広報誌 - 日本投資顧問業協会

一般社団法人
日本投資顧問業協会
投資顧問
JAPAN INVESTMENT ADVISERS ASSOCIATION
No.80
2015
Contents 目 次
「資産運用会社における二つの課題について」
01 巻頭言 多田副会長 03 協会の動き
09 ロンドン・フランクフルト出張報告
平成27年11月10日発行 通巻80号
〈巻 頭 言〉
資産運用会社における二つの課題について
一般社団法人 日本投資顧問業協会
副会長 多田 正己
世界の株式市場は大きく揺れ動いている。中国景気の減速懸念を背景とした世界的なリスク回避の
動きにより、8月以降、リーマンショック以来の大きな株価調整が起こり、その後も相場は乱高下を
繰り返している。当面は中国経済や米国利上げ動向などの要因がマーケットを揺さぶり続けるかもし
れない。
一方、国内企業に目を向けると、リーマンショック以降の事業再編や合理化により収益力が向上し
たことに加え、金融政策、財政政策、成長戦略の三本の矢からなるアベノミクスの効果も加わり、日
本企業の経常利益は過去最高の水準にある。また、賃金は着実に上昇しており、有効求人倍率は高水
準で推移するなど、大きく改善された企業収益が雇用や賃金上昇につながり、それが消費や投資を活
性化させるという経済の好循環が回り始めている。この好循環を持続させ、日本企業の中長期的な成
長を確実なものとするためには、リスクマネーの効率的な提供が不可欠であり、その実現において資
産運用会社の果たす役割は大きい。
このような環境下、金融庁より本年7月に金融モニタリングレポートが、また本年9月には平成 27
事務年度金融行政方針が公表されたことは大変意義深い。両者に共通した資産運用会社の課題は、フィ
デューシャリー・デューティーの徹底や資産運用の高度化への対応であり、またその課題を実現する
ための具体的施策が示されているが、その中でも特に、①適切な経営の独立性確保、②運用の専門人
材の育成・確保については資産運用業界の中長期的な発展に資するものでもあり、重要と考える。以
下にこの二点について私見を述べてみたい。
まず、一点目の経営の独立性確保についてであるが、昨年2月、機関投資家が投資先企業との建設
的な対話を通じて企業の中長期的な企業価値向上を促すことを目的の一つとして「日本版スチュワー
ドシップ・コード」が公表された。また、本年6月には、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値
向上のための諸原則が示された「コーポレートガバナンス・コード」が導入された。この二つのコー
ドは車の両輪をなし、両コードがしっかりと機能することによって真のコーポレート・ガバナンスの
改善が図られるものである。
企業価値向上を目的とした資産運用会社による投資先企業との対話については従来より行われてき
- 1 -
たところであるが、両コード導入に伴い投資先企業に対するガバナンス強化の働きかけはこれまで以
上に強まっていくものと考えられる。かかる状況において、資産運用会社自身のガバナンス強化は必
須の課題であると言える。周知のとおり、国内資産運用会社は銀行や証券会社等の金融機関の系列と
して設立されているところが大半であり、胸を張って経営の独立性が確保されていると言える会社は
少ないのではないだろうか。厳格なフィデューシャリー・デューティーに立脚した優れたガバナンス
を実現するためには、独立社外取締役の選任や系列に拘らないプロフェッショナル人材の経営陣への
登用などを進め、経営の独立性を高めていくことが極めて重要であり、国内資産運用会社に課された
大きな課題である。
二点目の運用の専門人材の育成・確保についてはどのように取り組むべきであろうか。言うまでも
なく資産運用会社において最も大切な資産は人材であり、特に高い運用能力と倫理観を兼ね備えた人
材の育成・確保は資産運用会社共通の課題であろう。前述の「日本版スチュワードシップ・コード」
における投資先企業との建設的な対話の前提には、機関投資家のプロフェッショナルとしての高い運
用能力やスキルが求められている。既に高度な専門スキルを擁する人材を中途採用することは人材確
保の一手段であるが、資産運用会社各社がそれぞれの強みを活かしながら若手社員を教育・育成して
いくことが業界全体の発展にも資するものと考える。その実現のためには、運用能力のポテンシャル
の高い人材の採用方法の検討、シードマネー運用による実践的な運用機会の提供や倫理観の醸成も含
めた教育プログラムの策定、運用能力の判断手法の検討や報酬体系の見直し等、それぞれの資産運用
会社に適した形での取組みが期待されるところである。
最後になるが、資産運用業界に対する注目度や期待、社会的な要請はかつてないほど高まってきて
いる。協会会員各社の自主的で真摯な取り組みが業界の健全な発展や金融・資本市場の活性化につな
がり、社会へ貢献していくことを願っている。
(大和住銀投信投資顧問株式会社 代表取締役社長)
- 2 -
協会の動き
●拡大版コーポレートガバナンス研究会の開催について
〇平成 27 年度第3回拡大版コーポレートガバナンス研究会を開催しました
平成 27 年9月9日午後2時から、当協会大会議室において、平成 27 年度第3回拡大版コーポレー
トガバナンス研究会(座長
池尾慶應義塾大学経済学部教授)が開催されました。
平成 27 年度の拡大版コーポレートガバナンス研究会は「競争力の強い資産運用会社を目指す経営戦
略」をテーマとし、第3回の研究会には、DIAM アセットマネジメント株式会社 西惠正代表取締役社
長をゲスト・スピーカーにお招きし、資産運用会社の現役経営者の立場から、日本の資産運用市場の
現状分析と将来の可能性、それらを踏まえた上での同社の取り組み状況及び戦略などについてお話い
ただきました。その後、参加メンバーによる自由討論が行われました。
●各種研修の実施状況
○平成 27 度第1回 FM アナリスト研修を実施しました
平成 27 年9月 29 日に第1回 FM アナリスト研修を
「日銀・FRB・ECB・人民銀行ウォッチングと世界経済」
というテーマで開催しました。東短リサーチ株式会社
代表取締役
チーフエコノミストの加藤出氏を講師に
迎え、日本銀行および海外の中央銀行の金融政策が世
界の金融市場に与える影響と日本経済の課題について
ご講演いただきました。
- 3 -
●苦情相談の状況(平成 27 年7月~9月)
(1)協会は、お客様等からの会員の行う業務に関する相談、苦情対応及びあっせん業務を、特定非
営利活動法人「証券・金融商品あっせん相談センター」
(FINMAC)に業務委託しています。
(2)平成 27 年7月~平成 27 年9月に FINMAC が対応した苦情・相談、あっせんは、苦情が 11 件、
相談が 37 件、あっせんが2件(表1)となっており、苦情及び相談の具体的内容は表2、表3
のようになっています。
(表 1)受付状況
(単位:件)
区分
投資運用会員
苦
情
8( 16)
相
談
21( 37)
あっせん
合
(注)
・(
計
2(
投資助言・代理会員
その他
3(
8)
0(
0)
11( 24)
14( 31)
2(
8)
37( 76)
0)
0(
0)
17( 39)
2(
8)
2)
0(
31( 55)
合計
2(
2)
50(102)
)は平成 27 年4月からの累計(以下同じ)
。
・その他には、一般的な問合せや非会員に対する苦情・相談を記載(以下同じ)
。
・苦情とは、会員の行う業務に関し、会員に責任若しくは責務に基づく行為を求めるもの、又は、
損害が発生するとして賠償若しくは改善を求めるものなど、会員に不満足を表明するものをい
う(苦情及び紛争の解決のための業務委託等に関する規則第2条)。
(表 2)苦情の内容
区分
(単位:件)
投資運用会員
投資助言・代理会員
その他
合計
(1)勧誘・契約に関する苦情
6( 10)
2(
4)
0(
0)
8( 14)
(2)会費つり上げ
0(
0)
0(
0)
0(
0)
0(
0)
(3)運用、助言内容の不満
0(
0)
1(
3)
0(
0)
1(
3)
(4)契約不履行等
0(
1)
0(
0)
0(
0)
0(
1)
(5)その他の苦情
2(
5)
0(
1)
0(
0)
2(
6)
8( 16)
3(
8)
0(
0)
合
計
(表 3)相談の内容
区分
11( 24)
(単位:件)
投資運用会員
投資助言・代理会員
その他
(1)業者の内容
2(
2)
1(
4)
0(
1)
(2)契約・勧誘に関する相談
7( 12)
3(
7)
0(
0)
(3)途中解約
3(
6)
1(
1)
0(
1)
4(
(4)運用、助言内容の相談
3(
5)
3( 10)
0(
2)
6( 17)
(5)その他の相談
6( 12)
6(
9)
2(
4)
14( 25)
14( 31)
2(
8)
37( 76)
合
計
21( 37)
- 4 -
合計
3(
7)
10( 19)
8)
●会員の動き(平成 27 年7月1日~9月 30 日)
協会の会員は、投資運用業のうち、①投資一任業務(従来からの有価証券の一任運用、および不
動産等を原資産とする金融商品の一任業務)を行う会員、②ファンド運用業務(ベンチャー企業育
成や事業再生等を目的として組成されたファンドの運用を行う業務)を行う会員、投資助言・代理
業を行う会員で構成されています。
平成 27 年9月末現在の会員数は、次のとおりです。
会員数
投資運用会員
投資助言・代理会員
742
265
○入会会員一覧
・投資運用業者の入会
477
3件
業者名
協会入会日
カレラアセットマネジメント株式会社
平27年 7月 6日
大和ハウス不動産投資顧問株式会社
平27年 9月24日
総合地所投資顧問株式会社
平27年 9月25日
・投資助言・代理業者の入会
8件
業者名
コバヤシ
アセットマネージメント(小林
協会入会日
治行)
平27年 7月 7日
株式会社 KG キャピタル
平27年 7月31日
Nippon ResCap Investors 株式会社
平27年 7月31日
クロスパス・アドバイザーズ株式会社
平27年 9月18日
株式会社伯楽一顧
平27年 9月24日
CMI リアルティ・マネジメント株式会社
平27年 9月25日
株式会社リムズ
平27年 9月29日
日本生命保険相互会社
平27年 9月30日
○退会会員一覧(5社)
業者名
退会日
資格喪失理由
株式会社アイ波動経済研究所
平27年 8月31日
投資助言・代理業登録の廃止
株式会社スタイルクリエーション
平27年 8月31日
投資助言・代理業登録の廃止
ファンネル投資顧問株式会社
平27年 9月18日
投資助言・代理業登録の廃止
株式会社 Tricorn Capital
平27年 9月30日
投資助言・代理業登録の廃止
ドイツ証券株式会社
平27年 9月30日
投資助言・代理業登録の廃止
※当協会ウェブサイトに最新の会員名一覧(電話番号入り)を掲載しています。
詳細につきましては、そちらをご覧ください。
URL: http://www.jiaa.or.jp/profile/kaiin.html
- 5 -
統計数値で見る投資顧問業
日本投資顧問業協会では、四半期ごとに投資運用会員の契約資産に関する統計を作成し、協会のホー
ムページ(下記)で公開しております。今回掲載したデータ以外にも、多種の詳細なデータを公開
しておりますので、是非ご覧ください。
日本投資顧問業協会ホームページ統計資料:http://www.jiaa.or.jp/toukei/
1.契約資産残高は過去最高の 238 兆円
※投資一任、投資助言、ファンドの契約資産の合計
※数値は、27 年6月末以外は全て3月末時点の残高(以下同様)
平成 27 年6月末の契約資産残高は、238 兆 4,570 億円となり、5四半期連続で過去最高を更新しま
した。平成 24 年の秋以降、良好な市場環境を背景として増加傾向が継続しています。
契約資産の内訳を見てみると、国内年金資金の割合が 50%を超えており、当業界において年金資金
の存在が非常に大きいことが分かります。年金の資金は、公的年金(年金積立金管理運用独立行政法
人など)と私的年金(企業年金基金など)に分けることができますが、その残高推移は次ページのと
おりです。
- 6 -
公的年金の残高は、平成 22 年3月末(約 69 兆円)をピークに一時減少しましたが、平成 24 年3月
末以降増加に転じ、平成 27 年6月末の残高は 91 兆円となり、年金資産残高の約4分の3となってい
ます。
2.ラップ口座:契約残高、件数ともに過去最高を更新
平成 27 年6月末のラップ口座の契約状況は、契約件数が 36 万 9,673 件、契約残高が4兆 7,541 億
円となり、過去最高を更新しました。
- 7 -
● 事業日誌
27.7.3
7.9
7.17
9.2
9.9
9.15
9.16
9.29
(平成 27 年7月1日~平成 27 年9月 30 日)
第 343 回理事会
(1)理事会について
(2)協会の機構について
(3)理事の退任について
(4)名誉顧問の委嘱について
(5)各常設委員会の委員および委員長の委嘱について
(6)各部会の部会員の推薦結果について
(7)入会承認および退会等報告(入会4件、退会3件、会員資格の変更1件)
(8)その他報告
第 158 回自主規制委員会
(1)委員会運営要領について
(2)当面の検討課題について
(3)自主規制各部会について
(4)これまでの主な活動状況について
第 33 回業務委員会
(1)委員会の運営要領について
(2)当面の検討課題について
(3)業務委員会の下部部会の設置について
(4)これまでの主な活動状況について
(5)「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」及び「金
融商品取引法等に関する留意事項について」(金融商品取引法等ガイドライン)の一部改
正(案)の公表について
(6)「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」及び「金融分野における個人情
報保護に関するガイドラインの安全管理措置等についての実務指針」の改正案に対するパ
ブリックコメントの結果等について
(7)「犯罪による収益の移転防止に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の
整備等に関する政令案」等に対する意見の募集について
プレス発表
・契約資産残高統計(平成 27 年6月末)
第 159 回自主規制委員会(書面)
・自主規制ルール遵守状況等調査票(助言)の実施について
平成 27 年度第3回拡大版コーポレートガバナンス研究会
第 34 回業務委員会
(1)「個人情報の保護に関する取扱指針」および「個人情報保護宣言(プライバシーポリシー)」
の一部改正について
(2)日本版スチュワードシップ・コードへの対応等に関するアンケートの実施について
(3)「非清算店頭デリバティブ取引に係る証拠金規制に関する信託協会からの依頼に対する会
員意見」に対する信託協会からの回答について
(4)金融庁への役員等の氏名届出等に係る内閣府令等及び監督指針の改正案に対する意見提
出について
(5)「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」及び「金
融商品取引法等に関する留意事項について」(金融商品取引法等ガイドライン)の一部改
正(案)に対するパブリックコメントの結果並びにインサイダー取引規制に関するQ&A
の追加等について
(6)「金融庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」
(案)の意見募集について
第 344 回理事会
(1)業務委員会委員長報告
(2)自主規制委員会委員長報告
(3)「個人情報の保護に関する取扱指針」および「個人情報保護宣言(プライバシーポリシー)」
の一部改正について
(4)自主規制ルール遵守状況等調査票(助言)の実施について
(5)日本版スチュワードシップ・コードの対応等に関するアンケートの実施について
(6)入会承認および退会等報告(入会7件、退会2件、会員資格の変更1件)
(7)その他報告
平成 27 年度第1回FMアナリスト研修(於:東京証券会館)
・日銀・FRB・ECB・人民銀行ウォッチングと世界経済
- 8 -
ロンドン・フランクフルト出張報告
岡崎 剛司
はじめに
一昨年および昨年に続き、今年も英国におけるスチュワードシップ・コード、コーポレートガバナ
ンスなどの状況を調査するために、7月下旬に岩間会長とともにロンドンを訪問した。訪問先は、ス
チュワードシップ・コードを策定、管理している Financial Reporting Council(FRC:財務報告評議
会)、資産運用業の業界団体である The Investment Association、年金基金の団体である National
Association of Pension Fund などであり、また、アセット・マネージャー、アセット・オーナー、
投資先企業が一堂に会して、スチュワードシップ・コード等に関する課題などについて議論を行うラ
ウンド・テーブル・ディスカッションにも参加した。大半の面談先は、3年連続での訪問となるが、
これらに加えて、東京を国際金融センターにしていくとの議論が、様々な場で行われていることから、
国際金融センターとしての地位を確立しているロンドンにおいて、その推進役を担っている UK Trade
& Investment(英国貿易投資総省)
、The City UK も訪問した。当該2機関への訪問は、駐日英国大使
館のご紹介によるものであり、この場を借りて厚く御礼申し上げたい。また、今回は、フランクフル
トも訪れ、ドイツの資産運用業協会の会長、コーポレートガバナンス・コードの管理等を行う事務局
担当者とも意見交換を行った。
以下に、英国スチュワードシップ・コードなどにおける課題、UK Trade & Investment などの活動、
その他、面談時に得られた意見等を報告する。
企業カルチャー
ロンドン訪問時は、まさに、日本を代表する大手企業の不適切な会計に端を発した問題が、グロー
バルに報道されていたこともあり、大半の面談で当該企業の話題となったが、多くの意見は、欧米に
おいても類似の事案は起こっており、そうしたケースの根っこにあるのは、企業カルチャーの問題で
あるとのことであった。企業カルチャーは企業自身にとって、また、投資家をはじめとするステーク
ホルダーにとって極めて重要である。ただし、この問題については、行政当局等が、一律に基準など
を設けることは困難で、例えば、当局が 1,000 ページにのぼるルールを策定したところで、不祥事を
根絶することは不可能であり、むしろ、実際にビジネスが行われていく中で、企業内部や投資家(株
主)を含めたインベストメント・チェーン内の内部統制が、関係者の自主的な努力によって効くよう
にしていくことが必要ではないか、企業経営者のリーダーシップによって良好なカルチャーがもたら
されるが、逆もあり得るとの意見があった。すなわち、スチュワードシップ・コードに基づき、投資
先企業と建設的な対話を行うべき投資家は、当該企業に悪しき企業カルチャーがはびこっていないか、
または、そうしたカルチャーをはびこらせないために、社外取締役を含めた取締役会が十分機能して
いるかなどのガバナンス体制、さらには、経営者のリーダーシップに可能な限り目を光らせなければ
ならないということである。本件は、まさに、投資家が、投資先企業のことをどこまで理解し、真剣
勝負で、かつ、突っ込んだ対話を行えているか、つまり、投資家としての実力が問われるところであ
るといえる。
- 9 -
企業の認識、投資家の認識
英国企業において、ガバナンス、リスク管理、コンプライアンスに係る業務を担当するカンパニー・
セ ク レ タ リ ー ( Company Secretary ) の 団 体 で あ る Institute of Chartered Secretaries and
Administration(ICSA)の担当者によれば、英国企業は、投資家との対話の質などに対する関心が、
以前より増しているものの、行った対話などの質に関して、投資家から、ほとんどフィードバックを
受けていない状況にあり、企業と投資家はディスコネクト(Disconnect)した状態にあるとのことで
あった。また、企業は、自社における Top Investors と心から対話を行いたがっているが、Top Investors
をどのように定義づけるかが問題であるとの意見もあった。ここで興味深いのは、通常、日本では、
企業にとって大株主(Large shareholders)が重視されるが、英国企業では、あえて、Top investors
という単語を用いていることである。すなわち、ただ、漫然と大量の株式を保有している、例えば、
Silent shareholders のような機関は、Investors(投資家)とは見做さないということである。また、
企業にとっての Top investors とは、例えば、自社の発行済み株式における保有比率が高く、かつ、
積極的に建設的な対話を行う投資家ということである。企業としては、Top investors とできる限り
1対1で面談したいということであった。企業側は、対話を行う投資家を選別しており、こうした状
況は、日本でもすでに一部の企業で起こっていると聞いている。
他方で、投資家は、運用するポートフォリオにおける組み入れ比率が高い銘柄(企業)と複数の投
資家による対話を望んでいるとする意見が多いとのことであった。投資比率が高い銘柄(企業)との
対話を望むことは、ある意味当然であるが、企業から見て、その運用会社が、発行済み株式における
保有比率が高いとは限らない場合もあり、また、建設的な対話を行えるかについても、企業として判
断し難いケースもあると考えられることから、投資家側としては、複数による対話の方が、企業にとっ
て受け入れ易いと考えているのではなかろうか。
上述した点については、企業と投資家の間で認識のずれが生じており、この解消に係る関係諸機関
の努力や方策については、我が国にとって参考となるのではないか。
UK Trade & Investment と The City UK
ロンドンの国際金融センターとしての地位確立とさらなる発展を牽引している機関の一つとしてあ
げられるのが UK Trade & Investment(英国貿易投資総省)内の Financial Services Organisation
(FSO)である。本組織は、海外の金融機関による英国への直接投資を増やすこと、また、英国の金融
機関を海外に売り込み、ビジネスの拡大等をサポートすることを目的として、民間と政府のパートナー
シップに基づき設立されたものであり、Chief Executive Officer は、民間金融機関出身者が務めて
いる。説明によれば、彼らの目標は「英国の GDP 成長と税収の増加に貢献すること」と極めて明快で
あった。例えば、資産運用業については、英国の運用会社の運用資産と収入の増加が、英国の税収増
につながるようにするために、英国の運用会社が海外において、いかに顧客と資産を獲得できるよう
にするかを常に考えており、日本の GPIF の運用機関採用の動向については、注視しているとのことで
あった。こうした目標達成のために、日々FSO に寄せられる意見・要望等は、適宜、英国財務省にフィー
ドバックし、議論しているとしていた。
The City UK は、英国における既存の金融関係業界団体と重ならない業務を行っている。既存の団
体は、国内の各業界における詳細、かつ、深い業務内容等について検討、政府に対する要望を行って
いるが、The City UK は、金融業界横断的に、資産運用を含めた英国の金融機関の海外展開等に係る
包括的な戦略を策定しているとのことであった。直近では、アジア、とくに中国とインドの市場を有
- 10 -
望視しており、具体的には、上海における英国金融機関等の自由なビジネス活動の展開について、イ
ンドにおける社債市場の育成等について、両国の業界団体等と意見交換を行い、必要に応じて先方の
活動をサポートしているとの説明があった。
英国では、2013 年に財務大臣が、英国の資産運用業における国際競争力強化とさらなる業の発展の
ために”UK investment management strategy”を策定、公表した。The City UK によれば、財務大臣
は、金融業の価値と同産業が、弁護士、会計士等のプロフェッショナル・サービス分野も含めた、幅
広い雇用の創出などの経済的繁栄をもたらすことを十分に認識しているため、上述した strategy の策
定を含め、政府として金融業を全面的にサポートしているとのことであった。
フランクフルトにおいて
ドイツにおける資産運用業界の協会である Bundesverband Investment und Asset Management(BVI)
によれば、資産運用業は、銀行、保険の次に位置しており、業界全体の運用資産総額は、約 2.6 兆ユー
ロ(約 350 兆円)である。協会会長は、EU が提唱している、資本市場から EU 域内の中小企業に資金
を提供する Capital Market Union(CMU)構想について、英国が好む”Capital Market”
(資本市場)
と欧州大陸が好む”Union”
(同盟、連合)をつなぎ合わせた賢いものであるとしていた。現状では、
アイデアを集めただけのもので、政治色が強いものであるとも感じるが、今まで金融機関(主に銀行)
が、中小企業に資金供給してきた役割を資本市場に担わせようとするものであり、本構想においては、
資産運用会社の役割が重要であるとの意見であった。
ドイツにおけるコーポレートガバナンス・コードの管理等を行う Deutsches Aktieninstitut では、
同コードの策定に係る経緯、意義等に関する説明を受けた。同コードの策定については、1990 年代か
ら議論があったが、1999 年に建設大手の Holtzman 社が、倒産の危機に瀕したことで議論が加速し、
2001 年にコードの策定に至ったとのことである。コーポレートガバナンス・コードについては、OECD、
EU、ドイツのものが存在しているが、ドイツのコードについては、OECD 版、EU 版のコードとうまく調
和(Harmonize)しており、ドイツ企業の CEO、産業界から好意的に受け止められているとしていた。
コードの意義については、企業経営者が正しく行動することを助け(help manager to act correctly)
、
企業がスキャンダルや倒産などを防ぐための、いわば、信号のようなものであるとの説明であった。
Capital Market Union に関して、EU は、
”Union”
(一つのマーケット)という単語が大好きで、Capital
Market についても一つにしようということであると理解しているが、例えば、実際問題として、ドイ
ツ人が、名もないスペインやポルトガルの中小企業の株式に投資を行うかという観点で考えると、本
構想の実現には時間を要するのではないかとの意見であった。
最後に
日本においては、2014 年2月の日本版スチュワードシップ・コード導入から2年弱が経過している
が、関係各機関は、各原則の遵守やコードに係る活動などについて、手探りで、試行錯誤しているも
のと推測される。そうした面との比較では、2010 年にコードを導入した英国は、スチュワードシップ・
コード先進国であるといえるが、企業カルチャー、企業と投資家との認識のずれなど、直面している
課題は、日本にも当てはまるものであると考えられる。
また、英国では、アセット・マネージャー、アセット・オーナー、投資先企業が一堂に会して、ス
チュワードシップ・コード等に関する課題などについて議論を行うラウンド・テーブル・ディスカッ
ションがあり、その場で忌憚のない意見交換が行われ、コードの普及、定着、深化の役に立っている。
- 11 -
今年9月から、金融庁、
(株)東京証券取引所が共同事務局となり、
「スチュワードシップ・コード及
びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が設置され、各コードにおける関係者に
よって議論が開始されている。本会議における議論や提言、ベスト・プラクティスの共有が、日本に
おけるコードの普及、定着とコーポレートガバナンスの実効性の向上に貢献することに期待し、当協
会としても、本会議に積極的に参画していく所存である。さらに、当協会は、今年で2回目となる「日
本版スチュワードシップ・コードの対応等に関するアンケート」を実施しており、この結果の公表、
関係者へのフィードバックにより、前述した「フォローアップ会議」等の議論にも貢献していきたい
と考えている。
日本における東京の国際金融センター化構想や資本市場からの中小企業への資金供給等については、
当局や関係機関の懇談会等で検討、議論が行われているが、英国における官民の連携、EU における
Capital Market Union の動向などを注視しつつ、引き続き情報発信していきたい。
以
- 12 -
上
投 資 顧 問 No.80 2015
平成27年11月10日発行
編集兼発行人
宮保 貞
発
一般社団法人 日本投資顧問業協会
行
所
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