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RSJ2015AC3G1-07
幾何学的皮膚変形モデルを用いた
身体順動力学シミュレータの開発と介護機器評価への応用
吉安祐介
○鮎澤光
吉田英一
松本吉央
1. はじめに
遠藤維(産総研)
効果安全目標
効果安全目標
開発コンセプトシート
一日の生活の中での課題の明確化
現在の福祉機器開発は,設計,プロトタイプ作成と
評価を繰り返す試行錯誤的方法がとられるため,開
発過程が長期にわたることが多い.機器開発過程を
効率化し,より良い福祉機器の提案につなげ,それら
を広く社会に普及していくためには,機器の効果,安
全性や使用時の身体負担を事前に把握する技術が不
可欠となる.このため,仮想環境内に生成した設計案
を人間工学・生体力学的基準によって評価できる人
体シミュレータは非常に有用である.これまで自動
車の分野では,衝突時の人体の運動や変形挙動を把
握するため,有限要素法(FEM)を用いた人体シミュ
レータが用いられてきたが,この方法は多大な計算
時間を要するため,複数の設計解を評価するような
大規模なシミュレーションには向いていない.本研
究では,剛体リンクモデルと幾何学的皮膚変形モデ
ルを組み合わせた,より効率的な人体順動力学シミ
ュレータを開発し,福祉機器評価への応用を試みた.
「している活動」での検証
目標となる「活動」の明確化
「できる活動」での検証
人との関係
要素動作での検証
要素動作の明確化
要件定義
妥当性確認
システム検証
システム設計
ハード・ソフト設計
モジュール化設計
ハード・ソフト試験
モジュール試験
プロトタイプ作成
人間による使用状況を模擬
•
ロボット
•
シミュレーション
基準コンソーシアム
ロボット介護機器開発・導入促進事業では,ロボッ
ト介護機器の開発・検証の V 字モデルを提案してい
る(図 1 上).このモデルでは,設計において機械
的な有用性・安全性を満たすための「性能」を定義し
(要件定義),機器においてこれらが充足されている
か検証する(妥当性確認)こととしている.V 字モデ
ルにおいて,「要件定義」と「妥当性確認」より下流
のレベルでは,機器のシステム,ハード・ソフトおよ
びモジュールの設計・検証を扱っている.一方,これ
より上流のレベルでは,人との関係により生じる「効
果」の設計・検証を扱う.つまり,「性能」は機器自
体の機械的な安全性・有用性を示し,「効果」は人間
が機器を使う際の機器の評価指標として用いられる.
本シミュレータの開発と V 字モデルの関係を図1
下に示す.ICF(国際生活機能分類)モデル に基づい
て目標とする効果が定義される.また,生活の中での
課題,目標となる「活動」,さらにそれを構成する 「要
素動作」を明確化し,機器を設計するための要件が定
義される.一方,機械的な性能の「妥当性確認」が行
われた機器を用いて,抽出された「要素動作」を人間
が行う際,機器との直接的なインタラクションによ
り負担軽減効果や接触の影響などの物理的効果が生
じることとなる.ロボット介護機器にとって,これが
第33回日本ロボット学会学術講演会(2015年9月3日~5日)
効果基準
要素動作の測定
効果の定量評価
要素動作の明確化
人との関係
要素動作での検証
機器の機械的性能
2. 研究の位置づけ
関係する範囲
工学システム
設計改良支援
工学システム
要件定義
妥当性確認
開発事業者
有用性・安全性に関する機能要求
有用性・安全性に関する性能要求
図1
プロジェクト内の位置づけ
人との関係における最初の接点となる.産総研では,
このような機器と人とが相互に作用する際の力学的
な効果の解析と定量的評価が評価試験手法の第一歩
と考え,そのための装置・手法の開発を進めている.
本シミュレータは,介護動作模擬ロボット[1]と並び人
間による使用状況を模擬し機器の力学評価を行う評
価試験手法の一つとして本事業で開発されている.
3. 身体順動力学シミュレータ
本シミュレータは,剛体リンクで構成された骨格
モデル,幾何学的皮膚変形モデル,機器モデルおよび
接触モデルからなる.骨格モデルとその順動力学シ
ミュレーションには,山根らの方法[2]を用いた.効率
的に皮膚変形を実現するために,コンピュータアニ
メーションの分野で用いられる幾何学的皮膚変形モ
デル(スキニング)[3]を採用した.スキニングでは,
以下の計算式で皮膚上にある頂点 pi を変形する.
RSJ2015AC3G1-07
平行サポート
傾斜サポート
結果と定性的にパターンが一致することが確認でき
た.なお,計算時間は,Intel Core i7 3.4GHz 64-bit の
ワークステーションで,1 秒のシミュレーションを行
うのに 5 分程度であり,一般的な FEM よりも高速で
ある.今後は,パラメータ同定手法を用いてより妥当
性の高い身体と機器の物理パラメータを探索すると
ともに,本シミュレータを活用した機器軌道や形状
の最適化手法を構築する.
図 2 剛体機器のシミュレーション結果
参 考 文
計測
シミュレーション
図 3 圧力分布推定の評価
𝐩𝑖 = ∑𝑗 𝑤𝑖𝑗 𝐓𝑗 𝐩0𝑖
(1)
ここで,𝐩0𝑖 は変形前の頂点位置,𝐓𝑗 はリンク j の剛
体変形を表す同次変換行列,𝑤𝑖𝑗 はリンク j の頂点 i
に対する影響度を調節する重み付けである.本手法
では,計算の高速化を図るため,FEM のように身体
内部の変形は考慮せず,接触外力を直接関節に対し
てマッピングする.接触外力 f から関節トルク τ へ
のマッピングは,それらを関連付けるヤコビアン J
を式(1)より導出し,τ = JTf で実現できる.
本研究では,剛体リンク型機器とスリング型機器
の2種類の機器をシミュレーション対象としてモデ
リングした.剛体リンク型機器は,車椅子などから
の移乗を支援する機器であり,機器の軌道は並進と
回転運動を直接与えることでモデル化した(図 2
右).スリング型機器は,ベッドからの移乗を支援
するもので,図 3 のようにスリングシートと二つの
支持棒でモデル化した.スリングシートは,バネマ
ス変形モデル[4]を用いた.接触判定は,KD 木を使
用して高速化し,接触力の推定にはペナルティー法
[5]
を用いた.
4. シミュレーション結果
図 2 右に剛体リンク型機器のシミュレーション結
果を示す.身体サポート部を平行にすると身体が滑
り落ち,7 度傾斜させると安定して身体を挙上できる
という経験的に比較的妥当な結果を生成することが
できた.また,スリングシート型福祉機器の圧力分布
をシミュレーション結果から推定し,実計測圧力分
布と比較した(図 3).その結果,推定結果は実計測
第33回日本ロボット学会学術講演会(2015年9月3日~5日)
献
[1] K. Ayusawa, S. Nakaoka, E. Yoshida, Y. Imamura, T.
Tanaka: Evaluation of assistive devices using humanoid robot with mechanical parameters identification. Humanoids
2014: 205-211
[2] K. Yamane and Y. Nakamura,Efficient parallel dynamics computation of human figures, in Proceedings of
the 2002 IEEE International Conference on Robotics and
Automation, ICRA 2002, May 11-15, 2002,
Washington, DC, USA, 2002, pp. 530–537.
[3] J. Lewis, M. Cordner, and N. Fong,Pose Space
Deformation: A Unified Approach to Shape Interpolation
and Skeleton-driven Deformation, Proc. SIGGRAPH,
pp. 165–172, 2000.
[4] T. Liu, A. W. Bargteil, J. F. O’Brien, and L. Kavan, Fast
simulation ofmass-spring systems, ACM Trans. Graph., vol.
32, no. 6, pp. 214:1–214:7, Nov. 2013.
[5] P. Guan, D. Reiss, L.and Hirshberg, A. Weiss, and M. J.
Black, Drape: Dressnig any person, ACM Trans. Graphics
(Proc. SIGGRAPH), vol. 31, no. 4, jul 2012.