エネルギー産業の話題

特
集
制裁下のロシアの貿易パフォーマンス
クライナとの関係の悪化の影響が大きくなっ
ている。ウクライナへのガス供給を一時停止
する、あるいは、ロシア産ガスのウクライナへ
の再輸出を阻止するため欧州への輸出を抑制
エネルギー産業の話題
する、といった措置をロシアが講じた関係も
あり、2014年の同国のガスの輸出量は前年を
◆Нефть◆Газ◆Уголь
◆Электроэнергия
200億㎥以上も下回る1,743億㎥にとどまった。
2015年に入ってからも輸出の減少傾向は続い
ており、第1四半期の輸出量は前年同期比
制裁を背景に進む
ロシアの石油ガス輸出シフト
ロシアの石油輸出に関しては、すでに数年前
19.4%減の435億㎥にとどまった(ロシア連邦
中央銀行のHPより)。
中国への石油輸出
から中国への傾斜が強まっていましたが、欧米
2009年に締結された輸出契約(20年契約)に
の対ロ制裁発動後は、インドやベトナムへの輸
基づき、ロスネフチは2011年から年間1,500万
出を強化しようとする動きも加速し始めていま
tの石油を太平洋パイプラインの中国向け支
す。また、ガス輸出に関しては、制裁発動後、中
線経由で中国に供給している。
国への輸出を強化しようとする動きが目立ち始
めています。
さらに、ロスネフチとCNPCは2013年夏に、
25年間で合計3億6,000万tのロシア産石油
今回は、そのような東方シフトの動きに着目
(年平均1,440万t)を追加で中国に輸出する
しながら、ロシアの石油ガス輸出の現状を紹介
ことを規定した新しい契約を締結している。
する。
この契約に基づく石油輸出はすでに2013年か
ら開始されており、同年には2009年の契約に
石油ガス輸出の最新動向
石油および石油製品の輸出に関しては対ロ
基づく1,500万tに加え80万tが太平洋パイプ
ラインの中国向け支線経由で追加輸出された。
制裁の影響はほとんど見受けられず、2014年
新契約に基づく中国への追加輸出量は、2014
の輸出水準は前年とほぼ同じであった(石油
年:200万t、2015~2017年:500万tというテ
の輸出量は約1,300万t減少したが、石油製品
ンポで増加し、ピーク時の2018~2037年には
の輸出量は約1,400万t増加した)。
年間1,500万tに達する予定となっている。す
2015年に入ってからは、ここ数年減少し続
なわち、2018年からは年間3,000万tのロシア
けていた石油の輸出量が増加に転じ、第1四
産石油が2つの長期契約に基づき中国に供給
半期の数字は前年同期比13%増の5,930万tに
されることになる(それに加え、スポット契約
達したが(ロシア連邦中央銀行のHPより)、そ
に基づき相当量の石油が中国に供給される可
の背景には、ルーブル安の他に、石油の輸出効
能性がある)
。
率の改善につながる新税制が2015年の年初よ
り施行されたという事情が存在する。
一方、ガス輸出の方は、欧州に輸出されるロ
シア産ガスの主要なトランジット国であるウ
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インドへの石油輸出計画
2014年12月のプーチン大統領の訪印の際に、
ロスネフチはインドのEssar社との間で、2015
ロシアNIS調査月報2015年9-10月号
エネルギー産業の話題
年から10年間にわたり年間1,000万tのロシア
その他、ロスネフチも2014年春に、Dung Quat
産の石油をインドに供給することを規定した
製油所に年間600万tの石油を供給する計画
仮契約を締結し(『コメルサント』紙、2014.
を発表している。
12.12)、その後、2015年7月に本契約を締結し
ている。ちなみに、インドへのロシア産石油の
中国へのガス輸出計画
供給は海路を利用して行われることになって
ロシアの西シベリアおよび東シベリアのガ
いるが、ロシアのどの海港を起点としても輸
ス鉱床を起点にロ中国境に至る長大なガスパ
送距離は長大となり、輸出の採算性の確保は
イプラインを2系列(西ルートと東ルート)建
難しいと判断される。この点からもわかる通
設し、ロシア産ガスを中国に輸出するという
り、ロスネフチとEssarの契約は、欧米への牽制
計画は約10年前から浮上し、両国の間で交渉
の意味合いを有する政治色の強いものである
が続けられていたが、双方の意見の隔たりは
可能性が高い。
大きく、手詰まり感が強くなっていた。
その他、ロスネフチとEssarは、2015年7月に、
ところが、欧米の対ロ制裁の発動を契機に
後者が保有するバディナール製油所の株式の
交渉は急激な進展を見せ始め、2014年5月に
49%を前者が取得する旨を記したメモランダ
は東ルート経由でのガス輸出に関する契約が
ムに署名している(法的拘束力を有する文書
締結された。この契約では、東シベリアのチャ
への署名は2ヵ月以内に行われる予定)。
ンダ鉱床およびコビクタ鉱床を起点として中
国に向かう「シベリアの力」とよばれる長さ約
ベトナムへの石油輸出計画
2013年末にロシアとベトナムは、ロシアの
国営石油会社「ガスプロムネフチ」がベトナム
3,200kmの新パイプラインを建設し、30年間に
わたり最大380億㎥/年のロシア産ガスを中
国に供給することが規定されている。
の製油所「Dung Quat」のオペレーターである
東ルート経由での輸出契約が締結された直
Binh Son Refining & Petrochemicalの株式の49%
後より、一時は完全に凍結されたと思われて
を取得し同製油所の近代化プロジェクトに取
いた西ルート(西シベリアのヤマロ・ネネツ自
り組むことなどを規定した政府間協定案に調
治管区の開発中の鉱床を起点として中国方面
印した。
に向かう新パイプライン「アルタイ」
)経由で
その後、しばらく具体的な動きはなかった
のロシア産ガスの輸出に関する交渉も再開さ
が、2014年11月にガスプロムネフチとBinh Son
れ、2015年5月にガスプロムとCNPCは、西ル
Refining & Petrochemicalの親会社であるペトロ
ート経由のロシア産ガスの中国への輸出の基
ベトナムは、ロシア・ペチョラ海のドルギンス
本条件に関する協定に調印している。ガスプ
コエ鉱床の開発に共同で取り組むことや、
ロムによれば、2015年末ごろまでに本契約が
2018年から年間600万tのESPO原油を太平洋
締結される見込みとされているが、一部には、
パイプライン経由でDung Quat製油所に供給す
「交渉が難航しており本契約の締結時期は未
ることなどを規定した協定を取り交わしてい
定となっている」との情報も出ている(
『ヴェ
る。さらに、2015年4月になりガスプロムネフ
ードモスチ』紙、2015.7.22)。
チは、Binh Son Refining & Petrochemicalの株式
の49%の取得に関する独占的交渉権をペトロ
(坂口 泉)
ベトナムから獲得している。
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