急性膵炎の患者

関連図で理解する消化器疾患看護のポイント
急性膵炎の患者
瀬戸さやか
東京医科歯科大学
医学部附属病院
消化器・腎臓内科病棟 副看護師長
東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業。その後,東京
医科歯科大学医学部附属病院に就職し,脳神経外科病棟を
経て,現在は消化器・腎臓内科病棟勤務。日本静脈経腸栄
養学会NST専門療法士を取得し,院内のNST活動に参加。
●
急性膵炎は,膵酵素が膵臓を
自己消化してしまうことにより生じる。
●
主症状は腹痛であるが,激痛であることが多く,
適切に鎮痛剤を使用し
高サイトカイン血症を引き起こし,全身管
苦痛緩和を図ることが求められる。
●
急性膵炎はしばしば重症化し,
多臓器不全に至ることがあるため,
全身状態の密な観察が必要である。
理を要することがあります。感染を併発し
敗血症に陥ると,予後は極めて悪くなりま
す。急性膵炎患者の死亡率は2.1%ですが,
重症例での死亡率は10.1%に達し,高齢
急性膵炎とは?(図1)
膵臓は長さ15cmほどのたらこのような
急性膵炎の診断
形をしており,十二指腸に膵頭部がはまっ
採 血 デ ー タ で は, ア ミ ラ ー ゼ(AMY)
たような位置にあります。また,膵臓は内
値の上昇に注意が必要です。アミラーゼは
分泌機能と外分泌機能という2つの大きな
デンプンをブドウ糖に消化する酵素の一つ
機能を持っています。内分泌機能としては,
で,膵臓や唾液腺で作られます。膵臓自体
インスリンやグルカゴンといった,代謝に
が消化されることで,アミラーゼが血液中
重要なホルモンを出します。外分泌機能と
や尿中に流れ込み,高値を示します。しか
しては,消化酵素を多く含む膵液を十二指
し,アミラーゼ値は診断の特異度が低いこ
腸に送り出しています(表1)
。
とも覚えておかないといけません。特に,
この消化酵素は不活化されており,胃液
慢性膵炎を背景とするアルコール性の急性
と混ざったり,小腸に膵液が達したりする
膵炎では,アミラーゼ値が上昇しないこと
ことで,活性化されます。しかし,何らか
が多くあります。また,アミラーゼ値は発
の原因でこの強力な膵酵素が膵細胞内外で
症後速やかに低下するため,発症から時間
活性化されてしまい,膵臓自身を消化して
が経過すると,正常化していることもあり
しまうことがあります。これが急性膵炎の
ます。画像診断としては,CTやMRI,X線
本態です。急性膵炎の原因としては,アル
や超音波検査などが用いられます(表2)。
コールと胆石が二大成因ですが,その原因
が特定できない特発性の急性膵炎も20%
ほどあります(図2)
。
さらに,急性膵炎はしばしば重症化し,
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者ほどその死亡率は高くなります。
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急性膵炎における
疼痛コントロール
急性膵炎の主症状としては,腹痛があり
図1 急性膵炎の関連図
苦痛緩和の必要性
鎮痛剤の使用 含嗽など・口腔ケア
不安・ストレスの軽減
急性膵炎を繰り返す恐れ
慢性膵炎に移行する恐れ
アルコール
急性膵炎
内分泌機能の障害
血糖コントロール
退院指導の必要性
食事指導 禁酒・節酒
インスリン自己注射
タンパク分解酵素
阻害剤の点滴
高サイトカイン血症
⇒血管内脱水
⇒循環動態が不安定
水分出納バランスの観察
大量輸液⇒心不全のリスク
CHDF
急性重症膵炎による
全身状態悪化の恐れ
多臓器不全
表1 主な膵酵素とその働き
消化酵素
役割
トリプシン
タンパク質をアミノ酸に分解
キモトリプシン
タンパク質をアミノ酸に分解
膵アミラーゼ
デンプンを麦芽糖に分解
膵リパーゼ
感染の
リスク
外分泌機能の障害
活性化された
膵酵素が全身へ
インスリンなどの
ホルモンの分泌低下
バクテリアル
トランスロケーション
絶飲食
症状:疼痛・嘔気など
早期経腸栄養
図2 急性膵炎の
成因
:看護問題
:ケアや介入
その他
アルコール
22.9%
33.5%
特発性
16.7%
中性脂肪を脂肪酸とグリセリ
ンに分解
胆石
26.9%
ます。疼痛はかなり強く,オピオイド鎮痛
表2 急性膵炎の診断基準
薬のブプレノルフィン(レペタン)やペン
1.上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある。
2.血中または尿中に膵酵素の上昇が
ある。
3.超 音 波,CTま た はMRIで 膵 に 急
性膵炎に伴う異常所見がある。
タゾシンを点滴で使用します。投与方法と
しては,側管投与や持続静脈注射,筋肉注
射などがあります。患者の疼痛が強いこと
を考慮し,医師の指示どおりに適切に鎮痛
薬を使用し,疼痛コントロールを図ります。
また,疼痛は背部痛として現れることもあ
ります。背部痛が強い場合には,臥位より
も背中を丸めて休んだ方が楽な場合もあり
上記の3項目のうち2項目以上を満たし,他
の膵疾患および急性腹症を除外したものを急
性膵炎と診断する。ただし,慢性膵炎の急性
増悪は急性膵炎に含める。 下瀬川徹研究代表者:難治性膵疾患に関する調査研究
平成20年度総括・分担研究報告書,厚生労働科学研究費
補助金難治性疾患克服研究事業,平成21年3月.
ます。患者ができるだけ安楽に過ごすこと
わらず,嘔気・嘔吐が続くことがあり,患
ができるよう,体位も工夫しましょう。
者の苦痛は大きいと言えます。嘔吐後は冷
腹痛以外の症状としては,嘔気や嘔吐が
水での含嗽を促すなど,不快感の除去に努
あります。食事を摂取していないにもかか
めましょう。
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薬剤による急性膵炎
消化器内科では炎症性腸疾患の治療で,
さらに,ガベキサートメシル酸塩やナ
アザチオプリン(イムラン)や6-MP(ロイ
ファモスタットメシル酸塩は静脈炎を起こ
ケリン)を使用することが多くあり,これら
すことがあります。その可能性を念頭に置
の薬剤による急性膵炎を経験したことがあ
き,血管確保時にはなるべく太い血管を選
ります。炎症性腸疾患も急性膵炎も腹痛が
び,点滴施行中は刺入部の観察を密に行い
主症状ですが,腹痛の原因や疼痛の程度を
ます。
適切にアセスメントして,早めに医師に報
重症急性膵炎では,中心静脈カテーテル
告できるようにしましょう。
管理となることも多いですが,軽症の場合
には末梢輸液のままのこともあります。そ
急性膵炎時の輸液管理
活性化された酵素は膵臓だけでなく,血
液中に入り,肺や腎臓などほかの臓器にも
障害を引き起こします。そこで,膵酵素や
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の際には,点滴ラインが2本以上となるこ
ともあるため,点滴ラインの整理を確実に
行い,ライントラブルを防止します。
重症急性膵炎時の看護
膵の自己消化によって産生された壊死物質
●重症急性膵炎のメカニズム(図1)
などの有害物質の働きを抑えるために,タ
重症急性膵炎の場合には,大量のサイト
ンパク分解酵素阻害剤を点滴で使用します。
カインが放出され,血管透過性が亢進しま
タンパク分解酵素阻害剤には,ガベキサー
す。そうすると大量の水分が血管外へ移動
トメシル酸塩(エフオーワイ),ナファモ
し,血管内脱水を引き起こします。そのた
スタットメシル酸塩(フサン),ウリナス
め,循環動態が不安定になりやすくなりま
タチン(ミラクリッド)などがあり,症状
す。そこで,血管内脱水の補正や臓器血流
に合わせて使用されます。
を維持するために,輸液の大量投与が行わ
これらは半減期が短いため,特にガベキ
れます。1日に5L以上の輸液を行うこと
サートメシル酸塩やナファモスタットメシ
もあるため,適切な水分出納管理が求めら
ル酸塩は持続静脈注射が行われます。ガベ
れます。特に高齢者や腎機能が低下してい
キサートメシル酸塩はアミノ酸製剤やアル
る患者は,大量輸液による心肺不全のリス
カリ製剤で配合変化を起こしたり,ナファ
クが高くなるため,慎重な観察が必要とな
モスタットメシル酸塩でもアルカリ製剤で
ります。バイタルサインや尿量が確保され
配合変化を起こすため,基本は単独ライン
ているかを密に観察し,異常時には速やか
とします。ライン内には三方活栓は組み込
に医師に報告します。時にはCHDFによる
まないようにし,抗生剤などが側管投与さ
体液管理を行いつつ,急性期の治療を行う
れることを防ぎます。やむを得ず側管投与
こともあります。
を行う時には,投与前後に生理食塩水など
膵臓はさまざまな臓器と接しているため,
のフラッシュを行います。
膵酵素が周りの臓器に影響を及ぼし,高サ
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