平成25年度 - 建築コスト管理システム研究所

建築コスト管理技術の標準化に関する調査研究について(平成25年度)
参
事
森本 文忠
システム部長
細谷 房雄
主席研究員
内田 修
主席研究員
寺島 有一
主席研究員
山崎 雄司
1. 研究の目的
平成23年6月に国土交通省官庁営繕部では設計段階におけるコスト管理を効率的かつ適切に
実施するため「官庁施設の設計段階におけるコスト管理ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)
を制定した。
本研究はガイドラインを踏まえた上で、公共建築に共通するコスト管理手法とツールを策定・提
供することにより、公共建築の設計段階における建築コスト管理技術の確立に資することを目的と
している。
2. 研究の進め方
研究の実施にあたり学識経験者、(一社)日本建築士事務所協会連合会、(公財)日本建築積算
協会、及び(一財)建築コスト管理システム研究所により構成される「建築コスト管理技術の標準化
研究会」(以下「研究会」という。)を平成24年8月に設置し、検討を進めている。
平成24年度にガイドラインに基づく概算工事費の算出を建築設計事務所3社、積算事務所4社
に業務委託し、概算工事費算出シート、概算数量算出根拠、概算工事費算出に関するアンケート
調査の回答を成果物として得ることができた。提出された資料に基づき、数量、単価などについて
概算と積算を比較・分析をするとともに、ガイドラインの「概算工事費算出にあたっての留意事項」
と「概算工事費算出標準書式」についての意見を整理した。
これらの成果物と業務の受託者に対するヒアリングを通して概算工事費算出に伴う課題などを
抽出・整理・把握することにより、公共建築の概算算出手法の案を取りまとめることとした。
3. 概算工事費の算出
1)対象工事
概算工事費算出業務の対象工事は、数量、単価などについて概算と積算を比較するために、
設計図書、工事費内訳書の入手が可能な国土交通省官庁営繕部関係部署が発注した建築工事
の中から、構造・規模・用途などを考慮して4件の工事を選定した。
2)概算工事費の算出結果と課題
建物の構造・階数、床面積、積算額、概算額、及び概算額を積算額で除した比率を表‐1に示
す。
構造は全てRC造で、地上階数は4階が1件、6階が3件である。A,B,Cの3施設には地下階が
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表ー1 概算・積算工事費比較 総括表
ある。
床面積の最小は施設Bで3,340㎡、最大は施
設Dで10,067㎡である。
工事名
(符号)
構造・階数
A
RC 6-1
B
建築の工事金額(直接工事費)の最小は施設
Bで483(百万円)、最大は施設Dで1,262(百万
C
RC 6-1
RC 4-1
床面積
(㎡)
5,500
3,340
4,434
庁舎直工(千円)
積算
概算
889,178
概算額/積算額は0.96~1.09の範囲にあり概
RC 6
10,067
概算者属性
899,506
1.01
積算事務所
520,050
1.08
積算事務所
465,470
0.96
設計事務所
536,887
1.03
積算事務所
507,829
0.98
設計事務所
567,956
1.09
設計事務所
1,379,314
1.09
積算事務所
482,690
520,202
円)である。
D
概算/積算
1,261,629
ね精度の高い概算であったと言える。
部位毎の誤差が全体額の誤差に及
ぼす影響を比率で示したのが図-1であ
る。誤差率は
誤 差 率 =(部 位の概 算 額-部 位の
積算額)÷積算額の合計
により算出している。(参考:図‐1中の
誤 差 率 計 =概 算 額 合 計 /積 算 額 合
計-1 である。)
全体額に対する誤差の影響が強か
った部位(絶対値の大きい部位)は、建
図-1 部位別の誤差と積算額合計の比率
具、内部仕上、外部仕上、鉄筋、型枠、
土工の順であった。
部位別の誤差率が大きい部位の値
を示したのが図‐2である。誤差率は
部位別誤差 率=(部位の概算額 -
部位の積算額)÷部位の積算額
により算出している。
部位別で見ると、土工、鉄筋、コンク
リート、型枠、外部仕上、内部仕上、建
具の誤差率が大きかった。
建具工事の誤差は各社とも大きな値
図-2 部位別の誤差の比率
となっている(平均46.3%)。1社は見積
りを入手していたが査定率が低く、その他の社は自社有する実績単価が高いため大きな差になっ
ている。コストオーバーのリスクに備えて高めの単価設定をしているのではないかと考えられる。
コンクリートは概算数量の精度が比較的良い社が多かったが、概算単価 について発注時期の
指定をしなかったため積算単価との間に差が生じた。
鉄筋の数量は各社コンクリート数量に対する実績値の歩掛りから算出していたが、概算数量が
少なく計上された。単価についてはコンクリートと同様の理由による差が生じた。
型枠は仮定断面などから数量を算出した社の精度は高かったが、コンコリート数量に対する実
績値の歩掛りから算出した2社は積算数量に比べると大きな概算数量になっていた。
外部仕上では単価の差、材料の間違い、一部材料の計上漏れ、一部材料の二重計上などが
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見られた。また、積み上げによらない部分の㎡単価による加算額の考え方に違いが見られた。
内部仕上について概算では床・壁・天井仕上を組み合わせた10の区分別(ゾーン別)に各室の
仕上を分類することとしていたため、各仕上げ材の数量の比較はできなかった。
また、表‐2に概算工事費算出の部位・部分別の主要な課題を示す。
表‐2 概算工事費算出の部位・部分別の課題
工種
共通する課題
土 工
・発生土の運搬費・処分費の概算単価の設定方法。
・山留めに伴う汚泥の運搬費・処分費の考え方。
地 業
・杭地業に伴う汚泥の運搬費・処分費の考え方
鉄 筋
・梁貫通口補強の概算デフォルト値が小さい。
コンクリート
・コンクリート打設回数の概算のデフォルト値(回数)が少ない。
個別的な問題点
・埋戻し土の種別の誤り
・腹起し切梁の非計上
・腹起し切梁に架け払いのみ計上
・SMWの単価(刊行物)が積算に比較して高い
・山留め(SMW)の面積算出の誤り(根入れ部分非計上)
・コンクリート数量に対する各社の歩掛りが小さい
・鉄筋の概算単価と発注時の単価に差があった
・PC鋼材の計上漏れ
・コンクリートの概算単価と発注時の単価の差
・型枠の概算単価と発注時の単価に差があった。
・コンクリート数量に対する歩掛りで算出した社の誤差が大きい
・ボイドスラブの単価が社により大幅に異なる
・積算ソフトへのデータ入力ミスが原因ではないかと思われる過少な数量算出
型 枠
外部仕上
・屋根防水立上り部単価の設定に誤り
・仕上材料の単価の高低差
・仕上材料の取り違え
・仕上材料の計上漏れ、二重計上
・㎡単価加算分の金額が過大(過少)
内部仕上
・概算はゾーン別に集約した数量のため概算数量と積
算数量の1対1の比較が困難
・内壁は概算の単位はmのため積算数量との比較が不
可能
・床・天井の面積はやや多め
・仕上のグレード設定を10パターンの中のどれにするかが難しい
・内部雑(ブラインドボックス、可動間仕切り、書架等)の単価がやや高い
・数量が未計上の材料があった
・内部雑に積み上げる品目に差
・㎡単価で積み上げる部分の単価に差
・金属製建具の概算単価の考え方 ・金属製建具の概算単価が大幅に高い
・同行室等の特殊建具の概算単価は大幅に安い
開口部
(建具)
4. 概算算出シートと留意事項に対する主要な意見とその対応方針
概算算出を実施した7社に対してアンケート調査も実施しているが、概算算出シート・留意事項
に対する主要な意見とそれに対する対応の方針は表‐3に示すとおりである。
表‐3 各社からの主要な意見と対応方針
番号
意 見
コスト研版での対応方針
1
外部開口部のモルタル詰め・シーリングの数量は、建具のm2単価に含んで
よいと思う。
建具単価に含めデフォルト値として外部建具価格に5%程度を加算す
る。
2
概算用単価の構成(内容)が不明の為、項目を追加した場合、その単
価と概算用単価に誤差が生じると思う。概算用単価の構成を表記出来
ないか。
コスト研版単価では合成単価の単価構成を明示する。
3
単価設定について、刊行本単価や、見積単価の査定率を物件ごとに
示してほしい。
単価の設定(査定率等を含む)は発注者と協議の上決定することとして
いる。
4
鉄筋の数量が算出できる場合はその数量とするとあるが、基本設計の
段階でたとえ詳細数量を拾える状態であっても、歩掛かり係数で算出
しておけば規模の増減があっても早急な対応が可能である。
「数量が算出できる場合は数量を算出」としているが、原則は歩掛り数
量で可としている。
5
型枠の数量は躯体の断面等から算出するとありますが、鉄筋と同じく
類似施設の歩掛かり係数を用いれば、規模の増減にも早急な対応が
可能である。
施設の特性により歩掛りでは誤差が大きくなると考えているので数量
の算出を求めています。なお、鉄筋に比較して数量の算出は容易であ
ろうと考えています。
6-1
内部仕上(床・壁・天井・建具)数量集計表を使用すると余分な時間が掛
かる。各積算会社の積算システムで拾う方が断然速いし、どこの部屋を
何仕上で何m2拾ったの数量調書に記載される。
数量集計表は削除します。また、算出シートの構成を、部位・部分別の
数量(㎡)と単価(㎡)に変更する。
6-2
室機能分類にこだわらずに、仕上別を基本にした算出としたい。(積算
ソフトを利用しているため変換作業が必要になる)
同上
7
内部仕上の規格仕様についてはもう少し項目を増やしても良いのでは
ないのか。
部位別・仕上別に数量を算出するように修正し、組み合わせの自由度
を増やします。必要な場合仕上の追加が容易にできるようにします。
8
外部仕上(外部開口部)のAWについて、種類が多種類あるが、基本
設計概算時にここまでの情報はないと思われるので集約してはどう
か。
アルミ建具は2種類程度のグレード(2種類の㎡単価)とする。
9
ガラスについて、2m2以下と2m2超4m2以下の区別がありますが、単価
の差額と拾いの手間を考えますと区別をしなくてもいいと思います。
1単価に修正します。ガラス1枚の規模による価格差は200~300円/㎡
なので、2.18㎡以下または2.0㎡以下の単価をデフォルト値とします。
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対応方針を取りまとめた後、研究会において算出の結果をおよび各社の意見を示し、対応方針
について検討を行った。その検討結果を踏まえた上で、コスト研版の算出シート(案)と留意事項
(案)を作成することとした。
5. コスト研版の「算出シート(案)」と「留意事項(案)」の作成
両案を作成した後、概算算出業務の受託者の中から4社の協力得て両案に対する意見を求め
るとともに、4社の代表者とコスト研職員、および国土交通省職員が出席した意見交換会を行い、
一部見直しを行った。
その後、研究会において両案についての検討を行いさらに必要な修正をした。
両案は国土交通省が制定した「ガイドライン」が定めた「概算工事費算出標準書式」「概算算出
にあたっての留意事項 平成23年7月版」をベースにして必要な加筆・補筆をしたものであるが主
要な加筆・補筆の概要を示すと表‐4のとおりである。
表‐4 主要な加筆・補筆の概要
■ 概算算出にあたっての留意事項について
1
標準書式、留意事項の名称を別のものとする
2
概算算出に用いる頻度の高い品目の単価を「コスト研単価」として提供
3
内部仕上の「ゾーン別集計」を「仕上別集計」に変更
4
内壁数量の単位を「m」から「㎡」に変更
5
建具の「種類別・形状別の集計」を取りやめ「種類別の㎡集計」に変更
6
グレードに差がある場合の㎡単価についての留意事項を追加
『概算工事費算出にあたっての留意事項』における建築工事の概算工事費算出にあたっての留意点
7
(国交省HP掲載事項)の反映
■
概算工事費算出標準書式について
1
基本的な構成・システムは踏襲
2
内部仕上の代表品目を選択可能にして種類を増やす
3
内部仕上を部位別の数量(㎡)に変更
4
外部仕上(外部雑)に数量算出が困難なものを㎡単価で記入する欄を追加
5
内部仕上(雑・その他)に数量算出が困難なものを㎡単価で記入する欄を追加
6
市場単価50品目、コスト研単価144品目、について地域別の単価を単価シートに記載
7
地域は、札幌、仙台、東京、新潟、名古屋、大阪、広島、高松、福岡、の9地区を予定
8
仕上工事の中科目欄などの符号・記号等を整理・削除
6. 今後の進め方
現在、国土交通省官庁営繕部はガイドラインを平成26年3月に改定した。そのため改定された
内容との整合を取った上で、本調査研究の成果を公表していくことを予定している。
公表後も利用者の意見・要望などを踏まえて改善を加えていくものである。特に、単価について
は毎年度新しい単価に更新するほか、価格の変動が大きく見込まれる場合は短い期間の更新も
検討する。
また、建具などのように誤差が大きい部位の精度を高くする手法や、設備関係工事の概算工事
費の算出についても重要な検討課題として取り組むことを考えている。
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