資料2 出張報告(香港・上海) 小川英治 清水順子 中国経済の現状や資本規制について ○ 日本においては、中国経済が危ないという報道をよくみるが、GDPは引き続き1年間でインドネシア1つ分だけ増えている。 実際にはまだら模様であり、北京や上海等の都市部では年7%程度、内陸部に行けば10%を超える成長になっている。他方、 統計的な不確かさがあるのも確か。(日系金融機関) ○ 都市部においては、社会保障の充実等を踏まえ、サービス産業化、消費経済化が進んでいる。(日系金融機関) ○ 中国経済が再び成長軌道に乗るためには、過剰債務、資本流出等の問題を解決する必要があるが、これらは難しい問題。(エ コノミスト) ○ 中国経済で最も深刻なのは国有企業問題。具体的には、不良債権や給与水準等の問題があるが、特に鉄道などの独占企業は野 放しにされている。中国においてはゾンビ企業があふれてきており、仮に2∼3%の成長を一時的に受け入れたとしても、過 剰設備を解消しておくことが長期的には中国経済にとって重要。(エコノミスト) ○ 資本規制については、当局の対応がちぐはぐであり、場当たり的になってしまっている。(日系金融機関) ○ 本土の企業に対して外貨の持ち出しが厳しくなっており、配当で国外に持ち出すくらいしか手段がない状況。(日系金融機 関) ○ 中国における土地の購入は制度上、あくまで使用権の購入であるため、海外の土地を購入したい富裕層は多い。特に北米が人 気だと聞いている。(日系金融機関) ○ まるで日本のMrs. Watanabe(主婦のFXトレーダー)のように、外貨預金口座に外貨をため込んでいる個人投資家が多くいる。 これが外貨準備減少の一因になっている。(エコノミスト) ○ 足もとでは民間主体が元を外貨に換える動きと、ドル建て債務を返済する動きで資本流出が起きている。そのため、外貨準備 の減少分の多くは対外債務の返済と中国人の外貨保有の増加であり、心配しすぎる必要はない。(日系金融機関) ○ PBOC(中国人民銀行)は5年間で人民元を自由通貨とし、様々な資本規制の緩和を講じることとしているが、資本規制の 緩和が国内の金融機関に与える影響は計り知れず、うまくいかないのではないか。また、中国は投機筋の存在を許さない節が あり、フリーフロートになったとしても、一部の資本規制は残すのではないか。(エコノミスト) 1 人民元の国際化の現在と今後の展開 ○ 欧州の自動車メーカーは中国に積極的に展開しており、元建て収入が多いため、子会社や取引先に対しても人民元建て決済を お願いしているようだ。(日系金融機関)中国の貿易決済では25%以上が人民元となっており、人民元が信用される通貨に なって安定的に推移していけば、今後もこの比率は上昇していくことが見込まれる。(大学教授) ○ 貿易における人民元利用増加と合わせて、SDR入りにより、一部の投資家は人民元債へ投資を振り向けることにより、資本 取引における人民元利用が増加していくだろう。(香港金融管理局、以下、「HKMA」) ○ 香港では人民元が給与等の支払いに利用できるようになって以降、人民元利用が拡大していった。(大学教授)「一帯一路」 構想も人民元の国際化に寄与するであろう。(中資系金融機関) ○ これまで人民元建て決済が増加してきた背景には、人民元は増価するので保有したいという人民元相場の先高観があった。(中資系金 融機関、エコノミスト、大学教授等) ○ ヨーロッパの人民元利用については既にインフラが整備されているロンドンで今後も拡がっていくのではないか。また、ドイ ツもフランクフルトの人民元市場を発展させるために、ドイツ中銀が中国の大学と共同研究を行うなど様々な取組みを行って いる。(大学教授) ○ 日系企業が従来の取引を人民元に変更するような動きはあまりみられない。新規の取引で人民元での取引を要求されることが あるくらいで、当面は人民元の利用が拡大する見通しはない。(日系金融機関) ○ 人民元は長期的にはフリーフロートを目指しているところであるが、まず足元はバスケット通貨となることを目指しているの だろう。アジア通貨がドルペッグからバスケットペッグに変わっていくことは良いアイデア。アジア通貨がアジア域内ではな いドルの影響を大きく受けることは好ましくない。(大学教授) ○ PBOCはSDR入りに向けて急ぎすぎてしまったため、様々な不均衡を抱えている。足もとでは、資本流出等も起きており、 人民元の国際化は2歩進んで1歩下がったようなイメージ。(エコノミスト) ○ EUのECU(欧州通貨単位)のようにバスケット通貨を考えておくのはいい考え。長期的には、ドル依存から脱却し、アジ アに新たなバスケット通貨を作り出していくことがアジア経済の安定化につながる。(大学教授) 2 香港オフショア市場の概要① ○ オフショア人民元取引のうち、70%は香港で行われている。うち、本土とのやり取りは10%程度であり、残りの90%程度は中国 本土以外の世界との取引である。2007年からRTGS(即時グロス決済)を導入しており、日々の流動性は1兆元で、貿易決済 は年間6兆元。預金も1兆元を超えている。(中資系金融機関) ○ 香港では3段階の流動性供給システムがあり、相場が急変動した場合、発動できる。(中資系金融機関) ① HKMAはPBOCとスワップ協定(4,000億元)を結んでおり、それをもとに流動性を供給できる。 ② HKMAは準備金を保有しており、7つの銀行を通じてこれを供給できる(人民元流動性供給ファシリティ)。 ③ 中國銀行(香港)も自身のポジションの範囲内で流動性を供給することが可能。 ○ オフショア市場について言えば、香港で取引をするのが流動性も多く、最も効率的。(日系金融機関) ○ 香港においてCNHを取引できる時間を拡大させており、従来は午後3:30迄であったが、2012年には23:45迄延長され、2014年 からは米国東海岸の午後5時にあたる翌日午前5時まで延長している。(中資系金融機関) ○ 中國銀行は香港におけるクリアリング銀行であるが、独立した香港決済機構(HKICL)が決済機能を担っている。HKICLはHKMA管轄の半政 府機関。またHKICLを通じた取引は法律により保護されており、香港におけるCNH取引においては、オペレーショナルリスクやカウンター パーティリスクを考えなくてよい。これが香港オフショア市場の一つの強み。(HKMA) ○ 香港がオフショアセンターとなり得ているのは、上記のほか、多くの銀行が中國銀行香港支店に口座を持っていることやRTG Sを導入済みであること、本土と近いことが挙げられる。(HKMA) ○ 香港では各通貨ごとに決済銀行が指定されており、ドルについてはHSBCが、ユーロについてはスタンダードチャータードが、 人民元については中國銀行がそれぞれ決済機関として指定されている。(HKMA) ○ 上海ではFTZ(自由貿易特区)が設置される等、規制緩和が進んでおり、中国において資本勘定の自由化が実現すれば人民元 取引の軸足は香港から上海へと移っていくだろう。(エコノミスト) ○ 香港は中国の窓口としての歴史が長く、今でも直接投資の6割が香港経由である。こうしたことから香港の重要な地位は変わら ないだろう。(HKMA) 3 香港オフショア市場の概要② <香港・人民元オフショア市場発展の経緯> 年 2004年1月 香港の銀行における個人(香港居住者)向け人民元業務の解禁。 2007年7月 中国本土の銀行による香港での人民元建起債の解禁。 2008年12月 香港の企業等による香港での人民元建起債の解禁。 2009年6月 中国人民銀行と香港金融管理局間との間で中国・香港間の人民元建て貿易決済に向け覚書を締結 (7月から一部地域との間で人民元建て貿易決済開始)。 2009年7月 中國銀行がクリアリングバンクに指定される。 2009年9月 中国政府、香港にて人民元建国債(60億元)を発行。 2010 年7 月 クリアリング銀行における香港の参加銀行同士での人民元口座間の資金の振替を自由化 2011年8月 香港との人民元建貿易決済を中国本土全体に拡大。 2011年10月 外国企業による中国本土への人民元建て直接投資が解禁。 2011年12月 RQFII制度の下、香港から中国本土の債券や株式に対する投資が開始 2012年6月 HKMA、レポ取引による人民元流動性供給ファシリティを導入。 2012年8月 香港の非居住者に対して人民元サービスの提供を開始。 2013年6月 CNH HIBORの公表開始 2014年11月 在香港7行を通じた、100億元の流動性供給ファシリティ(日中レポ取引)を開始。 上海−香港ストックコネクト開始 4 香港オフショア市場の概要③ <香港における人民元利用の概況> 香港 証券保管決済機関(CMU) RTGS(即時グロス決済)システム (HKICL(香港銀行同業結算有限公司)が運用) DvP 送金&決済システム 米ドル 香港ドル PvP 債券決済システム 人民元 ユーロ CNAPS (中国現代化支払いシステム) <香港における通貨ごとのRTGSシステムの概要(2014年)> 運用開始年月 決済機関 (クリアリングバンク) 直接参加行数 一日の 平均取引高 米ドル 2000年8月 HSBC 100 222億ドル ユーロ 2003年4月 スタンダード・チャー タード銀行 37 5.85億ユーロ 人民元 2007年6月 中國銀行(香港) 199 7,327億元 一日の 平均取扱件数 19,347 529 12,717 5 香港オフショア市場の概要④ 香港の人民元オフショア市場は貿易取引高、全決済取引高、債券発行、預金等、多面的に拡大している。 <香港における決済量の推移(1日あたり)> <香港における人民元建て貿易取引高(年間)の推移> (億元) 12,000 <香港における人民元預金残高の推移> (億元) <香港における人民元債残高の推移> 5,000 定期預金 10,000 8,000 普通預金 4,500 4,000 3,500 3,000 6,000 2,500 2,000 4,000 2,000 1,500 1,000 500 0 (出所)香港金融管理局 0 6 人民元の国際化と日中金融協力 (1)RQFII(注1) 日本にもRQFII枠が付与されれば、オンショア人民元への投資が可能となり、日本企業は受け取った人民元を多 様な運用先のあるオンショアで運用することができるようになるとのこと。その意味から、リスクアセット(株式等) への投資よりも、債券投資の認可を得ることが重要であるとの要望が日系金融機関から寄せられた。 (注1)RQFII制度とは、外国の機関投資家に対し、中国本土の証券等にオフショア人民元で自由に投資することを認めるもの。 (2)クリアリングバンクの設置 クリアリングバンクは、各国の人民元決済の玉をまとめ上げ、最終的な決済をする役割を備えているほか、HKMA によればPBOCとスワップ契約を結び、非常時の流動性供給システムを構築している。主要な金融市場でクリアリン グバンクが設置されていないのは東京とニューヨークだけであり、 ①CIPS(注2)の機能が整うまでには時間がかか ることや②CIPSへ直接アクセスできる直接参加行は限られること、③東京市場活性化を推進すること等の観点から、 東京にクリアリングバンクはあったほうがよいとの意見が多かった。 一方、CIPSが機能し始めると、①CIPS参加行はある程度自由に人民元決済を行うことができるようになり、 クリアリングバンクの役割は薄れていく、②クリアリングバンクが東京にできても香港の方が便利なので香港で人民元 決済を行うことになる、との指摘もあった。 (注2)CIPSとは、現在PBOCと民間銀行が開発を推進している人民元クロスボーダー支払システムであり、昨年10月から部分的に稼働している。 (3)日中間による人民元の流動性供給の仕組み 様々な資本規制からクレジットラインを活用できないことや、最近、介入効果を高めるためにPBOCが香港市場の 流動性を低下させる政策を行っていること等を背景に、人民元の流動性を確保することの必要性が高まっているとのこ と。東京市場での非常時における人民元流動性確保は、東京金融市場の活性化にもつながる。例えば、日中の当局間で のスワップが締結されれば、これに大きく貢献するとの意見が多かった。 7 (参考)中国と各国の金融協力 R Q F II枠 の 付 与 直 接 交 換 取 引 取 引 開 始 年 月 ア ジ ア 旧 ソ 連 北 米 香 港 - - ○ 台 湾 ○ 2013年 2月 △ (注 1 ) 韓 国 ○ 2014年 12月 ○ 日 本 ○ 2012年 6月 - シ ン ガ ポ ー ル ○ 2014年 10月 ○ タ イ ○ 2011年 12月 ○ マ レ ー シ ア ○ 2010年 8月 ○ オ ー ス ト ラ リ ア ○ 2013年 4月 ○ ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド ○ 2014年 3月 - ロ シ ア ○ 2010年 11月 - カ ナ ダ - - ○ チ リ - - ○ アル ゼンチン - - - ○ 2014年 6月 ○ 南 米 イ ギ リ ス フ ラ ン ス ル ク セ ン ブ ル ク ○ ○ 2014年 9月 ○ 欧 州 ド イ ツ ス イ ス ハ ンガ リー ○ ○ 2015年 11月 ○ - - ○ カ タ ー ル - - ○ ア ラブ首 長 国 連 邦 - - ○ - - - 中 東 アフリカ ザ ンビ ア 割 当 年 月 金 額 2011年 12月 2 ,7 0 0 億 元 2013年 1月 1 ,0 0 0 億 元 2014年 7月 1 ,2 0 0 億 元 2013年 10月 1 ,0 0 0 億 元 2015年 12月 500億 元 2015年 11月 500億 元 2014年 11月 500億 元 人 民 元 ク リ ア リ ン グ 銀 行 の 設 置 指 定 年 月 指 定 銀 行 2009年 7月 ○ 中 国 銀 行 2013年 1月 ○ 中 国 銀 行 2014年 7月 ○ 中 国 交 通 銀 行 ○ ○ ○ ○ - - - - 2014年 11月 500億 元 2015年 5月 500億 元 2013年 10月 800億 元 2014年 3月 800億 元 2015年 4月 500億 元 2014年 7月 800億 元 2015年 1月 500億 元 2015年 6月 500億 元 2014年 11月 300億 元 2015年 12月 500億 元 - ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 2013年 2月 中 国 工 商 銀 行 2015年 1月 中 国 工 商 銀 行 2015年 1月 中 国 銀 行 2014年 11月 中 国 銀 行 ○ - - ○ 2011年 10月 3600億 元 - - ○ ○ ○ ○ - ○ - ○ 2014年 11月 中 国 工 商 銀 行 2015年 5月 中 国 建 設 銀 行 2015年 9月 中国工商銀行 2014年 6月 中 国 建 設 銀 行 2014年 9月 中 国 銀 行 2014年 9月 中 国 工 商 銀 行 2014年 6月 中 国 銀 行 2015年 11月 中国建設銀行 2015年 6月 中国銀行 2014年 11月 中 国 工 商 銀 行 人民元建て 通 貨 ス ワップ 現契約締結年月 金額 2011年 11月 4000億 元 ○ ○ ○ 2013年 3月 3000億 元 2014年 12月 700億 元 2012年 2月 1800億 元 2012年 3月 2000億 元 2014年 5月 250億 元 2014年 10月 1500億 元 2014年 11月 3000億 元 2014年 7月 700億 元 2013年 6月 2000億 元 2013年 10月 ○ (ECB) 3500億 元 ○ ○ - - ○ ○ 2015年 9月 中国銀行 - 2014年 7月 1500億 元 2014年 11月 350億 元 2012年 1月 350億 元 - (注1)両国間で合意されるも、実施されていない。 (注2)その他、人民銀行は、2015年10月8日より、CIPS(China International Payment System)と呼ばれる人民元の中国国際決済システムの運用を開始している。 現在のところ中国内の19行(外資系現法を含む)が参加。邦銀(中国現法)は参加行に含まれていない。 8 その他ヒアリング事項 ○ 中国の商務省などは輸出促進のために通貨の切り下げを要求しているようだ。(エコノミスト) ○ 人民元を切り下げても競争相手である東南アジア諸国やインドの通貨も通貨安方向に動いてしまうため、期待している効果は得 られないのではないか。(大学教授) ○ 投資家への債券売買業務は、証券会社ではなく、銀行が行っている。日系銀行は引受けられる債券が限られているため、それ以 外の債券を購入する場合には、主に中資系の銀行から購入している。(日系金融機関) ○ 中国では自国の会計基準と国際財務報告基準(IFRS)しか認められないため、債券発行をするために、会計制度を変更する 必要がある。日本の会計基準で財務諸表を作成した場合とIFRSで作成した場合の差分のみを表示することが認められる等、 この規制が緩和されれば、日本企業による中国での起債が増加するだろう。(日系金融機関) ○ オフショア市場にて様々な金融商品が生まれ、取引が活発化している点で、オフショア市場は人民元の国際化に欠かせない存在。 (エコノミスト) ○ ヘッジをしやすくなると、貿易でその通貨は使われやすくなるため、CNHはHIBORの公表等を通じて、ヘッジの利便性向 上を図っている。(HKMA)他方、CNYをヘッジしたい企業等が、CNHを参照しているNDF(ノンデリバラブル・フォ ワード)を利用してヘッジをしようとしても、CNHとCNYにはかい離があることから、CNYを完全にはヘッジできないこ とは不便。さらに、オフショア先物市場では流動性が完全でないことから、一時的な需給によりレートが大きくぶれてしまうこ ともある。(日系金融機関) ○ 米国の貿易量は世界全体の貿易量の10%程度であるにもかかわらず、貿易決済の43%はドルで行われている。ドルに過度に依存 している状況にあり、ドルからの脱却をしていく必要がある。他方、人民元利用が進んでいる香港であっても人民元預金が預金 全体に占める割合は10%であり、人民元は準備通貨としてはまだあまり利用されていない。(大学教授) ○ 輸入超過の国でないと、自国通貨の国際化はなかなか進まない。(大学教授) ○ 人民銀行の今後の政策や人民元の国際化の今後の進展については、ポスト周小川総裁が保守派になるか改革派になるかが一つの キーポイントとなるだろう。(エコノミスト) 9 出張者所感① (小川) (1)中国経済の現状や資本規制について 日本国内では中国経済の現状について世界経済に悪影響を及ぼす中国リスクが強調されているが、中国国内で は中国経済の現状を「まだら模様」(産業や地域によって好況不況が異なっている)とみる者が多い。中国リスクに用心 することは必要かもしれないが、過剰反応は、中国経済が及ぼす日本産業・企業への悪影響について自己実現的に なりかねないので、注意することが必要であろう。 資本規制の緩和は趨勢的な方向であり、資本規制を強化するという逆戻りはないという意見が中国国内にある。し かし、人民元安圧力の強さによっては、資本規制緩和の減速のみならず、外国為替管理や資本規制の再強化もある かもしれない。 (2)人民元の国際化の現在と今後の展開 人民元の国際化は趨勢的に推進されていくことは確実である。とりわけ、人民元のSDR構成通貨への組み入れ等、 人民元の国際化によって人民元の信頼性を高めることに努めているようである。一方、最近の人民元安圧力によって 人民元の国際化が一時的に減速する可能性が高い。 人民元の国際化において、人民元決済あるいは人民元流動性供給が重要となる。現状においては、各オフショア 市場における人民元クリアリング銀行による決済が先行している。しかし、今後、長期的にCIPSによる決済が同時並行 的に進展する可能性がある。ネットワーク外部性が作用することから、各人民元オフショア市場の人民元クリアリング銀 行からCIPSへ転換していくことがどれほどの高さの可能性があるか。 (3)香港オフショア市場の概要 中国の通貨当局は、世界全体の人民元オフショア市場の中でも、香港オフショア市場を特別に扱っている。香港オ フショア市場が「人民元オフショア市場のハブ」と言われていることに表れている。また、香港オフショア市場にも他のオ フショア市場と同様に人民元クリアリング銀行(中国銀行)が存在して、最終的な人民元流動性の供給を担うことになっ ているものの、これに加えてHKMAも同様の機能を果たすことになっている。香港オフショア市場での人民元流動性供 10 給は主としてHKMAが担っている点も、他の人民元オフショア市場は異なる。 出張者所感② (4)人民元の国際化と日中金融協力 中国に進出している日本企業の多さを考慮すると、東京人民元オフショア市場をもっと使い勝手の良いものにする ことが望ましい。一部には香港人民元オフショア市場を利用できるから東京人民元オフショア市場の人民元クリアリング 銀行が必要ないという意見があるものの、大企業から中小企業までの多様な日系企業をカバーするためには、東京人 民元オフショア市場における人民元クリアリング銀行の設置は必要であろう。 (清水) 人民元建て取引・決済はこれまで元の先高観を背景に進んできたため、昨年以降の人民元相場の大きな転換 (2005年7月の為替制度変更以降続いてきた元高が元安に転換した)ことが今後の人民元建て取引の拡大を阻害す る要因となる可能性がある。さらに、元安基調になってから中国は人民元の海外流出を憂慮しており、そのため一時的 な資本規制強化がなされている模様。これにより、折角使えるようになってきた人民元の信頼性も損なわれている。そ の点では、日本企業の利用は当面は限定的とならざるを得ない。 昨年12月に公表されたCFETSのバスケット指数については、いろいろな見方があったが、少なくとも人民元の国際 化=脱ドル依存、という意味において、将来的にバスケット通貨を参照としていくという政策的意図があるのではないか。 日、米、欧で金融政策が異なり、主要3通貨が時々で異なる動きをする中で、元がドルとは別の動きをする際の説明断 材料の一つを提供するものとして、今後引用されることになるのではないか。 国外資本流出の一部は、中国の企業や投資家による海外投資によるものであり、国際分散投資の観点からは極め て自然な動きとして考えるべき。こうした動きに対応して、今後日本は積極的に中国からの投資を受け入れるための質 の高い金融サービスやフィンテックを提供する必要がある。 人民元が日本企業や投資家にとって使いやすい通貨となることは日本にとっても大きなプラスとなる。在中日系金 融機関や日系企業の効率的なビジネスを拡大するためにも、人民元を活用できる環境が整えられるように、日中金融 協力を引き続き進めていくことが重要である。 11
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