審議(7)-5 第82 回実務対応専門委員会で聞かれた意見

第 332 回企業会計基準委員会
資料番号
日付
プロジェクト
実務対応
項目
第 82 回実務対応専門委員会で聞かれた意見
審議事項(7)-5
PI-7 2015-19
2016 年 3 月 23 日
本資料の目的
1. 本資料は、前回の実務対応専門委員会(第 82 回・2016 年 2 月 23 日開催)
(以下「専
門委員会」という。)で議論された権利確定条件付きで従業員等に有償で発行され
る新株予約権(以下「権利確定条件付き有償新株予約権」という。)の企業におけ
る会計処理の下記項目について、聞かれた主な意見をまとめたものである。
(1)
参考人との質疑応答を踏まえた検討
(2)
業績条件は付されているが、勤務条件は明示されていないケースの取扱い
(3)
経過的な取扱い
参考人との質疑応答を踏まえた検討
2. 第 82 回専門委員会においては、参考人との質疑応答を踏まえ、以下の論点を識別
し、審議を行った。
論点 1
インセンティブ効果と労働サービスの提供との関係
論点 2
投資の機会と労働サービスの提供との関係
論点 3
権利確定条件と労働サービスの提供との関係
論点 4
付与時の評価額と市場価格の関係
(論点 1 インセンティブ効果と労働サービスの提供との関係について聞かれた意見)
3. 論点 1 について、「権利確定条件がある場合には、ストック・オプション会計基準
で想定する「企業が一定の条件を満たすサービスの提供を期待して従業員等に付与」
する側面を重視すべき」との事務局の分析に反対する意見は聞かれなかった。主な
意見は以下である。
(1)
有償新株予約権の付与に、インセンティブ効果と労働サービスの両者が併存
することについて、違和感はない。
(2)
有償新株予約権について、勤務条件や業績条件をインセンティブ効果に紐づ
けて考えていくという事務局の分析に賛成する。
(3)
事務局の分析のうち、権利確定条件がある場合に、なぜ「企業が一定の条件
-1-
財務会計基準機構のWebサイトに掲載した情報は、著作権法及び国際著作権条約をはじめ、その他の無体財産権に関する
法律並びに条約によって保護されています。許可なく複写・転載等を行うことはこれらの法律により禁じられています。
審議事項(7)-5
PI-7 2015-19
を満たすサービスの提供を期待して従業員等に付与」する側面を重視すべきな
のかについての判断が記載されていない。
(論点 2 投資の機会と労働サービスの提供との関係について聞かれた意見)
4. 論点 2 について、「従業員に投資の機会が与えられたからといって、必ずしも企業
が従業員による労働サービスの提供を認識しないことにはならない」とする事務局
の分析に反対する意見は聞かれなかった。主な意見は以下である。
(1)
有償新株予約権の付与は、企業が従業員に投資の機会を与えていると理解し
ているが、対象者を従業員等に限定している点で、第三者に付与するケースと
は意味が異なると考えられる。
(2)
権利確定条件付き有償新株予約権は、従業員持株会と異なる性質を有すると
の分析について、従業員持株会を通じた自社の株式の付与によりインセンティ
ブ効果を期待していると同時に、企業は労働サービスの提供も期待しているの
ではないかと考える。
(3)
従業員持株会の場合、従業員は株式を取得したら直ちに当該株式を売却し利
益を得ることができるが、有償新株予約権の場合は権利の確定後に行使して株
式を保有したうえで売却しなければ利益を得ることができないという点が異
なるのではないか。
(論点 3 権利確定条件と労働サービスの提供との関係について聞かれた意見)
5. 論点 3 について、
「「業績条件が付され、勤務条件も付されているケース」、
「勤務条
件のみが付されているケース」
、
「業績条件のみが付され、勤務条件は明示されてい
ないケース」のいずれも、ストック・オプション会計基準の適用範囲に含めること
が適切と考えられる」とする事務局の分析について、以下の意見が聞かれた。
事務局の分析に賛成する意見
6. 勤務条件が明示されていない場合でも、勤務している期間に業績を達成し株価を上
げるインセンティブが高まるため、従業員が労働サービスを提供することになるの
で、報酬性があると整理することに違和感はない。
7. 企業が従業員に対して退職しても業績を満たすであろうという期待がある場合、当
該期待をもってストック・オプション会計基準の適用範囲に含めることでよいと考
えている。
事務局の分析に賛成しない意見
-2-
財務会計基準機構のWebサイトに掲載した情報は、著作権法及び国際著作権条約をはじめ、その他の無体財産権に関する
法律並びに条約によって保護されています。許可なく複写・転載等を行うことはこれらの法律により禁じられています。
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PI-7 2015-19
8. 権利確定条件付き有償新株予約権を付与する場合、企業と従業員等との間で契約が
交わされることから、当該契約に基づき会計処理をする必要があると考えられる。
ここで、契約上、勤務条件がない場合、例えば将来働く義務のない業績連動ボーナ
スと同じと考えられるので、勤務条件があるとみなすことは適切ではないと考える。
その他の意見
9. 勤務条件が明示されていない場合に勤務条件があるとみなすことについては、実際
に企業が有償新株予約権の発行当初において勤務条件をどの程度期待していると
いえるのかによるのではないか。
10. 仮に日本基準において勤務期間に関わらず業績条件が付されていれば、労働サービ
スの提供を期待していると整理する場合、IFRS 第 2 号「株式に基づく報酬」にお
いて、業績条件の定義に、要求されている勤務提供期間1に所定の業績目標を達成
することが含まれている点に関して日本基準との差異となり、結果として報酬費用
の期間按分の取扱いが異なる可能性がある。このため、仮に日本基準の取扱いにつ
いて IFRS と差異が生じる場合には、日本基準の考え方を明らかにする必要がある
のではないか。
(論点 4 付与時の評価額と市場価格の関係について聞かれた意見)
11. 論点 4 について、「報酬性の有無について、付与時の有償新株予約権の評価額と市
場価格との差額に着目する考えは否定されないものの、従業員等が有償新株予約権
について割安と考えているか否かにかかわらず、権利確定条件付き有償新株予約権
の付与に関する取引に報酬性があるものとする」との事務局の分析に反対する意見
は聞かれなかった。主な意見は以下である。
(1)
論点 3 において勤務条件がない場合に過去の労働サービスと考えると、権利
確定条件付き有償新株予約権については費用処理すべき額が生じないことと
なる。この点、付与時の評価額について何らかの分析をする必要があるのでは
ないか。
(2)
権利確定条件付き有償新株予約権の付与時の評価額については、業績条件が
付されている場合にそれが織り込まれた評価がされていることから、会社法に
おいて有利発行には当たらないという整理がされているのであれば、当該評価
を割安と表現することについては違和感がある。
(論点 1 から 4 を踏まえた意見)
1
「勤務の要求は明示的である場合も黙示的である場合もある」とされている。
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財務会計基準機構のWebサイトに掲載した情報は、著作権法及び国際著作権条約をはじめ、その他の無体財産権に関する
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PI-7 2015-19
12. 論点 1 から 4 についての分析を踏まえた結果、権利確定条件付き有償新株予約権に
ついて、ストック・オプション会計基準の適用範囲に含めることを適切とする事務
局の分析に反対する意見は聞かれなかった。主な意見は以下である。
(1)
各論点に記載されている論拠は必ずしも十分ではないものの、結論としては、
権利確定条件付き有償新株予約権をストック・オプション会計基準の適用範囲
に含めざるを得ないと考える。
業績条件は付されているが、勤務条件は明示されていないケースの取扱い
13. 業績条件は付されているが、勤務条件が明示されていないケースにおいて、報酬費
用の測定について、以下の選択肢を示した。
(1)
権利確定条件付き有償新株予約権の付与を、
「退職までの勤務期間」にわたる
労働等のサービスの対価とする考え方
①
退職後に、失効の見積数に重要な変動が生じた場合、失効の見積数を見直
さない方法
②
退職後に、失効の見積数に重要な変動が生じた場合、失効の見積数を見直
す方法
(2)
権利確定条件付き有償新株予約権の付与を、
「付与日以前」の労働等のサービ
スの対価とする考え方
上述した選択肢のうち、事務局では、(1)②を採用することが適切と考えられる
との分析を行った。この点について、以下の意見が聞かれた。
事務局の分析に賛成する意見-第 13 項(1)②を支持する意見
14. 有償と無償のどちらのケースについても整合性をとるという考え方に基づくと、事
後的に費用が生じることはやむを得ないと考える。なお、無償のストック・オプシ
ョンを付与した場合の在職者の会計処理について明らかにして頂きたい。
退職者と在職者を同様に会計処理すべきという意見
15. 企業が、勤務条件が明示的でない場合も業績を達成するための労働サービスの提供
を期待するとみなすと考えるときは、退職者も在職者と同様に費用を計上する考え
方と整合する。
16. 有償新株予約権が付与された直後に退職するケースは別として、ある程度勤務する
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財務会計基準機構のWebサイトに掲載した情報は、著作権法及び国際著作権条約をはじめ、その他の無体財産権に関する
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ことが期待されていることを前提とすると、退職後に費用が計上されることに違和
感はある。ただし、労働の価値が正確に直接測定できないことから有償新株予約権
の価値を報酬費用としているのであれば、退職者に対して後払いのような費用が生
じると考えるのはやむを得ない。仮に、退職者と在職者を異なる取扱いとする場合
には、実務が煩雑になることを考えると、後払いで費用が生じたとみなしてもよい
と考える。
事務局の分析に賛成しない意見-第 13 項(2)
17. 退職後に役務提供を行っていないにもかかわらず、報酬費用の見積りの変更を認識
することについて、インセンティブ効果と費用計上額の方向性が整合していないこ
とから違和感を覚える。
18. 仮に無償で業績条件のみ付されているストック・オプションを付与した場合、付与
日時点のストック・オプションの価値と労働等のサービスを交換したという考え方
が受け入れやすいのではないか。仮に、勤務条件の有無にかかわらず、報酬費用を
測定する場合、退職後に生じる費用の性格について整理ができないことになると考
える。
その他の意見
19. 仮に第 13 項(1)②を採用する場合、例えば、従業員数が減少しているにもかかわら
ず、退職後に費用計上することにより人件費が増加しているケースが生じると、財
務諸表利用者は混乱するのではないか。ただし、無償のストック・オプションの考
え方との整合性等を勘案すると、事務局の分析のような考え方も理解し得る。
経過的な取扱い
20. 仮に権利確定条件付き有償新株予約権の会計処理について、ストック・オプション
会計基準の適用範囲に含める場合の経過的な取扱いについて、以下の 3 つの案を選
択肢として示し、【案 1】を採用することは難しいとの分析を行った。
【案 1】
比較情報について遡及適用による影響を反映する方法
【案 2】
累積的影響額を適用初年度の期首の剰余金で処理する方法
【案 3】
適用日以降に発行した取引から将来に向かって適用する方法
21. この点について、【案 1】を採用することは難しいとの分析に反対する意見は聞か
れなかった。
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財務会計基準機構のWebサイトに掲載した情報は、著作権法及び国際著作権条約をはじめ、その他の無体財産権に関する
法律並びに条約によって保護されています。許可なく複写・転載等を行うことはこれらの法律により禁じられています。
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22. 【案 2】又は【案 3】について、以下の意見が聞かれた。
【案 3】よりも【案 2】を適切とする意見
23. 無償のストック・オプションを発行している企業との比較可能性や、無償のストッ
ク・オプションと有償新株予約権を両方発行している企業についての会計処理の整
合性を考えると、【案 3】よりは【案 2】が適切と考えられる。
24. 情報の有用性という観点では、複数の権利確定条件付き有償新株予約権が発行され
ている場合に、一部は費用処理がされず、一部は費用処理されることは適切ではな
いと考える。
25. 【案 3】を選択すると、付与日に従業員等が少額の金銭を企業に支払ったかどうか
で将来生じる費用計上額が大きく変わることとなり、利用者としては支持し難い。
26. 仮に【案 2】を選択した場合に、業績条件を充足した時点を見積ることが難しいの
であれば、当該見積りについては、例えば業績条件を充足する見込みがある企業に
ついて会計基準の適用初年度の期首にその可能性を判断する等の簡便的な取扱い
を定めることが考えられるのではないか。このように、業績条件を充足する見込み
がある企業は限定的と考えられることから、【案 2】を採用することは可能なので
はないか。
27. 【案 3】を選択した場合、駆け込み的な有償新株予約権の発行が生じることを懸念
する。
【案 2】よりも【案 3】を適切とする意見
28. 現行のストック・オプション会計基準の適用時にも会社法の施行日以後に付与され
るストック・オプションから適用していたことを考慮すると、適用日以降に発行し
た取引から新たな会計処理を適用する【案 3】が適切と考える。
29. 企業にとっては、従来明確には定まっていなかったルールの下で実施していた取引
に関して、遡って業績の達成可能性等を見直し、適用する【案 2】を採用すること
は、実務上負担感が大きいと考える。
30. 【案 2】を採用することも可能と考えるが、契約条件を見直し、過去に遡ることに
より混乱が生じる可能性があるのではないか。ただし、【案 3】を採用する場合に
は、何らかの注記情報が必要と考える。
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法律並びに条約によって保護されています。許可なく複写・転載等を行うことはこれらの法律により禁じられています。
審議事項(7)-5
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以
上
-7-
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