ダウンロード - 国際ロータリー第2630地区

2013-14年度 ロータリー財団奨学生
留学生活のご報告
~Harvard公衆衛生大学院留学からみえてきた
臨床研究をめぐる我が国の現状と今後の課題~
2013-2014 Rotary International Global Grant Scholar
国立循環器病研究センター
先進医療・治験推進部/脳血管内科
福田 真弓
Mayumi Fukuda, MD. MPH.
自己紹介
• 福田 真弓
• 2005年 千葉大学医学部卒業
• 2005年-2008年 亀田メディカルセンター(千葉県)に
て臨床研修
• 2008年-2013年 国立循環器病研究センター
脳血管内科(脳卒中診療)
• 2013年-2014年 ロータリー財団奨学生としてハー
バード公衆衛生大学院(HSPH)修士課程に留学
留学を志したきっかけ
• 医学部卒業時
卒後臨床研修必修化2年目(研究<臨床指向)
• 研修医時代
- 米国帰りの指導医陣,常勤の米国人指導医から
EBM(Evidence based medicine:科学的根拠に基づく
医療)の重要性について学ぶ
- エビデンスを“利用する”立場
• 国立循環器病研究センター時代
脳血管内科の研修の傍ら、臨床研究も
すこしずつ実践することに(エビデンスを作る側?)
→でも、臨床研究って何?どうやるの??
臨床研究とは
• 病気の予防や診断、治療法の改善や、病気の原因を
明らかにする等のために、人を対象として行われる
研究全般
• 新しい医薬品や医療機器、再生医療等の安全性や
有効性を判定し、薬事法に基づく医薬品・医療機器
の承認を得るために実施される研究(治験・臨床試
験)も含まれる.
• 近年のEBMの広まりとともに、質の高い「エビデンス」
を提供する臨床研究の重要性が高くなった.
現代の臨床研究の例(アルテプラーゼ)
現代の臨床研究の例(アルテプラーゼ)
質の高い研究結果が、脳卒中の治療を一変させた
(医師1年目のできごと).
日本の臨床研究の現状
日本における臨床研究(他国との比較)
福井次矢 学術の動向 2006
臨床系トップジャーナ
ルへの掲載論文数の
国別割合
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American Journal of Medicine
Annals of Internal Medicine
Archives of Internal Medicine
BMJ
JAMA
Lancet
NEJM
基礎系雑誌への採択論文数(日本人)
1991-2000 vs 2001-2010
臨床系雑誌への採択論文数(日本人)
1991-2000 vs 2001-2010
なぜ日本では臨床研究が
育たなかったのか?
• 基礎研究を重視する風潮
• 臨床研究へのインセンティブ
• 体系的な教育システムの欠如
• 研究者を支える支援体制の不足
(福井次矢学術の動向 2006 より引用、一部改変)
臨床研究の教育システム(日本)
• 臨床研究の研究者には臨床疫学や生物統計
学の専門的知識が求められる。
• 日本の医学部の講義で医療統計や疫学を学
ぶ機会は少ない。
• 各研究者が独学であったり、セミナーや講演
会で散発的に学ぶことが多く、体系的に学ぶ
機会はこれまで殆どなかった。
欧米の教育システム
公衆衛生大学院(SPH)
• 「組織された地域社会の努力を通して、疾病を予防し、生命
を延長し、身体的、精神的機能の増進をはかる科学であり
技術(WHO)」である公衆衛生学の大学院
• 欧米では、20世紀初頭から公衆衛生大学院教育が制度化
(日本では2000年に我が国初のSPHが京大に誕生)
• 現在、米国ではおよそ 45 のSPHに、約 11,000 人が入学し
ている(2010年のデータ)
• 入学者は医師、歯科医師、薬剤師、看護師などの医療職に
限らず、法律、経営、メディア、心理など多様な職種から構
成。指導的な役割を果たす公衆衛生専門家を養成
• 入学者の15%は海外からの留学生
公衆衛生大学院で学べること
• 米国Council for Education in Public Health が
定める公衆衛生大学院に必須の部門
疫学
医療統計学
医療政策学
行動科学
環境医学
臨床研究に必要なスキルを習得する機会を提供
→米国公衆衛生大学院への留学を志すことに
留学までの道のり
2012年5月 留学を決意し、職場の上司や同僚らに相談
2012年7月 受験勉強(TOEFL, GRE)や受験書類作成の傍
ら、奨学金についても調査開始
(学費は約600万円/年間)
ロータリー財団が次年度から“未来の夢計画”
という新事業を開始することをWeb上で発見
2012年10月 ロータリー財団奨学生へ応募、面接
→第2660地区の奨学生候補として内定
2013年3月 ハーバード公衆衛生大学院より合格通知
2014年5月22日 ロータリー財団奨学生として正式に採用
2014年6月24日 渡米
2014年7月1日 授業開始
Harvard School of Public Health
• 1913年に米国初(諸説あり)のSPHである
Harvard-MIT School of Health Officersとして設
立(私の在籍した2013年は百周年記念の年
だった)
• Harvard内部で学際的・組織間的協力
• 2015年,$350 millionの寄付を記念し改名
Harvard School of Public Health
• Dr Singerのスライドを利用
Clinical Effectivenessコース
• 研究に従事する医師を対象に開発されたプログラム
• 疫学、生物統計学、その他関連分野でのスキル研修
(試験、宿題、統計ソフトプログラミング研修)
• 研究計画書、助成金申請書の作成と連動
• テーマを決めて自主研究を実践、発表することが卒
業要件
以前はハーバード総合内科研究奨励制度の一部として、関
連病院で研究に従事する特別研究員や教授陣に限定して
いたが、ハーバード公衆衛生大学院の正式カリキュラムとし
て、広く門戸を開放
自主研究
苦労したこと
• 英語でのコースワーク
特に専門分野外(倫理学など)の授業での
ディスカッション→Teaching Assistantによる補講
の利用、教授に補習授業を依頼
• 年間を通じての臨床研究の実施、発表
テーマきめ、データ集めから自分で行わなくて
はならない 留学生には厳しいシステムかも
• 国循の残務(研究のデータ整理、再解析など)
を行いながらの学生生活
Rotaryの皆様に助けていただきました
• 月1回の受け入れ側ホストクラブの例会で現状
の報告・相談
• アドバイザーのMs. Ryn Miake-Lyeの親身な
フォローアップ
賃貸物件下見 食事会 日本食買い物ツアー
関連分野研究者への紹介、ミーティングに参加
• 日本のロータリアンの皆様からの励ましメール
• ロータリー2660地区北埜登ロータリアンの
ボストン訪問
2014年5月卒業
MPH(公衆衛生学修士号)取得
今後の臨床研究の課題
2013-2014 メディアに取り上げられた
臨床研究関連の不祥事
今後の課題
• 疫学・生物統計専門家やリサーチアシスタン
トなどの研究支援体制の充実
• 時代背景に応じた倫理的規範の整備と研究
者の教育の必要性
• 日本の国民性や医療制度に合わせたわが国
独自の臨床研究の実現
日本発の質の高いエビデンスを世界へ発信で
きる体制の整備が急務
研究基盤開発センター
循環器病疾患の克服に貢献し、これに関わる医療
政策を確実に実施する拠点機関としての効率的・
効果的な運用を目指す。
・臨床研究と疫学調査の推進
・知的資産の活用
・情報基盤整備と研究企画策定
・基礎から臨床への橋渡し的研究の基盤整備
医薬品・医療機器、マルチメディア教材などをワン
ストップで製品化できる拠点化形成を目指す
国立循環器病研究センター
基盤開発センター
先進医療・治験推進部
• 治験及び自主臨床研究の計画段階から実施、
最終解析に至る全過程を支援
• 被験者保護と試験の品質保持活動
• 臨床研究を実施する研究者の教育および支援
今後、HSPHで学んだ経験を生かし、臨床研究の
支援・教育体制の整備に貢献したいと考えている
ロータリー財団奨学生でよかった点
• 金銭的サポート
留学生活はとにかくお金がかかる!
→学費+αの援助をいただくことで勉学に集中できた
これまでの医師の留学は医局派遣の形での基礎研究留学が
メイン(各学会に奨学金プログラムあり).臨床研究分野での大
学院留学に奨学金・研究費を出す学会・企業はほとんど(全く)
ない!
• 手厚い人的サポート
• ロータリーの重点分野奨学生という誇りと使命感
モチベーションの維持
• ロータリアンの皆さんの幅広いネットワークを生かし
た人的交流
結びにかえて
• 近年、日本の留学生数減少が指摘されているが、潜在的な留学
希望者はかなりいる、という印象
• 特に、専門分野でのリーダー育成を目的とする専門職系大学院
(SPHもその一つ)への入学希望者(社会人)は少なくない
• 会社や官公庁派遣の学生も多いが、自費留学 を余儀なくされる
人にとっては、学費や生活費の高さは大きなハードル
• 医師に限っていえば、SPH入学に興味を持つ人も多く、SPHで学
ぶ意義も高まっているが、利用できる奨学金制度は基礎系研究
留学と比べると非常に限られてくる.
ロータリー財団奨学金は未来の日本(世界)を支えるリー
ダーを育成していく上でも重要な意味を持つと思われます.
今後もぜひこの制度を継続し、多くの留学生たちにご支援
をお願いします.
ご清聴ありがとうございました!