カラギーナン - シーエムシー出版

カラギーナン
Carrageenan
1.概 要
作用,整腸作用を持つノンカロリー性である。ま
た,タンパク反応性は,カラギーナンの大きな特
カラギーナンは紅藻類海藻から抽出される天然
徴であり,天然・合成高分子の中でカラギーナン
高分子物質で,ガラクトースと 3,6 アンヒドロガ
だけが持つ特異な性質であり,食品を中心に「添
ラクトースからなる繰り返し単位の中の一部の水
加物」として様々な用途に活用されている。
酸基が,硫酸エステルの Na,K 塩になった形の
酸性多糖類である。分子量は 10 万∼15 万程度で
ある(図 1)。κ,ι,λの 3 種類の構造があり,
2.製 法
原料海藻は 200∼300 種類あるといわれており,
原料海藻の種類によってこれらの含有率が異な
この中でカラギーナン用に実用化されているの
る。またその化学構造によりゲル化能を有するκ
は, 北 米, フ ラ ン ス, ス ペ イ ン で 採 取 さ れ る
タイプと,非ゲル化性のιタイプ,λタイプに分
(λ構造)と,チリ,アルゼン
チンで採取される
類される。
性状は無味・無臭の白色または淡黄色粉末。非
消化性の食物繊維で,コレステロールの体外排出
(λ構造)
,
フィリピン,インドネシアで採取される
(κ構造含有量大)や
(ι構造含有量大)などであり,現在栽培
されている。
一般的にはゲルプレス法とアルコール沈殿法が
用いられている。どちらもまず乾燥した原料を希
アルカリで抽出し不純物除去のためろ過する。そ
の後ゲルプレス法では,抽出液をゲル化→押出し
→脱水→乾燥→殺菌→ブレンドの手順で製造され
る。一方アルコール沈殿法では,ιタイプ,λタ
イプのカラギーナンが作られる。アルコール溶液
に抽出液を添加することにより繊維状のカラギー
ナンを析出させ,脱水,乾燥,殺菌の工程を経て
製造される。
3.生産動向
カラギーナンの原料となる紅藻類は,珊瑚礁の
遠浅の海域が広がり,成育条件に恵まれている地
域で栽培されている。水深 2 m ほどの海中に杭
図 1 カラギーナンの構造式
を打ち海藻の芽を植え込むと,2 か月余りで成育
表 1 日本の生産量と輸入量(2008 年)
(単位:トン)
メーカー
工場
生産能力
生産量
MRC ポリサッカライド
富山
三菱商事フードテック
インドネシア
(元・中央フーズマテリアル)
日本カラギーナン工業
輸入
850
450
450
200
200
100
750
合 計
1,500
備 考
原料インドネシア品
インドネシア品
1,500
(シーエムシー出版推定)
表 2 世界メーカー別生産量(2008 年)
(単位:トン)
表 3 カラギーナンの用途別需要量(2008 年)
(単位:トン,%)
メーカー
生産能力
生産量
用 途
FMC
CP Kelco
カーギル
その他(シェンバーグ,クエ
スト・バイオコン,MSC など)
10,000
4,000
4,000
5,500
3,000
3,000
5,500
合 計
18,000
17,000
ゼリー・ プリン(アイスクリーム)
ハム・ソーセージ
芳香剤
歯磨き
その他(化粧品,医薬品,機能性
食品など)
合 計
(シーエムシー出版推定)
需要量
構成比
700
300
100
100
300
46
20
7
7
20
1,500
100
(シーエムシー出版推定)
することができる。刈り取った海藻は海岸で天日
乾燥させた後,世界各国に輸出されている。
などがあり,このうち,FMC と CP Kelco,カー
ギルの 3 社で世界シェアの約 70%を占めている
カ ラ ギ ー ナ ン の 国 内 メ ー カ ー は,MRC ポ リ
(表 2)。近年は中国において市場,メーカーの生
サッカライド,三菱商事フードテック(元・中央
産量ともに拡大を続けており,その他の国々への
フーズマテリアル)
,日本カラギーナン工業の 3
供給量減少と価格上昇の原因となっている。
社である。MRC ポリサッカライドはインドネシ
アから輸入した紅藻を用いアルコール沈殿法で生
4.需要動向
産しており,日本カラギーナン工業と三菱商事
カラギーナンの 2008 年の国内需要は約 1,500
フードテックはインドネシアの工場で抽出したも
トンと推定される。これまで毎年変化の少ない需
のを日本国内に輸入している(表 1)。3 社のカラ
要構造であったが,ここ数年は食品業界を中心に
ギーナン単品の 2008 年における国内供給量は合
減少に転じている。全世界を巻き込む不況の影響
計で 750 トン程度と推定される。750 トン程度は
に加え,中国メーカーの生産量拡大と海水温上昇
輸入されている。また植物ガムなどを配合して食
による原料価格の高騰から,国内メーカーが製品
品メーカーに販売するブレンダーが 10 社程度あ
価格を大幅に引き上げざるを得なかったことが大
る。
きな理由のようである(表 3)。全世界のカラギー
海 外 メ ー カ ー は,FMC(米 国 ) と CP Kelco
ナン生産量は現在約 1 万 7,000 トン,需要量は 2
(米国),カーギル(米国),シェンバーグ,クエ
万トンと推定されるが,中国の需給は未知数であ
スト・バイオコン,MSC(元・明新化成,韓国)
Vol.27 No.2 2010
る。
表 4 カラギーナンのタイプ別特徴
温水
冷水
温ミルク
冷ミルク
高濃度砂糖溶液
高濃度塩溶液
カチオンの効果
テクスチャー
離水
ローカストビーンガム
との相乗性
ミルクゲル強度
Kappa(κ)
Iota(ι)
Lambda(λ)
70℃にて溶解
Na 塩に可溶,K・Ca・NH4
にて膨潤
可溶
不溶
熱時可溶
冷時,熱時不溶
K 塩で最も強くゲル化
もろくて硬いゲルを作る
多い
70℃にて溶解
Na 塩に可溶,Ca 塩にてチ
キソトロピック溶液
可溶
不溶
難溶
熱時可溶
Ca 塩で最も強くゲル化
弾力性のゲルを作る
少ない
可溶
すべての塩に可溶
強い
弱い
ゲル化せず
強い
弱い
ゲル化せず
可溶
分散・増粘
熱時可溶
熱時可溶
ゲル化せず
ゲル化せず
ゲル化せず
カラギーナンのゲル化性は,基本成分の違いや
需要が減少していたが,カップものの「0 カロ
塩類,ローカストビーンガムやグルコマンナンな
リー」ゼリーが伸びたことで持ち直している。な
どの併用によって様々な食感を作ることが可能と
お,アイスクリームとエネルギーチャージを目的
なるため,「増粘多糖類」または「ゲル化剤」と
とした機能性ゼリードリンクの需要は安定してお
してデザートゼリーやプリン,水ようかんをはじ
り,ゼリードリンクは水ゲル用途の 10%となっ
め, ハ ム や ソ ー セ ー ジ, 水 産 練 製 品 の テ ク ス
ている。ハム・ソーセージに関しては,全体の
チャー改良,保水剤などにも広く使用されてい
20%を占めているものの贈答品の需要減の影響が
る。食品のゲル化に寒天や動物性ゼラチンを用い
出ている。
ると硬いゲルになる。一方カラギーナンを用いる
この他に化粧品や医薬品のソフトカプセル,練
と,透明感や滑らかさ,弾力性,流動性に富むゲ
り歯磨き,芳香剤,機能性食品として,さらに嚥
ルを作ることができる(表 4)。例えば増粘の目
下剤や介護食へも使用されている。特に嚥下剤や
的で使用されるカラギーナンは,λタイプ,もし
介護食の分野は,高齢化社会に向けてここ 5 年間
くはκタイプとλタイプの混合物のナトリウムイ
市場は安定的に拡大している。
オン型があり,冷水に溶解して透明な粘稠液を
作ったり,冷ミルク中にもよく分散し増粘効果を
発揮することから各種食品の増粘剤,安定剤とし
5.価 格
κタイプ:2,000∼3,000 円/kg,ιタイプ:3,000
∼4,000 円/kg,λタイプ:4,000∼5,000 円/kg
て使用されている。
用途として最も多いのがゼリーやプリン,アイ
スクリームなどの水ゲル剤で,全体の 47%程度
半精製品 2,000 円/kg 以下,特殊用途の高級グ
レードは 5,000 円/kg 以上のものもある。
を占める。2006 年からポーションゼリー用途の
◇ ◇ ◇