セントラルオート スプリングや折れた破片が飛び散っていたら、 今回のトラブル原因となったブラケット部分。 もっと大きな被害があったかもしれない。今回 写真右は新品で左が取り外したもの。真っ二 のケースではそれがなかったのが幸いだった。 つに割れ、 折れてしまっているのが分かる。 機械式ATに使われている 素材は耐久性が高い 情報を得た編集部。ATの内部がど んな状況になっているのかを確認す 専門修理工場 ﹁セントラルオート﹂ だ。 べく向かったのは、メルセデス・ベンツ 入庫したW124のATは機械式 の4速タイプ。AT内部に使われて いる部品の材質が良く、 プレスではな く削り出しで作られている部分もあ チディスクなど消耗品の交換を目的 るから耐久性が非常に高い。クラッ に定期的にオーバーホールすること で長く使うという設計がなされてい るのである。 機械式ATでは定番のパターン。今 この車両のトラブルはRレンジに 入れてもバックしないというもので、 回の原因となったのは、AT内部にあ るブラケットの破損である。実際に 真っ二つに割れてしまっていて相当 そのパーツを見せてもらったのだが、 な力がかかったことが想像できる。 オーバーホールを担当したセントラ ルオートの児玉氏はこう話す。 ﹁機械式ATではさほど珍しくはな トやスプリングが他の部分に干渉し い症状なんですが、 破損したブラケッ た部品が飛び散ってしまうと、通常 ていなくて良かったですね。破損し しまうこともありますから。その他 含めて整備性が良いというのは、 アナ てきている。それゆえ、部品供給も は再使用となる高価な部品を傷めて の部分では走行距離が多いこともあ れる重要な要素になっている。 ログ世代のメルセデスを乗り続けら ンドもそうですね。それでも全体的 やフィルターの交換を定期的にやっ にはキレイな状態だったので、ATF てきたクルマだと思います。メンテ 今回の車両が走行 万㎞まで持 たせることができたのは、日頃からき 長く機械式ATにこだわり続けたメ ティが大きく向上するのだ。とくに できる。シフトアップ・ダウンのレス くなり、キビキビとした走りを堪能 オーバーホールによって再生され たATは、 これまでよりも加速力が良 っちりとメンテナンスしながら、丁寧 る。構造もシンプルで部品代も現実 に過度な負担を与えず、定期的なメ 手動での変速が楽しくなることは間 イレクトな変速感が楽しめるので、 ルセデスの場合、電子制御よりもダ ですね。扱い方も含めて熟知している工場がベストです」 に出す場合も、やはりこの世代のメルセデスに詳しいところを選ぶべき のである。 を魅了する大きな理由になっている いくことこそが、今でも多くのファン かけたぶんだけクルマが良くなって メルセデスが持つ大きな魅力。手を ぐに体感できるのもアナログ世代の していた。メンテナンスの効果がす くなって、さらに愛着が沸いた﹂と話 じつは、このクルマのオーナーと話 す機会があったのだが、﹁走りが楽し あり、 味なのである。 デスの機械式ATが持つ本来の姿で レクトなフィーリングこそが、メルセ ップとシフトダウンを繰り返すダイ そもそもの考え方が違う。シフトア 和らげる昨今の電子制御ATとは、 半クラッチの多用で変速ショックを 速を優先させたATなのだ。まるで、 ョックよりも素早いダイレクトな変 違いない。 験がある工場で定期的にATFとフィルターを交換して、丁寧に扱うこと 的なレベルだ。 ンテナンスを施せば機械は長持ちす ポンスが良くなるため、 ドライバビリ な扱い方を心がけていたから。AT 持たなかったでしょうね﹂ ダイレクトな変速感こそが 機械式ATの大きな魅力 でいて焼けていました。ブレーキバ サンプルカーは走 行 万㎞ の初代Eクラス︵W124︶ 。 今回 が初めてのATオーバ ーホールとなる。 機械式ATは走行 万㎞前後でオ ーバーホールとなるケースが多いが、 万㎞を走行した初代Eクラス ︵W うことだってあるのだ。そんな中で、 よっては7万㎞でダメになってしま が変わってくるのも事実。クルマに コンディションや扱い方次第で寿命 10 124︶ が修理工場に入庫したという 20 って、クラッチディスクの剥離が進ん 20 ナンスを怠っていたら 万㎞までは 20 20 が今後は重要になってきますね。あとはAT以外のメンテナンスで工場 ﹁シフトショッ 国産車オーナーには クが大きい﹂などと言われそうだが、 す。機械式を積むのは角目世代のメルセデスがほとんどですから、一度 メルセデスの機械式ATはシフトシ はオーバーホールしているユーザーさんも多いと思います。知識と経 最近のドイツ車のATは、高度な 電子制御化によりATのコンピュー 機械は正しく扱いメンテすれば長持ちする 66 67 SAMPLE CAR タユニットなどの部品が高価になっ 「機械式ATは正しく扱い、メンテナンスしていけば快調をキープできま ﹁しっかりメンテナンスをして丁寧に 扱ってきたから長く持ったんでしょ うね﹂ と話す児玉氏。それでもクラッ チディスクやブレーキバンドといっ た消耗品は経年劣化が進んでいた。 20万km走ったクラッチディスクはさすがに焼 けてしまっていた。これは消耗品なのでオー バーホール時には新品に交換される。 ブレーキバンドにも焼けが見られる。この部品 はクラッチディスクと同様に摩擦材が備わるた めオーバーホール時には交換されることが多い。 トラブルの原因はブラケットの破損 他の部分に影響を与えなかったのが救いだった バルブボディを組み上げているところ。ATの心臓部であるバルブボディのオーバーホールは スプリングやチェックボールの確認など実は繊細な仕事が要求される部分だ。 ●文= GERMAN CARS ●撮影=古閑章郎 ●協力=中村顕三氏(車両オーナー)/ セントラルオート 20万km走ったATの 中身はどうなってる? タフな素材と信頼性の高い メカニズムで構成されている メルセデス・ベンツの機械式 AT。 オーバーホールしながら 長く使うという設計になって いるのだが、 なんと20万km を走破したATが修理工場に 入庫したという情報をキャッ チ。早速、 取材してきた。 09 メルセデス・ベンツの機械式4速AT 本誌でお馴染みのセントラルオートの児玉氏。ATのオーバーホールに 関しては機械式、電子制御式ともに豊富な経験を持つメカニックであ る。今回の作業も手馴れたもので、分解から組み付けまで作業の全てが 身体に染み付いている。 ●問い合わせ:☎048-930-6800 Part. 児玉 善一郎氏 Mercedes-Benz 児玉メカニックからのアドバイス お、折れた!? という人も多いはず。長く乗ってい 塞いだりといった不具 合を起こす。 ツの動きを鈍くしたり、油圧経路を やがて、汚れがスラッジ化し、各パー 蓄積を抑制できる。 る人なら一度はオーバーホールしてい しかし、ATはATFを汚さなければ 走行距離が増えてくると 気になる 走ることができない。だからこそA 20 ると思うが、二度目はあるのか、それ ともメンテナンス次第で変わるのか 新車から 年以上が経過した往 年のメルセデスとBMWは根強い人 TFフィルターの交換が重要なので 詰まりしやすいため、 交換サイクルと など、決して安くはない費用がかか ついて簡単に説明しておこう。AT しては2∼3万㎞となっている。こ るATだけに気になるところだ。 気を誇っており、今でも多くのファン れは構 造 的 な問 題 が大きい。AT にトラブルが起きるのはなぜか。そ が溜まり、トラブルが発生する確率 れを守らないと、AT内部にスラッジ デス・ベンツでもBMWでも、基本的 が存在するが、走行距離もそれなり 内部の代表的な消 耗品であるクラ ドイツ車に搭載されるATには機 械式と電子制御式があるが、メルセ に増えたクルマが多いと思う。走行 ッチ ディスクには 摩 擦 材 が 備 わっ が極端に高くなる。 ある。これである程度までの汚れの 万㎞オーバーだとしても、 別に不思 ていて削られながら作動している。 メンテナンスフリー化が進んだ電 子制御ATの場合、メーカーが指定 にその構造は変わらない。 議はない。だが車齢と走行距離が増 摩 擦 材 が減ると、その摩 耗 粉 がA が、そのメカニズムとメンテナンスに えるにつれて気になるのが大物修理 TFに混ざり各部へ循環してしまう。 セントラルオートのオーバーホール は、消耗品やパッキン類を交換し、さ らに使用限度が近いパーツや不良パ ーツを交換する。もちろん、バルブ ボディ内部のオーバーホールも行な う。バルブボディとトルコンまでオ ーバーホールするかどうかを、作業 前に確認することが大切。 ﹁ATは消耗品﹂というのはベテラ ンユーザーなら知るところだと思う である。エンジン、 エアコン、 そしてA 10 10 フィルターがろ 機械式ATの場合、 紙なのでろ過能力が高い。しかし目 Tが代表格だが、とくにATが心配 す。だから現状で変速不良が起きて ってコンディションが変わってくるの ら、やはりATに詳しい工場に点検 ですが、走行距離が増えてくると各 してもらうのが安心な方法なのであ どから内部の状況を予測できる。 まうことが多いです﹂ するATF&ATFフィルターの交 ルターの交換を行なっても、内部の ATのオーバーホールを得意とす るメルセデス・ベンツ専門修理工場セ させるコツ。また、ATは乗り方によ 汚れをキレイに取り除くことは不可 ントラルオートの児玉氏はこう話す。 なのだが、ATFだけではなく、フィ 多走行車のメンテナンスとしては ATFとフィルターを交換すること いなくても丁寧に扱うことが長持ち 能。逆にその整備によって汚れが循 のですが、その時に何とも言えない ﹁サンプルとしてATFを抜き取る のである。取材したセントラルオー ルターを換えることが何より大事な 換サイクルは 万㎞ごと。大量のス 環し、 トラブルを発生させてしまうこ 独特な臭いがあったり、 鉄粉が混ざっ る。ATのオーバーホールが得意な ともあるのだ。 ていたり、 さらにその鉄粉がどんな素 工場ではATFの状態、色、ニオイな メンテナンスせずに 万㎞ だから、 を走行したクルマのATは、オーバー を交換するためのメンテナンスだと トでもATFは大事だが、フィルター 換サイクルでは、ATF&ATFフィ ホールを前提にした整備が最も効果 材なのかなどで判断しています。走 思ってほしいとのこと。雑な操作を ラッジと金属粉が蓄積されるこの交 的で確実なのだ。また、 これまでの交 気をつけなければならないのがリバ 行距離が多いクルマの場合、もっとも 10 部のクリアランスが大きくなってし 換履歴が分からない場合、 ATFを交 □ ATのフルオーバーホール 換して良いのか、 それとも何もしない フィルター交換に加え、バルブボデ ィのみをオーバーホールするもので W210などに搭載されていた電子制 御5速ATに多い作業。コンダクター プレートと呼ぶ基盤の変形などによ り、バルブボディのオーバーホール が必要な場合がある。ATF管理の悪 いクルマが陥りやすいトラブル。 走行車にとって重要になってくる。 □ バルブボディのオーバーホール 控え、 基本メンテを怠らないことが多 ATFフィルター(スクリーン)交換を 前提に、オイルパンを開けトルクコ ンバータ内部のATFも抜き、ATFを 交換する整備。セントラルオートで は、 ATFフィルターを交換するために ATFを交換するという考え方で、こ の整備を勧めている。交換の目安は 2∼3万kmごと。 摩擦材が剥離してしまう消耗品で □ ATFフィルター交換 ースですね。リバースはどうしても フィルターの交換はせずに、ATFフ ルードチェンジャーによってフルー ドのみを交換する整備。走行距離の 少ない国産車などにはお勧めだが、 メルセデスの場合は信頼できる整備 工場での作業以外はあまりお勧めで きない。異物が循環し、トラブルに 繋がる可能性がある。 方が良いのか迷うことだろう。 □ ATF交換 このあたりの判断が難しいことか ATの基本メンテナンスと オーバーホールの種類 多走行車で注意したいのがリバース ATFフィルターの交換が重要になってくる Mercedes-Benz & BMW Mercedes-Benz & BMW 機械式&電子制御式 多走行車の ATメンテナンス ヤングクラシックやネオクラシックと呼ばれる新車から20年以上経過したクル マの多くは、 一般的な使い方であればそれなりに走行距離も増えているはず。 ここではそんな多走行車のためのATメンテナンスについて解説しよう。 ●文= GERMAN CARS ●撮影 =G.C.E ●協力=セントラルオート もし、こんな 症状が出たら… ATオーバーホールの基本的なコト 変速時の滑り 特に、シフトアップ時にタコメーターの針が一瞬上昇してしまうような場合は、内部の摩耗材の 減りがかなり進行している可能性が高い。 バックしない メルセデスのATでこの症状に陥った場合は、 まずオーバーホールが必要だと思って良い。この 状態まで使い続けると、 費用が高額になることが多い。 メルセデスの電子制御式5速で多く発生したコ ンダクタープレートのトラブル。以前はパーツ 自体に問題があったが、 今は経年劣化も多い。 メルセデスよりも早い時期から電子制御式を採 用しているBMW。センサーなどの不良により変 速がおかしくなるケースもある。 いた メカニックに聞 多走行車にありがちなATトラブル ATのメンテナンスは信頼できる工場に任せたい 写真はメルセデス・ベンツ用だが、BMWにもATのオーバーホールキットが用意されて いる。オーバーホール時にはゴムシールやパッキンなどが新品に交換される。古めの クルマでもこうした消耗パーツが供給されているから、 長く乗り続けられるのだ。 69 メンテナンスの状況にもよるが、リバースにシフトチェンジしてもバックしないとい う症状が多いという。とくに多走行車で、一度もオーバーホールしていないクルマ の場合、スラッジなどがAT内部にあるバルブボディを詰まらせてしまったり、クラッ チディスクが焼けてしまう事例が多い。定期的にATFを交換していても、フィルタ ーを換えていないケースもあるようだ。やはり、 ATは信頼できる工場に任せたい。 変速時のタイムラグ DからR、またはその逆にシフト操作を行なっても、なかなかミッションが繋がらず、長いタイム ラグが生じている場合はオーバーホール時期かもしれない。 変速ショックが大きい シフトアップ、 ダウン、 リバースへの変速時に、 ドンッという大きめのショックが伴う場合は、AT の専門店へ点検を依頼した方が良い。 7 万 km 以上の走行距離 V8エンジン以上のハイパワーモデルは7万キロ前後から、3リッターくらいまでのエンジンなら 10万キロ前後がオーバーホール時期の目安となる。 フルード漏れが多い ミッションケース周辺のパッキンやガスケットから、ATFが多めに漏れている場合は、ガスケッ ト類も新品を装着するオーバーホールがお勧め。 68
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