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特集/塗り壁の特性・効果をあらためて考える
小舞土壁の力学特性に
影響を及ぼす要因
早稲田大学 創造理工学部建築学科助手 山田 宮土理
性に対する小舞下地の仕様や、壁土材料の性質、塗付け
1.はじめに
方法の影響を明確にし、元来の小舞土壁の有する優れた
小舞土壁は、木製の柱・横架材・貫、竹を格子状に編
靭性を生かす条件を見出すことが求められる。
んだ下地、および壁土の塗付け層からなる日本の伝統構
本稿では、小舞土壁の構造特性と関係する力学特性に
法である。使用材料のほとんどが天然素材であり、環境
対して影響を及ぼす要因を検討した結果を紹介する。
負荷の低減や室内環境の快適性向上などに有利な点が見
直され、戸建住宅等への採用が期待されている。高い品
2.地震に対する小舞土壁の抵抗機構 1)
質・性能の求められる現代においては、第一に地震に対
する安全性の確保が必要であるが、土壁は地域によって
構造特性の向上のためには、まず、小舞土壁が地震に
実現可能な構造耐力の格差が大きく、現状では、構造耐
対してどのように抵抗するのかを整理する必要がある。
力を低く評価せざるを得ない。そのため、土壁の構造特
抵抗機構の分析は既往研究 2)でなされているが、これに
①隅角部
柱と横架材に囲まれた隅角部の土壁層が、軸組に圧密される
ことによる抵抗
貫の上下面の荒壁層が、貫に圧密される
ことによる抵抗
梁
→土壁層の乾燥収縮によ
り生じるちり際の隙間が
埋まってから抵抗開始
柱
③間渡竹
②貫
→荒壁層の乾燥収縮により生
じる貫の上下の隙間が埋まっ
てから抵抗開始
貫の位置
ちり際の
隙間
荒壁層の貫の
上下に隙間
③間渡竹周辺の荒壁層が、間渡竹にこじ
られる(割り裂かれる)ことによる抵抗
④小舞竹
P
大変形時に小舞竹が軸組にめ
り込むと、小舞竹が拘束され、
小舞竹周辺の荒壁層がこじら
れる(割り裂かれる)
P
[小舞土壁の水平加力実験の様子]
[横竹側]
[縦竹側]
間渡竹
→間渡竹端部を差し込むために設けた
欠き込み穴と、間渡竹との隙間が埋
まってから抵抗開始
間渡竹と
欠き込み穴との
隙間
柱
→小舞竹端部と
軸組との隙間が
埋まってから抵
抗開始
小舞竹
小舞竹端部と
軸組との隙間
欠き込み穴
図1 水平力を受けた小舞土壁の抵抗要素
36
Vol.40
No.478 2015-5
塗り壁の特性・効果をあらためて考える
横竹側
塗り付け層
縦竹側
横竹側
抵抗要素
中塗層
荒壁層
荒壁層
中塗層
①隅角部
○
○
○
○
②貫
―
○
―
―
③間渡竹
―
○
○
―
④小舞竹
―
○
○
―
縦竹側
中塗層
中塗層
荒壁層
荒壁層
貫
小舞下地
[小舞土壁の断面]
【凡例】○:抵抗する ―:抵抗しない
図2 塗付け各層における抵抗要素
[隅角部周辺での破壊]
[貫周辺での破壊]
[荒壁層の表裏のはく離]
図3 大変形時に生じた塗付け各層のはく離の例
加え、土壁が複数の塗付け層で構成される※ 1)ことに着
側の荒壁層および中塗層の 4 層の塗付け層では、それぞ
目し、各層の抵抗機構を把握した。木製の軸組・貫およ
れ抵抗要素が異なっている。つまり、地震時に、塗付け
び土壁層からなる壁試験体を用いて、正負交番静的水平
各層は異なる挙動をしており、これにより大変形時に塗
加力実験を行い、加力中および加力終了後に現れる破壊
付け各層の層間ではく離(図3)を生じることが明らかと
性状を詳細に分析した。
なった。
その結果、水平力を受けると軸組の変形に伴って土壁
層が回転し、図1に示す①隅角部、②貫、③間渡竹
※ 2)
および④小舞竹※ 3)の 4 つの要素が抵抗することが確認
以上より、抵抗要素に存在する隙間や、塗付け各層に
用いる壁土の性質、層厚等が、小舞土壁の力学特性に影
響を及ぼすことが予測できた。
できた。①~④の抵抗要素には、隙間が存在するため、
抵抗開始のタイミングがそれぞれ異なっている。①隅
角部および②貫では、壁土の乾燥収縮により生じるちり
3.小型の要素試験体を用いた
各種要因の検討 3)4)
際および貫上下の隙間、③間渡竹では、間渡竹の寸法の
ばらつき等により生じる間渡竹端部と軸組に設けた欠き
そこで次に、多数の要因を検討するため、30cm 角の
込み穴との隙間、④小舞竹では、軸組内に納まるよう切
小型要素試験体を用いて、対角を加力するせん断実験(図
断することにより生じる小舞竹端部と軸組との隙間があ
4)を行った。間渡竹と欠き込み穴との隙間の有無(図
り、抵抗開始のタイミングは、これらの隙間寸法に依存
5)、荒壁土および中塗土の調合、壁厚 70 ㎜を構成する
している。
荒壁層と中塗層の層厚比の異なる計 36 体の試験体を用
また、図2のように、土壁層を構成する横竹側・縦竹
いた。
Vol.40 No.478 2015-5 37