トリアージマニュアル - 阪神北広域こども急病センター

トリアージ・マニュアル
(
(改訂第
2 版)
公益財団法人阪神北広域救急医療財団
阪神北広域
阪神北広域こども急病センター
センター
平成 27 年 10 月
基 本
理 念
当センターは、夜間・休日における子どもの急病に対する初期小児救急医療
を通じて、安心の子育て、子どもの健やかな成育のために地域社会に奉仕しま
す。
基 本
方 針
1.夜間・休日の初期小児救急医療を 365 日行います。
2.地域住民のニーズに合った医療を追求します。
3.重症度に応じたトリアージにより、適正な医療を提供します。
4.二次救急病院と役割分担し、安心と信頼の医療を遂行します。
5.子どもの急病への対処法や事故防止の啓発活動を行います。
6.地域住民と医療者がお互いに尊重しあって、良質な医療の実現を目指しま
す。
7.医療者には「働き甲斐」と「安心して働ける」医療環境を提供します。
8.絶えざる研修活動を通じて、職員のスキルアップを図ります。
トリアージマニュアル改訂第 2 版の発行にあたって
阪神北広域こども急病センターでは、安全で適切な初期小児救急医療の提供を目指し、
開設以来、看護師がすべての患者さんにトリアージを実施してきました。
本マニュアルは、当時センターの職員であった小児救急看護認定看護師、川村桃子看
護師によって執筆、編集され、平成 22 年に初版を発行しました。以降、様々な症例を
経験し、データを蓄積しながら、評価を重ねてきました。タブレット端末によるトリア
ージ判定支援と看護師が実施するトリアージシステムは、大型連休など時に 1 日 400
人を越える受診者が来院した場合でも、トリアージを効率的かつ標準的に実施すること
ができ、センターにおいて、なくてはならないシステムとなっています。
また、平成 24 年の診療報酬改訂で、
「院内トリアージ実施料」が算定可能になるなど、
救急医療の現場を安全かつ有効に運営するために、トリアージは必要なシステムである
ということが社会的に認知されつつあることを実感しています。
今回の改訂では、これまでの様々な経験、評価を踏まえ、患者が多数来院したときに、
PAT 中心のトリアージが適切に出来るよう、アピアランス、呼吸、循環の項目を追加
し、緊急度判定においてアナフィラキシーや乳児の循環障害にも対応できるようにしま
した。また、待ち時間における必要な医療の提供とトリアージの再評価を、トリアージ
プロセスの Step4 として加えました。さらに緊急度分類表では、新たに疼痛と虐待の項
目も追加しました。
センターは平成 20 年の開設から 8 年目を迎えています。今後も地域の皆様に信頼さ
れ、愛されるセンターとなるようスタッフ一同努力してまいります。
今回の改訂にあたり、ご指導いただきました山﨑武美センター長はじめ、ご協力いた
だきましたスタッフの皆様に心より感謝申し上げます。
平成 27 年 9 月
阪神北広域こども急病センター
看護師長
服部 悦子
はじめに(初版)
トリアージとは、救急部門を受診した患者の評価過程の一つとして、治療の優先度と
適切な治療場所を決定することにより、救急外来患者管理上の安全性を高めるシステム
と定義されています。今回、パソコン端末でのトリアージ入力システムの導入を機に、
トリアージの意義を看護師一人ひとりが正しく理解し、より迅速に実施できるように、
新たにトリアージ・マニュアルを作成しました。
阪神北広域こども急病センターは、時間外・休日の小児の初期救急の外来部門のみを
担う医療機関であり、大半は一次救急であり、受診患者の 2 パーセント程度が入院とな
っています。当センターでは、開設以来、看護師が来院患者全員にまず応対し、迅速に
患者さんの重症度評価を行い、適切に診察室へ誘導するため、看護師によるトリアージ
を行ってきました。
当センターでは、小児の一次救急に適した急病センター独自の重症度に合わせたトリ
アージ分類表を作成し、用いてきました。また、センターは小児内科を標榜しています
が、転倒後の頭部打撲など外科に関連した症状の患者も多く来院されます。そのような
場合にも、速やかに当該科の病院へ受診できるように準緊急以上の区分でトリアージ表
に加えました。免疫力の低い、易感染状態の3か月未満の小児も、重症度に関係なく緊
急として区分し、速やかな診察ができるようにしています。
看護師がトリアージを行うことにより、子どもを持つ患者の家族の不安を解消し、安
心してセンターに受診していただければという思いから本マニュアルは作成されてい
ます。
平成 22 年 3 月
看護師長
原田 さとみ
<目
次>
I.
トリアージの目標………………………………………………………1
II.
トリアージ区分…………………………………………………………1
III.
トリアージ緊急度分類表………………………………………………2
IV.
トリアージの流れ………………………………………………………4
V.
トリアージ区分の決定…………………………………………………5
VI.
トリアージの実施手順…………………………………………………6
VII.
再評価(再トリアージ)………………………………………………9
VIII. トリアージを行う上での注意…………………………………………10
IX.
トリアージ体制…………………………………………………………10
X.
受付事務との連携………………………………………………………11
XI.
救急車で来院された患者………………………………………………12
XII.
看護師の権限……………………………………………………………13
XIII. スタッフ間での連携……………………………………………………14
XIV. 子どもと家族への対応…………………………………………………14
XV.
トリアージ看護師に求められる資質…………………………………15
XVI. 看護の質を担保するために ~自己研鑽とシステムの改善~……15
I. トリアージの目標
①
緊急もしくは生命に危険な状態の患者を迅速に見極める。
②
センター受診患者の適切な治療場所、もしくは待合場所を判断する。
③
診察待ち患者へ適切な援助と再評価を行う。
II. トリアージ区分
次の 4 つの緊急度レベルに分類する。
緊急度
診察まで
レベル
の時間
蘇生
ただちに
状
態
その他
生命または四肢・臓器の危急的状態
で、ただちに診察・加療を要する。
生命または四肢・臓器の危急的状態
緊急
15 分以内
に陥る可能性が高く、早急に診察・
加療を要する。
準緊急
30 分以内
四肢・臓器の危急的状態に陥る可能
他科もしくは他院への紹
性があり、比較的早くに診察・加療
介受診の必要性が高い患
を要する。
者及び、3 か月未満の乳児
は準緊急以上とする。
非緊急
120 分
(診察)
以内
四肢・臓器の危急的状態に陥る可能
性がその時点では強く見出せず、診
察を急ぐ必要がない。
Ⅲ. トリアージ緊急度分類表
蘇生
意識
準緊急
非緊急
・傾眠、混迷、混乱(GCS 9~13)
・清明(GCS 14~15)
・けいれん中
・けいれん頓挫:同日複数回
・けいれん頓挫
・呼吸停止/呼吸不全
・呼吸窮迫
・呼吸苦
・呼吸正常
・SpO2 ≦89%
・SpO2 90~91%
・SpO2 92~94%
・SpO2 ≧95%
・会話不能
・会話困難、多呼吸、呼気延長
・会話可能、頻回の咳嗽
・著明な呼気性喘鳴
・明らかな呼気性喘鳴
・乳児:来院時の無呼吸発作
・著明な努力呼吸(呻吟・鼻翼
・吸気性喘鳴
(15秒以上)
呼吸・陥没呼吸・肩呼吸)
・心停止
・末梢循環不全:CRT2秒以上
・徐脈
・検脈にて不整あり
・検脈にて不整あり
・ショック
:胸部症状あり
:胸部症状なし
・3か月未満
・水分摂取不良⇒脱水を評価
・免疫不全患者 (好中球減少症、
・発熱4日
臓器移植、ステロイ ド投与の患者)
・川崎病を疑う
・≧41.5℃の発熱
・関節炎、蜂窩織炎を疑う
・重度の脱水症
・中等度の脱水症
・軽度の脱水症
・脱水症状なし
(ショックの徴候・症状がある)
(粘膜の乾燥、頻脈、ツルゴールの
(口渇感の増大と濃縮尿があり、水
(経口水分摂取が困難)
低下、尿量減少がある)
分摂取量の減少があるがVS正常)
・胆汁性嘔吐
・頻回の下痢
・血性嘔吐
・腹部術後の嘔吐
・下血、血便
・糖尿病の既往
呼吸
循環
緊急
・昏睡、無反応(GCS 3~8)
発熱
(≧38℃)
嘔吐、下痢
(脱水)
・清明(GCS 14~15)
・嘔吐・下痢の程度が軽度
・腸重積を疑う
疼痛
・急性/強い(8~10/10)
・急性/中等度(4~7/10)
・急性・慢性/弱い
:苦悶様顔容貌、・発汗あり
・胸痛(裂け る・引き裂かれる感じ)
・慢性/強い (8~10/10) ・慢性/中等度(4~7/10)
・虫垂炎、急性腹症を疑う
(0~3/10)
・頭痛:嘔吐・冷感を伴う
・陰嚢部痛、変色
・頻尿、排尿時痛、血尿 ⇒採尿
・ヘルニア嵌頓
泌尿器
・包茎嵌頓変色を伴う
アナフィラ
・アナフィラキシー(皮膚症状
キシー・ と気道/循環/神経症状)
じんましん
・気道症状あり
・気道症状なし
・気道症状なし
・皮膚症状の範囲が広く顔面
・かゆみや範囲の増強あり
・かゆみや範囲の軽減あり
・意識消失あり現在意識清明
・意識消失なし
・意識消失なし
・頭部血腫あり(1歳半未満)
・頭部血腫あり(1歳半以上)
・虐待を強く疑う:安全の確保
・虐待かもしれない
に集中している
・異物誤飲をした/異物誤飲
をしたかもしれない⇒呼吸を
評価、必要時X-Pオーダー
誤飲
・薬物誤飲をした/薬物誤飲
をしたかもしれない⇒意識レ
ベルを評価
・意識障害あり
頭部打撲 虐待
ができない可能性がある
*疼痛評価
年齢と発達段階に応じて、適切な疼痛スケールを用いて行う。

行動スケール
*FLACC スケール:急性疼痛の評価
対象:乳児、幼児〔未就学児〕
(認知障害のある小児や青春期の患児にも役立つ場合がある)
カテゴリー
0
1
2
表情
表情の異常なし、または笑
時々顔をゆがめたり、しか
頻回または持続的に下顎
Face
顔である
め面をしている、視線が合
を震わせている、歯を食い
わない、周囲に関心を示さ
しばっている
ない
足の動き
正常な姿勢で、落ち着いて
落ち着かない、じっとして
蹴る動作をしたり足を縮
いる
いない、ぴんと張っている
こませたりしている
活動性
おとなしく横になってい
見もだえしている、前後
弓状に反り返っている、硬
Activity
る、正常な姿勢、容易に動
(左右)に体を動かしてい
直またはけいれんしてい
くことができる
る、緊張状態
る
泣いていない(起きている
うめき声を出す、またはし
泣き続けている、悲鳴を上
か眠っている)
くしく泣いている、時々苦
げている、またはむせび泣
痛を訴える
いている、頻回に苦痛を訴
Legs
泣き声
Cry
えている
あやしやすさ
満足そうに落ち着いてい
時々触れてあげたり、抱き
あやせない、苦痛を取り除
Consolability
る
しめてあげたり、話しかけ
けない
てあげたり、気を紛らわす
ことで安心する
合計スコア

自己申告スケール 0:「痛くない」から 10:「非常に痛い」を示す。
*疼痛フェイス・スケール:急性/慢性疼痛の評価
対象:未就学児、学童
IV. トリアージの流れ
Step1: First Look
全身状態の評価
(PAT:小児アセスメントトライアングル)
感染性疾患のスクリーニング
危急的状態
不良
良好
Step2: Present Problems
来院の理由と
簡潔な病歴
Step3: Vital Signs
生理学的評価
(バイタルサイン測定)
蘇生
緊急
準緊急
非緊急
(処置室)
(処置室 or 診察室)
(待合室)
(待合室)
Step4:
必要な医療の提供と
再評価(再トリアージ)
V. トリアージ区分の決定
全身状態の評価
(PAT:小児アセスメント・トライアングル)
アピアランス
呼
吸
循
環
正常
正常
正常
意識 LV 低下
無呼吸
蒼白
けいれん中
陥没・努力様呼吸
脈拍微弱
ぐったり
多呼吸
チアノーゼ
顔色不良
呼気性喘鳴
四肢冷感
皮膚粘膜症状
吸気性喘鳴
CR time 2 秒以上
不穏
大泉門の異常
PAT における重症感の評価(緊急度レベルの判定)
アピアランス
意識 LV 低下
呼
吸
循
無呼吸
環
1 項目でもある
蒼白
けいれん中
脈拍微弱
→危急的状態(→蘇生)
ぐったり
陥没・努力様呼吸
チアノーゼ
顔色不良
多呼吸
四肢冷感
2 項目以上ある
→危急的状態(→蘇生)
CR time 2 秒以上
皮膚粘膜症状
大泉門の異常
不穏
重症感(緊急度レベル)
1 項目ある
→不良(→緊急)
1 項目ある
呼気性喘鳴
吸気性喘鳴
→良好(→準緊急)
心拍数・呼吸数異常の判定基準
頻脈 1(緊急) 頻脈 2(準緊急)
徐脈(蘇生)
多呼吸(緊急)
0~3 か月
≧205(蘇生)
≧180(緊急)
<90
≧70(蘇生)
3~6 か月
≧180
≧160
<80
≧70
6~12 か月
≧160
≧140
<80
≧55
1~3 歳
≧145
≧130
<75
≧35
3~6 歳
≧125
≧110
<70
≧28
6~10 歳
≧105
≧90
<60
≧24
10~15 歳
≧105
≧90
<60
≧24
※0~3 か月の子どもの場合は、緊急度が一つ上がる。
VI. トリアージの実施手順
①
PC の患者一覧から、患者を選択する。
阪神北夫
患者名を確認する。
②
ファイルの名前を呼び患者のもとへ行く。
「○○さん、○○△△さん」

受付から患者のもとへ行く間にも、PAT(小児アセスメント・トライアングル)を
意識して観察する。

③
同時に、感染性疾患のスクリーニングを行う。Step1
保護者と患児に挨拶をする。
「こんばんは、看護師の××です」
④
保護者から問診表をもらい、問診することを伝える。
「問診表をちょうだいしますね。今からお話を聞かせていただいてよろしいですか?」
⑤
PAT の評価を入力する。

PAT、すなわち A(アピアランス)、B(呼吸)、C(循環)を自分の目と耳で迅速に評
価し、危急的状態、不良、良好に分類する。
阪神北夫
危急的状態(蘇生)の場合
・患児をすぐに処置室に運ぶ。
・必要に応じて救急救命措置(CPR)を開始する。
・医師を呼び人手を集める。
不良(緊急)の場合
・早急に診察が受けられるように調整する。
・必要時、酸素投与やモニター装着等の処置を行う。
良好の場合
⑥
・準緊急または診察に分類された場合は以下に進む。
保護者が記入した問診表に沿って簡潔に問診し、入力する。Step2
記事は、電子カルテの問診欄に反映される。
阪神北夫

問診時、精神疾患の既往や虐待に関すること等を聴取しなければならない時や、
全身の皮膚状態や陰部の観察が必要な時は、別室に誘導する等行い、プライバ
シーには十分配慮する。
⑦
必要なバイタルサインの測定を行い、数値を入力する。
阪神北夫
⑧
PAT、問診、バイタルサインを評価し、緊急レベルを入力する。Step3

トリアージ区分の決定と待機場所の決定を行う。
阪神北夫

複数項目にわたり該当するものがある時は、最も緊急度の高いものを選択する。

最終的な緊急度の決定において、「何かおかしい」「見た目が悪い」と考える時
には、トリアージ区分を上げる。(オーバー・トリアージの許容)

隔離患者には“要隔離”のチェックに入力する。

他科紹介が必要と判断される場合は“要他科紹介”のチェックを入力する。

母子手帳、お薬手帳や、お薬を持参されている患者には、診察時医師に見せる
ように説明する。

センター内の状況(混雑状況、トリアージ待ち患者数)によって、トリアージを簡
略化(PAT 重視)する。

12 時間以内に同症状で再度センターに受診に来た患者は、緊急度レベルを上げ
ることを考慮する。
⑨
案内票及び診察券の名前、生年月日を保護者に確認する。
「案内票及び診察券のお名前と生年月日は間違いないでしょうか」
⑩
ファイルを保護者に渡し、状態の変化がある時は申し出てもらうように伝える。
「診察室からお呼びしますので、お待ちください。お待ちの間に何かありましたらご遠
慮なく看護師のほうにお申し出ください」
⑪
問診表の左上に受付番号を記入して診察室裏に運ぶ。
VII. 再評価(再トリアージ)
①
診察待ちの患者に対し、適宜必要な医療の提供を行う。また、症状の変化時や緊急度
レベルに応じた時間間隔で速やかに再評価を行う。Step4
阪神北夫
再評価のマークをチェックする。
②
再評価では症状やバイタルサインの変化がないかを評価し、緊急度レベルを入力する。
阪神北夫
再評価に緊急度レベル、緊急度レベルの
判断理由、バイタルサイン、看護師名を
入力する。
看護師名
③
再評価までの時間目安
急: トリアージから 15 分以内

緊

準緊急: トリアージから 30 分以内

非緊急: トリアージから 120 分以内
VIII. トリアージを行う上での注意
①
全ての患者が来院後 10 分以内にトリアージを受けられるようにする。
②
トリアージは 1 人 3~4 分以内に完結させる。
③
トリアージは病名を予測したり、診察前の予診を聴取することではない。
④
隔離が必要な患者は隔離室に誘導する。
⑤
3 か月未満の乳児や免疫抑制剤内服中の患児は逆隔離の目的で、ベビールームや授乳室
に誘導したり、車内で待機してもらう。
⑥
隔離のことは“フルーツ”という言葉で統一する。
例)
⑦
「こちらの患者さんをフルーツ部屋にご案内してください。
」
憂慮すべきことは、診察待ちの患者が多いことではなく、トリアージ待ちの患者が多
いことである。
⑧
オーバー・トリアージは患者の不利益にはならないが、アンダー・トリアージは患者
の不利益に直結する。
⑨
効果的なトリアージは、トリアージ要員の知識、技術、そして態度に依存する。
⑩
トリアージの終了と同時に、再評価の設定をする。
IX. トリアージ体制
①
トリアージ専任の看護師を 1 名以上配置する。
 繁忙期、混雑時は流動的にトリアージ看護師を増員する。
②
その日のトリアージ専任看護師を当日リーダー看護師が指名する。
 リーダー看護師は疲労度を考慮して適宜トリアージ看護師を交代させる。
X. 受付事務との連携
①
受付事務員は、患者が来院した時に、最初に接するセンターの職員である。
②
受付事務員は、発疹患者、耳下腺腫脹患者、重症患者(例:けいれん中、心肺停止患
者)や、外傷等の非小児内科疾患の患者が来院した場合は、速やかにトリアージ看護
師に報告する。
③
受付事務員は、耳下腺腫脹患者にはマスクを着用してもらい、有熱エリアに案内する。
マスクを着用できない患者の場合は、隔離待合へ誘導する。
④
トリアージ看護師は、受付事務員から上記患者が来院した報告を受けたときは、以下
のように対応する。
発疹患者
・水痘、麻疹等の空気感染疾患が疑われる場合は隔離待合へ誘導するように受付事務
員へ指示する。
重症患者
・ただちに患者を処置室に誘導し、受付事務員にカルテを速やかに作成するよう指示
する。
外傷等の非小児内科疾患患者
・センターで対応できる状態か見極める。
・センターで対応できない場合は、他院への紹介する、もしくは自宅でのケアの方法
や翌日専門医への受診を指導する。
XI. 救急車で来院された患者
救急車で来院された患者も、通常来院患者と同様にトリアージを行い、緊急度に応じた
診療を行う。
①
救急隊より救急搬送依頼の電話がある。
 氏名、年齢、救急隊名、病状、バイタルサインを聞く。
②
財団医師にセンターにて受け入れるかどうか確認する。
 センター2 次搬送マニュアルを参照のこと。
受け入れる場合
1)
センター受診歴と到着予想時間を救急隊に確認する。
・センターが混雑しているときは、トリアージによって診察待ちの時間があること
を救急隊に伝える。
2)
救急車が到着したら、トリアージを行う。
ⅰ)
非緊急(診察)および準緊急の場合:
・看護師が救急隊からの申し送りを受ける。
・保護者に受付をしてもらい、通常来院患者と同様に診察まで待っていただく。
ⅱ)
緊急の場合:
・医師が救急隊からの申し送りを受ける。
XII. 看護師の権限
トリアージ及び医師の診察を迅速に行うために、看護師の権限において下記の 5 項目の
実施をセンターでは取り決めている。
レントゲン撮影オーダー
主訴に異物誤飲もしくは疑いの患者が来院したら、診察前にレントゲン撮影の要否を
医師に確認し、看護師がレントゲンのオーダー入力をする。医師の診察時には、レント
ゲンができているようにしておく。
検尿オーダー
主訴に排尿時痛、血尿がある患者が来院したら、診察前に看護師が検尿のオーダー入
力を行い、医師の診察時には検尿結果が出ているようにする。
インフルエンザ検査オーダー
インフルエンザ流行時には、センターにおける検体採取適応患者の取り決めに基づき、
診察前に看護師がインフルエンザ検査のオーダーを行い、医師診察時にはインフルエン
ザ結果が出ているようにする。
酸素投与
看護師はトリアージ時に陥没・努力様呼吸、喘鳴がある患者や SPO290%以下の患者に
対して、医師の指示を待たずに酸素投与を行う。酸素投与後は、速やかに医師の診察を
受けさせる。
血糖測定
糖尿病がある患者や、自宅で血糖測定を行っている患者に対しては、血糖測定を行う。
XIII. スタッフ間での連携
①
トリアージを行うのは看護師であるが、受付事務員、薬剤師、臨床検査技師、レント
ゲン技師、医師等、スタッフ職員間との共通言語であり、連携して患者の診療をする
システムである。
②
トリアージ看護師はトリアージの判断に迷ったり、判断が難しいときは、リーダー看
護師や他の看護師に相談する。
③
「準緊急」以上の場合や、「非緊急(診察)
」でも気になる患児は、リーダー看護師に
報告する。
④
虐待が疑われる場合は速やかにリーダー看護師に報告し、スタッフ職員間で情報共有
を図る。
⑤
電話相談看護師は、電話相談でセンターに来院されることがわかっている場合で、緊
急に対応が必要と予測される患者について、トリアージ看護師や受付事務員に連絡し
ておく。
⑥
トリアージ業務による疲労度が強いときはリーダー看護師に報告し、トリアージ業務
を他の看護師と交代する。
XIV. 子どもと家族への対応
患者・保護者をあたたかく受け入れる
患者・保護者と向き合う態度(受け入れる態度、聴く姿勢)を示す。患者の急な症状に
困惑して、慌てて救急受診した患者・保護者の気持ちを一旦受け止める役割を担う。
保護者の話を軽視しない
子どもの様子をいつも見ているのは保護者である。保護者の「いつもと違う」という
気づきを軽視してはならない。患者の状態を確認しながら、情報を整理して、保護者
が子どもの状態を客観的に見ることができるよう手助けする。
XV. トリアージ看護師に求められる資質
小児救急看護技術
+
・高いコミュニケーション技術
・他職種の人との協働
・気転がきき、忍耐強さと理解力とすぐれた判断力
+
・全体像を把握できる技能
・
・ストレスの多い状況で職務を遂行
・経験、技術、専門的な臨床的判断能力
・役割モデルとして行動する能力
XVI. 看護の質を担保するために
自己研鑽とシステムの改善
① 阪神北広域こども急病センター看護師は、トリアージの質を向上させるため、自己研鑽
に努めなければならない。
② トリアージの結果に問題がある場合は、トリアージ看護師個人の問題に帰結するのでは
なく、トリアージ・システムと本マニュアルの改善を要する問題として捉えるものとす
る。
③ アンダー・トリアージ症例やナイス・トリアージの症例は、スタッフ共有のものとして
振り返り、トリアージ・カンファレンスで検討を行う。
<参考文献>
宮坂勝之、清水直樹:小児救急医療でのトリアージーP-CTAS:カナダ小児救急トリアージ・
緊急度評価スケールを学ぶ 克誠堂出版 2006
上村克徳他:初期評価とトリアージ 小児看護 29(7)2006
白石裕子他:救急外来における子どもの看護と家族ケア
中山書店
2009
白石裕子他:小児救急看護 小児看護 32(7)2009
市川光太郎:小児救急看護マニュアル 中外医学社 2006
伊藤龍子,他:小児救急トリアージテキスト.医歯薬出版,2010
日本救急医学会,他(監)
:緊急度判定支援システム JTAS2012 ガイドブック.へるす出版,
2012
日本救急看護学会(監),日本救急看護学会トリアージ委員会(編):看護師のための院内
トリアージテキスト.へるす出版,2012
長谷川正幸(監):小児救急&緊急場面 How to Care.日総研出版,2014
トリアージマニュアル(改訂第 2 版)
平成 22 年 4 月初版発行
平成 27 年 10 月改訂第 2 版発行
発行:阪神北広域こども急病センター 看護部
編集・執筆:浅見 京子(小児救急看護認定看護師)
馬場 順子
服部 悦子