○○○ 地球社会統合科学セミナー報告 第9回地球社会統合科学セミナー 「社会のための地球科学」開催報告 中 野 伸 彦 (包括的地球科学コース) (比較社会文化研究院) 「 地 球 深 部から大 気 圏まで、地 球 4 6 億 年の軌 跡を包 括 的 づく研 究・教 育についての紹 介と前 述したような本セミナーの に科 学 する」、私たちがコースの紹 介などで使 用するいわゆ 趣旨説明が行われ、セミナーが開会した。 るキャッチフレーズである。コース内での専 門は多 岐におよぶ まず、鹿 児 島 大 学・井 村 隆 介 先 生に「カルデラ巨 大 噴 火の が、ある意 味で私たちは、このキャッチフレーズの基 、 日々研 リスク評価とリスク管理」というタイトルで発表頂いた。井村先 究・教 育 活 動を行っている。その過 程で、地 球の進 化やそれ 生は、 メディアにもたびたび出演し、火 山 学 者という立 場から に連 動 する生 命 進 化の話をするとよく出てくる返し文 句があ 川 内 原 発 再 稼 働に慎 重な姿 勢をしめしている。井 村 先 生の る。 「ロマン」や「神秘」などといった言葉。 このような言葉や上 話は、九州における過去の巨大カルデラを形成した噴火の実 記したキャッチフレーズは、私たちの日常生活からほど遠く、お 態およびそれらから推定できる今後の危険地域とその対応に およそ関係のないものである。では、私たちの研究分野である ついてであった。特に、過 去の阿 蘇山の噴 火では、九州~山 地 球 科 学が、現 代 社 会においてどのような意 味を持つのか? 口が300度を越える火山灰で覆われ、死の世界になったという また、現 在どのような役 割を果たしているのか?その問に答え 事実に参加者は震撼した。 るべく、本セミナー「 社 会のための地 球 科 学 」を企 画し、2 0 1 5 次に、 「 火 山 災 害 史 研 究の重 要 性 」というタイトルで、都 城 年1月24日伊都ゲストハウスにて開催した。 市教育委員会の桒畑光博先生に発表頂いた。桒畑先生は、 本セミナーは、 6つのテーマ「大規模噴火と市民生活」 「活 遺 跡中から火 山 災 害の痕 跡を見出し、人 類 史における火 山 断層地震の社会への影響」 「犯罪捜査と地球科学」 「環境汚 災 害の実 態を研 究している。桒 畑 先 生によると、 このような火 染と地 球 科 学 」 「 古 気 候 学と環 境 変 動 」 「 地 球 科 学の応用と 山災害史の研究は、ハザードマップの作成などに非常に有益 最先端考古学」からなる。前半4テーマは、外部機関から5名 な情報を与えるという。 また、火山災害発生後、再度人類活動 の講 師の先 生を招き、現 代 社 会における地 球 科 学の役 割に が再開するまでの時間を定量的に見積もることができ、 これら ついてお話し頂いた。後 半 2テーマは、地 球 科 学 分 野が荷担 の研究成果は、現代においても災害復興という観点から重要 する学 際 融 合 研 究の紹 介・成 果 発 表を頂いた。発 表に先 立 であるようだ。 ち、小山内副学府長から本学府が進める統合的学際性に基 災 害の話はまだ続く。次は( 独 )産 業 技 術 総 合 研 究 所・宮 セミナー前半。 小山内先生 (左上) 、 井村先生 (右上) 、 桒畑先生 (左下) 、 宮下先生 (右下) 。 00 地球社会統合科学セミナー報告 ○○○ 下由香里先生に「警固断層帯調査研究の最前線」というタイ も地 質 学が重 要だということ。地 下 水の流 路や方 向は、帯 水 トルで発表頂いた。宮下先生は活断層の専門家であり、福岡 層ごとに異なる場合があり、汚染の対策や原因究明には地質 県 西 方 沖 地 震 以 降、警 固 断 層 帯の研 究に尽 力している。宮 学に基づく地下の地質構造推定が必要不可欠だという。 下先生による最新の研究成果は、福岡に住む人間にとって中 本学府・狩野彰宏先生の発表「気候変動は人類活動に影 身の濃いものであり、皆の危機意識がより一層高くなったに違 響をもたらすか」では、石 筍を用いた気 候 変 動の復 元とその いない。 また、都 市 部の活 断 層 研 究の困 難さに関する話も興 変動が中国王朝の栄枯盛衰に対応するらしい?という興味深 味を引いた。断 層 位 置の特 定には通 常ボーリング調 査を行う い話が、田尻 義了先 生の「 考 古 学 資 料に対する地 球 科 学の が、建 物の密 集 する都 市では困 難である。加えて、断 層を発 応 用展 開 」では、地 球 科 学 的 手 法に基 づく最 先 端 考 古 学の 見する (してしまう) と地価の暴落など様々な利害が生じる。一 成 果が発 表された。両 発 表とも地 球 科 学 的 解 析が人 類 史の 部の人とはいえ、危機意識の低さに愕然としてしまった。 解 明につながるという地 球 科 学 分 野の新たな展 開を示 唆 す 次は一 転「 犯 罪の証 拠 資 料と地 質 学の関 係 」というタイト るものであった。最後に鏑木教務学生委員長のまとめの挨拶 ルで、科学警察研究所・杉田律子先生にお話し頂いた。杉田 により、本セミナーは閉会した。 先生は、 日本では唯一の法地質学者として、 日々犯罪と向き合 本セミナーの参加者は50名であった。参加者は、近隣大学 い、犯罪の物証と天然物の対比を行うことで、物証の出自を解 を含めた大学関係者のみではなく、公務員やマスコミ、地質コ 明している。発表は、 日本では一般的ではない法科学としての ンサルタント関係の参加者もみられた。専門分野も職種も異な 法 地 質 学の解 説から始まった。例えば、土 砂は母 材( 岩 石 ) ・ る参加者が本セミナーを終えてどのように感じたかは、私には 形 成 過 程( 気 候・降 水・地 形など) ・生 物( 土 壌 化 するのに関 到底分からない。少なくとも私は、災害についてお話し頂いた わった微 生 物の種 類 )などの違いなどにより、場 所によって色 井村先生・桒畑先生・宮下先生から「過去の災害は私たちの や成分などが異なる。犯罪捜査にこれを利用するというのだ。 想像より遙かに大きいこと。その認識が災害時により良い行動 発表後半の実際の事例紹介も興味を引いた。 となる」ということを感じた。 また、杉田先 生・佐 藤 先 生の話し 招 待 者の最 後は、明 治コンサルタント (株) ・佐 藤尚弘 先 生 の中では「 多 様な地 球 科 学 的 業 務をこなせる若 手の育 成の に発 表 頂いた。 タイトルは「 土 壌・地 下 水 汚 染 への地 球 科 学 必 要 性 」という言 葉が印 象 的だった。狩 野 先 生・田尻 先 生の 的アプローチ」。佐 藤 先 生は、地 質コンサルタントとしてこれま 話では、 「今後の地球科学の新展開」に心躍った。本セミナー で様々な業務に関わってきている。地質コンサルタントとは、地 では、近年何かと騒がれることの多い自然災害、凶悪犯罪、環 球科学分野において最も日常生活に関わる業種であり、例え 境汚染に深く地球科学が貢献しているという誇らしさを感じる ば、高速道路や空港、 ダムの建設などでは必ず地質調査を行 と同 時に、大 学 教 員として本セミナーで学んだような “ 社 会に い、多くの場合地質コンサルタントが受け持つ。今回の佐藤先 直 結した地 球 科 学 ” を学 生に「 伝える」 「 教 育 する」ことの重 生の話では、土壌や地下水汚染の原因究明や対策において 要性を痛感した。 セミナー後半。 杉田先生 (左上) 、 佐藤先生 (右上) 、 狩野先生 (左下) 、 田尻先生 (右下) 。 00
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