株式会社アーケイディア・グループ 東京都港区赤坂 2-17-22 赤坂ツインタワー東館 15 階 TEL:03-5562-3111 ARCADIA NEWS 平成 22 年 8 月号 執筆責任者：太田 耕介 【テーマ：ADR（Alternative Dispute Resolution; 裁判外紛争解決手続）】 I. はじめに 窮地に立たされた企業において事業を再生する手法としては、会社更生法や民事再生法 の適用による法的整理や任意に行われる私的整理が広く知られていますが、近年、事業再 生 ADR という手続きも新聞などで頻繁に見受けられるようになりました。 そこで、今月の ARCADIA NEWS では、事業再生 ADR の概要についてご紹介いたします。 II. ADR とは ADR とは、 「裁判外紛争解決手続（Alternative Dispute Resolution)」の略称で、訴訟や 法的倒産手続のように、裁判所による強制力を持った紛争解決の手続を利用することなく、 当事者間の話し合いをベースとして、紛争を解決しようとする手続の総称です。企業が当 該手続を利用して事業の再生を図る場合を特に事業再生 ADR という呼び方をすることもあ ります。 なお、平成 19 年に施行された ADR 法（裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律） により、民間の事業者が、法務大臣の認証を受けて、ADR 事業を営めるようになりました。 III.事業再生 ADR のメリット 事業再生の手法には、会社更生法や民事再生法といった法律に基づき裁判所を利用する 「法的整理」と、裁判所を利用せず当事者の協議による「私的整理」の 2 種類があります が、両者は互いにメリット、デメリットがあります。これらをまとめると下記のとおりと なります。 [表１] ① メ リ ッ ト デ メ リ ッ ト ② ③ ① ② 法的整理 裁判所の監督下で行われるため信頼感があ る。 損失の分担にあたり債権者が平等に扱われ るため公平感がある。 債権放棄の損失を無税償却できる。 手続が公けにされるため、商取引上信用力 が低下する。 取引先も重大な影響を受ける。 1 ① ① ② 私的整理 本業をそのまま継続しながら、金融機関等 との話し合いで解決策を探れるため、商取 引に与える影響が小さい。 債権放棄の損失が無税償却できない場合が 多い。 金融機関の間での話し合いが円滑に進むと は限らず、結果として再生が滞る場合があ る。 株式会社アーケイディア・グループ 東京都港区赤坂 2-17-22 赤坂ツインタワー東館 15 階 TEL:03-5562-3111 以上、法的整理と私的整理のメリットおよびデメリットは表裏の関係にあることがうか がえますが、両者のメリットを享受し、デメリットをできるだけ排除するように制度設計 されたのが事業再生 ADR です。 [事業再生 ADR のメリット] 法的整理と同水準の監督の下で手続が進められるため、法的整理と同様に信頼感、公 平感がある。 金融機関等との話し合いを基礎として解決策を模索することから、商取引に与える影 響が小さい。 金融機関等の意見がまとまらず、裁判所を利用した手続に移行する場合でも ADR の結 果を尊重してもらうことができる。 原則として、債権放棄による損失の無税償却が認められる。 IV. 手続きの流れ 事業再生 ADR の手続は、大別して、次のような３つの段階に分かれています。 【第１ステージ 事前相談から正式な利用申込みまで】 【第２ステージ 手続開始（一次停止通知から計画案の決議まで） 】 【第３ステージ 手続の終了（計画案の決議） 】 ここでは、それぞれの手続きにおける概略を紹介します。 •【事前相談から正式な利用申し込みまで】 •事業再生ADRを利用する場合、過剰債務を負っている企業の全てが事業再生ADRを利用で 第1ステージ きるわけではないため事前相談を行います。この事前相談により企業の事業価値および 事業再生の可能性が認められた場合に、事業再生実務家協会による事前審査が行われ、 申込みを受け付けるかどうかが判断されます。 •【手続開始（一次停止通知から計画案の決議まで）】 •事業再生の可能性が認められ正式な申込みがなされた後の手続は、私的整理に類似して 第2ステージ います。すなわち、一時的に債権回収や担保設定行為が禁止され、債権者に債務調整の 話し合いへの参加が促されます。 •【手続の終了（計画案の決議）】 •話し合いによる決議案について債権者会議で同意が得られれば、私的整理が成立し、決 議案に従い計画が実行されることになります。なお、決議案に同意しない債権者がいた 第3ステージ 場合には、特定調停さらには法的整理へと手続に移ることもあります。 2 株式会社アーケイディア・グループ 東京都港区赤坂 2-17-22 赤坂ツインタワー東館 15 階 TEL:03-5562-3111 V. 事業再生 ADR の申請企業に対する債権の会計処理 （１）論点 事業再生 ADR では、一般に金融機関が保有する債権のみを対象とし、仕入先等のその他 一般債権者の債権は対象に含めません。そのため、事業再生 ADR の申請企業に対する債権 への貸倒引当金の見積りに係る会計処理をどのように行うか問題となります。 （２）結論 事業再生 ADR は、事業再生の手法としては比較的新しいため、その申請企業に対する債 権への貸倒引当金の見積りに係る会計処理についての明確な会計基準はありません。 よって、事業再生 ADR の申請企業に対する債権については、貸倒引当金の見積りの会計 処理に原則的に適用となる「金融商品に係る会計基準」に基づき会計処理を行うこととな り、案件ごとに個別具体的な検討が必要になるものと考えられます。 （３）債権の分類及び貸倒見積高の算定方法 金融商品に係る会計基準では、債務者の経営状況に応じて債権を「一般債権」、 「貸倒懸 念債権」 、 「破産更生債権」の３種類に分類し、それぞれについて貸倒引当金を見積ります。 [表２] 債権の区分 債務者の状況 貸倒見積高の算定方法 一般債権 経営状態に重要な問題が生じていない。 貸倒実績率法(*1) 貸倒懸念債権 経営破綻の状態には至っていないが、債務 の弁済に重要な問題が生じているか又は その可能性が高い。 財務内容評価法(*2)又はキャッシュ・フ ロー見積法(*3) 破産更生債権 経営破綻または実質的に経営破綻に陥っ ている。 財務内容評価法 *1 貸倒実績率法 債権全体または同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率 などの合理的な基準により貸倒見積高を算定する方法。 *2 財務内容評価法 債権額から担保の処分見込額や保証による回収見込額を控除した残額に債務者の状況を 考えて、貸倒見込額とする方法。 *3 キャッシュ・フロー見積法 債権の元本の回収や利息の受取のキャッシュ・フローを見積現在価値に割り引いた額を 回収見込額とする方法。 3 株式会社アーケイディア・グループ 東京都港区赤坂 2-17-22 赤坂ツインタワー東館 15 階 TEL:03-5562-3111 VI. おわりに 事業再生 ADR は、厳格な裁判制度に適さない紛争の解決手段として今後多くの利用が見 込まれています。また、司法制度に馴染みが薄い日本の国民性に合致した紛争解決手段と して期待されています。 【推薦図書】 題名： 『ユダヤ・キリスト・イスラム集中講座』 著書： 井沢元彦 徳間文庫 感想： ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の関係は世界的には常識ですが、私を含め日 本人はなんとなくわかっているようでよくわからないという方が多いのではない でしょうか。私はこの本を読んで、最低限知っておくべき違いを理解できたよう に思います。姉妹編として、 『仏教・神道・儒教集中講座』というのもありますの で、興味がある方は読んでみることをおすすめいたします。 4
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