経済情報レポート

経済情報レポート
1R ●経営者にインタビュー
三共食品株式会社
●訪問シリーズ
四日市公害と環境未来館
●特集1
東海地方の航空機産業
●特集2
マレーシアのイスラム金融
●アンケートコーナー
消費動向に関するアンケート調査
●経営者にインタビュー
三共食品株式会社
1
●訪問シリーズ
四日市公害と環境未来館
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●特集1
東海地方の航空機産業
●特集2
マレーシアのイスラム金融
●アンケートコーナー
消費動向に関するアンケート調査
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●経営者にインタビュー
三共食品株式会社 中村俊策会長
価値ある食品を創造することによって前進し続ける三共食品株式会社。
中村会長の事業にかける熱い思いをお聞きしました。
聞き手 第三銀行 経済研究所長 尾崎俊介
尾崎所長
中村会長
を 使って 何 か できない かと思 案しました 。
天然調味料エキスと乾燥野菜で
大きな飛躍
ちょうどその 頃 、日清 食 品さんの チキンラ
ーメンがよく売 れ ていました の で 、チキン
それでは創業から現在に至る沿革に
のガラを使って エ キスにしたら面 白 い の
ついてお聞かせ下さい。
ではと思 い つき、いろいろと作り始 めまし
中 村 会 長 私 が 食 品 業 界 に 入ったの は
た 。チキンラーメンはスープ で 麺を練って
昭 和 3 9 年 です 。大 豆タンパクの 知 識 があ
生 産されていると聞きましたの で、それな
ったものですから、最 初 は 大 豆タンパクか
ら私 が 考 案したチキンの エキスは 使って
ら始 めました 。製 品をどんどん 作りました
頂 けるのではと考え、売り込んだところ受
が 、なかなか 売 れませんでした 。これ では
け 入 れ ては 頂 けませ ん でした 。それ がき
とてもやっていけない 、他に何 か いいもの
っかけで天 然 調 味 料 へ の 繋 がりが 始まり
はないだろうかと考えていたところ、豊 橋
ました。
市 周 辺 では 養 鶏 が 盛んでしたので、これ
やがてカップヌードルが 登 場し、本 格 的
1
なスープ 味を作ってみたらと考え、それな
たというのは驚きです。
らば 工 場を建 てて 本 格 的 にやろうと決 心
中村会長 天 然 調 味 料 エキスや 乾 燥 野
し、三 共 食 品として 法 人 化 にしたの が 昭
菜 の 総 合メーカーは、我 が 社 が 一 番 古 い
和 5 0 年 でした。
かと思 います 。現 在 、日本 で 乾 燥 野 菜を
一 方 、乾 燥 野 菜 は 何 故 始 めた かと言
生 産しているところはほとんどないのでは
いますと、昭 和 4 8 年 頃 、知 人 から「 愛 知
ないでしょうか 。エキスでもチキン、ポーク
県 はたくさんキャベツがあるから、乾 燥し
等 、単 品 だ け 生 産していらっしゃる企 業
た 野 菜 が できないか 」と言われました 。全
はあります が 、総 合 的 に 生 産しているの
く知 識 はなかったのです が 、いろいろと試
は 我 が 社 だけだと思 います 。
行 錯 誤しながら研 究を重 ねた結 果 、先 方
創業から今までいろいろなご苦労が
に 受 け 入 れ て 頂 ける乾 燥 キャベツが 完
あったと思うのですが。
成したのです 。
中村会長 よく同じ 質 問 があります が 、こ
会 社を立ち上 げ ていろいろなことに 挑
れまで 苦 労した かと言うと苦 労 なん かし
戦しているうちに、インスタントの 需 要 がど
ていない の で す 。我 が 社 はゼロからスタ
んど ん 伸 び ていき、売 上も右 肩 上 がりに
ートしています 。事 業 があったわけではあ
なっていきました 。大 手 の 食 品メーカーさ
りませ ん 。それ が 当 たり前 でした 。です か
んには 、三 共 食 品 がどういう商 品を作っ
ら少しでも会 社 がよくなったら、よくなった
ているかということをよく知 って 頂 け たも
なあと思うわけ です 。私 は 、働くこと、
もの
の です から、需 要 がある時 にはお 声を掛
を考えることが 好きな性 分 ですから、それ
けて 頂きながら、現 在 に 至っているという
も苦 労とは 思 いません。それとインスタント
わけです 。
食 品 の 成 長 期 に 事 業を始 めたもの で す
から、頑 張ったら頑 張った 分 だけ 確 実 に
売 上 が 伸 びました 。会 社 の 草 創 期 は 、休
みなしでやっていましたが 、それを苦 労と
考えたこともありませんでしたし、これまで
苦 労という事をあまり感じずにやってきた
というのが 本 音 です 。
三共食品にしかできない技術
本社工場
私どもはカップヌードルなどインスタ
御社の主力製品の特色についてお聞
ント食品を必需品として育ってきた世代です
かせ下さい。
から、
その一角に三共食品さんの存在があっ
中 村 会 長 我 が 社 の 製 品 は 、商 品 の 部
2
品という捉え方をしています 。つまり自 動
出 来 ないという事 です 。です から研 究 開
車 でいうところの 部 品というイメージです 。
発 部 門 は 重 要 で 、会 長 直 轄 で 行 わ れ て
部 品 がないと自 動 車 は 完 成しませ ん 。そ
います 。
れと同じように 、我 が 社 の 製 品 は 部 品 で
若い力がみなぎる研究開発部門
あって 、その 商 品 に 合うものを作るという
ことで す 。ど んなに 優 れ た 部 品 でもそ の
研究開発部門というお話が出ました
商 品に合わないものは 駄目なわけですか
が、優秀な人材が研究開発部門にいらっしゃ
ら、それ が 特 徴といえば 特 徴 で す 。我 が
るのですね。
社 の 天 然 調 味 料 エキスは 約 4 0 0 種 類 あ
中 村 会 長 大 企 業 であ れ ば 、美 味し い
ります が 、それらをどこの 食 品メーカーさ
味 かどうかというと、優 秀 な 分 析 機 器を
んでも使って 頂 けるかと言うとそうではな
使ってアミノ酸を調 べると思 います 。
しか
く、限られてくるの です 。我 が 社 には 技 術
し、それ だけ ではなかなかうまくい かない
系 社 員 がたくさんいます 。社 員 全 体 の 1 0
のではないでしょうか 。みんなが 美 味しい
%は 開 発 に 関 わ る 社 員 で す 。で す から、
と感じられるものは 違うのではないかと考
我 が 社 の 特 徴というと、そ の 商 品 に 合う
え、我 が 社 では 人 間 の 舌 の 感 覚を重 視
形 のものを作 れる技 術 があるということに
し 、それを 私 は「 ベロメーター 」と呼 ん で
なります 。お 取 引 先 様 からこんなものを作
います 。一 般 の 方々に合うものを考えるに
ってくれと依 頼され たら、
「 わ かりました 」
は 、やはり舌 の 感 覚 が 重 要 です 。研 究 開
と言って、食 品メーカーさんのご 希 望どお
発というのは 非 常に難しいものです が 、
う
りのものを作 れるということが 、我 が 社 の
まく合えばぴ たっとはまります 。それと、普
特 徴 だと思っています 。
段 からいろいろなものを食 べ なけれ ば い
日本を代表する食品メーカーの、御社
けないという事を、研 究 開 発 部 門 の 若 い
に対する信頼の高さがすごいですね。
社 員には 言っています 。
中村会長 大 変 ありがたい 事 だと思って
どんどん外で食べてこいという訳ですね。
います 。どうしてそれ だけ 信 頼 関 係 が 強
中 村 会 長 「こんな料 理 食 べ たことがあ
い かと言 いますと、例 えば 他 社さん で は
るか 」と研 究 開 発 部 門 の 社 員 に 聞くと、
同じチキンのエキスを作れるかというと作
「 食 べた事 がありません」と答える事 があ
れません 。味というものは 微 妙なものです
ります 。そんな 事 でい い 物 が 作 れるは ず
から、作り方によっていろいろな味に変 化
がありません。私 が 求めるものは 何も特 別
します 。先 ほど 申し 上 げ たように 、この 商
な味 ではなくて 、今 売 れているものをヒン
品にはこの エキスしか 合わないということ
トに 作り出していくという事 が 大 事なの で
があるわけですね 。それ が 我 が 社 にしか
す 。日本らしさということも大 切 かもしれま
3
せん。そういうものは 最 終 的には 舌 でしか
生 み 出 せません 。さらに言えば 、
どれだけ
安く出 来るかを考えることも大 切 です 。商
品 によっていろいろ味を変える、ラーメン
ならラーメン、カレーならカレーに 合うもの
を作り出していく、それ が 研 究 開 発 の 仕
事 で す 。誰 に でも出 来 る仕 事 かというと
研究開発部門の様子
そうではなくて 、研 究 開 発 部 門 へ 配 置し
て 、合 わない 者 は 他 の 部 署 へ 移 すことも
外食部門への新たな挑戦
当 然あります 。
分かりました。近年、
力を入れておられ
る外食部門についてお聞かせ下さい。
中 村 会 長 外 食 部 門を立ち上 げ て 今 年
で 5 年目になります 。外 食 部 門を作った 理
由 で す が 、天 然 調 味 料 は 私 の 計 画 では
売 上 は 1 0 0 億 円くらいまでいくだろうと思
っていました 。ところが 急 速 に 商 品 が 多
研究開発部門の様子
様 化し、一 つの 部 門 で 量をこなす のは 難
お話を聞いて、会長が研究開発部門
しくなってくるという事 がわ かってきました 。
を重視されている事がよく分かります。
それ で、何をやっていくべきかを考えた 時
中村会長 開 発 は 調 味 料 事 業 部と外 食
に、食 品 でずっとやってきたものです から
事 業 部にあり、それ ぞれ 4 人 の 計 8 人 いま
食 品 以 外 の 事 はやれるはず がありません。
す 。新しい 事を考え、創 造 する部 署には 6
食 品 で やろうとすると何 だろうかと考 え 、
人 います 。小さな会 社 です が 開 発 だけで
外 食 部 門 が 浮 上してきた の で す 。乾 燥
1 4 人 在 籍しており全 社 員 の 1 割 が 開 発
野 菜 を 外 食 会 社 に 売 って い た 程 度 で 、
スタッフで す 。これまで は 私 が 開 発 の 中
外 食についての 知 識 は 限られていました
心になってやってきましたが 、そうしないと
が 、我 が 社 にとってこれ 以 外 に 伸 びる道
我 が 社 は 生き残っていけないだろうと思
はないだろうと思 いました 。資 金も潤 沢 に
ってきました 。し かし 、これ からは 時 代 に
ありませんでしたから、まず 小さなプラント
即 応 できる若 い 力 が 中 心にならなければ
工 場を建 設し、そこからノウハウを蓄 積し
と思っています 。
ていこうと計 画しました 。少しず つ 設 備 投
資を行 い 徐 々に 業 績も拡 大し 、やっと今
4
年 は 黒 字 になる見 通しにまで 、到 達しま
「しあわせ作戦」
した。
我 が 社 はそれまで 外 食 系 には 知 名 度
拝見した資料に、経営理念ということ
がなかったものですから、この 3 年 間 は 三
で「しあわせ作戦」
と書かれていましたが、大
共 食 品 の 名 前を売ることにも力を入 れま
切にしておられる経営の考え方をお聞かせ下
した 。外 食 関 連 企 業さんにも三 共 食 品 は
さい。
こんなことをやっているの かと、やっと覚
中村会長 一 言 で 言えば 、仕 事を通じて
えて頂くようになり、お客 様にはこれまでと
みんなが 幸 せ になろうということです 。創
は 違った 、ちょっと変 わったものを三 共 食
業 時 、何 か 一 つ 旗 印を作ろうと考え、
「し
品 は 出しているということで 受 け 入 れ て
あわ せ 作 戦 」としました 。みんなが 幸 せに
頂 いています 。それ で 今 度 は 、我 が 社 が
なろうという気 持ちを込 めたのです 。会 社
主 力としてやってきた 天 然 調 味 料 エキス
も、仕 入 先も、買って 頂くところも、みんな
をこういう料 理 に 使ったら美 味しくなるの
が 我 が 社 の 製 品を 通じて「よかった 」と
で すよ、こういう使 い 方 が あるの で すよと
思ってもらうという事 です 。確 かに 企 業 は
いう提 案をし 始 めています 。外 食 産 業 の
ある程 度 の 利 益 が 出 なけ れ ば い けませ
方 々は 常 にど んなものを 作 っていこうか
ん 。仕 入 先 についても、利 益を得 てもらっ
悩まれています 。そこへ 我 が 社 の 天 然 調
てちゃんとしたものを仕 入 れてもらうという
味 料 エキスを持ち込んで受 け 入 れられる
事 です 。販 売 先には、三 共 食 品 の 製 品を
ケースが 結 構 増えてきたのです 。そうこう
使って「よかった 」と思って 頂 けるものを
やっているうちに、外 食 部 門 の 方 向 性 が
販 売 するということです 。また 、我 が 社 の
決まり、次 のステップとしてそれ に 見 合っ
社 員 にも幸 せ になってもらわなけれ ば い
た 工 場を建 設していかなけれ ばと思って
けません。働く者 が 不自由をしてはいけま
います 。で す から売 上 1 0 0 億 、2 0 0 億 は 、
せん 。さらに、社 会 にも還 元していかなけ
夢 ではなくなってきたなと思っています 。
れ ば いけませ ん 。仕 事をやって 儲 けさせ
て 頂くわけです から、税 金を払 います 。そ
の 税 金 が 老 人 福 祉とか 、教 育とか いろい
ろなところに 使 われます 。これまで 仕 事を
させてもらってきて、赤 字 で 税 金を払 わな
いという事 は 一 度もありませんでした 。税
金を支 払うことで 間 接 的に社 会に貢 献さ
せて頂 いております 。
「 個 人としての 幸 せ 」
「 社 会 人としての
三共食品の製品
5
幸せ」
「 人 間としての 幸 せ 」この 3 つを達
■会社概要
社
成しようという願 いを 込 めて 、
「しあわ せ
名 三共食品株式会社
本 社 工 場 〒441-3301
愛知県豊橋市老津町字後田25番地の1
作 戦 」としました。
日頃、社員の方にお話しされる事があ
れば教えて下さい。
T
E
L 0532-23-2361
F
A
X 0532-23-2370
中 村 会 長 仕 事 で 嘘 はやめようと言って
寺 沢 工 場 〒441-3124
愛知県豊橋市寺沢町字睦美1121-2
います 。間 違ったことは 間 違 い、失 敗した
T
E
L 0532-29-1166
F
A
X 0532-29-1077
ら失 敗した でい いじゃない か 。仕 事 で す
商 品 案 内 乾燥野菜、天然調味料エキス、オイルフレー
バー(香味油脂)、乾燥食品、外食用食材
など
から、失 敗 はあるわけです 。正 直に行こう、
誤 魔 化しはやめようと言っています 。約 束
したことはきちっと守っていこうという事 で
す 。それと個 人 個 人 の 与えられた 仕 事を
1 0 0%やれと言っています 。与えられた 仕
事をきちっとやることによって 、会 社 の 業
績 が 伸び 、皆さんが 幸 せになる一 番 の 近
道だという事を常日頃、社員に話しています。
1千億円企業を目指す
最後に御社の目標についてお聞かせ
下さい。
中 村 会 長 是 非 売 上 1 千 億 企 業 にした
いと思っております 。そのためには末 端 の
商 品まで 扱っていくつもりでいます 。しか
し、何も売 上を上 げるだけが目標 ではなく、
世 の 中 の お 役 に 立 つ 商 品 であれ ば それ
だけ 売 上 が 上 がり、充 実した幸 せ 作 戦 が
実 行 できると考えております 。
分かりました。
どうもありがとうござい
ました。
6
●訪問シリーズ
四日市公害と環境未来館
平成27年3月21日に開館した「四日市公
また、四日市公害と環境未来館に併設す
害と環境未来館」は四大公害としてその名を
る「四日市市立博物館・プラネタリウム」と併
知られる四日市公害に関する館です。開館以
せて、総合的な視野で四日市公害を学んでい
来、多くの視察や社会見学の方を始め、多数
ただける場となっており、連日多くの方にご
のご来館者をお迎えし、7月には来館者3万
活用いただいています。
人を突破しました。
四日市公害と環境未来館
四日市公害と環境未来館の目的
四日市 市では昭 和3 0 年 代に 、四日市公
かで 得た知 識 や 経 験 、環 境 技 術を広く国
害が 発 生し 、多くの人 が 公 害 で 苦し みま
内 外 に情 報 発 信 するために 、今 年 の 3月
した 。そ れ か ら 約 半 世 紀 が 過 ぎた 現 在 、
2 1日に「 四日市公 害と環 境 未 来 館 」は開
その歴史と教 訓を風 化させることなく次
館しました。
世代に伝えていくために 、また 、環 境 改善
同 時リニューアルした 併 設 する「 四日
への取り組みや産 業の発 展と環 境保 全を
市 市立博 物 館・プラネタリウム 」と併せて
両立させてきた四日市のまちづくりのな
ご 覧 いた だくことで 、現 代 に 生きる私 た
7
ちの 生 活と環 境 の関わりを 、古代 からの
る水 質 汚 濁 の 問 題 、そして 、工 場 から 排
暮らしの変化を通して 、あるいは 、地 球 規
出される硫 黄 酸 化 物による大 気 汚染によ
模での環 境について 、考えていただくこと
り 、気 管 支ぜん息をはじ めとする呼 吸 器
ができる施 設となっています。
系 の 疾 患にか かる方 が 増 加しました 。そ
来 館 者 の方には 、未 来 へより良い環 境
うした中 、特 に 被 害 の 大きい地 域 にみえ
を引き継 いで いくために 、当 館 で 過 去を
た方 が 立ち上 がり 、裁 判を 起こすことに
知り 、学び 、来 館 者の方自身のより良い環
なります 。これが「 四日市公 害 裁 判 」で す 。
境 への取り組みへとつなげていただけれ
裁 判は 5 年もの歳 月と多大 なる労 苦を
ば幸いです 。
抱 える困 難 なものでした が 、原告 の方々
の 訴えは 認 められ 、そ の 判 決 は 、日本 の
四日市公害と環境未来館の紹介
公 害 問 題 の 解 決 へ の 道 筋 を開く画 期 的
で は 、さっそく展 示についてご 紹 介し
なものとなりました。
ていきたいと思いますが 、その前に 、四日
さて 、前 置きが 少し長くなりました が 、
市公 害 について 、どの 程 度ご 存 知 でしょ
当 館 の展 示をご 紹 介 いたします 。当 館 の
うか 。そ の 昔 、小 学 校 の 教 科 書 で「 四 大
入っております「 四日市 市 立 博 物 館 」は 5
公害 」として習ったという記憶をお持ちの
階建ての建 物になります。最 上階の5階に
方 が見 えるかもしれません 。新 潟 水 俣 病 、
は 、1 億 4 千万個もの星を投 映することが
イタイイタイ病 、熊 本 水俣 病 、そして 、四日
できる世 界でも最も先 進 的 なプラネタリ
市 ぜん息 。以 上を 総 称して四 大 公 害と記
ウムで す 。大 迫 力の 全 天 周 8 Kデジタル投
憶されている方も多いかと思います。
映 機によって映し出され る星 空と地 球 環
しかし 、当 館 にご 来 館 いた だくことで
境 の 映 像 は 、まさにそ の 場 にいるような
単に「 四日市ぜん息 」という単語だけでは
臨 場 感 のもと 、来 館 者 の方にご 覧 いただ
なく 、
「 四日市 公 害 」という事 象を少しで
くことができます。
もより広く深く知っていただければと思い
一つ下の 4 階は 、特 別 展 示 室で す 。この
ます 。
夏は 、当 館 主催 の 環 境に関する展 覧 会と
そもそも 、昭 和 3 0 年 代高度 経 済 成 長とと
いうことで、
「大 昆 虫博」を開催し、連日多
もに 、経 済 最 優 先 の 社 会 背 景 のなか 、本
くの方に足を運んでいただきました 。
市も含め 、全 国に次々と大 規 模 な工 場 が
3 階は「 博 物 館 」の 常 設 展 示であるとと
作られて いきました 。そ の 過 程で工 場 周
もに 、2 階にあります当 館「 四日市公 害と
辺では 様々な公 害 問 題 が 発 生していくこ
環 境 未 来 館 」へ の入り口でもあります 。3
ととなりました 。
階は四日市の古代から江 戸 時 代までを原
この四日市 でも 、工 場 からの 排 水 によ
寸 大の 再 現 模 型によって 、体 感 いただき 、
8
2階で明治時 代 以降の産 業 都 市として発
に 、その中で 始まった医 師や研 究 者 の方
展して いく四日市と公 害 問 題を扱うこと
の取り組み 、そして 、全 国に先 駆けて本 市
によって 、単に公 害について 、歴史につい
が 実 施した公 害 健 康 被 害 者 へ の 医 療 費
て知るだ け でなく 、一 体 的に学んで いた
救 済 制度など を紹 介し 、公 害が 叫 ばれる
だくことが 可能となっています 。
中で 、どのように人々が 暮らしていたのか
2 階の「 四日市公害と環 境 未 来 館」では 、
学んでいただきます。
そして 、四日市 公 害 裁 判シアターで は 、
「 博 物 館 」の 常 設 展 示 で の 、江 戸 時 代ま
で の四日市のくらしの 変 化を踏まえつ つ 、
広 が る 公 害 問 題 に 対して 立 ち 上 が った
急 速 に変 化 、発 展して いく四日市の 姿と
人々の 裁 判 へと向かっていく労 苦と裁 判
公害の問題について展 示しています 。
の 過 程について 、当時 の資 料と証 言を交
まず 最 初 の「 産 業 の 発 展とくらし の 変
えながら学んでいただける映 像 作品を用
化 」のコーナーにて 、明治以降の四日市の
意しています。
港 の 発 展とともに 、戦 争 を 経 て 、コンビ
また 、シアター向かいの「 情 報 検 索コー
ナートが 四日市に出来るまでの様 子を当
ナ ー 」で は 、4 0 名を 超 える方々からの 証
時 の 写 真や再 現 模 型によって 、知ること
言 映 像を集 め 、公 害 被 害 の大きかった当
ができます 。
時の記憶を中心に証言いただいています 。
様々な立 場 の方々から様々な 角度でお話
をしていただいているので 、当時のことを
詳しく知りたい方も 、初めて四日市公害を
学 ぶ 方にとっても価 値あるコーナーで す 。
「産業の発展とくらしの変化」のコーナー
次の「 公 害 の 発 生 」のコーナーでは 、当
時の貴重な資 料 や写 真を基に 、公害 の歴
史と深 刻 な 健 康 被 害 につ いて伝 えます 。
「四日市公害裁判シアター」
健 康 被害に苦しんだ方の当時を語った証
言 映 像 や 、肉 声などを体 感していただき 、
そして 、
「 環 境 改善 の取り組み 」では市
市に寄 せられた 苦 情 や 様々なデータをも
民・企業・行政 が 一 体となって取り組んだ
とに公 害 の 様 子を感じて いただくととも
環 境 改善により 、昭 和 51年度に呼 吸器 系
9
疾 患の 主 な 原 因とされ る 二 酸 化 硫 黄 濃
度 が 、国の 環 境 基 準を市 内 全 域 でクリア
するという結果を得るまでの 環 境 改善 へ
の 歩みをそれぞれの 側 面から展 示 すると
ともに 、現 在まで 続く四日市の 経 験 を 伝
える様 子も紹 介しています。
5 番目のコーナーの「 現 在の四日市 」で
昭和40年頃の塩浜小学校教室の再現
は 、現 在もなお豊かな自然 の 残 る姿と環
境 に 配 慮しな がらイノベーションを行 う
浜 小 学 校の 昭 和 4 0 年ごろの 教 室を再 現
産 業 の 姿をとおして 、現 在 の 四日市の 姿
した「 研 修・実 習室 」で 、四日市公 害 の 語
を示します 。
り部 の方の 話を聞いたり 、環 境 学 習ワー
そして 、最後 のコーナーでは 、
「環境先
クショップに参 加していただくことで 、来
進 都 市四日市 」と題し 、本 市の目指 す「 環
館 者 の方により主 体 的に 、過 去 の 公 害を
境 先 進 都 市 」となるために 、地 球 規 模 で
学 び 、これ からの 環 境を 考えて いただく
拡 大 する 環 境 問 題を 伝 えるとともに 、市
機 会を提 供していきたいと考えています。
の取り組みを紹 介し 、3 階から始まる一 連
最後に当館で 学んでいただいた知 識と
の展 示も踏まえて 、未 来 へ 向 け て できる
経 験 を糧に 、より良い 環 境を 未 来 へ 引き
ことの 来 館 者ご自身の 決 意 表 明 、あるい
継いでいくための活 動の場をご 案 内した
は次の 来 館 者 の方へ のメッセージを残し
いと思います 。四日市を拠 点として 、環 境
ていただけるようにしています 。
活動を行っていただく活動の場として 、当
ここまでのエリアはいうなれば 、四日市
館 の 活 動 室を四日市 市 立 博 物 館に 隣 接
公 害 を始 め 、歴 史を 知って いただくため
するじばさん三 重( 三 重 北 勢 地 域 地 場産
の展 示エリアになります。
業 振 興センター )に設けています 。四日市
そして 、1 階 は 、展 示 エリアで 知ったこ
市と協 働して 環 境 学 習・環 境 活 動を行っ
とを踏まえて 、より学んでいただく学 習エ
て いた だ ける団 体 や 個 人の方 が 、
「 エコ
リアになります 。公 害 や 環 境 に 関 する書
パ ートナ ー 」として 登 録 いた だくことで 、
籍を整 備した図 書コーナーは一万冊 近い
この活動 室を活動・交流の場として 、また 、
蔵書を用意しています 。ゆったりとした学
発 表の場として利用していただけます。
習・交 流 スペースを図 書 コーナ ー横 に 設
四日市公害と環境未来館のこれから
け ておりますので 、館 で の 学 び をさらに
深めていただければと考えています 。
さて、ここまで展 示を中心として当館の
また 、コンビナートのすぐ脇にある塩
紹 介をしてまいりましたが 、公 害はもとよ
10
り環 境の問 題は 、ただ 部 屋の中で 学んで 、
て未だ半 年あまり 、まだまだ成長していく
そこで終わりというわけにはいきません。
ことのできる館 であると日々の 業 務 の中
そこで 、当 館 では 館外 の 企 業や関係団
でも感じておりますので 、是非四日市にお
体と連 携して いくことで 、来 館 者 の方 が
立ち寄りの際は 、足をお運び いただき 、叱
館で 学んだ知 識としての公害や環 境 改善
咤 激 励をいただくとともに 、当館のこれか
の歴史を 、フィールドに出て 、例えば企 業
らの活 動にご 協力 、ご 賛 同いただけれ ば
見 学 で 現 在 の 公 害 防止 技 術 の 有り様を
幸 いで す 。皆 様 のご 来 館を心よりお 待ち
知ったり 、現 在 の四日市に残 る自然 環 境
申し上げております。
に 触 れ ることによって 、館 の展 示 以 上の
最 新 情 報 へご自身の知見を更 新していた
四日市公害と環境未来館のご案内
だくことにより 、より成長していただくとと
もに 、館 内 を 案 内 する 解 説 員 にもま た 、
フィールドを 通じて 得た 新しい 情 報を共
住
所:四日市市安島1丁目3番16号
電
話:059−354−8065
開 館 時 間:9時から17時まで
(ただし入館は16時30分まで)
有して教 えあうことにより 、さらに充 実し
観 覧 料:常設展は無料。特別展・企画展は別途。
た 館へと成長していくものと考えます。
併設の博物館プラネタリウムは大人540円、
企 業においても 、当 館との 連 携 により 、
高大生380円、小中生210円
休
環 境 へ の 意 識 が 高まることにより 、より
環 境 活 動を積 極 的に展 開していただくこ
とを期 待 するとともに 、そ のような 連 携 、
協 働の中で 、来 館 者の方の 環 境に対 する
関 心や興 味 が 高まり 、四日市の 環 境のみ
ならず 、世 界 の 環 境 問 題 にも注 意を払っ
て いただ け れ ば 、自ずと今なお 公 害 に苦
しむ場 所 や 今まさに公 害が 起ころうとし
ている世界が見えてくるはずです 。そのと
き 、この「 四日市公害と環 境 未 来 館 」で 学
んだことを生 かし 、行 動 につなげ て いた
だけれ ば 幸いで す 。また 、そのようにして
活 躍され る方 が 、講 師として 来 館 いただ
き 、当 館 を 新 たな 環 境 学 習 の 場として 、
活用されるようになることを願ってやみま
せん 。なにはともあれ 、この3月に開 館し
11
館 日:月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始、
その他臨時休館日あり
交通アクセス:近鉄四日市駅下車 西へ徒歩3分
JR四日市駅下車
西へ徒歩20分
(路線バス利用の場合、4分)
●特集1
東海地方の航空機産業
機事業のどの分野なのか、などを検証してみ
1.はじめに
たいと思います。
東海地方は航 空機 産業の一大集 積 地で
す。富士重工業は「ボーイング777X」の受注
2.東海3県の航空機産業の状況
を見込んで、約100億円を投じて愛知県半田
市に新工場を建設します。三菱飛行機(愛知
(1)業績面からみた東海3県の航空機産業
県 豊 山 町 )が 開 発を 進 めて いる国 産 初 の
東海3県の航空機関連企業70社の業績推
ジェット旅 客 機「 M RJ( 三 菱リージョナル
移をみると、2013年度の合計売上高は1,412
ジェット)」は、今年10月頃に愛知県で初飛行
億円、前期比8. 3%の増加で、
「 増収」だった
を行い、2017年に航空会社への納入を開始
企業は46社と前年度の37社から9社増加して
する予定です。しかし、MRJはエンジンなど
います 。直 近 3 年度の比 較 では 、2 011年度
約7割の部品を輸入に頼っており、高度に専
1,213億円、2012年度1,304億円(7.5%増)か
門的部品では、
日本メーカーは海外勢に遅れを
ら、2013年度は1,412億円と順調に推移して
取っているのが実情です。
きています。
日本航空機開発協会の試算によると、世界
また、名古屋税関管内航空機 類輸出入額
で運航するジェット旅客機は今後 2 0年間で
の最近の推移(グラフ②)をみると、ここ数
約2倍に増え、4兆5,400億ドル(約540兆円)
年、輸出入ともに順調に伸びてきていること
の需要が見込めるとのことです。日本の航空
がわかります。特に輸出の伸びは著しく、平
機・航空機部品の生産額の半分を占める東
成26年度輸出額実績は3年前と比較して2.6
海 地方にとって 、絶 好 の機 会を迎え 、一見
倍に達しており、最近の円安という背景もあ
華々しくみえる航空機産業ですが、本当に東
ると思いますが、世界的な航空機産業のマー
海地方で拡大していくのか、新規参入が可能
ケット拡大が裏付けられ、東海地方における
な事業なのか、新規参入するとすれば、航空
航空機産業の技術力の高さが認知されてい
る結果が出ています。
グラフ① 日本の航空機生産額の推移(防衛含む)
グラフ② 名古屋税関管内航空機類輸出入額
(億円)
18,000
16,000
(億円)
5,000
14,000
12,000
航空機類輸入金額
4,000
10,000
3,000
8,000
6,000
2,000
4,000
1,000
2,000
0
平成15年
航空機類輸出金額
平成18年
平成21年
0
平成24年
〈出所:
「航空産業シンポジウム in 名古屋」資料より作成〉
平成23年
平成24年
平成25年
平成26年
〈名古屋税関 管内貿易概況より作成〉
12
(2)東海3県の主な航空機産業各社の状況
いていることがわかります。表 ①では東京、
全国の航空機関連企業のうち、多数を占め
愛知、岐阜の会社数においてほとんど差がな
る「航空機・同付属品製造業」の所在地は、全
いことがわかりましたが、出荷額でみると愛
国213社のうち、大手航空機関連メーカーな
知県は他の県を圧倒しており、愛知県では他
どが本 社を構える東京都が3 6 社で第1位と
の県に比べて、規模の大きい航空機メーカー
なっています。東海3県では愛知県が35社で2
が集積しているものと考えられます。
位、岐阜県が34社で3位、三重県が1社で、全
「 100人以上」の企業
従業員規模でみると、
国に占める東海3県の構成比は32.8%と安定
が23社(構成比32.9%)と最も多くなっていま
しており、集積率の高まりを裏付けています
す。航空機の構成部品は300万点にのぼると
(表①)。航空機産業というと愛知県を連想し
され、自動車の100倍ともいわれています。複
がちですが、岐阜県での集積度合いの高さは
雑でさまざまな生産工程があり、各々に多く
注目すべき点です。なお、三菱重工業や川崎
の従業員が関わっていることが 想像できま
重工業、富士重工業、ナブテスコなど東海3県
す。一方で、
「 9人以下」の企業も21社、30.0%
以外に本社を置く関連企業も、東海地区に主
にのぼり、
「 航空機・同付属品製造業」が、必
要生産拠点を構えており、実際の集積率はさ
ずしも規模の大きい製造業に限定されておら
らに高いものとみられます。
ず、中小・零細の金属加工メーカーなどが多
グラフ③は、県別の上位航空産業出荷額を
く含まれているという点では、やや意外な側
表したものですが、愛知県の出荷額が群を抜
面も垣間見えます。
(表②)
表① 「航空機・同付属品製造業」本社所在地
グラフ③ 県別上位航空産業出荷額(2013年)
順位
都 道 府 県
社数
構成比
1
東
京
都
36
16.9%
2
愛
知
県
35
16.4%
3,500
3
岐
阜
県
34
16.0%
2,500
4
神 奈 川 県
15
7.0%
2,000
5
兵
庫
県
14
6.6%
6
栃
木
県
14
6.6%
1,000
500
7
埼
玉
県
12
5.6%
8
長
野
県
10
4.7%
(億円)
4,500
4,000
3,000
1,500
0
愛知県
東京都
兵庫県
岐阜県
福島県
栃木県 神奈川県
〈出所:経済産業省「工業統計調査」より〉
9
京
都
府
8
3.8%
10
大
阪
府
7
3.3%
11
新
潟
県
4
1.9%
従 業 員 数(人)
社数
構成比
12
静
岡
県
3
1.4%
0∼9
21
30.0%
13
石
川
県
3
1.4%
10∼29
11
15.7%
14
千
葉
県
3
1.4%
30∼49
4
5.7%
15
広
島
県
3
1.4%
50∼79
7
10.0%
4
5.7%
23
32.9%
70
100%
16
17
茨
城
県
三重県ほか9県
合 計
表② 東海3県航空機関連企業従業員数の分布
2
0.9%
80∼99
10
4.7%
100以上
213
100%
合 計
(出所:帝国データバンク)
(出所:帝国データバンク)
13
ジンで豊富な実績を持っているので、技術レ
3.航空機業界の構成
ベルは高いといえます。
航空機産業は、機体全体をまとめあげる完
ちなみに、MRJに搭載されるエンジンは国
成機メーカーを頂点に、通常1,000社以上が
産ではなく、航空エンジン大手の米プラット・
関与して何層にもなったピラミッド構造を形
アンド・ホイットニー
(P&H)
社が開発した新型
成している業 界で す 。単 純にこれらのメー
エンジンです。内部に減速ギアを入れた「ギア
カーを層別すれば、
「機体メーカー」
「エンジン
ド・ターボ・ファン(GTF)」という構造が特徴
メーカー」
「 装備品メーカー(システム、装置、
で、燃費効率や騒音低減が期待できます。プ
機器)」
「 部品メーカー」
「 材料メーカー」に分
ラット・アンド・ホイットニー社は2016年愛知
類されます。
県内に、MRJ用エンジンを保管する物流拠点
「ジャパン・ロジスティクス・センター( JLC)」を
(1)機体メーカー
建設することを決定しています。
飛行機の製造・販売を行います。完成機を
(3)装備品メーカー
担うケースと他社の完成機プログラムに協力
して機体の一定部分を担うケースに分かれま
装備品の範囲は膨大です。装備品メーカー
す。完成機 体メーカーは販売に先立って、関
の特長としては、戦後、航空機生産再開を機に
係各国の航空局から型式証明(Type Cer-
ライセンス生産からスタートした企業が多く、
t i f i c a t e )、製 造 証 明( P r o d u c t i o n C e r -
日本の技術力を背景に長年にわたり懸命に努
t i f i c a t e )、耐 空 証 明( A i r w o r t h i n e s s
力を重ねてきた結果、独自の技術を有するに
Certificate)を取得しなければなりません。日
至っているという点では、欧米の装備品メー
本の機 体メーカーは三菱重工業、川崎重工
カーと一線を画します。
業、富士重工業、新明和工業に、新規参入の
(4)部品メーカー
本田技研工業を加えた顔ぶれになりますが、
三菱重工業松阪工場「アジア№1、航空宇宙
個々の機体、エンジン、各種装備品用に、顧
産業クラスター形成特区」での企業活動は、
客図面に準拠してカスタム・メードのいわゆる
この分野に分類されると考えます。
純正品を製造・販売するケースが多いですが、
公共規格に準拠して製造し、認定を受けた標
(2)
エンジンメーカー
準品や、純正品との互換性を公式に承認され
エンジンの製造・販売を行いますが、
エンジン
た部品を交換用に製造・販売するケースもあり
も独立して型式証明(Type Certificate)を取
ます。大企業から中小企業まで幅広く存在し
得しなければなりません。
エンジンメーカーは、
ます。自動車部品メーカーなど航空機産業に
最大手のIHIを筆頭に、川崎重工業、三菱重
参入することを望み、実行に移す企業が出てく
工業、さらにビジネス・ジェット用ターボファン・
る一方で、撤退する企業が多いのも実はこの
エンジンの開発を続けている本田技研工業が
部品メーカー分野です。三菱重工業松阪工場
加わることになりますが、独自開発エンジンの
「アジア№1、航空宇宙産業クラスター形成特
生産実績を有するのは、IHIと三菱重工業の2
区」での企業活動は、この分野にも分類される
社だけです。
各社とも民生用各種タービンエン
と考えます。
14
東海地方の航空機生産に
おける産業構造
完成機メーカー
ボーイング
エアバス
三菱飛行機など
材料メーカー
機体メーカー
東レ
三菱レイヨン
東邦テナックス
三菱重工業
川崎重工業
富士重工業
エンジンメーカー
装備品・部品メーカー
IHI
三菱重工業
天龍エアロコンポーネント
三光製作所など多数
(5)材料メーカー
工作機械メーカー
ヤマザキマザック
DMC 森精機など
切削工具・
治具メーカー
OSG
菱輝金型工業など
した製品を製造する工作機メーカー、切削・治
日本の材料メーカーは優れた技術を有して
具メーカーも深く関与してくることは言うまで
いますが、鍛造品を除いて金属素材の国産化
もありません。また、将来的にはロボットメー
率が低く、輸入に依存する傾向が強くありまし
カーの存在が極めて重要になってくる可能性
た。しかし、例外として近年航空機の材料とし
が高いと考えます。
て主役となりつつあるのがCFRP(炭素繊維
強化プラスチック)です。東レ、東邦テナック
(6)航空機体製造のカギを握るのは「治具」
ス、三菱レイヨンの繊維3社で世界の70%の生
上記産業構造図の右下に記載されている
産を担っています。もう一つ例外を挙げると、
「治具メーカー」が航空機製造に深く関与して
CFRPほどではありませんが、航空機用主要材
いると前述しましたが、ここでもう少しくわしく
料として使用比率が高まっているチタン合金の
触れておきます。
原材料であるスポンジチタンを取り上げること
航空機における製造工程において、
「治具」
ができます。スポンジチタンでは、日本の大阪
は最大の特徴といっていいと考えます。自動
チタニウムテクノロジーズと東邦チタニウムが
車など一般的な製造業では「金型」がものづく
毎年大きな役割を演じています。
りのカギを握ります。金型を使って金属板をプ
レス加工したり、樹脂を射出成型することで部
以上、分類別にみてきましたが、東海3県が
品をつくっていきます。つまり、部品の精度は
深く関わっており、今後も新規参入の可能性
金型の精度によって決まるわけです。一方、航
が高い分野は、
「 機体メーカー」
「 装備品メー
空機部品の製造では、金型を使ったプレス加
カー」
「 部品メーカー」と考えてよさそうです。
工は、軟らかいゴム金型を除いてほとんど使わ
また、当然のことですが、航空機産業に特化
れておらず、航空機部品の製造は機械による
15
切削(削り出し)あるいは鍛造が主体となり、
探していた、大手精密メーカーである住友精密
その際に「治具」は寸法精度を決める上で非
工業と出会ったことが端緒です。2008年から
常に重要な役割を果たします。一般的に航空
航空機用部品の開発を開始し、2009年には航
機 体 構造部品の寸法に求められる精度は、
空機用油圧アクチュエーター(制御用の駆動
0.13mmから0.25mm、平均で0.2mmといわれ
装置)の納入に成功しています。しかし、この
ており、航空機の構造部品が5mや10mといっ
時点では、熱処理、表面処理、非破壊検査と
たものが普通にあることを考えると、本当に気
いった特殊工程と呼ばれる技術がなかったこ
の遠くなる精度です。
とから、製造の途中で大手航空部品メーカー
航空機は「インテグレーション」、簡単にいえ
に送り、特殊工程の加工をして送り返してもら
ば「張り合わせ」を基本として組み立てられま
うという作業を何度も繰り返して完成させまし
す。
ボーイング777の胴体の場合、
上下各3枚、
左
た。のこぎりの刃のギザギザ形のように部品が
右各2枚、合計10枚のアルミ合金パネルで構成
往復することから、航空機部品の生産形態は
されています。1枚のパネルの誤差が0.2mmで
「のこぎり型」と呼ばれています。この「のこぎ
許容範囲だとしても複数のパネルを張り合わせ
り型」生産形態が、航空機産業の問題点と言
ると1mm以上の誤差になることも十分にありえ
えそうです。何故「のこぎり型」生産形態にな
ます。
その結果、
特定の部位に計算外の負担が
るのかというと、航空機部品はさまざまな認証
かかり、
飛行中に金属疲労や破断が引き起こさ
取得が求められていますが、サプライヤーであ
れる恐れがあるわけです。従って機体の構造
る中小企業では認証を持つ企業が少ないた
部位を製作する現場だけでなく、最終組立に
め、多くの航空部品メーカーがこのような「の
到るあらゆる工程で精密な「治具」を使い、寸
こぎり型」の生産形態を取らざるを得ないとい
法精度を確保する必要があります。さらに悩ま
う事情があります。新規参入を考えた場合、こ
しいのは、この「治具」は、それを用いて造られ
の「のこぎり型」生産形態に組み入れられてま
た航空機が1機でも飛んでいる限りは保管して
で参入をしていく価値があるか大いに疑問の
いなければならないことがあります。
残るところです。
(2)認証取得について
4.航空機産業への新規参入
航空機産業では厳しい品質管理が求めら
(1)
新規参入事例
れ、日本工業規格(JIS)の一つである航空品質
金沢市に本社を置く高林製作所は、建設機
マネジメントシステムJIS Q 9100と、国際航空
械などの油圧部品メーカーですが、北陸にあ
宇宙産業特殊工程認証プログラムNadcapの
る表面処理企業(浅下鍍金)、熱処理企業(深
取得が必須条件となります。JIS Q 9100は、
田熱処理)と共同で航空機部品の生産を開始
ISO9001に航空・宇宙・防衛産業固有の要求
しました。同社が航空機部品へ参入するきっ
事項を加えて制定された規格です。また、JIS
かけとなったのは、石川県産業創出支援機構
Q 9100は米国IAQGによって制定された規格
(ISICO)の存在が大きいと考えます。ISICO
でもあり、
航空・宇宙・防衛産業に関わる企業を
が開催したセミナーにおいて、精緻な精度で
対象とした品質マネジメントの規格となりま
金属部品をつくり上げる能力を持つメーカーを
す。さらにIAQGが運営する世界共通のデータ
めっき
16
ベースシステムにも登録され、顧客発注への優
形態は、おそらく今の日本の航空機メーカーに
位性が発揮でき、グローバル市場への参入が
多くみられる生産形態ですが、主要メーカー
可能となります。
の多くは、下請け企業に対して、この「のこぎり
一方、Nadcapは、航空宇宙産業と防衛産業
型」生産形態から脱皮を図り、複数の工程を自
全体にわたる特殊工程の品質保証などを目的
らコントロールして取引先から自立して完成品を
に、世界の主要航空機メーカーやエンジンメー
納入する「一貫生産体制」への対応を望んでい
カー等がスポンサーになって設立された運営
ると考えます。
組織PRIによって審査が行われます。Nadcap
岐阜県に航空機関連工場を持つナブテス
はJIS Q 9100の取得が前提条件で、非破壊検
コ(航空機分野単独メーカーではありません。
査、化学処理、熱処理などの17カテゴリーに区
例えば自動ドア分野では国内シェア50%を占
分されています。
める企業です)は、航空油圧機器の最大手企
この2つの認証を得ることが、部品とはいえ
業ですが、MRJにはフライト・コントロール・ア
航空機産業への参入を果たすうえで重要と考
クチュエーターを供給します。同社は世界最強
えなくてはなりません。つまりこの2つの認証
のサプライチェーン構築を目指し、下請企業が
がなければ、新規参入を果たしたとしても、悪
「のこぎり型」生産形態から脱皮した新工場の
しき「のこぎり型」生産形態に組み込まれる可
建設を目指しています。
能性が高いということです。前述の高林製作
ボーイング737MAXは2016年に量産を開始
所は、非破壊検査と表面改質、浅下鍍金は表
し、2030年まで生産を続けることが決定して
面処理、深田熱処理は熱処理で認証を得てい
います。MRJは2016年に量産を開始し、2040
ますから、
「 のこぎり型」生産形態から免れて
年まで生産を継続するなど、航空機産業にお
いると言っていいでしょう。
けるビジネスチャンスは超長期的に継続し、特
高林製作所の事例は、新規参入に大きなヒ
に民需は長期安定成長が見込まれる分野と
ントを与えてくれます。ここでは2つの代表的
いっていいと思います。このような産業分野は
な認証について述べましたが、取得を要する認
他に見当たりません。ですから、将来を見据え
証は他にもあります。つまり、1つの会社ですべ
た場合、多品種微量生産から少品種中量生産
ての認証を取得することは難しく、新規参入を
への転換、そのためにはロボットの活用による
進める上では、それぞれ得意な分野を持つ複
自動化された工場での生産なども不可欠と
数のパートナー企業が協力していくことが基
なってきます。その前提としてJIS Q 9100と
本戦略と考えるべきではないでしょうか。
Nadcapを取得した下請企業が担う外注生産
能力増強が強く求められてくるわけです。
(3)新規参入へ挑戦すべきか
繰り返しになりますが、航空機産業のビジネ
現在、航空機 分野への新規参入は、機 体
スチャンスは今後数十年続き、民需で考えた
メーカーを支える装備品メーカー、部品メー
場合、長期安定成長が見込まれる分野です。
カーから強く求められていると考えます。何故
しかし、
自動車部品などを遥かにしのぐ精度を
なら、装備品メーカーや部品メーカーを支える
要求される航空機産業への参入は容易なこと
下請けメーカーに対する需要が今後大きく見
ではないことも事実です。そこには、経営者の
込めるからです。前述した「のこぎり型」生産
高いモチベーションとゆるぎない経営方針、多
17
額な先行投資に対する覚悟、経営判断の早さ
回航空機部品で初めて採用されることになり
と正確さ、
更には高い品質意識と卓越したスピー
ます。
ド感が求められるのは言うまでもありません。
現在参入を進めている9社は三重県外に本
社のある企業で、
三菱重工業での航空機関連
で実績のある企業です。新たな9社は、初期段
5.三菱重工業松阪工場「アジア№1、
航空宇宙産業クラスター形成特区」指定
階として合計で50人から100人を新規採用する
見通しですが、技術的な経験の有無をはじめ
松阪市の中核工業団地に工場を持つ三菱
求める人材は各社様々のようです。この点につ
重工業では、同工場においてMRJの尾翼を作
いて松阪市産業経済部では「一人でも多く地
る生産計画が着々と進行中です。今年4月に部
元から雇用されるよう努力していく」と述べて
品加工業者9社らによる「航空機部品生産共
います。6月1日、松阪市は、三菱重工業、航空
同組合」を設立しましたが(最終的には13社程
機部品生産共同組合のそれぞれと、新規事業
度になるようです)、加工業者は自社の機械で
展開に関する工場立地協定を結びました。
部品をつくるほか、熱処理、表面処理、塗装な
三菱重工松阪工場で
航空機部品の一貫生産を目指す
ど特殊な設備を共同で使うことを想定してい
翼と水平尾翼に組み上げます。これら尾翼は
松阪工場から名古屋市に運ばれ、機体が完成
します。これまではそれぞれの会社に工程が
またがっていましたが、松阪工場に集約するこ
加工して
納品
が作った部品を用いて三菱重工業が垂直尾
機体メーカー(三菱重工)
給
材料支
現状
﹁のこぎり型﹂
ます。具体的には「航空機部品生産共同組合」
加工
メーカーA
加工
メーカーB
加工
メーカーC
とにより「一つ屋根の下」で部品を製造でき、
規模の企業でも、同じ建物内に複数社を入居
カーを育てようとする発想で、まさに「のこぎり
材料
メーカー
型」からの脱皮を目指す生産形態なのです。
材料
調達
させ、実質的に部品を「一貫生産」できるメー
機体メーカー(三菱重工)
納品
阪工場での「共同工場」計画は、比較的小さな
発注
将来一貫生産
製造途中でモノの移動が少なくなります。松
協同組合
加工
メーカーA
加工
メーカーB
加工
メーカーC
2016年中にも航空機部品の一貫生産拠点
を築き、コスト削減や納期短縮を目指していき
6.さいごに
ますが、同組合では「これまで50日かかってい
た部品が5日で製造できる」と述べています。9
東海地方の各地公体では航空機産業支援
社の生産や物流は、トヨタ自動車の取引先で
に向けて補助金、セミナーなどさまざまな取り
ある小島プレス工業グループの真和工業が管
組みを行っています。三重県では今年3月に策
理することが決定しています。同社は、トヨタ
定した「みえ航空宇宙産業振興ビジョン」を
生産方式にITを組み合わせた自動車生産向
ベースに活動を展開、2015年度の当初予算に
けの生産管理システムを独自開発しており、今
は9,100万円を計上しました。中小企業の認証
18
取得などにおいても地公体は企業にとって不
可欠なサポーターです。
経済産業省は、航空機産業について次のよ
うに述べています。
「 我が国の航空機産業の
飛躍的な発展は、これまでの常識や従来の思
考の延長線にないことは明らか。経験がない
領域で新たな挑戦が必要」、さらに「今後さら
に競争が激化することが想定される中、今後
10年間が産業発展のラストチャンス」と。
戦後、日本が官民一体となってゼロから自動
車産業の発展に取り組み、今日の隆盛を実現
させたことが今日、航空機産業に求められて
いるといっていいでしょう。
日本全体が「地方創生」に向けて大きく舵を
切った今、東海地方の地方創生には、この航
空機産業が重要なファクターになる可能性を
秘めています。
経済研究所
尾崎俊介
<参考文献>
■「世界に冠たる中小企業」著:黒崎誠
■「航空機産業のすべて」著:中村洋明
■「翔べ!MRJ」著:杉本要
■「日本のものづくりはMRJでよみがえる」著:杉山勝彦
■帝国データバンク 第5回東海3県の航空機産業動向調査
■名古屋税関 貿易統計
■航空機部品供給システム研究会資料
(主催 愛知県産業労働部)
■航空産業シンポジウム in 名古屋資料
(主催 名古屋商工会議所 中日新聞社)
■新聞各紙
19
●特集2
マレーシアのイスラム金融について
1.はじめに
2.
イスラム金融の仕組み
筆者は2014年4月から、株式会社第三銀行
イスラム金融とはどのようなものなのでしょ
より独立行政法人日本貿易振興 機構(以下
うか。イスラム金融の大きな特 徴は「a .金 利
ジェトロ)のマレーシア・クアラルンプール事
(riba/リバー)の禁止 b. 資金提供者と債務
務所に派遣されています。派遣先のマレーシ
者双方によるProfit & Loss Sharing c. イ
アでは国民の6 0%以上がイスラム教徒であ
スラム教の教えに反する事業に絡む取引の
り、国教もイスラム教です。そのため日本とは
禁 止( 例:金 利 、豚 肉 、アルコール 、賭 博 な
異なる、様々なイスラム教に関係する文化があ
ど)」
(『マレーシアハンドブック2014』より引
ります。その中の一つがイスラム金融です。
用)です。イスラム金融のスキームには多様な
イスラム金融とは、イスラム法に適った金融
種類がありますが、富を持つ者は喜捨を行う
サービスのことです。マレーシアでは日本と
べきとされているイスラム教では、働かずして
同じような一般の銀行もあるのですが、写真
余剰資金によって収入を得ることが認められ
のように銀行名に“ISLAMIC”と表記されて
ていません。そのため、例えば特定された資
いるイスラム金融を提供している銀行もあり
産の取引やプロジェクト等への投資など、実
ます。イスラム教 徒でなくてもイスラム金融
態を伴う取引である必要があります。事業や
サービスの申込みや利用は可能で、受けられ
取引がイスラム法に適っているかについて、
る金融サービスの内容も殆ど変わらず、利率
シャリア・ボードと呼ばれるイスラム金融に関
も殆ど同じ水準と言われています。
する専門家数名からなる組織が監査します。
世界のイスラム金融資産の成長率は年々
イスラム金融は独自の仕組みによって一般
増加しており、今後更なる市場の拡大が見込
の銀行と同じ金融サービスが提供できるよう
まれるため、このイスラム金融が世界から注
に工夫されています。代表的なスキームは以
目を集めています。そこで本レポートでは、イ
下の通りです。
スラム金融の概要や代表的なスキーム、また
①ムラバハ:商品の売買 マレーシアや日本でのイスラム金融の取り組
売買を銀行が介在して行うスキームです。
みについて説明します。
まず、買い手は売り手と売 買契 約を結びま
す。そして、銀行は売買契約で定められた金
額で売り手から商品を購入し、買い手に渡し
ます。そして、買い手は、後日払いや分割払い
等の方法でマージンを乗せた価格を銀行に
対して支払います。銀行にとっては売買益、つ
まり上乗せたマージンが金利の代わりとなり
ます。ムラバハは自動車ローン等、幅広く貸出
20
の際に使用されています。
1.売買契約
買い手
4.商品
5.後日払い、
分割払い
等で支払
2.支払
事業者
売り手
3.商品
1.出資
2.配当
プロジェクト
1.出資
2.配当
銀行
④イスティスナ:発注生産
詳細指図を踏まえ、買い手に代わって銀行
銀行
が売り手に先払いするスキームです。対象と
②ムダラバ:出資 なる商品が契約時では存在しないことに特
事業家が出資者の資金をまとめて投資し、
徴があります。まず、買い手は銀行を通じて
得た利潤を配当として出資者に返すスキーム
売り手に発注し、銀行が売り手に資金を支払
です。まず、出資者は投資が行われることを
います。そして製品が完成した時点で売り手
認識したうえで事業家に資金を提供します。
から、銀行あるいは買い手に製品が引渡され
事 業者はその資金をプロジェクト等 へ投資
ます。買い手への商品引き渡し時点または事
し、配当を得ます。その配当を、あらかじめ定
後的に、買い手は代金を銀行に対して支払い
めた利潤分配率に従い、事業者から出資者
ます。その際買い手は、銀行から売り手に支
に支払います。この配当が出資者にとって金
払った金額に上乗せされた金額を支払いま
利の代わりとなります。出資者は運用によっ
す。この上乗せされた金額が金利の代わりと
ては損失を被ることもあり得ます。ムダラバは
なります。契約時には商品が存在しないもの
イスラム金融の預金で多く用いられている方
の、製品が詳細指図により明確に特定されて
法で、預金に置き換えると出資者は預金者、
いることから実態のある取引とみなされ、イス
事業家が銀行となります。
ラム法としても問題のないことになっていま
す。建設プロジェクトや工場・機械関係の発
出資者 1.資金
事業家 2.資金
プロジェクト
(預金者) 4.配当 (銀行)
等
3.利潤
注等の際に用いられています。
1.発注
買い手
③ムシャラカ:共同出資 4.製品
銀行
5.支払
プロジェクトに対して共同出資を行い、配
2.発注.支払
3.製品
売り手
当を得るスキームです。事業者はプロジェクト
⑤イジャラ:リース に必要な資金を得るため銀行に相談します。
一般的なリースとほぼ同じスキームです。
そして銀行はそのプロジェクトに対して、事業
まず銀行が売り手に代金を支払い、商品を購
者と共に資金を出資します。ムダラバと異な
入します。買い手は銀行に対して使用料を支
り、銀行は出資比率に応じてその事業の所有
払い、銀行が購入した資産を利用します。リー
権を持ち、直接事業等の経営にあたることが
ス終了時点まで所有権は全て銀行にありま
可能です。そして、その事業で利潤が出た際
すが、リース契約期間終了後に所有権が顧客
に、銀行は予め定めた利潤分配率で配当を
に移転するイジャラ・ワ・イクティナと呼ばれ
受け取ります。この配当が、銀行にとって金利
る方法もあります。資産購入、個人向けの住
の代わりとなります。事業で損失が生じた場
宅ローンなどにも使われています。
合は、出資した範囲で銀行も損失を被ること
買い手
となります。
21
3.商品
4.使用料
銀行
1.支払
2.商品
売り手
⑥スクーク:債券
知度は高くないと言われています。
金利の概念を利用している債券にも、上述
3.
マレーシアでのイスラム金融への
取り組みの流れ
したムラバハ、ムシャラカ、イジャラ等の実態
取引(商品取引や投資等)を組み入れること
で、イスラム法に適した仕組みとしています。
次に、マレーシアでイスラム金融がどのよう
ここでは、イジャラを利用したスクークの仕
に導入・普及されたのかについて説明します。
組みについて、資産を不動産として説明しま
まず、マレーシアでは1983年にイスラム銀行
す。まず、投資者は債券発行機関に資金を支
法 が 制 定され 、B a n k I s l a m M a l a y s i a
払い、証券を得ます。一方、債券発行機関は
Berhadがマレーシア発のイスラム専業銀行と
資産供給 者と売買契約を結び、資産供給 者
して設立されました。その翌年の1984年にイ
から不動産(資産)を購入します。しかし資産
スラム保険法が成立、1990年に初のマレーシ
供給者は先ほど販売した不動産を利用し続
アリンギット建てのスクークを起債、1993年に
けるため、債券発行機関とリース契約を結び
一般の金融機関にもイスラム金融の取り扱い
ます。そのリース料の一部が投資家へクーポ
を認可するなど、イスラム金融の整備が進み
ンとして支払われます。契約期間が終了した
ました。現在では国の戦略としてイスラム金融
ときに、リースの対象となっていた資産は資
のハブになろうとしており、2 0 0 6 年 8月には
産供給 者に売り渡されることで資産供給 者
マ レ ー シ ア 国 際 イスラム 金 融 セ ンタ ー
の手に戻ります。また資産供給者から債券発
(Malaysia International Islamic Finan-
行機関へ支払われた資金によって、投資家に
cial Centre)イニシアティブを発表、さらに
償還金が支払われます。
2011年マレーシア中央銀行が重要分野のひ
取り扱う資産は多様ですが、例えばムラバ
とつにイスラム金融の国際化を挙げました。
ハ(商品の売買)のスキームを利用したスクー
マレーシアには2013年3月時点で16行のイ
クでは、価格変動が少なく、市場流動性が高
スラム専業銀行があります。2011年12月末時
く、価格の明確性があるパームオイルが用い
点でイスラム預金の割合は20.5%、預金全体
られることが多くあります。
の伸び率14.1%に対して、イスラム預金の伸
6.クーポン
4.資産
5.使用料
7.支払
び率は22.6%でした。またファイナンスについ
資産供給者
2.証券
債券発行機関
投 資 家
1.支払
3.支払
ても、イスラムファイナンスが占める割合は
20.0%、伸び率は全体が13.6%に対してイスラ
ムファイナンスは23.6%でした。このように、イ
8.資産
スラム銀行法が制定されてから約3 0年の間
⑦タカフルムダラバ:保険
に、マレーシアではイスラム金融が着実に広
保険類似サービスのことを指します。出資
がっています。そして既にマレーシアは世界
者(保険者)どうしの相互扶助として扱われて
の中でもイスラム金融の担い手として存在感
おり、出資者(保険者)が出資した資金をタカ
を示しています。2012年に全世界で発行され
フル事業者は運用者として運用し、配分して
たスクークのなかで、マレーシアで発行され
います。まだ、ムスリム市場には保険の考え方
たスクークは77%を占め世界最大の市場規
が広くは浸透しておらず、タカフル市場の認
模を持っています。
22
火災保険株式会社がHong Liong傘下のタカ
4.
日本でのイスラム金融の動き
フル事業会社に35%資本参加してタカフルを
日本国内でもイスラム金融に対応できるよ
取り扱ったり、野村証券の子会社が日本企業
うな法律の改正が進んでいます。まず2 0 0 8
初となる米ドル建てスクークを2 010 年にマ
年12月の改正銀行法規制に、子会社・関連会
レーシアで発行したりしています。日本国内
社を通じてのイスラム金融業務が認められる
では、株 式会社インスパイアが 2 014 年にマ
条文の追加がありました。次に2011年5月の
レーシア最 大の政 府系 投資機 関のP N Bグ
『資本市場及び金融業の基盤強化のための
ループと連携し、日本初のイスラム法適格ファ
ンドを組成するなどの動きが見られます。
金融商品取引法等の一部を改正する法律』
によって、日本版スクークに関わる海外投資
5.
まとめ
家が受けるスクークの分配金や不動産の登
録免除税、不動産取得税などの非課税措置
日本にいるときはそこまで大きく意識して
が導入されました。さらに、2015年4月改正の
いなかったイスラム金融ですが、マレーシア
「主要 行等向けの総合的な監督指針、V−3
では日常生活の一部になっています。イスラ
銀行及びグループ会社の業 務範囲」の中で
ム金融が導入されることで、資金調達手段の
は、銀行本支店でのイスラム金融サービス提
多様化や、イスラム圏の各国における好感度
供に関わる記載が見られます。
の上昇、イスラム圏の各国におけるマーケティ
また日本国外では、既に日系の金融機関も
ングが有利になる可能性があります。
イスラム金融を取り扱っています。2008年に
日本国内でのイスラム教の人口は18万人程
三菱東京UFJ銀行の子会社が邦銀で初めて
度と市場がまだ小さく、またイスラム法にのっ
ICBU(International Currency Business
とった金融サービスを提供するためには専門
Unit)設置許可を取得し、外貨建てイスラム金
的な知識が必要となるため、日本国内で導入
融を取り扱えるようになりました。また社内に
がされるのはまだ先のことかもしれません。
シャリアコミッティ(イスラム法学者で構成さ
しかし、世界的にはイスラム金融の市場は今
れる、イスラム金融取引がイスラム法に適して
後も拡大することが見込まれるため、日本に
いることを自社で判定することを目的とした
いてもイスラム金融について耳にする機会が
委員会)を設置し、2014年に世界初となる円
増えていくのではないかと思います。
建てイスラム債の発行を行いました。みずほ
第三銀行 証券国際部 証券国際課
仙石 有紀
<参考資料>
銀行も2012年にマレーシアにイスラム金融を
取り扱う子会社を設置し、2014年にセンチュ
リー東京キャピタルにムラバハで融資をして
■『イスラム金融入門』吉田悦章
います。三井住友銀行は2012年サウジアラビ
■『2014マレーシアハンドブック』
マレーシア日本商工会議所
アの空港事業に対する7億5000万ドル(当時
■『マレーシアBIZナビ イスラム金融の基礎知識』
福島 康博
のレートで約600億円)相当の融資をイスラム
金融方式で組成したり、2013年にマレーシア
■Bank Negara Malaysia
http://www.bnm.gov.my/index.php?&lang=en
でイスラム金融を取り扱う子会社を設置した
■金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」
http://www.fsa.go.jp/common/law/guide/city/05.html#05_03
りしています。銀行以外にも、三井住友海上
23
●アンケートコーナー
消費動向に関するアンケート調査
三重県内の消費者の消費行動を調査する
と予想する人が減っていますが、
「 増加する」
ため、
アンケートを実施しました。
と予想する人も減っています。全体的には家
調査方法の概要
Ⅰ.
計収入はこの先ほぼ横ばいとみる人が多い
ようです。
1. 調 査 方 法:当行三重県内店舗でのアンケート調査
問2.物価について
(1)1年前に比べて現在の物価をどのように
グラフ-2
感じていますか
2. 調 査 時 期:平成27年6月中旬
:三重県内64店舗の来店客1,000名
3. 調査対象者(数)
:984名(98.4%)
4. 有効回答者数(率)
【回答者の状況】
グラフ-2 (1)
1年前に比べて現在の物価を
(単位:人)
29歳 30歳∼ 40歳∼ 50歳∼ 60歳
以下 39歳 49歳 59歳
以上
合計
構成比
(%)
男 性
68
47
78
69
89
351
35.7
女 性
124
113
142
154
100
633
64.3
合 計
192
160
220
223
189
984
100.0
構成比(%) 19.5
16.3
22.4
22.7
19.2
100.0
どのように感じていますか
下落
1.3%
変わらない
14.6%
調査結果の概要
Ⅱ.
かなり上昇
23.
4%
少し上昇
60.6%
【家計の収入、消費動向について】
問1.あなたの世帯の収入は1年前に比べて
どうですか。今後の見通しはどうですか。
グラフ-1
現在の物価については、
「上昇している」と
グラフ-1 問1.あなたの世帯の収入は1年前に比べて
感じている人が8割を超え、
「 変わらない」と
どうですか。
今後の見通しはどうですか。
増加
変わらない
減少
感じている人はわずかで、
「 下落している」と
感じている人はほとんどいません。
25年6月 11.3
65.1
23.6
26年6月 20.7
50.9
28.3
27年6月 23.8
52.6
23.5
今後の見通し 19.9
59.3
20.8
0%
20%
40%
60%
80%
このところ、円安の影響もあって食料品や
日用品について値上がり傾向が強くなってお
り、消費者は物価の上昇を実感しているよう
です。
100%
(2)今後の物価見通しについて、どのように
お考えですか
グラフ-3
収 入が「増加した」人は1年前より増え、
「減少した」人が減っています。賃上げの動き
今後の物価見通しについても、多くの人が
が広がっており、家計の収入はやや増加して
「上昇する」と予想しています。 います。ただし今後については、
「減少する」
消費者の多くは、収入はそれほど増えない
24
にもかかわらず、先行き物価は上昇していく
グラフ-5 問4.家電など耐久消費財の支出について
とみています。
増加
グラフ-3 (2)
今後の物価見通しについて、
26年6月
どのようにお考えですか
下落
1.2%
変わらない
19.2
57.4
27年7月 16.2
変わらない
13.4%
0%
23.4
61.8
今後の見通し 6.8
かなり上昇
27.7%
22.0
66.9
20%
40%
減少
26.3
60%
80%
100%
家電など耐久消費財への支出については、
1年前と比べてほぼ横ばいとなっています。
少し上昇
57.7%
昨年の消費増税後に需要が落ち込みました
が、耐久消費財に対する消費意欲は依然とし
て回復していません。
先行きについては、さらに大幅に支出を減
問3.生活必需品や日用品などの支出について
らす見通しとなっています。
グラフ-4
問5.趣味・レジャー・旅行などの支出について
グラフ-4 問3.生活必需品や日用品などの支出に
ついて
増加
グラフ-6
変わらない
減少
グラフ-6 問5.趣味・レジャー・旅行などの支出に
26年6月
30.3
59.8
9.9
27年6月
33.8
56.3
9.9
ついて
増加
26年6月 16.1
今後の見通し 9.8
0%
69.3
20%
40%
変わらない
52.4
減少
31.5
20.9
60%
80%
27年6月 19.2
100%
今後の見通し 13.3
生活必需品への支出については、1年前に
0%
比較してやや増加しています。
52.7
28.1
60.8
20%
40%
25.9
60%
80%
100%
ところが、今後の見通しについては、日用
趣味・旅行・レジャーへの支出については、
品の支出を節約しようとする人が増加してい
1年前よりやや増加しています。今後につい
ます。このところ円安を背景として、食料品を
ても、日用品や耐久消費財ほど大きくは落ち
はじめ身近な商品の値上げが目立っており、
込まない見通しです。
消費者はこれからは日用品の支出の無駄を
モノ よりも コト 消費を重視するという
省こうと考えているようです。
傾向は続いており、趣味や旅行への支出は
問4.家電など耐久消費財の支出について
今後も比較的堅調に推移するとみられます。
グラフ-5
25
問6.株価が上昇していますが、株高の影響
で消費意欲は高まっていますか。
では 、
「旅行・レジャー」への支出が最も多
く、続いて「自動車」
「 生活必需品」
「 家電製
グラフ-7
品、家具」の順となっています。
「 宝飾品、ブラ
グラフ-7 問6.株価が上昇していますが、
株高の影響
ンド品」はわずかで、都市部の百貨店では宝
で消費意欲は高まっていますか。
飾品など高額品の売行きが好調ですが、イン
やや高まっている
11.6%
おおいに
高まっている
1.5%
バウンド効果という側面が強いのかもしれ
ません。株価が上昇したことにより消費を増
株式を保有
していない
30.9%
やしている人の割合は全体からみれば多く
ありませんが、消費意欲が高まった人のなか
では旅行やレジャーを増やしている人は比
変わらない
55.5%
較的多いようです。
【三重県の地域活性化策について】
問8.あなたのお子さんなど、子どもたちに大
人になっても三重県に住んでほしいと
グラフ-9
思いますか
株価の上昇で「消費意欲が高まっている」
という人は全体の1割強にとどまり、
「 変わら
グラフ-9 問8.あなたのお子さんなど、
子どもたちに
ない」と「株式を保有していないため関係な
大人になっても三重県に住んで
ほしいと思いますか
い」という人が大多数を占めています。
県外へ出て
行かざるを
えないのでは
8.1%
どちらでも ぜひ住んで
よい
ほしい
19.3%
18.6%
株高による消費意欲の高まりは一部の富
裕層にとどまり、一般の消費者にはそれほど
広がってはいないようです。
問7.株高で消費意欲が高まった人にお聞き
します 何に消費支出しましたか または何に消費支出する予定ですか (複数回答)
グラフ-8
県外へ出て
行っても
かまわない
18.9%
できれば
住んでほしい
35.1%
株高で消費意欲が高まっている人のなか
グラフ-8 問7.株高で消費意欲が高まった人にお聞きします。
何に消費支出しましたか。
または何に消費支出する予定ですか。
(複数回答)
37.3
旅行・レジャー
自動車
26.2
食料品、日用品など生活必需品
26.2
20.6
家電製品、家具
10.3
宝飾品、
ブランド品
5.6
土地、住宅
2.4
その他
0
5
10
15
26
20
25
30
35
40(%)
約半数の人が、将来子どもには「三重県内
いては、
「 期待できる」とする人が2割強にと
に住んでほしい」と考えています。
「 県外に出
どまり、
「 期待できない」とする人が多くを占
て行ってもかまわない」とする人は2割以下
めています。
にとどまっており、多くの人が子どもにはで
多くの人が、子どもたちが大人になっても
きれば三重県内で就職、居住してほしいと考
三重県内に居住してほしいと望んでいます
えているようです。
が、その実現は容易ではないと感じているよ
問9.政府は「地方創生」による地域活性化や
地方の人口減少対策に力を入れていま
すが、あなたはこれに期待できますか
うです。
問10.三重県での「地方創生」に必要な政策
は 、次のうちどれだと思います か グラフ-11
(複数回答)
グラフ-10
グラフ-10 問9.政府は
「地方創生」による地域活性化や
三重県での「地方創生」に必要な政策とし
地方の人口減少対策に力を入れていま
すが、あなたはこれに期待できますか
わから
ない
11.6%
ほとんど
期待できない
17.1%
ては、
「 雇用を増加させる政策」が最も多く、
おおいに
期待できる
2.6%
「子育て支援の拡充」をあげる人も多くいま
す。
「県外からの企業誘致」も多くの人があげ
ある程度
期待できる
20.3%
ています。一方で、
「 観光振興」が必要だとす
る人は比較的少数となっています。
企業誘致などで県内の雇用増加を図り、
あまり期待できない
48.5%
その一方で子育て支援を充実させることが、
県内経済を活性化させることにつながると、
多くの人が考えているようです。
地域活性化策などによる「地方創生」につ
グラフ-11 問10.三重県での
「地方創生」
に必要な政策は、次のうちどれだと思いますか(複数回答)
雇用を増加させる政策
51.7
子育て支援の拡充
43.5
県外からの企業誘致
37.2
都市機能を集約したコンパクトシティの実現
24.8
県内での創業支援
18.5
県内産業の競争力強化
15.6
県外からの若者移住促進
13.8
外国人観光客の誘致など観光振興
13.4
外国人労働者の受入れ促進
2.6
その他
1.8
0
10
20
27
30
40
50
60(%)
【クレジットカードについて】
問11.買い物するときの支払い方法は、次の
グラフ-12
うちどれですか
問12.問11で「現金」と答えた人にお聞きし
ます 。そ の 理 由 は何 です か 。 グラフ-13
(複数回答)
グラフ-12 問11.買い物するときの支払い方法は、
支払いに現金を多く使う人の理由として
次のうちどれですか
は、
「 現金の使い勝手がよい」が最も多くなっ
どちらかと
いうとカード
9.3%
ています。
「 カードだと使いすぎてしまう」と
いう人も多く、
「 カードは 借金 と同じ」とい
う理由をあげる人もいます。日本人の消費に
だいたい
カード
16.5%
対する堅実な国民性も、カードよりも現金を
だいたい現金
42.3%
支払いに使う要因とみられます。
どちらかと
いうと現金
31.9%
問13.問11で「カード」と答えた人にお聞き
します。その理由は何ですか グラフ-14
(複数回答)
支払いにカードを使う人の理由としては、
「だいたい現金」と「どちらかというと現
「ポイントが貯まる」が最も多くなっていま
金 」を 合 わ せ た 現 金 派 は 約 4 分 の3と 、
す。カード各社が利用者向けに還元するポイ
ントが、カードを使う大きな要因となってい
カード派 を大きく上回っています。
クレジットカードなどはほとんどの家計が
るようです。
「 支払いが速い」
「 おつりが出な
保有しているとみられますが、支払いにはま
い」など、支払い時の便利さも理由にあがっ
だまだ現金を使う割合が多いようです。
ていますが、ポイントの魅力に比べると少な
くなっています。
グラフ-13 問12.問11で
「現金」
と答えた人にお聞きします。
その理由は何ですか。
(複数回答)
現金の使い勝手がよい
49.8
カードだと使いすぎてしまう
43.6
カードは
“借金”
と同じだから
11.7
カードが使えない店がある
5.5
その他
2.3
0
10
20
30
40
50
60(%)
グラフ-14 問13.問11で
「カード」
と答えた人にお聞きします。
その理由は何ですか(複数回答)
ポイントが貯まる
79.1
支払いが速いので便利
40.3
おつりが出ないので便利
26.5
現金だと小銭がかさばる
12.6
その他
3.6
0
10
20
30
40
28
50
60
70
80
90(%)
問14.問11で「カード」と答えた人にお聞き
します。最も多く利用するカードの種
グラフ-15
類は何ですか
波及するという好循環が期待されています
が、消費者は、これからは物価の上昇ほどに
は収入が増加しないのではないかと思って
グラフ-15 問14.問11で
「カード」
と答えた人に
いるようです。
お聞きします。最も多く利用する
カードの種類は何ですか
デビットカード
1.2%
今後の消費についても、全 体 的に「増や
電子マネー
5.8%
す」という人は少数で、特に日用品や生活必
需品についてこれから無駄な支出を省こうと
いう姿勢がみられます。国内自動車販売は
前年同月比で減少 傾向が続いていますが、
昨年の消費税率引上げ後に落ち込んでいる
クレジットカード
93.1%
家電など耐久消費財への支出についても、今
後さらに減少する見通しです。
ただ、趣味やレジャー、旅行への支出につ
利用するカードの種類としては、クレジッ
いては比較的堅調に推移しており、今後もそ
トカードがほとんどで、電子マネーやデビッ
れほど落ち込まない見通しです。消費者は節
トカードは少数にとどまっています。
約だけを考えているというわけではなく、賃
金の増加がこの先も継続してゆけば、先行き
クレジットカードの普及は進んでいます
消費は拡大していく可能性もあります。
が、日本では消費に対する堅実な国民性も
(注)
標本誤差について
あって、カードによる支払いの割合は今のと
母集団から無作為抽出でサンプリング調査を行っ
ころそれほど高くありません。しかし、最近は
た場合、
誤差が生じます。
統計理論上、
誤差を考慮し
公共料金だけでなく家賃などもカードで支
た信頼区間は次の式で算出されます。
払うケースも増えています。現金からカード
信頼区間=P 1.
96 P
(1−P)
/n
n=サンプル数、
P=調査結果の比率
支払いへの流れが、これから徐々に進む可能
(Pが0.
5のとき、
誤差は最大となる)
性もあります。
今回の調査ではサンプル数(回答者数)
は984名
【まとめ】
先行き収入はそれほど増えない見通し、 消費にも慎重
であり、
調査結果の比率
(回答率)
が50%の場合、
上
記の式により誤差は 3.1%(信頼度95%のとき)
と
算出されます。
すなわち、
ある質問に対する回答比率
物価については、多くの人が先行き上昇す
が50%であった場合、
「三重県全県民の回答率」
は
るとみています。その一方で家計の収入につ
95%の確かさで46.9%∼53.1%の範囲に含まれる
ことになります。
いては、賃上げが広がりつつあることもあっ
また、調査結果にはこのように誤差が含まれてい
て現状ではやや増加していますが、今後はほ
るため、結果分析にあたって、数値の差異が誤差か
ぼ横ばいとの予想となっています。物価上昇
どうか検証しています。
が賃金の増加につながり、消費の拡大へと
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三銀レポート No.40
2015年 9月
発行 第三銀行 経済研究所
三重県松阪市京町510番地
Tel. 0598−25−0366
※この冊子は再生紙を使用しています。