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【琉球大学理学部紀要】
【Bulletin of the College of Science, University of the Ryukyus】
Title
沖縄本島における空間γ線線量率の自動車走行サーベイ
Author(s)
喜納, 正剛; 平岡, 久枝; 石川, 慎之助; 新垣, 玲奈; 藤谷, 卓
陽; 城間, 吉貴; 古川, 雅英
Citation
琉球大学理学部紀要 = BULLETIN OF THE FACULTY OF
SCIENCE UNIVERSITY OF THE RYUKYUS(97): 39-45
Issue Date
URL
Rights
2014-03-31
http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/handle/123456789/28894
沖縄本島における空間γ線線量率の自動車走行サーベイ
39
沖縄本島における空間γ線線量率の自動車走行サーベイ
喜納正剛1),平岡久枝1),石川‘慎之助2),新垣玲奈1),藤谷卓陽1),城間吉貴1),古川雅英2)*
1)琉球大学大学院理工学研究科
2)琉球大学理学部物質地球科学科地学系
Car-bornesurveyofterrestrialgammaradiationdoserate
inOkinawaIsland,J叩an
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YoshitakaShiromaandMasahideFurukawa*
Abstract
TheabsorbeddoserateinairduetoterrestrialgammaradiationinOkinawa-jima,mainislandof
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bycar-bornesurveywithNal(Tl)scintillationsurveymeter.Basedonthedatathatwereconvertedinsideinto
outsidethecar,themean,minimumandmaximumoftheoutdoordoseratesonthepavementwerecalculatedto
be19.0,10.4and47.7nGyh*,respectively.Alsoacontourmapofthedoseratewasmadebysimple
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thesouthernone.
1.はじめに
沖縄県には比較的高い自然放射線・放射能レベルを呈する地域が存在している.例えば,空
間γ線線量率の全国平均値が50nGyh"'(古川,1993;FurukawaandShingaki,2012)であるのに
対し,沖縄本島読谷村の一部や宮古島,北大東島,南大東島などには100nGyIT'以上(最大165
nGyh ')の線量率を呈する地点・地域がある(古川.床次,2001;古川ほか,2005;益田ほか,
2009.
また,屋内大気中ラFン(*"Rn)の年間平均濃度の全国平均値が15.5Bqm"*であるのに対
し,沖縄本島読谷村には200BqnT3以上の家屋が存在しており,これは日本分析センターが実
施した全国ラドン濃度調査における最大値になっている(Sanadaetaノ.,1999).さらに,読谷
村における別の調査では,屋内ラドン濃度の1時間値の最大が1000Bqm"^に達する家屋の存
在が認められている(Sorimachietαノ.,2009).
これらの比較的高い線量率やラドン濃度を呈する要因の一つとして,中国南東部の高自然
放射線レベル域を主な起源地とする風成塵(いわゆる黄砂)の最終氷期における沖縄への飛
来・堆積が示唆されている(古川.床次,2001;古川ほか,2005;Furukawaetal.,2005).つま
り,表層地質とその風化残積物である土壌母材に含まれる天然放射’性核種以外に,他域から風
送付加された天然放射'性核種が沖縄県の自然放射線レベルを規定する要因の一つになってお
り,上記以外の未調査地域においても,比較的高い自然放射線レベルになっている可能,性が指
摘される.
そこで本研究では,沖縄県における自然放射線レベルの空間分布の詳細を把握する一環と
*[email protected]
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して,那覇市(本村ほか,2009)と読谷村(益田ほか,2009)を除いてこれまで調査が不十分で
あった沖縄本島において,自動車走行サーベイによる空間γ線線量率の測定を行った.走行サ
ーベイは,短時間で広域の線量率測定を行うモニタリング手法として一般に行われており,本
研究では標準的な手法(湊,1995)に準拠して測定を実施した.得られた線量率の地理的分布
などについて報告する.
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図1空間γ線線量率の測定ルート(一般道路における測定地点)
2 .地
地勢
勢と
と地
地質
質。
。土 壌 分 布 の 概 要
妾
沖縄本島の全長は南北約100kmであり,面積は約1,200km"である.
沖縄本島の全長は南北約100kmであり、面積は約1,200km-である.幅が最も狭くなる恩納
村仲泊とうるま市石川を結ぶ線(図1)を境として,地形的に,北側は与那覇岳(503m)を最
高標高とする山地であるのに対し,南側は標高200m以下の小規模丘陵・平野部になっている
以下では便宜的に,この境界線を境として沖縄本島を北部と南部に区分する.
沖縄本島における空間)ノ線線量率の自動車走行サーベイ
1
1
北部の表層地質は,頁岩・千枚岩・砂岩からなる名護層と嘉陽層を合わせた国頭層群を主体
とするが,本部半島(図1)は石灰岩・チャート・緑色岩からなっている(木崎,1985).南部
は,シルト質泥岩・砂岩からなる島尻層群と,これを基盤として第四紀更新世に堆積したサン
ゴ礁起源石灰岩(琉球石灰岩)を主体とする琉球層群からなる(木崎,1985),
沖縄県に分布する土壌は,伝統的に国頭マージ(黄褐色土壌),ジヤーガル(灰色土壌),島
尻マージ(暗赤色土壌)の3種類に大別されている(渡嘉敷,1993).国頭マージは,国頭層群
の風化残積物を主たる土壌母材として北部に広く分布している.南部には,島尻層群の風化残
積物を主要母材とするジヤーガルと,琉球層群上に堆積した島尻マージが主に分布している.
島尻マージの主要母材は,従来は琉球層群の風化残積物だと考えられてきたが,最近では前述
した風成塵説が有力である.
3.測定
1.5"の×2.2"NaI(Tl)サーベイメータ(EXPLORANIUM製miniSPEC)を自家用車の助手席に搭
載し,一般道路(国道,県道など)および沖縄自動車道において走行サーベイを実施した.測
定時間を60秒として走行中に連続測定を行い,線量率指示値(単位はnGyl-T')とGPS(GARIVI1N
製eTrexLegendCx)による位置情報を60秒毎に記録した.これに加えて,車体によるγ線の
遮蔽効果を見積もるため,計12地点で車内と車外で比較測定を行った.なお,車内における測
定器の設置高は地表から0.7mであり,車外における測定は地表から1mの高さに測定器を支持
して行った.また、これら全ての測定は,大気中のラドン子孫核種のレインアウトやウオッシ
ュアウトによる地表における線量率上昇の影響を避けるため,雨天以外の日に行った.
4結果
2011年12月から2014年1月の間に,一般道路の4967地点,沖縄自動車道の73地点,計5040
地点においてデータを得た.ここで測定地点とは,測定時間60秒間に走行した区間の中間地
点を指す.図1に,沖縄自動車道を除く一般道路での測定地点を示す.
また,車内・車外の比較測定から,車内値を車外値に換算するための係数1.51を得た(図2).
本研究では,この係数を車内値に乗じて道路上の車外値(屋外値)に換算した.さらに,この
車外値と,これまでに沖縄県下で得られている/〃s〃〃測定の結果(古川・床次,2001ラ古川ほ
か,2005;益田ほか,2009;本村ほか,2009)との比較を行うため,標準線源で較正された3"A
x3"Nal(T¥)サーベイメータ(Aroka製JSM-102)による値に換算した.この換算には,益田ほか
(2009)による係数079を使用した.以下では,これらの換算を経た値を空間γ線線量率とし
て結果を示す.
空間γ線線量率の算術平均値等を表1に示す.算術平均値は,一般道路(19.0nGyIT')に
較べて沖縄自動車道で高い値(24.9nGyIT')となった.これは,沖縄自動車道ではアスフア
ルト混合物(路盤材)として砂岩を使用しているのに対し,一般道路では,γ線源である天然
放射性核種の濃度が極めて低い(益田ほか,2009;本村ほか,2009)コーラルリーフロック(琉
球石灰岩)を使用している(日本道路公団沖縄建設所,1976;鏡波,2001)ためだと推定される
そこで以下では,沖縄自動車道を除いた一般道路におけるデータのみを用いて線量率分布の
特徴について述べる.
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︵一上曇匡︶埋本冊
20
15
+
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10
1 2 1 4 1 6
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車内値(nGyh"')
図2車内測定値と車外測定値との関係.
表1
自動車走行サーベイによる舗装路上の空間γ線線量率(車外値)
測定地点
一般道路
沖縄自動車道
測定地点数
算術平均値士標準偏差
単位はnGyhi.
最小値
最大値
4967
19.0士4.4
10.4
47.7
73
24.9士3.0
18.5
32.9
一般道路で得た4967地点のデータにより,5nGyIT'間隔の線量率等値線図を作成した(図
3).線量率の最大値(47.7nGyh ')は北部の山間部におけるものであり,国頭層群が分布す
る北部で線量率が高く,島尻層群・琉球層群が分布する南部で低くなる傾向が認められた.た
だし,北部であっても本部半島については線量率が比較的低く,線量率の最小値(10.4nGy
h-')は本部半島の付け根付近の低地において測定された.
次に,土壌分布と線量率分布との関係を示す.一般道路の各測定地点における土壌分布を土
壌分類図(国土庁,1983)から読み取り,土壌別に線量率の算術平均値±標準偏差を算出した.
その結果,国頭マージ分布域では21.7±5.8nGyh"'(n=1358),ジヤーガル分布域では17.6
2.7nGyh"'(n=2156),島尻マージ分布域では18.5±3.3nGyh"'(n=1029)となった.な
お,南部を中心に都市開発や農地改良が進められていることから,国土庁(1983)に示された
土壌分布と現況とでは大きく異なる場合があり,今後は線量率のinsi加測定に加えて現地観
察による土壌分布の確認調査も必要であると考えられる.
沖縄本島における空間)ノ線線量率の自動車走行サーベイ
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45<47.7
40−45
35-40
30−35
25−30
0
20-25
15−20
10.4<15
nGyh')
図3空間γ線線量率(車外舗装路上)の分布.
今回の測定は,2011年3月に生じた東京電力福島第1原子力発電所の事故以降に行われたこ
とから,事故以前のデータと比較して沖縄本島における事故影響の有無を若干検討-した.2006
年−2007年に線量率分布の概要を把握するために沖縄本島で実施された走行サーベイの結果
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では,一般道路における全966地点の車外値による算術平均値士標準偏差は19.1+4.5nGy
h-'であった(平岡,2008MS).これは,幹線道路を中心にほぼ全島をカバーした測定結果に
基づくものであり,地点数は少ないが,今回の結果(19.0±4.4nGyh"')に一致している.し
たがって,沖縄本島においては,原発事故影響による空間γ線線量率の変動は無かったと判断
される.
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