0 6 コミュニティスポーツの現場から 自閉症スペクトラムのある児童のためのスポーツワークショップの開発と スポーツワークショップを通したコミュニティ形 成のためのプログラム開発 ~実践を通して学びの場を創るスポーツワークショップ~自閉症にやさしい社会を目指して~ 金沢大学子どものこころの発達研究センター 特任助教 竹 内 慶 至さん (2013 年、 2014 年 調査 ・ 研究助成) 話 し 手 : 竹 内 慶 至 さ ん (金沢大学子どものこころの発達研究センター・特任助教) 田中早苗さん(放課後倶楽部フロンティア・ 施設長) 近年、 知的には問題はなくても、 自閉的な傾向 をもつ人たち (高機能自閉症 ・ アスペルガー症候群) の存在が 顕在化していますが、 社会の認知や理解は十分には進んでおらず、 地域に おける受け皿も整っていません。金沢大学子どものこころの発達研究センターでは、 自閉症にやさしいコミュニティの形成と地域リーダー育成のための教育プログラムの 一環として、 学生主体で自閉症の子どもの学びと社会参加ためのワークショップの 開発を進めています。 学生をサポートする竹内慶至先生と田中早苗さんにお話を 伺いました。 ●なぜ、コミュニティスポーツ推進助成プログラムに応 募されたのですか? 竹内:以前から自閉症に関して、自閉症児やその親、学 メンバーのみなさん。 後方右から 田中さん、 竹内さん。 校の先生だけが関心を持っていても駄目だろうという問 題意識がありました。自分には直接関わりが無いと思っ ●なぜ、この活動に取り組もうと思われたのですか? ている人、本当は関わりがあるのに気づかない人に目を 竹内:ことの始まりは社会技術研究開発センターの「自 向けてもらうことが重要です。 閉症にやさしい社会」というプロジェクトです。自閉症 大学の教育と「自閉症にやさしい社会」の取り組みを スペクトラム、特に高機能自閉症やアスペルガー症候群 組み合わせて、新しい切り口でプログラムをつくりたい は、制度として包摂されていない部分があります。重い と考えていました。ちょうどこの助成プログラムを目に 自閉症の人々は施設や医療機関でのケアを受けています。 して、スポーツを核としたワークショップの手法を用い、 しかし、社会の中には障がいとは診断されないけれど、 大学における自閉症にやさしいコミュニティづくりの その可能性があるグレーゾーンの人や、知能は高いけれ 取っ掛かりにしようと応募しました。 どコミュニケーションが不得意な人もおり、社会的な対 また、私はもともと大学教育に興味がありました。教 応が必要です。自閉症は決定的な治療法が無く、何らか 員養成大学に在籍していた当時から、大学教育がこのま の社会生活上の困難を抱えたまま社会の中で生活をして までは駄目だ、何とかしたいと思っていました。教育者 いかなくてはならないからです。 という立場になって、何ができるか、学生のマーケティ このプロジェクトは、共生と治療の視点から、市民・ ングから始めました。やる気があって今の大学では物足 研究機関・行政が、社会で何をしていけば良いのかを共 りないと感じている学生を 10 人くらい集めてプレゼンを に考える場をつくり、最終的に実践に結び付けることを したこともあります。この助成を受けることで、学生た 目標としていました。 ちにこんなことをやるけど、どう?という、誘いのきっ 3 年半の研究の成果として、対話の場となる市民の会や、 かけになると思いました。 サイエンスカフェ等の幅広い活動を行いました。放課後 田中:自閉症の人は、不器用でスポーツに苦手意識のあ 等児童デイサービスを行っている「放課後倶楽部フロン る人が多く、親御さんも気にしています。知的活動系ワー ティア」は、ここで出会った人たちが立ち上げ、社会実 践のひとつとして生まれたものです。 田中:私は NPO 法人アスペの会石川のサブディレクター としてプロジェクトに協力していました。自閉症の人は 社会に普通にいます。家族や同僚にいたりと、あらゆる ところで関わる機会があります。そのため、当事者や支 援団体だけではなく、一般市民を巻き込む多様な実践が 必要だと思います。 ワークショップに関するレクチャー できるか、どんな動きをするか、多くの発見があります。 ワークショップに続けて参加している子は、楽しいから 参加するので、本人にとっても活動の広がりがあったと 思います。人に合わせて活動することが苦手なので、他 の活動にはあまり参加しないけれど、ここでは安心して 自分をさらけ出せます。自分はスポーツをやっているん だ!という気持ちが自信にもつながっています。 ワークショップの様子 ●今後の展開、ビジョンについてはどのようにお考えで クショップのような皆で話し合うことは苦手でも、体を すか? 動かすことが好きな子はいます。アスペの会でトランポ 竹内:目標は、私が関与しないで“心和”の活動が続く リンやマジック等のクラブ活動を行ったことがあるので ことです。今はまだ私がお膳立てしたり、間を取り持っ すが、このワークショップでも、楽しく体を動かせて、 たりすることがあります。教育が上手くいったか、いか 皆に合うものが探せたら良いなと思いました。 ないかは自分の手を離れてやっていけるかどうかで、そ こは明快です。それが定着ということです。今年 3 月、 ●成果としてはどのようなことが分かりましたか? 中心になって動いていたサークル長が抜けることになり、 竹内:助成 1 年目は、スポーツワークショップの担い手 学生たちと活動を続けるかどうかの話し合いをしました。 である学生の組織化に取り組みました。ワークショップ 彼ら、彼女らは続けることを選択しました。 サークル“心和”を立ち上げ、週に 2 回はミーティング スポーツワークショップの効果検証については、数値 をしていました。参加する学生は、こうしろ、ああしろ 化する難しさがあります。ただ、ビデオデータを見ると 1 と指示されることを好まない学生が多いので、初めは授 回目と今回では、子どもたちの変化は明らかです。タッ 業後に集まり、食事をしながら、どのようにワークショッ チボールのやり方も全然違います。最初はスポーツとし プを創り上げていくか、何時間も相談していました。 て成り立つのかと思っていたぐらいです。 学生たちは押し付け型の教育が嫌で、自分たちで創っ また、私たちがこれまでやってきたことの成果を社会 ていくことを良しとしているため、放課後倶楽部フロン に還元していくことが必要だと考えているので、現在ワー ティアの活動に合っていたと思います。また、私が持つ クショップ本を制作しています。一般の人に広く知って 教育の考え方と、フロンティアのやり方が親和的だった もらえるように、手に取りやすいけれども専門的な内容 ので、取り組みが上手くいったと思います。 を含みつつこれからの社会づくりに繋がるようなものに 田中:最初の頃は、私たちが学生にアドバイスすること したいです。 もありましたが、できそうだなと思ったら、あまり口だ しせずに任せていきました。 <インタビューを終えて> 竹内:まずは、教育プログラムとして、スポーツワーク この日はワークショップが行われていた。 “心和”のメンバー、社会コミュ ショップを創り上げたいと考えています。大学のカリキュ ニケーション入門を履修している学生、見学の大学院生計 6 名に、放課後 倶楽部フロンティアの子どもたちとスタッフが加わり、全体の進行役は学 ラムに連動した地域リーダーを育成するプログラムの開 生が務めるが、大人も子どもと同じ目線で、参加者全員で話し合いながら 発だけではなく、学生が自律的に活動できるものにした ゲームを進めていく。 ワークショップ終了後のミーティングでは、プログラム内容や時間配分、 いです。学生は自分たちで考えて何かをするという経験 個々の子どもへの対応を丁寧に振り返る。特に子ども同士のいざこざにつ が足りないので、このワークショップで、自閉症の子ど いて、どうしてそういう行動をとったか、今回のことが子どもたちにとっ もたちが変わるだけではなく、学生自身も変わる機会に てどういう意味を持つか、次に同じような状況になったときどうするか、 細かな点まで話し合い、時にスタッフからアドバイスが入る。 なったら良いなと思います。本当に自律的と言うなら、 学生は自らの実践をとおして自閉症について理解を深め、子どもは新た 助成の申請書を書くことから学生がやるのがベストです な経験を得る。出会いと対話による学びは、一人ひとりの成長につながる。 が、なかなかそこまでは至っていません。 田中:自閉症の子どもたちに関しては、普段ワークショッ プを行う機会が無いので、運動するときにどんなことが スポーツワークショップが学生の自律的な活動となり、多様な人間が共生 できるコミュニティづくりに結びつくことを期待したい。 〔インタビュー・2015 年 6 月 7 日(日)於:金沢市教育プラザ富樫(石川 県金沢市富樫) 文責:帝京大学冲永総合研究所 谷本都栄 〕 ―研究者プロフィール― 竹内 慶至(たけうち のりゆき) 田中 早苗(たなか さなえ) 大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。 博士 (人間 科学)。 現在、 金沢大学特任助教。 大阪大学大学院 ・ 大阪大学 ・ 金沢大学 ・ 浜松医科大学 ・ 千葉大学 ・ 福井大学連合小児発達学 研究科専任助教を併任。 編著書に 『自閉症という謎に迫る』 (小 学館)。 専門は社会学。 大阪大学大学院連合小児発達学研究科金沢校博士課程満期単位 取得退学。 現在、 NPO 法人アスペの会石川 ・ 金沢エルデの会サ ブディレクター、金沢大学子どものこころの発達研究センター研究員。 言語聴覚士。 スミセイ コミュニティスポーツ推進助成プログラム 2014
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