鋼橋の水害対策に向けて

[特別寄稿]
鋼橋の水害対策に向けて
立命館大学教授
概
伊
津
野
和
行
要
近年,橋梁が水害を受けることが増えてきている.大震災における津波被害,頻発する豪雨による
洪水や土石流など,落橋や流出に至る被害も報告されている.落橋や流出は貴重な社会資本の損失で
あるのみならず,災害後における救援や地域の復旧に多大な遅延をもたらす重大な被害である.中小
河川に架かる小規模橋梁であっても,何らかの対策を考えておくことは必須だと言える.自治体によ
り橋梁の津波に対する安全性評価が業務として発注されるようになった現在,橋梁に携わる技術者は,
構造物と水との相互作用について理解し説明できることが求められるようになってきた.一方で,橋
梁に対する水の作用について数値解析することは,オープンソース・ソフトウェアを利用することで
容易に行える環境が整いつつある.よってここでは,水の流れに対する橋梁の簡易な数値解析手法に
ついて紹介することとする.
1.はじめに
はなっていない.
橋の耐震設計に関して,日本は世界でも有数の技術先
さらに,洪水や土石流に対しては構造的な検討がなさ
進国となり,大地震が発生しても,新しい設計基準で建
れていないのが現状であり,桁上げや掘削による桁下空
設もしくは補強された橋が揺れによる大きな被害を受け
間の確保,あるいはルート変更ぐらいしか今は対応策が
ることは,以前に比べると少なくなってきた.一方,
ない.洪水では橋梁側方への溢流による二次被害など,
2011年東日本大震災における津波による多数の橋梁流出,
津波とは異なる問題も存在する.年々,豪雨の頻度が増
毎年のように発生する洪水や土石流による落橋など,近
してきていることを鑑みると,構造工学分野における対
年,橋が水の作用により流出する事態が続いている.
策検討は必須の状況だと考える.
2013年にも7月に山口県で豪雨のためJRの橋が落橋し,9
津波や洪水では,水だけが流されてくるのではない.
月の台風18号により京都府で国道162号線の橋,滋賀県
土砂や岩,流木や船,場所によっては氷など,漂流物が
で信楽高原鉄道の橋が落橋した.2014年も8月の豪雨に
流されてきて橋に衝突する.1952年十勝沖地震では,流
よる洪水で兵庫県と岐阜県の橋が流された.
氷が津波で流されて来て霧多布など浜中湾に面した町の
従来,構造工学分野における水害対策はさほど注目さ
構造物を破壊したという記録がある.燃えた家や車が流
れてこなかった.しかし,落橋や橋の流出は貴重な社会
されてきて,大規模な火災に発展することもある.奈良
資本の損失であるのみならず,災害後における救援や地
県の国道168号に架かる折立橋は,2011年台風12号の際,
域の復旧に多大な遅延をもたらす.中小河川に架かる小
流木がトラス部分に引っかかって流出した.2011年東日
規模橋梁であっても,何らかの対策を考えておくことは
本大震災で宮城県の定川大橋は,漂流してきた総重量2
必須だと言える.
万4千トンの貨物船の衝突により流出した.これら漂流
橋の設計にあたっては,地震時動水圧以外は常時の静
物に対する検討は,大規模橋梁に対する津波による船舶
水圧や流水圧しか考慮されていない.地震時動水圧につ
の衝突がようやく検討し始められたところであり,中小
いても,下部構造の付加質量として考慮されるだけで,
河川における洪水に伴う漂流物対策は遅れている.
津波や洪水の作用とは状況が異なる.津波の橋梁に対す
また,自治体の資金不足も深刻であり,災害対策の必
る作用に関しては,現在,多くの機関で実験や数値解析
要性がわかっていても,すべての橋梁を同時期に補強す
による検討が進められているが,2012年に改定された道
ることができない.長寿命化計画や耐震補強計画など,
路橋示方書 1) では,適切な構造計画を検討するよう書か
各種の計画が都道府県ごとに策定されているが,いずれ
れるにとどまっている.示方書には,地域の防災計画な
も今後50年ほどを見据えた長期計画となっている.毎年
どを参考にしながら津波の高さに対して桁下空間を確保
のように繰り返される橋の水害を防ぐ対策を早急に確立
すること,津波の影響を受けにくいような構造的工夫を
し,補強計画になるべく早く組み入れることは喫緊の課
施すこと,上部構造が流出しても復旧しやすいように構
題と言える.今,組み入れておかないと,さらに対策が
造的な配慮をすることが記載されたが,具体的な規定と
十年単位で遅れてしまうことが危惧される.
(2)
片山技報
No.34
図-1
図-2
実験水路立面図
実験水路平面図
図-3
桁模型の圧力計設置位置
2.数値解析の概要
2.1 模擬する実験概要
前述の通り,構造工学分野においては,津波や洪水と
いった水害はほとんど考慮されてこなかった.一方,水
理学分野においても,橋梁は河道を阻害する剛体として
ここでは,著者らによる既報の実験 3) で得られた圧力
の扱いに留まっている.これまで土木構造物を扱う研究
と力の計測結果を数値解析で再現した例を紹介する.当
分野で水害はキーワードになく,自然災害分野において
該実験では図-1に示す水路が用いられている.貯水槽
も構造物の防災と水害や津波とは別の研究分野と見なさ
は幅600mm×長さ2000mmで,ゲートを急に引き上げるこ
れてきた.しかし,橋の水害が増加しつつある現在,構
とによって,幅200mm×長さ4000mmの水路に津波を模擬
造工学的視点からの水害対策に関する検討の必要性は増
した水が流れる.貯水槽の初期水位は200mmとした.ま
してきている.
た,幅の異なる水槽から水路部へ水が流れる際の急縮に
検討手法としては,実験による検討と数値解析による
ともなうエネルギー損失を軽減するために,水槽のゲー
検討とがあるが,近年,数値解析的手法が整備されてき
ト付近の側壁は図-2のような曲線形状になっている.
た.実験を実施するには小規模であっても施設が必要と
ゲートから3000mm下流位置に,桁下空間40mmで図-3
なり,簡単に実施できるわけではない.一方,数値解析
に示す幅80mm×高さ20mmのアクリル製矩形断面模型が設
はPCの性能向上にともない,誰もが簡単に実施できるよ
置されている.水路幅方向の特性変動は無視し,二次元
うになってきた.
的な実験として実施されている.
橋梁など土木構造物の津波に対する安全性評価に関し
圧力は,図-3に示す位置に埋め込まれたひずみゲー
て,自治体から数値解析業務が発注されるようになって
ジ式圧力計により,計14箇所で測定された.模型はロー
きており,今後,実務設計でも利用がますます広がるも
ドセルで支持され,水平力(抗力),鉛直力(揚力),
のと考えられる.例えば,大阪府の南海トラフ巨大地震
回転力(流力モーメント)が測定された.図-3の模型
土木構造物耐震対策検討部会 2) における橋梁の津波に対
図心において,紙面直角方向にロードセルの支持軸が取
する安全性評価では,国の中央防災会議が発表した南海
り付けられている.圧力も力も100Hzサンプリングで測
トラフ巨大地震による津波データをもとに,大規模な数
定されている.
値解析が行われている.
2.2
橋梁に携わる技術者は今後,構造物と水との相互作用
数値解析手法
について理解し,さらにはそれを説明することができる
数値流体力学の進歩にはめざましいものがあり,当該
能力が求められるようになってくることが想定される.
分野 においても 種々の適 用例が 報告されて いる 4) ~ 11) .
よって本論では,簡易な数値解析手法について紹介する
しかしまだ実務レベルで利用できる解析ソフトウェアは
こととする.
少なく,各研究者が独自に開発したソフトウェアを用い
片山技報
No.34
(3)
図-4
三次元数値解析モデル
図-5
ている場合が多い.
CADMAS-SURF
12)
三次元モデルのメッシュ分割
実験を模擬するにあたり,ゲートを上げて水を流すシ
は数少ない公開ソフトウェアの一つで
ミュレーションではなく,桁模型上流における水位と流
あるが,海域施設の耐波設計を目的として開発されたソ
速を初期値として与えたシミュレーションを行った.な
フトウェアということもあり,構造物の下に空間がある
ぜなら,実務において要求される問題設定としては,沖
橋梁の場合,作用する揚力の推定精度が低いという報告
合における津波の予測水位と流速情報から,橋に作用す
15)
る力を推定することが多いと考えられるためである.よ
もあり評価は分かれている.しかし,気体と液体との相
って,まず入力する水位と流速を計算し,その後,それ
互作用が考慮されず,桁に水が直接作用しなければ力が
をもとに桁に作用する力と圧力を計算した.
がある
13),14)
.一方,揚力を精度よく求めている研究
発生しない点は,橋梁を対象とした解析において短所と
3.水位と流速の推定
なり得る.
そこでここでは,オープンソースの数値解析コードで
あるOpenFOAM
16)
桁模型上流における水位と流速を推定するにあたり,
を用い,なるべく簡易に解析することを
桁模型を設置しない実験水路全体をモデル化した.水が
目指して二次元混層流解析を行った例について紹介する.
流れる方向に x 軸,鉛直上向きに y 軸,水路幅方向に z
インターネット上で関連情報を得るのが容易であるとと
軸を取り,図-4のような解析モデルを作成した.水路
もに,付属している数多くの解析例を参考にすることも
幅中央に対称境界を設け,実験装置の半分をモデル化し
で き る . こ こ で は , DEXCS
17)
と い う Linux に OpenFOAMや
た.解析領域左面と下面の境界条件は壁とし,流速を 0,
後 述 す る groovyBC な ど を セ ッ ト し た シ ス テ ム を ,
圧力勾配を 0 とした.右面は流出境界とし,流速勾配お
Windows PC上 の VirtualBox内 で 起 動 し て 解 析 を 実 行 し
よび圧力勾配を 0 とした.上面は大気境界であり,空気
た.
が自由に出入りできる開境界としている.
OpenFOAMを用いた橋梁と津波に関する研究としては,
13)
メッシュ分割の模式図を図-5に示す.x 軸方向には,
があり,これら
必要とする水位情報を得る位置より 500mm 以上下流にあ
の研究では必要に応じてソースコードの改良を行い,水
たる右端のみ粗めに 30mm 間隔,その他の部分は 10mm 間
位や流速,橋梁に作用する力の計算が行われている.そ
隔に分割した.y 軸方向には,水が存在する可能性のあ
吉野らの研究
や,Brickerらの研究
18)
れに対してこの解析ではソースコードの改変は行わず,
る底面から 260mm を 5mm 間隔,それより上方を 30mm 間
実験で計測された圧力分布をどの程度の精度で再現でき
隔のメッシュに分割した.z 軸方向には 10 分割とした.
るかに着目して検討したものである.
合計約 36 万個のメッシュになる.
こ こ で は OpenFOAM ( Ver.2.2.x ) の interFoam と い う
初期の水位は実験と同じ 200mm とし,一般的な水柱崩
非圧縮混層流解析ツールを用いた.このツールでは,
壊(dam break)問題として場を設定した.時刻 0 秒で図
VOF( Volume Of Fluid) 法 に よ る 気 体 - 液 体 の 二 層 流
-4の左側に設定した水柱が崩壊し始める状況を計算し,
解析が行える.
実験でゲートを急開した状況をシミュレーションした.
(4)
片山技報
No.34
図-6
図-8
推定した水位
図-7
二次元数値解析モデル
図-9
二次元モデルへの入力波形
二次元モデルのメッシュ分割
桁模型近傍におけるレイノルズ数は約 6 万になり,実
ことを表し, α =0 はすべて空気, 0 < α < 1 は一部分が水
験の観察結果からも乱流解析が必要だと判断した.乱流
だということを表している. x=4910mm における各メッ
解析には,レイノルズ平均モデル RANS を用いることと
シュにおける流体充填率を補間して,0.1mm 単位で水位
し,その中の SST k-ωモデルを用いた.このモデルにお
を求めた.実験より少し大きな値となっているが, α
いて初期値設定が必要なパラメータは,乱流エネルギー
=0.5~0.99 の間に実験値が含まれていることがわかる.
k と比エネルギー散逸率ωである.乱流エネルギーの初
同じ解析における x=4500mm における水位(安全側の
期値が不明な場合には,流速の 2 乗値の 10 -4 倍程度にす
評価をするため α =0.5 を採用した)と流速の時刻歴を
ればよいという文献
19)
0.01 秒ごとに出力し,それを次章の解析への入力波形と
を参考に,層流計算結果による
2
2
桁模型位置付近の流速約 2m/s より,0.0004m /s とした.
した(図-7).
比エネルギー散逸率ωは k L より計算した.ここで,L
は長さスケールであり,この解析では桁高 0.02m とした.
よって比エネルギー散逸率の初期値は 1 になる.
4.桁模型に作用する津波荷重
4.1 桁模型に作用する力の推定手法
なお,解析時間刻み ∆t は,クーラン数が 0.5 未満にな
桁模型を設置した解析モデルを図-8に示す.簡易な
るように自動設定し,結果として 0.0001~0.002 秒刻み
解析手法の利用が望ましいと考え,二次元問題としてモ
の計算になった.この計算結果を, ∆t =0.01 秒間隔でフ
デル化した.桁模型設置位置中心より上流500mmの位置
ァ イ ル に 出 力 し た . 特 殊 な PC は 使 わ な い こ と と し ,
に流入境界を設け,前章で得られた水位と流速を入力し
Intel Core i7-4770 3.40GHz の PC で,10 秒間のシミ
た.それにはOpenFOAMの非標準境界条件として公開され
ュレーションに要した CPU タイムは 7 時間弱だった.
ているgroovyBC 20) を用いた.
実験で水位を計測した x=4910mm の地点における水位
桁模型の境界条件は壁とし,流速を0,圧力勾配を0と
の計算結果を図-6に示す.実験では抵抗線式水位計に
した.解析空間の下面,上面,右面は,前章と同じ境界
より計測した水位を図中に表示した.VOF 法では明確な
条件を設定した.境界の影響を少なくするよう水路底面
水面を定義できないため,各メッシュに存在する水の割
から500mm上方まで広い空間を設定し,右方向も桁模型
合(流体充填率) α が 0.5 あるいは 0.99 で水位を推測
中心から1m離れたところに流出境界を設置した.
した. α =1 はそのメッシュがすべて水で満たされている
片山技報
No.34
(5)
図-10
力の正方向
図-12
図-11
揚力
図-13
メッシュ分割にあたっては,図-9に示すとおり,桁
抗力
流力モーメント
たが,解析では下向き6.0N,上向き3.1Nと大きめの評価
模型周辺を2mm四方の正方形メッシュとし,離れた部分
となった.
は最大10mm四方のメッシュとした.合計84,300個の正方
図-13に示す流力モーメントの絶対最大値は,実験値
形および長方形メッシュになる.
より4割ほど大きいが,これは2.8秒付近に生じたパルス
用いた乱流モデルも前章と同じである.解析時間刻み
状の応答によるもので,全体的な傾向は再現できている.
∆t も,前章同様クーラン数が0.5未満になるように自動
2.8秒付近におけるパルス状の応答は,桁に当たって真
設定し,結果として0.0001~0.0009秒刻みの計算になっ
上に発達した波が落下した際に生じたものである.
た.10秒間のシミュレーションに要した計算時間は5時
図-11~ 13のいずれも,力の時間的変動をよく捉えて
間弱だった.
いる.パルス状の応答に注意するとともに,適切な安全
率を設定すれば,設計に用いることは十分可能だと考え
4.2
桁模型に作用する力
られる.
まず桁模型に作用する力を,実験結果と比較した.力
4.3
の正の向きは,図-10のように定義した.
桁模型に作用する圧力
図-3の圧力計位置における圧力の値を図-14に示す.
図-11に,桁模型に作用する水平力である抗力の時刻
歴を示す.実験値には,模型の固有振動数より高い振動
図-14(a)~(g)が桁模型下側の圧力である.実験値を表
数をカットするため,100Hzサンプリングした値に15Hz
す点線を見ると,波が到達する側に近いNo.1~No.3(図
のローパスフィルターがかけられている.一方解析値は,
-14a~c)において,波が到達してすぐに負圧が作用し
0.01秒間隔で出力した値そのものである.最大値は,実
ている.これは,桁端部において波が剥離し,負圧が発
験が4.8Nに対して解析では6.6Nと,4割ほど大きく評価
生したことを示している.No.4~No.7(図-14d~g)に
した.前章に述べたように,流入する水位を安全側とし
はあまり負圧が生じず,正圧が徐々に発生している.こ
て高めに設定した影響が出ている.
のあたりでは剥離が生じず,水が桁下面にすぐに当たっ
て正圧がかかることを表している.
図-12に示す揚力は橋桁に作用する鉛直力で,図-10
のとおり上向きの力を正としている.2秒付近でまず下
これに対して解析値を表す実線では,No.1~No.3(図
向きの力が作用し,その後4秒付近で上向きの力が作用
-14a~c)における負圧が実験値より小さい.例として
する.実験値では下向きの最大値5.9N,上向き1.0Nだっ
図-15に波が到達して1秒後における圧力分布を示す.
(6)
片山技報
No.34
色の濃い部分が負圧が生じている部分を示しており,圧
プロットしている.左から40mmまでが負圧,それより右
力計No.1~No.4の範囲に負圧が生じているものの,左下
ではほぼ0になっており,負圧が大きいのは左10mm程度
の一部分のみが濃い黒色になっており,大きな値が一部
と実験より急なピークを示している.桁下面における剥
分に集中していることがわかる.この時の桁模型下側に
離状況の再現性は低いと言える.
おける圧力値を実験と解析とで比較した図を図-16に示
桁模型上側の圧力No.8~No.14(図-14h~n)に関し
す.横軸は桁の左端0mmから右端80mmまでの位置を表し
ては,実験値と解析値の差は少ない.波が到達してから,
ている.解析では1mm単位の位置で圧力を求めたものを
ずっと正圧が作用していることがわかる.
(a) No. 1
(b) No. 2
(c) No. 3
(d) No. 4
(e) No. 5
(f) No. 6
(g) No. 7
(h) No. 8
(i) No. 9
(j) No. 10
(k) No. 11
(l) No. 12
(m) No. 13
(n) No. 14
図-14
片山技報
No.34
圧力分布の時刻歴
(7)
1.49e+003
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
p
0
-702
図-15
津波到達1秒後の圧力分布(黒が負圧)
図-16
(a) 実験結果
(b) 解析結果
図-17
津波到達 0.2 秒後の流況
(a) 実験結果
(b) 解析結果
図-18
4.4
桁下面の圧力分布
津波到達 1 秒後の流況
桁模型周辺の流況
達している.解析(図-17b)の方が,波の発達する角
図-17に,水が桁模型左面に到達した0.2秒後の画像
度が直角に近いのは,解析上,桁模型がまったく不動だ
を示す.(a)が実験結果,(b)が解析結果である.実験写
としていることが影響している.実験ではわずかながら
真では,桁の右側に圧力計のケーブルが黒い線として写
も波の作用により回転しており,それにともない波の発
っている.上から光を当てて撮影しており,砕波した箇
達する角度が多少小さくなったものと考えられる.
所が白く写っている.解析の画像は中央の白い長方形部
図-18に,水が桁模型に到達して1秒後の画像を示す.
分が桁模型部分である.計算格子を水が満たしている部
桁の左上角において波が剥離し,図の右斜め上に向かっ
分を黒に,空気が満たしている部分を薄い灰色に,水と
て波が発達している.上面における波の剥離など,ほぼ
空気が混ざっている部分を灰色の濃淡で表現している.
流況を再現できているものと考えられる.
図-17の(a)も(b)も桁端に波が当たって真上に波が発
(8)
片山技報
No.34
5.おわりに
9)
原田隆典,村上啓介,Indradi Wijatmiko,坂本佳
ここでは,矩形断面を有する桁模型に対する津波荷重
子,野中哲也:津波により桁が流失した床版橋の再
について数値解析を行った例を紹介した.参考になれば
現解析,第14回性能に基づく橋梁等の耐震設計に関
幸いである.
するシンポジウム講演論文集,土木学会,pp.103-
鋼橋に対する流体の影響については,風工学分野で十
110,2011.
分な実績がある.津波荷重に対する対策としても,落橋
10) 中村友昭,水谷法美,Xingyue Ren:橋桁へ作用す
防止構造を設置する等の構造力学的対策と,フェアリン
る津波力と桁の移動に与える津波力の影響に関する
グ等を設置する流体力学的対策があるのは,風に対する
数値解析,土木学会論文集A1(構造・地震工学),
対策と同様である.フェアリングの効果についても,現
Vol.69,No.4,pp.I_20-I_30,2013.
在各機関で検討が進められている.フェアリングで津波
11) 田邊将一,浅井光輝,中尾尚史,伊津野和行:3次
や洪水による荷重を小さくし,その上で落橋防止構造を
元粒子法による橋桁に作用する津波外力評価とその
設置することが,水害対策の基本になるものと考えられ
精度検証,構造工学論文集,Vol.60A,pp.293-302,
2014.
る.それらの対策を施しやすい鋼橋の特性を活かし,橋
12) 一般財団法人沿岸開発技術研究センター:数値波動
梁の水害に対する安全性が今後ますます向上されていく
水路の研究・開発,2001.
ことを期待している.
13) 吉野広一,野中哲也,原田隆典,坂本佳子,菅付紘
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片山技報
No.34
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