調剤と情報:Rx Info 第21巻 第12号 平成27年10月1日発行(毎月1日発行)平成7年6月19日 第三種郵便物認可 ISSN 1341-5212 10 2015 2 015 0 15 1 5 Voll.2 Vol.21 21 N No.12 o.1 12 特集 がん患者でみられる 副作用 好中球減少・FN 悪心・嘔吐 皮膚障害 浮腫 末梢神経障害 貧血 下痢 倦怠感 高血圧 口内炎 便秘 脱毛 食欲不振 処方監査や疑義照会で検査値を使いこなす 薬剤性腎障害を早期に発見するために 必要な検査 薬剤師によるケアロードマップ 外来がん化学療法ケアロードマップ 新薬くろ∼ずあっぷ タケキャブ錠10mg, 20mg 処方・調剤・保険請求のQ&A 10 0 特集 がん患者でみられる 副作用 2015 Vol.21 No.12 CO NT E NTS 12 好中球減少・FN 渡部 大介 16 18 20 24 28 30 皮膚障害 野村 久祥 末梢神経障害 川上 和宜 下痢 佐野 陽子,鮎原 秀明 高血圧 大里 洋一 便秘 高山 慎司 食欲不振 和田 紀子,清水 久範 32 36 38 40 42 44 悪心・嘔吐 深谷 寛 浮腫 葉山 達也 貧血 中村 勝之 倦怠感 鶴川 百合,輪湖 哲也 口内炎 田中 弘人,輪湖 哲也 脱毛 久保村 優,輪湖 哲也 今月の話題 9 骨太の方針・日本再興戦略・規制改革実施計画 日本薬剤師会 59 処方・調剤・保険請求の Q&A 日本薬剤師会 日本薬剤師会監修の頁 聞いて納得! 薬剤師注目の急上昇ワード⑧ 49 アルコールによる臓器障害 新薬くろ∼ずあっぷ175 池嶋 健一 115 タケキャブ錠 10mg,20mg 吉田 奈央,笠原 英城 処方監査や疑義照会で検査値を使いこなす⑬ 75 ギモンを解決! 気になる薬の Q&A ⑦ 薬剤性腎障害を早期に 発見するために必要な検査 123 上田 覚,三宅 健文 皮膚とくすりQ&A ③ 83 小児・高齢者への貼付剤の使用 医薬品適正使用のための 症例からみたファーマシューティカルアセスメント⑤ めまい (目の前が暗くなる)―前編― 田中 尚美,堀 美智子 Report 大井 一弥 87 ブリンゾラミド懸濁性点眼液 3 愛媛大病院と薬局で プレアボイド事例を共有・活用 114 認知症研修認定薬剤師制度で 集合研修を初開催 立野 朋志,尾上 洋 一歩上をいく! エキスパートの仕事⑤ 92 シャント音の変化に気付き 閉塞を回避 Book Review 薬剤師によるケアロードマップ ―計画的・継続的ケア支援ツール―⑬(完) 95 外来がん化学療法 ケアロードマップ 竹内 里哉,早川 達 がん患者の精神症状はこう診る向精神薬はこう使う 68 Rx news 70,72 ときのことば 133 薬局ヒヤリ・ハットなくし隊がゆく 61 107 63 疑義照会の様子で処方ミスを 知った患者が医師に不信感を! 澤田 康文 66 日本薬剤師研修センターだより 次号予告 144 『調剤と情報』ご愛読者アンケート&プレゼント 以外は,じほう編集の頁 特集 がん患者でみられる 副作用 外来がん治療の進展により,従来は入院中に病院で行 われていたケアが薬局に期待されています。今後はます ます,がん治療の副作用にうまく対応し,患者の治療に 対するモチベーションを維持することができる薬局・薬 剤師が求められていくと考えられます。 本特集では,がん患者でみられる副作用について,その 症状や薬局で行うべき指導のポイントについて解説します。 ■ 好中球減少・FN …12 ■ 悪心・嘔吐 …………32 ■ 皮膚障害 ……………16 ■ 浮腫 …………………36 ■ 末梢神経障害 ……18 ■ 貧血 …………………38 ■ 下痢 …………………20 ■ 倦怠感 ………………40 ■ 高血圧 ………………24 ■ 口内炎 ………………42 ■ 便秘 …………………28 ■ 脱毛 …………………44 ■ 食欲不振 ……………30 各稿の参考文献は 46,47 頁に掲載 がん患者でみられる副作用 特集 ■ 下痢 症状 東京医科大学病院薬剤部 佐野 特に注意すべき抗がん剤 陽子,鮎原 秀明 が,大量投与による麻痺性イレウス の発現には注意が必要となる。また, 下痢とは,「便中の水分含量が増 イリノテカン,シタラビン,ドセ 症状の改善がみられない場合は感染 加して,排便量の増加(1 日 200g 以 タキセル,フッ化ピリミジン系薬剤 性の下痢を疑う必要があり,抗菌薬 上または水 分 量で 200mL 以 上 )を などの殺細胞性抗がん剤や分子標的 の投与も考慮する。 伴っ た状 態」と定義され,CTCAE 治療薬で注意が必要となる(表 1) 。 オクトレオチド酢酸塩は Grade3 以 Ver.4 では「頻回で水様の便」とされ ている。 がん化学療法に伴う下痢は,症状 上の下 痢に対し推 奨されているが, 支持療法に用いられる 薬剤 わが国における保険適用がないこと に注意する。 の持 続や重 篤 化により脱 水・ 腎 不 全・電解質異常を生じ,好中球減少 症による感染症の合併により敗血症 指導のポイント 下痢に対し使用される薬剤を,表 2 に示す。 へ至るケースもある。下痢は患者の ASCO ガイドラインによると,随 QOL への影響が大きい副作用のひと 伴症状を伴わない軽度の下痢に対し, つと考えられ,十分な対応が必要と ロペラミドの投与が推奨されている 1.事前確認事項 CTCAE Ver.4(表 3)を用いて症状 を評価し,合併症の有無をアセスメ なる。 機序 CE:カルボキシエステラーゼ UGT1A1:UDP- グルクロン酸転移酵素 肝臓 コリン作動性作用による腸管蠕動亢 進で生じる下痢,腸管粘膜の障害に起 因する下痢が考えられている。 CE イリノテカン 1.コリン作動性 UGT1A1 SN-38 SN-38G (活性本体) (解毒化) 抗がん剤によるコリン作動性作用 (胆汁排泄) により腸管蠕動が亢進され下痢が生 腸管粘膜障害 じる。 早 発 型は投 与 直 後から発 現 腸管循環 し,症状の多くは一過性である。 β- グルクロニダーゼ SN-38G 2.腸管粘膜障害 腸管粘膜は分裂・増殖の速度が速 糞中排泄 く,抗がん剤や放射線による影響を 腸管 受けやすい。抗がん剤や代謝物が腸 UGT1A1 の活性が薬剤により阻害されると,SN-38 のグルクロン酸抱合率が低 下し SN-38 の排泄が遅れるため,副作用の発現リスクが高まる(例:アタザナ ビル硫酸塩の併用は禁忌) 。 管粘膜を傷害することにより下痢が 生じる(図 1)。遅発型は投与 24 時間 UGT1A1 には遺伝子多型が存在し UGT1A1 * 6 もしくは UGT1A1 * 28 をもつ 患者では SN-38G の生成能力が低下し,SN-38 の代謝が遅延する。このため 事前に遺伝子検査を行うことが望ましい場合もある。 以降に発現し,持続する場合がある。 対症療法が主となる。 図1 20 (1622) SN-38 調剤と情報 2015.10(Vol.21 No.12) イリノテカンによる下痢の発現機序 特集 がん患者でみられる副作用 ■便 秘 症状 聖路加国際病院薬剤部 高山 表1 便秘とは,排便回数が減少し,排 便コントールを自身で行うことが困 慎司 便秘を起こしやすい抗がん剤 ビンカアルカロイド系薬剤 ビンクリスチン,ビンブラスチン,ビンデシン,ビノレルビン タキサン系薬剤 パクリタキセル,ドセタキセル 難な状態である。定義としては各学 会などにより複数あるが,国際的診 断 基 準である Rome Ⅲにおいては, 排便回数の減少のほか,残便感,硬 【内服薬】 便,排便困難などの症状を組み合わ 今回使用する薬剤は吐き気がでたり便秘になる可能性があるので、 点滴終了後に薬を服用してください。 せて診断される 1,2)。 *食事を摂らなくても必ず服用してください 便秘は,抗がん剤治療において誘 発される副作用として,嘔気・嘔吐 イメンド 80mg(カプセル) や下痢とともに,比較的起こりやす 点滴した翌日から2日間 1日1回 朝食後 1回1カプセ ルを服用してください。(化学療法による吐き気を強 力に抑えます。 ) い症状の一つである。便秘が長期化 すると,便が硬化することでさらな る便秘を引き起こし,嘔気症状など デカドロン錠 4mg(五角形) も呈することがある。 したがっ て, 点滴した翌日から3日間 1日2 回 朝・昼食後 1回1錠 を服用してください。 (化学療法による吐き気を抑えます。 ) 患者の QOL を維持するために慢性的 な便秘を予防しながら,がん化学療 マーズレン S 配合顆粒 0.5g 法を行うことが重要である。 点滴した翌日から3日間 1日2 回 朝・昼食後 1回1包 を服用してください。 (デカドロンを服用すると胃へ負担がかかる場合がある ので、それを軽減するために服用します。 ) 機序 一般的に便秘は,機能性便秘と器 ピコスルファートナトリウム内用液 0.75% 点滴をした当日から5日間 就寝時1回10∼15滴をコッ プ一杯の水に薄めて服用してください。排便状況をみ て、滴下数を調整してください。 質性便秘に分けられる。前者は大腸 の蠕動運動異常などが原因で起こり, 後者は大腸自体の器質的異常(腸の 狭窄や異形,炎症など) が原因となる。 がん治療で出現する便秘には複数 図1 の要因がある。例えば,抗がん剤自 内服薬を説明するパンフレット 体による直接的な腸管運動の抑制, 嘔気や倦怠感などによる食事摂取量 の低下や運動量低下による間接的な 特に注意すべき抗がん剤 やすい薬剤であり,これにより自律 便秘,セロトニン拮抗薬などの制吐 薬による便秘,ペインコントロール 便秘を起こしやすい主な抗がん剤 でオピオイド製剤使用に伴う便秘な としては,ビンカアルカロイドやタキ どが挙げられる。 サン系薬剤が挙げられる(表 1) 。こ 28 (1630) れらの薬剤は末梢神経障害を誘発し 調剤と情報 2015.10(Vol.21 No.12) 神経障害を引き起こし,腸管の蠕動 運動を低下させ便秘を発症する 3)。 例えばビンクリスチンの場合には 薬剤性腎障害を早期に発見するために必要な検査 「処方監査や疑義照会で検査値を使いこなす」 第 13 回 薬剤性腎障害を 早期に発見するために必要な検査 医学研究所 北野病院薬剤部 上田 覚 三宅 健文 西陣病院薬剤部・医薬品情報室 はじめに 臨床検査値をチェック! 薬剤性腎障害を引き起こす薬剤は非ステロイド性抗炎 症薬(NSAIDs) ,抗菌薬,抗がん剤など数多く存在し, 急性腎障害(Acute Kidney Injury;AKI)の 20%は薬剤 性であるともいわれている。また,薬剤ごとの薬剤性腎 血清クレアチニン値(SCr 値) (基準値: [男性]0.65 ∼ 1.07mg/dL, [女性] 0.46 ∼ 0.79mg/dL) クレアチニン(Creatinine;Cr)は,筋肉運動のエネル ギー源となるアミノ酸の一種であるクレアチンが代謝さ 障害の割合は図 1 の通りである。 本稿では,薬剤による急性腎障害の早期発見のための 検査値や患者インタビューのポイントを解説する。 れてできた物質である。健康であれば,血液中の Cr は糸 球体で濾過され,尿細管ではほとんど再吸収されずに尿 中に排出される。腎臓の機能が障害されていると,尿中 に排 泄される量が減 少し,SCr 値が増 加する。 つまり, SCr 値の増加は糸球体の濾過機能が低下していることを 〈死亡例〉 〈非死亡例〉 その他 8% 消化性潰瘍治療薬 5% 抗てんかん薬 5% 高脂血症治療薬 5% その他 18% 消化性潰瘍治療薬 8% 抗生物質 25% 降圧薬 22% 高脂血症治療薬 8% 高尿酸血症治療薬 8% 抗生物質 15% NSAIDs 8% 漢方薬 23% NSAIDs 15% 降圧薬 15% 手術用注射薬 12% (医薬品調整機構委託事業「薬剤による副作用の発生防止に関する検討」研究班,2002 年∼ 2003 年) 〔柴崎敏昭:医学のあゆみ 215(6): 489, 2005 より〕 図 1 薬剤性腎障害の原因薬剤 調剤と情報 2015.10(Vol.21 No.12) 75 (1677) とく すり 膚 皮 第3回 Q&A Q A 小児・高齢者への 貼付剤の使用 鈴鹿医療科学大学薬学部臨床薬理学研究室教授 大井 一弥 子どもに貼付剤を使用するときの注意点はありますか? お子さんは大人に比べ皮膚が未発達ですので,貼付剤を貼付する際には,皮膚トラブルを起こさないよ うにスキンケアをうまく取り入れてください。また,貼付部位なども変えてくださいね。 解 説 本剤を無理矢理はがす可能性のある小児には,手の届か 小児は貼付剤を自分で貼れないことが多いため,貼付 ない部位に貼付するよう留意すべきである。 してくれるキーパーソンが誰かを確認する必要がある。 一般的に,小児の皮膚は成人に比べ薄くて軟らかく, 小児に使用するテープ剤として代表的なのはツロブテ 特に新生児や幼児は構造的にも未発達で,皮脂も少なく ロールテープ剤(ホクナリンテープ)である。本剤の使用 角質バリア機能が未完成である。角層のバリア機能は,外 目的は,小児気管支喘息の気道閉塞性障害に基づく呼吸 界からの細菌などの侵入を防ぎ,体内からの水分喪失を 困難など諸症状の緩解で,対象は気管支喘息や急性気管 防ぐ役割を担い,生命維持に関わる重要な機能といえる。 支炎,慢性気管支炎,肺気腫の患者となる。また,小児 多くの小児は皮膚を自ら洗う習慣がないため,保護者 気管支喘息の重要な治療薬として位置付けられている。 らが気がついたときに汚れを落とす程度である。また, 0.5mg,1mg,2mg の 3 規 格があるため, 小 児における 小児は遊ぶ機会が多く,角層に傷をつけてしまう機会も 貼付では規格を間違えないように注意する必要がある。 多いが,その際,皮膚が乾燥していると感染しやすい。 ツロブテロールは,重症小児気管支喘息患児に対する そのため,どのような刺激に対しても耐えられるような 使用において,ステロイド薬との併用により,吸入ステ スキンケアが重要といえる。 ロイド薬増量よりも肺機能および喘息症状を有意に改善 させ,長期管理薬としての有用性が高いことが示されて いる。さらに,2 週間の連続投与において気道過敏性に コラム ツロブテロールテープ剤の特徴 影響を与えなかったことから,吸入ステロイド薬に併用 ツロブテロー ルテー プ剤は, 膏 体 内にツロブテ する長期管理薬としての有用性も示唆されている。 ロールの結晶と分子が含まれており,分子型のツロ このように,ツロブテロールは治療の早期に投与し, ブテロールが皮膚に移行すると,結晶が溶出して分 さらには内服薬や吸入薬を併用することによって高い治 子型を補うことによって,膏体中の分子の濃度が保 療効果が認められる。 たれる仕組みになっています(結晶レジボアシステ 貼付剤使用時の注意点 貼付部位の皮膚を清潔にしてから本剤を貼付すること, そして皮膚刺激を避けるため,胸,上腕,背中の適正な 貼付部位を探索し,ローテーションすることが望ましい。 ム)。このシステムによって血中濃度が長時間一定 に保たれ,8 ∼ 12 時間後に最高血中濃度になるよ うに設計されており,明け方の発作を抑制すること が可能な剤形になっています。 調剤と情報 2015.10(Vol.21 No.12) 83 (1685) 薬剤師によるケアロードマップ 外来がん化学療法ケアロードマップ ─ 計画的・継続的ケア支援ツール ─ 13(完) 外来がん化学療法ケアロードマップ 砂川市立病院薬剤部 竹内 里哉 達 北海道薬科大学薬物治療学分野 早川 2014 年 6 月施行の改正薬事法および薬剤師法では,薬剤師は「患者またはその看護に当たっている者に対し,必要な薬 学的知見に基づく指導を行わなければならない」 (下線筆者)とされた。処方せんに基づく情報提供義務から,服用後の有効 性・安全性確保までの管理・指導義務を求められたのは大きなパラダイムシフトである。しかし,服薬指導に必要な情報は 数多くあるが,それらの情報をどのタイミングでどのように利用するかの観点で述べたものは少ない。そこで,本連載は薬局 薬剤師が継続的に患者ケア(情報収集,指導,確認)をするための時間軸を取り入れた「ケアロードマップ」を疾患ごとに提示 し,それを解説するものである。 これは,薬剤師の日常業務に少しだけ計画性と継続性をもたせて指導と確認を行うことによって,患者ケアの向上に役立 ててもらうことを趣旨としている。これから治療を開始する初回来局の患者には, 「外来がん化学療法ケアロードマップ」に 従って,各種情報,製薬企業提供の資材・支援ツールなどを利用しながら,できる範囲で時系列的に指導・確認を継続して いただきたい。経過途中の患者であってもケアの要素は一緒である。この場合も適宜指導・確認をしていっていただきたい。 その結果として,6 カ月後ないしは 1 年後の患者コンプライアンスの向上と良好な臨床効果が得られることを期待する。 ぜひ,日常業務に少しだけ「患者を思う気持ち」を加えて, 「外来がん化学療法ケア」に参画する薬剤師の 1 人となっていた だきたい。患者のために! 私たちの未来のために! 外来がん化学療法の現状 が,HER2 陽性胃がんに対しては XP + Tmab(トラスツ ズマブ)3 剤併用療法,S-1 + CDDP + Tmab3 剤併用療 厚生労働省が公表した 2013 年人口動態調査における死 法が選択される。 因順位別死亡数は,第 1 位が悪性腫瘍(36.5 万人) ,第 2 位 また,術後補助化学療法として S-1(ティーエスワン) が心疾患(19.7 万人) ,第 3 位が肺炎(12.3 万人)と,依然 単独療法が選択肢に挙がる。S-1 は胃がん,結腸・直腸 1) として悪性腫瘍が 1 位を占める 。 がん,頭頸部がん,非小細胞肺がん,手術不能または再 胃がんは,2013 年におけるがんによる死亡の第 2 位であ 発乳がん,膵がん,胆道がんに適応のある経口フッ化ピ る。胃がんは早期胃がんと進行胃がんに分類される。胃 リミジン系抗悪性腫瘍薬である。 がんにおけるがん化学療法の適応は切除不能進行・再発 症例,非治癒切除例であり,その目的は生存期間の延長 2.抗悪性腫瘍薬使用時の薬剤師の役割 と臨床症状発現の遅延である。国内外の臨床試験の治療 抗悪性腫瘍薬は有害事象のコントロールが必須となる 成績から,生存期間の中央値は 6 ∼ 13 カ月となっている。 ため,有害事象のモニタリングとその早期対応が重要で ある。副作用の発現は Quality of Life(QOL)の低下や服 1.胃がんに対する化学療法の選択 薬アドヒアランスの低下,ひいては治療失敗のリスクに 胃がんの切除不能進行・再発症例における一次治療 つながる。S-1 は 1 年間の継続服用により,服用 5 年後に の選 択 肢は human epidermal growth factor receptor おけるがんの再発率を 100 人中 47 人から 100 人中 35 人に (HER2)検査の結果で異なる。HER2 陰性胃がんに対し 低下させるという報告がある(図 1) 。 ては S-1(テガフール / ギメラシル / オテラシルカリウム) われわれ薬剤師の役割は,副作用のモニタリングと服 + CDDP(シスプラチン)併用療法,XP(カペシタビン+ 薬アドヒアランスの維持を念頭においた服薬指導を行い, CDDP)併用療法,S 1 + Doc(ドセタキセル)併用療法 最終評価時期である服薬開始 1 年後までの完遂を可能な - 調剤と情報 2015.10(Vol.21 No.12) 95 (1697) 薬剤師によるケアロードマップ ─ 計画的・継続的ケア支援ツール ─ 13(完) 初回 2 回目… 3 カ月以降(X 回目) 補助ツール ・TS-1 服用のてびき ・TS-1 服用のてびき ・TS-1 服用のてびき ・TS-1 服薬記録 ・TS-1 服薬記録(持参) ・TS-1 服薬記録(持参) 治療意義 再指導 ・TS 1 適正使用ガイド - 治療法の説明 3 パンフレット利用 ・胃がん術後補助 ・治療スケジュール ・服用方法 ・注意事項 ・定期的な受診 化学療法とは ・治療法について S-1 とは 治療効果 6 ・服用方法 ・治療スケジュール ・注意事項 ・副作用と対処法 2 ・術後後遺症 (診察・血液検査) ・副作用と対処法 ・術後後遺症 ・術後の食生活 指導項目 ・治療法の説明 ・治療意義の説明 ・服用上の注意 ・リスク回避 7 病識・薬識総合的指導 10 4 ・副作用と対処法 ・病識・薬識総合指導 (食生活・食事量,副作用 に対するセルフケアなど) 相互作用(併用禁忌) ・相互作用(併用禁忌) フッ化ピリミジン系薬剤 ・服用方法 ・副作用と対処法 ・術後の食生活 ・アドヒアランス (飲み忘れ,休薬など) ・副作用管理 7 ・食生活 1 ■ 術後補助化学療法 医師からの説明内容 ・告知の有無 ・治療法,服用方法 4 ■ 前治療の残薬確認 確認項目 ・フッ化ピリミジン系薬剤 ・S-1 2 ■ 全身状態の確認 (ダンピング症候群,摂食状 況など) ■ 全身状態の確認 ■ 全身状態の確認 ■ 副作用の有無 7 (食欲不振,口内炎,下痢, 発熱,発疹など) (服薬記録,残薬) (服薬記録,残薬) 8 8 (併用薬の確認) 外来がん化学療法ケアロードマップ(S-1 単独療法) 調剤と情報 2015.10(Vol.21 No.12) ■ 治療スケジュール ■ 治療効果 ■ 他科・他院の受診 優先度 ■:グレード 1 ■:グレード 2 ■:グレード 3 (1698) ■ アドヒアランス ■ 合併症・既往歴 ・腎障害の有無 ・併用薬の有無 併用注意薬 (ワルファリン,フェニトイン) 96 ■ 副作用の有無 ■ アドヒアランス ■ 治療スケジュール 5 ■ 術後補助化学療法の 治療意義の認識 (ダンピング症候群,摂食状 況など) 9 ■ 他科・他院の受診 ▶▶疑義照会の様子で処方ミスを知った患者が医師に不信感を! 薬局ヒヤリ・ハットなくし隊 がゆく 第 61 回 疑義照会の様子で処方ミスを 知った患者が医師に不信感を! 隊長 東京大学大学院薬学系研究科育薬学 澤田 康文 薬局,患者宅(在宅)において,医薬品が関係したインシデント・アクシデントの例は枚挙にいとまがありません。これら の原因として,薬剤師や医師などの医療従事者の薬学的知識,技能・技術と医療従事者としての態度の問題や,医療施設 における薬剤関係のシステムの問題などが考えられます。結果的に多種多様なトラブルが発生しています。その発生場面を 大きくカテゴリー分類すると,①処方設計・チェックと治療のチェック,②一般調剤業務,③患者への指導・説明―な どに分けることができます。今回も,これらカテゴリーにおいて発生した代表的事例を紹介しましょう。 ● ケース 1:プラザキサとワソランの併用処方で疑義照会! ● ケース 2:疑義照会の様子で処方ミスを知った患者が医師に不信感を! ● ケース 3:低血糖症状前の中枢神経症状発現を認識せず! ケース1 プラザキサとワソランの併用処方で疑義照会! ▶▶どのような経緯で起こった? プラザキサカプセルは, 通 常は 1 日 2 回 投 与であり, 発生場面は? 添付文書に頓用(本事例における詳細は不明)についての カテゴリー① 処方設計・チェックと治療のチェック 記載はないが,ダビガトランの薬物動態や薬理作用に影 響を及ぼす要因がなければ,1 回量の 150mg は妥当であ 処方内容は? 患者:60 歳代の男性,処方オーダリング / 印字出力, 循環器科 ると考えられる。しかし,ダビガトランは P- 糖蛋白質 (以下,P-gp)の基質であり,ベラパミルは P-gp を阻害 するため,相互作用の問題が生じ,両剤の併用によって 抗凝固作用が増強する恐れがある。 Rp.1 サンリズムカプセル 50mg 2Cap プラザキサカプセルの添付文書には,ベラパミルとの ワソラン錠 40mg 1 錠 併用について, 「併用によりダビガトランの血中濃度が上 プラザキサカプセル 75mg 2Cap 昇することがあるため,本剤 1 回 110mg 1 日 2 回投与を考 以上を発作時に一緒に頓服 全 3 回分 慮すること。また,本剤と同時にベラパミル塩酸塩の併 用を開始,もしくは本剤服用中に新たにベラパミル塩酸 *用法・用量は適応外である。 何が起こった? プラザキサカプセル(ダビガトランエテキシラートメ タンスルホン酸塩)とワソラン錠(ベラパミル塩酸塩) 塩の併用を開始する場合は,併用開始から 3 日間はベラ パミル塩酸塩服用の 2 時間以上前に本剤を服用させるこ と」との記載がある。 したがって,あえて両剤を併用するのであれば,プラ が併用処方されたが(Rp.1),ダビガトランの抗凝固作 ザキサカプセルの 1 回量を 110mg に減量し,ワソラン錠 用が増強する恐れがあるため疑義照会を行った結果, を最低 2 時間空けて服用するという選択肢も考えられる ワソラン錠がメインテート錠(ビソプロロールフマル酸 が,発作時に指示通り服用できるか懸念される。 塩)に変更となり,相互作用は回避された。 疑義照会し,プラザキサカプセルはワソラン錠との併 調剤と情報 2015.10(Vol.21 No.12) 107 (1709) タケキャブ錠 10mg,20mg(ボノプラザンフマル酸塩) 新薬くろ∼ずあっぷ 175 タケキャブ錠10mg,20mg (ボノプラザンフマル酸塩) 日本医科大学武蔵小杉病院薬剤部 吉田 奈央,笠原 英城 Point ◆ 海外よりも先に日本で承認された PPI である。 ◆ カリウムイオン競合型アシッドブロッカーという新たな作用機序の PPI である。 ◆ 従来の PPI よりも即効性があり,持続的な酸分泌抑制作用が期待される。 ◆ CYP3A4 阻害作用を有するヘリコバクター・ピロリの除菌に併用するクラリスロマイシンとの 相互作用がある。 ◆ 肝障害や発疹,下痢・便秘などの消化器症状,ヘリコバクター・ピロリ除菌における偽膜性大 腸炎などの副作用に注意が必要である。 特徴 応は取得していない(表 1)。また,逆流性食道炎の投与 期間は従来の PPI よりも短く通常は 4 週間,効果が不十 1.概要 1) 分な場合のみ 8 週間とされている。再発・再燃を繰り返 タケキャブ錠(ボノプラザンフマル酸塩;以下,本剤) は武田薬品工業が創製したカリウムイオン競合型アシッ ドブロッカー(Potassium Competitive Acid Blocker; - P-CAB)と呼ばれる新たな作用機序を有するプロトンポ ンプ阻害薬(以下,PPI)である。タケダの P-CAB(ピー キャブ)のためタケキャブと命名された。 す逆流性食道炎の維持療法においても一度 10mg へ減量 し,効果不十分な場合のみ 20mg へ増量可能であり,初 回投与で 20mg を 8 週間以上投与することはできない。 (2)効果発現時間 従来の PPI は内服開始から十分な酸分泌抑制力が得ら れるまでに時間を要し,最大薬効発現まで数日(5 日程度) 現在,日本で承認されている PPI は,1991 年にオメプ かかる 2)と報告されている。十二指腸潰瘍では pH3 以上を ラゾール,1992 年にランソプラゾール,1997 年にラベプ 18 ∼ 20 時間維持することが治癒の至適条件とされ,逆流 ラゾールナトリウム,2011 年にエソメプラゾールマグネ 性食道炎では pH4 以上が治療目標の目安と考えられてい シウム水和物が販売され,本剤で 5 剤目となる。従来の る 3)。本剤は 20mg 投与 1 日目から胃内 pH4 以上を保っ PPI は酸に不安定で即効性と持続性に乏しいという欠点 ており(図 1,表 2),即効性が期待できる薬剤である。 があったが,本剤はそれらを改善した新たな作用機序の PPI として期待されている。 (3)持続時間 4) 従来の PPI は活性体が酸に不安定なこと,血中半減期 が短いことにより,夜間の酸分泌抑制が十分でないことが 2.従来の PPI との比較 (1)適応症と投与期間 1) 適応症は従来の PPI とほぼ同様であるが,吻合部潰瘍, Zollinger Elison 症候群,非びらん性胃食道逆流症の適 - 知られている。PPI 投与中の夜間に胃内 pH4 未満の時間 が連続して 1時間以上みられる現象は nocturnal gastric acid breakthrough(NAB)といわれており,PPI の倍量・ 分割投与やPPIとH2 ブロッカーの併用が行われていたが, 調剤と情報 2015.10(Vol.21 No.12) 115 (1717) ? ギモンを解決! QA ? ブリンゾラミド懸濁性点眼液 第7 回 ブリンゾラミド 懸濁性点眼液 医薬情報研究所/エス・アイ・シー 田中 尚美,堀 美智子 患者 の 緑内障とはどんな病気ですか? 例 緑内障は,視神経が障害されることによって,視野が狭くなったり,部分的に見えなくなった りする病気です。日本人における視覚障害の原因疾患の第1位となっており,40歳以上の日本人 のおよそ5%,約20人に1人の割合で発症しているといわれています。 眼圧が高いと視神経が障害されるリスクが高まりますが,日本人では眼圧が正常範囲内であっても緑内障にな る人も多く,緑内障の発症には,視神経乳頭の循環障害や遺伝素因などによる視神経の脆弱性も関係していると 考えられています。 • 緑内障とは であっても視野障害が進行する正常眼圧緑内障も多い。 このことから,緑内障の発症には眼圧以外の因子として, 日本緑内障学会の「緑内障診療ガイドライン(第 3 版) 」 視神経乳頭の循環障害や遺伝素因などによる視神経の脆 によれば,緑内障は「視神経と視野に特徴的変化を有し, 弱性も関係していると考えられる。 通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を また緑内障は,①眼圧上昇や視神経障害の原因を他の 改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴と 疾患に求めることのできない原発緑内障,②他の眼疾患 する疾患」と定義されている。同学会が行った疫学調査 や全身疾患あるいは薬物使用を原因として眼圧上昇が生 (多治見スタディ)では,40 歳以上の日本人における全緑 じる続発緑内障,③胎生期の隅角発育異常により眼圧上 内障の有病率は 5%とされ,わが国における視覚障害の 昇を来す発達緑内障の 3 病型に大きく分類され,さらに 原因疾患の第 1 位となっている。 原発および続発緑内障は,隅角の形状により,閉塞がみ 眼球の前眼部は房水と呼ばれる液体で満たされており, られない開放隅角,閉塞を認める閉塞隅角に細分類され 房水によって眼圧が生じ眼球の形状が維持されている。 ている。 房水は毛様体で産生されて後房に流れ込み,瞳孔を通って 前房に回り,隅角の線維柱帯を経てシュレム管から排出 • 原発緑内障の病態 される(主経路)。一部は隅角から毛様体に入るぶどう膜 強膜流出経路によって排出される(副経路) (図 1)。 ・原発開放隅角緑内障(広義) 眼圧は房水の産生と排出のバランスによって一定に保 狭義の原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障を包括し たれているが,何らかの理由で房水の産生過剰や排出障 た疾患概念で,眼圧の病態への関与が大きく,緑内障の 害が起こると,眼圧が上昇する。眼圧が上昇すると視神 発症や進行のリスクは眼圧の上昇に応じて増加する。視 経が障害されやすくなり,緑内障を発症するリスクが高 神経の眼圧に対する脆弱性には個体差があるため,特定 まるが,日本人では眼圧が正常範囲内(10 ∼ 21mmHg) の眼圧値により原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障を 調剤と情報 2015.10(Vol.21 No.12) 123 (1725)
© Copyright 2024 ExpyDoc