中国の移転価格文書化ルール改正案とBEPS13 の比較

2016 年 3 月
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国際税務ニュースレター
今回のテーマ: 中国の移転価格文書化ルール改正案と BEPS13 の比較
平成 28 年度税制大綱では OECD の BEPS プロジェクトの行動計画に対応して示された勧告を踏まえ、
移転価格税制に係る文書化の措置を講ずることとされました。一方、中国では既に昨年 9 月に国家税務
総局(以下「SAT」という)が国税[2009]2 号の修正版の意見募集稿(以下「新 2 号文」)を公開してい
ます。新 2 号文では BEPS プロジェクトの成果が織り込まれ、文書化に関するルールが大幅に改定され
ました。
新 2 号文で求められる文書化の概要
新 2 号文では主体文書、現地文書、特殊事項文書を同期文書と定め、納税者にその準備と保存を求め
ています。主体文書と現地文書は、それぞれ BEPS Action 13 で定められたマスターファイル、ローカル
ファイルに対応します。
特殊事項文書は、中国特有の文書です。関連者と役務提供取引を行っている企業、コストシェアリン
グ協議を執行している企業、過少資本関連規定に違反している企業に準備義務を負わせるものです。
以上の同期文書は、関連取引が行われた年度の翌年 5 月 31 日までに準備し、当局に要求された日か
ら 20 日以内に提出しなければなりません。
また、BEPS Action 13 の CBC レポート(国別報告書)は、新 2 号文においては、申告書の添付資料で
ある「中華人民共和国企業年度関連業務往来報告表」(以下「国別報告表」)の「国別報告表」として
位置づけられています。国別報告表は前会計年度の連結収入金額が 50 億元を超える多国籍企業グルー
プの最終支配企業(企業グループの最終的な親事業体である中国企業)もしくは、多国籍企業グループ
から報告者として指名された中国企業に提出義務を負わせており、BEPS Action 13 の CBC レポートのル
ールと同様の規定となっています。以下は、各同期文書の概要です。
1. 主体文書
グループのグローバル業務の全体的な状況を開示します。組織構成、業務状況、無形資産、融資計画、
財務と税務の状況の記載を求めており、BEPS Action 13 のマスターファイルの記載事項と概ね一致して
います。開示対象にパートナーシップや PE を含めている点や、機能・リスク・資産の記載に加え、貢
献に関する記載を求めている点に注意を要します。
2. 現地文書
現地企業の関連取引の詳細情報を開示します。記載事項は企業状況、関連関係、関連取引、比較可能
性分析、移転価格算定方法の選択と使用状況ですが、その細目は多岐にわたり、バリューチェーン分析、
対外投資情報、持分譲渡情報など BEPS Action 13 のローカルファイルに比べ大幅に拡充されたものとな
っています。
バリューチェーン分析では、グループにおける業務・物流・資金のフローとその参加者の情報、グル
ープ利益のバリューチェーンにおける分配原則とその結果の記載を求めています。また持分譲渡に関し
ては、財務調査報告書や資産評価報告書、価格決定方法の情報提供が求められます。
移転価格算定方法の選択と使用では、企業が選択した移転価格算定方法とは無関係に、グループ全体
の利益状況あるいは残余利益への貢献を説明しなければなりません。
これら拡充項目からは、TNMM に依存した執行からの脱却を試みている当局の姿勢が見て取れ、
TNMM が最適法と認められないケースが増えてくるかもしれません。
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3. 特殊事項文書
BEPS Action 13 では求められていないため、中国進出企業は固有の取組が必要です。多くの企業が、
関連者と役務取引を行っている現状においては、実務的影響は大きいと言えます。契約書、役務内容、
支払額、受益状況、原価集計と計算方法、価格算定方法、内部コンパラブルの有無の記載が求められ、
特に、原価集計は役務対価の検証に直結するものであるため、その記載には慎重な検討を要します。
集計した原価はグループメンバーに配分する必要が有りますが、配分計算の方法は、グループのメン
バー間で平仄の整っていなければ、一部のメンバーに移転価格リスクが集中することとなります。役務
対価の計算方法はグループの移転価格ポリシーとして定めることが実務的です。
お見逃しなく!
・同期文書は中国語で作成しなければなりません。
・新 2 号文では、棚卸資産 2 億元以上、棚卸資産取引以外 4000 万元以上の関連取引を行う企業に同期
文書化義務を負わせる現行の基準を維持しています。平成 28 年度税制大綱は、マスターファイル
(事業概況報告事項)の提供義務を連結収入金額 1000 億円未満の企業グループに対して免除すると
しています。わが国において作成を免除される企業グループにおいても中国における主体文書作成
の要否を別途確認する必要が有ります。
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