Title プロダクトデザインとエンジニアリングの融合による新 しい設計手法

熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
プロダクトデザインとエンジニアリングの融合による新
しい設計手法の提案と検証 : 炭素繊維強化プラスチック
による"ZIGZAG Chair"のリデザインへの適用
Author(s)
飯田, 晴彦
Citation
Issue date
2015-03-25
Type
Thesis or Dissertation
URL
http://hdl.handle.net/2298/32309
Right
別紙様式8
研 究 主 論 文 抄 録
論文題目
プロダクトデザインとエンジニアリングの融合による新しい設計手法の提案と検証
-炭素繊維強化プラスチックによる“ZIGZAG Chair”のリデザインへの適用-
熊本大学大学院自然科学研究科
産業創造工学専攻 機械知能システム講座
( 主任指導
論文提出者
坂本 英俊
教授 )
飯田 晴彦
主論文要旨
近年の高強度材料の開発・実用化はめざましいものがあり,それら材料は様々な製品に
適用されている.高強度複合材料を使用した製品の活用例として,自動車外装におけるア
ルミニウム合金や炭素繊維強化プラスチック,航空機の部品としてチタン合金の使用など
が挙げられる.これらのなかでも炭素繊維強化プラスチックの利用(応用)はめざましい
ものがあり,航空機の機体をはじめとして,トヨタやランボルギーニ,フェラーリなどの
スポーツカー・ボディーやシャシーに使用されている.最近実用に供された航空機ボーイ
ング 787 では炭素繊維強化プラスチック等の複合材料の使用比率が全体の約 50%以上を占
めている.エンジンなど複合材料に適さない部材を除いて考えると,機体の大部分は実質
的に複合材料によって作られているといっても過言ではない.特に高強度複合材料である
炭素繊維強化プラスチックの使用は製品の軽量化と強度向上に大きく寄与している.
プロダクトデザインはこれら製品を生み出す,感性と工学の融合した分野ではあるが,
従来のデザインプロセスでは材料の目的に応じた代替設計が主であり,高強度複合材料の
特性を十分に活かした製品デザインがまだ十分になされていないのが現状である.これら
のことから形状デザインにおいて,デザイン性を十分に活かす工学的な視点から新しいプ
ロダクトデザイン手法について検討,検証した.
高強度複合材料を使用する製品においては,その特性を十分に活かす新たなプロダクトデ
ザイン手法が要求される.従来の製品開発では,プロダクトデザインと設計が切り離され
て製品設計が行われる傾向がある.デザイナーによる形体発現後に強度計算がなされ,製
品が設計される.しかしながら,建築家のルイス・サリバンの言葉で「Form follows
function」と言われているように本来,プロダクトデザインと設計は一体である.高強度複
合材料を使用し,新しい形態を生み出すには,強度計算,接続方法など工学的知見に沿い,
それらの特性を活かしたプロダクトデザインを行う事が不可欠である.
本研究では洗練された形状デザイン性を損なうことなく,実用的強度も有する高強度複
合材料を用いた新たなデザイン手法を提案し,その検証を行なった.高強度複合材料のた
めの新しいデザイン手法について以下に簡潔に説明する.これまでのプロダクトデザイン
ではまず,デザインを行う対象物に対して,問題を認識し,解決のためのコンセプトを立
案し,調査分析,デザイン要素を抽出し,アイデア展開を行なっている.このプロセスは
デザインにおける上流過程にあたる.下流過程ではアイデア展開以降,エンジニアによる
製品設計がおこなわれる.本研究で提案する新しいデザインプロセスでは,下流過程にお
ける最適化デザイン段階を上流過程の調査分析の領域に移行する.高強度複合材料の強度
特性からデザインの中心となるべき具体的な要素を示し,その要素を中心としてアイデア
展開をおこなう.デザインを行なう対象に必要とされる強度を最適化することで,非常に
軽量で強度に優れた製品をデザインすることが可能となる.材料の特性を分析して,その
材料の特性を最大限に活かすデザイン設計手法である.それはエンジニアリングからデザ
イン設計を始めるというプロセスである.プロダクトデザインと最適強度設計の融合を目
的として高強度複合材料である炭素繊維強化プラスチックを選定し,リートフェルト
(GERRIT THOMAS REITVELD)が 1934 年デザインした ZIGZAG Chair のリデザイン
をおこなった.この椅子は形そのままが構造となっているため,新しいデザイン手法の試
行と,その検証に最適であると判断した.
デザイン要素抽出のプロセスとして ZIGZAG Chair の構造・材質および,木と繊維強化
プラスチックの強度を比較した.これら材料特性で注目したのが,強度と弾性率の高さで
ある.また炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の材料特性からデザインの中心となる要素
を抽出し,構造解析の結果を参照しながら ZIGZAG Chair のリデザイン設計を行なった.
具体的には炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は比強度および弾性率が高く,比強度およ
び比弾性率は,鉄やアルミに比べ約 5 倍の値を示し,圧縮強度もガラス繊維強化プラスチ
ック(GFRP)の 2 倍,アラミド繊維強化プラスチック(AFRP)の 4 倍となる.また,CFRP
は木材では不向きである一体成型を行うことが可能である.弾性率と強度の高さを活かし,
変形を抑える効果的な構造をスタイリングの中心とした.変形を抑えるために考えられる
方法として 1)リブ構造,2)ボックス構造,3)折り構造が考えられる.ここでまずリブ構
造をもとに CFRP による試作を行い,強度検証を行なった.結果は強度も十分で,変形も
抑えることが可能であることが明らかとなった.試作と同様に FEM による構造解析も行い
良好な結果が得られた.次にボックス構造であるが,この構造は Panton Chair で先例があ
るため,今回の試行対象からは除外した.三番目の折り構造はこれまでにその製作例は無
く,また量産化に最も適していると考えられることから,本研究ではこの折り構造をデザ
インの中心としてデザイン手法を検討する.
デザインのプロセスでは折り構造からデザイン(スタイリング)を行う前段階として,
材料を折る事による,強度・変形変化の程度を解析により明らかにした.
解析は平板を
組み合わせた,1 つの側面を拘束した状態で,2 枚の板のなす角度(折り角度)を変化させ
て等分布荷重を垂直方向に加えたモデルで行なった.拘束面と反対側の端の折り目の点で
の変位の大きさについて検討した.平板の角度を小さくしていくと,急激に剛性が増加し
て行き,170°で平板の 10 倍以上の剛性を示し,それより小さい折り角度では緩やかに剛
性が増加するという結果が得られた.平板の厚さが 2 倍になると, 厚さの 3 乗に比例する曲
げ剛性 D の値が 8 倍になり,その結果変位の値は 1/8 となる.しかし,折り角度がついた
場合は,平板の場合に比べて中立軸からの距離が大きくなり,その結果折り角度が小さく
なるに従って変位の減少の割合が小さくなる.
次に FEM 解析結果を踏まえデザイン設計を行なった.解析と最適値探索アルゴリズムな
どにより最適形状を導き出すことも可能であるが,本研究目的が,デザイン感性活かした
エンジニアリングからのデザイン設計であり,デザイナーの感性を十分に反映させたもの
でなければいけない.ここでは折りによる形状の変化を確認しつつ,構造と美しさのバラ
ンスを考えてアイデア展開を行なった.アイデア展開では出来るだけ薄く見え,かつ形状
が単調にならないことを重視した.折りの深さは木製のオリジナル ZIGZAAG CHAIR の材
料の厚さ 20mm を超えないようデザインに制約を課した.そしてこのアイデア展開から導
き出したデザイン案に基づいた強度解析をおこなった.条件はカーボン繊維クロス積層
24ply とした.解析結果では応力集中が主に座面部と支持部の境界,支持部と底面部の境界
に認められたが,座る機能は十分満たすことが確認された.
検証のため新しいデザイン手法から発現したデザインの 3DCAD データから木型を製作
し,この木型を原型としてハンドレイアップ方式により CFRP 製椅子の成形を行なった.
試作モデル製作では,ハンドレイアップ成形では均等に積層することが困難であること
から,解析結果で明らかになった応力のあまり集中しない部分は積層 12ply,応力の集中す
る部分は 24ply で製作した.製作はカーボン繊維クロスにビニルエステル樹脂を含浸させ
成形した後,硬化炉中で,120℃で 2 時間硬化させた.重量は 3.5kg で,オリジナルモデル
(アメリカンブラックチェリー材)5.2kg に比べ大幅な軽量化を実現した.
デザイン提案の 3DCAD データからカーボン繊維クロス 12ply+部分的に積層を 24ply し
た試作モデルの解析をおこなったところ,座面後部の垂直下方向の変位は 29,2mm で,実
験結果の,座面後部垂直下方向の変位 30.4mm とほぼ一致した.
全体を同じ数で積層したモデルの FEM 解析結果を基に,応力が集中している箇所の積層
数を増加させ応力集中が小さい箇所では積層数を減らすことにより,全体を均等な応力分
布に近づけることが出来,最大応力の値も小さくすることが出来る.また剛性の変化につ
いても検討することが出来るため,強度と剛性の両面から効果的であると言える.
高強度複合材料の積層数増加による部分的な補強と FEM 解析を組み合わせることによ
り,効果的な強度および形状最適化デザインが可能となる.このように 3DCAD で設計し,
FEM 解析に基づいて製作することで,十分使用に耐える強度を有していることは確認でき
た.
本研究では強度解析などの工学的な視点を導入し,構造的,力学的に材料の持つ特性を
明らかにし,材料を最大限に生かした,これまでにない製品のデザイン設計手法について
提案した.この提案するデザインプロセスは,エンジニアリングの視点から高強度複合材
料である炭素繊維強化プラスチックの特性からデザインのポイントを抽出し,設計に応用
することで,機能と形態を一体化させる手法であり,今後の製品デザインをリードする為
に必要な技術である.