風 幼少期に幸せな体験を

大人になっても心の奥底に蝋燭の明かりのよう
な時期にある彼らの毎日が輝いたものになり、
とても晴れがましく見える時だ。とりわけ大切
新たな4月が始まった。3歳未満児ばかりの
当園では泣き声も一際だが、子どもたちの顔が
世界でも有数の豊かな日本で子どもの貧困が
深刻になっていると近年大きく報道され、統計
影響を与えるし、大切なことのように思える。
験をするということが、人の生き方にも大きく
る。こうした平凡であっても幼少期に幸せな体
事実で、それが自分を支えてくれている気がす
せ感を伴った心象風景として残っていることは
るのではないか。例えば、社会に子育て中の親
ていないか、他人を思いやる気持ちが薄れてい
荷担していないかと思う時がある。社会に競争
貧困家庭への社会的支援として様々な制度や
施策が求められるが、こうした格差に私たちも
疎外感から心を歪めることがあってはならない。
との愛着関係に悪影響を及ぼしたり、社会との
たことがあるので、まんざら夢でもないのかも
のである。科学的にもあり得ると何かで見聞し
の写真を見せられて記憶と同じことを確認した
だせるのだが、不思議なことに、後に同じ場面
ている、生後幾日もたたない自分の様子も思い
ので、豊かさの陰に隠れた歪みとも、格差がす
いようだが、一般にまだ中流意識は高いような
育不能になっている場合など要因は一筋ではな
が推測される他、保護者の精神的な病により養
と、特に母子家庭が厳しい経済状況であること
派遣労働など不安定な就労状況が増えているこ
けたい。すべての子どもが幸せな子ども時代を
られるよう、福祉の心をもった保育園であり続
質の向上を図り、利用者の心のニーズにも応じ
2年目に入る新制度は就労支援という面では
大きな進展だと思うが、今後はより一層保育の
い込まれて悩む人も少なくなるのではないか。
や子どもへもう少し温かい眼差しがあれば、追
神尾 元
山形県米沢市・西部乳児園園長
幼少期に
幸せな体験を
は必要だと思うが、過剰になり自分本位になっ
ゆが
にほっこりと温かく残ってほしいといつも思う。
上6人に1人の子どもが貧困に当たるという。
人間の記憶は3歳頃から残るといわれている
が、三島由紀夫の小説に自分が生まれた時の光
景を記憶しているというくだりがある。私にも
そうした記憶があるので、同感できる。産院の
白っぽい室内や天井の白熱電球がぼんやりと思
いだせる。取り上げてくれた医師におしっこを
かけてしまったというエピソードを後に母から
聞いたが、思わぬことに笑いが起きたその感じ
すらも思いだせるのだ。たぶん、後に聞いた話
が潜在意識となって夢とも現とも見境がつかな
い感じに記憶として現れたのかもしれない。し
しれないが、たとえ生まれたばかりの子どもに
すんでいるともいえる。子どもには貧困の罪は
送れるように。
かし別の場面では、家の裏の畑で祖父に抱かれ
も記憶に残るということではないだろうか。
ないが、一番影響を受ける存在でもある。母親
ひず
私の場合、夢か現か判明できないが、今も幸
16.3.28 8:59:39 PM
E02_風-.indd 2
2
保育通信■No. 732 2016. 4. 1.