かき養殖業 2

製造業
景気予測お天気マーク
かき養殖業
2
シ グ ナ ル
0412
このシグナルは、現状から今後 6ヵ月間の見通しを短評。
東日本大震災により壊滅的な被害を受けた宮城県、岩手県のかき養殖業は、いまだ震災前の半分に届かないものの、着実に収穫量を
戻しつつある。首都圏への新たな販路拡大が奏功し、平成 26 年度は一時期需要に生産が追いつかない状況が見られた。全国一の収
穫量を誇る広島県でも収穫は順調で、全国の養殖かき出荷量は前年を上回った。しかし広島県においては幼生の生育が不調であり、
平成 27 年度以降は減産が見込まれる。平成 26 年度シーズンの後半、市場ではすでに翌シーズン以降の減産を見込んだ、生産者によ
る出荷調整の動きがあった。(平成 27 年 7 月改訂/中小企業診断士・加藤敦子 [email protected])
業界動向
平成 23 年
平成 24 年
平成 25 年
平成 26 年
収穫量
1,659 百t
1,650 百t
1,641 百t
1,841 百t
生産額
30,522 百万円
30,438 百万円
30,140 百万円
−
資料:収穫額:農林水産省『平成 26 年漁業・養殖業生産統計年報』平成 27 年 4 月公表(か
き養類(殻付き))、生産額:農林水産省『平成 25 年漁業生産額』平成 27 年 4 月公表(か
き類)
1.かきは 12∼2 月が最盛期の季節的食品。また、健康意識
の高まりは栄養価の高いかきの需要増大に寄与している
が、内海や湾などの汚染等により養殖に最適だった漁場環
境は日々悪化し、生産量および品質低下に影響を及ぼして
いる。そこで従来の生産量維持のため、1 年養殖方式を 2
年方式に改めたり、いかだの移動、深吊り、3 倍体かきの
開発等、多くの工夫・努力が必要となっている。
2.かきの養殖は通常、夏にホタテ貝の貝殻を海中に吊して天
然の幼生を付着させ、それを 1∼2 年生育した後に出荷す
る。しかし平成 26 年に広島では、餌となる植物プランク
トンが少なかったことなどで、例年の 1∼2 割程度しか幼
生が付着しなかった。これにより平成 27 年以降、収穫量
の減少が見込まれる。さらに近年の海水温上昇が要因で産
卵期が長期化し、身が大きくなりにくい傾向がある。
3.かきの価格は、コストプラス方式(生産原価)ではなく、
気温などによって相場が大きく左右されるので注意を要す
る。
業態研究
■ 商品特性
農林水産省『漁業・養殖業生産統計年報』によれば、かき類
養殖業とは、『「まがき」「すみのえがき」および「いたぼがき」
などの養殖をするもの』として定義されている。かきの価格は、
コストプラス方式(生産原価)ではなく、気温などによって相
場は大きく左右される。
■ 生産形態
養殖方法には、筏式垂下法、はえなわ式垂下法、簡易垂下法、
ひび建て養殖法、地蒔式養殖法などがある。主要産地の広島県
では筏式垂下法が、宮城県では、はえなわ式垂下法が中心であ
る。
農林水産省『2008 漁業センサス』によると、平成 20 年
のかき類の養殖面積は 6,422 千㎡となっており、1 経営体あ
たり 1,521㎡である。(『2013 漁業センサス』は宮城県のデ
ータが含まれないため、不採用とした。)
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■ 養殖方法
(1)垂下式では、採苗→抑制→本垂下→育成、という工程
を経て収穫される。初めに採苗器としてかき、ホタテ貝な
どの貝殻を用い、稚貝が付着した後、これを約 20cm の
間隔で鉄線にとりつけ、海中に設けた垂下台またはいかだ
につり下げて、養成、身入れを行う。本垂下してから収穫
するまでには、垂下式において最短期間で収穫可能なイキ
ス養殖でも 12∼13 カ月を要する。垂下式によれば、風
波の静かな、えさの多い海域であれば、水深、底質、外敵
などに制約されることなく養殖を行うことができ、養殖法
の中心となっている。
(2)地まき式における養殖は、水質・底質がかきの成長に
適した海底に稚貝をまきつけ成長させる方法である。ここ
で十分に成長させ、それをエサの多い水域に移すと、1∼
3 カ月の短期間でグリコーゲンが蓄積され味が良くなる。
これを身入れという。
■ 産地
かき養殖の有名な産地としては、広島湾、仙台湾(宮城県)、
有明海がある。広島県の生産量は群を抜いており、国内生産量
の過半数を占めている。身入れされたかきは、陸上げされ、洗
浄後に殻付きのまま、またはむき身にされて出荷される。特に
近年は生食用の場合、出荷前に「浄化」と呼ばれる作業を行う
ことで安全性を高めている。加工されたかきは、日本国内で消
費されるほか、香港、オーストラリア、シンガポール、台湾、
大韓民国等の外国にも輸出されている。
流通・資金経路図
県名
平成 22 年
平成 23 年
平成 24 年
岩手
96
417
190
1,073
227
2,003
33
133
177
1,074
242
1,659
5
51
179
1,172
243
1,650
宮城
岡山
広島
その他
合計
平成 25 年
37
130
194
1,061
253
1,675
単位:百t
注意が必要。
平成 26 年
東日本大震災の発生により、3 大産地の一つである宮城県を
48
209
168
1,167
249
1,841
資料:農林水産省『平成 26 年漁業・養殖業生産統計年報』平成 27 年 4 月公表(かき養殖)
平成 22 年までは年間収穫量(かき類(殻付き))が 2,000
百 t 台を保っていたが、東日本大震災の影響により、宮城県、
岩手県の収穫量が激減したため、平成 23 年以降は 1,600 百
t 台に落ち込んでいた。しかし、平成 26 年には 1,800 百 t
台まで回復している。
■ 経営形態
多くは零細で家族経営を主体とした生業的形態が多い。
営業推進のポイント
■ 売上の見方
帝国データバンク『第 57 版全国企業財務諸表分析統計』平
成 25 年度・平成 26 年 11 月発行(海面養殖業)によれば、
売上に関する主な指標は次のとおりである。
1 人当たり売上高 45,777 千円
売上高増加率 10.56%
■ 採算の見方
1.養殖方法別の施設数は、垂下式養殖法(いかだ式、はえな
わ式)がほとんどである。いかだ式の主力は広島県、はえ
なわ式の主力は宮城県である。
2.収穫期は 10 月から 3 月である。むき身は細菌収去検査
を受け、20kg、10kg、4kg、2kg 缶で出荷される。
3.養殖業者は、一般に零細で家族労働が多いので、かき養殖
による収入減、採算性の悪化を他の収入で補っている傾向
がある。漁業や釣船などが他の収入源である。
■ 取引深耕のためのチェックポイント
1.かき養殖の経営体をみると、後継者の不在、あるいはほか
の養殖事業への転換により、年々その数は減少している。
前掲『2008 漁業センサス』によると、かき類養殖を行
う経営体数は 4,222 あり、うち専業は 1,165 である。
2.むき身の 1 経営体当り収穫量は平成 20 年で 45 トンと
推計される。
3.収支面は安定しているか。自然条件などによる生産量の変
動は、ある程度は需給関係により価格に反映されるため、
むしろ収入面では安定しているといえる。
4.東京都中央卸売『市場統計情報』によると、平成 26 年度
の築地市場のかき卸値は、平成 20 年度から 25 年度まで
の平均と比較すると約 15% 高かった。直近では一昨年度
が平均並みであった以外は高値の傾向が続いている。
融資判断のポイント
■〈審査のポイント〉
年々高まる天災・人災・異常気象による被害率が収穫量を不
安定にさせ、加えて収穫・加工のための資源コストの上昇が資
金繰りの圧迫要因となり、これらに対処できる経営体力がある
か、また収益性の確保が可能かについて留意。また当業界は深
刻な人手不足にもあり、後継者をはじめ人材の確保の状況にも
中心に東北地方が壊滅的な被害を受けた。徐々に回復傾向には
あるが、各社の経営にも多大な影響を及ぼしている可能性もあ
るので注意が必要である。
■ 運転資金
1.かき養殖業者の販売は、市場出荷、仲買出荷、冷凍・缶詰
出荷が主なルートである。
2.売上金回収は、市場出荷では当日販売分は当日現金回収で
きる。仲買出荷は当日出荷分は翌日現金回収が原則である
が、金額によっては 5∼10 日締めの現金回収というケー
スもある。冷凍・缶詰では出荷先により回収方法はまちま
ちであるが、概ね 5∼10 日後現金回収である。なかには
手形回収もある。
3.かき養殖業者は現金回収がほとんどであるが、2 年生かき
の比重が高いことから、収穫量が減少した場合は次の収穫
期まで運転資金が発生する場合も考えられる。
4.短期的なものとしては孟宗竹、針金、ワイヤー、フロート
などの資材の購入資金、また、10 月頃からは人件費・燃
料代などの運転資金が発生する。
■ 設備資金
1.いかだ修理などに要する資金がある。これは主に 7∼10
月ごろに発生する。
2.具体的な資金需要としては、5∼9 月に作業船・作業棟関
係の補修・新設、洗浄機・冷却機などの修理・買換えなど
の設備資金が発生する。
■ 返済原資
〔税引後予想利益+減価償却費−既借入金返済額=返済原資〕
とみて、投資額の回収が可能かどうかをみる。
■ その他のチェックポイント
かき養殖業界も深刻な人手不足である。特に収穫・出荷が冬
場になるため、金具で殻を開け中身を取り出す作業をする「打
ち子」の高齢化や、
引退する従業員の補充は大きな悩みである。
これらを解消するためコンピュータ制御による自動かき打ち機
が開発され、導入業者が増加しつつある。資金需要期は、一般
的に養殖施設設置期、採苗、種苗買付期である。
■〈制度融資ガイド〉
日本政策金融公庫融資、その他各自治体等による制度融資あ
り
業界団体
→(一社)漁業信用基金中央会
東京都台東区東上野 6-1-1 高長ビル 5 階
電話 03-6380-3251 http://www.gyoshinki-chuo.or.jp
→広島県漁業協同組合連合会
広島県広島市西区商工センター8-4-5
電 話 082-278-5588 http://www10.ocn.ne.jp/~kaki/contents/top.
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製 造 業
県別収穫量(かき類(殻付き)) 製造業
主な経営指標
項目
調査年
総資本経常利益率
売上高総利益率(粗利益率)
売上高経常利益率
売上高金利負担率
総資本回転率
売上債権回転期間
棚卸資産回転期間
買入債務回転期間
自己資本比率
流動比率
固定長期適合率
売上高増加率
経常利益増加率
1人当たり売上高
集計企業数
平成 23 年度
▲ 2.11%
16.66%
▲ 6.70%
1.58%
0.74 回
1.36 月
4.32 月
0.65 月
37.07%
331.38%
74.49%
41.55%
▲ 44.05%
44,159 千円
7社
平成 24 年度
▲ 3.38%
17.63%
▲ 2.81%
1.33%
0.82 回
0.72 月
3.76 月
1.61 月
18.87%
316.47%
65.14%
▲ 5.73%
▲ 424.60%
51,956 千円
10 社
平成 25 年度
1.18%
24.58%
1.21%
1.09%
1.03 回
0.97 月
3.95 月
1.09 月
30.61%
269.23%
71.95%
10.56%
73.90%
45,777 千円
16 社
資料:帝国データバンク『全国企業財務諸表分析統計(第 55∼57 版(平成 24∼26 年発行)
)
』
(海面養殖業)
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