有事のルール「租借地化するファーイースト-前段」 [迫りくる法改正の荒波-25] ●昨年7月。沖縄初となるハイアット系ホテル(ハイアットリージェンシー那覇)が オープンしましたが、ここに至るまでには結構な難行苦行があり、その為、開業予 定は数か月後ズレせざるを得なかった様です。ホテル側が、見込み違いを起こし たその最大の要因-それを紐解く前に、彼らが陥った統計の罠に触れておく必要 があります。●「鳥取」「高知」「宮崎」「沖縄」-ただ単に県名を並べただけでは、 誰も何の事なのか判りません。が、実はこの4県には、余り胸を張れない共通項 があります。観光以外、目玉となる資源に乏しく、交通(物流)事情も今一つの上、 近在に大規模消費地を持っていないこれら4県は、お気づきの様に、昨年10月に 改定された地域別最低賃金の最後尾ランナーなのです。単純計算でも、907円 の東京に比べ時間当たり214円も安く(693円/時)、月次換算で3万7千円強、 年次ベースでは45万円もの格差が生じる勘定です。●この様な状況を踏まえる と、地域から歓迎される雇用増直結型の業態であるホテルとしては、外資系で初 の沖縄進出という話題性もあることから、開業について、かなり楽観的な見通しを 持っていたとしても、何ら不思議ではありません。特段のスキルもキャリアも必要と しない簡単な業務(ベッドメーキング等)なら、時間当たりで地域最低賃金より100 円以上高い800円も出せば人は集まるだろう、と考えていたのかもしれません。 それが850円になり、いつの間にか900円を超え1000円になっても予定人員に 届かず、遂に、当初の開業予定日を先送りせざるを得ない事態に追い込まれたの です。●一般的に生産ラインで問題となるゴールの理論(例えば、最終段階の梱 包作業・出荷作業が手違いやミス、人手不足等の要因で滞った場合、ライン全体 が川上に向かって次々に停滞し、生産性を大幅に低下させる)が、ホテル業でも 見事に当てはまってしまったケースです。施設・設備は調度類も含め、とうに準備 を終え、早々に確保したフロントや客室係、調理場担当等のメイン業務を担うメン バーには研修やシミュレーションを重ねる等、大方の態勢は着々と整えていた筈 ですから、まさかベッドメーキング要員不足で出鼻をくじかれ、開業そのものが大 幅に遅延する事になろうとは、思ってもみなかったでしょう。しかもこの間、売り上 げが立たないにも拘わらず、費用だけは発生する(使用者の都合による休業状態 となる為、従業員への60%以上の休業手当の支払い義務が生ずる一方、材料資 材の納入業者に対する違約金や損害賠償措置も講じなければならない)のです。 ●前述の北陸の件とも重なる、事業計画そのものを見直さなければならない程の 誤算-大本にあるのは「人口減少」という量的問題ですが、その引き金を引いた のは、新自由主義派による誤った社会・経済政策だという点を、見落としてはなら ないと思います。全47都道府県の内、人口流出が流入を上回ったのは何と39府 県に及び、流出先一番手の東京でさえ、新卒採用もままならない郊外のS信金で は、行員による集金業務等の戸別訪問を全面的に撤廃。統合合併で生き残りを かけた地方BKでも、預金量は積み上がるも資金需要が圧倒的に足りない状態 (預貸率の低下)を打開すべく、遂にはリスキーな借り手にも30年ローンの貸付に 踏み切る等、「地域格差」「所得格差」に苦しむ事態は益々拡大しているのです。 ●リタイア後にやって来る沖縄移住者は増えているとしても、地元に中核産業を育 ててこないまま、今更「地方創生」等というスローガンをぶち上げてみても、サトウ キビ栽培や漁業の将来に見切りをつけた若手は、既に上京してしまっていた筈。 ハイアットの苦戦は、謂わば、地方と中央のみならず都区部と郊外でも広がる、自 由競争至上主義が産んだ格差による官製苦戦そのもの-かも知れません。
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