クロマグロ孵化仔魚の成長に伴う比重比較 ○岡本 杏子(近大農)・上土生 起典(近大農)・澤田好史・坂本 亘・村田 修・熊井英水(近大・水研) キーワード:クロマグロ 沈降死 比重変化 【はじめに】クロマグロは文化的、経済的に重要 な魚種であり、高速で大回遊する生物として知ら れているが、その生態はまだ明らかにされていな い部分が多い。近畿大学はクロマグロ完全養殖に 成功したが、孵化後の生残率はまだ低く、その原 因として初期減耗の割合が非常に高いことがあげ られている。初期減耗の要因の 1 つに沈降死があ る。孵化直後から起こる死亡要因で、沈降したま ま表層へ上がれず死亡してしまうというものであ り、浮き袋を作ることが出来ないのが直接の原因 とも言われるが未だ明らかではない。沈降・浮上 には個体の比重が大きく関係しているが、正確な 孵化後の個体比重変化を調べた報告はない。この 比重変化は海洋における孵化仔魚の分布・拡散を 知る上でも重要な基礎情報となりうる。日令に伴 う孵化仔魚の比重を明らかにする目的で、2003 年 8 月に近畿大学白浜種苗センターで、本種の孵化直 後からの比重変化を測定した。 【材料と方法】サンプル:供試魚は近畿大学大島 分室の天然親魚より 2003 年 7 月に産卵したクロマ グロ卵を用いた。孵化後採卵ネットで集めた卵を ナイロンの袋に入れ、さらに温度維持のため発泡 スチロールの箱に入れ種苗センターまで運んだ。 500l パンライト水槽で飼育し続けた仔魚から、毎 日正午に上層、中層、下層それぞれ 5 匹ずつサン プリングした。 比重の測定:1lのメスシリンダーに 2 種の粘性率 (η₁、η₂) 、比重(ρe1、ρe2)の異なる海水を 混合しないように注入し、鉛直的に 2 層を形成さ せた。個体をFA 100 で麻酔し、塩 分躍層のできたメ スシリンダーにピ ペットを使い一匹 ずつ落とし、上層 水 中 の 上 か ら 200mlと 400mlの ラインまで、境界 図:比重の異なる2層と沈 降する個体 を 越 え て 下 層 水 に 入 っ た 際 の 上 か ら 600ml と 800mlのラインまでの沈降速度を測定した。個体が 2 層を沈降する際の異なる沈降速度(v1,v2)か ら、 v1 η 2( ρf − ρe1) = v 2 η 1( ρf − ρe 2) 個体の比重ρfを求めた。 【結果】上層、中層、下層から採集した仔魚につ いて0日令から9日令まで測定した。それぞれの 日令と比重の関係は表に示した。 表:上層、中層、下層別の日令と比重の関係 比重 0 日令 1 日令 2 日令 3 日令 4 日令 5 日令 6 日令 7 日令 8 日令 9 日令 上1 1.0405 1.0235 1.0374 1.0401 1.0635 1.0405 1.0435 1.0473 1.0454 1.0455 上2 1.0476 1.0238 1.0282 1.0323 1.0431 1.0350 1.0459 1.0426 1.0578 1.0446 上3 1.0242 1.0282 1.0315 1.0332 1.0323 1.0412 1.0385 1.0420 1.0360 1.0379 上4 1.0271 1.0234 1.0291 1.0412 1.0358 1.0321 1.0398 1.0403 1.0436 1.0351 上5 1.1152 1.0492 1.0367 1.0285 1.0382 1.0309 1.0303 1.0445 1.0411 中1 1.0292 1.0231 1.0307 1.0317 1.0350 1.0359 1.0462 1.0415 1.0641 1.0448 中2 1.0241 1.0318 1.0291 1.0306 1.0364 1.0330 1.0388 1.0380 1.0438 1.0384 中3 1.0282 1.0266 1.0297 1.0321 1.0365 1.0343 1.0401 1.0417 1.0417 中4 1.0571 1.0261 1.0330 1.0297 1.0335 1.0363 1.0398 1.0385 1.0412 中5 1.0527 1.0279 1.0271 1.0310 1.0299 1.0409 1.0400 1.0415 1.0430 上6 1.0399 1.0412 下1 1.0230 1.0230 1.0410 1.0304 1.0268 1.0356 1.0412 1.0420 1.0417 1.0467 下2 1.0242 1.0230 1.0284 1.0367 1.0314 1.0364 1.0396 1.0373 1.0329 1.0450 下3 1.0309 1.0268 1.0393 1.0270 1.0348 1.0390 1.0403 1.0375 1.0450 下4 1.0257 1.0235 1.0271 1.0337 1.0311 1.0386 1.0381 1.0379 1.0375 1.0356 下5 1.0264 1.0347 1.0597 1.0378 1.0291 1.0329 1.0340 1.0423 1.0359 1.0406 1.0232 1.0290 下6 上層、中層、下層の0日令から9日令までの個体 の平均比重はそれぞれ、1.0370、1.0312、1.0322、 1.0337、1.0348、1.0351、1.0391、1.0411、1.0426、 1.0416 となった。日令とともに比重は増加した。 上層、中層、下層のグループごとに Kruskal-Wallis の検定を行ったところ、各グルー プ間には有意な差は見い出せなかった(P>0.05)。 【考察】0日令の比重は上層と下層で大きく異な る。0から1日令にかけては急激に卵黄を消費し て発育する(摂餌は2−3日令から) 。したがって この時期の比重も急激に変化すると思われる。上 層か下層かいずれかの層の仔魚がより発育の進ん だ個体なのであろう。孵化は全て同時におこるわ けではないので、このような差が生じたと考えら れる。3日令で比重が急に大きくなっているのは 摂餌を開始したからであろう。3日令以降で、上 層と下層の個体で比重が少し異なる(下層の個体 の方が小さい)のは、もしかすると下層の個体は 何らかの理由で摂餌ひいては成長が不良である弱 った個体である可能性が考えられる。今後は更に 個体数を増やしたより正確な比重を測定する必要 がある。
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