[雑草と作物の制御]vol.7 2011 p 6~8 埼玉県の小麦採種現場における雑草問題 埼玉県農林総合研究センター水田農業研究所 麦作における雑草は,過去には播種後の土壌処 理剤を適正に処理すれば問題となることは殆どな 上野敏昭 が採種ほ場で,種子専用のカントリーエレベータ ーを所有している。 かった。しかし近年,経営環境の変化(経営規模 拡大,多筆化)や気候の変動(暖冬,多雨)の影 Ⅱ 種子の審査基準 響から,雑草被害が増加している。特に採種現場 種子は,遺伝的な純度の高さと,高い発芽能力 においては種子への混入が大きな問題となってお に加え,異物・異種穀粒や被害粒の混入を防ぐた り,その現状について報告する。 め,ほ場審査を 2 回以上(出穂時期,収穫前) , 収穫後の生産物審査を 1 回行う。 Ⅰ 採種の状況 小麦「農林 61 号」を主体に,9品種の採種を Ⅲ 行っている(はだか麦「ユメサキボシ」は割愛)。 採種ほ場における問題雑草と発生割合 採種ほは丁寧な管理を実施しているが,厳格な 品質が良く,小麦種子は他県からの委託も多い。 審査基準を適用すると不合格ほ場が多発する状況 県北部の児玉郡上里町は「農林 61 号」の最大の である。生産物への雑草種子や花殻の混入でクレ 種場で,町の麦作付面積の 43%にあたる 117ha ームも発生し,大きな問題となっている。 表-1 平成22年播(23年産)麦類採種計画 小 麦 品種名 採種ほ面積(ha) 農林61 あやひか さとのそ ハナマン 号 り ら テン 140.6 計画生産量(kg) 421800 対象面積(ha) 六条大麦 5273 二条大麦 はだか麦 すずかぜ みょう ぎ二条 彩の星 小計 イチバン ボシ 総計 小計 14.8 3.1 1.4 159.9 5.8 12.5 7.7 20.2 2.8 188.7 44400 9300 4200 479700 20300 37500 23100 60600 7840 569280 555 116 53 5997 254 469 289 758 109 7129 注)農林61号、あやひかりは県外からの委託を含む 表-2 審査項目 原 種 採種ほ場の審査基準(最高限度) 変種,異品種及び 異種類の農作物 雑 草 含まないこと 少発生とする* 種子伝染性の その他の病気 病害虫 及び気象被害 含まないこと 一般種子 * 少発生とは、種子の生産に支障のない雑草3/㎡程度とする。 ただし、局所的な発生の場合、雑草除去できれば合格とする。 20% [雑草と作物の制御]vol.7 2011 p 6~8 表-3 生産物の審査基準 審査項目 発芽率 異品種 異種穀粒 雑草種子 病虫害粒 麦類 80% 含まないこと 0.20% 0.50% 注)発芽率は最低限度、他は最高限度 病虫害粒には種子伝染性のものは含まないこと 表-4 問題雑草の種類と発生割合(推定値) 雑 草 名 SU抵抗性 スズメノテッポウ ヤエムグラ ネズミムギ カラスノエンドウ ヤグルマギク 発生割合 15% 70% 20% 20% 1% 生育抑制 収穫作業阻害 生育阻害 種子への混入 生育阻害 収量減 品質低下 種子への混入 倒伏誘発 収量減少 被害の内容 倒伏誘発 種子への混入 注)ヤエムグラは種子が団子状になって混入し,ヤグルマギクは硬い花殻が混入する。 表-5 雑 草 問題雑草の侵入経路と蔓延する年数 名 侵入、増加、蔓延・拡散の流れ 蔓延する年数 SU抵抗性 ほ場に存在 スズメノテッポウ 生育期単一 処理で寡占化 作業機等で 拡散 4~5年程度 ヤエムグラ ほ場に存在 薬剤処理効果不 足で増加 作業機等で 拡散 3年程度 飼料の落下 法面吹付け 道端→畦畔 耕耘で蔓延 作業機で拡散 3年程度 単年で増加 単年度 管理不足で侵入 耕耘で蔓延 4~5年程度 道端→畦畔 耕耘で蔓延 作業機で拡散 3~4年程度 ネズミムギ 堆肥用 カラスノエンドウ 畦畔 ヤグルマギク Ⅳ 観賞用や景観形 成で栽培 問題雑草の侵入経路と蔓延する年数 表-5の参照。 ズレ。防除期を逸する事例が多発。 2.まとまった降雨 栽培期間中の合計降水量に大きな変化はないが, Ⅴ 拡大の要因 1.温暖化による発生相の変化 発生期間が長く(小麦 12 月播種でも雑草発生), 発生時期が早期化(2 月から発生)。 農家の雑草発生時期の感覚と現実の発生時期に 一度にまとまった降雨が多く,処理効果が低減。 3.経営規模の拡大 手間のかかる採種は,比較的小規模で多数の組 合員で実施されていた。世代交代,農家減少で, 大規模担い手農家も参入。多筆化で畦畔管理が不 [雑草と作物の制御]vol.7 2011 p 6~8 徹底。 耐性が懸念される時はベンチオカーブ含有剤を指 4.堆肥利用 導。 未熟な堆肥を施用した結果,翌年から全面発生 2.カラスノエンドウ発生ほ場:播種後ペンディ の事例増加(カラスムギ、ネズミムギ) 。 メタリン+カラスノエンドウ2葉期のうちにアイ 5.生育期処理剤の功罪 オキシニル。畦畔管理も徹底。侵入初期に完全手 卓効の生育処理剤が,播種後処理を軽んじる傾 取りの励行。 向を生み,1や3の要因と重なって被害を拡大し 3.ヤエムグラ多発ほ場:播種後処理+3節期ま た。 でのピラフルフェンエチル。 6.雑草・除草剤に対する知識不足(情報伝達の 4.ネズミムギ発生ほ場:信頼性の高い堆肥の利 不足) 用。畦畔管理と侵入初期の完全抜き取り。 水田作麦の雑草も多様化。草種や葉齢に応じた 5.ヤグルマギク発生ほ場:トリフルラリン偏重 適切な剤の選択と処理に必要な知識や情報が不足。 から他成分への切替え。 対応が後手。 Ⅶ Ⅵ 現状の問題雑草に対する防除指導の内容(概 要) その他 目立ち始めた麦作ほ場の気になる雑草として、 この他にカズノコグサ,アメリカフウロ,ミチヤ 1.抵抗性スズメノテッポウ優先ほ場:播種後処 ナギがある。いずれも処理効果がなかなか得にく 理の徹底。トリフルラリン,ペンディメタリン, く,今後の動向に注意が必要と思われる。 コラム 除草剤抵抗性雑草との闘い 水稲作では,1995 年にスルホニルウレア系除 草剤(SU 剤)に対して抵抗性をもつミズアオ 抵抗性なのかわからないなど様々な要因がある と思います。 イが北海道で見つかりました。その後,全国で 最近では,シハロホップブチル抵抗性のタイ ホタルイ類やアゼナ類の SU 抵抗性個体が次々 ヌビエや麦作における SU 抵抗性のスズメノテッ と確認されました。これを受けて産官学が一体 ポウが確認されました。このように除草剤抵抗 となって研究が行われ,今ではこれらに除草効 性雑草の出現とその対策については“いたちごっ 果の高い成分が開発され,多くの製剤が市販さ こ”が続いています。 れています(日本植物調節剤研究協会 HP 参照 今後もこれらに有効な成分が開発されるこ http://www.japr.or.jp/gijyutu/003.html) 。 とを期待しつつ,除草剤だけに頼らず,耕種的 しかし,現在でも SU 抵抗性雑草の発生は全国 防除法も含めた総合的な雑草防除を考える時期 で問題となっており,根絶までには至っていま にきているのではないでしょうか。 せん。これは除草剤を実際に使っている農家の 皆さんが,自分の圃場で残っている草が SU 石井 利幸(山梨県) [雑草と作物の制御]vol.7 2011 p 6~8
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