あなたを狙う感染症 -エボラを含む感染症の動向- 神戸市環境保健研究所 所長 飯島 義雄 エボラによる死者(2014年) エボラ患者 エボラ出血熱 (Ebola Hemorrhagic Fever, EHF) エボラウイルス病 (Ebola Virus Disease, EVD) エボラに関する論文数 (PubMed) 1976 - 1980 1981 - 1985 1986 - 1990 1991 - 1995 1996 - 2000 2001 - 2005 2006 - 2010 2011 - 2015 0 500 1000 1500 2000 エボラウイルス 生物の分類 菌 界 植 物 界 生物と非生物 の中間 動 物 界 真核生物 原生生物界 ウイルス 細菌界 原核生物 ウイルスの増殖環 エボラウイルス遺伝子 (約19,000塩基) フィロウイルス科 マールブルグウイルス属 1967年 エボラウイルス属 種 ザイール スーダン レストン タイフォレスト ブンディブギョ 1976年 1976年 1989年 1994年 2007年 クエーバウイルス属 提唱段階 西アフリカでのエボラ流行の要因 貧困 (お金がない) 医療施設,医療器材の不足 マスク,手袋,ガウン等の不足 教育レベルの低さ 医師の不足 行政能力の欠落 風習 遺体の洗浄,接触,口づけ イスラム教では土葬 (火葬はタブー) 再利用されるPPE 国民1人当たりの名目GDP (2013年) ルクセンブルグ 1 カタール 3 アメリカ 9 ドイツ 18 44,990 日本 24 38,468 韓国 30 25,975 中国 83 6,959 ケニア 149 1,315 シエラレオネ 164 805 ギニア 176 560 リベリア 179 479 旧ザイール 183 388 0 40,000 80,000 (US$) 120,000 エボラウイルス病の感染者 (死亡例:1056例,回復例:359例) <15歳 15~44歳 >45歳 オッズ比: 2.47 死亡例 回復例 介護者 0% 20% 40% 60% 80% 100% WHO Ebola Response Team, N. Engl. J. Med. 371:1481-1495, 2014 エボラウイルス病の臨床症状 (1) (死亡例:1056例,回復例:359例) 発熱(>38℃) 倦怠感 食欲不振 嘔吐 下痢 死亡例 回復例 頭痛 腹痛 0% 20% 40% 60% 80% 100% WHO Ebola Response Team, N. Engl. J. Med. 371:1481-1495, 2014 エボラウイルス病の臨床症状 (2) (死亡例:1056例,回復例:359例) 筋肉痛 関節痛 胸痛 咳嗽 呼吸困難 死亡例 回復例 嚥下困難 結膜炎 0% 20% 40% 60% 80% 100% エボラウイルス病の臨床症状 (3) (死亡例:1056例,回復例:359例) 咽頭痛 錯乱 吃逆 黄疸 眼痛 死亡例 回復例 皮疹 意識消失・昏睡 オッズ比: 4.59 0% 10% 20% 30% 40% 50% エボラウイルス病の臨床症状 (4) (死亡例:1056例,回復例:359例) 原因不明の出血 吐血 血便 歯肉出血 オッズ比: 6.69 鼻出血 8.02 血痰 その他の出血 注射部位の出血 6.51 性器出血(膣) 6.00 血尿 5.14 皮下出血 NA 0% 5% 10% 死亡例 回復例 15% 20% 25% エボラ(ザイール種)発症事例 (針刺し事故で感染) 倦怠感 食欲不振 嘔吐 下痢 発疹 腹痛 咽頭痛 タンパク尿 事故後,6日目で発症 Emond et. al., Br. Med. J. 2:541-544, 1977 エボラ(タイフォレスト種)発症事例 (死亡したチンパンジーの解剖で感染) 発熱 頭痛 筋肉痛 悪寒 咽頭痛 腹痛 食欲不振 下痢 嘔吐 発疹 乏尿 (34歳女性,解剖後8日目に発症) Formently et. al., J. Infect. Dis. 179:S48-S53, 1999 発症後の経時的エボラウイルスRNA量の変化 Towner et al., J. Virol. 78: 4330-4341, 2004 年 スーダン タイフォレスト ブンディブギョ 2014 ザイール 2012 2010 2008 2006 2004 2002 2000 1998 1996 1994 1992 1990 1988 1986 1984 1982 1980 1978 1976 エボラウイルス発生状況 レストン 6 5 4 件 3 数 2 1 0 エボラウイルスの種類 No * 種 発生国 発見 感染者 死者 致死率 1 ザイール ザイール 1976年 1382 1084 78%* 2 スーダン スーダン 1977年 785 421 54% 3 レストン アメリカ (フィリピン) 1989年 13 0 0% 4 タイフォレスト コートジボ ワール 1998年 1 0 0% 5 ブンディブギョ ウガンダ 2007年 141 48 34% 2014年の流行を除く Leroy, E. M. et. al., Nature 438: 575-576, 2005 Fruit bats as reservoirs of Ebola virus. The first recorded human outbreak of Ebola virus was in 1976, but the wild reservoir of this virus is still unknown. Here we test for Ebola in more than a thousand small vertebrates that were collected during Ebola outbreaks in humans and great apes between 2001 and 2003 in Gabon and the Republic of the Congo. We find evidence of asymptomatic infection by Ebola virus in three species of fruit bat, indicating that these animals may be acting as a reservoir for this deadly virus. フルーツコウモリ (オオコウモリ) エボラウイルスの感染経路 エボラ流行地とフルーツコウモリの生息地 コウモリの丸焼き パラオ発のJALチャーター便の機内食 Guéckédou 2/11/15 Kenema Kailahun Road (シエラレオネ) フリータウン (シエラレオネ) シエラレオネのスラム街 12,000 ギニア 10,000 リベリア 8,000 シエラレオネ 6,000 4,000 2,000 0 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 エボラ感染者の累積数 12,000 ギニア 感染者 10,000 死者 8,000 6,000 4,000 2,000 0 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 エボラ感染者・死亡者の累積数 12,000 リベリア 感染者 10,000 死者 8,000 6,000 4,000 2,000 0 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 エボラ感染者・死亡者の累積数 12,000 シエラレオネ 感染者 10,000 死者 8,000 6,000 4,000 2,000 0 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 エボラ感染者・死亡者の累積数 感染研における エボラ出血熱の診断システム ・ ウイルスの検出 ウイルス分離と同定 遺伝子検出 (conv. と real-time PCR ) 抗原検出ELISA ・ 抗体検出 組換え核蛋白質抗原ELISA 米国 CDC BSL-4 (P4) エボラウイルス,痘瘡ウイルス など BSL-4施設数 (稼動中) 国 アメリカ 数 13 国 ドイツ 4 イギリス 3 オーストラリア インド 3 2 オランダ 1 シンガポ-ル 1 イタリア 2 南ア 1 カナダ 2 ベラルーシ 1 スイス 2 チェコ 1 フランス 1 ガボン 1 スウェーデン 1 日本 2(0) 中国 台湾 ロシア 数 1 1 1 BSL-3 (P3) BSL-2 (P2) ヒトに感染すると重篤な疾患 を起こすが,他の個体への伝 播の可能性は低いもの。 ヒトに感染すると重篤な疾患 を起こすが,他の個体への伝 播の可能性は低いもの。 炭疽菌,ペスト菌,野兎病 菌,狂犬病ウイルス など コレラ菌,腸管出血性大腸 菌,インフルエンザ など エボラ治療薬 アビガン(ファビピラビル) RNAポリメラーゼの阻害剤 TKM-100802 siRNA (RNA干渉) ZMapp ヒト化モノクローナル抗体混合物 ファビピラビル Favipiravir (商品名: アビガン) RNAポリメラーゼの阻害剤 富山化学工業(富士フィルムホールディングス)が 抗インフルエンザ薬として開発 エボラワクチン rVSV-ZEBOV 水泡性口炎ウイルス(VSV)にエボラウイルス の糖蛋白遺伝子を組換えたワクチン NewLink Genetics, Merck Vaccines USA, カナダ保健省 cAd3-ZEBOV チンパンジーに感染するアデノウイルス3型に エボラウイルスの糖蛋白情報を組み込んだ DNAワクチン GlaxoSmithKline, アメリカ NIH フルPPE (個人防御具) アンダーウエア 靴下 手術用手袋 つなぎ式の防御具 長靴 手術用手袋 (2重) ガウン N95マスク ゴーグル フェイスシールド 着脱 着: 露出部位がないかをお互いで確認する。 脱: 手袋を消毒する。 外側は汚染されているという前提で,汚 染しないように順番通りに脱ぐ。 廃棄: 捨てやすいように廃棄物の処理手順を 決めておく。 市中の現場で,使用する場合は,専用の 廃棄袋を持参する。 手洗い: 最後の手洗いが終わるまで,他のところ をさわらない。 よくある失敗 • 汗をぬぐう。 • 顔にかかった髪の毛を触る。 • ずりおちた眼鏡をさわる。 • メガネが曇って見えにくいので,メガネに手を もっていく。 • かゆいところをかく。 • 鼻や目をこする。 簡易PPE (個人防御具) マスク 手袋 ガウン 発熱3日以内は,感染しないので簡易PPEで対応(?) 発熱4~5日後には,嘔吐・下痢症状が出てくるため, フルPPEが必要 蚊媒介性感染症 寄生虫性: マラリア,象皮症(フィラリア症) ウイルス性: デング熱,黄熱,チクングニア, リフトバレー熱,ウエストナイル熱 マラリアの流行国 象皮症 (フィラリア症)の流行国 象皮症 (フィラリア症) デング熱・デング出血熱の流行国 黄熱の流行国 チクングニアの流行国 リフトバレーの流行国 ケニアの田舎の家 ウエストナイル熱の流行地 ウエストナイルウイルスは, 野鳥と蚊の間で伝播 食中毒の原因別患者数 (2013年) 細菌 ウイルス 寄生虫 化学物質 自然毒 原因不明 2014年 細菌性 ウイルス性 病原微生物検出状況 ノロウイルスの遺伝子型 GI GI/1 GI/2 GI/3 GI/4 GI/5 GI/6 GI/7 GI/8 GI/9 Norwalk/68/US Southampton/91/UK DesertShield/90/US Chiba/87/JP Musgrove/89/UK Hesse(BS5)/98/DE Winchester/97/UK Boxer/01/US Vancuover730/2004/CA G II GII/1 GII/2 GII/3 GII/4 GII/5 GII/6 Hawaii Melksham Saitama U201 Lordsdale/93/UK Hillingdon/90/UK Leeds/90/UK ・ ・ ・ ・ ・ GII/21 IF1998/2003/IR GII/22 YURI/JP 遺伝子型の決定方法 アメリカ ヨーロッパ 日本 Polymerase VP1 ノロウイルスの遺伝子組換え GⅡ/4 GⅡ/16 GⅡ/4 GⅡ/16 ノロウイルスの特徴 ヒトにしか感染しない。 培養系や動物感染モデルがない。 感染性の有無が調べらない。 秋から冬にかけて流行 Don't eat oysters in months without the letter "R" in them. May, June, July, and August lack the letter "R." September, October, November, December, January, February, March, and April have the letter “R”. • 夏は産卵のシ-ズン • 夏には,細菌数が多い (規格: 細菌数 50,000/g以下,E.coli 230/100g) • 冬が美味しい(グリコーゲン豊富) 生鮮用カキ出荷量とノロウイルス感染症 (2012/2013) 250 2500 r = 0.879 2000 出 荷 1500 量 ( ト 1000 ン ) 500 200 p = 0.001 事 例 100 数 150 50 0 0 9 10 11 12 1 2 3 月 4 5 6 7 8 ヒトの腸管で増殖 排水 海に放出 生食 二枚貝などに蓄積 貝類からのノロウイルスの検出率 (1996~2000, 東京都) 20 検 15 出 率 10 % 5 0 シ ジ ミ タ イ ラ ギ ホ タ テ カ キ ナ ミ ガ イ ム ー ル ガ イ ア カ ガ イ ホ ッ イ キ ガ 林, 日本食品微生物学雑誌 21:243-247, 2004 なぜ,カキだけが問題となるのか ? • カキの中腸腺は身の中にある。 • 生食される,またはあまり加熱されずに, 食される。 • 同様に生食される,ホタテやタイラギは貝 柱だけが食される 。 • シジミなどは,十分加熱して食される。 中腸腺(ウロ) 殻 口 触鬚 胃 腸 心臓 外套膜 貝柱 肛門 鰓 触手 カキの解剖図 カキの中腸腺 カキの中腸と中腸腺 中腸(矢印)を取り囲むように,中腸腺の多数の 盲嚢細管(赤○)が広がっている。 排便 手に付着 調理従事者 が感染 食中毒 食品を汚染 調理従事者がノロウイルスに 感染して起こる食中毒の特徴 • 近年は魚介類が原因のノロウイルス食中毒よ り,事例数・患者数共に多い。 • 比較的大規模な食中毒となる。 • 複数の調理従事者が感染していることが多い。 店内でヒトーヒト感染,まかない食? • 直接手で触れる調理方法や(直前に)加熱しない 料理は,リスクが高い。 排便 感染者 次の人が感染 環境を汚染 クドア・セプテンプンクタータ 厚生労働省食中毒統計 1,600 不明 1,200 その他 件 数 自然毒 800 化学物質 400 ウイルス 細菌 0 '05 '06 '07 '08 年 '09 '10 原因不明の食中毒事例 (2010年) No 発生 場所 潜伏時間 症状 食事 1 1月 長浜市 数時間 嘔吐,下痢 コース料理 2 3月 神戸市北区 数時間 嘔吐,下痢,発熱 コース料理 3 7月 芦屋市 3.5 h 嘔吐,下痢 コース料理 4 8月 洲本市 3h 嘔吐,下痢 コース料理 5 8月 神戸市西区 2.5 h 嘔吐,下痢,腹痛 会席料理 6 8月 神戸市須磨区 5h 嘔吐,下痢 刺身定食 7 8月 神戸市長田区 5h 嘔吐,下痢 握り寿司 8 8月 淡路市 数時間 嘔吐,下痢 コース料理 9 10月 神戸市須磨区 5h 嘔吐,下痢 会席料理 10 10月 松山市 数時間 嘔吐,下痢 コース料理 2010年10月,伊予銀行の懸賞品として送った ヒラメで食中毒と報道される。 Kudoa septempunctata ヒラメ筋肉中のシスト[PAS染色] 粘液胞子虫 放線胞子虫
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