リレー・エッセイ 「私 の 教育実践」 今号から新連載「リレー・エッセイ」を始めました。大学や社会に関する 興味深いテーマを取り上げ、多くの方がリレーで参加して様々な考えや 意見が集える場にしたいと思います。最初のテーマは「私の教育実践」です。 「学生 の主体的 な学 びあいを基礎 とする 教育システムの 刷新」プロジェクトについて 武永 淳 Jun Takenaga 滋賀大学経済学部 / 准教授 (同プロジェクト責任者) 「学生の主体的な学 びあいを基礎とする教育シス 体的に考え、学ぶ力を強化した学生を 「層として」生み テムの刷新─経済・経営系教育における白熱教室の 出す。③ 層として生み出した上記のような学生を軸と 創出─」という名称 のプロジェクトが 文部科学省特 して、学生 が相互に学 びあい高めあう知的成長 の好 別経費事業として本学部で平成 25年度 から開始され 循環を創り出す。」 (以上、平成 25年度特別経費要求 ました。同プロジェクトは以下のような背景・問題意 書より) 識に基づいています。 平たく言うならば、 「学生にもっとしっかり時間をか グローバルマネーに象徴される国際的な経済活動 け日頃から勉強し、考える力をつけてもらいたい」、 「講 に影響され、予測を超えた事象 がしばしば発生する 義もできるだけ双方向的なものにし、学生が主体的に 現代社会においては、自ら学び 続け、主体的に考え、 参加できる仕組みを作りたい」ということです。しかも 行動できる人材を育成することが強く求められている。 それを日本 の大学 の置かれた厳しい財政状況、限ら 日本 の学生は、授業に参加するための事前学習や れた人的資源という中でいかに工夫をこらして行うか 授業 で得た 理解 を定着させるための 事後学習 が 極 ということがプロジェクトの核心ということになります。 端に少ないといわれている。とくに経済・経営系学生 幸いにも本学部では、学生の協力によって教員だ においてこうした傾向は顕著である。だが、現代社会 けでは手 の回らない部分を補ってきた実績があります。 が直面する課題に応えて次代の日本社会を牽引する 選択必修科目であるコア科目の「4単位もの」 (ミクロ 人材を育ててゆくためには、こうした大学教育の質的 経済学、マクロ経済学、統計学、簿記会計)について、 転換が図られなければならない。 演習問題を実際に解くことを通じて理解を深めるべく、 しかし、主体的学習を促すために双方向的な授業 コアセッション(CS)と呼ぶクラスを開設し、その実 を展開するといっても、経済・経営系の講義では必ず 施にあたっては前年の成績優秀者などからSA (Study しも容易ではない。 Assistant)を募って、担当教員の指導 の下、SAが教 近年、いわゆる白熱教室が話題となったが、あの授 壇に立って教えることを実施してきました。 業は多くのTA (Teaching Assistant)を動員した事前 こうした授業方式 は、学生の 視点で 解説すること の準備を前提にしてはじめて成立している。それをそ が受講生にとって分 かりやすい面、また気軽に質問も のまま踏襲することは日本 の大学 の現状 では困難で しやすいという面などの顧慮とともに、SA自身が教え はあるが、ICT 活用したり、コアセッション等本学部 る側に立つことで、修得した学習内容について理解を での経験を踏まえて、文科系の授業でどのような工夫 深め、成長してくれることも期待したものです。各学期 をこらせるかに挑戦する。 終了時のSA 感想文、また担当者等を交えての懇談会 そして「現代社会に対応した社会人基礎力を備え、 でも、 「大勢 の学生の前で話 す体験をしたことで、自 広義 のビジネスリーダーとして活躍できる人材の育成 信をもち、積極的にいろいろなことに取組めるように 機能強化」のために 以下の3点の 実現をめざす。 「① なった」との感想が多く出ています。このような学生の 受動的、一方的な授業方式ではなく、アクティブ・ラー 成長体験を他の科目に拡げ、講義 への多様な形での ニング 的要素を導入して授業を主体的、双方向的な 学生関与機会の拡大を探っていくことも本プロジェク ものとし、学習成果 を向上させる。② 上記 の 過程 の トの企図のひとつです。 なかで、授業を行う側の一員として学生を積極的に登 取組みの手始めとして25年度にはまず、 「授業実態 用し、そうした経験を通じて彼らの成長を促して、主 の 把握 のための 教員アンケート」を春学期に実施し 052 彦根論叢 2014 winter / No.402 | SULMSの改良例 | SUCCESSの改良例 ました。その結果 は予想通りで、予習を前提としてい さらに、大規模授業における学習保障の取り組み ない授業の多さ (一般教養科目91%、専門科目68%) として「比較経営論」 (受講登録 287名)等をパイロッ を 示 すものでした。また、授業支援 のICTシステム ト授業として設定し、出席管理の 徹底、講義 の双方 利用状況も「滋賀大学キャンパス教育支援システム」 向性の確保(課題の 提出とそれへのコメント)、事前 (SUCCESS)が、5割弱、 「滋賀大学・学習管理シス 提供資料等を踏まえた 学生の 授業 での 発言の活発 テム」 (SULMS)は4.4%という状況でした。また、本 化などを目指す取組や語学教育における既修学生の 学 の「平成 25年度 FD 報告書」では、経済学部 にお 関与・活用などを行い、上記 ICTシステム等も活用し いて24 年度以前の5年の平均で、1週間に全くその授 つつ、授業改善の道を探求しています。 業について勉強しないという学生が、コア科目で31%。 大学教員は通常、その専門領域において、是非とも それ以外では50%という状況ですから、教員と学生の 学生に伝えたい、理解してもらいたい、考えてもらいた 意識を変えないと学生に 「学士力」を保証していくこと いという強い思いを持 っている人々です。多くの 教員 はできません。そしてまずは当然、教員が「教育」に力 が学生に確実な知識と主体的に考える力を身につけ を入れることからはじめなければなりません。 てもらおうと様々な工夫を行っていることがこの間の しかしながら、学生にしっかり予習復習をしてもら 取り組みで鮮明となってきました。しかしながらそのよ おうとすれば、人的物的資源 が制約される中で研究 うな工夫 が教員組織で必ずしも共有化されないとい と学内行政 にも追 われている大学教員の 現状 から うのが日本 の大学 の弱点といえます。本プロジェクト は、できるだけ効率よく、学生への教材提供、課題提 では、これら授業改善 の試 みを蓄積・検証し、全教 出、小テスト等 の実施 が行えなければなりません。時 員に参照可能なものとしていきたいと考えており、各教 間的負担が 多ければ、熱意 があっても結局長続きし 員がその資質、講義内容、学生の 状況に見合った授 ません。本プロジェクトでは、多くの 教員・学生 が 使 業スキルを選択・工夫することを促進していきたいと 用に慣れているSUCCESSを教育サポートツールとし 考えています。本プロジェクトは、平成 27年度には終 て手軽に活用できるものにすべく改修し、小テスト機 了しますが、 「大学生は勉強しないものだ」という状況 能を組み込 みました(26 年度 から運用)。また、本格 が大幅に改善され、通常の講義でも学生に発言を求 的e-learningシステムであるSULMSについては、利 めれば多くの質問や意見が飛び出してくる、そのよう 用の普及のため、教員から要望のあった機能改善 (レ な活気 ある講義 が 数多くみられるという状況を現出 ポート閲覧 の 一覧性確保、エクセルファイルでの出 し、しっかりとした学力を持ち、 「学ぶ方法を学んだ」 力等)を 実施しました。それにより従来 に 比 べてレ 多くの 学生を社会に送り出すための 確固とした基盤 ポートの閲覧、評価など大幅に時間短縮できる状況 を作り上げるべく取組みをすすめていきたいと考えて が実現し、より頻繁に課題を課すこと等が可能となっ います。 てきています。 053
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