い て は容 易 に 判 断
で き る も の で は な く 、 言 語 の 面 か ら 次 の よ うに 記 述 さ れ て い る:
ヤ ク ー ト語 は 、 チ ュル ク 語 に あ っ て は チ ュ ヴ ァ シ ュ 語 に 次 い で 特 異 な 言 語
とい え る。 他 の チ ュル ク 語 との接 触 を 絶 っ て 長 期 単 独 行 動 を と り、 そ の 間
に ツ ン グ ー ス語 や モ ン ゴル 語 と大 き な 接 触 を も っ た た め と考 え られ る。 チ
ュ ル ク 諸 方 言 の 中 で ヤ ク ー ト語 の 系 統 的 な位 置 づ け は 簡 単 で は な い 。 チ ュ
ヴ ァシ ュ 語 の よ うに 、 単 独 で 一 方 言 グル ー プ を 構 成 す る と考 え る場 合 と、
トゥ ヴ ァ 、 バ カ ス な ど南 シベ リア の 方 言 グ ル ー プ の 成 員 と見 なす 場 合 とが
あ る。(庄 垣 内1987:55)
ま た モ ン ゴ ル との 接 触 に つ い て は 、北 上 途 中 に お い て バ イ カ ル 湖 周 辺 で長 く接
触 を 持 っ て い た と 見 られ る が 、 これ は ヤ クー ト語 に 見 られ る モ ン ゴル 系 言 語 か
らの 借 用 語 が そ の 接 触 の 歴 史 を何 よ り も語 つ て い る と見 る こ と が で き る。 そ し
て そ の 時 期 は ツ ン グ ー ス とモ ン ゴル の接 触 よ りも後 に な っ て か ら と推 測 され る。
ま た 、 エ ヴ ェ ン キ 、 ヤ ク ー トと 接 触 を 持 っ て き た バ イ カ ル 湖 周 辺 の モ ン ゴ ル
系 民 族 は 、 古 く か ら多 く の 部 族 の 連 合 を 取 っ て い た オ イ ラ ト系 の 民 族 と 考 え ら
れ る 。今 日 の ブ リ ヤ ー ト族 も オ イ ラ ト族 の 一 派 で あ る こ と か ら(宮 脇2002:145)、
本 論 文 で は エ ヴ ェ ン キ 、 ヤ ク ー ト と接 触 を 持 つ て き た 民 族 は ブ リ ヤ ー トで あ る
と考 え て お き た い 。
歴 史 的 に エ ヴ ェ ン キ 語 、 ヤ クー ト語 、 ブ リヤ ー ト語 が 相 互 に密 接 な 接 触 を 持
っ て き た こ とが 容 易 に 想 像 され る6。
6ま た
、一 方 で現 代 に お い て も言 語 接 触 は認 め られ る。 ヤ ン フネ ン(1983)は
北ア ジアの現
代 の言 語 共 同 体(言 語 的 に 定 め られ る相 互作 用 の地 域)に つ い て5つ
の 主 要 な言 語 地 域 に
分 類 し、さ らに よ り小 さい 地 域 に 下位 分 類 して い る。そ の 中 でエ ヴ ェ ン キ語 、ヤ クー ト語 、
ブ リヤ ー ト語 を含 む 言 語 地 域 は 次 の よ うに分 類 され て い る。
一155一
エ ヴェ ン キ語 、 ヤ ク ー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 に お け る人 称 接 辞 を伴 う副 動 詞 形 に つ い て
1.3ヤ
ク ー ト語 、 エ ヴ ェ ン キ 語 及 び ブ リヤ ー ト語 の 各 言 語 間 の 借 用 に つ い て
で は 実 際 に 借 用 は ど の よ うに 見 られ る の だ ろ うか 。 こ こ で は 主 に 先 行 研 究 を
も と に 、 ヤ ク ー トの 側 か ら借 用 の 状 況 を 簡 単 に 見 て お く。 次 は ヤ ク ー ト語 とモ
ン ゴル 諸 語 に お け る 語 彙 の借 用 につ い て 述 べ た も の で あ る:
ヤ ク ー ト語 に み られ る借 用 語 の 中 で 、 も っ と も量 の 多 い の は モ ン ゴル 語
で あ る。 ヤ ク ー ト語 語 彙 の約25パ
い 。 こ の 借 用 は 、12∼13世
ー セ ン トが モ ン ゴル 語 で あ る と言 つ て よ
紀 頃 か ら数 世 紀 の 間 に行 な わ れ た 。 直 接 に 接 触
した の は 、 モ ン ゴル 語 の うち で も、 ブ リヤ ー ト方 言 で あ っ た と言 わ れ て い
る。 だ カ艨A借 用 形 式 の 多 く は 、 現 在 み られ る ブ リヤ ー ト語 よ りは 、 む しろ
モ ン ゴル 文 語 や ハ ル ハ ・モ ン ゴル 語 、 あ る い は カ ル ム イ ク 語 に 近 い 形 式 を
示 して い る 。 これ は 借 用 の 行 な わ れ た 頃 の ブ リヤ ー ト語 が 、 現 在 の も の ほ
ど発 達 して い な か つ た た め と推 定 され る。(庄 垣 内1992:548)
続 い て 、 ヤ ク ー ト語 とエ ヴェ ン キ語 との 関 係 を 述 べ た 部 分 を 引 用 す る.
借 用 語 は 、 モ ン ゴ ル 語 の ほ か に 、 ツ ン グ ー ス 語 、 と りわ け そ の 中 の エベ
ン キ(エ
ウ ェ ン キ ー)語
か ら の も の も か な り 多 い 。 …(中
略)…
ツ ン グー
ス 語 か ら は 、 トナ カ イ 飼 養 の ほ か 、 衣 食 住 、 あ る い は 動 植 物 に 関 す る 内 容
の 語 彙 が 入 つ て い る 。 ま た 、 ヤ ク ー ト語 か ら ツ ン グ ー ス 語 へ 貸 与 さ れ た 語
彙 も多 い 。 若 干 で あ る が 、 モ ン ゴル 語 や ツ ン グ ー ス 語 か ら の 接 尾 辞 の借 用
も み ら れ る 。(庄 垣 内1992:548)
語 彙 レベ ル で は 以 上 見 た よ うに 、 ヤ ク ー トとモ ン ゴル 、 エ ヴ ェ ン キ の 間 で 借
用 が 為 さ れ て き た こ と が 分 か っ て お り、 ま た そ の 研 究 も 比 較 的 多 く 為 さ れ て き
た と言 え よ う(Kal砿yhski(1962)、
一方 で
PoMaxosa
et al.(1975)な
ど)7。
、 文 法 的 な構 造 の レベ ル で の 借 用 に つ い て も指 摘 され て い る。 例 を挙
げ る と、 エ ヴ ェ ン キ語 か らの ヤ クー ト語 へ の 命 令 法 に お け る2つ
の時制 の体系
中央 シベ リア 言 語 地域(二 つ の小 地 域 に分 か れ る):
バ イ カ ル 小 地 域(エ ヴェ ン キ族 、 ブ リヤ ー ト族)
レナ 小 地 域(エ ヴ ェ ンキ族 、 ヤ クー ト族)
ヤ ク ー ト語 と ブ リヤ ー ト語 が 接 触 す る 機 会 は 現 在 で は ほ と ん ど な い と言 っ て よ い で あ ろ う
が 、 エ ヴ ェ ン キ 語 は 現 代 で も ヤ ク ー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 と接 触 を 持 っ て い る と言 え る 。
7ま た
、 エ ヴ ェ ン キ と モ ン ゴ ル の 間 に お い て は 、 「モ ン ゴ ル 語 か ら の 借 用 語 は 、 エ ウ ェ ン キ
ー語
、 と く に そ の 南 部 の 方 言 や ソ ロ ン 語 に も 多 く 入 っ て い る 」(池 上1989=139)と
い う指
摘 も あ る(他
に 、Bacines四(1958)に
も 挙 げ ら れ て い る)。
一156一
松本 亮
的 な借 用8な どが 挙 げ られ る だ ろ う。
この よ うに 言 語 接 触 が認 め られ る状 況 の 下 、 次 章 か ら具 体 的 に 問 題 点 を 見 て
い く こ と とす る。
2
問題 点
2.1動
詞 の活 用諸 形
本 論 文 で 取 り上 げ るテ ー マ は 、 動 詞 の人 称 接 辞 で あ る。
そ こ で ま ず 動 詞 の 活 用 に つ い て 定 美 を し て お く。 ア ル タ イ 諸 語 に 属 す る言 語
は、 一 般 に 動 詞 はお お よそ 次 の3つ の 活 用 形 を持 つ と考 え る。
定動 詞 形:文
の 述 語 とな り、 文 を 終 止 す る機 能 を 持 つ 形 。 基 本 的 に 文 末 に位 置
し、(動詞 文 で は)1文
に1つ あ る。い わ ゆ る命 令 形 も こ こ に 含 め る。
副動 詞 形:副 詞 と同 様 に 他 の動 詞 、形 容 詞 、 副 詞 な どを 修 飾 す る形 。 あ る も の
は 等 位 節 の 述 語 とな っ て 文 を 中 止 し、 他 の も の は従 属 節 の 述 語 と な
つ て 主 文 に か か る。 ま た 、 副 動 詞 類 の 一 部 は他 の 動 詞 や 補 助 動 詞 と
結 合 し、複 合 動 詞 の形 成 や 、動 作 の 様 々 な ア ス ペ ク トや 様 態 を表 す 。
形 動 詞 形:名 詞 類 を修 飾 す る形 容 詞 的 な 意 味 と働 き を持 ち 、 ま た 、 名 詞 的 な 意
味 と働 き を も持 つ 形 。 後 置 詞 的 な語 を 後 続 し、 或 い は 格 形 式 を と る
こ とで 従 属 節 ・副 詞 節 をつ く る こ と も 出 来 る。
2.2
副 動 詞 形 に つ く人 称 接 辞
ま ず 次 の2つ
の 例 文 を 見 て ほ しい。
(1)は エ ヴ ェ ン キ 語 か ら 、(2)は ヤ ク ー ト語 か ら の 例 で あ る 。
(1)onin-mi,
bi
digi可alaka
母 一lsg,poss I sg
l4
"私 の 母 は
、 私 が14歳
(2)Min
1sg地
"私
lniine-Ye
雷 一dat
t
anOani∼;
年 に
be-conv.NGASI―1sg
の 時 に 、 亡 く な つ た 。"
eh-em一
塑,
出 く わ す 一conv―AN-1sg
は 地 雷 に 出 く わ
8こ の 問 題 は 藤 代(1989)に
makcara-ran.
bi-〃asi-v,
し て 手 を 失
(K1:206)
anar
ilii-bitten
そ して
手 一1sg.poss.abl失
っ た 。"
(Kr:17)
詳 しい の で 参 照 さ れ た い
一157一
。
死 ぬ 一nfut.3sg
map-p
t一
m.
う 一pst,l sg.
エ ヴェ ンキ 語 、 ヤ クー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 に お け る人 称 接 辞 を伴 う副 動 詞 形 に つ い て
こ の2つ
の 例 文 は 共 に 副 動 詞 を述 語 に 持 つ 従 文 を 含 む 複 文 で あ る(副 動 詞 語
尾 の 部 分 は 下 線 無 しの 太 字 斜 体 で 示 して い る)。 そ して そ の 副 動 詞 語 尾 の 後 に付
い て い る接 辞 は 従 文 の 主 語 に 対 応 す る(一 致 を示 す)人
称 接 辞 で あ る(人 称 接
辞 の 部 分 は 下線 付 き の 太 字 斜 体 で 示 して い る)。
一 般 に ヤ ク ー ト語 以 外 の チ ュ ル ク 諸 語 で は 副 動 詞 形 は 人 称 接 辞 を 伴 う こ と は
な い(人
称 接 辞 の み な らず 通 常 他 の い か な る 接 辞 を も 伴 わ な い)。 そ の 為 ヤ ク ー
ト語 に お い て 人 称 接 辞 の 付 い た 副 動 詞 形 は 際 立 っ た 特 徴 で あ り 、 チ ュ ル ク 的 で
な い と い え る(XapxTOxoB
1982:240)。
ま た 、 ヤ ク ー ト語 の 人 称 接 辞 を 取 る 副 動
詞 形 に つ い て そ の 起 源 を検 討 した 先 行 研 究 は 見 当 た ら な い 。 さ ら に 、 他 の 言 語
と の 関 係 で は 、 長 く言 語 接 触 を持 つ て き た エ ヴ ェ ン キ 語 に は 副 動 詞 形 に接 辞 を
取 る こ とが 知 られ て い た 為 に 、 こ の文 法 的 特 徴 は エ ヴ ェ ン キ語 の 影 響 だ ろ う と
言 及 さ れ て き た(Y
pxTOSa
1976:45,
Kopxxxa
1985:17)。
こ こ で ブ リヤ ー ト語 か ら の 例(3)を 見 て み よ う。
(3)tende x
そ こ
eje
到 着 す る 一conv.7A
dain baldaan
戦争
oso-for-na
行 く 一conv.Tリ一lpl.poss
duoha-xa
yohotoi.
終 わ る ―part
違 い ない
(Sk:116)
"我 々 が そ こ へ 着 く ま で に は 戦 争 は 終 わ っ て い る に 違 い な い
。"
こ の 例 文(3)も 副 動 詞 を 述 語 に持 つ 従 文 を含 む 複 文 で あ る。 こ こ で は従 文 内 に
主語 に あ た る名 詞 句 が な い。 しか し、 主 語 との 一 致 を示 す1人
称 複数 の人称 接
辞 が 副 動 詞 形 に 付 い て い る 為 、主語 は1人 称 複 数 で あ る と分 か る。こ の よ うに 、
ブ リヤ ー ト語 に お い て も人 称 接 辞 を 取 る副 動 詞 が 存 在 す る の で あ る。
こ の事 実 を も っ て 、 ヤ クー ト語 に 見 られ る人 称 接 辞 を 伴 う副 動 詞 に つ い て 、
そ れ が 果 た して エ ヴ ェ ン キ語 か らだ け の影 響 に よ るの か 、 ブ リヤ ー ト語 か らの
影 響 は な か っ た の か な ど、 検 討 の余 地 が ま だ あ る。
2.3
形 動 詞 形 と人 称 接 辞
一 方 で 、 次 に 挙 げ る例 は 動 詞 の 形 動 詞 形 が 現 れ て い る句 で あ る。 こ こ で も動
詞 の 主 語 が 、 そ の 主 語 と一 致 す る 人 称 接 辞 で 標 示 され て い る。(4)は エ ヴェ ン キ
語 、(5)は ヤ クー ト語 、 そ して(6)は ブ リヤ ー ト語 か らの 例 で あ る 。 参 考 に(7)に ト
ル コ語 の 例 も挙 げ る。(形 動詞 語 尾 は太 字斜 体 、 人 称 接 辞 は 太 字 斜 体 に 下線 を付
け て示 して い る。)
一158一
松本 亮
(4)baya
v繹麩a-n
hom
人
殺 す ―part.NA―3sg.poss
"人 が 殺 し た 熊"
(5)Uybリ
surny-but
bai一加 〃
人 名 一gen
持 つ 一conv.リ)
"ア ル ダ ル が 持 っ て い た 鍵'
kavga
(SM:427)
手 紙 一3sg.poss
baゼ ーaad
(7)Ali-'nin
(N:(170)b.)
surug一
人 名
書 く一part.BIT
"イ ワ ン が 書 い た 手 紙"
(6)Aldar-ai
ti
熊
tUlx'UUr-iin'
be-part.㎜
et-tig―i
鍵 一3sg.poss
arkada§
人 名 一gen
け んか
す る ―part-3sg.poss
"ア リ が け ん か し た 友 人"
(Sk:126)
(勝 田
142)
友 人
これ ら例 文 の 構 造 を簡 略 化 して 書 く と次 の よ うに な ろ う。(下 線 を 引 い た 部 分
は動 詞 の 主 語 で あ る 。 ま た 、 人 称 接 辞 は 単 純 に一3sgで示 した 。)
(4)'
[[ム
が
殺 し た 一3sg]熊](エ
(5)'
[[イ
ワ ンが
(6)'
[[ア
ル ダル が
(7)撃
巨 ア リが
書 い た]手
ヴ ェ ン キ 語)
紙 ―3sg](ヤ
持 っ て い た]鍵
ク ー ト語)
一isg](ブ
け ん か し た ―3sg]友 人](ト
リ ヤ ー ト語)
ル コ 語)
注 目す べ き と こ ろ は 人 称 接 辞 の 現 れ て い る位 置 で あ る。 エ ヴ ェ ン キ 語 で は 形
動 詞 形 のす ぐ後 ろ で あ る(ト ル コ語 と 同 じ)。 そ れ に 対 して 、 ヤ ク ー ト語 と ブ リ
ヤ ー ト語 で は形 動 詞 形 に よ つ て修 飾 され て い る名 詞 に付 い て い る9。
9こ こで 被 修 飾 名 詞 に 付 い てい る人 称 接 辞 が 表 す もの が
、行 為 者(修 飾 す る動 詞 の 主語)で
あ り所 有 者 で は な い とい うこ とは 、例 文 を 引用 した 文 献 に よ る判 断 で あ る。 ま た 、 こ の点
を例 文 と と もに 詳 細 に 記 述 した論 文等 は 、 筆者 の見 る範 囲 で は 見 付 け られ な か つ た 。 これ
を確 認 す る 為 に 、 ヤ ク ー ツ ク在 住 の知 人(父 が ブ リヤ ー ト語 母 語 話 者 、 母 が ヤ クー ト語 母
語 話 者 で 共 に ロ シ ア語 も話 す バ イ リンガル で あ る。 知 人 本 人 は ロ シ ア語 の み 話 す 。 筆 者 と
の会 話 は ほ とん ど英 語 に よ る)を 通 し、 母 語 話 者 に 電 話 に て 次 の 質 間 を した 。 電 話 とい う
こ と もあ り詳 細 に 間 く こ とは で き なか つた が 、参 考 ま で に 挙 げ て お く。
C固:次
の2つ
のphraseは
ヤ ク ー ト語 、 ブ リヤ ー ト語 で 何 と言 い ま す か(英
共 に 伝 え る)。
1.adog
which
l killed(co
axa,
xoTOpyco
A y
Hn)"私
一159一
力鍛
し た 犬"
語 と ロ シ ア語
エ ヴェ ンキ語 、 ヤ ク ー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 にお け る 人 称 接 辞 を 伴 う副 動 詞 形 に つ い て
2.2で 見 た 副 動 詞 形 に お け る 人 称 接 辞 の 場 合 と異 な り、形 動 詞 形 に お け る人 称
接 辞 で は エ ヴェ ン キ 語 が ヤ クー ト語 や ブ リヤ ー ト語 と は 異 な る 振 る舞 い を して
い る 。 勿 論 、副 動 詞 形 と形 動 詞 形 で動 詞 の形 式 は 異 な る が 、動 詞 の 主 語 に 一 致
して 標 示 され る 人 称 接 辞 とい う面 か らは 類 似 した 性 質 を 持 つ の に も 関 わ らず 、
そ の 現 れ 方 は異 な つ て い る。 形 動 詞 形 に お け る人 称 接 辞 に つ い て は 、 ヤ ク ー ト
語 は エ ヴェ ンキ 語 よ り もむ しろ ブ リヤ ー ト語 と類 似 して い る 点 が 注 目 され る。
以 下 、 本 論 文 で は 、 エ ヴェ ン キ 語 、 ヤ ク ー ト語 、 ブ リヤ ー ト語 の 動 詞 の 人 称
接 辞 に つ い て考 察 す る。 主 に 副 動 詞 形 と形 動 詞 形 に お い て 現 れ る 人 称 接 辞 を取
り上 げ る。 類 型 論 的 な 比 較 を通 して 、 そ れ ぞ れ の 形 態 的 構 造 が 発 生 的 な も の な
の か 、 そ れ と も借 用 に よ る の か に つ い て 議 論 し、 そ れ を も と に 異 な る 形 式 を と
る に 至 っ た 、 或 い は 借 用 す る に 至 っ た原 因 につ い て 考 察 す る。
エ ヴェ ン キ語 、 ヤ ク ー ト語 、 ブ リヤ ー ト語 の 比 較 の 上 で 、 そ れ ぞ れ が 属 す る
ツ ン グ ー ス 諸 語 、 チ ュル ク諸 語 、 モ ン ゴル 諸 語 が 一 般 的 に ど うい っ た 特 徴 を 持
つ か を 見 る こ と は 、 類 型 論 的 比 較 をす る上 で は欠 か せ な い 。 そ こで 本 論 文 で は
主 に トル コ語 、 モ ン ゴル 語(ハ ル ハ 方 言 を 指 す 。 以 後 特 に 明 記 しな い 限 り、"モ
ン ゴル 語"と
は ハ ル ハ 方 言 を指 す)を 比 較 の 対 象 に 挙 げ 、 必 要 に応 じて 他 の 言
語 に も触 れ て い く。
2.your
團
dog
which
I killed(sausa
co
axa,
xoTOpyfo
a y6xn)"私
が 殺 し た あ な た の 犬"
・
ヤ ク ー ト語
1.min
1
r-b
1sg殺
2.min
す 一part犬
1 r-b
lsg殺
す 一p飢
ブ リ ヤ ー ト語
t一
m
一1sg.poss
t一 m
犬 一lsg.poss
1.minii
ala-han
lsg.gen殺
2.minii
す 一part犬
ala-han
fanai
ehiene
2pl.物 主 所 有 形
noxoi
noxoi
lsg.gen殺
す 一part 2pl.gen
犬
ヤ ク ー ト語 で は は っ き り と確 認 で き た と言 え る で あ ろ う。 し か し 、 ブ リ ヤ ー ト語 に お い て
は任 意 に被 修 飾 名 詞 に人 称 接 辞 が 付 く。 そ の た め 、上 の 質 問 で は 接 辞 が 付 か ない 例 が 得 ら
れ た 。 念 の た め 次 に 、 文 献 に 挙 げ られ て い る 例 か ら 、 人 称 接 辞 が1人
称 で あ る同 じ環 境 の
例 を 挙 げ て お く。
(i)xazags"a
basaga-m
(Sk:114)
見 る 一part.GSA
少 女 一lsg.poss
"私 が 見 て い る 少 女"
ブ リヤ ー ト語 で は 人 称 接 辞 が 付 く例 、 付 か ない 例 共 に 見 られ る が 、 人 称 接 辞 が形 動 詞 形 に
付 く例(エ ヴ ェ ンキ 語 や トル コ語 の よ うに)は 見 られ な い 。
一160一
松本 亮
3
副動詞 形
3.1副
動 詞形 にっ い て
3.L1定
義
動 詞 の 活 用 の 定 義 で も 述 べ た よ うに(2.1)、
定 動 詞 形 と副 動 詞 形 は 、文 を終 止
で き る か ど うか とい う点 で 機 能 的 に 大 き く異 な る。 そ して 、 通 常 、 形 態 に お い
て も 明 確 に 区 別 され る。 定 動 詞 形 と副 動 詞 形 が機 能 及 び 形 態 に お い て 区別 され
る こ と か ら文 の 名 称 につ い て 次 の よ うに 定 義 す る。 複 文 は 主 文 と従 文 か ら成 る
文 を指 す 。 こ の うち 主 文 とは 定 動 詞 形 を含 む 文(基 本 的 に動 詞 文 に お い て1文
に は1つ
の 定 動 詞 形 が あ る と考 え る)を 、 そ して 従 文 とは 主 文 と は 別 に 副 動 詞
形 を 述 語 と して 持 つ 文 を 指 す 。 ま た 、 主 文 の 主 語 と従 文 の 主 語 が 同 一 の も の を
指 して い る複 文 を 同 主 語 複 文 、 そ して 異 な る も の を 指 して い る 複 文 を異 主 語 複
文 と呼 ぶ こ とに す る。
3.1.2
副 動 詞 形 の現 れ 方 に つ い て
従 文 に 関 し て 、 並 列 節coordinate
clauseと
従 属 節subordinate
され る場 合 が あ る。 主 文 と の 関係 で並 列 性 の あ る節(従 文)を
属 性 の あ る節(従
文)を
clauseの
区別 が 為
並 列 節 と し、 従
従 属 節 と呼 ぶ わ け で あ る 。 しか し、 こ の 基 準 は は つ き
り と二 分 で き る 基 準 で は な い10。本 論 文 で は 、副 動 詞 を 述 語 に 持 つ 従 文 が 主 文 に
対 して 並 列 性 が 強 い の か 、 それ と も従 属 性 が 強 い の か に よ っ て 区 別 は しな い 。
ま た 、 定 動 詞 形 の 文 を接 続 詞 等 で 連 結 した 文 は 副 動 詞 形 を含 ま な い た め 、本 論
文 で扱 う従 文 で は な い と考 え る。
3.1.3
主語 にっい て
本 論 文 で 扱 う動 詞 人 称 接 辞 は 文 の 主語 と一 致 す る 。 例 え ば 次 の 例(8)は エ ヴェ
ンキ 語 か らで あ る:
(8) Taduk
atirk縅 dagarna-ra-n
mundul
(K1:100)
そ して
老 婆
近 付 く 一nfut-3sg
lpl.inc.all
"そ し て 老 婆 は 私 た ち の 方 に 近 付 い て い
っ た 。"
(8)で 、 動 詞dagama-"近
婆"が
付 く"の
表 す 動 作 の 行 為 者(agent)で
主 語 で あ り 、 人 称 ・数 で 一 致 す る 人 称 接 辞 ―nが 動 詞(定
て い る。
10H
aspelmath(1995:5)に
も こ の 点 が 触 れ られ て い る 。
一161一
あ るatirk縅"老
動 詞 形)に
付い
エ ヴ ェ ン キ語 、 ヤ ク ー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 にお け る 人称 接 辞 を伴 う副 動 詞 形 につ い て
ま た 、従 文 内 で名 詞 類(名 詞 あ る い は 代 名 詞 な ど)に よ つ て 主 語 が 表 示 され
る こ とが あ る(以 下 こ の よ うな名 詞 類 を 主 語 名 詞 と呼 ぶ)。 従 文 内 の 主 語 名 詞 に
関 して は 、 次 の2点 に つ い て 考 え な け れ ば な ら な い 。
一
、 主 語 名 詞 は い か な る格 で標 示 され る の か
二 、 主 語 名 詞 と、 そ れ に 一 致 す る人 称 接 辞 は 相 補 的 な 関 係 に あ る の か
ま ず 一 に っ い て 。モ ン ゴル 語 にお い て は水 野(1995)が
指 摘 し て い る よ うに 、
従 文 内 で 主 格 ・対 格 ・属 格 で 現 れ うる主 語 名 詞 の格 は 副 動 詞 形 の 種 類 に よ つ て
単 純 に 決 ま る も の で は な く、様 々 な 要 因(例 え ば 「
句 ど う しの 結 び つ き や す さ」、
「
格 衝 突 の 回 避 」な ど5点 挙 げ て い る)に よ っ て 決 ま る も の で あ る 。 ブ リヤ ー ト
語 に お い て は 同 様 に 主 格 と属 格 で 揺 れ が あ る。 ま た 、 チ ュ ル ク 諸 語 や ツ ン グー
ス 諸 語 で は 通 常 主 格 で 現 れ 、 大 き な 揺 れ は な い と考 え られ る11。
次 に 二 に つ い て 。 副 動 詞 形 に 人 称 接 辞 が つ く時 は 主語 名 詞 は 表 示 され な い の
が 普 通 で あ る。 これ は従 文 に 限 つ た こ とで は な く単 文(或
い は 主 文)に
おい て
も 主 語 名 詞 の 省 略 は 一 般 に見 られ る。 しか し、 ブ リヤ ー ト語 で は 主 語 名詞 と人
称 接 辞 が 共 に現 れ る 例 が 稀 に で は あ るが 存 在 す る12。
以 上 よ り、 従 文 内 に主 語 名 詞 が 現 れ る か 否 か 、 そ して 現 れ る とす れ ば い か な
る格 で あ る か とい うこ とは 、 動 詞 に 付 く人 称 接 辞 に 関 す る 考 察 と は 直 接 的 に 関
与 し な い と考 え られ る。 従 っ て 副 動 詞 形 を類 型 論 的 に 見 る 場 合 、 主 語 名 詞 につ
い て は 特 に 問題 と しな い こ と とす る。
次 節 よ り具 体 的 に 各 言 語 に お け る状 況 を類 型 論 的 に 見 て い く。 そ の基 準 と し
て 次 の2つ を提 案 す る:
① 副 動 詞 語 尾 が 人 称 接 辞 を と らな い か 、 任 意 的 に とる か 、 義 務 的 に とる か
② 副動 詞語 尾 が 同主語複 文 のみ に現れ るか 、異主語 複 文 のみ 現れ るか 、或 い は
両 者 で 現 れ る こ とが 出 来 るか13
これ は 、 副 動 詞 形 が人 称 接 辞 を 取 るか 否 か とい う点 を 中 心 に 類 型 論 的 比 較 を
す る こ と を 目的 に想 定 した 基 準 で あ る。
3.2各
言 語 に お け る状 況
こ こ で エ ヴ ェ ン キ 語 、 ヤ ク ー ト語 、 ブ リ ヤ ー ト語 の 順 に 、 分 類 を 具 体 的 な 例
文 と共 に 示 して い く14。 例 文 は 、 副 動 詞 語 尾 を 太 字 に し 、 従 文 に 下 線 を 引 き 、 副
11こ
の点
、4章 で 見 る 形 動 詞 形 の 場 合 、形 動 詞 節 内 で 現 れ る 主 語 名 詞 の 格 は ほ ぼ 一 定 し て い
る よ うで あ る 、
iz V
. P. Nedjalkov(1995:123)
13こ の 視 点 はV
.P. Ne(ljalkov(1995)で
も挙 げ られ て い る。
ia分 類 に 際 し 記 号A
, B, C, C', Dを 挿 入 した が 、 こ れ は 後 で 表1に
一162一
ま とめ た 際 に 用 い た記 号
松本 亮
動 詞 形 に 人 称 接 辞 が 付 い て い る場 合 は そ れ を斜 体 で 示 して い る。 紙 幅 の 都 合 上 、
例 は 一 部 を挙 げ る に と ど め る。
エ ヴ ェ ン キ 語1S
ま ず 、 エ ヴ ェ ン キ 語 に つ い て 、Ko∬ecHHKoBa(1966)、1.
挙 げ ら れ て い る 副 動 詞 形 を 上 に 挙 げ た2つ
Nedj alkov(1997)16で
の 基 準 か ら 分 類 す る と 次 の よ う に3
つ に 分 け ら れ る17。
① 人称 接 辞 を取 らな い副 動詞 語尾
―1:同
主 語 複 文 の み 可 能=・A;-na3,-mnak3,-kaim3,-mi
② 人 称 接 辞 を 必 須 とす る 副 動 詞 語 尾
一1:同
主 語 複 文 ・異 主 語 複 文 が 可 能=C;―da3/vuna3
-2:異
① 一1の
主 語 複 文 の み が 可 能==1);-rak3
,一㎞an3,-daia3,-ktava3,-Oasi3,-6ala3
,亨anma3
例
(9)B童
lsg
nyurma-ja-ljna-m
m6ti-va
し の び 寄 る 一impf-hab-nfut.lsgオ
kiRlo-1―vi
darkin-dU,
オ シ カ ーaccd
凍 つ た 地 面 一dat
(K1:203)
oxso了9唱ng.
ス キ ーpl―refl―sg
肩 に 乗 せ て 運 ぶ 一conv.NA
"私 は ス キ ー を 肩 に 乗 せ て 氷 の 上 を オ オ シ カ に 近 付 い て い っ た
例 文(9)で は 、 主 文 、 従 文 の 主 語 は 共 に"私"で
あ る。 副 動 詞 形
。"
一na3は 異 主 語
複 文 と し て 使 用 す る と 非 文 に な る と 予 想 さ れ る 。 従 っ て 一na3は ① 一1の
タイ プ
と一 致 す る 。 表1と 見 比 べ す る こ とが 容 易 に な る よ うに 加 え た も の で あ る 。
15エ ヴ ェ ン キ 語 の 主 な 副 動 詞 語 尾(代 表 形)と そ の 意 味 を 挙 げ る
。
-mi(MI)因 果 関 係 「∼ す る の で 」;-na3(NA)接 近 「
∼ して 」(「}ana3と い う形 を 独 立 し て 立 て る
も の も あ る);-mnak3(MNAK)同
と 見 る);-kaim3(KAIM)分
-da3/vuna3(DAIVUNA)目
置)(DALA)先
「∼ し」(一㎜enと
行 「∼ す る 前 に 」;イanma3(前
因 果 関 係H;-ktava3(KTAVA)接
16本 文 中 に あ る よ う に3つ
る 。 し か し 、1.Nedjalkovは
と い う3点
時
い う形 も あ る が 意 味 は 変 り な く 異 形 態
離
「∼ し て か ら 」(-kanim3と
的 「∼ す る た め に 」;一
㎞an3(後 置)(KNAN)結
置X jANMA)限
定
い う 異 形 態 も あ る)
果 「
∼ す る ま で 」;-dala3(後
「∼ す る ま で に は 」;-rak3(RAK)
近H;-pasi3(NGASI)同
時 皿;-6aia3(CALA)分
離 皿
に 分 類 さ れ る とい う結 果 は1
.Nedjalkov(1997:271)と
同 じで あ
同 主 語 複 文 、 異 主語 複 文 ま た は そ の ど ち ら も作 る こ とが 出 来 る
を 並 列 に 見 て 一 面 的 に 捉 え て い る。 これ に 対 し て 、 本 論 文 で 取 っ て い る 基 準 は
既 述 の2点(①
②)か
ら 二 面 的 に 見 て い る とい う点 で 異 な っ て い る と言 え る 。
η 語 尾 の 右 上 に あ る数 字 は
、 母 音 調 和 、或 いは 子音 調 和 に よ る異 形 態 の 数 を示 す 。
エ ヴ ェ ン キ 語:a3=a∼o--o、
ブ リ ヤ ー ト語(モ
ン ゴ ル 語):a3=a・
・e-・o,
a4=a∼e∼(y-6 , aa4 ・
・
aa∼ee∼o(ト66, uu2=uu∼UU、
ヤ ク ー ト語(ト
和 の 場 合 例 え ばba12=b∼p∼mXa∼e∼
ル コ 語)二a4=a∼e∼(tV6,
伽6と い う こ と を 表 す 。
一163一
iA(i4)叫 一i∼u通,子 音 調
エ ヴ ェ ン キ 語 、 ヤ クー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 にお け る人 称 接 辞 を伴 う副 動 詞 形 に つ い て
に な る と考 え る 。 こ こ で 見 られ る よ うに 、 エ ヴ ェ ン キ語 で は 従 文 は 主 文 の 後 に
来 る こ と も で き 、 ま た 、 語 順 は 比 較 的 自 由 で あ る。
② 一1(同
主 語 複 文)の
(10)Cipkan-a
例
baka-d繹黐i
dili
girku-ja-m.(K1:209)
ク ロ テ ン ーaccin見
つ け る 一conv.DA-refl.sg
タイ ガ
歩 く 一prs-1sg
"ク ロ テ ン を 見 つ け る 為 に
、 私 は タ イ ガ を 歩 い て 行 く 。"
② ―1(異
主 語 複 文)の
(11)Bi
iuta-1-vi
1sg子
"私
例
SUrLIW-m
供 一p1-refi.Sg遣
antil-dul瘉黐
る 一nfut、l sg両
nu唖in加got-t縺¥tin.(Kl:209)
親al1―refi.sg
3pl
は 子 供 た ち が 泊 ま る よ う に 両 親 の と こ ろ
泊 ま る 一conv.DA-3
へ 彼
pl.poss
ら を 行 か せ た 。"
例 文(10)(11)は 、 同 じ副 動 詞 語 尾 一da3によ る複 文 で あ る。(10)で は 主 文 、従 文
の 主 語 は 共 に"私"で
あ り、 接 辞 は再 帰 所 有 接 辞 が 現 れ て い る 。 同 主 語 複 文 の
場 合 は 所 有 人 称 接 辞 で は な く再 帰 人 称 接 辞 が現 れ る。一 方(11)は 、 主 文 の 主 語 が
"私"
、 従 文 の 主 語 が"子 供 た ち"で あ る異 主 語 複 文 で あ る。 こ こで は 、 副 動 詞
語 尾 一da3は人 称 接 辞 を必 須 に 取 り、同 主語 複 文 お よ び 異 主 語 複 文 で 現 れ る② 一1
の タ イ プ に 属 す る と考 え る。
② 一2の
例
(12)Libg繹
-lak-in,
雪 降 る 一ingr-conv.リ―3
tinantun-m繹麩
帯 一accd-3sg.poss
"雪 が 降 り 出 し た が
ucak
sg.poss
乗 用
a-isli-n
xuktijara-n,
トナ カ イ
libe繹
neg-conv-3sg.poss(雪
si il an
走 る 一prs-3sg
-la.
が)降
雪
(K1:207)
る 一ingr-conv.リ
、 雪 が 腹 帯 に 達 し な い う ち は トナ カ イ は 走 っ て い る 。"
例 文(12)で は 従 文 が2つ 出 て き て い る(一 つ は 下 線 、も う一 つ は 二 重 下 線 で 示
して あ る)。主 文 の 主語 が"ト ナ カ イ"で あ る の に対 して2つ
の 従 文 の 主 語 は"雪"
で あ る と考 え られ る。 下 線 部 に 見 え る副 動 詞 語 尾 一rakは人 称 接 辞 を 必 ず 取 り異
主 語 複 文 に の み 現 れ る。 従 っ て② ―2の タ イ プ に 属 す る18。
18ま た
、 二 重 下 線 部 に 見 え る副動 詞 語 尾jalは 、 意 味 は 「
∼(し な い)う ち は 」とい う否 定
の 状 態 の 限 界 を表 し、否 定 動 詞a一 とのみ 共 起 す る とい う特 徴 が あ る た め 、 上 の 分 類 表 に は
含 め て い な い 。 タ イ プ と して は、人称 接 辞 を 取 り異 主語 複 文 に の み 現 れ る た め 、② ―2に 属
す と考 え られ る。
―164一
松本 亮
ヤ ク ー ト語29
KopxHxa(1985),XapxTOxos(1982),Y6pATOBa(1976),
(1998)で
Stachowski
and Menz
の 副 動 詞 形 に 関 す る 記 述 か ら は 、 ヤ ク ー ト語 の 全 て の 副 動 詞 形 が 一
つ の タ イ プ に属 す る こ とが 読 み とれ る。
① 人 称 接 辞 を 任 意 に 取 る こ と が 出 来 る 一1:同
4-an,-a4/ぜ(一
①m na4前2っ
の 否 定 形),―bakkal2,―aarf(-1血aariA否
① ―1(同
主 語 複 文)の
(13)Min
miine-ye
t
地 雷 一dat
出 く わ す 一conv.Aiv-1sgそ
lsg
eh-em-min,
主語 複 文)の
anar
cca12
ilii-bitten
して
。"
map-p
手 ―lsg.poss.abl失
m.
う 一pst―lsg.
(Kr:17)リ(4)
ullua-a
トナ カ イ 皮 の 長 靴 ―1sg.poss靴
erbet'-im
k
親 指 一lsg.poss
test-en(一
底 一isg.poss裂
tar-a
s
赤 く な る 一COnV.A
"私 の 長 靴 の 靴 底 が 裂 け て
φ 》,
け る 一conv.Aly(-3sg)
lj-ar.
(XapxTOxos
1982:243)
行 く 一prs.3sg
、 親 指 が 赤 く な っ て い る 。"
(13)及 び(14)は 共 に 副 動 詞 語 尾
4一
T1が
使 わ れ て い る 例 で あ る 。(13)で は 主 文 、
従 文 と も に 主 語 は1人
称 単 数 で あ り、(14)で は 主 文 の 主 語 が"靴
文 の 主 語 が"親
あ る20。
指"で
t一
例
(t4)Eterbeh-im
toyon
定 形),-aat4,―b
例
"私 は 地 雷 に 出 く わ し て 手 を 失 つ た
① 一1(異
主 語 複 文 ・異 主 語 複 文 が 共 に 可 能=c;
底"、 そ し て 従
ブ リヤ ー ト語21
19ヤ ク ー ト語 の 主 な 副 動 詞 語 尾(代
-ano(N)連
形:∼
(
合
表 形)と
そ の意 味 を 挙 げ る
「∼ し て そ し て 」;-a4/fi4(A)並 列
し な い で);-bakkall(BAKKA)否
.A一 的
mリi目
の 否 定 形:∼
定
。
「
∼ し て 、 し な が ら 」(―①
「∼ せ ず に 」;一リA(AARI)目
し な い 為 に);一リt4(AAT)即
4m
的
na:前2つ の 否 定
「
∼ す る 為 に 」;
刻 「∼ す る や 否 や 」;誼 乙習2(BICCA)
理 由 「
∼ な の で」
20(14)で は 副 動 詞 語 尾 の 後 に 人 称 接 辞 が な い よ うに 見 え る
。3人 称 単 数 の 接 辞 は
一φで あ り 、
こ こ で は人 称 接 辞 が あ る のか それ とも無 い の か判 断 は っ か な い。
21ブ リ ヤ ー ト語 の 主 な 副 動 詞 語 尾(代 表 形)と そ の 意 味 を 挙 げ る
-n(N)連 合
「∼ し」;-jaa(JA)並
件 「
∼ す れ ば 」;-tar3(TAR)限
列
「
∼ して 」;-aad4(AAD)分
界 「∼ す る ま で 」;―
離
。
「∼ し て か ら 」; -bal3(BAL)条
4msリ(MSAAR)即
刻 「∼ す る や 否 や 」;-xlaar4
(XLAAR)随
伴 「
∼ す る と す ぐ 」;-hリr4(HAAR)継
続r∼ す る 間 ず つ と 」;-ngaa4(NGAA)付
帯
「
∼ す る つ い で に 」;-nxリ4(NXAAR)代
替 「∼ す る 替 り に 」;-xayaa4(XAYAA)目
的 「∼ す る
為 に 」;―xaar4(XAAR)完
了限界
「
∼ した ま で 」
一165一
エ ヴェ ン キ語 、 ヤ クー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 にお け る人 称 接 辞 を伴 う副 動 詞 形 につ い て
ブ リ ヤ ー ト語 に つ い て 、Poppe(1960)、
Bosson(1962)、
げ られ て い る 副 動 詞 形 を 分 類 す る と次 の よ うに3つ
Skribnik(2003)で
挙
に 分 類 され る。
① 人称 接 辞 を取 らない副 動詞 語尾
―1:同
主 語 複 文
・異 主 語 複 文 が 共 に 可 能=B;う
-2:同
主 語 複 文 の み 可 能22=A;-xaar4
「a3
,-aad4
,―ngxリr4
② 人 称 接 辞 を 任 意 に 取 る こ とが 出来 る 副 動 詞 語 尾
―1:同
① ―1(異
主 語 複 文 ・異 主 語 複 文 が 共 に 可 能=C';-bal3,-tara,―msリr°,-xlaar4,-haar4
主 語 複 文)の
(15)gern-ai
d
e-s一
例
d,
gansal
家 一gen燃 え る 一perf-conv.AAD
唯一
"家 が 焼 け て こ の 養 鶏 場 だ け が 残
① 一1(同
主 語 複 文)の
(16)Sai-gリ
ene subuunai
この
鳥 の
ger
家
geese.
残 る
(Sk:116)
pcle
っ た 。"
例
uu-gaad,
hurguuli-d一リ
oso-bo(一リ).
(Poppe
1960:71)
茶 一refi 飲 む 一conv.AAD
学 校 一dat-ref1 行 く ―pst.3sg
"彼 は 自 分 の 茶 を 飲 ん で 学 校
へ 行 つ た 。"
(15)及 び(16)は
の 主 語 は"家"で
と も に 副 動 詞 語 尾 一aad4が 現 れ て い る 複 文 で あ る 。(15)で は 主 文
あ る の に 対 して 、 従 文 の 主 語 は"養 鶏 場"で
あ り、異 主 語 複
文 で あ る 。 そ し て(16)で は 主 文 、 従 文 と も に 主 語 は 同 じ で あ る 。
① 一2の 例
(17)Ner-ee
xuxara-ngxaar
名 前 一refi 壊 す ―conv.NGXAAR
"名 を 壊 す よ り 骨 を 壊 せ(諺)"
(17)は 副 動 詞 語 尾
yah-aa xuxara.(Sk:117)
骨 一refi 壊 す(-imp.2sg)
一ngxaar4が 現 れ て い る 複 文 で あ る 。主 語 に つ い て は 特 定 さ れ
て い な い が 、 同 一 の も の を 指 して い る 。 異 主 語 複 文 で 現 れ る 例 が 見 られ な い こ
と よ り 、 ①-2に
属 す る と 考 え られ る 。
22他 に 一xayaa4
,―ngaa4が 分 類 され る と考 え られ る可 能 性 が あ る が 、 こ の 副 動 詞 語 尾 は既
に 再 帰 接 辞 が 含 ま れ て い る と見 る こ と もで き、 本 文 で は 除 外 して お く。
一166一
松本 亮
② 一1(異
主 語 複 文)の
(18)tende
x
そ こ
例
e-je
oso-tor-nai
到 着 す る 一conv.iA
dain
baldaan
戦争
行 く 一conv.Tリ一lpl.poss
duoha-xa
yohotoi.
終 わ る ―part.XA
(Sk:116)
=(3)
違 い ない
"我 々 が そ こ へ 着 く ま で に は 戦 争 は 終 わ つ て い る に 違 い な い
② 一1(同
(19)x
主 語 複 文)の
。"
例
ser-ter一
uxリ
or-oo-g
(一リ).
(Poppe
1960:71)
老 い る 一conv.Tリ一refl
知恵
入 る 一part.impf-neg.3sg
"彼 は 老 い て ま で 知 恵 が な か つ た
。"
(18)及 び(19)は
語 が"戦
争"で
と も に 副 動 詞 語 尾 一tar3が現 れ て い る 文 で あ る 。(18)は
、 従 文 の 主 語 は1人
主文 の 主
称 複 数 と な っ て い る 異 主 語 複 文 で あ り、(19)
は 主 文 、 従 文 と も に 主 語 が 同 じ で あ り、 同 主 語 複 文 で あ る 。
次 に モ ン ゴル 語 と トル コ語 に つ い て 見 て み よ う。 例 文 は 挙 げ ず に 副 動 詞 語 尾 の
分類 を 挙 げ る に と どめ る 。
モ ン ゴ ル 語23
モ ン ゴ ル 語 に お い て 、 小 沢(1963)で
と、 次 の よ う に お お よ そ2つ
挙 げ られ て い る 副 動 詞 語 尾 を 分 類 す る
に 分 け られ る24。
①(原 則)人 称 接 辞 を 取 ら な い 副 動 詞 語 尾 ―1:同
41∼㍉ 一(g)aad4∼iad礼
(②3人
予d並
一saar4,-VC,-magc4,-xリr°,-val/bal°
称 所 有 接 辞 或 い は 再 帰 所 有 接 辞 を任 意 に伴
一1
23モ
主 語 複 文 ・異 主 語 複 文 が 共 に 可 能=B;
う副 動 詞 語 尾
.:同 主 語 複 文 ・異 主 語 複 文 が 共 に 可 能=C';-tal°,-nguux)
ン ゴル 語 の 主 な 副 動 詞 語 尾 とそ の意 味 を挙 げ る
。
列 」,一(9)aad4∼iad2「 分 離 」,-saar4「 継 続 」,-VC「 譲 歩 」,―magc4「
即 刻 」,-Xリ4「
目
的 」,-vaUbal4「 条 件 」,-talo「 限 界 」,-nguutz「 付 帯 」
また 、他
一ngaa4と い う副 動 詞 語 尾 も あ る が 、 註22と
同 様 に 既 に 再 帰 接 辞 が あ る とみ る
こ と あ り 、 こ こ で は 除 外 し て お く 。 さ ら に 、-nと い う 副 動 詞 語 尾 も あ る が 、 従 文 を 構 成
す る機 能 が ほ とん ど見 られ な い た め こ こで は扱 わ な か っ た 。
24② ―1と い う タ イ プ は 人 称 接 辞 が3人 称 と再 帰 所 有 接 辞 に 限 ら れ る
は2人
。 つ ま り、1人 称 ま た
称 の 人 称 接 辞 が 現 れ る 例 が な い 。こ の 意 味 に お い て 不 完 全 と見 る こ と が で き る た め 、
括 弧 を 付 け て 示 した 。 例 文 は 挙 げ な い 。
一167一
エ ヴェ ン キ語 、 ヤ ク ー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 にお け る人 称 接 辞 を伴 う副 動 詞 形 に つ い て
トル コ 語25
勝 田(2001)で
は トル コ語 の 副 動 詞 につ い て 同 主 語 複 文 あ る い は 異 主 語 複 文
の どち ら に 現 れ る か とい う点 か ら既 に分 類 が 為 され て い る。 そ こ へ 入 称 接 辞 に
つ い て の 基 準 を加 え る と、 次 の よ うに分 類 され る 。
①人 称 接辞 を取 らない 副動 詞語尾
―1:同
主 語 複 文 の み 可 能=A;―(y)ip°
―2:同
3.3
主 語 複 文
,一(y)e2―(y)e2,一(y)erek2,-mekztens
・異 主 語 複 文 が 可 能=B;―(y)
,-ce2sine等
4ince
,-meden2,一(y)etli,一(y)ken,―dik°軻等
小括
以 上 、 各 言 語 に つ い て 副 動 詞 を2つ
の 基 準(下
に 再 掲 す る)に 基 づ い て 分 類
す る こ とを試 み た 。
① 副動 詞語 尾が人 称接 辞 を とらないか、任意 的に とるか、 義務 的 に とるか
② 副 動 詞 語 尾 が 同 主 語 複 文 の み に現 れ る か 、 異 主 語 複 文 の み 現 れ る か 、 或 い は
両 者 で 現 れ る こ と が 出来 るか
そ れ ぞ れ の 基 準 ご と に3つ の タ イ プ が あ り、そ れ に従 っ て 組 合 せ を考 え る と、
理 論 上 、 表1の
よ うに9つ
の タ イ プ に分 か れ る 。 と こ ろ が 、 実 際 に確 認 され る
の タ イ プ は そ の 内 の5つ で あ る26(存在 しな い タ イ プ の セ ル は斜 線 で 消 して あ る)。
表1副
動 詞 形 の タイ プ表
主文 と従 文 の主 語 に 関 して
副 動詞 語 尾 に
人
同主語複 文 のみ
A
取 らな い
どち らも可
異 主語 複 文 のみ
B
称
接
辞
表1に
必須
取 る こ とが 出 来 る
― ― 一一一―
C
任意
C'
見 る タ イ プ の 分 布 は 、Haspelmatte(1995)で
のconverbに
D
一一
挙 げ られ て い る世 界 め 言 語
お け る 一 般 的 傾 向 と一 致 して い る 。参 考 に そ こ で 挙 げ られ て い る 表
25ト ル コ 語 の 主 な 副 動 詞 語 尾 と そ の 意 味 を 挙 げ る
。
一(y)ip4「分 離 」,一(y)2e-(y)e2「 並 列1」,一(y)erek2「 並 列2」,-mek2tense
r代 替 」,-ce2sine
r様
態 」,一(y)ince4「同 時 」,-medene「 除 外 」,―(y)e21i「
起 点 」,一(y)ken「 継 続 」,-dik"軻「 程 度 」
26こ こ でCとC'と
い うタイ プ に つ い て説 明 を加 えて お く
。 本 論 文 で見 た い の は 副 動 詞 に人
称 接 辞 が 付 く と い う現 象 で あ る 。 そ の た め 、 こ こ で は 、 副 動 詞 が 人 称 接 辞 を 伴 う と い う特
徴 で ま ず ま と め 、 そ の 下 位 分 類 と し て 人 称 接 辞 が 義 務 的 な の か 、 任 意 的 な の か と い う点 で
分 類 す る こ と に す る 。 同 じ 記 号Cを
用 い て い るの は そ の た め で あ る。
一168一
松本 亮
を 下 に 紹 介 す る27。
表2Subject
reference
in tonverbs(Haspelmath
1995:10)28
same-subject
implicit-SUヒ6ect
converb
explicit-subject
tonverb
free-subject
converb
unusual
Haspelmath自
(=A)
typical
unusual
身は
い は 主 語 名 詞 な ど)を
subj ect"(主
語)の
C',Dの
unusual
unusual
(=B)
(=C)
unusual
typical
typical
(=C')unusual
表 示 に つ い て 、 そ の 手 段(人
(=D)
称 接辞 或
は人称接 辞
は 人称 接 辞 を義 務 的 に取 る こ と、 そ して
は 人 称 接 辞 を 任 意 的 に 取 れ る こ と を 指 す と 取 る と 、 表1で
タ イ プ は 各 々 表2の
のtypica1と
different-subject
特 定 して い な い 。 こ こ で は 、implicit-subjectと
を 取 ら な い こ と 、explicit-subjectと
free-subjectと
varying-subject
よ う に 当 て は ま る と考 え ら れ る 。 表2を
示 した
見 る と 、 ま ず3つ
さ れ る タ イ プ に 当 て は ま る タ イ プ が 存 在 し て い る こ と が 分 か る(A,
タ イ プ)。 ま た 一 方 で 、 unusua丑 と され る タ イ プ に 属 す る タ イ プ も 存 在 し
て い る こ と も 確 認 さ れ る(B,Cの
次 に3.2で
見 た 言 語 に つ い て 、表1で
分 布 を 示 す と 、 表3の
表3を
タ イ プ)。
挙 げ た 副 動 詞 形 に 関 す る5つ
の タイプ の
よ うに な る29。
見 て 考 察 して い こ う。 ま ず 、 ヤ ク ー ト語 の 副 動 詞 は 全 てC'タ イ プ の 一
つ の タ イ プ に 属 し て い る。 ま た 、 長 く接 触 を も つ て き た と考 え ら え る ブ リヤ ー
ト語 、 エ ヴェ ン キ語 に はCま
た はC汐
イ ブ の 副 動 詞 が 存 在 す る。 こ の2点
に、
チ ュル ク諸 語 に お い て 人 称 接 辞 を 取 る副 動 詞 は ヤ ク ー ト語 以 外 に は 存 在 し な い
こ とを 考 え合 わ せ る と、C汐 イ ブ の 副 動 詞 をヤ クー ト語 が発 生 的 に 持 って い た と
は 言 い 難 く、 接 触 に よ っ て 借 用 した と考 え る の が 最 も妥 当 で あ る と言 え る。
次 に モ ン ゴ ル 諸 語 に つ い て で あ る 。表3を
27こ
の 表 に 関 し てHaspelmathは
far the claims
are mainly
embodied
be tested
28表1と
based
on
in Table
見 る 限 り 、C'タ イ プ の 副 動 詞 が ブ リ
次 の よ う に 述 べ て い る:`lt
4(注:本
impressionistic
論 文 の 表2と
observations.
Thus
should
同 じ)lack
Table
a firm
4 represents
on cross-linguistic
data.' (p.11)
対 比 が 容 易 に な る よ うに 縦軸 の並 び を―部 変 更 し
, however,
empirical
that so
foundation
a hypothesis
that needs
and
to
、 ま た 、=A,=B,=C,=C',=Dを
書 き 足 し て い る 。 こ の 大 文 字 ア ル フ ァ ベ ッ トの 記 号 は そ れ ぞ れ 表1の
指 して い る こ とを 示 す 。
29こ
こで
、 表3で
モ ン ゴ ル 語 のC'の
be noted
タ イ プ と同 じ もの を
欄 に 記 し た △ と い う記 号 に つ い て 説 明 し て お く。 モ ン
ゴル 語 に お い て 、 人 称 接 辞 を 任 意 に 伴 う こ と が 出 来 る 副 動 詞 は 、 そ の 副 動 詞 形 に 付 く 人 称
接 辞 が3人
称 所 有 接 辞 か 再 帰 所 有 接 辞 に 限 られ て い る 。 全 て の 人 称 接 辞 が 付 く こ と が 出 来
る わ け で は な い こ と か ら 完 全 にC'タ
イ プ に 属 す る とは言 え な い 為 、 ○ で は な く△ で 示 して
い る 。
一169一
エ ヴ ェ ン キ語 、 ヤ クー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 に お け る人 称 接 辞 を伴 う副 動 詞 形 につ い て
表3副
動 詞 形 の タイ プ の 分 布
A
エ ヴェンキ語
0
ブ リヤ ー ト語
0
モ ン ゴル 語
B
C
C'
0
D
0
0
0
0
△
0
ヤ ク ー ト語
0
トル コ語
0
ヤ ー ト語 、 モ ン ゴル 語 に 存 在 す る 。 こ の こ とか ら 、 副 動 詞 形 に 人 称 接 辞 が 付 く
とい う特 徴 は モ ン ゴル 諸 語 に も存 在 した と考 え る こ とが で き そ うで あ る。 しか
し、 モ ン ゴル 語 のC汐
イ ブ の 副 動 詞 は 、 △ で 示 した よ うに全 て の 人 称 接 辞 が 付
く こ とは な く、 弱 い 特 徴 と言 わ ざ る を え な い 。 ま た 、 ブ リヤ ー ト語 で は 多 くの
副 動 詞 がC'3イ
ブ に 属 す る の に対 し、 モ ン ゴル 語 で は ほ とん どの 副 動 詞 がBタ
イ プ に 属 し、C汐 イ ブ は少 ない 。 こ こ で 、モ ン ゴル 諸 語 につ い て 次 の3つ
の仮 説
が考 え られ る。
仮 説 ① モ ン ゴル 諸 語 は 元 来Bタ
イ プ の 副 動 詞 は無 く、C'タ イ プ の 副 動 詞 を 持 っ
て い た が 、 何 らか の 理 由 に よ りBタ イ プ の 副 動 詞 を持 つ よ うに な っ た
仮 説 ② モ ン ゴル 諸 語 は 元 来C'3イ
ブ の副 動 詞 は無 く、Bタ
イ プ の副動詞 を持 っ
て い た が 、 何 らか に理 由 に よ りC汐 イ ブ の 副 動 詞 を持 つ よ うに な つ た
仮 説 ③ モ ン ゴ ル 諸 語 は 元 来B及
びcタ
イ プ の 副 動 詞 形 を持 つ て い た が 、 何 らか
の 理 由 に よ り、 ブ リヤー ト語 で はC汐
イ ブ に 属 す る 副 動 詞 が 多 く な り、
モ ン ゴル 語 で はC汐 イ ブ の 副 動 詞 が 人 称 接 辞 を 取 らな くな つ て い つ た
筆 者 は この うち仮 説 ③ が 可 能 性 と して よ り高 い と考 え る。 理 由 は 以 下 の とお
りで あ る。
ま ず 仮 説 ① に 対 して 。 表2で 示 した よ うに 、Bタ イ プ の 副 動 詞 はunusualで
あ
り、 い わ ば 不 安 定 で あ る と言 え る。 これ に対 してC'タ イ プ の 副 動 詞 はtypicalで
あ り、 安 定 して い る と言 え る。 言 語 変 化 の過 程 に お い て 、 不 安 定 な 状 態 か ら安
定 した 状 態 へ 変 化 す る 方 向 の方 が 、 そ の 逆 の 方 向 へ 向 か う変 化 よ り一 般 的 で あ
る と言 う こ とが で き る。従 つて 、C汐 イ ブ か らBタ イ プ へ 変 化 した とい う よ り、
Bタ
イ プ か らC汐
イ ブ へ と変 化 した とす る方 が よ り可 能 性 が 高 い と考 え る の で
あ る。 ま た 、 ブ リヤ ー ト語 にお い て な ぜ 少 数 の 副 動 詞 がBタ
イ プ へ 変 化 した の
か 適 当 な 原 因 が 見 当た ら ない 。 以 上 か ら、仮 説 ① は 適 当 で な い と考 え る。
次 に 仮 説 ② に 対 して 。 仮 説 ① の 排 除 の 理 由 で も述 べ た よ うに 、Bタ
一170一
イプか ら
松本 亮
C汐 イ ブ へ の変 化 は 妥 当性 が あ る。そ の 意 味 で は 仮 説 ② は 仮 説 ① よ りは 可 能 性 が
あ る とい え る。 しか し、 モ ン ゴル 語 が なぜ 一 部 の 副 動 詞 に のみ 、 ま た3人
称所
有 接 辞 と再 帰 所 有 接 辞 に 限 つ て 付 く よ うに な つ た の か 、 適 当 な 原 因 が 見 当た ら
な い 。 従 つ て仮 説 ② も適 当 で は ない と考 え る。
以 上 よ り、 折 衷 的 な 仮 説 ③ が 最 も可 能 性 が 高 い と考 え られ る 。 ブ リヤ ー ト語
とモ ン ゴル 語 でBと
σ タ イ プ に属 す る副 動 詞 に は 共 通 の形 を持 つ 語 尾 が 見 られ
る こ とか らも 、 モ ン ゴ ル 諸 語 は元 来 、B及
び σに 属 す る副 動 詞 を 持 っ て い た と
考 え る の が 妥 当 で あ ろ う。 ブ リヤ ー ト語 にお い てCタ
イ プ に 属 す る副 動 詞 が 多
く見 られ る理 由 と して は 、 ヤ ク ー ト語 が 言 語 接 触 の 結 果 、 全 て の 副 動 詞 がC'タ
イ プ と な っ た と考 え た こ と と平 行 的 に捉 え 、エ ヴ ェ ン キ語 の 影 響 に よ る も の と
考 え られ る だ ろ う30。一 方 で 、モ ン ゴル 語 でC'タ イ プ に 属 す る 副 動 詞 に 付 く こ と
が で き る 人 称 接 辞 が 限 られ て い る 点 につ い て は 、 次 章 の形 動 詞 形 の 場 合 を 見 た
後 、 第5章 で 考 察 す る。
ま た 、 こ こで ヤ ク ー ト語 の 言 語 接 触 は エ ヴェ ン キ 語 よ りも 前 に モ ン ゴル 系 言
語(お
そ ら くブ リヤ ー ト語)と
の 間 に あ つ た とい う史 実 か ら、 モ ン ゴル 諸 語 の
副動 詞 に 人 称 接 辞 が 付 く とい う特 徴 が ヤ ク ー ト語 に影 響 を与 え た 可 能 性 も あ る
こ とが 指 摘 で き る 。
こ こ ま で の 結 論 と して は 、 「
副 動 詞 形 に 人 称 接 辞 を つ け る と い う特 徴 は 、モ ン
ゴル 諸 語 に お い て 発 生 的 に 、 ま た モ ン ゴル 諸 語 との 長 い 接 触 に よ っ て ヤ ク ー ト
語 に お い て も 持 っ て い た 可 能 性 は あ るが 、 双 方 と も エ ヴ ェ ンキ 語 と の 接 触 に よ
つて そ の 特 徴 を 借 用 す る 、或 い は 強 め られ る に 至 つた 」 とす る こ とが 出来 る 。
2.2で 触 れ た 先 行 研 究Y
pxTOSa(1976)に
は 、 ヤ ク ー ト語 に お け る人 称 接 辞 を
取 る 副 動 詞 は エ ヴ ェ ン キ 語 の影 響 に よ る とす る 一 方 で 、 ヤ クー ト語 が そ の 特 徴
を発 生 的 に持 つ て い た 可 能 性 が あ る と指 摘 し て い る。 本 論 文 で は ヤ クー ト語 が
人 称 接 辞 を 取 る 副 動 詞 を発 生 的 に持 つ て い た と は 考 え ず に 、 エ ヴ ェ ン キ語 よ り
30Janhunen(2003)に
基 づ い て他 のモ ン ゴル 諸 語 につ い て 概 観 して お く
。 保 安 語 、東郷 語 、モ
ン グ ォル 語 、 シ ラ ・ユ グ ル 語 な ど、 中 国 内 の 孤 立的 モ ン ゴル 諸 語 に つ い て は 、 副 動 詞 形 に
人称 接 辞 が 付 く例 は 見 当 た らな い。 モ ゴー ル語 はペ ル シ ア語 の 影 響 か ら副 動 詞 形 が ほ とん
ど使 わ れ ず 、 多 くは接 続 詞 に よつ て文 が導 か れ る副 詞 節 が用 い られ る。 一 方 ダ グル 語 に は
人称 接 辞 が付 く こ とが で き る 副動 詞 形 が い くつ か存 在 す る。 ま た 、 オ イ ラ ト語 ・カ ル ム イ
ク語 に も少 な い が い くつ か存 在 す る。 これ ら人 称接 辞 が 付 く副 動 詞 形 を もつ 言 語 に つ い て
は 、 ダ グル 語 は オ ロチ ョン語(オ ロチ ョ ン族 は 中国 東 北 部 に 在 住 の ツ ン グー ス 系 言 語 を話
す 民 族 。 エ ヴ ェ ン キ 語 と とて も近 い)と 接 触 を持 っ て き て い る こ と、 そ して オ イ ラ ト語 ・
カ ル ムイ ク 語 を話 す 民 族 は か つ て バ イ カ ル 湖 沿 岸 に い た オ イ ラ ト族 で あ る とい うこ とか ら、
ブ リヤ ー ト語 の 場 合 と同 じ く ツ ン グー ス 系 言 語 との 接 触 が 考 え られ る言 語 で あ る。 一 方 、
人 称 接 辞 が 付 く副 動 詞 形 を 持 た な い 言 語 は 、 ツ ン グー ス 系 言 語 との 接 触 が 考 え られ な い 言
語 で あ る。 エ ヴ ェ ン キ語 が ブ リヤ ー ト語 へ も影 響 を 与 え て い る 可 能 性 が あ る こ とが 、 この
点 か ら も伺 うこ とが で き る だ ろ う。
一171一
エ ヴェ ンキ 語 、 ヤ ク ー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 に お け る人 称 接 辞 を伴 う副 動 詞 形 に つ い て
も前 に モ ン ゴル 諸 語(ブ
リヤ ー ト語)と 接 触 した こ と に よ り持 つ に 至 っ た 可 能
性 が あ る とい うこ とを 指 摘 した い。
4形
動詞形
4.1
関係節 の用 法
次 に形 動 詞 形 と人 称 接 辞 につ い て 見 て い く。2.3で も既 に触 れ た よ うに 、 エ ヴ
エ ン キ語 とヤ ク ー ト語 ・ブ リヤ ー ト語 の 間 で 異 な っ た 形 式 が 現 れ る。 つ ま り、
形 動 詞 形 に よ る 関 係 節 の 主語 と一 致 す る 人 称 接 辞 が 、 ど こ に付 い て 現 れ て い る
か に よ っ て 、 次 の 表4の
表4形
よ うに 大 き く2つ の 類 型 に 分 け られ る。
動 詞 形 に よ る 関係 節 と語 の結 合
1類 型
A関 係 節 内 の 主 語 と形 動 詞 形 の 間
B関 係節 と被修飾名詞の間
人称接辞
―(↓
並置
H類 型
人 称 の 一 致)
人称接辞
一 つ は エ ヴェ ン キ 語 、 トル コ語 の よ うに 、 人 称 接 辞 は 主 語 と形 動 詞 の 問 の 一 致
に よ つ て標 示 され 、関 係 節 と被 修 飾 名 詞 の 問 は 並 置31に よ り表 され る タイ プ(1
類 型)で あ る。 モ ン ゴル 語 は 、 主 語 と動 詞 の 間 の(全 て の 動 詞 の 活 用 に お い て)
一 致 は 見 られ な い た め 、 この 点 で エ ヴェ ン キ 語 と トル コ 語 と異 な る が 、 被 修 飾
名 詞 に 人 称 接 辞 が つ く こ とは な い とい う点 で エ ヴ ェ ン キ 語 や トル コ語 と 同 じタ
イ プ に 属 す る と考 え られ る。 そ して も う一 つ は 、 ヤ クー ト語 と ブ リヤ ー ト語 に
見 られ る タ イ プ で あ る 。こ こで は 、主 語 と形 動 詞 の 問 の 人 称 の 一 致 は な くな り、
関係 節 と被 修 飾 名 詞 の 間 で エ ザ ー フ ェ32が見 られ る タ イ プ(■ 類 型)で
あ る。 こ
の 場 合 、 エ ザ ー フ ェ の 接 辞 は 関 係 節 内 の 主 語 と人 称 ・数 に お い て 一 致 す る 。
下 に そ れ ぞ れ の 類 型 ご とに 具 体 例 を 見 て い く。 例 文 に お い て 、 形 動 詞 語 尾 は
太 字 で 、 関係 節 は 下 線 で 、 そ して 被 修 飾 名 詞 は 二 重 線 で 示 して い る。 ま た 、 関
係 節 の 主 語 を表 す(或 い は主 語 と一 致 す る)接 辞 は斜 体 で 示 して い る。
31修 飾 句 と被 修 飾 名 詞 を並 べ て示 す形 式 を並 置 と呼 ぶ こ と にす る
。 さ らに エ ヴ ェ ン キ 語 の
場 合 、修 飾 句 と被 修 飾 名 詞 と もに 共 通 して 複 数 ・格 な どの接 辞 が つ く(こ れ を― 致 と も呼
ぶ:cf.動 詞 の 主 語 と人 称接 辞 の 間 の 一致 と同 じ用 語 で あ り紛 ら わ しい)。
32被 修 飾 名 詞 に 人 称 接 辞 の よ うな"被 修 飾marker"が
付 くよ うな 形 式 を
、以 下 エ ザ ー フ ェ
と呼 ぶ こ とにす る。
一172一
松本 亮
1類 型
人 称 接 辞 が 形 動 詞 形 に 付 くタ イ プ
人 称 接 辞 が 形 動 詞 形 に付 く タイ プ に は エ ヴ ェ ンキ 語 、 トル コ語 が 属 す る。
エ ヴ ェ ン キ 語
(20)Bu
ica-ra-v
1pLexc見
"私
達 は 彼
baka-na-1-va-tin
oro-r-vo.
る ―nfut-1pl.exc探
す 一part.NA―p1-accd-3p1.possト
ら が 探
トナ カ イ を 見 ま
し て い る
し た
(20)に お い て は 、 関 係 節baka-na― …-tin"彼
形 に 付 い て い る接 辞 の
関 係 節 は 名 詞oro-r"ト
一tin(3人 称 複 数)か
ナ カ イ(複
数)"を
(N:(117)b.)
ナ カ イ ーpl-accd
。"
ら が 探 し て い る"の
ら3人
主 語 は形 動 詞
称 複 数 で あ る と分 か り、 そ の
修飾 して い る と 見 る こ と が 出来 る。
トル コ 語
(21)Bu
sabati
この
ev-in
朝
n一
家 一gen
d
aksam
麩de
前 一poss-loc
bul-dug-um;
anahtar;,
見 付 け る 一part―lsg.poss
鍵
travbet.ti並 一'ii
baba-m-m
anahtar
i、 i-di.(勝
田:143)
昨 日
夕方
父 ―lsg.poss-gen失
く す 一part-3sg.poss
鍵
be-pst
"今 朝 家 の 前 で 私 が 見 つ け た 鍵 は 昨 夜 私 の 父 が 紛 失 し た 鍵 だ
っ た 。"
(21)に お い て は 、 関 係 節 と被 修 飾 名 詞 の ペ ア が2組
含 ま れ て い る(対
応 す るペ
ア を 下 付 き の ロ ー マ 数 字 で 示 し て い る)。 形 動 詞 語 尾 は と も に 過 去 を 表 す
一dika
が 出 て い る 。 関 係 節 内 の 主 語 と一 致 す る 接 辞 は と も に 形 動 詞 形 に 付 き 、 被 修 飾
名 詞 で あ るanahtar"鍵'に
は何 も標 示 され て い な い 。
チ ュ ル ク 諸 語 に お い て は 、 トル コ 語 の 他 に 、 ア ゼ ル バ イ ジ ャ ン 語 も 同 じ タ イ
プ を 示 す(30hanson
i998:63)。
上 述 した よ うに 、 モ ン ゴル 語 に つ い て も見 て お く。 関 係 節 、 被 修 飾 名 詞 の い
ず れ に も人 称 を表 す 接 辞 は な い 。
モ ン ゴ ル 語
(22)
eiinxee
x
同年 輩 の
人 一gen
-ii
gs
n
buu
sum一リ
銃
弾 一instr
与 え る 一part
buuda-」
撃 つ 一conv.7見
e-x
る 一part
yum
bis
もの
ない
?
Q
"友 達 の くれ た鉄 砲 と弾 丸 で 撃 って み な い か い?"
一173一
(小 沢:36)
エ ヴェ ンキ 語 、 ヤ クー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 にお け る人 称 接 辞 を伴 う副 動 詞 形 に つ いて
皿類型
人称接辞が被修飾名詞 に付 くタイプ
次 に 人 称 接 辞 が 被 修 飾 名 詞 に 付 く タイ プ で あ る。 ま ず 既 に 触 れ た よ うに こ こ
に は ヤ ク ー ト語 とブ リヤ ー ト語33が 属 す る。
ヤ
ク ー
ト語
(23)Min
uu-bun
lsg水
raax-tan
一lsg.poss―acc遠
en
く 一abl
bukat
2sg全
da
n
く
pcle
raax-tan
bah-a-b
遠 く 一abl汲
bil-bet
(23)に お い て は 、 関 係 節en
地"に
sir-gitten.
知 る 一part.neg.リ土
bukat
ee,
む 一prs-lsg
pcle
(Ub:156)
地 ―2sg.poss.abl
"私 は と つ て も遠 く か ら水 を 運 ん で 来 る ん だ よ
詞sir"土
n
n bil-bet"お
、 お 前 の 知 ら な い 所 か ら 。"
前 の 全 く知 ら な い"が
か か る 。 そ して 関 係 節 内 の 主 語en(2人
称 単 数)に
被修飾 名
一 致 す る接
辞 一gittenが 、 被 修 飾 名 詞 に つ い て い る 。
ブ リヤ ー ト語
(24)Aldar-ai bar'-aad
人 名 一gen持
"ア
bai-han
t
つ 一conv.リ)be-part.HAN
ル ダ ル が 持
x'
r-iin'
鍵 ―3sg.poss
multar-sa-ba(一リ).(Sk:126)
脱 落 す る 一perf-pst.3sg
っ て い た 鍵 が 落 ち た 。"
ブ リ ヤ ー ト語 に お い て は 人 称 接 辞 が 現 れ な い こ と も あ り、 任 意 と 言 え る 。 し
か し人 称 接 辞 が 現 れ る 場 合 は 必 ず(24)の よ う に 被 修 飾 名 詞 の 後 で あ る 。(24)で は 、
関 係 節Aldar-ai
bar'-aad bai―hal1"ア ル ダ ル が 持 つ て い た"が 被 修 飾 名 詞iUIX' r
"鍵"に か か る
。 そ し て 、 関 係 節 内 の 主 語Aldarに
一 致 す る3人 称 単 数 の 人 称 接
辞 一iin'が 被 修 飾 名 詞 に 付 い て い る 。 ヤ ク ー ト語 で も 同 様 で あ っ た が 、 人 称 接 辞
は"鍵"と"ア
ル ダ ル"の
間 の 所 有 関 係 を 示 す も の で は な い 。 し か し この 例 文
の 場 合 、 意 味 の 上 か ら両 者 の 間 に所 有 関係 が あ っ て も お か し く な い 為 、 明 確 で
は な い 。 次 に 挙 げ る 例(25)は 、 被 修 飾 名 詞 に か か る 関 係 節 の 主 語 と 、 被 修 飾 名 詞
の 所 有 者 が 異 な る場 合 で あ る。 こ の 場 合 は 被 修 飾 名 詞 に 付 く人 称 接 辞 は 関 係 節
の 主 語 と の 一 致 の 方 を 優 先 す る と い う説 明 が 加 え ら れ て い る(Skribnik
2003:
126)0
33ブ リヤ ー ト語 で は 人 称 接 辞 が付 くの は任 意 的 で あ る(注9参
く時 の例 を挙 げ る。
一174一
照)
。本 文 で は 人 称 接 辞 が 付
松本 亮
(25)Zun
namda
aba-han
samsa-sni
xaana-b.
(Sk:126}
夏1sg.dat掴
む 一part.HANシ
ャ ツ ―2sg。possど
こ 一Q
"あ な た が 昨 夏 私 に 持
つ て き て く れ た シ ャ ツ は ど こ?"
つ ま り こ こ で は 、 関 係 節 の主 語(持
有 者(明
っ て 来 た"あ な た")と
、"シ ャ ツ"の 所
確 に記 述 は され て い な い が 、 関係 節 で 示 され る行 為 者 と は 異 な る とい
うこ とか ら"あ な た 以 外 の 誰 か"で あ る とい う推 測 しか 及 ば な い)が
い て 、 そ れ ぞ れ を標 示 す る接 辞 が 同 じ場 所(samsaの
異 な って
後)で 競 合 して しま うの だ
が 、 前 者 が優 先 され る。 そ の 結 果 、被 修 飾 名詞 に は2人
称 単数 の接 辞 が付 いて
い る の で あ る。
ア ル タ イ 諸 語 の 他 の 言 語 に つ い て 見 て み る と、 ■類 型 の タイ プ に 属 す る 言 語
が 実 は 多 い 。 例 え ば モ ン ゴ ル 諸 語 に お い て は オ イ ラ ト語 、 チ ュ ル ク 諸 語 に お い
て は ク ム ク 語 、 カ ザ フ 語 、 ウ ズ ベ ク 語 、 新 ウ イ グ ル 語 、 トル ク メ ン 語 を 挙 げ る
こ と が で き る(チ
4.2
ュ ル ク 諸 語 に 関 して はJohanson
1998:62を
参 照)。
小括
4.1で 見 た2っ
の 類 型 は ど ち ら が よ り発 生 的 で あ る か に つ い て は 、 は っ き り と
言 え る根 拠 は な い 。 た だ し、 人 称 接 辞 に 、 主語 と動 詞 の 間 の 一 致 と 、 修 飾 語 と
被 修 飾 語 の 間 の エ ザ ー フ ェ とい う2つ
の 語 の結 合 方 法 が融 合 し て い る点 で 、他
の語 結 合 の 場 面 で は 見 られ な い 為 、 ヤ ク ー ト語 や ブ リヤ ー ト語 が よ り特 殊 で あ
る と見 る こ とが で き る。 従 って こ こま での 結 論 と して は 、 「
ヤ ク ー ト語 や ブ リヤ
ー ト語 に お け る 、形 動 詞 形 の 関 係 節 用 法 で現 れ る被 修 飾 名 詞 に つ く人 称 接 辞 は 、
この 地 域 に お い て は類 型 論 観 点 か ら見 て特 徴 的 で あ る 」と 言 え る 。
5
考察
副 動 詞 形 に人 称 接 辞 が 付 く とい う特 徴 が 、 エ ヴ ェ ン キ語 か ら ヤ クー ト語 や ブ
リヤ ー ト語 へ受 け 入 れ られ る 、 或 い は エ ヴ ェ ン キ 語 の 影 響 で 強 め られ る に 至 つ
た 要 因 を 、 次 の2点
か ら考 えて み た い:
① な ぜ モ ン ゴ ル 語 が ブ リヤ ー ト語 や エ ヴ ェ ン キ 語 の よ う な完 全 な 形 で そ の 特
徴 を持 って い な い の か(3.3で
保 留 して い た 問 題 点)
② な ぜ ヤ クー ト語 や ブ リヤ ー ト語 が そ の特 徴 を 受 け 入 れ る こ と が 出 来 た の か
ま ず ① に つ い て で あ る が 、 第3章
の 小括 で も述 べ た よ うに 、 副 動 詞 に 人 称 節
辞 が 付 く とい う特 徴 は モ ン ゴル 諸 語 にお い て も発 生 的 に 持 っ て い た 可 能 性 が あ
る こ とを 示 唆 した 。 しか しモ ン ゴル 語 に お い て は 、 ブ リヤ ー ト語 に 見 られ る よ
うに 、全 て の 人 称 に お い て 可 能 とい うわ け で は な く、3人 称 所 有 接 辞 と再 帰 所 有
一175一
エ ヴェ ン キ語 、 ヤ ク ー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 に お け る 人 称 接 辞 を伴 う副 動 詞 形 にっ い て
接 辞 に お い て の み観 察 され る だ け で あ つた 。
これ は 、 ま ず モ ン ゴル 語 で は 動 詞 に お い て 人 称 と数 に よ る 区別 を つ け る とい
う特 徴(動
詞 の 人 称 と数 に よ る 一 致 現 象)が 全 体 的 に 弱 ま っ て き て い る こ と と
同 じ視 点 か ら見 る こ と が で き る の で は な い だ ろ うか 。 モ ン ゴ ル 諸 語 で は 、 漢 語
と強 い 接 触 を持 つ 地 域 に お い て 動 詞 で 人 称 ・数 に よ る活 用 を 持 た な い 言 語 が 多
くみ られ る。 モ ン ゴ ル 語 を は じ め 、 他 に も 内蒙 古 の 諸 方 言 、 青 海 省 や 甘 粛 省 で
話 され て い る シ ラ ・
ユ グル 語 、 保 安 語 、 東 郷 語 な ど が 挙 げ られ る34。 漢 語 との 接
触 に よ つ て 動 詞 の 人 称 接 辞 が 失 わ れ た と考 え る の は 、 系 統 を 異 にす る チ ュル ク
諸 語 に お い て も 同 じで 、 青海 省 や 甘 粛 省 で話 され て い るサ リグ ・ヨ グル 語 、 サ ラ
ル 語 、 ツ ン グ ー ス 諸 語 に お い て は 満 州 語(シ ベ 語)も
、 動詞 の人 称接 辞 を失 っ
て い る か ら で あ る。 動 詞 に人 称 語 尾 を持 つ 言 語 は これ らの 言 語 よ り も相 対 的 に
漢 語 の 分 布 地 域 か らは 離 れ て い る と言 え よ う。
ま た 別 の 要 因 と して 、 モ ン ゴル 語 に お い て 人 称 所 有 接 辞 が 特 殊 な 用 法 を持 っ
て い る こ と が 挙 げ られ る だ ろ う。 次 の(26)及 び(27)は と も に
「私 の 本 」 と い う意
味 で あ る が 、(26)は 誰 の で も な い"私 の"本 で あ る こ と が 強 調 さ れ る が 、(27)は
"本"で
あ る こ と が 強 調 され る と い う説 明 が 為 され て い る(小 沢1963
:106)。
(26)minii
nom
lsg.gen
(27)nom
本
min'
本1sg.poss
ま た 、cin'(2sg.poss)とn'(3.poss)に
つ い て も 、本 来 の 人 称 所 有 接 辞 と は 全 く別 に 「単
に 、 主 格 表 示 の 語 尾 と し て 用 い ら れ る こ と が あ る 。 又 、v・cm'は 「…
意 味 す る 用 法 も あ る 」(小 沢1963:107)と
し た ら」 を
あ る よ う に 、意 味 を 特 化 させ て い る 。
そ し て こ の よ うな 方 法 は 定着 して い る。 上 で 挙 げ た 他 の モ ン ゴ ル 諸 語 を 見 て み
る と 、 保 安 語 に お い て は 再 帰 所 有 接 辞 は な く 、 人 称 所 有 接 辞 も3人
り(栗
林1992a)、
3人 称 し か な い(栗
称 のみ であ
シ ラ ・ユ グ ル 語 及 び モ ン グ ォ ル 語 に お い て は 人 称 所 有 接 辞 が
林1989,1992b)。
以 上 の こ とか ら、① に対 す る 答 え と して 、 「
モ ン ゴル 語 に お い て 、 人 称 接 辞 が
定 動 詞 形 に お い て 消 滅 して い つ た 、 或 い は他 の 意 味 を担 う よ う に な つ た 。 この
こ と に よ り、 定 動 詞 形 の 場 合 と同 様 に も は や 副 動 詞 形 に 人 称 接 辞 を付 け る必 要
が な くな っ た 、 或 い は 取 り入 れ る 手 段 が な く な つ た 為 」 とい う理 由 を 考 え る こ
と が 出 来 る だ ろ う。
次 に② に つ い て で あ るが 、 こ の 問題 を考 え る た め に 、 ま ず は 第4章
34ま た モ ン グ ォル語 で は 人称 ・
数 とは 異 な る2つ の陳 述 様 式 の 体 系 を持 つ 。
一176一
で 見た形
松本 亮
動詞 形 につ いて触 れ てお きたい。
形 動 詞 形 に 見 られ る 人 称 接 辞 の振 る 舞 い につ い て は 、 表4で
大 き く2つ
ま と め た よ うに
の類 型 に 分 け られ 、 そ の うち ブ リヤ ー ト語 とヤ クー ト語 に お い て 特
殊 と 見 られ る 特 徴 が あ る とい うこ とが 分 か つ た 。 人 称 接 辞 が 修 飾 す る側 の 関 係
節 に 付 か ず に 、 被 修 飾 名 詞 に 付 くの で あ る。
一 般 に 、修 飾 方 法 に お い て 並 置 とエ ザ ー フ ェ の2つ
を比べ た 時、並 置 よ りも
エ ザ ー フ ェ の 方 が 、 人 称 接 辞 で 標 示 す る とい う点 に お い て 、語 と語 の 関 係 を よ
りは つ き り と示 して い る と言 うこ とが 出 来 る。 修 飾 方 法 と して 主 に 並 置 とエ ザ
ー フ ェの2つ の 手 段 を持 つ ヤ ク ー ト語 とブ リヤ ー ト語 に お い て35
、関係 節 に 人 称
接 辞 を付 け て 被 修 飾 名 詞 と並 置 す る トル コ語 の よ うな 構 造 が 理 論 的 に は 可 能 で
あ っ た に もか か わ らず 、 エ ザ ー フ ェの 手 段 を 取 っ て い る こ とは 、 重 要 で あ る。
ヤ ク ー ト語 に お い て は 、 属 格 が 消 失 した こ と も影 響 して 、 エ ザ ー フ ェ に よ る
語 の 結 合 は 所 有 関係 を 示 す修 飾 以 外 に 、名 詞 に よ る名 詞 修 飾 で も た い へ ん よ く
見 られ る36。ま た 、 ブ リヤ ー ト語 に お い て 、エ ザ ー フ ェ は 主 に 所 有 関 係 を 表 す 修
飾 で 使 われ 、名 詞 に よ る 名 詞 修 飾 の場 合 は"名 詞 属 格 十 被 修 飾 名 詞"の
構造 を
と る。 しか し、エ ザ ー フ ェ が 次 の(28)の よ うに所 有 関 係 で は な い 場 合 に も使 わ れ
る こ とが あ る。
(28)ems-iin
xuusan'-iin' (Poppe 1960:111)
医 者 一gen
"医 者 の(中
古 い 一isg,poss
で) 一 番 年 取 っ た の"
(28)の よ う な 例 は 被 修 飾 語 が 名 詞 的 に 振 舞 う形 容 詞 で あ つ た り 、最 上 級 を 表 す 傾
向 が あ る な ど 、 自 由 に 取 れ る 修 飾 方 法 で は な い が(Poppe
1960:lll)、
エ ザー フ
ェ が 所 有 関 係 以 外 の 修 飾 で も使 わ れ る 手 殻 で あ る こ と を 示 す も の と 言 え る 。
い ず れ に せ よ 、 ヤ クー ト語 や ブ リヤ ー ト語 に お い て は 、 関係 節 と被 修 飾 名 詞
をエ ザ ー フ ェ に よ っ て よ り明 確 に 示 す とい う共 通 の 特 徴 が 見 え る。 つ ま り、 人
称 接 辞 が 動 詞 の 主 語 を標 示 す る と と もに 、 エ ザ ー フ ェ と して 関 係 節 と被 修 飾 語
を強 く結 び つ け る こ とで 名 詞 句 全 体 を 明 示 す る役 割 を担 つ て い る と見 る こ とが
で き る だ ろ う。 ま た 、修 飾 語+被 修 飾 名 詞 とい う語 順 に ほ とん ど揺 れ の な い ヤ
ク ー ト語 や ブ リヤ ー ト語 に お い て は 、 エ ザ ー フ ェ が 関 係 節 を 含 む 名 詞 句 の 最 後
を 示 す とい う点 も あ る と言 え る 。
35例
え ば 形 容 詞+名
詞 と い う構 造 の 場 合 は
っ て 表 され る。
36チ
ュ ル ク 諸 語 で は"名
語 で は 、ub詞
一φ+名
詞一
属 格+名
詞 一
人 称 接 辞"と
、 ヤ ク ー ト語 ・ブ リ ヤ ー ト語 で と も に 並 置 に よ
詞一
人 称 接 辞"が
基 本 的 な型 で あ る の に 対 し、ヤ クー ト
い う型 が 名 詞 結 合 の 基 本 と な っ た(庄
一177一
垣 内1989:949)
エ ヴ ェ ン キ語 、ヤ ク ー ト語 及 び ブ リヤ ー ト語 にお け る人 称 接 辞 を 伴 う副 動 詞 形 に つ い て
一 方 、エ ヴェ ン キ語 は 語 の結 合 方 法 と して エ ザ ー フ ェ と一 致37を 持 っ 。 こ の ―
致 とい う方 法 も 、 修 飾 語 が被 修 飾 語 と同 じ数 ・格 の接 辞 を と る とい う形 式 で あ
る 為 、 修 飾 語 を含 む 名 詞 句 全 体 を明 示 す る役 割 を 持 っ て い る と見 る こ とが 出 来
る。 特 に 、 本 論 文 に 挙 げ た 例 文 に も 見 られ る よ うに 語 順 が 比 較 的 自 由 で あ る エ
ヴ ェ ン キ 語 に お い て は 、 どの 語 が 修 飾 語 と被 修 飾 語 の 関 係 に あ る か を 明 示 す る
の に 役 立 つ と言 え よ う。
以 上 の よ うに 形 動 詞 形 に見 え る 人称 接 辞 か ら、 ヤ ク ー ト語 と ブ リヤ ー ト語 で
は 人 称 接 辞 の 役 割 と し て 、 主 語 を標 示 す る こ と と 、 文 内 に お け る 句 、 節 な ど を
明 確 に 示 す とい う2つ の 特 徴 が あ る こ とが 分 か る38。こ の こ と は 副 動 詞 形 に 人 称
接 辞 を取 る とい うこ と と大 き く関係 して い る と見 る こ とが で き る の で は な い だ
ろ うか 。 つ ま り、 副 動 詞 形 に 主 語 と一 致 す る 人 称 接 辞 を 付 け る こ とで 主 語 を標
示 す る と と も に 、 従 文 で あ る こ と を も示 して い る と見 る の で あ る。 ま た 、 エ ヴ
ェ ン キ語 と違 い 、 従 文 が 主 文 の 前 に くる 語 順 に ほ とん ど揺 れ の な い ヤ クー ト語
や ブ リヤ ー ト語 で は 、 従 文 の 最 後 を示 す とい う こ と も指 摘 で き る だ ろ う。 一 方
で 、 従 文 の位 置 が 比 較 的 自由 な エ ヴェ ン キ語 に お い て は 、 副 動 詞 形 に 付 く人 称
接 辞 は 主 語 を標 示 す る こ とが よ り重 要 な役 割 で あ る と言 うこ と が で き る。
ヤ クー ト語 や ブ リヤ ー ト語 の 人 称 接 辞 に つ い て 、 文 内 に お け る 句 、節 な ど を
明 確 に 示 す とい う特 徴 は 、 定動 詞 形 に 付 く人 称 接 辞(つ
ま り述 語 人 称 接 辞)も
含 め れ ば 、 よ り広 く人 称 接 辞 一 般 に 見 られ る特 徴 とす る こ と が で き る 。 定 動 詞
形 に 付 く人 称 接 辞 も 文 を 明確 に 示 し、 文 の 終 わ りを 示 して い る と見 る こ と が で
き る か らで あ る。
以 上 よ り、 ② に 対 す る 答 え と して 、 「
ヤ クー ト語 や ブ リヤ ー ト語 の 人 称 接 辞 に
は 主 語 を 標 示 す る役 割 だ け で な く、 句 ・節 ・文 とい っ た あ る 一 定 の ま とま りを
明 確 に示 す とい う役 割 も 持 っ て い た。 こ の 人 称 接 辞 の 役 割 が 、 副 動 詞 形 に人 称
接 辞 を付 け る とい う特 徴 を受 け 入 れ る 際 に 、 副 動 詞 形 に よ つ て 作 られ る 従 文 を
明確 に示 す 役 割 に も援 用 され た 」 とい う理 由 を考 え る こ とが 出 来 る だ ろ う。
6
ま とめ
副 動 詞 形 に 人 称 接 辞 が 付 く とい う特徴 は 、 モ ン ゴ ル 諸 語 に お い て発 生 的 に 、
ま た モ ン ゴル 諸 語 との 接 触 に よ つ て ヤ クー ト語 に お い て も持 っ て い た 可 能 性 が
あ る が 、 双 方 と もエ ヴ ェ ン キ 語 との 接 触 に よ っ て 借 用 した か 或 い は そ の 特 徴 を
強 め られ る に 至 つ た 。 そ の 要 因 と して 、 ヤ クー ト語 や ブ リヤ ー ト語 に お い て 人
37註31参 照
。
38こ の よ うな 人 称 接 辞 の 役 割 が伴 言 語 的 に ヤ クー ト語 や ブ リヤー ト語 に だ け 見 られ る特 徴
で あ る とい うこ と で は な い 。 類 型 論 的 に"強 く"現 れ て い る とい うこ とを 強 調 した い 。
一178一
松本 亮
称 接 辞 が 、 形 動 詞 形 に よ る 関係 節 の 構 文 に 見 られ る よ うに 、 主 語 を 標 示 す る と
い う機 能 だ け で な く一 つ の 句 ・節 ・文 の 区切 り を 明 示 す る と い う機 能 を も持 っ
て い た 。 こ の人 称 接 辞 の機 能 が 副 動 詞 形 に よ っ て 構 成 され る従 文 へ も及 び 、 エ
ヴ ェ ン キ語 か ら よ り影 響 を 受 けや す く な っ て い た とい う可 能 性 が 考 え られ る。
本 論 文 で は 主 に 文 法 書 に現 れ る 例 文 を使 い 、 人 称 接 辞 付 く副 動 詞 形 を見 て き
た 。母 語 話 者 に 対 して 調 査 が 可 能 な らば 、次 の こ とが 解 明 され る と予 測 され る。
・ ヤ ク ー ト語 や ブ リヤ ー ト語 で は 人 称 接 辞 が 任 意 に 現 れ て い る が 、 人 称 接 辞 が
付 く場 合 と付 か な い場 合 とで 何 らか の傾 向や 条 件 が あ るの か ど うか
・ 従 文 の 長 さ、 基 本 的 な語 順 と異 な る 語 順 、 同 主語 ・異 主 語 が 共 存 す る複 数 の
従 文 の 存 在 な ど と、人 称 接 辞 の役 割 に つ い て 何 ら か の 関 連 が あ るの か ど うか
これ ら問 題 点 は 今 後 の 課題 と した い。
一179一
エ ヴ ェ ン キ語 、 ヤ クー ト語及 び ブ リヤ ー ト語 に お け る 人 称 接 辞 を伴 う副 動 詞 形 につ い て
略号
1,2,3
abl
aCC
1,2,3人 称
mstr
具格
奪格
loc
位格
否定
対格
neg
accd
定対 格
nfUt
aCCln
不 定対格
part
非未来
形動詞形
all
場所 格
pcle
助詞
conv
副 動詞形
perf
完了(相)
dat
与 格(・与 位 格)
pl
複数
eXC
排 除形
poss
gen
属格
P「s
所有人称接辞
現在
hab
習 慣(相)
pst
過去
董mp
命令形
Q
impf
不 完 了(相)
refi
疑問助詞
再帰所有接辞
inc
包括 形
sg
単数
lng「
開始(相)
例 文 引用 元 の 略 号
例 文 は ほ ぼ 全 て 参 照 文 献 よ り引 用 した 。 例 文 の 後 に括 弧 内 で示 され て い る もの
が そ の 引 用 元 を 示 して い る。 以 下 に そ の 省 略 記 号 に つ い て説 明 す る 。
蛍 数):1.Ne(ljalkov(1997)全
て の例 文 に番 号 が 振 つ て あ る為 、 頁 で は な くそ の 番
号 を 付 し て 示 す 。 ま た 、 他 の 文 献 と表 記 を あ わ せ る 為 に 書 き 換 え た 文 字
が あ る の で 、 こ こ に 示 し て お く:
(Ne(ljalkovに
よ る 表 記:本
論 文 で の 表 記)e:。,
型:Ko皿ecHHKoBa(1966)、
塾:Skribnik(2003)、
(1985)、
and
昼M:Stachowski
y:i,ch=6, d'」,j:y
皿 ⊇:Y6pffToBa(1976)、
Menz(1998)、
小 沢:小
沢(1968)、
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勝 坦:勝
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—182—
松本 亮
要旨
Деепричастия с личными окончаниями
в эвенкийском, якутском и бурятском языках
МАЦУМОТОРё
Эвенкийский
процессе
язык,
исторических
широко
распространенный
передвижений
эвенков
в
Восточной
контактировал
с
Сибири,
в
якутским
и
бурятским языками.
В якутском языке личные окончания могут присоединяться к деепричастиям,
и
этим
якутский
язык
отличается
от
других
тюркских
языков.
На
этой
особенности я хочу остановиться в данной статье. До сих пор считалось, что
данное явление
тоже
обладает
-
результат влияния эвенкийского языка. Однако бурятский язык
этой
особенностью.
В
связи
с
этим
я
хочу
попытаться
типологически сравнить личные окончания глаголов этих языков.
На основании проведенного сравнения можно сделать следующий вывод:
существует ВОЗМОЖНОСТЬ,
что данная особенность
бьmа изначально присуща
бурятскому языку, а в якутском языке она появилась в результате контакта с
монгольскими языками. Но можно также предположить, что в обоих языках эта
особенность или бьmа заимствована в результате контактов с эвенкийским языком,
или
же,
уже имеясь,
усилилась в результате
этих контактов.
В
якутском
и
бурятском языках личные окончания указьmают не только на подлежащее, но и на
конец
предложения,
границу между главным
и
придаточным
предложением,
а
также на границу между словосочетаниями, как, например, в причастном обороте.
Такая
роль
личных
окончаний
могла
подготовить
почву
для
успешного
взаимодействия с эвенкийским языком.
(受 理 日2005年7月1日)
-183-