インバウンドと地 域の 観 光振 興 観光ビザの緩和や入国管理手続きの改善、 インバウンドと地域の観光振興 インタビュー LCC※1の普及、さらには円安などの追い風に よって、インバウンドが急激な伸びを示していま す。地方では、外国人観光客の高い消費意欲 を受け止める体制をしっかり整え、地域経済 の活性化に結び付けていくことが重要なテーマ になってきています。 そこで、今回は全道で温 泉旅 館を展開し、 外国人旅行者からの人気も高い鶴雅グループの トップで、 (公社)北海道観光振興機構副会長、 NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構理 事長を務めている大西雅之氏にインバウンドの 現状や課題のほか、地元・阿寒での取り組み についてお話をお聞きしました。 (インタビュー日:2015年 6 月21日) 鶴雅グループ ㈱阿寒グランドホテル 代表取締役社長 Masayuki Ohnishi 大西 雅之 氏 1 15.9 ※1 LCC ローコストキャリア (Low Cost Carrier) の略称で、 効率的な運営により低 価格の運賃で運航サー ビスを提供する航空会 社のこと。 観光 庁では複数の都道府県をまたがって、 急増するインバウンドと今後の見通し テーマ性やストーリー性のある観光地をネット ※2 CIQ 出入国審 査関連 施 設。 CIQは 税 関(Customs) 、 出入国管理(Immigration) 、 検 疫(Quarantine)の 頭文字からの略称。 ―― 全国的に見ても、北海道だけを見ても、 ワーク化する「広域観光周遊ルート」の形成を インバウンドの伸びが顕著になってきています。 進めていますが、これも非常に大きなことだと 外国人観光客は滞在期間が長く、一人当たり 思っています。 「アジアの宝 悠久の自然美へ の消費単価も高いことから、これを地域でしっ の道 ひがし北・海・道」※3を含む 7 ルートが かり受け止めて地域経済に波及させていくため 全国の中から認定されていますが、東北、瀬戸 に観光産業の役割が重みを増してきています。 内、四国などの地方ルートが中心です。これま 大西社長は事業者として、また観光経済団体 でのメインルートだった東京、大阪、京都はも の立場からもインバウンドの勢いを肌で感じて う飽和状態で、より地方に外国人観光客を広 おられると思います。その中で現状をどのよう げていくべきだというメッセージだと思います。 に受け止めておられるのでしょうか。また、今 実は北海道も札幌、千歳などの道央圏はもう 後の見通しについては、どのように考えておら 飽和状態です。4 月の数字を見て驚きましたが、 れますか。 洞爺・登別は宿泊客の 5 割がインバウンドでし た。道央圏の中心的な観光地は飽和状況にな 大西 これまで国は訪日外国人旅行者数の目 りつつあり、来年は北海道新幹線の開業で道 ※3 「アジアの宝 悠 久の自然美への道 ひ がし北・海・道」 標を2000万人と掲げてきました。先日ある会合 南方面にも広がっていくでしょう。その次にター で、国土交通省の政務官が今年 1 ∼ 5 月まで ゲットとなるのが、さらに遠い道東や稚内など 2015年 6 月に国に認定 され た 広 域 観 光 周 遊 ル ートの 一 つ。釧 路・ 根室から十勝・オホー ツク・上川まで広大な 東北海道の滞在拠点を つ なぐ 広 域 観 光 周 遊 ルートの形成を目指す もので、富良野、十勝 川温泉、知床、釧路な どの観光団体や市町村 など50団体からなる 「プ ライムロードひがし北・ 海・道」推進協議会が 主体。多言語表記ガイ ドラインの策定や移動 Wi-Fi整 備、事 業 間 連 携による着地型周遊パ スなどの事業を予定し ている。 の訪日外国人は前年比145%増で、このままの の道北になるでしょう。昨年の北海道は約140 伸び率でいくと今年中に2000万人を達成するだ 万人の外国人旅行者数になったと思いますが、 ろうとおっしゃっていました。私もそれは実現で これが200万、300万人になれば、すでに中心 きるのではないかと期 待しています。 また、 地が飽和状態ですから、 必ず周辺地域に広がっ 4000∼5000万人の外国人がやってくるように ていきます。 なって、初めて世界の観光大国になっていける 認定された東北海道のルートは上川、富良野、 ということもおっしゃっていました。 十勝川温 泉、釧路、阿寒、知床などを含み、 高橋はるみ知事も公約で、北海道を訪れる 四国と同じくらいの広さのある広大な周遊ルー 外国人旅行者数の目標を300万人と掲げていま トです。これをしっかり定着させて具体的な商 す。北海道は東京、大阪に次いで、外国人に 品化を進め、全域にWi−Fiを整備して、さらに 人気の高い観光地です。高橋知事が300万人と 二次交通※4や観光施設情報を含めたワンストッ 掲げた当初は、私も「そうなればいいな」程度 プのポータルサイトを構築すれば、これがイン の思いでしたが、今は本当にそれに向かってい バウンドの受け皿として大きな起爆剤になると考 るという実感があります。 えています。JNTO(日本政府観光局)を中心に、 ※4 二次交通 10ページ参照。 ※2 ビザの緩和やCIQ 体制の増強、さらには 国が世界へ発信してくれることがとても大きなこ 新千歳空港の誘導路増設の検討や時間当たり とだと思っています。今後 5 年間で、 7 ルート の発着枠の大幅な拡大など、最近は本当に思 に年間 5 億円程度の資金支援があり、推進基 い切った国の政策が進んでいると実感していま 盤も安定しているので期待が膨らんでいます。 す。国が外国人旅行者を積極的に受け入れる 高橋知事は 5 年後の東京オリンピックまでに 方向に舵を切ったことは、非常に大きなポイン 300万人を目指すといっていますが、北海道の トだと思っています。 外国人旅行者数が140万人から300万人になる 2 15.9 インバウンドと地 域の 観 光振 興 とほぼ倍です。近年、地元の阿寒湖温泉の宿 大西 われわれの業界で今いわれているのが、 泊客数は60万人前後で推移しており、そのうち インバウンドとインターネットを指す「 I I(アイア 外国人は約 9 万人です。すでに道央圏は飽和 イ)」です。この二つにしっかり取り組んだ旅館 状態ですから、地方は 3 、 4 倍の比率で伸び やホテルは宿泊客数が伸びていますし、取り組 ていく可能性があり、阿寒湖温泉の外国人も18 めていないところは苦戦しています。 万人、27万人、36万人となるのも夢ではありま 弊社の施設でもインターネット予約の比率の せん。阿寒湖温泉の外国人があと20万人増え 高い宿は、 4 月の数字で60∼70%台というとこ れば、80万人規模の宿泊者数を維持できるよう ろがあり、驚くべき数字になってきています。今 になります。2002年 3 月に策定した「阿寒湖温 までは、ある程度決められた価格 帯の中で、 ※5 泉再生プラン2010」 では2010年の目標値を宿 旅行代理店にお願いをして、お客さまに販売を 泊客数80万人としていました。時間はかかりま していただいていました。しかし、インターネッ したが、今その実現性が見えてきました。 トを活用することで宿泊業者が自らマーケット 阿寒湖温泉は遠隔地なので、ただ数を求め ニーズに即した価格設定ができるようになりま るのではなく、地域にある魅力をしっかり楽し した。 んでいただくことが目標です。インバウンドを意 これまでは毎年秋に半年から 1 年の価格や 識しながら、質の高い旅を提供していけば、阿 商品内容を代理店と協議し、その販売力のみ 寒湖地域の将来も明るいものになると思ってい に頼ってきましたが、自らの力でも販売できる ます。 環境ができてきたのです。今後は前年の実績 数を超えて販売増を狙う部分については、両者 ――インバウンドの拡大で、これまで目指して で共通販売するような仕組みを検討していると いた地域の将来目標の実現が見えてきたので ころです。時代の大きな変化に対応し、得意・ すね。 不得意分野を補完し合って、販売チャンスを逃 さないことが最も大切だと考えています。 インバウンドとインターネット 重要なことはラックレート(宿泊料金の定価) という考え方です。私が観光業界に入った頃は、 ――インバウンドでは、宿泊業の皆さんの体制 旅館は明確なラックレートがなく、季節と曜日 強化も必要だと思います。 波動で大まかに価格が変動するような環境があ 3 15.9 ※5 「阿寒湖温泉再生 プラン2010」 2002年 3 月に阿寒観光 協会と㈶日本交通公社 (現在は公益財団法人) が共同で創設した「阿 寒湖温泉活性化戦略会 議」が地域住民と一緒 になって策定した阿寒 湖温泉の活性化基本計 画。10年 に 2 泊 3 日 滞 在できる湖畔の温泉観 光地となることを目指し てまちづくりを進めてい くことを目標としたもの で、歩いて楽しい、美し い街にするなど八つの 基本戦略が掲げられて いる。現 在は11年に策 定された「阿寒湖温泉・ 創 生 計 画2020」によっ てまちづくりが進められ ている。 りました。でも、海外のホテルは定価を基準に その中で、われわれが取り組まなければなら してオフシーズンは 5 割引き、ショルダーシーズ ない課題もあります。例えば、それで得られた ※6 ※6 ショルダーシーズン 通常期からオンシーズン (繁忙期、混雑期)に向 かう通常期よりもやや繁 忙になる時期のこと。ホ テルや航空業界などで は、1 年を通常期、オン シーズン、オフシーズン (閑散 期)、ショルダー シーズンの四つに分け て、ホテル料金や航空 運賃を設定している。 ン は 3 割引きなどの設定になっていて、わか 収益を原資にして、世界に通用する施設にリノ りやすいのです。加えてレベニュー・マネージ ベーションすることです。また、ハードだけで ※7 メント の考え方が導入され、稼働率に連動し はなく、ES(Employee Satisfaction)、従業員 た細かなレート・コントロールも実現しています。 満足度の向上が不可欠です。日本の基幹産業 さらに一部ではラックレートを廃止し、より市 として発展するためには、職員が夢を持って働 場に連動した10倍にも跳ね上がる変動率の大 けるような職場を作っていくことが必須で、今ま きい価格設定を採用する動きも出てきました。 さにそういう時代がやってきたと思っています。 しかし、日本の旅館はラックレートを大切にす べきであると考えています。品質に見合う定価 (宿泊価格の上限)という考え方が重要になっ ※7 レベニュー・マ ネージメント 需要予測を基に、販売 を制限することで収益 の拡大を目指す体系的 な手法。 ――いい意味での好循環が業界を動かす一つ の大きな力になっているようですね。 てきて、空き室の状況や時期に合わせて、定価 からどの程度の割り引きにするか、早く予約す 大西 それを後押ししているのがインターネット れば安くなる「早割り」など、お客さまからの とインバウンドです。ただ、全ての施設がそれ 信用を得る、わかりやすい合理的な価格体系 に対応している状況にはなっていません。その を持つべきであると考えています。 格差が広がりつつある状況だと思います。地域 旅館業界は経営が安定していないと指摘さ によっても大きな違いがあり、本州はインターネッ れることがありますが、それを改善するために ト比率が低く、北海道のほうが進んでいます。 は適正な価格帯をしっかり定着させていくこと 北海道はインバウンドも伸びているので、その が大切です。今まではなかなか自由にならな 点ではとても恵まれていると思います。 かったのですが、インターネットというツールに 東北のある経営者から聞いた話では、震災 よって、さらにインバウンドの拡大で客室が埋ま 前のある時期は新千歳空港と仙台空港がイン るようになり、稼働率が上がり、そのアプロー バウンドで50万人ずつと競っていたそうですが、 チができる環境になってきました。インターネッ 今はインバウンドの規模が15対 1 と、東北の旅 トとインバウンドの両輪で宿泊業の底上げがで 館経営は非常に苦しくなっているということでし きるようになってきたのです。 た。福島第一原発の事故の影響が大きいと思 いますが、災害や感染症、国際情勢などであっ という間に激変する環境になってきています。 常にその危険性への備えが必要だと痛感してい ます。 インバウンド受け入れの課題について ※8 バス不足問題 ――北海道では、バス不足問題※8が大きく取り 15ページ参照。 上げられました。インバウンド受け入れに向けて、 解決しなければならない問題は何でしょうか。 大西 基本インフラのWi−Fi整備が遅れてい 4 15.9 インバウンドと地 域の 観 光振 興 ることや雇用が逼迫してきていることが大きな ますが、これらの予約の伸びは尋常ではありま 課題になっています。特に雇用については、外 せん。国内では、じゃらん、楽天、るるぶ、 国人スタッフの確保です。例えば、弊社では外 一休といったサイトがよく使われていますが、弊 国人のお客さまが今年は20%になるだろうと予 社はどこのサイトにも同じ商品を出しています。 測しています。これは 5 人に 1 人の割合ですが、 弊社のこの春の予約の動きをみると、円安の 多い宿では 3 人に 1 人が外国人のお客さまに 影響もあるのでしょうが、外国のお客さまは高 なっていて、外国語が話せる職員が一定程度 いほうから買う傾向があります。質の良いものを いなければ、きちんとしたサービスにならない 提供すれば、海外の実勢と比較して割安感が 状況になってきています。単なる労働力として あるということだと思います。FIT※9 化が進み、 の雇用ではなく、きちんとしたおもてなしをする 品質の高いものを求める富裕層のお客さまが増 ための外国人スタッフが必要になってきている えていますから、ある程度のクオリティの施設 のです。また、外国人スタッフはキャリア志向 は圧倒的に足りなくなってくることが想定される や昇給条件など、明確な成果を求める傾向が ということでしょう。 あるので、雇用条件などもしっかり検討する必 要があるように思います。 ――品質の確保もこれからの大きなテーマです また、今は日本人スタッフも集まらなくなって ね。鶴雅グループの外国人スタッフは主にどん きている状況で、本州では経営問題になるほど な仕事をしているのですか。 逼迫した問題になっています。その要因は低賃 金、長時間労働ということがあります。バス不 大西 弊社は外国人幹部と女性幹部を意識的 足の問題は運転手が足りないことが大きな原因 に増やすことを目指していますが、ここはまだ ですが、これも観光産業全体のESに起因する 課題になっています。 と思っています。 海外からのインターネット予約を受け付ける 弊社は今年 5 月に創業60周年式典を開催さ 専属部署を札幌営業所に設けていますが、ホ せていただきましたが、そのときに申し上げた テル予約業務のほかに何割かはレンタカーやレ のは、今後生き残っていくためにはES向上が ストランの手配など、いろいろなサポートが求 欠かせないということでした。今年、来年と弊 められています。当初は大変だったようですが、 社では有給休暇の日数を 2 割以上増やす約束 そこで満足していただいたお客さまが新しいお をしましたが、同時に待遇も変えていく努力を 客さまをご紹介してくださることがわかりまし しています。 た。鶴雅に頼むときちんとサポートしてくれて安 インバウンドを増やしていくためには外国人 心だという評判が広がって、次のお客さまを呼 スタッフの確保が重要ですが、外国人労働者 び込んでいただけているという状況が見えてき の研修生制度の期間拡大に向けた国の動きな たので、今はその部門を強化しています。 どもあり、とても期待しているところです。 また、インバウンドについてはある旅行社の 北海道における観光政策への期待 方が、今後は一定水準以上の品質のホテルが 絶対的に不足するとおっしゃっていました。海 ――大西社長は北海道観光振興機構の副会長 外からのインターネット予約サイトでは、ブッキ も務めておられますが、今の北海道の観光政 ングドットコム、アゴダ、エクスペディア、中国 策について、どのように見ておられますか。 のシートリップ、日本のジャパニカンなどがあり 5 15.9 ※9 FIT Foreign Independent Tourの略で、航空券や 宿泊施設を個別に手配 する旅行のこと。 大西 北海道の観光政策は、予算も大幅に増 ――これからの北海道を支えていくのは観光産 額されましたし、良い方向に大きく変わってきた 業だという機運が、この10年ほどでやっと積み ことを実感しています。特に、地方創生の交付 上がってきたように感じます。 金を活用した事業では、移動距離300km以上 の遠隔地のバスツアーの支援、地方空港を利 大西 また、北海道観光振興機構の近藤龍夫 用する旅行商品の支援、札幌市を除いた観光 会長の存在も大きいと思っています。道経連の 施設や免税店で利用できる外国人旅行者向け 会長から北海道観光のトップへ、厳しい率先垂 のプレミアム旅行券の販売など、地域格差に目 範の姿勢に業界は大きく変わりました。行政側 を向けた取り組みが出てきています。また、北 との緊張感も保ちながらの切 磋 琢 磨 が、全体 海道新幹線開業をにらんだ観光地づくりの支援 の空気を変えたのではないかと感じています。 など、われわれが望んでいた施策がたくさん出 てきています。 阿寒湖温泉のまちづくり ――人口減少問題や地方創生といったテーマ ――ところで大西社長の地元である阿寒湖温 の中でも観光振興は中核をなす政策の一つに 泉では、 4 月から入湯税のかさ上げにより、自 なってきています。 主財源を確保できるようになりました。最近の 阿寒湖温泉の取り組みについてご紹介いただ 大西 北海道のこれまでの観光政策は農漁業 けますか。 と比較されてきました。ただ、北海道の一次産 業は歴史があるので絶対的な存在でした。予 大西 最近の大きな出来事は何といっても今お 算もケタ違いのもので、その壁は厚いものがあ 話のあった自主財源の確保です。これは13年 りました。ところが、ようやく観光が将来の北 がかりで実現できたものです。入湯税を10年間 海道の核になる産業だということをみんなが理 の特例措置として150円から250円に値上げした 解してくれるようになったのだと思います。過去、 のですが、差額の100円を基金に積み立てて、 観光は遊びの業界というか、産業としての重要 阿寒湖温泉のさまざまな観光振興事業に充て さが理解されてこなかった歴史があるように思 ていくことにしています。 いますが、今は大きく変わってきました。 その一つは国際的な観光地としての環境整 備です。具体的には阿寒湖温泉の玄関口として 阿寒湖温泉街を走る無料循環バス 「まりも家族バス まりむ号」 6 15.9 インバウンドと地 域の 観 光振 興 駐車場や園地、観光情報発信基地などを整備 大西 入湯税の値上げについては、ありがた し、フォレストガーデンとして構築することを想 いことにお客さまからの強いお叱りは一切あり 定しています。また、おもてなし事業として、す ません。とてもうまく離陸できたと思っています。 でに 4 月から循環バスの無料運行を始めていま また、行政の協力もいただいて有効な活用に向 す。同時に地域通貨「まりも家族コイン」を創 けての検討を進めているところです。今後は地 設して、宿泊客が協賛店や施設で特典を受ける 元でまちづくりを主導しているNPO法人阿寒観 ことができるようになっています。 光協会まちづくり推進機構の事務局体制も強化 今まで、将来の阿寒湖温泉のまちづくりにつ していく予定です。また、フォレストガーデンを いて地域の皆さんと話し合いを続けてきました 良い形で実現できるように、阿寒湖温泉地域の が、これまでは財源がないことから夢物語でし まちづくりの起爆剤の一つに組み込んでいきた た。でも、実現できる方策が見えてきました。 いと考えています。 インバウンドの伸びもこれを後押ししていま 弊社のまちづくりの取り組みとして、飲泉や す。インバウンドの勢いを売上増につなげられ 足湯などができる温泉広場のようなものを整備 ている業態とそうでないところが出てきていると することも計画しています。人が集まる場がで いう課題はありますが、お客さまが増えている きると、周辺の空き店舗も活用されるようにな ので、まち全体のムードが良い方向に向いてき るだろうと期待しています。 ています。 インバウンドがあと20万人増えて80万程度の ――阿寒湖温泉の取り組みについては、多くの 宿泊客を維持できれば、阿寒湖温泉地域のみ 地域から関心が寄せられています。全国、そし んなが潤えるような規模になります。そのため て世界に発信できる温泉地として、レベルアッ にこの基金を活用し、地域の魅力につなげてい プしていくことを期待しています。今日はありが くことが重要だと思っています。これまで「まり とうございました。 も」を世界遺産に登録しようと狭き門に取り組 んできました が、 これ からもIR(Integrated Resort:統合型リゾート)誘致などさまざまな可 聞き手 北海道大学公共政策大学院特任教授 小磯修二(こいそ しゅうじ) 能性にチャレンジし続けなければならないと考 えています。外国人の皆さんにも認められるよ うな温泉観光地になるためにも、まちづくりに しっかり取り組んでいかなければいけないと考 えています。そこで、基金をいかに活用してい くかがこれからの大きな命題です。 これまで壁になっていた地域のいろいろな課 題も、宿泊客数が増えていくことで突破口が見え てくることを実感しています。今は地域の気運が P R O F I L E 上がってきて、とてもいい雰囲気になっています。 ―― 新しい財源制度である基金については、 その運用に当たってのルールや検討の体制を しっかり構築しておくことが大切ですね。 大西 雅之(おおにし まさゆき) 1955年阿寒村(その後の阿寒町、現釧路市)生まれ。東京大学 経済学部卒業後、三井信託銀行(現三井住友信託銀行)を経て、 81年㈱阿寒グランドホテル入社。89年より代表取締役社長。観 光カリスマ百選(2003年 3 月認定) 、 (公社)北海道観光振興機 構副会長、NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構理事長。 釧路商工会議所副会頭、アイヌ政策推進会議委員なども務める。 7 15.9
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